タイトル:長距離砲戦型KV開発マスター:磊王はるか

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/31 01:54

●オープニング本文


●ドローム社、第7KV開発室にて
「ふむ、これは面白い機体だわね‥‥普段ならこんな機体なぞ滅多に見る事はないが、恐らく上層部からも要求があったのでしょう。エーファ室長?」
 ドローム社のある研究室から、正規の手順で連絡を受けたマリア・ヒルデブラント少佐(gz0149)は室長と呼ばれた少女の様にしか見えぬ研究員がモニターに表示させたCGモデリングは、傭兵達にとって見覚えのある者は多くはないであろう。
 そのモデリングの形態はKV――それの飛行形態であるのだが、その形状は今までの機体とは明らかに一線を画していた。

 全身翼。それがモニター上に映し出された機体の特徴であった。これまでのKVは基本的には既存の戦闘機を彷彿とさせる様なデザインラインから、SESを始めとした特殊技術を施した動力や機関、装甲の追加などをさせる事で作成していた節が見られた。
 しかし、この機体はS−01を始めとした一般的なKVの飛行形態とは似ても似つかぬ全身翼。つまりは、機体のほぼ全てが翼で構成されている機体であり、これがどの様な形態へ変形するのか、どちらかと言えば大火力兵器を好むマリアには予測も付けられなかった。

 普通に考えれば全身翼の機体は電子系による制御が当たり前であり、ドッグファイトなどは夢のまた夢の想定外。過去の米軍では爆撃機として用いていたのだ。故に、KVとしての飛行形態では巡航能力は相応にあると判断するとしても、空中戦闘における機動力は他のKVに大きく譲る事となるだろう。
「で、これはステルス機なのか? ベースはB−2スピリットと思うが」
「形状だけ参考したんじゃが、ステルス性は排除しておる。バグア相手にステルス積んでも、現状の技術では効果が薄いみたいようじゃしな。どちらかと言うと、開発コンセプトを満たせる条件を取捨選択した結果、似てしまったと言う奴じゃ」
 室長と呼ばれた少女らしき女性は、そばに置いてあった湯呑みを手にして茶を啜る。
「まったく、無茶な注文じゃ。あんなでっかい大砲を4本も搭載したKVなんてのぅ‥‥」
 何気ない仕草で傍に置いてあった菓子入れにあったせんべいを手にとってかじる。エーファはさらにコンソールを叩き、可変後の姿をマリアに見せた。
「‥‥な! あの全翼機がこんな‥‥」
「うむ、なるんじゃよ。ちょっと猫背気味なマッチョで不格好じゃがな。
 マリア嬢ちゃんは承知であろうが、メトロポリタンXの上にはギガワームが居座っとるじゃろ? それに今回はビッグフィッシュなんてデカブツまでの。アレを見て火がついた人がえらいさんに居ったようじゃ」
 驚きの声を洩らすマリアの反応に満足したのか、エーファは鼻歌交じりで言葉を続ける。開発コンセプトは中・長距離支援型KV。実弾特化の高火力機体なのだと。モニター上に現在映されているのは、4門の大口径キャノンを頭上に背負っている、四肢末端が肥大化した様な、重量級KVの姿であった。
「これは‥‥魅力的ね。他の機体を卑下する訳ではないが、これまでにはない力強さと期待感を持たせてくれる素晴らしい機体だわ。やはり戦闘は火力よ!」
「‥‥ヒルデブラント少佐もえらい人寄りの好みなんじゃのぅ。確かに、昔の戦争――第二次大戦頃なんかは日本人をはじめとした結構な国が『巨大戦艦を作れば勝てる』なんて大艦巨砲主義に支配されとったけども。まるで父の様じゃよ」
 凛々しさを湛えた顔に期待を露わにした彼女に、同志を見る様な瞳でにやにやとしながら室長が漏らす。確かに、大火力に頼りきる主義は愚行ではあるが、それは運営用途を誤ったからであり、適材適所におけばどんな兵器でもある程度の成果は出せるものなのだ。
「こちらの設計では実弾による長距離曲射支援が地上から行え、また空中においても固定装備にする予定の200mm四連装カノン砲はギガワームやビッグフィッシュの様な大型要塞へ打撃力が期待出来る。こいつなら設計上、空対空・地対地・地対空に対応できる筈じゃろ」
 ただし、それでも火力不足と言う意見があれば、機体剛性上からは300mmのカノン砲を搭載出来るとも言う。
