タイトル:【弐番艦】動力中枢護衛マスター:磊王はるか

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 5 人
リプレイ完成日時:
2008/10/28 02:16

●オープニング本文


●ユニヴァースナイト弐番艦建造計画
 ――ラスト・ホープにあるドローム社。
 緑溢れる敷地には、ナイトフォーゲルの整備工場を兼ねた社屋を挟むように、ハの字に滑走路が延びている。
 ハの字の右側の長い滑走路に、武装巨大輸送機ガリーニンとS−01Hが停められていた。
「ブラッド准将のお力添えには感謝の言葉もありませんわ」
 青いビジネススーツに身を包んだミユ・ベルナール(gz0022)は、整備工場からガリーニンへ運ばれるメトロニウム製のコンテナを、感慨深く見つめていた。
「主力であるUPC北中央軍の戦力が大幅に増強されるのであれば、本部も協力は惜しみません」
「ようやく未来研から届いた重力制御エンジン。これをオタワまで運ぶのは、高速移動艇では心許ないですからね」
 メトロニウム製のコンテナの中身は、未来科学研究所より提供された一機の重力制御エンジンだ。これをハインリッヒ・ブラット(gz0100)がチャーターしたガリーニンでUPC北中央軍の本部オタワまで運ぶのだ。
「流石に3機のガリーニンをこちらへ回すのは容易ではありませんでしたが」
 彼の口振りから、UPC北中央軍のヴァレッタ・オリム中将もUPC本部へ何らかの圧力を掛けたと思われた。
「指示通りに、1機のガリーニンはサンフランシスコ・ベイエリアへ回しましたが、重力制御エンジンの他のパーツも、同時にオタワへ運ばれるのですね」
「ええ。サンフランシスコ・ベイエリアで開発した艦首ドリルと、製造プラントで完成させた副砲、これにオタワで復元を終えたSoLCを搭載すれば、『ユニヴァースナイト弐番艦』は完成します」
 これらのパーツは、オタワでバグア側に秘密裏に建造されているユニヴァースナイト弐番艦の主武装だ。
 ユニヴァースナイト壱番艦は各メガコーポレーションの共同開発だが、弐番艦はドローム社とUPC北中央軍とで開発している。その為、大きさは壱番艦の4分の1程度であり、重力制御エンジンも一機のみの搭載だ。
 オリム中将からすれば、UPC北中央軍の戦力を増強する事が最優先であり、だからこそドローム社がユニヴァースナイト弐番艦の建造を打診した時、二つ返事で承諾したのだろう。

 ラスト・ホープより重力制御エンジンがオタワへ運ばれると同時に、サンフランシスコ・ベイエリアより艦首ドリルが、ドローム社の製造プラントより副砲もオタワへ向けて輸送される。
 ドローム社はこれらの輸送隊に能力者の護衛を付ける事とした。


