タイトル:【RAL】OF Roadマスター:佐伯ますみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/11 01:49

●オープニング本文


 モロッコのウジダ西方にて迎撃作戦が展開されると同時に、さらに西方への侵攻作戦も静かに始まっていた。
 若干北に迂回してではあるが、偵察隊は目標をフェズに定めて進んだ。もっとも、ウジダ攻略が完全完了した折には、西端からの直線ルートが取られることになるが。
 フェズまでのルート上にある、いわゆる「排除」すべきものを徹底的に調べ上げていく。当然のことながら、バグア側の妨害も予測されたが――不気味なまでに静かだった。
 ウジダへの侵攻部隊以外は、野良キメラが散見される程度で脅威となる存在はない。ワーム類の姿さえない。だからこそ、この先――恐らくはフェズで――バグア側がじっくりと策を練って待ち構えている様子が簡単に予測できる。
 まるで、いつでも攻めてこいと言わんばかりに。
 実際、偵察部隊がフェズの手前三十キロのポイントまで到達したとき、フェズ上空にHWの姿を目撃した。また、野良キメラもターザより西に行くにつれて数が増えている。
 ウジダの空港攻略や、都市攻略でもワーム類が西へ飛び去ったことを考えると、フェズをひとつの拠点としていることは間違いなさそうだ。
 ウジダとフェズの間にはいくつかの町があるが、どこも無人で、そしてバグアの拠点があるような気配はない。その中でも比較的大きな町であるターザも同様だった。忘れ去られた廃墟であるそこは、やはり静かに佇んでいる。
 だがフェズを攻略する際に、この町の空港をウジダからフェズまでの中間ポイントとして使用できそうではある。そのため、空港整備部隊が派遣されることとなった。
 それと並行してもう一部隊、フェズまでのルートを最終確認するための部隊が結成された。


 ――目標は、フェズの手前三十キロのポイント。
 それ以上近づくことは危険であると予測された。
 先行している偵察部隊がそこで待っている。ウジダからそのポイントまで、かつて使われていた道路に沿って進みながら、野良キメラを可能な限り排除する。それと共に、整備が進むターザの空港へと、拠点化に必要な物資輸送も行うことになった。
 それだけならば地味な作業でしかない。しかしこのルートはリフ山脈の南西部であり、かつての農耕地帯や山間部が入り交じっている。平坦な道ばかりではないということだ。
 ウジダから約二百キロ。
 何もせずに、何も起こらずに、ただ道路を駆け抜けるだけなら数時間で済む。しかしキメラへの対処が加わることで、状況によっては倍以上の時間がかかってしまうだろう。
 ――ターザまでは物資を護りながら。
 ――ターザからは増え続けるキメラを対処しながら。
 もちろん、フェズへの侵攻はバグア側も予測しているだろう。このルートを取るであろうことも。どこかからじっと見ていて、何らかの妨害をしてこないとも言い切れない。
 それによっては、ルートを途中で変更することも必要となる。
 状況に応じた臨機応変な判断と対応が求められる、決して気を抜くことができない任務となりそうだった。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
クライブ=ハーグマン(ga8022
56歳・♂・EL
周太郎(gb5584
23歳・♂・PN
グロウランス(gb6145
34歳・♂・GP
ユウ・ターナー(gc2715
12歳・♀・JG
御守刀 人助(gc7018
16歳・♂・FC
宇加美 菘(gc7069
16歳・♀・SN
橘 緋音(gc7355
25歳・♀・GP