 だがその一方で、このKVは地上において歩行は可能だが、射撃時の方向転換が何とか可能なレベルで、格闘戦は不向きであると述べた。ただ、大火力支援機と言う側面でみるのならば、犠牲になる要素が出てくるのは仕方のない事だ。
「その対応策としてホバーをつけるか、あともう一つの機能のどちらを搭載するかこっちも悩んでおるのじゃ。1つはふぁるこん・すないぷとか言う奴でな」
 室長はコンソールを操作し、別ウィンドウを開いてファルコン・スナイプとやらの機能説明を開く。マリアが目を通すに、現状では大型機体であるこの機体にしか搭載出来ない機能であるらしい事が分かる。
「錬力消費を行う事で攻撃力と命中率を大きく引き上げるのか。確かに遠距離攻撃になればSESを使用しているとはいえ、攻撃力は落ち、命中率は極端に低下する。それを補う為の機能と言う訳だな」
「実力のある能力者が操縦するなら、なくても何とかなるかも知れんがの。でも、こいつが有るのと無いのとじゃ、また機体特性が変わるのじゃよ」
 命中率とKV時におけるホバー移動。重量級の機体においてホバーを搭載するのにも移動に関して十分な利点がある。機能は2つの内、どちらかを1つしか搭載出来ない。どちらを取るか。作戦を運営するに当たっては、どちらも捨てがたいとマリアは思う。
 悩み、マリアは年齢の割には張りのある双丘を持ち上げる様にして腕を組んだ。軍服の上からでも、ゆさりと持ち上がる彼女の豊かな胸に、エーファは僅かに瞳に嫉妬の炎を宿す。
 そんな室長の心の内はさておいて。
 しかし、研究室だけで決めてしまうのもどうかとも彼女は考えた。彼女も能力者であるが、実際に機体に触れ、多くの戦場に出る傭兵の意見を組むべきだとも思考する。
「で、じゃ。わしとしては、ちょっとコンペにでも出して、能力者の意見が欲しい所なのじゃよ。研究室の視点だけでは気づかない、利点や欠点、面白いアイデアが現場の人間から出てくるかもしれんしの。それでこの物理攻撃に特化した砲撃戦仕様KV、KM−S2『スピリットゴースト』を何とか実用化させないと不味い訳でな」
「ふむ、そちらの意見は良く分かった。ならば私の方から幾人かの能力者に通達してみよう。もしかしたらコルネリウス殿の開発した機体を待ち望んでいる者も少なくないかも知れんしな」
 徐々に言葉尻に素が出てきた彼女は、見せられた機体に機嫌を良くしながら答える。
 かくして、中・長距離支援型KV――KM−S2『スピリットゴースト』に対する意見具申の場が能力者達に齎される事になったのであった。

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
エリク=ユスト=エンク(ga1072
22歳・♂・SN
比留間・トナリノ(ga1355
17歳・♀・SN
忌咲(ga3867
14歳・♀・ER
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
柊 香登(ga6982
15歳・♂・SN
フィオナ・シュトリエ(gb0790
19歳・♀・GD
アラン・レッドグレイブ(gb3158
26歳・♂・DF

●リプレイ本文

●第7研究室
 ドローム社管轄社屋、第7研究室。今後、実用化を前提とした砲戦仕様のKV――スピリットゴーストに関する現場からの意見を得る為に、エリク=ユスト=エンク(ga1072)や忌咲(ga3867)を始めとした能力者達がエーファ・コルネリウス室長が準備した研究室の一角へと案内された。その部屋は珍しい事に畳を敷いた和室となっていた。恐らく室長の趣味だろう。
「ふむ、わざわざ新型機の意見を尋ねるのに集まってくれたおぬしらには、まず礼を言おう」
 噂によれば、既に50は越えていると言うエーファであるのだが、外見上はどう見ても十代の少女にしか見えない。
 エーファは席を同じくするマリアの傍から立ちあがり、徐にリモコンを操作する。すると天井から壁の一部へプロジェクターの様に映像が浮かび上がる。
 浮かび上がった映像は、既存のKVとは明らかにかけ離れたシルエットを持つ、スピリットゴーストの物だった。飛行形態では全翼機、機体の下部に四連装カノンを搭載している。エンジン等が機体上部後方に位置しているのは、飛行時における砲撃の際に生じる衝撃を緩和させる為の設計なのかも知れない。
