タイトル:桜の下の恐怖。マスター:蓮華・水無月

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/29 16:00

●オープニング本文


 そこは、ラストホープ内に幾つかある幼稚園の1つである。『お受験』とやらが必要な特別な幼稚園なんかじゃない、ごく普通の幼稚園だ。
 そこに彼女、フリーデリカ・シュナイプは通っている。当年とって5歳、もうすぐ6歳。物心着いた頃には両親がなく、たった1人の兄と共にラストホープにやって来たのだというけれど、まだ小さなフリーデリカにはその辺りは良く判らない。
 彼女、フリーデリカの世界はだから、物心着いた頃から暮らしている施設と、時々遊びに来てくれる兄と、それからこの幼稚園だけで。そのどれもがとっても大好きだから、今日もフリーデリカはご機嫌のにこにこ笑顔でお弁当をパカッと開ける。

「フリーデリカちゃんのお弁当、おいしそう」
「施設のママがつくってくれたの。ゆみちゃんのお弁当もおいしそうだよ」

 いつもは幼稚園で給食が出るけれど、今日はお弁当の日なのでフリーデリカも、友達たちも皆わくわく気分だ。だって今日は特別な日、桜がとっても綺麗に咲いたから皆でお弁当を持って遠足に行きましょうと、幼稚園の先生が言ったから。
 幼稚園から皆で列を組んで歩いて、近くの公園まで来て、桜の下でみんなでお弁当を食べて。いつもと違うことが一杯で、皆わくわく楽しそう。
 時々桜に気をとられたり、おかずをとっかえっこしたりして、わいわい楽しくお弁当を食べていた子供達は、だがおかしな事に気がついた。桜の木の傍に居る洋子先生が、ことん、と眠ってしまっているのだ。

「あれ?」
「よーこせんせー、お昼寝?」
「あら‥‥先生が見てくるわね。洋子先生、どうしたんですか‥‥きゃッ!? 毛虫!?」

 子供達の疑問の声を聞いて、美香先生が洋子先生の傍に行った。傍に行って、洋子先生の首筋辺りにもぞりと動く虫に気付いて悲鳴を上げて。
 だがその美香先生も、ポトリ、と上から落ちてきた毛虫にちくりと刺されて、ぱたりと倒れてしまう。美香先生、とびっくりして駆け寄った子供が揺すっても、安らかな寝息を立てるばかり。
 ざわり、と子供達と、先生達の間に動揺が走った。だがそうしている間にも、桜の木からぼとぼとぼとと落ちてきた毛虫が樹下の人々を刺しては昏倒させていく。
 そうしてやがて、そこには動く人は居なくなり。
 遅くなっても誰も帰ってこないことに不審を覚えた幼稚園の園長先生が、昏々と眠り続ける子供達と先生達を見つけて、悲鳴を上げたのだった。





 不自然な眠りに落ちた妹フリーデリカが病院に運ばれたと妹が暮らす施設から連絡を受けた、兄ウィリアムが険しい顔で現場に向かって走り出したのは、それからすぐの事である。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
真白(gb1648
16歳・♀・SN
ミルファリア・クラウソナス(gb4229
21歳・♀・PN
カタリーナ・フィリオ(gb6086
29歳・♀・GD
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
黒木・正宗(gc0803
27歳・♂・GD

●リプレイ本文

 公園の桜は華やかに、美しく咲き誇っていた。所々には人口芝生も敷きこまれ、人間が歩いても桜の根を傷つけないように、それでいて舞い散る桜を楽しみながら一時を過ごせるように配慮されている。
 けれども、今、その美しい桜の下には誰も居ない。入口にかけられた『KEEP OUT』のテープと、人が入らぬように警戒している無骨な男達がさらに、その景観を台無しにしている。

