タイトル:【RAL】OF 迷宮狂想曲マスター:佐伯ますみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/11 03:57

●オープニング本文


 その複雑に入り組んだ迷路の様な構造から、迷宮都市とも呼ばれるフェズの旧市街。
 今はバグアに蹂躙され、住む者もない廃墟と化した町。もう長い間、ここで動くものと言えば上空を飛ぶ鳥が落として行く小さな影くらいのものだった。
 だが、その町が今、俄に活気づいていた。
 中心に建つモスクの尖塔に現れた小さな人影。それは、眼下の町を舐める様に見渡すと、満足した様に小さく笑みを作り、頷いた。


 ウジダより西方、フェズよりも――更に西。
 夜さえ越えて駆け続けてきた獅子の背から投げ出された強化人間達は、頭上から降る嘲笑に全身を強ばらせた。
「‥‥もう少し戦えるといった顔をしていますね」
 不満げな彼等に投げかけられる穏やかな声。しかしそこに感情は籠もっていない。
「大方、死ぬまで戦えばウジダ再侵入の道が開けると思ったのでしょうが、そこで死んだら面白くない。‥‥不利な状況になった時点で、もう負けは確定しているのだから。そういうときは、とっとと退いて生き恥をさらすべきでしょう?」
 そうやって、己の愚かさを見つめ直しなさい――声の主はそう付け加え、彼等を運んできた獅子の鬣を撫でた。「このキメラのほうがよっぽど役に立つ」
 強化人間達はその眼差しに憎悪を込め、未だ地に這いつくばったままようやく顔を上げた。
「エドワード‥‥ヴィクトリア様がいないからといって、やりたい放題じゃないのか」
「ヴィクトリア様は私のやり方を咎めませんよ。それに、無能な者が何を言ったところで、私をどうこうできるわけでもない。私のことが気にくわないなら、今すぐここで殺してみますか?」
 笑みを浮かべるエドワード。強化人間達は気圧され、脂汗を浮かべる。ウジダが陥落したことについては、エドワードは何も言わない。既に諦めているのか、それとも最初からこうなることを予測していたのか。
 だが、強化人間達の無様な姿をひたすら軽蔑するような、そんな雰囲気が全身から滲み出ていた。
「再戦の際、出撃を申し出たのはあなたがたです。お忘れですか?」
 もちろん、忘れてはいない。ここでウジダ再侵入の道を開けば、ヴィクトリアの下における自分たちの地位も上がる――そう考えてのことだった。
 その裏には、常にヴィクトリアの側に控えるエドワードが邪魔だという本音が隠れている。ヴィクトリアの器――「ヴィクトリア・リイ」の付き人だったらしいが、この男がヴィクトリア不在時に代行で命令を下すことが面白くないのだ。
 自分たちはプロトスクエアの青龍に仕えているのであって、この男に仕えているわけではない。それを実力で証明したかった。しかし――失敗。無様にもこうして逃げ延びてきた。
「私もヴィクトリア様も、無能な者は嫌いです。チャンスはもう与えました。しかし活かしきれなかった。ならば‥‥そこらでのたれ死になさい」
 エドワードは鼻で笑う。それは二度と自分やヴィクトリアの前に姿を現すなということだ。どこへなりと勝手に行って、勝手に動いて、誰かの下につくならそれも勝手にしろと。
 そうやって生き恥をさらし、死を待てと――。
 強化人間達は顔を見合わせる。それなら別のバグアの下について――と、一瞬考えた。だが、ヴィクトリアを敬愛する気持ちは強い。行くところなど、なかった。
「‥‥そういえば、次はフェズが狙われそうですね。確かあそこは‥‥相当な馬鹿が任されていたはず」
 彼等の様子に気づいてか、エドワードは意味深に言う。強化人間達はその言葉の意味を悟ると、痛む体でゆっくりと立ち上がる。そして無言でエドワードに背を向け、東――フェズの方角へと、顔を向けた。
「それでいい。‥‥せいぜいあの馬鹿をサポートして、フェズを守り抜いてみろ」
 エドワードの口調が変わる。最後のチャンスを与えてやると言わんばかりに。強化人間達は頷きもせずに、そのまま立ち去っていく。
「‥‥まあ、あの馬鹿と一緒に死ぬならそれでもいいがな」
 強化人間達を見送りながら、エドワードはくすりと笑む。
 あの馬鹿――それは、プロトスクエアに妙な対抗心を持つ男。名前は知らない。知ろうとも思わない。その実力も、プロトスクエアの足下にも及ばない。
 ここで馬鹿達が勝手に散ってくれれば、逆にこちらの護りを固められるかもしれないとさえ考える。
 足手纏いは――不要だ。
「‥‥そろそろヴィクトリア様も帰ってくる頃か」
 エドワードは笑み、空を見上げた。


