タイトル:【RAL】Square Skyマスター:佐伯ますみ

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/30 01:40

●オープニング本文



 モロッコの最東端にある都市、ウジダ――。
 その都市は、アルジェリアとの国境にほど近い位置にある。モロッコ東部の中心都市と言ってもよく、オリーブなどの農耕や貿易も盛んな街だ。
 しかしそれはバグアによる支配を受ける前の話であり、今は見る影もない。
 ウジダは北方に空港を抱えており、そこには各種ワームの格納庫らしきものがアルジェリア側から確認されている。また、その空港で活動するバグアの姿もあり、拠点となっていることは間違いなさそうだった。もっとも、拠点としての規模は大きくない。小型のHW二機が上空で哨戒に当たっている以外、これといって目立つような動きは報告されていなかった。
 しかしここにきて、この小さな拠点への戦力増強の動きが見られ始めており、国境にほど近いウジダでの動きが本格化するのは阻止したいところだ。
 そのためには現段階で空港を攻略し、解放しておく必要があるだろう。そして、街の攻略も必要となることも。
 そこで空港を開放し、そこを簡易拠点としてウジダへと侵攻をかけていくことになった。そして空港攻略作戦が進められる影で、同時にウジダ侵攻作戦も進められていく。

 ウジダの街に潜入調査をした者達からは、空に展開するワームや大型の翼竜キメラなどの報告がされている。陸――市街地「だった」界隈では、明らかに洗脳されていると思われる住民達の姿と、獅子型キメラの群れ。それから、ヨリシロか強化人間と思われる人間達の姿が目撃されている。ワームの類はなさそうだ。
 もちろん、洗脳されてはいないだろうが、バグアの脅威に晒されて従わざるを得なくなっている住民達も少なくはない。 空港に運び込まれる物資は、そうやって使役されていると思われる者達がウジダの街から運んでいるらしいことも明らかになっている。
 指示を出しているのはヨリシロか強化人間かはわからないが、人型の存在だ。そういった点から、ウジダは競合地域とは言え、明らかにバグア側の勢力が強い街だということが窺えた。

 指示を出している「人型の存在」、それは三十代ほどの男性と、二十代半ばと思われる男性のふたりだ。
 ふたりともその容姿、及び名前等についてはUPC側に記録されている。
 三十代の男はエドワード・バート。常にプロトスクエアのヴィクトリアの近くに控える男だ。そして二十代半ばの男は「イーノス」と呼ばれており、ゾディアック双子座と共に行動している姿が確認されていた。
 だが、今回はどこにもヴィクトリアとユカ・ユーティライネンの姿はない。彼等がそれぞれに独立して動いていると思われる。ヨリシロであるのか、強化人間であるのか、それは未だに不明だが――戦闘力の高さは既に明らかになっており、彼等がウジダの「指揮」を執っているのであれば攻略も一筋縄ではいかなさそうだ。
 陸でエドワードが目撃されているため、空を制するのはイーノスと思われる。しかし、イーノスが搭乗するワームについての確定的な情報はない。
 タロスに搭乗するのを見た者もいれば、HWだという者もいる。それから、KV――しかも数種の――に搭乗しているという情報もあった。いずれもその機動・性能は高いと思われ、脅威であるのは間違いだろう。
 ウジダの街でどのような戦略が展開されるのか読み取ることはできないが、心してかかる必要がありそうだ。
 空港攻略がどのような結果に終わるか。それによって市街侵攻への影響があるだろうが、退くわけにはいかない。
 侵攻部隊は静かに準備を進めながら、空港での作戦が終わるのを待っている。
 ――そこには当然のように、アレクサンドラ・リイの姿もあった。
「妹」であるヴィクトリアを追っているという名目もあるが、しかしアフリカを取り戻して復興したいという思いは元から抱き続けているものだ。
 もしこの戦場にエドワードがいなくとも、自ら志願して侵攻部隊に入ったに違いない。
「アフリカに色を‥‥取り戻す」
 その気持ちは今も変わらない。ひとりごち、空を見上げた。