「わざわざこんな綺麗な桜にキメラを規制させるなんて‥‥雅じゃありませんわね。バグアには綺麗なものを愛でるという感情はないのですかしら?」
「ええ、まったく。春服の出番と思いきや、毛虫キメラ、ね‥‥この屈辱、晴らさずしておくべきか、ですわ」

 どこか苛立った様な息を吐き、カタリーナ・フィリオ(gb6086)が呟いたのは、だから当然かもしれない。こっくり頷いたメシア・ローザリア(gb6467)が浮かべる美しくも凄絶な笑みも、事情を思えば無理からぬことで。
 何より出たキメラがいけない、と寒くはないのに腕の辺りをさする真白(gb1648)である。出来れば名前を出すのも避けたいようなそのキメラの事を、想像しようとしただけでもゾクゾクと這い上がるってくるような感覚があった。
 ソレ――毛虫キメラ。ただの毛虫でも嫌なのに、よりによってキメラ。作成したバグアに美的感覚はなかったかも知れないが、人間の精神的苦痛の何たるかという所は十分把握していたようだ。
 ゆえにもう一度念入りに自分の装いを確認し、真白は涙目で呟く。

「うぅ‥‥っ。気持ち悪い!」
「だが、子供達が襲われた、とあっちゃぁ、仮面のヒーローとしちゃぁ放っとけないからな」

 そんな真白の頭をあやすようにぽふぽふ叩き、黒川丈一朗(ga0776)が苦笑った。だが口調は真剣そのものだ――何しろ今回の被害者は幼稚園児。年端も行かない子供達が襲われ、今も病院で眠っているという。
 そんな話を聞けば放っては置けない。丈一郎の言葉に赤木・総一郎(gc0803)も深く頷いた。頷き、見やった先に居るのは蒼褪めた顔のウィリアム。被害者の1人が、彼の最愛の妹だったという。

「‥‥妹が眠ったままか。不安だろうな‥‥」
「ふむ‥‥妹さんはフリーデリカというのかね、家族は護らなければね‥‥」

 ドクター・ウェスト(ga0241)も常とは違い、どこか寂しげな様子で頷いた。よく似た名の亡き妹の事を思い出す。十字架もないのに感傷的な気分になったのは、同じ兄という立場だからか。
 けれどもそこにキメラが居て、キメラに苦しめられる人が居る。そこに立った能力者が為すべき事はただ1つ。

「さて、毒の分析の為にもサンプルを採取してこよう〜」
「ああ‥‥仕事は確実にこなそう」
「まぁ、わたくしにとっては紋章の薔薇を食む害虫、それだけですわ。仕置きは華麗に、優雅に、そして強烈に参りましょう」

 頷きあったドクターと総一郎の言葉に、名の如く艶やかに微笑むメシアが、確実に潰して見せますわ、と踵で地面を強く擦った。文字通りの意味で潰す気満々の様だ。
 傭兵達の厳しい視線を一身に受けて、だが恐るべきキメラを秘める桜の木はただ華やかに、儚き春の日差しの中でそよいでいた。





 まず用意したのは、大量の桜チップだった。FFに守られているキメラと言えども、単純に息が出来なければ死に至る。とは言えそう簡単に無酸素状態が作れるはずもない。
 ゆえに桜チップだ――つまり、燻してキメラを呼吸困難状態にする為の。

「桜チップで桜を燻す‥‥妙な話ですよね‥‥」
「せっかくの花ですもの。守りきるのが雅という物ですわね」

 目的の桜から風上に当たる場所でざらりとチップを取り出し、火を点けながらミルファリア・クラウソナス(gb4229)がしみじみ呟いた言葉遊びのような言葉に、カタリーナが応じた。一見回りくどく見える作戦は、効率よくキメラを燻し出すという以上に、キメラを排除するに当たって桜を傷つけないように、という配慮だ。
 周囲はキメラを逃がさぬよう、目の細かい網、簡単に言えば蚊帳のようなものでぐるりと覆った。後は防備を固めて毛虫キメラが燻し出されるのを待つだけ――なのだがしかし、今すぐにでも桜の木を切り倒せば良いのに、と言わんばかりの形相でジリジリしている少年が1人。
 その様子に、はぁ、と真白がため息を吐いた。吐いて、ぎゅっ、と少年ウィリアムのほっぺたを軽くつねり上げる。

