タイトル:【RAL】男の上半身マスター:佐伯ますみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/05/01 01:19

●オープニング本文


 ――要塞「ピエトロ・バリウス」
 それはチュニジアの南東部にある。
【AA】作戦においてチュニジア全土を奪還したUPC軍が建設したものであり、故ピエトロ・バリウス中将の名を冠しているのは周知の事実だ。
 その要塞では、二十年近い年月を経て人類圏に戻ったチュニジアの人々に対しての慰安イベント等が執り行われることもある。それは住民だけではなく、アフリカに駐留する兵士達への癒しにもなっているのだろう。
 住民――それは、軍関係者やその家族、基地関係施設等に勤める移住者やその家族など、勢力圏奪還後に欧州から移住した者達と共に、要塞周辺に住み始めた現地の住民も含まれる。かつての文化を伴ったものではないが、安定した基盤を持つ生活を送り始めていた。
 イベントはそういった住民達だけではなく、アフリカに駐留する兵士達への癒しにもなっているのだろう。
 先だって企画された兵士向けのアングラ闇市は記憶に新しいところだ。その詳細についてはまた別の話になるので、ここでは一切触れないが。
 しかし同基地の受付が風紀に極めて厳しいのは今も変わらない。それでも、兵士達は娯楽を求める。風紀が、そしてアフリカの情勢が厳しいからこそ――。
 アルジェリアから始まった【RAL】作戦は、開始から約四ヶ月を経てモロッコへとその射程を伸ばし始めた。これから更なる激戦も予測され、プロトスクエアはもちろんのこと、他にも強力なバグアの姿が多数目撃されている。未だ姿を現さない「ピエトロ・バリウス」の脅威も未知数であるため、作戦が進むほどに緊張感は否応なしに高まっていく。
 だからこそ、兵士達が娯楽を求める思いは熱望へと変わり、膨れあがる。
 そこにいち早く気づいて手を差し伸べたのが、カプロイア社だ。兵士達は「カプロイア社協賛のイベントがあるらしい」というだけで、湧き起こる期待で目の色を変える。
 ジークルーネも完成した。【RAL】作戦もモロッコへと侵攻を開始した。
 それに伴って、表向きは兵士や傭兵達の士気を高めると同時に、周辺住民達との交流を深めていくという名目で、新たなイベントの企画発案及び準備は水面下で進んでいた。
 新たなイベント、それは――。


『ミスUPC in 欧阿方面軍決定戦 2011』


 2011かよ! 来年もやるのかよ! というツッコミはこの際受け付けない。
 本当にやっちゃうのかよ、という声も受け付けない。
 こういうのはノリと勢いが大事だ。やったもん勝ちとも言うが、まあそれはおいといて。
 水面下で進んでいた準備はようやく浮上を始め、会場設営や必要資材の搬入、参加予定の女性兵士や士官達の要塞入りという段階にまで達した。
 俄に慌ただしく、そして活気づく要塞。急ピッチで進められていくミスコン準備だが、アルジェリアやモロッコでの戦闘に人員が割かれることを考えると、明らかに人手不足な感は否めなかった。
 ミスコンを楽しみにするチュニジア住民達も自主的に手伝い始めてはいるものの、やはりここは能力者のパワーが欲しいところだ。まあ、色んな意味で。
 そんなわけで、ここにも作業員としてかり出された女性能力者がひとり。
「でも私は本部でオペレーターの仕事があるんですけど‥‥っ!」
「だから、作業をオペレートしてよ」
「‥‥は、はぁ‥‥」
 ミスコン運営委員の説明になんだかよくわからないままに納得してしまったのは、スナイパーにしてオペレーターであるユナ・カワサキ。
 ユナはオフを満喫しているところを上司(女性)に襲撃され、アイマスクで目隠しされてここまで連れてこられたのだ。
 目を開けたら見知らぬ土地、しかもアフリカという激戦地域で「これは夢ではないだろうか」と左腕をつねりまくっていたユナ。夢ではないと悟る頃には、左腕には内出血の跡が無数についていた。
 他にも同様にして連れてこられたオペレーターや能力者達がいるようで、皆不思議そうに周囲を見渡している。
「でも、どうして私が‥‥」
「ん? ただ単にくじ引きで決まっただけだよ。はい、オペ子服。いつもの調子で皆の作業のフォローよろしく!」
 いつものオペレーター服を渡されると、ユナはしぶしぶ運営本部へと向かっていく。「ついでにミスコンに参加してもいいよ」とか言われたが、それについては返答を保留した。
「いつもの調子‥‥。大丈夫かな」
 天然どじっ子属性で、射撃の腕はゼロどころかマイナスさえつき、極めつけの方向音痴、オペレートした依頼の成功率は限りなくゼロに近い。
 そんな自分にちゃんとフォローできるのだろうかと一抹の不安を覚えつつ、アフリカの大地に立てる機会を得られたことは能力者として、そしてオペレーターとしてもひとつのステップになるだろうと、ユナは頷く。
 そして勢いよく扉を開けると――目に飛び込んできたのは男性の裸、裸、裸。
 少年からムキムキごつごつまで、よりどりみどり。
「‥‥え?」
 扉の中の光景に硬直したユナは、瞬きすることを忘れて見入ってしまう。
 男性の裸は父親の、しかも上半身しか見たことがない。こんなにもバリエーション(色んな意味で)が豊かなのかと変な感想を抱きながら、ひたすら凝視する。
「ユナちゃん、どこ行くの! そっちは男子更衣室! 本部はこっち!」
「あ‥‥ご、ごめんなさいー!」
 運営委員の声で我に返ったユナは慌てて踵を返し、今度こそ本部へと駆けていく。男子更衣室の扉を、開け放ったまま。
 その後、男子更衣室がパニックに陥ったのは言うまでもない。


