タイトル:【AC】Ricochet・ACマスター:佐伯ますみ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/28 23:43

●オープニング本文



 バグアアフリカ軍が、ついにその重い腰を上げたのは6月の半ばの事だ。人類の攻撃の手がモロッコまで届き、バリウス自らその脅威を確認したゆえのことと思われる。
 その戦力は、エジプトからの部隊と、中部アフリカからの部隊に二分されている。侵攻目標やルート、及び戦力などは一切不明であり、避けえぬ交戦を前に、その調査は必須ともいえた。


「‥‥アフリカ大陸」
 ラスト・ホープに戻ったユナ・カワサキは、ディスプレイに表示された地図に思わず目が釘付けになる。
 それは、リビアを抜けてエジプト軍の動向を偵察する部隊の支援に関するものだった。
 エジプト――北部アフリカ最大の軍事拠点と思われる国。
 現在、エジプト方面のバグア軍の動向に関してわかっていることは極めて少ない。
 判明していることは、制圧下でも労働力として生かされている者がいるらしいということと、エジプトに存在すると予想されるバグア基地からのギガワームを含む大規模戦力が西進しているということ。
 それから、現在のエジプト指揮官のバグアは黄金の仮面に素顔を隠し、自らをアメン=ラーと名乗っているということくらいだろうか。
 大規模戦力の西進は非常にゆっくりとしたもので、空中戦力が主体のようで、それ以外に大きな動きは見られない。昨今におけるアラビア半島での人類側反抗に備えながらになるからなのか、それとも時期を待っているのか。
 しかしながら、エジプト周辺の情報はほとんどないと言っても過言ではない。
 そこで、エジプトに偵察部隊を送り込むことになった。実際、中部アフリカ方面にもそういった動きはあり、既に作戦は動き始めている。
 エジプト方面への偵察部隊はリビアを抜けて行くことになるが、しかしリビアは競合地域とは言え、危険度は極めて高い。日々のパトロールは怠れず、人の居住にはまだ適してはいない。【RAL】作戦時には国境での戦闘は幾度かあったが、そこに駒を進めることはなかった。
 そのリビアを抜けるためには、偵察部隊だけを進ませるのは危険度が高く、また困難を極めるのは必至だ。そこで、チュニジアにほど近いポイントにある首都のトリポリ周辺を攻め、その周辺にいるバグアの目を引きつけている間に、偵察部隊を一気に進ませることとなった。
 攻略が目的ではない。隙をついて偵察部隊が少しでも奥へと進んで行くこと――それが一番の目的だ。
 既に作戦は開始されており、偵察部隊の後押しは始まっている。数日に渡る任務であるため、交代要員も派遣されることになっていた。ユナはその交代要員のオペレートを今からでもできないかと考えていたのだ。
「オペレートしたいのか」
 その声に、ユナはハッと顔を上げる。ディスプレイの向こう側、上司が身を屈めて顔を覗き込んでいた。
「‥‥はい」
 小さく頷き、ユナは再び視線をディスプレイに戻す。
 つい先日までチュニジアのピエトロ・バリウス要塞に滞在し、ABA48と名乗る三人組による「コンサート」という名の侵攻を目の当たりにした。それはリビアとの国境沿いでのことであり、自分は要塞におけるオペレートが主ではあったが、作戦に少なからず関わった。
 それが終わり、ようやく帰還したところで――目に飛び込んできた、アフリカに関する情報。
 迷うことはない。
 自分にできることなど小さなことしかないかもしれない。それに、オペレーターとしては落ちこぼれのようなもので、自分が関わる依頼は失敗することが多いのも事実だ。
 だが、その反面――先だっての「コンサート」のような規模の作戦は、大きな失敗もなく成功している。
「お前はどうしようもなく抜けているが、実力がないわけではないと思う」
 そう言われるとユナは再び顔を上げ、上司の顔をまじまじと見つめた。
「ただ――いつでも、どのような状況にあっても、力を発揮できないと意味がないがな」
 付け加えられた厳しい言葉は、この依頼に失敗は許されないと語っている。
 トリポリでの作戦が失敗すれば、バグアは偵察部隊の存在に気づく可能性がある。そうなってしまうと、偵察部隊を確実に止めるべく何らかの攻撃がなされてしまうだろう。
 競合地域であるリビアを、その砂漠を抜ける以上、偵察部隊が途中でキメラなどの襲撃を受けるのは避けられない。
 失敗すれば――そこに、更なる危険が増すことになるのだ。
「私にできる限りのことを、させてください」
 ユナは決意を込め、力強く言い放つ。上司は「フォローはするから」と頷き、ユナの肩を軽く叩いた。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
綾野 断真(ga6621
25歳・♂・SN
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN
杜若 トガ(gc4987
21歳・♂・HD
追儺(gc5241
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

