タイトル:【RAL】OF 迎撃マスター:佐伯ますみ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/22 22:01

●オープニング本文


 ウジダは、静かだった。
 空港はそのまま小さな拠点として機能している。街では簡単な調査が進められるだけであり、先の作戦時に確認された捕虜や保護を申し出た住民はいずれも安全な後方へ送られ、軍人や傭兵がいる以外には何もない。
 ――仕方ありません、この街は差し上げましょう。ですが、納得のいかない部下達が勝手にここを攻撃するかもしれませんが。
 それは、敵の指揮を執っていたエドワードが撤退の際に残した言葉。恐らくはエドワード自身が、撤退に納得していないのだろう。強化人間やキメラ達が、再度陸戦を仕掛けてくるのは見えていた。
「エドワードが出てくる可能性はあると思うか?」
 空港施設の一室で上官から問われ、アレクサンドラ・リイは首を横に振る。最近、ヴィクトリアやエドワードに関して問われることが多い。「身内」だったのだから当然といえば当然だが。
「彼は不利な戦いを好む性格じゃない。傷を完全に癒して体勢を整え直すまでは、出てくるような人じゃない。余程のことがない限り」
 エドワードの周囲にいた巨大な獅子や強化人間達もそうだが、かつてヴィクトリアのタロスをゴーレム達に護らせていたことも、そのいい例だ。
「余程のことというのは?」
「主からの命令。ただ、ヴィクトリアはこのところ姿を見せない。ウジダに関してヴィクトリアが何らかの行動に出る可能性は低いかと」
「なるほど。では襲撃に対しての備えを万全にし、ウジダを完全に放棄させる方向で進めていこう」
 上官は頷き、地図をリイに見せる。
「これまでの作戦において、敵は全て西方へと去っている。この方角には、距離はあるが‥‥フェズや首都がある。恐らくは拠点なり何なりあるのだろう。襲撃があるとすれば、この方角からなのは明らかだ。実際、襲撃部隊と思われる敵部隊が、ウジダの西方一キロ地点で待機していることも確認済みだ。いつ攻められてもおかしくはない」
「つまり、街の西端で迎撃態勢を取ると」
「そうだ。侵入を少しでも許してしまえば、またバグア側が勢いづく。絶対に再侵入を許してはならない。‥‥行くか?」
「行かせてもらえるのであれば」
「どうせ駄目だと言っても、行くだろう」
 上官は苦笑する。リイを部下にしてどれくらい経つのか。南米での一件以来、命令違反を犯したことはないが――それは結局、リイの『妹』があのような形で出現したからに他ならなかった。
 リイから得られるヴィクトリア達の情報は重要だし、彼女達がリイに絡もうとするのは逆に絶好の機会を得られることにもなる。
 つまり――駄目だと言う理由が、ない。それだけのことだ。もちろん、リイもそれを理解している。
「それから、気になることが一点」
 上官は地図から視線を上げて、リイを見る。リイは頷き、続きを促した。
「襲撃部隊のさらに西‥‥このポイントに、別陣と思われるキメラの群れが集まっているらしい」
「ここへの襲撃が不利な状況に陥った場合に備えての、援軍‥‥ですか」
「そうだ。援軍を送られる前に、そちらも叩き潰す」
「別部隊を派遣すると?」
「ああ。‥‥指揮を執れそうな軍人がアフリカに来ていたからな。呼んでおいた。会っておくといい」
「私の知っている者ですか?」
「どこかで昼寝しているだろうよ」
 意味深に笑む上官の「昼寝」という言葉に、リイは思わず部屋から飛び出した。