 そんなこんなで、ミスコンの準備は進められていく。
 どことなく、波瀾万丈な予感を孕んで――。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
ラフィール・紫雲(gc0741
15歳・♀・BM
香月・N(gc4775
18歳・♀・FC
アメリア・カーラシア(gc6366
17歳・♀・SN

●リプレイ本文

「ユナ‥‥裸を見たということは、嫁に貰ってくれるということか、ね?」
 ユナ・カワサキの頭をくしゃくしゃと撫でるUNKNOWN(ga4276)。
 しかしユナはパニック状態で何かを勘違いし、「私はまだそんな、お嫁にはいきません!」と明後日の方向の回答をしてしまう。
「そういう意味ではなくて」
 UNKNOWNがもう一度言おうとしたとき、ユナを横からかっ攫っていく存在がいた。澄野・絣(gb3855)だ。
 覚醒していないから、おっとりしているはず。それほど激しいリアクションも取らないはず。だが、この素早い反応はどうだろう。
「‥‥自称旅人さんの魔手から、ユナさんを守らないといけませんから」
 ――なるほど。
「そんなことはないと思うがね?」
 くすりと笑むUNKNOWN。しかしその格好では説得力がなかった。
 蝶ネクタイと、ズボン――簡単に言ってしまえば、半裸。そんな彼に警戒しないのも無理な話だ。
 しかもユナはビデオカメラを手にしていたりするし、そこに現れた香月・N(gc4775)は「ここにも見られたい人が‥‥?」と意味深なことを呟いているし。
 このわけのわからないシチュエーション、一体何がどうしてこうなったのか。
 ――少し時間を遡る。