 じっと空を見つめていたアレクサンドラ・リイは、東の果てに思いを馳せる。
 チュニジアとリビアの国境付近にヴィクトリアが現れたという情報は、モロッコにいるリイにも届いている。しかしリイはウジダ攻略の最中で、ここから動くことができなかった。
 そしてウジダ攻略が完了した今は、次の作戦の準備にかかっている。どちらにしても動けない。しかし、ヴィクトリアに気を取られてばかりいるわけにはいかない。自身のやるべきことを見据え、作戦を遂行するのみだ。
「旧市街‥‥か」
 手に持った地図に視線を落とし、確認する。ウジダから引き続き、アネット・阪崎少尉の部隊と協力し、フェズを攻略することになっていた。
 作戦はフェズの旧市街で実行される。旧市街の中央付近にあるモスクで、フェズを守ると思われるバグアの姿が確認されていた。他に、強化人間数名とキメラ達。エドワードの気配はないようだ。
 旧市街の南北には、古い砦がある。さらには、地下迷宮の入り口も。
 リイの部隊は南の砦付近から突入し、地上で敵勢力の目を引きつけながらモスクを目指すことが目的となる。いわば――囮だ。
 その間にアネットの部隊は北から突入、地上と地下の両面作戦を決行する。地上部隊はやはり囮で、本隊は地下をひたすら進んでモスクを目指す。本隊はそこで、ボスと思われるバグアと対峙することになっていた。
 もし地上部隊が囮だと気づかれてしまえば、地下部隊がどうなるかわからない。
 それから、途中で強化人間に遭遇した場合――早々に斃してしまえば、ボス自らが動き出す可能性もある。そうなると、逆にこちらの作戦が乱れ、思いがけない結果をもたらしてしまうかもしれない。強化人間への対応も、細心の注意が必要そうだ。
 決して失敗は許されない、そしてあらゆる意味で危険な任務となるだろう。
 迷宮である旧市街。道幅はかなり狭く、そこでの戦闘は困難を極めるに違いない。だが、やるしかなかった。
「アネット‥‥いや、阪崎少尉の足を引っ張らないようにしないとな」
 もし引っ張ったところで、彼女はリイを責めはしないだろう。だが、親友という甘えは捨て、一軍人として気を引き締める。
「必ず成功させてみせる」
 リイは呟き、再び空を見上げた。

●参加者一覧

宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
猫屋敷 猫(gb4526
13歳・♀・PN
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
赤月 腕(gc2839
24歳・♂・FC

