●リプレイ本文
●迎撃
基地周辺上空ではドッグファイトが既に始まっていた。改良されたSu−30KN、通称フランカーで編成されたバーミリオン隊が中型ヘルメットワームを主軸とした小型ヘルメットワーム小隊との間で、30mm機関砲と赤光が行きかう。時折コブラによる急減速をした、常人なら突飛とも言える空間軌道と仲間との連携を組み合わせ、無謀とも言える鍔迫り合いが続いていた。小隊の面々の殆どは1500時間もの戦闘時間を経験しているベテランでも在った為に、其処までの無理が利いたと言っていい。
正直、そんな彼らでも出来るのは牽制交じりの防戦でしかない。能力者としての素質を有しない彼らにとっては悲しい現実であった。
しかしそれは、彼らが頼みの綱でもあり、この戦域での鬼札となる能力者達が離陸するまでの間の時間を稼ぐ為だ。彼らが空に上がれば、単体戦闘力に於いて明らかに劣勢であるバーミリオン隊は敵側へと傾いた天秤を自軍へと揺り戻す事が出来るのだ。
そして今、10騎の騎士達が空へと舞い上がり始める――
「ここを潰されるわけにはいきませんね・・・・」
A隊とB隊。2つに部隊を分けた能力者達は、A隊を率いるティーダ(
ga7172)とB隊を率いる御崎緋音(
ga8646)に従い、其々が愛機の排気で生じる気流を巧みに躱して、隊列を崩す事無く離陸に成功した。上昇中、そのまま防戦一方で敵HWを食い止めていた味方機への支援とするべく、各機は砲門を向け、御崎ら指揮機の合図によって一斉に暴力と言う名の力を解き放った。
「初撃が大事です・・・・!」
「随分と敵が多いですが・・・・バーミリオン隊の奮戦に報いる為にも、敵機には手荒くしっぺ返しを喰らって貰わないと行けませんね・・・・」
「まったく、あっちからこっちからと。敵さんも東西南北対応する身にもなりやがれってんだ」
「・・・・行きますよ!」
意気込む霞澄 セラフィエル(
ga0495)がやティーダが騎乗するアンジェリカからは放電が放たれ、雷電に乗るジュエル・ヴァレンタイン(
ga1634)が悪態を敵につきつつもAAM2発にD−02からの射撃がなされた。友軍と敵の動きを冷静な目で捉えながら、レイアーティ(
ga7618)Alvitr――『純白』と名づけられたディアブロもまた、UK−AMMを一斉射する。
「お待たせ! バーミリオン隊、後方支援宜しくっ!」
新たな勢力として舞い込んだ傭兵達の機体、その中から聖・真琴(
ga1622)の機体からは、彼女達が離陸に成功するまでの間、防戦に徹する事で制空権を綱渡りする道化師の如く確保していた飛行小隊へと向けられた。
次いで、彼女のディアブロから2度放たれたロケット弾が、16種の白い軌跡を空に描きながら腹を見せていた小型HWへと襲い掛かり、更には六堂源治(
ga8154)のバイパーから放たれた螺旋弾頭ミサイル――所謂ドリルミサイルが宙を舞いながら着弾し、爆発炎を生じさせる。
種々様々な火器が指揮機の指示に従った結果、牙を向けられた数機の小型HWはFFを突破され、黒炎を放ちながら失速していた。その生じた隙を、烏谷・小町(
gb0765)は逃さずに攻撃を加える。
「ここで確実に数を減らす! 出し惜しみはなしや!」
彼女の攻撃に仄赤い障壁が一瞬遮るも、火力の高いが放つアグレッシブフォースを付与したAAMの一撃が合わさっては、手傷を負った小型のヘルメットワームでは一溜まりも無かった。刹那の擦れ違い、その間に5機の小型HWが霞澄達の一斉砲火も合わさって、青空に爆散する。
「初手としてはまずますですね」
「ここで確実に数を減らす! 出し惜しみは無しや!!」
戦闘開始直後の戦果を満足げに口にするセラフィエルに烏谷が勢いを更に付けるように叫び、霞澄機とロッテを組むべく機体を寄せる。
聖や御崎もまた隊列を整え、中型HWへの牽制を行うべく、レイアーティやスロットルを開き、純白のディアブロが敵へ向けて加速する。
彼の機体に引き続き、聖のディアブロもまた連携に加わる。最高速度に於いて同時期に出たにやや劣るディアブロであったが、機動力に関しては話は別だ。
特にこの様な乱戦に於いて、敢えて比較するのならば速度よりも咄嗟の判断によって行われる操作に対し、即応してくれる機動力の方が優位に立つ事が出来る。速度は確かに戦場で重要な要素であるが、疾いだけで戦闘に勝利する事は出来ないのだ。
急激な加速と共に聖機が敵HWの上を取り、強い制動を行う事で急降下からの銃撃へと切り替える。牽制とばかりに放った弾丸と共にHWを掠める様に効果した後に、仲間の機体が放った支援によって敵機の障壁を突き破って行く。