 駐車スペースに着くと、リイは自分のジーザリオのドアを派手に開けて中を覗き込んだ。
「また私の車で昼寝か、いいご身分だな」
 中にいる女を、ヒールで軽く蹴る。蹴られた女は不機嫌そうに目を開けた。
「ねえ、この子すっごい寝心地悪いんだけど。あたし、あの子がいいなー。あのシートがすっごいフカフカの、高そうな子!」
「あれはイギリスの屋敷においてある。わざわざ軍行動に持ってくるはずないだろう。勝手に人の車の鍵を壊して乗り込んでおいて、文句を言うとは相変わらずだな」
「そーんなカオしてるとー、シワが増えるよー?」
 女はリイの頬をむにーんと引っ張ってみる。「ケアはしている」とリイがその手をはねのけた。
「で、この子、名前は?」
「そんなもの、ない」
「えー、なんで。つけてあげればいいのに。じーちゃんとか、ざりちゃんとか」
 女はアホなことを言いながら体を起こし、ようやく笑む。
「アネット――」
 リイはその名を呼び、抱きついた。
 アネット――アネット・ラバン。いや、今はアネット・阪崎か。最後に会ったのは六年前。彼女が結婚する前だ。
 軍人としてリイの同期であり、旧友だ。退役したはずの彼女が軍に復帰したという話はちらりと聞いていたが、まさかこのアフリカで再会となるとは。
「なに、さっちゃん! どしたん?」
 さっちゃん――サーシャ。リイのことだ。アネットはぽふぽふとリイの背中を叩き、笑う。リイは体を離して表情を曇らせた。その泣き出しそうな顔は、今の彼女を知る者達が見たら驚くに違いない。
「‥‥色々、あったから」
「‥‥ん」
 アネットはどこまで知っているのか。だが、多くを語る必要はなさそうだ。
「でさ、でさ‥‥ねぇ、さっちゃん。あたし、なんで呼ばれたの?」
 こういうところも、相変わらずだ――リイは少し懐かしさを感じながら、現状と次の作戦についてを語り始めた。一度の説明で彼女が理解してくれるかどうかは考えないが。

 三回ほど説明を繰り返すと、ようやくアネットは「わかった!」と首を縦に振った。三回で理解するとは、とリイは少し驚く。五回は必要だと思っていた。どうやらアネットのことを過大評価(?)していたようだ。
「あたしが行くのはあっちだね!」
 そして指さしたのは、南――。
「あっち、だ」
 リイは頭を抱えて、西を示す。七回説明したほうがよかっただろうか。
「ん、わかった。あっちね。えーと、で、あっちにずーっといくと、なんか町あったよね、町」
「フェズ。ここを攻略したら‥‥そのまま次はフェズを目指すことになると思う」
「ふーん、でもあたし、あそこ見てみたいな、首都! 首都のカサブランカ!」
「それは首都じゃないから」
「えー、なんで? どうして?」
 どうしても言われても、違うものは違う。リイはもうスルーすることにした。多分、彼女は自分をからかっているのだろう。いつものことだし、それが逆に嬉しい。
「とにかく、そういうわけだから‥‥よろしく」
 しかしアネットは聞いちゃいない。
「だって映画にも出てくるしー、ほら、なんか歌もあったよね?」
 ぶつぶつ、ぶつぶつ。カサブランカが首都じゃないことに対して、何か文句を言っているようだ。リイは運転席に乗り込むと、アクセルを踏み込んで暴走させた。
「な、なに、なに、いきなり!」
「目を覚ませ、阿呆」
「あたしはいつでも大覚醒してるのにー!」
 しかしリイ無視してジーザリオを大暴走させ続ける。
 もちろんアネットが「わーい、ジェットコースター!」と喜んだのは言うまでもない。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
ファサード(gb3864
20歳・♂・ER
クラリア・レスタント(gb4258
19歳・♀・PN
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
守剣 京助(gc0920
22歳・♂・AA
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN

●リプレイ本文


 地面を抉り、穴を掘る作業は静かに進む。
「‥‥罠か。私も手伝う。出来る限りの準備をしよう」
 シクル・ハーツ(gc1986)は掘り返した土砂を、運搬用の車輌まで運ぶ。
「背水の陣‥‥失敗はできないしな」
 背水の陣――偃月陣。それを二重に構えて臨む戦闘は、決して失敗は許されない。少しでも優位になるように、陣の側面に罠となる落とし穴を作り続けていた。
 守原有希(ga8582)は掘りながら、アレクサンドラ・リイに陣の詳細な位置を相談し、実際に掘り進めている穴と比べる。
「こいでよかね」
 右の穴はほぼ完成したようだ。有希はリイを見た。
「大丈夫そうだ」
 リイは頷き、左での作業を進めるクラリア・レスタント(gb4258)や守剣 京助(gc0920)達の元へ移動する。さらに煉条トヲイ(ga0236)は穴に地面と同色の偽装を急ピッチで進めていた。
 その時、リイはウジダの街へと視線を送るドッグ・ラブラード(gb2486)に気づいた。
「どうした?」
「いえ、なんでもありませんよ」
 ドッグは笑顔で首を振る。
「それよりも‥‥なかなか大変な戦いになりそうですね‥‥」
 敵数も多いし、常に柔軟に考える必要がありそうだ。ドッグは街から視線を離して穴掘り作業を再開する。
 リイも作業に戻ろうとしたが、今度はファサード(gb3864)に意識を奪われる。
「なに、してるんだ?」
「罠を作っているんですよ」
 ファサードは穴の外側の草を次々に結んでいた。足や体の一部を引っかけた敵が、穴に落ちるようにするのだ。
「まあ、遊び心みたいなものですが」
 草を結び終えると、ファサードは立ち上がって眼鏡を外した。
「‥‥戦いは得意とは言えませんが、嫌とも言ってられませんよね」
 溜息を漏らし、眼鏡を拭く。目を細めて西を見据えれば、彼方には敵影。
「こう、本当は考古学で身を立てたいのですけどね。アフリカの遺跡も随分とバグアに壊されたのでしょうね」
 戦闘に備えて自身にGooDLuckをかけ、再度、溜息。M−121ガトリング砲を眺め、持ち慣れないこれを使うことについてぼんやり考える。
 クラリアも手を止め、双眼鏡で敵影を確認。彼女の狙いは強化人間だ。
「敵軍の群れの中に居たらいいのだけど‥‥、‥‥いた」
 双眼鏡の狭い視野の中、強化人間達は堂々とキメラ達を引き連れて歩を進めている。真っ直ぐに、こちらへと。
 夢守 ルキア(gb9436)は麻痺や毒を受けた際のハンドサインをざっと決め、全員に通達していく。もちろん、声での依頼も受け付ける。
 さらに、少しでも各種のダメージが軽微で済むようにと靴の中にズボンを押し込むといった準備も怠らない。
「それから‥‥忘れちゃいけないのが」
 リイに何かを要求するように笑む。
 リイは頷き、身を屈めて唇をルキアの頬に寄せた。
 勝利のオマジナイ的なものだ。ルキアは「ありがと!」と笑むと、臨戦態勢に入る。
 穴はほぼ完成した。旋風に装着した脚甲「インカローズ」と、タクティカルゴーグルに黒レンズを装着し終えた京助は、顔を上げて苦笑いを浮かべる。
「なんだあの猛獣軍団‥‥。解放記念として駆けつけた猛獣サーカスの方々‥‥だったらよかったんだが」
「‥‥来たか。かなりの数だな。迂闊に前に出たら囲まれるな‥‥」
 静かに隊列の後列中央へとその立ち位置を決めるシクル。
「あの小さいのは蠍‥‥か? 近づかれると厄介だな。近づかれる前にこれで纏めて‥‥!」
 シクルは雷上動を軽く握って、蠍を見据える。
「なるほど‥‥結構な数ですね。‥‥行きます。行きましょう」
 クラリアの瞳が紅に染まると、キャットブーツからオセが出現した。迫る敵軍さえ紅に染まり、それを真っ直ぐに見据えて瞳に決意を込める。
「‥‥街への再侵入は、何としても阻止してみせる‥‥!」
 街を背にして立ち、トヲイは言い放つ。
 敵の足音が、間近まで迫っていた。