「もぅ、妹さんが心配なのも分かりますけど、焦ってたら何も出来ませんよ! こんな時こそ冷静に対処しないと!」
「ぁ‥‥すみません、真白さん‥‥」

 つねられたウィリアムはわずかに瞳を泳がせた。そうして素直に頭を下げた少年に、よし、と大きく真白は頷き、手に持っていた火鉢と桜チップをはい、と渡す。真白も別方向から桜の木を燻しにかかるつもりだ。
 一緒に行きましょう、と言いながら手早く髪を一つにまとめれば、そこにいるのは毛虫に涙目の愛らしい少女ではなく、真剣な顔つきの1人の能力者だ。ウィリアムもAU−KVを装着する。
 少し離れた場所にはドクターとメシアが仕掛けた罠。軽く掘った穴の中に、キメラと言えども毛虫ならば匂いに惹かれる事もあるだろうか、と香水を染み込ませたハンカチを放り込んであった。

「ふむ、良い匂いだね〜。さて、コレで誘われてくれるかね〜?」
「害虫風情には勿体無いものですけれど」

 くんくんと鼻を動かすドクターの言葉に、メシアは肩をすくめる。そうして、穴の中から漂う香りにせめて癒されたいものだ、と思う。
 やがて辺りに、ジリジリ燃え始めたチップから立ち上る白色の煙と、木が燃える独特の匂いが漂い始めた。それに紛れて香水の匂いが届かなくなるが、毛虫キメラの嗅覚はどうだろうか。
 どちからでも上手くいってくれれば良いが、と丈一郎は少し離れた場所にある消火栓をちらりと目の端に留めながら考える。それには消防署から『キメラ退治のために』と借りてきた消火水用ホースが取り付けられていて、いつでも放水可能な状態になっていた。

(出来れば使いたくないんだがな‥‥)

 消火栓からの放水は水圧が強く、加減が効き難い。老朽化した木造家屋なら、場合によっては水圧で建物が崩壊する事もある。それをまともに向ければ、満開の桜がどうなるかは想像するまでもないわけで。
 丈一朗自身としても、ドクターや他の桜を想う仲間達の気持ちを考えても、その最終手段は避けたい。ゆえに祈るように白くけぶる桜を見つめる、能力者達の願いが通じたのだろうか。
 ぼとり、と何かが落ちた音がした、気がした。それは、考えてみればとても奇妙なことだ。本物の毛虫ならば幾ら重くとも、そして幾ら能力者たちが耳が痛くなるほどの沈黙で息を呑んで待っていたとしても、辺りに聞こえるほどの音を放つわけがない。
 けれども能力者たちには確かに、その微かな音が辺りに響き渡った、と思えたのだ。

「‥‥来たか」
「けひゃひゃ、上手くいったようだね〜」

 むっつり押し黙ってその瞬間を待っていた総一郎の言葉に、はしゃいだようなドクターの言葉が被さった。その間にもぼとり、ぼと、ぼととっ、と毛虫が落ちているらしい音が続いている。
 やがて、桜チップの煙が薄れた地上付近に、醜い毛むくじゃらの体を蠕動させる毛虫の姿が見え始めた。だがしかし、香水を仕掛けた穴へ向かってくる気配はない。
 ならば。