●リプレイ本文

 迷宮は静かにそこにあり、砦は大きな口を開けて「侵入者」を待ち受ける。
 中央班が進む通路はかつて市でも並んでいたのか、張り出した骨組みに絡まるボロ布がところどころに見受けられる。そこに留まり、じっと能力者達を見据えるカラス達。
「さぁて、派手に‥‥やりすぎてもダメなんですよねぇ‥‥」
 御守 剣清(gb6210)は周囲を見渡し、唸る。この界隈にくるまでも戦闘をこなしてきた。少し進めばエンカウントという、休む暇もないような状態だ。
「出来うる限り重要建築物は傷つけないように、か。後が厄介だからな‥‥」
 頷くのはキリル・シューキン(gb2765)。ゆるやかに増えていくカラスを見て、眉を寄せる。
 剣清と共に前衛を進む月城 紗夜(gb6417)が立ち止まり、やはりカラスを見上げていた。嫌らしさを感じながらも、紗夜は他班と連絡をかわす。
 手元の地図に、方位磁石で場所や方角の確認をした上でマッピング。さらには、過去と変化のあるポイントにも修正を入れ、いずれくる復興へと役立てるつもりだ。
「うしろにも‥‥増えたな」
 後方警戒を続けるアレクサンドラ・リイが呟く。対空警戒をする後衛のスナイパーはしかし、怪訝そうに首を振る。
「空にはいません」
 空にはいない。かといって、低空を飛行している様子もない。
 ――では、どこからきたのか。
 しかし、その答えはすぐに出た。
 キリルが叫ぶ。
「――窓だ!」
 その声に、皆ハッとする。周辺の建物は全て窓が外されている。その奥から湧き出してくるカラス達。能力者達が気づいたことで、カラス達も攻撃に転じた。
「キメラが接近! 叩き落とすぞ!」
 キリルは狙撃眼を使い、スナイパーライフルで羽の付け根を狙う。
 夥しい数のカラスが、空を黒く埋め尽くした。

「本隊が上手くやってくれりゃいいが‥‥暴れすぎるなってのも、中々難しいよなぁ」
 ゴーグルの遮光フィルムを簡単に確認しながら、最前列の宗太郎=シルエイト(ga4261)が吐息を漏らす。そしてすぐに小銃「ピクシー」で眼前のキメラを狙う。
 西班は道幅二メートルほどの路地を進んでいた。前後左右、そして空にもキメラ。三班のうち、最もキメラが多いのがこの西班だった。警戒や索敵をする必要もないくらいだ。
 スナイパーによる狙撃が、飛来するキメラを貫く。負傷している者へは、ハーモナーが回復を。
 交差する少し大きな通路から、巨大な蟻の集団が奇襲を仕掛けてきた。崩れる態勢、しかし宗太郎が防御陣形で立て直すきっかけを作り上げていく。
「本隊さんのためにも頑張るですよ」
 気合いは十二分の猫屋敷 猫(gb4526)、班の中央にて月詠を薙ぎ、サポートに立ち回る。
 別班や本隊との連絡は、それでも戦闘の合間に続ける。本隊がボスと接触するまでは、囮とばれない程度に立ち回らなければならない。
 理想は、本隊とボスが接触しそうな際に派手に暴れて注意を引くことだが――このキメラ達がそれを許してくれそうにない。
 しかし、やるべきことはやらなければならない。
「囮だし、派手に暴れるか! 敵を斬って斬って斬りまくるぜ!」
 守剣 京助(gc0920)が最後尾で聖剣「ワルキューレ」を振るう。振り抜いたあとには、脚甲「インカローズ」による蹴りを敵の腹部に抉り込んで。
 そしてすぐに放つのはソニックブーム。裏路地から前衛を狙う獣の群れに気づいたのだ。釣られるように、群れは京助を見据える。
「はっはー! 俺はここにいるぜ!」
 気合いと共に投げつける声は、獣を圧倒した。