 有希が閃光手榴弾のピンを抜く。目を閉じる者、ゴーグルで防ぐ者。
 投擲、カウント開始。
 鼓膜を打ち付ける音と、全ての色を奪う光。
 強化人間達は目を押さえ、獅子達は身を竦ませる。蛇や蠍にはダメージがあるようには見えないが、予想の範囲内だ。
 瞼を開いたルキアはターミネーターを構える。現状、ハーモナーに索敵を頼むまでもないだろう、視界に嫌でも入る。蠍の密集するポイントに血糊を放ると、更に蠍達が群がり始めた。
 ルキアが放った銃弾は蠍に吸い込まれていく。直後、四方へと逃げ始めた蠍達。
「一匹も通さん!」
 惑う蠍達に降り注ぐのは有希のスコールから降る雨と、トヲイとシクルが射る弾頭矢。
 次々に放たれるそれらが、ひとつの「個体」のような群れを襲う。
 通常ならば複数へのダメージは考えられない弾頭矢だが――かなりの低確率の条件が幸運にも舞い込んだようだ。
 弾幕と、爆風と。
 それらが敵を穴へと追い詰めていく。京助から距離を取ったルキアもまた、同様に。ファサードは探査の眼にて奇襲への警戒を続ける。
 視界がクリアになってきた強化人間達は、弾幕と爆風が巻き起こす土煙に紛れて行動を起こそうとするが、土煙が少なすぎる。
「そんな隙は作らんとね」
 有希が笑む。土煙の規模は計算に入れていると言わんばかりに。
 その時、京助が駆けだした。蠍が最も密集しているポイントへと。
「はっはー! 初陣だなソルジェンテ。サソリの食い放題だぜ!」
 透き通った愛剣を振り上げる。
「喰らいやがれ‥‥っ!」
 そして駆け抜ける衝撃波は、蠍達に苦痛すら与える暇もなく地を薙いでいく。
「今のうちだ!」
 蠍の激減を確認したシクルが言うと、皆は反射的に駆けだした。
 シクルはそのまま、隙に乗じて前衛を抜けようとした蛇に風鳥の刃を連続で薙ぎ入れる。
「させるか!」
 再度、舞う風鳥。蛇は前衛を抜けるのを諦め、態勢を整えるべく退いた。

 強化人間のひとりへと接近を仕掛けるのはクラリアとドッグ。
「一応聞くぞ? 投降の意思はあるか?」
 ドッグが問えば、当然のように敵は首を振る。ならば、戦うまでだ。
「敵の最高戦力。最優先で倒すっ! いざ!」
 クラリアの声に共鳴するように、敵も大剣を薙ぎ払う。
「謳え! ハミングバード!」
 クラリアの剣が敵の死角に滑り込む。回避されるが、敵が攻撃に転じようとした時にはクラリアは射程から離脱していた。
「あんたとは俺が踊ってやるよ!」
 敵の背後を、ドッグが取る。そのまま電波増幅を乗せた莫邪宝剣を腰へとぶち込んだ。
「てめぇは、俺だけ見てればいいんだよぉ!」
 敵の意識を引きつけるため、ドッグは立ち回る。派手に、激しく。
 当然のように敵も大剣を薙ぎ、ドッグの脚部を抉る。だがそれはすぐに練成治療で埋められていく。
「エドワードに比べりゃ、とろいなぁ!」
 その名に、相手はどのような反応をするだろう。効果がなければ、落とし穴にわざとはまって隙を見せてもいいかもしれない。
「うるさい‥‥っ!」
 敵は激昂し、完全にドッグへと意識を移した。
 ドッグは練成弱体を試みるが効いている様子はない。その時、敵はちらりと能力者達の位置を確認した。
 十字撃のようなものでも――放つのか。
「ここだぁ!」
 好機を見たドッグの声に、クラリアが動く。
「好機! 勝負は今!」
 高速機動を発動、刹那、迅雷――クラリアの機動力をフルに活かし、懐へと潜り込む。
「掻っ斬れ! オセ!」
 ――クラリアの、細い足が振り抜かれた。