「やはり、一匹ずつ潰していくしかないようですわね」
「だが、落ちてきてくれたのはありがたい」

 バトルブックを構えて気合を奮い立たせるカタリーナに、一歩前に進み出て自動小銃をジャキッと構えた総一郎がキメラに狙いを定めながら言った。もし落ちてこなければ、消防署までひとっ走りして長い梯子か脚立を借り受け、ひたすら地道に木を確認していかなければならない所だった。
 向けられた殺意に気付くほど高度な知能を持っているとは思えなかったが、その瞬間、確かに毛虫キメラの動きが変わる。ただ蠕動し、のたうっているだけの状態から、例えて言うなら何かに狙いを定め、動き出す一歩前の為のような状態へ。
 何か――それが、能力者であることは最早、疑うべくもない。ふ、とダンディに笑んだ丈一朗が手にしたヘルメットを天高く投げた。次の瞬間着ていたコートを脱ぎ捨てて、落ちてきたヘルメットを被る動作で覚醒を促す。
 仮面のヒーローを自ら名乗る彼が桜の木に向かって走り出したのと、同時に風上からミルファリアも動いていた。手には抜き放った剣。外套はしっかり着込んでいるけれども、万一隙間から侵入されないとも限らないから、ミルファリアは疾風で自身の動きを加速させる。
 毛虫キメラが、まるで迎え撃つように動いた。見た目からは想像も出来ない俊敏な動きで、文字通り跳ねるように一直線に飛び出してきた毛虫を、寸での所で丈一朗が叩き落した。そこに、即座に総一郎が自動小銃の引き金を引く。

「出来るだけ一箇所にまとめましょう! ウィリアムさん、煙の方お願いしますね!」

 火鉢にパタパタ風を送るウィリアムにそう言い置いて、真白は自らも戦いに加わるべく走り出した。解りました、と背中に返ってくる声を聞きながら、毛虫を処理するのにもっとも有効な射線を考え、位置を取る。
 戦闘速度で動き始めた100匹近い毛虫キメラとの、気の遠くなるような戦いが始まった。

「わたくしの足元にひれ伏するがよろしいわ!」
「全く‥‥、これだけ数が多いですと、どれだけ弱くても倒すのに一苦労ですわね」
「まったく、罠にかからなかったのが悔やまれるが。啄ばめ白鴉〜!」
「毛虫って‥‥斬新な色してますよね‥‥特に体液とか‥‥」
「そんな事言われたら直視出来なくなるじゃないか!」
「と言いながら殴るんだな‥‥」
「左から追い込みますね!」

 動きが早く、毒毛が要注意の毛虫キメラは、だがそれ以外の攻撃手段を持たないようだった。ゆえに最初こそそんな風に、声を掛け合い、やがて慣れてくると時にブラックジョーク(?)も織り交ぜながら、ひたすら潰し、払い、うち、叩き、突き刺し、殴り、また潰して回った能力者である。
 だがしかし、やがて時が進み、毛虫キメラの死骸が増え、さらにぼたぼたと樹上から毛虫キメラが能力者目掛けて降って来ると、次第にそんな会話も絶えていく。油断しているわけではないが、ひたすら襲ってくる毛虫キメラに段々、目が虚ろになってきたように見えたのは錯覚だろうか。
 ズドドドド‥‥ッ!
 グシャッ!
 ザスッ!
 ベチャッ!
 ブゥ‥‥ン!
 ターンッ!
 やがて辺りに響くのはそんな、能力者達が毛虫キメラを処理する武器や拳の音と、ズザザザザッ、と毛虫キメラに刺されぬように素早く動く音、そして時折漏れる裂ぱくや声掛けのみとなり。やがてウィリアムがもうそろそろかと煙に見切りをつけて応援に駆けつけた頃には、文字通り見渡す限りの毛虫キメラの死骸の中で戦う、能力者達の姿がそこにあった。
 僕も手伝います、と短く告げて加わったウィリアムも、やがてあまりの数の多さにヒクリと唇の端を引きつらせる。
 だが生憎、まだまだ毛虫キメラは能力者を狙って駆け回っており、そしてこの公園に桜の木はまだ数本存在するのであった。