●リプレイ本文


「よ、また会ったな。ところでそろそろ嫁さん貰う覚悟はできたかね?」
 グロウランス(gb6145)は周太郎(gb5584)との再会早々、いきなりそう切り出した。
「なんだグロウ‥‥嫁? 覚悟?」
 周太郎はグロウランスの言葉を繰り返して自嘲気味に笑む。
「さて‥‥『奇跡』でも起きない限りは、な。それよりモタついてる時間はない‥‥手早く行くぞ」
 背を向け、自身の乗る先頭の車輌へと歩を進める周太郎。グロウランスもそれ以上冗談は言わず、二台目へと向かう。
「荷物を運ぶだけの簡単なお仕事‥‥でも油断は決してしないよ」
「荷物を運ぶだけの簡単なお仕事です‥‥といくといいんだけどね」
 同時に言うのは、月森 花(ga0053)と宇加美 菘(gc7069)。二人は思わず顔を見合わせて笑む。
「攻められるのを警戒するより、攻める方が気楽な気がするね」
 菘は三台目の荷台に乗り込みながら言う。花は頷き、軽く利き足を踏みならした。
 油断は決してしない――有事は常に想定しておかないと、体が動かない。今はこの近辺にキメラの気配はないが、出発してしまえばいつ襲撃に遭うかわからないのだ。菘に手を振り、花も最後尾の車輌に乗車する。
「さて諸君、楽しいピクニックに出発だ」
 四台目の窓から顔を出すクライブ=ハーグマン(ga8022)。そして五台の車輌は静かにモロッコの大地を駆け始めた。
「意外と厄介な仕事になりそうね」
 橘 緋音(gc7355)は襲撃に備え、窓の外を流れる景色を双眼鏡で見る。反対側の窓から外を見ている周太郎が頷く。
「‥‥目的だけ手早く遂行してしまえばそれで終わる。俺ができるのは戦闘と荷物の積み降ろしだけ‥‥だろうかな。まあ‥‥何かあればその都度やるさ」
「何か‥‥ね」
 緋音が微かに笑む。能力者になったばかりの自分は、キメラ戦の経験も積みたいところだが――それ以外の「何か」もありそうだ。ちらりと後方に続く車輌に視線を送る。

 二台目のグロウランスは荒涼とした風景を眺め、思考の渦に落ちる。
 出発の数時間前に、兵士達と分乗や治癒関連の打ち合わせは済ませてある。状態異常は近場のキュア持ちを名指しで呼ぶなど、シンプルでありながらも確実な合図だ。
「アフリカか‥‥死ぬならこういう土地で死にたいもんだ」
 先ほどは周太郎にあのようなことを言ったが、自分は待つ相手も待たせる相手もいない。
 真に求めるものもない。
 何故、未だに自分は生きているのか――。
 知らずのうちに吐息が漏れる。

「菘おねーちゃん、宜しくなの」
 風でたなびく髪を軽く押さえ、ユウ・ターナー(gc2715)は菘に笑いかける。ユウも荷台に乗っていた。
「うん、よろしく」
 菘は笑みを返すと地図を広げた。
「ウジダからスタートで、ターザで搬入、そしてフェズまで‥‥西へ西へっていうルートだね」
 初めての土地の地図に目を細める菘。まだこのあたりは見通しがよく、キメラの気配はない。
「目視が効くところは気楽と言えば気楽だね」
「そうだね! でも、大事なお仕事になりそう‥‥。ユウにできるかなァ?」
 地図を目で追い、ユウは口を横一文字にする。
「うぅん‥‥やらなくちゃいけない、きっと。皆、頑張ってるんだもん。ユウも負けてられないよねッ☆」
 前にも後ろにも、仲間の車輌。ユウはそれを交互に見て、笑みを浮かべた。

「チェックポイント通過、ここまでは何もなしか」
 四台目のクライブは事前に確認した行程及び、ルート上の地形等を地図に書き記していた。やはり奇襲を受けやすいような危険地域は山岳部となりそうだ。
「さて、できるなら我々だけで、輸送路を綺麗にしてしまいたいところだが‥‥」
 キメラを全て排除とまではいかなくとも、危険性は最大限取り除いておきたかった。