「あのふわふわしたお嬢様はどうした、エドワード」
「そういうイーノスこそ、あの少年はどうしたのですか」
 イーノスとエドワードは視線を交わすことなく談笑する。ユカ・ユーティライネンとヴィクトリア――「主」である存在から解放されたふたりは、羽を伸ばすように紫煙をくゆらせていた。
 彼等は前から交友があるわけではなく、このアフリカで知り合った程度だ。もっとも、互いに気むずかしい「主」を持つということで、それなりに気が合ってはいるようだが。
「‥‥ま、たまには羽を伸ばしたいよな」
「同感です。護衛対象がないと派手に暴れることができますから‥‥少しは楽しめるでしょうか」
「相手にもよるんじゃねぇか?」
「相手‥‥か」
「ふわふわしたお嬢様はいないが、あのきついお嬢様は来るんじゃないか? お前がいるなら」
「サーシャ様ですか。どうでしょうね。‥‥まあ、誰が来ようと手加減はしませんが」
「当然だ。‥‥空港、落ちると思うか?」
「相手にもよるんじゃありませんか?」
「まったくだ。ま、俺たちはひとつの駒でしかないだろうがな。そしてこの街も。ユカやヴィクトリアにとっては、四角く区切った沢山のパーツのひとつでしかないんだろう」
「その中で踊るのも、楽しいもんですよ」
 ふたりはくつくつと笑み、空に昇っていく紫煙をいつまでも目で追い続けた。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
二条 更紗(gb1862
17歳・♀・HD
ドッグ・ラブラード(gb2486
18歳・♂・ST
ジン・レイカー(gb5813
19歳・♂・AA
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA

●リプレイ本文

「これでいいか?」
「ほっぺちゅー! 勝利のオマジナイ、ありがと!」
 アレクサンドラ・リイは唇をそっと離す。嬉しそうに笑うのは、夢守 ルキア(gb9436)だ。
「まあ、これなら問題ない」
 UNKNOWN(ga4276)は空港の状態を見渡しながら、K−111改『UNKNOWN』に搭乗する。
 ウジダの空港は充分に拠点として機能していた。先の空港攻略戦における損傷はほとんどない。この様子なら、空港が改めて襲撃されることもないだろう。
 離陸するUNKNOWN機に続くように、ルキアの骸龍『イクシオン』も空へと向かう。飯島 修司(ga7951)も搭乗準備を始めた。
「前は余りお役に立てませんでしたからね。お詫びも兼ねて、気合いを入れていきますよ」
「いや、充分に助けてもらった。ありがとう。その後、傷は?」
「この通り、元気ですよ」
 修司はリイへと軽く手を振り、ディアブロに搭乗していく。そして、静かに離陸する。
 KV達が空に吸い込まれていく様を、リイはじっと見送っていた。

 物理特化三、知覚特化二、電子戦機一という編成の十隊が、ルキア機と管制連携を遂げる。
「――黒がいいと思うものは右方向、紫は左方向、白と思う者は中央から、だ」
 KV達を誘導するのは、UNKNOWNの真面目な声。右に三、左に三、中央に四。何の色なのかは、敢えて書かないが。
「功労者には、軍曹のちゅーがあるらしい、ぞ。だが、一人で走る者や僚機と協力し合わない者は、縛られるらしい」
 男性パイロットのみに伝えられる通信には、どよめきが返ってくる。
「じゃあ、まず大型ワームトカ探そうか。倒せる分はそこで倒しちゃって。指揮官クラスは、ラージフレアと照明弾撃ってお知らせね!」
 ルキアの言葉に、全隊が円を描き始める。
「夢見が悪かったものでしてね。少々、鬱憤晴らしに付き合って頂きますよ?」
 敵機の最も多い空域へと吶喊をかける修司機が空を裂く音は、まるで鬨の声だ。後方に続くKV達はワゴン・ホイールで死角を打ち消しながら狙撃を開始した。

「あの娘さんは何を考えているのか」
 ドッグ・ラブラード(gb2486)は、ヴィクトリアの気配がない街に言葉を投げかける。犬――エドワードをここに置いて、どこで何をしているのだろう。
「まずはエドワードを捜しますか。舵取りがいなくなれば後は有象無象と同じでしょう」
 二条 更紗(gb1862)は言う。だが、そこかしこに「指揮」を取っている強化人間がいるのが若干気にかかる。
 杠葉 凛生(gb6638)は、これから進もうとする方角をじっと見据える。
 かつてこの街がどのような様相だったのか想像すらつかない。だが、ともすれば友もここにいたのかもしれない。
 このような「故郷」を目にする友――ムーグ・リード(gc0402)の胸中を計り知ることはできなかった。だからこそ、凛生の胸中にはバグアへの憎悪と、アフリカ解放への想いが強まっていく。
「荒涼‥‥コレモ、今ノ、アフリカ‥‥」
 呟くムーグ。人の鼓動が一切見当たらない瓦礫の連なりに、地獄という言葉が相応しい景色に、悔恨と怒りで胸を灼く熱き吐息が震える。
「‥‥始メ、マショウ」
「さて、と。それじゃあ、頑張ろうかな。やっぱり、やるからには絶対に解放しないとね」
 ムーグに呼応するようにジン・レイカー(gb5813)が頷き、空を仰ぐ。既に空戦部隊は戦闘を開始していた。