 戦いは、主に時間と忍耐という意味で長く続いた。100匹近い毛虫をひたすら、ぷちぷち、ぶちり、べちゃ、どぐしゃっ、と潰して回った能力者達が、最後の1匹を潰したのはそろそろ、日も傾こうという頃合いで。

「つ、疲れた‥‥」
「体力的に、と言うよりは‥‥精神的に、だな‥‥」

 濃い疲労を顔面に張り付かせて頷き合う丈一郎と総一郎。一般人より遙かに体力と膂力は兼ね備えている彼らも、精神的な疲労ばかりは如何ともしがたい。
 向こうの方ではドクターが、キメラ捕獲ケースを前に「Nooo! ‥‥やっぱり無理か〜」と頭を抱えてがっくりうずくまっている。キメラ捕獲を夢みる(?)ドクター、何度か生け捕りを試みたのだが、敵襲撃と認識した毛虫キメラは簡単に掴めるものではなかったらしい。
 ゆえにがっくりしていたドクターに、丈一郎はナイフを取り出しながら声をかけた。

「ドクター、これを病院に。毒の種類が解れば、治療に役立つかもしれん」
「む‥‥我が輩も少し貰って良いかね?」

 キラーン、と目を光らせたのは、少しでもサンプルを集めようと言う情熱だろうか。ドクター・ウェスト、キメラ研究に熱心な探求者である。
 頷きながら丈一郎は、比較的原形をとどめているキメラから表皮を一部切り出し、毒毛に触れないよう注意してドクターに渡した。それを見ていた総一郎も、研究機関向けに少しばかり死体を持ち込んでみるか、と動かなくなった毛虫を物色し始める。
 血清が必要ならドクターに託されたサンプルから作成されるだろう。だが今後、もし同種のキメラが現れた時の対策のために、或いはただ単純に研究サンプルとしても歓迎されるに違いない事は、自身用に渡されたキメラの表皮を少年のような瞳で大切に仕舞い込んだドクターを見れば解る。
 念入りに防護を施してそれぞれ動き出した2人を見送り、その2人の格好をも見た真白は、ふと自分自身にも視線を落とした。毛虫キメラに刺されないよう、グローブとブーツ、ネコミミフード(マフラー付き)で顔以外はしっかりガードした身体。
 知らず、口がへの字に歪む。

「うわぁ‥‥服、すぐ洗濯してシャワー浴びたいです‥‥」
「本当、わたくしも体液でベトベトですわ‥‥。あとで丸洗いしないといけませんわね‥‥」

 同じく重い息を吐いたのはカタリーナだ。戦いの最中に身なりまで気を使う余裕はないけれど、終わってしまえば毛虫キメラの体液まみれ、というのは普通に気持ち悪い。
 ミルファリアもうんざりした顔で手に提げた剣をちらりと見、大きなため息を吐いた。もちろん、毛虫を叩き潰すのに大活躍した剣身もべったり、黄緑色の体液に汚れていて。

「剣、洗うの面倒‥‥帰ったら旦那に洗ってもらおうかしら‥‥」
「わたくしは風情を楽しんで帰りますわね。入り口の方ならキメラも居ませんでしたし、汚れてませんもの」

 なぜか1人涼やかなメシアが、くるり、とパラソルを回して微笑んだ。仲間に止められたので拡散放水はしなかったけれど、探査の目で打ち漏らしがない事は可能な限り確認している。
 ウィリアムが、やっぱり体液まみれのAU−KVを脱ぎながら呟いた。

「女性は逞しいですね‥‥」
「日焼けのケアも完璧ですわ」

 深く頷くメシア、むしろ毛虫退治の後に桜の風情を楽しむのが主目的だった様子。忙しい能力者は、こういった機会でもないとのんびりする事も出来ないのかもしれない。
 くるり、くるりとパラソルを回しながら歩き始めた彼女を見送ったウィリアムは「手伝って下さってありがとうございました」と能力者達に頭を下げた。そうして妹を見舞うべく、病院に向かって走り出したのだった。