 リビア、トリポリ南部にある国際空港。規模としては大きいが、これといってバグアの拠点化が顕著に表れているわけではなかった。トリポリ市街の東にも空港があるからかもしれない。
 滑走路や各種施設等は当然のように荒れているが、KVの通常の離着陸に影響が出るほどではなかった。
 補充要員としてリビア入りした傭兵達は、現地で展開している部隊と軽くミーティングを終えるとすぐに戦力として動き始めた。
「暴れるだけでいいんだろ? そんなら十八番だ。任せときなぁ」
 杜若 トガ(gc4987)はフェンリル『シュトゥルムハウンド』のコクピットからリビアの大地を眺め見る。ここが、今度の戦場になる。遠慮無く食い散らかせて貰うつもりだ。
 遠方にトリポリ市街の影が見える。接近しすぎず、前線へと向かう。
 同行するのは澄野・絣(gb3855)。これが初戦となるアッシェンプッツェル『鋒子 −hoshi−』での参戦だ。
 アッシェンプッツェル――アップル、そう略すのがいいかもしれない。絣はふとそう考える。
 トリポリ南側は手が足りているらしい。二機は多くの戦力を求めているという東側へ向かう。
 東の前線は、海岸線までその手を伸ばしていた。海側からの増援に備えていると思われるKVが数機、他は陸側でキメラやSWと対峙している。
『海には近寄らない方がいい』
 海への警戒を続けるKVから通信が入る。
「どうしてだ?」
 トガが問うと、『海の中に馬鹿でかい影が見えるんだよ』と即答。
「影‥‥?」
 絣が眉を寄せる。海の中に、何があるというのか。
『ここの敵が片付いたら、前線は南下する。ここからはとっとと退いたほうが良いから』
 なるほど、それで多めの戦力を――絣は頷く。

 空戦部隊の一隊が、空港に帰ってきた。その後退を射撃支援しながら出るのは御鑑 藍(gc1485)のシラヌイS2型『シリウス』と、追儺(gc5241)のサイファー『鬼払』。
「偵察部隊が無事に帰ってくるまで、こちらに気を引きつける‥‥ですね」
 出来るだけ悟られないようにしなければ――藍機は担当空域に入ると、高度を保ちながらHWへスナイパーライフルを撃つ。
「陽動か‥‥別の局面のためには必要だな。俺は責務を果たして暴れさせて貰おう。‥‥アフリカ解放のために」」
 藍機よりやや下方で地上を照準に入れる追儺機。
 この空域では他に十機のKVが展開しており、それらがHWの編隊の対処をしていた。藍機は追儺機への妨害に入るHWに狙撃を続ける。
『頻繁に飛来するわけじゃないが、二十機ほどの編隊を組んでいることが多い』
 KV部隊のひとりから通信が入る。
「変な感じですね。一体どこから来るんでしょうか」
『あぁ‥‥うん、エジプト方面から移動を開始している大規模戦力からと、考えられる、が』
 藍に答えながら、吐息を漏らす。
『そいつら、空中戦力主体で予想以上に少ないようなんだ』
「そうなると、援軍的に流れてくるのがHWばかりなのも‥‥頷ける気がするな」
 追儺が返す。
 眼下、地上ではキメラの姿が多く見られ、EQも確認されている。そのエリアでのEQに対処すべく、まずは空からのキメラ殲滅が求められていた。
「さて、陽動だからと言って手は抜かんぞ? やるからには殲滅だ」
 真スラスターライフルが、地を駆ける大型の獣たちを地に伏せさせていく。このまま狙撃続行、眼下に広がる地上戦力を削り続ける。