(生きる事にも飽きたな‥‥。だが、死神の刃も届かないか‥‥)
 ペカンパイの最後の一口を口に放り込み、赤月 腕(gc2839)は空を見上げる。
 自分の悪運がどれほど強いのか――ここで確認できるかもしれない。
 アンジェラ・D.S.(gb3967)は別班や本隊に通信を送る。
「コールサイン『Dame Angel』、フェズ攻略戦に同行し、南方側からの襲撃を担い囮としての役割を引き受け、任務達成へ務めるわよ」
 アンジェラと腕、そしてハーモナーとエースアサルト、この四人は東班だ。
 ある程度の地理状況は、過去の地図を確認した上で把握している。それがどの程度まで信用できるのか、そしてバグアがどのようにこの迷宮を使ってくるのか。
「常に周囲状況を把握の上、挟撃されないように常に声を掛け合うわよ」
 最後尾を行くのはアンジェラ。周囲への警戒方向を分担し、互いの死角を補い合いながら進む。
 飛来する鳥、足下にまとわりつく粘着質の物体、幅一メートルほどの路地いっぱいに群れるのは、狼達。
 アンジェラは対空迎撃として狙撃眼を発動、アサルトライフルの引き金を引く。
 先頭に躍り出た腕の機械剣βと緋刀「宵闇」が舞い、狼の群れを薙ぎ払う。狭い路地、横にさえ薙がなければ刃は振るえる。
「まだ数十歩しか進んでいないというのに」
 アンジェラは肩を竦め、狙撃を続ける。もう少しで狼の群れを突破できそうだと、腕からハンドサインが示された。

 ひたすらにカラスを叩き落としていく。しかし一向に減る気配はない。
 剣清は味方への攻撃を阻止すべく、眼前のカラスへと刀を薙ぐ。味方の射線を遮らないようにしながら。
 紗夜は瓦礫が積み上がっている箇所から屋根へと駆け上がっていく。追いすがるカラスはスナイパーが捉える。
「囮になっておくので、片っぱしから駆逐しろ」
 その言葉通り、カラス達は紗夜へと嘴とかぎ爪を向けて上昇していく。それらを紗夜は超機械「ザフィエル」にて迎え撃つ。
 キリルとスナイパーが次々にカラスを落とし、彼等の狙撃を阻もうとする個体は剣清とリイが次々に斬り捨てる。
 そのとき、上から地上を見ていた紗夜が何かに気がついた。
「カラスが近寄らない路地がある。そこに何か‥‥いる」
 その路地はひどく狭い。紗夜が皆に告げた直後、路地から凄まじい衝撃波が放出された。

 アンジェラの制圧射撃がキメラの意識を引きつける。前衛に群がっていた獣のうち、三分の一が突進を仕掛けてきた。
 直後、ハーモナーが何者かに狙撃された。アンジェラは手早く獣を仕留めて駆け寄る。
「どこから‥‥」
 全方向に意識を飛ばす。銃声は聞こえなかった。否、アンジェラの狙撃の音と混ざり合ったのかもしれない。
 腕とエースアサルトはキメラへの対処を続ける。再度、今度はエースアサルトの足下へと狙撃、銃声は上からだ。
 腕が駆け上がれそうな壁を探す。幸いというべきかそれはすぐ見つかり、迅雷にて屋根へと駆け上がっていく。
「気をつけて!」
 一瞬の悪寒、アンジェラは思わず叫ぶ。だが――。
 腕が屋根に躍り出た瞬間、左脇腹が撃ち抜かれた。
 腹部に重い感触、しかし腕は痛みを感じない。とりあえず崩れたバランスを立て直し、落下は免れる。
 再度、同じ場所を抉る狙撃。ゆるりと顔を上げれば、小銃を構えた強化人間がそこにいた。
 腕は抜刀・瞬でアンチシペイターライフルに持ち替え、狙撃眼を――しかし、発動する前に右腕に重い感触、ライフルを取り落とす。一瞬の後、間合いを詰めてきた強化人間が、左脇腹へと拳をねじ込んできた。
 それを辛うじて素手で受け止め、腕は機械剣βを再び構える。しかし傷は深く、機械剣を薙いだところで意識が途切れた。
 倒れた腕へと至近距離で小銃を向ける強化人間、しかし引き金を引く直前に屋根に上がってきたアンジェラによって阻まれる。
「‥‥ちっ」
 舌打ちを残し、強化人間はやや背の高い隣の建物へと。アンジェラは跳弾を二度放つが、しかし逃げ切られてしまった。
「スナイパーと思われる強化人間と遭遇、重体二名、強化人間は逃亡。このまま進むことは難しいわ。建物の中で治療及び防戦に転じる」
 アンジェラは仲間に通信を送ると、エースアサルトと共に腕とハーモナーを担いで建物の中に退避した。