 トヲイとリイ、エースアサルトとフェンサーは、蛇を狙う。
 ハーモナーから、蛇が一体地中にいるであろうことを知らされる。
 トヲイは囮となるべく、牙と尾による攻撃に警戒しながら地上の蛇へと接近していく。蛇達は鎌首をもたげてトヲイを包囲していく。
 気になるのは地中にいる一体。いつ来るのか――。
 トヲイはシュナイザーを構え、その時に備えた。
 ――足下が、揺れる。
 やはりと言うべきか、蛇は足下から白い鱗を見せ、一気にトヲイに巻き付いた。
「‥‥悪いが。ここはエデンの園では無いし、俺もアダムでは無い」
 シュナイザーが舞う。剣劇が、鱗を抉っていく。トヲイを解放して脈打つ蛇。
「――招かれざる客よ、十字架を背負い地獄へ還れ‥‥!!」
 その言葉と共に、十字の衝撃が蛇達へと放たれていく。
 六体の蛇達は鱗を体液で濡らし、嫌な色に染まる。
 そして一気に仕留めにかかるべく、トヲイと共にリイ達が駆けだした。

 蝉時雨と蛍火の刃が、陽光を反射する。
 強化人間は銃を使おうとはしなかった。龍灯鳳翼に触れて滑る敵のナイフは、そのまま有希の首に向けて突き上げられる。
「こがん痛かとば誰に向ける心算か!」
 怒声と、上段から振り下ろす刃。
 よどみのない動きを見せる十文字は、敵のナイフを腕ごと地に打ち付ける。敵はそのまま倒立、下半身を捻って有希の顔面へと膝を。辛うじて受ける有希。
「こいはきつかね‥‥、けど」
 負けるわけには、いかない。
 蝉時雨と蛍火が、フェイントを交えて空を切る。敵の鼻先を、髪先を。立ち上がった瞬間に突き込めば、敵は若干バランスを崩した。
 今だ――有希は凄まじい速さで刀身を打ち付け、敵の体を打ち上げる。
「吹き飛んだ、連携頼みます! 皆が築いた希望、うちらと皆で続かせる!」
 その声に呼応し、ルキアが強化人間の背にエネルギーガンを放った。
「こー言うトキ、射程って助かるね」
 しかし強化人間は――なおも、立ち上がる。まだ、戦闘は続く。

「1、2、3‥‥いい骨格ですね」
 ファサードのガトリングが嵐を起こす。
 しかし怯むことなく襲いかかる獅子。前足が、牙が、容赦なく痛めつけにくる。だが、仲間が治療にまわっている現状、多少のダメージや毒は怖くない。
 シクルが援護に入り、弾頭矢を獅子の眉間へと射る。獅子は唸り声を上げ、動きを止めた。そこにすかさず、ファサードが撃ち込む。
「それにしても‥‥ちょっと撃ちにくいですね」
 もう少し高い位置を狙いたい。
「‥‥リィさんのお尻が、見えますしね」
 若干、気になっていた。蛇と対峙するリイが、獅子を狙うたびに視界に入ってくる。しかし気にする余裕があるなら、獅子のリズムを逃すことはないだろう。ファサードは、意識を集中した。
 別の獅子と対峙するのは京助。
 豪破斬撃と共に振り下ろす大剣と、一瞬の隙を埋めるような脚甲での蹴りと。
 それをかわした獅子が京助の肩口に抱きつく。突き立てられる爪、大きく開かれる口。
 しかし京助は大剣で牙をやりすごし――そのまま全身で回転、獅子の牙をへし折るように刃をぶち込んでいく。
 さらに足下にまだ蠢く蠍には、インカローズで蹴り付ける。
「邪魔すんなよサソリ共。ピエロはライオンと命懸けで遊んでるんだぜ」
 しかし、傷が疼き始めた。ルキアの練成治療と狙撃が京助をフォローする。回復を得て獅子との対峙を続ける京助、そしてルキアは雄の獅子を探す。
「雄が指揮を取る事が多い、自然界風だケド」
 現に、雄は――離れた場所にどっかりと座り込み、戦闘の様子を見ている。
 ルキアはそこに違和を感じつつも、エネルギーガンで狙い撃つ。しかし、雄獅子はそれをかわして駆けだした。
 獅子の視線の先にあるのは、強化人間。まず、距離の近いエースアサルトに体当たりして強引に背中に乗せる。
 対峙していたクラリアとドッグが獅子へ攻撃しようとするが、雌獅子が妨害に入る。そのまま雄獅子は、戦闘を続ける有希へと突進する。
 有希が咄嗟にそれをかわすと、対峙していた強化人間は獅子の背に飛び乗った。
 敗北を認めたも同然の強化人間は、悔しげに頬を引き攣らせる。「上司」からの指示なのか、死ぬまで戦うという選択はないようだ。
 雄獅子は西へと向かって、地を蹴る。「追う必要はないだろう」とリイ。
 ――そして、残るキメラ達との対峙は続く。