 最後尾の車輌で、御守刀 人助(gc7018)はエマージェンシーキットを空いている座席に置いて、懐中電灯を確認していた。
「懐中電灯?」
 アラスカ454に貫通弾を仕込んでいた花に話しかけられ、人助は頷く。
「暗くなる前に着くといいのですが、念のためです! 備えあれば嬉しいな、です!」
 備えあれば憂いなし、だよ――花はそう言いかけるが、人助の満面の笑みを見ていたら釣られて笑みがこぼれてきた。
「うん、備えあれば嬉しいよね! みんなも、備えておこう?」
 同行している兵士達にも積極的に声をかけ、任務の緊張を軽くほぐす。兵士二人も人懐こい花に笑みを返して肩の力を抜く。
「これで、よし。フェズ攻略のために大事な大事な積荷、必ず守りきって次に繋げます!」
 キットをシートベルトで固定し終えた人助もまた、人懐こい笑顔を浮かべた。


 空港に到着すると、すぐに荷下ろしを開始した。
 ターザの空港まで、運良く大きな襲撃はなかった。蠍などの小物との戦闘が数回あったきりで、全員が戦闘をするには至っていない。
「やっと体が動かせるよ〜」
 大きく伸びをする菘。身体を動かすのは苦ではない。くるくると動き回り、次々に荷を運ぶ。
「ぱっぱと終わらせよう‥‥っと。それにしても‥‥暑っ」
 菘は数回荷を運び終えると、額の汗を拭ってシャツ一枚になった。
 人助もここまでの道中にすり減らした神経を癒しつつ、荷物を運び入れていく。
「余計な手伝いは不要かもしれんな」
 てきぱきと動く皆を見て言う周太郎。
「一名足りないと思うんだけど」
 荷を抱えて周囲を見渡す緋音。二人はすぐに誰がいないのか気づき、二号車へと駆け寄った。
 そこには、後部座席で高らかに寝息を立てている――グロウランス。
「おい、起きろ。お前も仕事しろ」
 ぱしん!
 周太郎はグロウランスの頬を派手に引っぱたいた――仕留めた蠍キメラの、尻尾で。
 しかし起きない。にやにやと笑い、大変気持ちよさそうに眠っている。「任せて」と緋音がグロウランスに馬乗りになった。
「‥‥ね、起きて?」
 むにゅーん、のしっ。
 その大きな胸を、グロウランスの顔に押しつける。口と鼻をしっかり塞ぎ、窒息させる気満々だ。ほどなくしてグロウランスの顔色が紫色に変わる。
 緋音がそっと胸を離すと、一気にむせ返って大覚醒。
「目が覚めたようだな」
 呆れ気味に言う周太郎を、グロウランスは恨めしげに睨み据える。
「折角ご婦人とこれから一戦‥‥」
 ぶつぶつと呟く。一体何の夢を見ていたんだ。
「一戦? 私と戦いたかったの?」
 くすりと笑う緋音。そこでようやくグロウランスは目の前にどどーんとある胸に気がついた。
「正夢だったのか?」
 それならばそれで、よっしゃこい! グロウランスは大きく両腕を広げて緋音に抱きつきにかかる。
 だが――。
「ギブ! ギブギブギブ!」
 あっという間に関節技を決められ、ギブアップ。一戦は交えた。一応。
「し、しぬかとおもった‥‥」
 自分に練成治療を施しながら、グロウランスは桃色の夢を呪った。