 更に驚くのは人型――と言うには聊か問題があるのだが――地上戦時においては機体下部に搭載されていたカノン砲が機体上部へと移っており、全身翼の一部から腕が生え、残る翼部は折り畳まれて肩部装甲へと変化していた。脚部は巨大な重量を支える為か逆間接の鳥足となっており、質実剛健さが見事に伺えるデザインだとアラン・レッドグレイブ(gb3158)は思った。
「しかし大きいですね。200mmでも旧世代の重巡洋艦、300mmはポケット戦艦クラスの大口径砲ですか」
 搭載されたカノン砲のスペックを見て、アランは感心したように言葉を述べた。映像をまじまじと見つめていた比留間・トナリノ(ga1355)に至っては、まるでウィンドウの向こうにあるトランペットを眩い物と眺めるような黒人の少年の如き様子で見入っていた。
「では、これと手元に配った設計思想などの資料に目を通した上で、意見を出して貰いたいのじゃ。柊の坊やはご苦労じゃったの」
 どうやら柊 香登(ga6982)は参加者に配る資料の纏めを手伝っていたらしい。纏めながら一通り資料には目を通しており、必要と思われたデータの大半は手に入れていた。
「長距離砲戦用となれば、攻撃を命中させなくては役に立ちませんわよね?」
 KVの持つ展開能力を以ってすれば、今までとは違った戦術も編み出せるかも知れないと、エーファの召集に呼応したクラリッサ・メディスン(ga0853)は述べた。そして搭載予定のファルコン・スナイプ(以下F・Sと表記)はその為の物なのでしょうと続けた。そんな彼女と意見を同じくするのは他にも比留間やクリア・サーレク(ga4864)達だ。
「うっうー! こういう機体を待っていました! 個人的には断然F・Sを希望したいのです」
 柔和な顔立ちでありながら、妙にテンションが高くなっている比留間の様子にエーファは苦笑しつつも、他に指摘や反論でも構わぬから意見はないだろうかと促す。するとクラリッサから200mmカノン砲と300mmカノン砲、それぞれを積んだ際の攻撃力や命中率はどのような物かと言う質問がなされた。
「300mmを積む事で命中がかなり落ちたり、使用出来る弾数に制限を受ける様ならば、多少の火力不足でも200mmを推したいですわね」
 当たらない攻撃はただの無駄にしかならない。更に弾数制限があるのなら、尚の事だとクラリッサは言う。そんな彼女の問いに、エーファは想定していたかのようにあっさりと、
「攻撃力は当然、300mmの方が上じゃの。ただ、精度的には200mmとそう差が生じない程度の精度では設計しておるよ」
「デフォルトでは200mmで良いと思いますが、将来的には改造を施す事で300mmに換装出来る様な拡張性が欲しいです」
 クラリッサの問いに続けるようにして、比留間が尋ねた。彼女の問いは改造ではちと厳しい、バージョンアップによる対応なら可能じゃと、あっさり返される。しかも、バージョンアップはいつになるか分からない、とも付け加えられて。
 一方でフィオナが積載能力に振れる発言をするも、既に200mm4門と言う時点で防御能力は兎も角、移動力に難はあるらしい。
「F・S装備で200mm砲を1〜2門に減らして軽量化は出来ませんか。全翼機形態での運用を前提とした対地攻撃機化とか」
 陸戦大型キメラや施設破壊の任務も多い。爆撃にフレア弾を用いる策もあるが、命中精度にネックがあり、爆撃体勢に入れば無防備である。それ故に、アランは200mmを活かした攻撃機と言う案を持ち出したのだ。
「スピリットはシュツカの末裔、そして第3の稲妻と成り得る可能性を持っています」
 自らの意見に自信を持って言葉を紡ぐも、他の者の反応は今一であった。エーファ曰く、4門搭載は既にオーダーとして来ているので変更は厳しいらしい。ただ、F・S自体が中遠距離へ補正をかける物なのである程度は効果があるかも知れんのうと茶を濁した。
「威力は確かに魅力的だが、実際に見てみなければ決断は出来んな。何よりデメリットが何も分からない状態では躊躇せざるを得ない」
 そんなやり取りを前にして、エリクが手元に置かれた煎餅を徐に一口サイズに割り砕いて口に運ぶ。一方でエリクの言葉に反応して、クリアがすっくと立ち上がる。
「大火力重装甲は魅力的なんだよー。それに、インドでも敵の物量におされて大型兵器苦戦したから、大破壊力は嬉しいんだよ」
 先日のアジアにおける作戦行動では雲霞の如く湧き上がる敵の物量と、巨大と言う言葉で片付けるにはあまりに威圧感を有し過ぎているラインホールドの存在をクリアは思い出す。更にはエミタ・スチムソンが駆るシェイドなどと言う、無茶苦茶な機体すら存在するのだ。これから開発、実用化される可能性があるスピリットゴーストへの期待は彼女にとって大きい物なのだ。