 円を崩そうと、上空から翼を畳んだ翼竜達がKV達へと「墜落」し、ルキア機と行動する一隊は翻弄する。そこに、HWの編隊までもが絡みつく。
「UNセンセ、修司君、ワーム発見! 私が囮になるから、ヨロシク」
 ルキアはそう告げ、振り切るようにブーストをかけた。隊列を離れたルキア機に敵の意識が向く。
 急上昇、急降下、高度を変化させて敵を回避するルキア機。墜落してくるキメラ達の衝撃に機体がぶれるが、耐えきった。直後、HW群へと降り注ぐUNKNOWN機のK−02。それを免れた敵機には、修司機が「置いた」、D−02がのめり込む。
「‥‥足りませんな。これでは足りませんな」
 五機撃墜し、修司が呟く。そしてまた、狙撃する。上方にあるUNKNOWN機は翼でキメラを裂き、ワームを抉り、風のように駆け抜ける。
 群れは分散し、連携するより先に砲撃を一斉に四方へと放つ。しかしKV達はラージフレアを展開して待ち構えた。

 陸戦班はエドを捜して駆ける。
 獅子キメラは実際のライオンより二回りほど大きい。凛生の探査の眼による警戒で、これまで強襲は回避できている。
「数が‥‥多い」
 更紗は閃光手榴弾を用意した。進行方向には「人間」があまりにも多い。
 放たれた閃光手榴弾が、不意を突く。強化人間達は視界を奪われながらも次の行動に移り、それ以外の存在は完全に立ちつくしてしまう。
「ここ、お任せできますかね?」
 ドッグが同行している十五名ほどの部隊に願えば、彼等はすぐに「保護」を開始した。そして再び、先へと進む。
 死角の多い瓦礫の街は、作戦開始前の調査と大きく異なる様子はない。拠点的な建物もなく、大きな罠や爆発物が仕掛けられている気配もない。キメラ達は順調に斃され、制圧の過程で設定された安全区域には、保護した者達を向かわせる。
「何もなさすぎるし、順調すぎるな」
 ジンが言う。
「拠点がないというのも解せない」
 凛生が頷く。
「‥‥この街そのものが罠かもしれんな」
 そして、リイが呟いた。
 ここはアルジェリアとの国境に近い。まだモロッコの奥には何があるかわからない。ここで人類側の勢力を少しでも削ろうというのか。
「‥‥『彼』ヲ‥‥ココ、デ、殺シテ‥‥良い、ノ、デショウ、カ」
 ムーグは隣にいる凛生に問う。
 エドは倒すべき敵のひとりであり、リイ姉妹に関係の深い人物だ。必要なのは鉄の覚悟だけだということも理解している。
「‥‥それが人とバグアの運命だ」
 凛生は静かに言う。全てを掴むことなどできやしない。真に守りたいものは、ひとつだけなのだ。
「好きにすればいい」
 リイが言葉を紡ぐ。ムーグはハッとし、眉を寄せた。
「私ニハ、貴女、ガ‥‥ワカラ、ナイ」
 ――リイは力を求めた。その結果は、先日の『妹』達との一幕。在りし日に未練があるのではないだろうか。
 しかし一切の未練が灰燼に帰した自分には、わからない。
「‥‥貴女ニ、彼ガ」
 殺せるのか――。
 揺さぶられるくらいなら、自分が。
 ムーグの目はそう語る。それは凛生も同じようで、じっと二人を見守っている。
 上辺は平静に見えるが、リイに不安定さを感じているのは事実だ。エドが強化人間であったならば、彼女は躊躇なく戦うことができるのだろうか。
 だが、その懸念はリイの言葉で一蹴される。
「愚問だな」
 リイは妹の写真が入ったロケットを外すと、そこらへと投げ捨ててしまった。
「‥‥リイ、サン」
「私は未練も何も抱いてはいない。誰に何と思われようとも」
 リイがそう告げた時、凛生が何かに反応する。それに応じ、ドッグが混元傘を開いて駆けだした。
 積まれた瓦礫を駆け上がり、向こう側へとダイブ。
「これでも喰らいな!」
 そして放つ、錬成弱体。しかし回避されてしまう。
「一筋縄じゃあいかんよな」
「当然ですとも」
 苦笑するドッグ、見覚えのある笑顔。
「エドワード!」
 ドッグの後を追ってきた者達が叫び、直後、息を呑んだ。
 エドは体長五メートルほどの巨大な獅子に護衛されており、周囲にもほぼ同サイズの獅子が数体と、強化人間達が待機していた。ドッグは一旦後退し、エドを見据える。
「どうも、あんたもヴィクトリアさんも嫌いになれなくてね。‥‥お引き取り願えないかい?」
 無駄だとはわかってはいる。当然のように、エドは首を横に振った。
 敵の数が多い。気がつけば獅子たちが周囲を取り囲み始め、強化人間と共に攻撃のタイミングを計り始めた。
「圧倒的ニ、不利‥‥DEATH」
 ムーグは応援要請の照明銃を空へと放つ。
「私に対する策が薄かったようですね。私も‥‥甘く見られたものです」
 エドワードが、笑みを消した。