 ターザでの作業を終え、車輌はフェズ方面へとさらに進む。
 山間部に入ると景色は薄暗く、嫌な重みを感じるようになる。
 時折覚醒し、探査の眼で周囲の変化に気を配る花。
 後部座席で車列の後方と左右に警戒を続ける人助。
 目に見える範囲はもちろん、空を見上げ、そして音や匂いにも五感を働かせるのはユウ。僅かな変化も見落とすわけにはいかない。
 警戒ついでに景色を見て息抜きを続ける周太郎。助手席で、傍目には寝ているようにも見える体勢だが警戒は続けられる。
 クライブもバイブレーションセンサーなどで周囲を警戒、揺れる車輌はひたすら進む。
「視界内、敵性動体なし‥‥まて、動体反応あり、微弱、サイズは不明、敵性体の可能性あり、警戒を」
 索敵に眉を寄せるクライブ、常に警戒を続けていた皆の反応は早い。まずは周太郎が迅雷にて飛び出し、囮を兼ねて虎を迎撃にかかる。
 続くように、ドアを数十センチだけ開けて滑るように車外へ出る花。車輌を背にしてアラスカ454を雌獅子へと構える。
「先制は取らせない」
 言い終える前に、引き金を。
「舞え‥‥氷葬六花《ゴシックワルツ》」
 放たれる銃弾、それを全身で浴びる雌獅子。その背後から姿を現す、別の雌獅子たち。
「まずは無力化を‥‥」
 花はアラスカ454を降ろして黒刀「鴉羽」を眼前に構えると、状態を低くして迅雷で駆け抜けた。体が接触するギリギリの間合い、刹那の一閃は獣の四肢を裂く。
 駆け抜けるたびに、獅子は爪を花に押しつける。腕や肩に走る鈍い痛み、しかしそれを気にはしない。その爪がさらに食い込むことはない。人助が弓弦を弾き、獅子の意識を逸らしているのだ。
「ビューティフル、流石だな」
 花の姿に笑むクライブもまた、車窓から獅子たちを狙う。
「グンナイ、良い夢を」
 沈黙する個体に声をかけつつも、既に次へと照準を合わせている。そこを駆け抜ける花、引き続きクライブによる狙撃。
 花は隠密のように音も無く、素早く確実に――敵を屠る。
 他に余計な感情はない。だが、ひとりで戦うつもりはない。
 常に最上の選択肢を瞬時に判断した上で、体が反応する。後方でじっと見据えている雄獅子へと――その眼光を向けた。のそりと立ち上がる雄獅子、その鼻先に撃ち込まれるクライブの狙撃。そして花はスタートを切る。
 花が車輌から遠く離れたのを見計らうように、蛇たちが車輌へと移動を開始した。
「車に近づいては駄目です!」
 人助は二刀小太刀「小夜時雨」に持ち替えて迅雷、蛇との間合い詰め――円閃。小雨時雨の刃が、弧を描いて蛇に抉り込む。
 やがて蛇は数を増し、蠍も群れて「絨毯」となり始めた。他に昆虫のようなキメラもいる。
「う〜〜じゃうじゃしててキモチ悪いのッ」
 車輌の上から見下ろすユウは、ヴァルハラの銃口を「絨毯」へ向ける。
 そして、躊躇うことなく――ブリットストーム。
 銃口から吐き出される銃弾は、絨毯を抉り、剥がしていく。
「集団じゃないと何もできないんでショ?」
 全段撃ち尽くしてリロード、ユウはくすりと笑む。
「小さいと当たりづらいよね‥‥よっ」
 荷台からマシーナリーボウでさらに穴を開けていく、菘。蛇たちの中に大蛇を見かけ、一瞬だけ目を丸くした。
「僕の知る山の中にも、こんな大きいのはいなかったな〜」
 菘の矢は鱗に弾かれて地に落ちる。しかし、すぐにユウが制圧射撃でフォローに入る。
「此処で通行止めなんだカラっ!」
 手の空いていたグロウランスも、扇嵐やターミガンで次々に絨毯を剥がしていく。ふと、菘は頭上の木々が気に掛かった。
「上からこんにちは‥‥とか来ないよね?」
 だが――ぼたぼたと、蠍や蛇が落ちてくる。輸送車の荷台に入り込んだキメラを、菘とユウが排除にかかる。
 時折、足首などがちくりと痛む。毒を喰らえばキュアを持つ者に支援を要請し、確実に排除していく。
「背中は見てるさ、思い切りやってこい」
 グロウランスは車輌の側で他者の戦闘状況を見守っていた。
 周太郎はパラノイアを軽く振り、こちらをじっと見据える虎を睨み返す。
 明らかに邪魔な敵だ。解体といこうか――構え、虎の出方を窺う。
 先に地を蹴ったのは周太郎、迅雷で間合いを詰めると共に、体を捻って遠心力に任せるまま刃を虎の首へと薙ぎ入れる。肉が裂け、嫌らしい赤みが覗いた。
 最も大きい個体でこれなら、他の少し小さな個体はどうだろう。
「一匹ぐらいは真っ二つに千切れてくれるだろう?」
 楽しみだ――そう言いたげに、次のターゲットへと照準を合わせる。
 緋音も周太郎の動きに合わせて立ち回る。主に蠍系のキメラに注意を払っていた。
「でも、練力に限りがあるのはきついわね」
 この先も戦闘のたびに覚醒しなければならない。スキルが使えるのは一度が限度かもしれなかった。使いどころを見極めるべきか。
 緋音はマシーナリーナックルを蠍に撃ちこんでいく。周太郎に向かう蠍は確実に落とす。毒を喰らえばすぐに治療を受け、また次の蠍へと。
 そのとき、虎と対峙する周太郎を死角から狙う、別の虎がいることに気がついた。
「いけない‥‥っ!」
 咄嗟に駆ける、緋音。瞬天速で距離を詰め、跳躍した虎の巨体を全身で受け止め、辛うじて投げ飛ばす。
「‥‥まるで登山修行の熊との戦闘みたい」
 そう言いながら、緋音はその場に崩れ落ちる。胸の爪を喰らったのだ。そこに蠍が迫り、毒の洗礼を浴びせていく。グロウランスが駆け寄って蠍を排除、すぐに治療を開始した。
 周太郎は眼前の虎をいなしたあと、すぐにこちらの虎へと照準を変える。
「‥‥チェック‥‥」
 ――その言葉と共に閃く刃が、虎を引き裂いた。
 緋音は意識がなく、胸からの出血も多い。グロウランスは治療を施す。脈打つ胸には丹念に。
「うむ、これはなかなか」
「‥‥何がなかなかですって?」
 治療の甲斐あって意識を取り戻した緋音が笑みを向ける。
「おお、気がついたか」
「‥‥この胸じゃなかったら即死だったわ」
 この胸に感謝しないと――緋音は肩を竦める。
「そういえば、胸を見てたわね。また窒息したい?」
「いや、激しく遠慮しよう。‥‥遠慮したくないけど、遠慮しよう」
 空港でお花畑に片脚を突っ込んだことを思い出して、グロウランスは丁重にお断りした。