 前に出たトガ機、まずは適当にレーザーカノンをばら撒く。それだけで手近なキメラは吹っ飛ぶ。
 その一体を迂回するように四つ足で駆ければ、体当たりを仕掛ける大型のキメラに絣機のバルカンによる援護が入る。
 トガ機が狙うのは、巨体を陸上に全て放り出しているSW。のたうつボディに、BCアサシネイトクロー。再度周囲を駆け、回る。
 SWはゆるりと口を広げ、トガ機を呑み込もうと機を窺っていた。喰らうダメージはギリギリまで耐えるつもりか。しかし、間合いに入り込んでいた絣機が、ドラゴンスタッフ、そしてヴィヴィアンという連続した攻撃でSWの巨体を抉る。
 直後、空からの攻撃が絣機を狙う。若干狙いは逸れ、やや後方に着弾、ダメージはない。絣は愛機の照準を空へと合わせた。
 低空で飛来するHW群、その一機が着陸を始めた。何を狙っているのか。だが有人機だった場合、着陸されると面倒かもしれない。何機か、KVが援護狙撃を入れ始めた。
 降下しながらプロトン砲、直線的な動きを避けて回避にかかる絣機。やがて動きを見切られてきた。避けきれない砲撃にはツヴェルフウァロイテンの発動で凌ぐ。
「そう簡単には落ちないわよ?」
 言いながら、パンプチャリオッツ――ヴィヴィアンによる、突撃を開始。直後、着陸したHWに、それは突き込まれる。
「私はどの距離でも戦えるのよ。あまり油断しないことねっ」
 ヴィヴィアンを抜き、後ずさる。黒煙と轟音がHWを包む。その黒煙が、トガ機と対峙するSWを覆い始めた。
 黒煙の熱気に怯んだのか、一瞬だけ動きを止めるSW。トガはその隙を決して見逃さない。
「千切れちまいな!」
 グレイプニルが、ダメージの蓄積している胴部に食い込む。そして、そのまま「肉」を食い千切った。

「本命から目を逸らす‥‥囮としての陽動ですわね」
 空港から数キロ離れたポイントに立ち、ロジー・ビィ(ga1031)は頷く。
「ふむ、偵察部隊の帰還までは自由に暴れていいと‥‥」
 隣に立つ綾野 断真(ga6621)もまた、頷く。
「こういう臨機応変な対応が求められる作戦には、我々傭兵が最適かもしれませんね。正規の軍隊では経験できない戦場を知ってますからね」
「オーケー、任されましたわ! 派手に暴れてやりましょう!」
 ライフルを構える断真、二刀小太刀「花鳥風月」を軽く一閃するロジー。二人は、共に展開する部隊の者達と共にキメラの波に飛び込んでいく。
「鬼さん、此方‥‥なのですっ☆」
 ころころと笑い、群れへと十字撃を放つロジー。そのまま手当たり次第にキメラを倒し始める。
「いやぁ、心強いですね」
 断真は後方からライフルで支援を入れる。キメラ達はこの遭遇を歓迎し、嬉々として牙を剥く。
 トリポリ周辺での各種戦闘を、突発的な遭遇戦であるとバグアが受け取ってくれるといいが。
 生身で敵と遭遇、援軍を呼んで戦域が拡大――ありがちであり、不自然ではない展開だ。
「まあ、そう思ったとおりにいかないのが戦場というやつなんですよね」
 リロードしながら苦笑する断真。まあ、ここは厄介な援軍が来たとでも思わせることができれば上々だ。