 全てのキメラを殲滅後、一同は暫くその場に留まっていた。
 西方でキメラと対峙している班はどうなったのか。キメラの増援がある気配もない。時間だけが過ぎ――成功したと連絡が入る。
 これでようやくウジダ攻略は完了だ。安堵と共に、拠点のある空港へと戻り始めた。しかし、ドッグが別行動を申し出る。
「ちゃんと戻りますから、先に行っててください」
 リイは一瞬眉を寄せながらも、「車とドライバーを置いていく。あとで使え」と許可を出した。

 空港に到着すると、有希がふと表情を緩めた。
「無事、続いたね‥‥」
 呟くその言葉にどのような意味が込められているのだろうか。
 同じように表情を緩めるのはシクル。
「これで街を諦めてくれるといいんだが‥‥」
 だが、逃げ去った強化人間達の様子から考えると、恐らくは大丈夫だろう。
「折角マグレブ――日の沈む場所まで来たのですから、ヴォルビリスを見に行ってもいいですか? ‥‥はい、やっぱり駄目ですよね‥‥」
 ファサードは肩を落とす。今日、何度目の溜息だろうか。
「日の沈む場所‥‥そんな意味を持つ国だったんですね」
 クラリアは目を細め、西を見る。確かにこの国は、アフリカ大陸の西側だ。なお、ヴォルビリス遺跡はフェズとラバトの間にある。
「‥‥次はフェズを落とす。それから更に西へと進む。いつか、見られるようになるだろう」
 リイの言葉に、ファサードは静かに頷く。
「ソルジェンテ、お前も頑張ったな」
 傍らに置いてある大剣に声を掛ける京助。勝利を飾ることができ、ソルジェンテにとってはいい初陣となったかもしれない。
「インカローズもお疲れさん」
 そして、脚甲も外して手入れを始める。
「リィ君、終わったね。勝利のオマジナイ、効いたよ!」
「そうだな。‥‥じゃあ」
 リイは身を屈め、駆け寄ってきたルキアの頬に唇を寄せる。
「次にルキアが赴く先でも、勝利が訪れるように」
「よし、頑張っちゃうからね!」
 ルキアは自分の頬を撫で、満面の笑みを浮かべた。
 引き続き、リイに声を掛けたのはトヲイ。
「今回は引き摺り回す形となってしまって‥‥すまなかった。縁があれば再び逢うこともあるだろう――その時まで、壮健で」
「こちらこそ助かった。ありがとう。縁があれば‥‥いつか、また」
 縁があれば――。
 リイがゆるりと視線を流せば、駐車場から歩いてくるドッグ。ようやく目的を終えたらしい。
「すみません、戻りました!」
 ドッグの、握ったままの手から銀色の鎖が覗いていた。その手は傷つき、割れた爪の間に血が滲んでいる。
 リイは首元に無意識に触れる。彼が握っているのは、先の作戦でリイが瓦礫の奥へと投げ捨てたロケットだ。
「なるほど、縁があれば‥‥か」
 自ら投げ捨てたものが再びリイの目の前に現れたということにも、縁のようなものがあるのだろうか。
「‥‥とりあえず、救護室に来い。手当てしてやる」
 そしてリイはどこかすっきりとした表情になると、背を向けてすたすたと歩き始める。
「え!? ま、待ってくださいよー!」
 ドッグは慌てて、その背を追いかけた。