●防衛任務
「今回の任務は、なんとユニヴァースナイト弐番艦の建造に必須の物資――重力制御エンジン搬送の護衛任務よ」
 集められた傭兵達の前に姿を見せた凛々しさと険しさを同居させた、金髪碧眼の女性。マリア・ヒルデブラント(gz0149)と名乗る少佐は開口一番に告げた。
 女少佐が齎した任務の内容に、能力者達は一時騒然となる。各戦線で大きな力となった巨大戦艦。それがもう一隻建造されるとしたら、前線で戦う傭兵達としては大きな期待を抱かずには居られなかった。
「太平洋上からオタワまでの搬送時には、搬送の為に手回ししたガリーニンを使用する事になったわ。君らには大事な荷を積んだガリーニンを慎重に、しかし堅固な壁となって守らなければならない。
 もしこの任務が失敗すれば、弐番艦の建造は大きく遅れる事となる。結果、戦線の長期悪化に繋がるのは、賢明な能力者である君らには十二分に理解して貰えるでしょう?」
 落ち着いた艶のある声で、少佐が続ける。彼女が注意を促すのは、任に当たる能力者達に確実な成果を求めている為だ。
「当然、ガリーニンでの輸送は秘密裏。けれど、敵は何処から姿を現すかは分からないわ。以前に鹵獲したFRが再奪取された一件もあるしね。気づけば敵は重要な物資を運んでいると踏んで、攻めて来るでしょうね」
 もしこの任務が失敗すれば、人類側が更に不利になるのは明らかだ。他にも艦首ドリルや復元を終えたSoLCも弐番艦を構成する大事な要素である。これらの武装を持つ攻撃主体の艦となれば、戦線にも多大な影響を及ぼすだろう。
「重力制御エンジンの輸送――プレッシャーの大きな任務と思うけれど、大仕事を任せられるのが君らである事も事実。もし、とんでもない相手が出て来る事があっても、必ずガリーニンをオタワまで届けなければならないから」
 そうしてマリアは他に、もう1機のガリーニンを含め、複数の輸送機が重力制御エンジンの搬送に用いられる事を伝える。どの輸送機が本命かは少佐にも伏せられており、彼女も知りえないのだと付け加えた。
「それはこれが囮である可能性もあると言う事ですか、ヒルデブラント少佐」
 若い傭兵の問いかけにマリアは静かに頷きで答え。
「そうね‥‥カードのダウトみたいなものよ。カードが通れば私達の勝ち。でも通らなかったら、分かるでしょう? こんな勝負には手数が多い方が有利なのよ」
 どこか幼さの残る質問者に向け、ヒルデブラント少佐は不敵な笑みを浮かべて返答をする。
 そうして半刻も経過した頃に、ガリーニンと傭兵達のKVの動力に火が灯り、ラスト・ホープ島を後にする。目指すはオタワ――不確定要素を多分に含む敵勢力からガリーニンを守り抜き、何としても辿りつかせなければならない任務に対し、大きな緊張感に包まれながら。


●某日、メトロポリタンX頭上、ギガ・ワーム内
「奴らめ、どうやら何やら大物を幾つか運ぶらしいな‥‥」
 闇に包まれた格納庫の中、総司令から煌々と光を放つ画面を通じて伝えられる情報を眺め、男は一人呟いた。
 先の欧州での侵攻作戦。そこで彼は機体を駆る者として極力避けねばならぬ失態――錬力切れという戦術ミスを犯した。
 傭兵による欧州戦で彼の搭乗したFRの鹵獲。その後、再度奪取に成功して、一度はアジア戦で騎乗した機体は彼の元には無い。撤退命令を受けた後に別命が下され、別の機体が彼に委ねられた。
 しかし彼自身の矜持はアジアでの戦いを経ても傷つけられたままであった。故に彼の内心にはUPC――ひいては傭兵達と、あの戦いに於いて戦局を変化させたユニヴァースナイトと呼ばれる彼らの旗艦への並ならぬ憤怒の感情が渦巻いていた。
「何を作るか、運ぶ資材から大体の見当はつくぜ‥‥あんな戦局を変える様な物をこれ以上増やさせてたまっかよ」
 男の瞳に憎悪の念が宿る。ただ静かにに思索する彼を、過去知る者が見れば、かつてのアフリカ時代を思い出すであろう。そんな冷静さを今の彼は持ち合わせていた。
「こいつなら、五大湖の時の様にまた沈めてやれるぜ――!」
 暫しして、彼は情報を吐き出し終えたモニタから視線を外し、背後を見やった。モニタから漏れる光が、暗い闇の中で男の傍に駐機した鉄塊を照らし出す。鮮やかな赤を持つ機首に、空気に晒されて変色した血の様な赤黒い翼。二つの血の色を与えられた機体には魚類を表した彫刻が与えられていた。その名は――

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
篠原 悠(ga1826
20歳・♀・EP
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
雑賀 幸輔(ga6073
27歳・♂・JG
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
榊原 紫峰(ga7665
27歳・♂・EL
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD

●リプレイ本文

●雑音空間
 敵偵察部隊を発見した先行偵察班は既に戦闘状態へと突入していた。敵の機影を捉えた篠原 悠(ga1826)達は早急な排除を選んだ結果、彼らが戦端を開いた空域は途端に怪音波で満たされてしまう。
「この音をどうにかせんと」
「頭痛が‥‥」
 戦場を満たす怪音波によって、能力者達の操るKVはその行動を著しく低下させていた。月森 花(ga0053)の駆るウーフーに搭載されたジャミング中和装置によって、電子的な補正が行われる事により多少はマシになっていたが、改善には程遠く、頭痛が引く訳でもない。
「早く片付けんとな‥‥!」
 時任 絃也(ga0983)のR−01改から高分子レーザーが放たれ、怪音波を周囲に満たしていたCWに着弾。爆発、破砕していく。発生源を減らしたお陰で辺りに満ちた不快な音が僅かに和らぎ、砕牙や篠原達も頭痛が緩和され、動きに精彩の無かった彼らの機体は少しずつ調子を取り戻していく。
「こうして交戦している間に、きっと敵の本隊が来るかも知れんからな!」
 残るCWの1機に砕牙 九郎(ga7366)の機体が上から覆いかぶせる様に挙動を取り、不快な音源に向け、擦れ違い様にガトリングを放つ。勢い良く降下する機体を引き揚げる後方で、更なる爆発が生じ、徐々に敵の障害は緩和されつつあった。
「給油中じゃなくてよかったわ、ほんと」
 最中に遭遇していたらさぞかし難儀であっただろう。篠原は己のワイバーンを巧みに操縦し、敵の砲火を躱しつつ接近を試みる。そして前進翼に力場を発生させ、擦れ違いざまに小型HWを正面から真っ二つに粉砕するべく加速する。
「速度優先、さっさと排除せんとね!」
 機体を傾かせ、正面から縦一文字に敵機へ刃と化した翼を篠原は突き立てた。衝突の衝撃が訪れた暫しの後、彼女の後方からは閃光と爆発音が響く。他にも宗太郎や香倶夜の機体が中型HWと空中戦を行っており、後方に居る本隊へ突破される事は先ず無いだろうと、その場の傭兵全てが認識していた。寧ろ、この敵機は会敵した時点で仲間へと自分達の存在を伝えているかどうかの方が重要であった。
 この規模では恐らく偵察に出された部隊であり、だとすれば本命となる部隊が姿を見せる可能性があるからだ。何せユニヴァースナイトの弐番艦、その中枢となる動力部となれば、大物が姿を見せても不思議ではない。
「大事なもんだ、何が何でもきっちり輸送しないとな――」
 敵機を放たれた銃弾が削り行く中、砕牙は敵機にトリガーを引きながら呟きを漏らす。
 広い空の下、爆発の赤と棚引き落ちていく黒煙が次々と生じていく。
 しかし、彼らの懸念通り。斥候として放たれた偵察部隊であるHWは既に、本隊へ向けて彼らの存在を伝えていた。それを受けた赤い機体を駆る男――ゾディアックの魚座、ゾディアックの長たるアスレードへと。
「獲物がかかったか‥‥!」
 真紅の機体――FRからステアーへと乗り換えた彼の、爛々と輝く瞳には闘争への狂喜が満ちていた。