「ぜ、全然前に進めないです‥‥」
 ライトニングクローで熊を裂いた猫は、眉を下げて溜息を漏らす。
「焦りは禁物だ、確実に削いで進んでいこう」
 宗太郎が前を見据える。全く減らないキメラ、この界隈に一体どれくらいの時間足止めされているのか。
「あし、どめ‥‥?」
 ふと、宗太郎が何かに気づく。
「あり得るんじゃないか?」
 京助も気づいたようだ。
 先ほど、アンジェラから通信が入った。重体二名、強化人間は逃亡。
 東班からここまでは距離があるが、通信からの時間を考えるとそろそろ到着してもおかしくはない。
「‥‥私達は囮として動いてましたけど」
「もしかしたらこのキメラ達も囮ってことか?」
 猫と京助が呟いた、その刹那。
 キメラ達の鳴き声を静まらせるかのように、銃声が響いた。

 キメラの波を駆け抜け、真っ直ぐに突進してくる強化人間。
「俺達にはもう後がないんだ! てめぇらには死んでもらう!」
 そう喚き散らし、手当たり次第に発砲する。冷静さを失っているのか、それらが能力者達に命中することはなく、哀れにもキメラが犠牲となっていく。左大腿部が抉れている。東班との戦闘でついた傷だろうか。
「行きますですよ」
 猫が迅雷で間合いを詰める。途中、キメラに遮られてしまうため、何度も繰り返して。その間にも放たれる銃弾、迫るキメラの牙。
 猫は回避に全神経を集中し、盾で弾きながら進む。やはり銃弾は届かない。
 そして、間合いに入り――刹那。月詠が、弧を描く。
 がら空きの腹部に入る刃は、迷いのない一筋の太刀傷を作り上げる。
 猫に続くのは宗太郎。敵は宗太郎に銃口を向ける。それも、至近距離で。
「タイマンなら勝てるってか? 甘ぇな、俺はそんなにヤワじゃねぇ!」
 太刀筋の入った腹部に拳を押し当て、寸勁を捻じり込む。間合いを離し、一旦後退。槍に持ち替えて前傾姿勢を取る。
 そして、瞬天速で急加速をかけた再接近と共に、突き上げるように槍を敵へと。
「いくぜ‥‥奥義! 『穿光・二式』だぁ!!」
 両断剣・絶を発動させた、ランスチャージ――。
 エクスプロードの槍先が放つ爆炎が、強化人間の傷に深く抉り込まれていく。
 崩れ落ちる強化人間、しかしまだ倒れたわけではない。狂気じみた眼差しを能力者達に向けてくる。
 小銃を捨て、ライフルを構え――「一緒に逝こうぜ」と、ほくそ笑む。
「‥‥させねぇ!」
 京助が、剣を盾のようにして突進、インカローズで脚部に蹴りこむ。それでもライフルを離さず、キメラへと手当たり次第に発砲し始めた。
 今はキメラだが、いずれそれはこちらにも向けられるだろう。
「これで、終わりだ‥‥っ!」
 京助は体勢を立て直し、両断剣・絶を発動したワルキューレを頭上から力任せに振り下ろした。