「初めまして、ラフィール・紫雲ですよ〜。今回は頑張りましょうね」
 ラフィール・紫雲(gc0741)はユナに挨拶をする。
「よろしくお願いしますね」
「早速なんですが、この後予定開いてますか〜?」
 挨拶を返すユナに、ラフィールは今後の予定を問う。
「大丈夫ですよ。ね、絣さん」
 そう言ってユナは隣で和笛の手入れをしていた絣に笑いかける。
「ええ。私もご一緒します」
 絣も笑み、頷いた。実は絣、ユナが関わっている仕事と聞いてアフリカまでやって来たのだ。だが、突然連れてこられて不安いっぱいのユナはそれが嬉しかった。絣の他にも見知った者達がいるのも心強い。
「では、ミスコンの流れなどについて話し合いませんか」
 そのラフィールの提案に従い、三人はほとんど完成していたプレハブへと移動する。そこでは月城 紗夜(gb6417)が最後の仕上げにかかっていた。プレハブは上部に網をつけた通風口が開いており、簡易トイレやシャワー設備もあるという、なかなか快適な作りだ。
「お疲れさまですー」
 ユナが声をかければ、紗夜はタライを見つめていた視線をこちらへ向けた。
「タライですか」
 ラフィールが問う。紗夜は頷き、簡易シャワーを見せた。
「シャワーより、タライに水でも良かったかなと少し考えていたところだ」
「タライに、水‥‥?」
 絣が不思議そうに目を見開くと、紗夜は「なんでもない」とタライをどこかに片付ける。そして、「UNKNOWNを見なかったか」とユナに問う。
「いいえ?」
「そう。‥‥剥きたいんだがな」
「なに、を‥‥?」
「秘密だ。それより、ミスコンについて話し合うのか」
「ええ。そうなんです‥‥と、あれは、香月さん‥‥?」
 ユナはぶつぶつ言いながら歩き去っていく香月に気づいた。
「何か独り言を‥‥?」
 ラフィールが首を傾げる。
「‥‥ピエトロ‥‥」
 ピエトロ。なんだっただろう。資材運搬や会場設営の力仕事を手伝っていた香月は、空中を見つめながら歩く。
「バリウス、バリウム、バリウス‥‥」
 ああ、バリウスだったかバリウムだったか、いまいちよく思い出せない。バリウムのような気がする。バリウム。
 香月は延々と悩みながら、目の前に現れた扉を開けた。
「ぃ、ぎ、ぁぁやぁぁぁぁぁぁんっ!」
 茶色くて色気の欠片もない声が、香月の耳を劈く。何事かと中を覗き込めば、そこにあったのは裸、裸、裸、男性の――裸。
「‥‥え?」
 かくーり。これは一体なんだろう。確か資材置き場の扉を開けたはずだというのに。
「‥‥見られたい人用、更衣室?」
 違うと思う。
「‥‥大丈夫、言わないから。でもごめんなさい、香月は兄さん以外に興味が無いの‥‥」
 香月は扉をそっと閉める。直後、扉の向こうは静かになってしまった。そりゃそうだろう。可愛い女の子が覗いたかと思いきや、裸を見ても動じることなく、しかも「兄さん以外に興味がない」ときたもんだ。
「‥‥『兄さん』、許すまじ」
 呪詛にも近い呟きが漏れ聞こえてくるが、しかし香月は気にしない。改めて資材置き場へと向かっていった。