●赤翼
「空から消えろ、この蚊トンボ共が!」
 オープンチャンネルから殺意の篭められた声が各機に届くや否や、雨の様に赤光が空に疾る。声の主に鈍名 レイジ(ga8428)には覚えがあった。
「餌が餌だけにかかる魚もでかいってか‥‥勘弁してほしいぜ!」
 ディスタンの機首を砲撃の元へと向け、鈍名は編隊を為す中央の一機――ステアーへと迫るべくブーストをかける。レティ・クリムゾン(ga8679)や南部 祐希(ga4390)らもまたそれに続き、エルフリーデ・ヴァイス(gz0148)のウーフーがジャミングの中和を開始する。
「来たか、これよりガリーニンを逃がす。よろしく頼むぞ!」
「――頼む!」
 ガリーニンの直衛についた緑川安則(ga4773)の言葉に雑賀 幸輔(ga6073)もまた、純白のディスタンを真紅の機体へと向け、加速する。
「ステアーに突っ込むっ! オレを気にして手控えなんてするんじゃねえぞ!」
 不敵な笑みを湛えたジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)が雷電をステアーの進行ルートへ目指す。仲間の火線を半ば無視して切り込んだジュエル機はHWの砲撃を躱し、時に受けながらもステアーに切り込んで行く。
「少し遊んでもらうぜ、あんたには借りがあるんでな‥‥!」
 装甲を強化させた鈍名機がAAMを発射する。放たれたミサイルは戦場を駆ける赤い翼へと牙を剥く。着弾し、生じた爆発の中から無傷とばかりにステアーは姿を見せ。
「やってくれるじゃねぇか、この野郎が!」
 怒気に満ちたアスレードの声に呼応する様に、戦場の空気が変わる。HWとの空戦に入った榊 刑部(ga7524)や榊原 紫峰(ga7665)の機体を始めとしたその戦域に存在する全ての機体の電子機器が警告音を響かせる。
「ジャミングか!」
 レティが僅かに舌打ちをしつつ、ステアーとの擦れ違いざまに放電装置を起動。空中に生じた電磁の光は獲物を捕らえ、僅かながらも損傷を与えた。現状の数では本格的な攻勢には出れない。出れば逆に撃墜され、守るべきガリーニンを――その積荷である重力エンジンを破壊されてしまう。
「FRとの傷が癒えたら今度はステアー。‥‥ふふ、我ながら度し難いですね」
 もう一息頑張りましょうか。呟きを漏らしながら南部はステアーをロックオンするや否や、AAMを放つ。頚木を外された暴れ馬の如く、ミサイルはステアーの後方を追尾し始めた。
「一騎打ちでは勝ち目が無いな」
 常に纏まって掛かろう。そう仲間に告げながらレティのディアブロが反転、ステアーと分断され始めたHWとの間を擦り抜ける様に加速する。
「流石、ステアーの随伴なだけはあります‥‥しかし!」
 レティの機体が撹乱とばかりに飛翔していく最中、HWとの戦闘の只中であった榊は敵の錬度に感心の声を漏らす。既に数度、マシンガンを叩き込んでみたのだが、今まで遭遇した機体よりも強化されているのだ。
「これはどうですか!」
 モニター上で敵を捉えた榊は螺旋弾頭ミサイルを発射した。狙われたHWは逃れるべく急降下を開始するも、間に合わずに着弾。爆発、炎上して地上へと落ちていく。そうして、偵察班の合流を待たずして、戦端は開かれた。