 ワーム群も、キメラ群も、確実にその数は減少していた。殲滅にはまだ時間がかかるだろうが、人類側が優勢であることは確かだ。
 照明弾が東方で放たれる。同時に座標がルキア機に伝えられ、アルゴスシステムで情報を統合し、僚機へと通達される。そのままルキア機、UNKNOWN機、修司機は問題の座標へと。
 そして三機はほぼ同時に――赤黒いタロスと遭遇した。
 修司が状況を確認する。街からも空港からも離れているようだ。タロスは行動を開始しようとしないところから、イーノスに間違いないだろう。
「吸血鬼は鏡に映らないそうですが、悪魔はどうなんでしょうね? ‥‥とりあえず、検証してみましょうか」
 ルキア機のD−013、修司機のD−02がほぼ同時に放たれる。果たして敵機はどう動くのか。
 タロスはD−013を右肩で受け止め、敢えて外されたD−02を静かに見送る。そしてフェザー砲を、二度。ルキア機の下方を抜け、修司機の右翼を掠める。
「似て非なる攻撃だ」
 UNKNOWNが冷静に判断する。同様の攻撃を返してくるが、ダメージを与える相手を選定しているようだ。必要であれば回避もするだろう。
「‥‥お前は、何色が好きかね?」
 その言葉が終わる前に高空から放たれるエニセイ、再度、今度は正面から修司機のD−02。交差するのはやはりフェザー砲で、回避する二機の動きを見極める。
 他部隊が、ブーストでタロスの背後を取った。しかしそれは敵側も同じで、徐々にHW達が集まりつつある。
「ん、数で圧そうか」
 ルキア機が後衛から放つD−013は、死角を突いてタロスの腹部に着弾、若干体勢を崩したタロスへと雪崩れ込む僚機の砲撃。だが、それらを受け止めるのはHW群だ。
 タロスはその隙にダメージからの回復を図る。
「弱点もわかりにくいなぁ」
 ルキアが溜息を漏らす。嫌になるほど淡々とした戦闘に必要なのは、根気と燃料だろう。
「しかしそろそろ、尽きる頃でしょう」
 パニッシュメント・フォースを乗せた修司機のエニセイが、タロスへとぶち込まれていく。この一撃で落ちなくとも、回復に燃料を消費するはずだ。先ほどからの回復回数を見る限りでは――。
「そろそろ燃料切れ、かね」
 頷くUNKNOWN。その言葉の通りに、タロスはゆるやかに退避を図る。そこに追いすがろうとKV達が動くが、タロスの盾になるようにHW群の壁が滑り込む。
 直後、タロスは加速すると、他の空域にいるワームやキメラ達を従えて飛び去っていく。
「空を放棄したようですね」
 修司機が目を細め、その方角を見やる。
「じゃあ、目の前の壁だけどうにかしよっか」
 ルキアが言うと、壁が一気に迫ってきた。
「まあ、それほど時間はかからんだろう」
 UNKNOWNは修司、ルキアと共に愛機をHW群へと滑り込ませた。