 持ち場で一通りの戦闘を終えた絣機とトガ機が、帰還する。
「フェンリル01、出撃します」
 二機と入れ替わるように離陸する、篠崎 公司(ga2413)のウーフー『フェンリル01』。
 公司機に続くのは、夢守 ルキア(gb9436)の骸龍『イクシオン』。空港の端に設置しておいた地殻変化計測器の位置を、離陸直後に目視で確認した。
「現在、御鑑さんと追儺さんが北上したポイントで展開しています」
 公司が皆の出撃スケジュールを確認してルキアに告げる。スケジュールは間が開きすぎず、ある程度断続的に圧力が加わるようにと調整されている。
「ボクたちは、明日は空港の防衛と警備だっけ」
 ルキアが返す。そして明後日はまた、空へ。
 偵察に向かう二機は、トリポリ市街方面へと進路を取った。
 その途中、トガと絣から海の報告を受ける。それから、藍機、追儺機からはエジプト方面からの戦力について。
「気になる、ね」
 ルキアは呟く。アルゴシステムで各種情報を統合しながら、これから偵察用カメラで確認すべきものについて考える。
 偵察部隊や、他の隊の様子、トリポリ市内の様子も撮影したい。
「その際に、海も‥‥確認したほうがいいかな」
 頷き、作業を開始する。
 公司機は護衛を兼任していた。自機が電子線機ということもある。敵の戦力分析や、対応に上がる戦力の種類がわかるだけでも収穫だ。
 トリポリ市内は、やはりキメラやワームの類が散見される。強化人間のような人影もあり、それなりにバグア側の拠点となっているのは間違いないようだ。
「海、見ておこうか」
 ルキア機と公司機は市街を大きく迂回して、トガ機と絣機がいた戦域へと向かう。
「あぁ、黒いですね」
 海を見て、公司が思わず言葉を漏らした。
 巨大な、巨大な――影。鯨などではない、それよりももっと大きな何か。ルキアがそれを撮影する。
「これ、思い当たるモノ、ひとつしかないよね」
「ないですね。見事な、文字通りの大魚です」
「ビッグフィッシュ‥‥なんでこんなところに」
 しかも、比較的海面に近いところに――。
 それきり、ルキアと公司は何も話さない。嫌な予感が胸に去来する。
 どちらも無言で機首を南に向ける――が、いつの間にかHW達に包囲されてしまっていた。
 まるで、今見たものを忘れろと言わんばかりに。口封じをしにきたと、言わんばかりに。
「物騒ですね」
 言いながらも冷静に、公司はスナイパーライフルで先制、ルキアも試作型スラスターライフルの引き金を引く。
 そのまま、弾を追うように滑り込み、下方からHWの群れを抜ける。しかし案の定と言うべきか、HWは追尾を開始した。
 回り込んできた敵機にはすかさずレーザーキャノン。
「HWにはこっちの方が効くそうですから」
 しかし、数が多い。ルキア機も角度を変えながら打ち込み続けることで、威嚇を続けながら空港方面へと飛行を続ける。
「ごめん、援軍に来て。敵の種類はHWが三十機」
 無線で仲間に連絡をしつつ、苦笑する。二機でよくここまで逃げてきたものだ。いや、もしかしたらここまで誘導させられたのか――?
 最初に援護に駆けつけたのは、空戦を終えたばかりの藍機。それから、藍機と同じエリアにいたKV達だった。

 ようやく着陸した追儺機は、地上のキメラがいなくなったことで顔を出したEQを強襲、マシンガンにて弾幕を張る。
 それを受け、EQはその巨体を半分だけ地中から出したところで動きを止めた。そのまま間合いを詰め、新月で力任せに裂いていく。
 元から比較的弱っていた個体なのか、すぐに沈黙した。だが追儺機は動きを止めることなく地殻変化計測器で他のEQの場所を探る。
 ここまでの戦闘で、追儺は敵の出方も観察していた。それらの状況から考えると、まだいてもおかしくはなさそうだった。
 ほどなくして、予想通り二体の反応を得る。周囲で展開する陸戦部隊に告げ、警告を放つ。
「地上に引きつけたのを確認したら離陸する。顔を出したところを、一斉射撃で大打撃を与えてほしい」
 陸戦部隊に告げると、OKの代わりに予行めいた狙撃の構えを見せる。よし、と追儺が頷いたとき、地面が波打ち始めた。