 衝撃波の余波を喰らったのはスナイパー、しかし傷は深くない。
 いつしかカラス達は飛び去り、これまでの喧噪が嘘のようにその界隈は静まりかえった。
 路地からゆっくりと歩み出てくるのは――強化人間。
 剣を手にしているところから、エースアサルトだろう。
 キリルはライフルをいつでも撃てるように構える。斬りかかる強化人間。その動きにあわせて後退、隙を見て押し返そうとして失敗――キリルは敵に翻弄され、じり貧になったように振る舞う。
 やや離れた位置にいた剣清とリイが駆け寄ってくると、敵は一旦距離を取る。表情はかなり険しい。
「‥‥向こうは随分と余裕がないようだな」
 キリルは眉を寄せる。
 直後、地を蹴り間合いを詰めてくる。剣を下段に構え、狙うのは屋根から降りてきたばかりの紗夜。しかしすぐさま紗夜は虚実空間を飛ばす。元エースアサルトであるのなら、何らかの強化をしている可能性がある。
「流石に、一撃で脳天カチ割られる訳にはいかんのでな」
 紗夜は蛍火を構えて迎撃態勢を取る。しかし敵は構わずに剣を一閃、紗夜の蛍火に鈍く重い感触が伝わる。
 だが紗夜は怯まず蛍火を振り上げ、袈裟斬りを。敵は軽いステップで回避、続けざまに間合いに入ってくる逆袈裟は剣で受け止め、刀身をそのまま横に流した紗夜は真一文字に一閃、それらの連続した動きは、星を描くようでもあった。
 全てを紙一重でかわす敵は、攻撃に転じる。
「普通にやっても簡単には倒れてくれなそうですけどね‥‥」
 剣清は敵の動きに乗りつつも、突き上げられる刃は回転舞で回避、迅雷で懐に入り込んで刹那による一瞬の軌跡を描く。敵は、それさえも回避する。そして間合いを取ると、今度はキリルへと斬りかかる。
 その様に、剣清は違和を感じた。
 まさか彼は――。
 できる限り命までは取りたくないと考えている剣清は、時間の引き延ばしも兼ねて話しかけることにした。刀を降ろしてまっすぐに相手を見据えると、相手も同様に剣を降ろす。
「一つ聞く。今、アンタらが戦ってる理由は、ホントに命を掛けるようなモンか?」
 その問いに、強化人間は静かに首を横に振った。
「俺らは、ヴィクトリア様のために戦いたいだけだ。だが――」
 言葉を、濁す。困惑の色を浮かべる強化人間からは、もう戦意が感じられない。
「一体どういうことだ」
 紗夜が問うが、相手は何も答えない。
「何か迷っているように見えるが‥‥?」
 キリルが言うと、「まあ、そんなところだ」と小さく頷いた。そのとき、西班から強化人間撃破の報が入る。
「そうか、死んだか。まあ、ここで死んでいた方が楽かもしれんな」
 彼は小さく呟き、吐息を漏らした。続けざまに、本隊からの報。それによって、彼の顔色はどこかすっきりしたものに変わっていく。
「‥‥時間だ。本隊が目標地点に到達。斬首が成功すればこのフェズの駐留部隊は潰走だろう」
 キリルは貫通弾を装填し、強化人間へと銃口を向ける。直後、彼が何かを囁いた。
「‥‥本気か」
 キリルは眉を寄せるが、しかしすぐさま引き金を引く。
 そして――。
「彼はこの後、どうするつもりなんだろうか」
 リイが地面を見て呟く。そこには、キリルの銃弾によって落とされた――強化人間の片耳。
 ここでやられたと主張するかのように、それを落として強化人間はどこかへ消えていった。
 ――いつか、また。
 そう、言い残して。

「‥‥何に怯えていたんだよ」
 もう立つことのない敵に、京助は声をかける。前にウジダで会ったときには、怯えた様子は見せなかったというのに。
「本隊が目標地点に到達したようだ」
 宗太郎が通信を受け、告げる。
「‥‥モスクには到着できなかったけど、役割は果たしたです」
 猫が小さく頷いた。
 強化人間が斃されると同時に、この界隈のキメラはどこかへ行ってしまった。
 眠る彼は、どこか満足げに見え――その表情からは先ほどの行動が想像つかないほどだ。
 東班のアンジェラからは腕とハーモナーの応急処置を終えたとの報が、そして中央班からは強化人間撤退の報が入る。しかしそれもまた、不可解な状況のようだ。

 西班、東班、中央班の能力者達はただモスクの方角を見て、本隊の任務遂行を祈る。
 そして――フェズ攻略が、果たされた。