「蒼炎にその身を焦がし燃え尽きろ」
 更紗が龍の翼で間合いを詰め、ユビルスにて強化人間を突く。一人、また一人と、垣根のように連なる敵へと。回避する敵にジンが獅子牡丹を側面から入れれば、敵は再び更紗の眼前へ。そこに、再び突きが入る。
 援護に入る獅子に体勢を変えたジンの逆袈裟斬り、だが獅子の爪もジンを抉る。それを活性化で癒しながらジンは獅子牡丹を振るう。リイも刀身を滑らせて攻撃の手を休めない。
 エドまで、遠い。獅子は牙を容赦なく剥き、強化人間の刃がそこに追従する。
 ドッグの錬成治療がなければ、応援が着く前に何人かは戦闘不能になっていただろう。どうにか強化人間を二人と獅子を三体、戦闘不能にした時、応援の部隊が駆けつけた。
 応援の者達が獅子や強化人間達と対峙するのを確認すると、皆はエドに視線を向ける。
「あんたが指揮官か? ‥‥なら、お相手願おうか」
 ジンが言う。
「溜まった鬱憤、その首討ち取ることで晴らせてもらう」
 盾を構えた更紗が、低い姿勢で駆ける。
「委細構わず突貫、刺し、穿ち、貫け!」
 猛火の赤龍を乗せたユビルスが、下段から突き上げるようにしてエドの腹部へと吸い込まれていく――が、エドはその柄を掴んで横に滑り、回避。更紗の脇を抜けたジンの刃さえも。
「ひはっ、やるねぇ。じゃ、これでどうだッ!」
 ジンはすぐにソニックブームを乗せた袈裟斬り、逆袈裟斬りと連続で入れる。
 左肩を抉られたエドは動じない。その時、右脇にムーグが入り込んだ。
「おや、あなたですか」
 エドが笑む。その隙に背後に凛生が回り、ジンが抉った左肩にケルベロスで一発。さらに撃ち込もうとした時、エドが振り返る。
「撃っても構いませんが、彼女に当たりますよ?」
「はな、せ‥‥っ」
 更紗だ。柄を掴んだ直後、更紗の腕をも掴んでいたのだ。その様子に、凛生は動けない。
 だがムーグにとっては好機となった。混元傘でエドを上方へと突き上げ、限界を超えた力を放つケルベロスで骨盤を狙撃する。その衝撃で、更紗は解放された。
「‥‥祈リト、別れハ、要りマス、カ」
 地に落ちたエドワードに再び銃口を向けるムーグ。血を流すエドはしかし、短刀を舞わせて立ち上がる。短刀はムーグの左胸近くに埋まり、背後にいる凛生へと重い回り蹴りを放つ。ケルベロスを奪うと、凛生の利き足へ一発撃ち込んで捨てる。
「その身体で動けるのか‥‥っ」
 構えるジンと更紗とリイ、しかし彼等にも回し蹴りは薙ぎ入れられ、後方へと吹き飛ばされた。すぐにドッグが動く。ジンは自分で回復をしている。一瞬でも遅れれば致命傷になるのはムーグ。ドッグはまず彼へと治療を開始した。
「ヴィクトリア様がいないと、自由でいい」
 エドはくつくつと笑いながら、倒れている者達を見下ろす。その時、空に展開していたワームやキメラ達が一斉に退却を始めた。
「‥‥空は、負けたのか」
 エドは空を仰ぐ。イーノスのタロスは生きている。これ以上の戦闘は不利だと判断し、敗北を認めたのだろう。KV達が次々にスペースを見つけては着陸し、陸戦部隊の援護にまわる。
「この状況、この傷で、続けるのはきつい‥‥か。仕方ありません、この街は差し上げましょう。ですが、納得のいかない部下達が勝手にここを攻撃するかもしれませんが」
 地上は――まだ、完全制圧させないという意味の言葉を残して、エドは速やかに部隊を連れて去っていく。
 それから少しして空戦班が駆けつけた時、皆の応急的な治療は終わっていた。ドッグの早い治療で誰もが重体を免れたが――しかし、その表情は重い。
「なにがあったの、リイ君」
 ルキアが問う。しかしリイは首を横に振るだけだ。
「‥‥エドワード、ですか」
 修司は戦闘の悲惨さを窺わせる血痕に眉を寄せる。
「さて、次はどうする? リィ」
 UNKNOWNは愛機の冷蔵庫から持ってきた冷えた飲み物を、リイの頬に押しつける。
「再戦‥‥だろう。次こそは、完全なるウジダ攻略を」
 ――まだ、ウジダの空を手に入れただけにすぎなかった。