「異常事態のようですわね」
 キメラの爪を二刀小太刀の一刀で受け流したロジーは、もう一刀で流し斬りによるカウンターを入れる。視線は、空。少し離れた空域で、公司機とルキア機がHWに囲まれていた。
 さらに爪を向けてくるキメラ。先ほどから執拗なその攻撃に、比較的強力なキメラであることが窺える。だが、ロジーの敵ではない。
「お呼びじゃありませんの」
 剣撃がロジーの長い髪と共に揺れ、舞う。
「しかし、HWの数が減り始めましたよ」
 断真がロジーを狙うキメラ達を次々に撃ち抜きながら、ざっと数を確認する。他の戦域の状況も、戦闘を続けながら随時確認していた。
「この様子なら、大丈夫そうですね。‥‥必ずこの作戦を成功させましょう」
 どんな戦場でも情報は大事だ。敵を知り己を知れば‥‥なんて言葉もあるくらいだ。そのためにも、この作戦を成功させなければならない。
 それは断真に限ったことではなく、この作戦に参加している者達全員に共通するものだ。
「そのためにも、最後まで戦い抜くだけですわ」
 ロジーがにこりと笑み、再び二刀小太刀を舞わせた。

「星、綺麗だなぁ」
 夜間の空港警備を担当するルキアは、空を見上げて言葉を漏らす。
 これで何度目の夜だろう。偵察部隊は順調に進んでいるという報せが届いている。
 当然のように、誰もが昼間も夜もローテーションを組んでの出撃を続け、KVの整備を続け――皆、疲労の蓄積は半端じゃない。
 明日も戦闘か――とルキアが苦笑した、そのとき。
 イクシオンのレーダーに反応があった。
「起きて、敵襲!」
 ON回線で叫び、仲間達を起こす。
 空港の端、上空にHW、地上にはキメラ。数は多い。このまま襲撃されてしまえば拠点が壊滅する。
 機体整備中のトガと絣は、現在トリポリの西側のエリアにあるバグアの小さな拠点へと生身で赴いており、不在だ。最初に追儺機が離陸、HWに向かう。
「片っ端から撃ち落とす‥‥墜ちろ!」
 それを追うように、ロジーのアンジェリカ『シェアーブリス』。月を背に高高度から迫る。
「太陽を背にしたかったですわね。月も、綺麗ですけれど。‥‥さて。システムオールグリーン‥‥【シェアーブリス】白薔薇‥‥参ります」
 スナイパーライフル、G放電装置、そのままブーストで距離を詰めて高分子レーザー。流れるように続く攻撃。
 断真のガンスリンガー『アルディラ』は陸戦形態でキメラ対処に走る。スナイパーライフルで休むことなく狙撃、敵の数を確実に減らす。
「HWは確実に減っていますが、キメラは増え続けています。陸への支援を」
 公司は設置されている計測装置と僚機の上方連結をし、情報面での支援を開始した。
 そこに、トガと絣が西から帰還した。車輌から降りるや否や、生身で参戦する。
「なんだ、あっちの拠点潰してきたら、こっちが襲われてんのか」
 トガは言いながらも、電波増幅でキメラを殴りつける。
「決して、落とさせはしない」
 絣が長弓「桜姫」の弓弦を弾き、前衛の者達の援護に入る。そしてルキアがバラキエルによる制圧射撃を展開し始めれば、その脇を迅雷で抜けるのは、藍。
「行かせません」
 体を回転させ、翠閃を打ち込んでキメラを戦闘不能に追い込んでいく。
 その防衛戦は、明け方近くまで続いた。

 昨夜の防衛戦が嘘のように静まりかえる空港は、陽が高くなるにつれて暑さが嫌でも増す。
 そのなかで、昨夜の疲れを癒している傭兵達の元に、偵察部隊から一報が入った。
 ――エジプト到達。
 その報せに、誰もがその顔から疲れを消す。よかったと、安堵の言葉。
 偵察部隊の帰還については別の方法がとられることも伝えられ、作戦がここで終了することも確定する。
 人類側が攻撃の手を止めたことで、トリポリ側のバグアも退却を始めた。キメラ達は市街に戻り、HW達はリビア国内のどこかへ戻っていく。
 作戦の完全終了が告げられたとき、トガは包帯を巻いた手で煙草を吹かしつつ大きく伸びをして言う。
「あー、まだまだ血が足りねぇな。肉が食いてぇわ」
 その言葉を聞いて、皆はようやく作戦終了の実感を抱く。
「でも、その前に」
 誰かが言う。
 まずは休みたい――。
 そして誰からともなく、寝袋に潜り込んだ。