「このままじゃ突破されてしまう‥‥っ!」
 戦況は良いとは言えなかった。あれからステアーとHWとの分断を図り、レティやジュエル達が防戦に徹している。しかし、防戦一方では戦況が変化する事は無い。その要素に成りうる偵察班が戻るまであと僅かだが、彼我との戦力差から敵に突破されるのは時間の問題だった。
 そして榊原の不安は見事に適中した。ステアーへ戦力を割り振った結果、数の差から数機のHWが戦線を抜けてしまう。迷彩塗装を施されたガリーニンを獲物を追うが如く、HWは機体の速度をを速めていく。
「すいません、抜かれました!」
「緑川だ、諒解した」
 焦りの色も露にした榊原の声に緑川は平時と変わらぬ声音で答えを返す。数機のHWの内、1機に狙いを定めた緑川はホーミングを放つ。アルヴァイムもまた接近する敵機とガリーニンとの間に割り込ませ、搭載したガトリング砲で射撃する。
「私の雷電の性能では耐える事しか出来ん。だが、盾にはなれる」
 甘んじて攻撃を受けよう。そう考えていた彼の機体に次々と赤光が放たれるも躱し、時に被弾する。
「‥‥なかなか厳しいな」
「まだだ!」
 砲撃を受けていた敵機の後方から榊原のS−01が急加速で迫っていた。突撃仕様のガトリング砲が火を噴き、HWの後方に打撃を加えていく。けれども彼の機体では致命的な損傷を与えるに至らず、敵機はガリーニンへと砲撃を加え始める。
「拙い!」
 戦況が芳しくない事を肌身で知る榊が言う。ガリーニンからも砲撃が開始されているが、現在2機の機体に取り付かれている。幾ら強固な機体と言えど、撃墜は時間の問題だった。
「月森達はまだか!」
「ごめんっ、お待たせやでっ!」
 未だ戻らぬ偵察班に榊が叫びを上げると、聞き慣れた声が返る。偵察に出ていた篠原の声だ。
 と同時に上方から月森の放ったロケット弾の群が飛来し、取り付いていた一機に命中。次いで烈飛龍の機体から砲弾が、香倶夜のS−01改から放たれた螺旋弾頭が機体を貫き、爆散させる。
「‥‥騎兵隊の到着ですね」
 偵察から戻った砕牙機、篠原機がステアーへ。時任機がHWへと刃を交えるべく機体を旋回させ、切り込んで行く。


●殲鬼の如く
 奇襲をかけるべく敵の上を取った砕牙のスラスターライフルが銃火を放つ。放たれた弾丸の雨がステアーの右翼を掠め、翼端をもぎ取って行く。
「有難い!」
「っち、戻ってきやがったか!」
 月森達の機体を目に捉えたアスレードが機体を損傷した事に舌打ちをする。目標であるガリーニンの護衛として、しぶとく突破を阻んでいたKVの数が増えたのだ。当然だ。
「誰かと思えばヨーロッパの時のヘタレじゃねぇか! 今度はステアーお土産に持って来てくれたのか?」
「‥‥言ってくれるじゃねぇか。一機や二機は覚悟しろ、手前ぇらよぉ!」
 挑発とばかりにかけられた砕牙の言葉に、アスレードは逆鱗に触れられた龍の如く激昂すると、これまでよりも更に攻撃的な機動を持って、立ち塞がる各機へと襲い掛かる。
「一騎打ちよりは乱戦の方が楽だからな、蚊トンボ落すにゃ都合がいい!」
 殺気に満ちた瞳で、アスレードは乱戦の只中から狙いやすい獲物を見つけ出す。本能的な直感で狙いを定めると、機体を躍らせて加速する――ガリーニンに向けて。
「人類の新たなる聖戦士が生まれるのを、そう易々と邪魔はさせないよ!」
 ガリーニンを守る事を最優先としていた榊原がステアーの挙動に気づき、煙幕弾を放ち、少しでも目測を誤らせ様と試みる。
「‥‥かかりやがったな?」
 空で煙幕弾が視界を遮り始めた中でアスレードは機体を榊原機へと急激に進路を変えていた。煙幕を突っ切り、榊原の乗るS−01改の正面に出ると、擦れ違い様に淡紅の光で貫いていく。
「し、しまった‥‥ッ!」
「まずは1機、さぁて次はどいつだよ!?」
 辛くも動力部への直撃を避けられたお陰か、榊原機は戦域から離脱する。黒煙を引きながら高度を下げていく機体を尻目に、満足気な声を上げるアスレード。戦況はまた、混迷としていく――