 やがてキメラは全て地に伏し、戦闘は終了した。
「‥‥この周辺に残敵はなさそうだ」
 バイブレーションセンサーにて確認を終えたクライブは、皆にそう告げる。他のハーモナーも同様の結論を出し、そして皆はまた車輌に乗り込んでいく。
 フェズの手前まで、まだこのような戦闘が続くに違いない。
「目標地点まであと少し、各員気を抜かないように」
 そしてクライブは、先頭車両が出発したのを見届けて窓を閉めた。


 フェズの手前、軍が小さなキャンプを張っている簡易拠点に到着すると、皆はホッと胸と撫で下ろした。
「最終チェックポイントに到着、さて、帰るまでが遠足だ、気を緩めずに行こうか」
 クライブが言うと、花が軽くお腹を押さえて眉毛をハの字に下げた。
「お腹空いたなぁ‥‥帰ったら何食べよう」
 その言葉に、そういえばと誰もがハッとする。
「食ってないな、何も」
 周太郎が頷いた。前に進むことばかりで、昼食はまともに摂っていない。
「もう夜になるわね」
 緋音が西の空を見る。
「レーションならありますよ。少し休んで行ってください」
 キャンプの兵士がそう言うと、「じゃあ、少し腹ごしらえするか」とグロウランス。クライブも「ふむ」と頷き、頬を緩めた。
「おいしいの、ある?」
「レーションですか、楽しみです!」
「どんなものがあるのかな」
 ユウが、人助が、菘が、兵士に案内されてテントへと向かう途中であれこれ考える。
 ここでこうやって笑顔になれるのは、それなりに消耗はあるものの誰一人欠けることなく――そして順調に到着できたからと言ってもいい。
 まだ、このあとはウジダまで帰らなければならない。戦闘もあるだろうが、恐らくは大丈夫だろう。
 ――フェズの攻略を後押しする一歩は、確実に刻まれた。