「それで、F・Sを使用した場合、実際どれくらい数値は上がるの?」
 目玉機能な訳だから、当然それなりには上がるんだよね? と僅かに首を傾げる忌咲の質問に、エーファはリモコンを操作してF・S搭載機とその結果によるデータを壁面に表示させた。
「これを見てもらえれば分かると思うのじゃが、計算上は少なくともリッジウェイよりも高い補正値を得られると思ってもらって構わないのじゃ」
 画面上に新たにリッジウェイのデータが表示され、F・S使用時の攻撃補正と命中補正は、現在稼動中であるリッジウェイよりも高い数値である事が比較され、その場に居た全員に伝えられた。
「‥‥これは想定以上ですね」
 データを見たエリクは期待していた数値を上回っている事に驚きを隠せなかった。これでもし、200mm砲に貫通性能をつけられれば、作戦時における強力な鎚となるのではないかと彼は思う。
「スペックは結構だけど、使用する為の錬力をなるべく低く抑えられないかしら。若しくは錬力タンクの巨大化とか」
 継戦機能を高める為に必要であるし、同時に機体その物の命中率も可能な限り高い方が望ましいとクラリッサが言う。
「大型キメラの装甲を貫通、破壊するための徹甲弾と、小〜中キメラを一気に制圧する為の榴弾を使い分けられる仕様とかだと汎用性が高まって嬉しいですね」
「元々の命中率が高ければ、要所要所でふぁるこん・すないぷを使う運用でも大丈夫な気もするがの。それと比留間嬢ちゃんの言う弾薬の使い分けは、上手くすれば推奨兵装として特殊弾丸扱いで何とかなるかも知れんのう」
 2人の質問に答えると、ずずずと梅昆布茶を啜るエーファ。
 F・Sの話題が主になりつつある中、座布団の上に座っていた柊がすっと手を上げ。
「僕はホバーを推したいと思う。KVは尖鋭化するよりも、戦場を選ばない汎用性や万能性に注視すべきだと」
 赤髪の少年はそう述べた。一方で、もしホバーを搭載せずにS−01クラスの行動、移動力を確保出来るならばそれでも構わないとも。
「ううん、それは少々難しい話じゃのう。元々、極化したコンセプトを要求されておるしの。勿論、柊坊の意見も大事なんじゃが」
「確かに、重量級KVにホバー移動は有効だと思うんだけど、あれって結構癖が強いからね。ホバーって意外に操縦、難しいんだよ?」
 と、人形を彷彿とさせるような忌咲が可愛らしい口調でホバーに対して意見を述べる。確かに、軟弱な地盤でも自重で沈まない利点はあるんだけど、地形の大きな起伏や障害物に弱い点などが彼女から上げられる。
「そもそも、ホバーじゃ砲撃の反動殺せないんじゃないかしら?」
「ああ、それに関しては射撃時に踵にアイゼンを設ける事で対応は出来るのじゃ。流石にふわふわ浮いたまま射撃は出来ぬからのう」
 ふと忌咲が抱いた疑問に対応は講じてあるとエーファが答える。どちらの対応策はある程度は講じられる。けれども、現場で使うのは傭兵や軍の能力者達だ。現場の人間が持つ視点からの意見はそのどちらを選ぶのか、と言う点に室長である彼女は興味を抱いているらしい。
「それではホバーが無い状態での移動能力にS−01レベルの物は期待出来ないと言う事ですね」
 それらを満たす機体となると現状よりも明らかに傭兵側へ向けられるコストが上がってしまうのだとエーファは肩を竦めて言う。確かに、特化した上で利便性も求めるとなれば、当然その分の開発費用は上乗せされ、最終的に傭兵が借り出す資金にも反映されてしまう。
「出来れば機体価格は200万から250万くらいだと助かるんですが」
 戦争は数だと、彼の理念から発せられる言葉だ。その裏には高価な機体はまだ必要ではないと言う思いもあるからなのだが。
「ふむふむ‥‥坊の意見は耳に入れておこう。ただ、上からの注文を叶えるとなるとあれだ、どこじゃったかな‥‥」
 ちょっとド忘れしたのか、ううーんと眉間にしわを寄せながら少女然としたエーファが考え込む。暫しして、ぽんっと手をたたき。
「そうそう、銀河の雷電じゃよ。あれに近い価格になるじゃろな」
「そ、そんなにするんですか‥‥」
「ある意味当たり前じゃな。能力を尖鋭、特化させるとなれば当然犠牲となる能力は出てくる。そして尖鋭化した能力に確実性を持たすのであれば、最終的にコストに響くのは自明の理。際立った一つを持ち合わせる機体を作ると言うのは、コストに響くかピーキーになるかのどちらかなのじゃ。雪村を積んだミカガミもその一例じゃよ」