 ガリーニンが戦闘区域からアルヴァイムら直衛と共に離れ行く。しかし、護衛として敵ステアーとHW部隊との戦闘を開始した傭兵達の機体は戦闘を継続していた。HWの大半は撃退し、残るはステアー1機となった。けれど、
「っ、ヘタレのくせに‥‥!」
「評価を少し改めないといけないですね」
 かつての錬力切れから教訓を得たのか。それとも機体のお陰なのか。ゾディアックの長とされるアスレードの戦いは以前の荒々しさだけではなかった。
「乱暴だけど、おっかないよあれ!」
「向こうも必死ってことだろ?」
 篠原の意見にジュエルが続く。ただ粗暴さを露わにしただけではない、獲物を狙う猛禽類が持つような野生の感めいた物を感じるのだ。
「これ以上はやらせるものかよ!」
「魚座、お前は強い。錬力切れが無い今の状態ならば、我々に恐怖を刻めるか?」
「やらせるもんかじゃねえ、やっちまうんだよ。恐怖を刻めるかじゃねえ、刻んでやるんだよこの俺が!!」
 鈍名とレティに反応し、アスレードは殺気に満ちた声で答えると紫色の光線を連射する。襲い掛かる光を済んでの所で躱し切ると、2人は返礼とばかりにホーミングミサイル、ロケット弾を叩き込む。しかし、赤い敵機は放たれたミサイルの悉くを回避し、加速する。
「アス‥‥ままれーど? 新しいオモチャでまた落とされ来たんかな?」
 レティらの攻撃を躱すステアーの後方を捉えた篠原がジュエル機、レティ機と共に加速する。
「ってまぁ、強い相手には変わりないやんね、全力でいくで」
「承知した」
「おうよ!」
 篠原機が放電装置を稼働させ、ジュエルが機体に装備した砲から大量の弾丸を放つ。そしてディアブロの力を高めたレティもまた、ステアーの後部を狙う様にして放電装置を稼動。敵機体の周辺に生じた放電が牙を剥き、次々と機体を穿っていく。
「これでもまだ削りきれんか‥‥!」
 敵の機動範囲を奪う様にして攻め手を積み重ねるレティを始めとした傭兵達であったが、高性能と噂される敵機の守りを完全に突き抜けるには至らず、直撃を与えたとしても目を見張る程の打撃は今の所与えられずに居た。
「――今だ!」
 排気煙から戦場が龍の巣を彷彿とさせるが如く、青の中に無数の白線を生み出す最中、徐々に損傷を重ねつつあったステアーへ、上空の雲に身を潜めていた南部機が襲い掛かった。翼に力場を発生させた彼女のディアブロがブーストをかけ、猛禽類を彷彿とさせるが如く鋭さで牙を剥く。
「何ぃッ!?」
「戴く!」
 味方の弾幕を盾にしつつ、急加速で接近した南部機がアスレードのステアーを捉えた。その深い血の色をした翼を、振り下ろした剣の様に突き立て、直撃させる事で破砕する。
「これならば効いたでしょう!」
「‥‥しまった! これ以上喰らったら後に響く‥‥!」
 アスレードは突き抜ける衝撃で震える機体を押さえ込み、舌打ちをすると、未だ纏わりつくジュエルらを振り払う様にステアーの機首を上げて急上昇する。赤い翼を持つ機体は黒煙を空に残し、瞬く間に飛び去って行く。
「どうやら撤退したみたいですね‥‥」
 機体の損傷をチェックしつつエルフリーデが各機へ通信する。傭兵達はその言葉でガリーニンを守り切れたのだと思い至り、息を吐くと共に肩の力が抜け行く様な感覚に襲わる。
「何とか無事に済んだか‥‥後はここが本命なら言う事ナシ、だな」
 漏らす鈍名の機体からは既にかなりの数、レッドアラートが表示されていた。恐らくは他の機体も似た様な物だろう。
 最大の障害と思われたステアーを撃退した後、ガリーニンを護衛する傭兵達の機体はカナダへ到達し、迂回する形で五大湖へと向かう。彼等の機体は苛烈な戦闘で痛んでは居たが、撃墜まで至る事は無かった。そうしてオタワに到着して暫くの時が過ぎた。各方面に展開した輸送部隊の情報が纏められた後、彼等は動力部の輸送が完了したと伝えられたのであった。