「和服やドレス、民族衣装、水着‥‥他には何があるかな〜」
 プレハブでアメリア・カーラシア(gc6366)はチラシのモデルとして着用する服を準備していた。進行を相談していた三人も、それを見守る。ラフィールはノートパソコンを持ち込み、経費の計算や資料の作成も進めていた。
「個人的には、日本の良さを広めるべく和装を推したいのだが」
 プレハブ設営作業の終わった紗夜が意見を出す。当然、紗夜も袴姿だ。コスプレではない。侍とか武士とか、そう言われるのを希望する。
「貧乳とか、無乳とか言った奴は切り捨て御免だ」
 ぽつりと呟く。別に気にしているとか、そんなことはない。多分。
「大丈夫です! 私も胸は小さいです!」
 励ますつもりで言った貧乳のユナ、しかし全然励ましになっていないのは言うまでもない。
 まあそれはおいといて。
「和装なら私もお手伝いできます。自前で持ち込んでいるのはこの着物だけですので‥‥他の服装についてはお任せになりますけれど」
 絣が言う。余程変な格好にでもされない限りは大丈夫だろう。
「水着の形はどうしようかな、色は赤がいいな〜」
 アメリアはあれこれ想像。せっかくだから、ばっちりと決めたい。
「ふむ? ミスコンの相談かね?」
 ひょっこりと顔を出すのはUNKNOWN。関係書類をぱらぱらとめくり、内容を確認する。ほんの一瞬だけ紗夜の目が光るが、誰も気づかない。
 この時点でのUNKNOWNの服装は以下の通りだ。
 ロイヤルブラックの艶無しのフロックコート、同色の艶無しのウェストコートとズボン、兎皮の黒帽子、コードバンの黒皮靴と共皮の革手袋、パールホワイトの立襟カフスシャツ、スカーレットのタイとチーフ、古美術品なカフとタイピン。
「‥‥相談、どこまで進んだ?」
 作業を終えた香月も顔を出した。両腕には、本番でBGMとして使うCDなどを抱えている。衣装に合わせて、多種多様に。
 これで全員揃った。ラフィールが頷く。
「ミスコンの流れと競技について、どのように進行していくかを話していました。あとは、宣伝用のチラシのことなどですね〜」
 具体的な話はこれからだ。ラフィールは引き続き、自身の案を出す。
 ここで皆から出される案のデータは後ほどユナから実行委員などに企画書として渡され、さらに検討されることになる。全てが採用されるとは限らないが、影響を与えることは間違いない。
「競技内容は共通で、和服でのファンション審査、水着審査、特技審査などはどうでしょうか〜。流れの順番は和服、水着、特技の順番で、時間の関係があるなら、特技は削っても問題ないと思います〜」
「ミスターもあってもいいのではないか?」
 男の肉体美とでも言いたげにUNKNOWNは上着を脱ぎ、逆三角形の上半身をアピール。
 さらに男のコンテストとして、服装以外に料理や洗濯等の家事関連や、突発3on3のストリートバスケなども提案する。
「では、男性も参加する場合は交互にするか、女性陣の後にするか‥‥ですね〜」
 ラフィールが頷く。
「男性はアニキとかハッスルとか叫んでるのが、良いのかしら‥‥?」
 香月はCDの山を見つめて思案する。なんかちょっと違う方向性が見えなくもない。
「あとは各種必要な手続きや書類作成に、場所の選定、周辺の視察や、説明会なども必要か? 屋台などがあってもいいかもしれない。楽しいイベントにしたいからね。あとは要塞関係者の若い力を取り込もうか」
 UNKNOWNも次々に案を出す。
「警備についてだが」
 紗夜が挙手した。
「四時間交代制のローテーション、正規軍の兵と、能力者がベストだと思う。万一、キメラでも現れたときには駆逐も行いたい。後は、スポーツドリンクか。乳酸というか疲労を抑える飲み物もいる。それから、梅干も」
 キメラが出ることはないと思うが、必要であることには違いない。兵士と傭兵が共に行動することも、これからアフリカへの侵攻を進めていく上で大切なことだろう。
「‥‥警備って制服で突っ立ってるだけだと、怖いと思うの。だから、キグルミなんてどうかしら。仮装でも良いかもしれないわ」
 香月が呟く。キグルミという言葉に、ユナほわほわと妄想に耽る。
 それから、会場についての意見も出す香月。
 モデルが歩くような、客席に突き出した長いステージ、装飾に花も使いたい。
「照明は‥‥ぴんく? ダメかしら、血色が良さそうよ?」
 そこにアニキ系BGMが加わると違う意味で無敵だ。誰もがちらりとUNKNOWNを見る。
「そんなに私の肉体美を見たいのかね?」
 笑むUNKNOWN。その言葉に、紗夜が待っていたとばかりに立ち上がった。
「脱げ」
 いきなり何を。
「意見も随分出たことだし、そろそろポスターやチラシ用の撮影に入るべきだ。だから、脱げ‥‥っ!」
 そして――冒頭に戻る。

「蝶ネクタイとズボンつけて給仕というのがあるらしい。日本風の遊び心だ、元ネタは英国だがな」
 紗夜は満足げに頷く。ユナは相変わらずパニックのままで、絣に「大丈夫ですよ」と宥められていた。しかし絣からUNKNOWNを威嚇‥‥じゃなくて、警戒するオーラが出まくっているのは言うまでもない。
「カワサキ、ここまでビデオ撮影はできたか?」
「ぇ、あ、ぇと、はい、あの、上半身に集中しました、その」
 下半身は恥ずかしくて撮れなかったんです、と涙目で訴える。
「ケツは?」
「はい、お尻は、その、撮りました」
「よし。‥‥ウッホリする、男の肉体美ってとこか?」
 撮影された内容を早速確認し、引き締まった尻を何度も眺めて満足げな紗夜。もちろんこれも宣伝に使うのだ。他意はない‥‥はず。きっと。
「‥‥ユナ。旅人さんの写真撮影を見学して、男の人に免疫、つけてきたら‥‥?」
 顔を真っ赤にしているユナを見かねて、香月が提案する。
「まだ見なきゃいけないんですかっ!?」
「敵が突然裸になって迫って来るかもしれない。その時の対応のためにも免疫は必要よ」
「‥‥わ、わかりまし‥‥た」
 真顔の香月に気圧され、ユナは思わず頷いてしまう。
「どうしたの〜?」
 そこに、胸元や背中がぐわーーーっと開いた、真紅の水着を着たアメリアが登場した。
「す、すごぃ‥‥」
 胸の谷間に目が釘付けになるユナ。羨ましいらしい。
「準備は整ったみたいですね〜。カメラマンさんの準備もできたようですし、撮影に入りましょうか」
 ラフィールが準備が整った頃を見計らい、皆を撮影用の部屋に誘導した。