 値段的にかなりのレベルを強いられると説明された柊は僅かに残念そうな表情になる。しかし、この場で書記役を兼任している以上、しょんぼりとした顔で過ごす訳にはいかない。
「移動能力はどうなの? リッジウェイ並だったり、運用面で場面が非常に限られてしまうんならホバーを推したいんだけど」
 話題の流れがファルコン・スナイプに優勢になりつつある中でフィオナ・シュトリエ(gb0790)が声を上げた。確かに先程の柊の意見と同様に、運用面で難が大きいのならば命中補正よりもホバーに割いた方が運用しやすいのではないか、と言うのも一理ある。
「ふむ‥‥なかなか微妙な所じゃな」
「やっぱり重量的に難しいって所なのかな」
 フィオナが尋ねると肯定の頷きで返された。先程の意見でもあった通り、何か際立った物を得ようとすれば、何かを代償にしなければならないのだ。
「防御面はどうなのかな。最低でも例えに出た雷電くらいは期待したいんだけど」
 重装甲、高火力機体なのだから、コンセプトを絞り込んで特化した方が良いとフィオナは言う。勿論、行き過ぎて使い所を酷く限られる機体になっても困るけれどと、苦笑交じりに続けた。
「では、ホバーを搭載して機体汎用性を高めた『KM−S2A』と拠点防衛型であるF・S搭載型の『KM−S2B』と二型に生産してみては?」
 機体フレームなどの主要部分の生産ラインが同じならば、コストもそう違わないだろうと言うのがアランの意見だ。だがエーファは彼の意見にはうーむと唸るばかり。
「予算が湯水の様にあれば、二種類の機体を同時に供給生産するのは出来るじゃろう。しかし、流石にそれが出来るのはテストベッド用の試作機でだけじゃな。売れるプロジェクトに偉いさんは予算を出してはくれるけども、アラン坊の提案は帯に短し襷に長しな所じゃのう」
 シミュレーションで得るデータにはやはり限界と言う物がある。しかし、アランの意見を汲み取って、実機を其々に製作して現実で得られる情報の収集をすると言う手段とすれば、そう悪い提案ではない。
「そう言えばさ、高出力のSES−200エンジンって使えないの? 他の部署の担当だけど、あれならホバーまで行かなくても人型での機動力は機敏にならないかな」
「スピリットゴーストに搭載するエンジンは、あれとは別の大型、高出力のエンジンを予定しておるのじゃ。それに、SES−200はまだ開発途上で実用化には至っておらんと思うたが?」
 妙案ではなかろうかと出されたクリアの提案は、残念な事に却下された。そもそも、完全実用化に成功し、量産体勢が整いでもしなければ搭載される様な流れには恐らくならないであろう。
「では、近々現場と偉いさんと調整を取って、テスト機をホバー用とふぁるこん・すないぷ用の其々1機を建造するのじゃ。これならおぬし等も今後実機に触れられる機会もあるじゃろうし、損はあるまい?」
 そこまで言い終えるとエーファは傍に置いていた菓子入れから煎餅を取り出してぽりぽりと食べ始める。一緒に用意された梅昆布茶と言い、一見して少女にしか見えないのにどうしてこうも趣味や話し振りが年寄り臭いのだろうと能力者達の誰もが思った。
「と言う事で、マリア嬢ちゃん?」
「なんでしょうか、エーファ室長」
 今まで能力者達の意見交換を黙々と聞き入っていたマリア・ヒルデブラント(gz0149)が返事をする。するとエーファは続けて、
「実機が完成したら模擬戦闘やらの稼動データを取りたいと思うんじゃがの。マリア嬢ちゃんの従弟に声をかけておいてくれんかの?」
「ああ、リアンですか。確かにあいつはかなり腕がいい方ですが」
「だからじゃよ。あの射的屋の坊やを呼んでおいて欲しいのじゃ。きっと役に立つからのう」
 ふっふっふ、と瞳に微妙に妖しい光を宿しながら含み笑いをした後、エーファは忌咲やエリク達の方へと向き直り。
「おぬし達の意見は面白く聞かせていただいたのじゃ。拾える部分拾えない部分はあると思うが、何処かしかには必ずおぬしらの意見が組み入れられるので、時が来るまで少し待って欲しいのじゃ」
 その頃にはきっと、要望を汲んだそれなりの物がみせられるであろうから。エーファは数々の意見を熱意を持ち寄った能力者達に向けて、必ず応えてやると告げる様な不敵な笑みを浮かべて見せたのであった。