「もうちょっと首を傾げてもらえるかなー?」
「こんな感じかな〜?」
「それから、もっと胸を突き出して! 足は、そう、良い感じ!」
「にゃはは〜、流石に少し恥ずかしいかな〜」
 カメラマンの注文に素直に応じるアメリアはセクシーなポーズを取る。しかし胸や脚線美をこれでもかと見せつけるようなポーズでありながら、決して卑猥ではない。健康的な好印象を誰もが持つだろう。
 次は絣と紗夜だ。
 着物の絣には清楚さがにじみ出ている。寄り添うように、紗夜。静かな和の調和が穏やかな雰囲気を醸し出している。この写真を見る者は「伝統美」も感じることだろう。
 そして――旅人は言うまでもない。色んな意味で。
 上半身のみ、全身、見返り、笑顔、そして逆三角形の肉体美。ウッホリ。
 一部男性と、そして奥様方を狙い撃ちだ。これを見れば、きっと男性参加者も色々吹っ切れるに違いない。
「素敵なポスターができそうですね〜」
 ラフィールがモデル達を見て目を細める。
「そういえば心が乙女で体が男性だったり、心が漢で体は女性という人は。‥‥どっちに出場するのかしら。ねぇ、そこの見られたい人はどう思う?」
 香月が素朴な疑問を口にした。見られたい人――UNKNOWNは笑みを崩さずにあっさりと言い放つ。
「吹く風のように‥‥思うがままで、いいのだよ」

 赤のセクシードレス、ハイヒール、メイクやアクセサリーもばっちり。ゴージャスでセクシー、そんでもって華やかさも忘れない。そんなアメリアが要塞周辺でチラシを配る。
 アメリアは人が集まった頃を見計らって音楽を流し、カスタネットを軽快に鳴らしてステップを刻む。
 ――フラメンコだ。
 スカートはアメリアと共に踊るように弾け、時に激しく、時にゆっくりと、曲のテンポに合わせて閃き広がる。
 釣られて踊り出すギャラリーの手を取るのはUNKNOWN。さすがに元の格好に着替えている。ギャラリーを中央に引き寄せ、アメリアと共にフラメンコを。
「ミスコンよろしくだよ〜、出場者募集中だよ〜」
 踊り終えると、アメリアはギャラリーに挨拶をして再度チラシを配り、余韻を促すようにUNKNOWNはバイオリンの生演奏を始める。
 チラシを配る傍ら、警備について一般兵と語る紗夜は突如として鬼教官に変身した。
「一瞬で照準固定して撃つだけの技量は欲しい。撃たねば味方が殺されると思え、侮辱には銃弾を返せ」
 いいか、こうやるんだ――軽くアクションを見せる。しかしそれがギャラリーにウケてしまい、鬼教官はちょっとびっくり。
 袴姿のままだったからパフォーマンスと思われたのだ。もっと見せてくれと、喝采を送られる。
「じゃあ、ちょっとだけ」
 少し照れながら、紗夜は「鬼教官」を繰り返す。
 バイオリンが一段落したころ、和笛が周囲に響き渡った。絣だ。
 先ほどとは一転して和を醸し出すその音色は、絣の着物はもちろんだが、紗夜の袴姿も見事に引き立てる。
 誰もが耳を澄ませ、息を潜め、この遠いアフリカの地に響く日本の情緒を堪能する。
「チラシ、足りなくなってきましたね〜」
「‥‥もう少し印刷してもらったほうがいいかしら」
 ラフィールと香月はチラシの残り枚数を確認した。思いのほか反響が大きく、あっという間に減ってしまったのだ。
「じゃあ私、お願いしてきます!」
 ユナが挙手し、笑顔で要塞方面へと駆けていく。
「本番がうまくいって‥‥少しでも要塞に関わる方達の気晴らしのお手伝いができるといいですね」
「‥‥そうね、香月もそう思うわ。‥‥ユナを追ったほうがいいかしら。きっと、抱えきれないくらい印刷してもらってくると思うの」
 香月とラフィールは頷きあい、ユナの背を追いかける。
 その直後、ユナが躓いて派手に転んだ。
 香月が、ラフィールが。絣や紗夜、アメリアやUNKNOWNが。そしてギャラリー達が。恥ずかしそうに立ち上がるユナを見て、思わず笑みを零す。
「‥‥本番もこうして、誰もが穏やかに笑えますように――」
 ユナは擦りむけた膝をさすり、要塞へと再び駆けだした。