「初のKV戦でいきなりピンチ・・・・でも、やれる限りの事はやらないとね」
ティーダの指揮下に入った二条 更紗(
gb1862)は九条院つばめ(
ga6530)の駆るディスタンを見やる。九条院がSwallowと名づけた機体は捻りながらの上昇中と言う難易度の高い機動からドリルミサイルを放っていた。ここでの戦闘が現在進行中のアジア決戦に多少なりとも係わるとあらば、何としても守り抜かねばならない――そう思い、九条院はロッテ戦術のペアである六堂に通信を入れる。直前の依頼でも彼と組み、彼女は頼もしさを感じていた。
「さって、九条院サン! 援護お願いしまっす!!」
彼女への返信は培った信頼感と戦意溢れるものだった。
「さて、ではレイさん。また後ほど。お互い頑張りましょうね♪」
並んで飛んでいた御崎の機体がレイアーティ機から離れていく。戦闘はまだ始まったばかりなのだ。幸運にも半数に敵の数を初撃で減じる事が出来た事から、戦況は能力者達へと天秤は確実に傾いていく――
●Chevron
2人の指揮官がそれぞれ連携して、次々と小型HWを落としていく。その只中でレイアーティとジュエルが中型HWへの牽制を図る中、傾いた天秤を自らへと向けるべく、残った4機の小型HWが鏃の様な攻撃主体の陣形を取った。
「野郎、シェブロンなんか組みやがって! 吼えろバイパー! ブースト空戦スタビライザー、起動ッ!!」
とたんに放たれた敵の砲撃を、六堂はバイパーを右へロール。放たれる光を回避しつつ、九条院の前に出て、手近な機体に向けてトリガーを引いた。対ワーム用のライフルであるD−02の砲塔から炎が噴き、次いでバルカンで牽制しつつ高分子レーザーが襲い掛かる事で、敵の障壁を貫く。致命打に至らぬものの、体勢を大きく崩した敵機を九条院機から放たれたスナイパーライフルとロケットの弾雨が瞬く間に残骸へと変貌させていく。
「よし、次です!」
4機のHWから束ねる様にして放たれたプロトン砲の直撃など受けたら、目も当てられない。砲撃が終わった次の瞬間、ロッテを組んでいた烏谷機と霞澄機が砲火を放った。
着弾した瞬間、仄赤い障壁が生じるも、2機のKVが放った砲弾は其れを貫き、敵の機体に牙を向いた。2度、3度と態勢を崩した後、失速を始めたかと思った瞬間には空中に散華した。
残るは後、3機だ。二条はティーダと編隊を其々に組み直し、再度アタックをかけた。しかし、敵もただやられる様な簡単な相手ではない、中型ワームを中心としたトライアングルを形成、またも砲火を先頭の二条機へと向け、解き放つ。
赤光が襲い掛かり、更には擦れ違い様に敵の機体からは大きな爪が降られ、機体の側部を穿つ。出力系のトラブルで二条ヘアラームによる警告がなされるも、装甲を削られるだけに止まり、わずかな安堵を感じつつも敵機から離れる。
「この・・・・っ! 実戦ってこんなに激しいものだったんですね・・・・!」
リンドヴルムに身を包んだ姿のままで翔幻に搭乗していた二条は、全身に響くGに弱音めいた呟きを漏らす。初陣であるが故に、機体の挙動に甘さの残る彼女の期待を小型のHWは倒し易しモノから倒すと言う戦場の鉄則に従って、己の持つ砲の軸線上へと移動する。
ワームの持つ二つの突起部に赤光が宿り、二条の翔幻を捉えかけた瞬間、新たな機影がHWの頭上から現れた。
バディであるティーダのアンジェリカだ。A隊の指揮機である女性型らしい流線型フォルムを有した機体は3条の光線を放ち、敵のFFを突き破りつつ降下する。
「大丈夫!?」
直ぐに操縦桿を握り、ティーダ機が上昇しつつ二条機の傍へと位置取った。
「すみません、サポートも出来なくて」
「いえ、撃墜するチャンスを作ってくれた。初陣にしては上出来よ」
次の獲物を狙うべく、ティーダ機が右翼へ流れていく。二条は彼女の軌道をトレースするようにして、またサポートをするべく乱戦の中へと飛び込んでいく。
「さーて、霞澄とウチのコンビネーションを見せてやろうやないかー♪」
「了解です、小町さん行きますよ!」
レイアーティの動向に気を配りながらも霞澄は小町機の援護に光条を放つ。彼女が切り結んでいた小型HWの腕部に相当する突起物が破砕されると、瞬間、挙動が鈍くなる。その隙をついて、烏谷の機体から放たれたレーザーが見事、胴部を貫いた。
●空の戦騎達
戦場は既に勝敗を決していたと言って良い。傾いた天秤を敵――HW部隊は自らに有利な形に戻す事は叶わず、戦術的には殲滅状態に等しかった。部隊が全滅を飛ばして壊滅した時点で戦略的撤退を選んでいれば、まだ部隊の損耗は抑えられたのであるが、バグア側はそれでも基地の破壊を望んだ。
それは、出撃したKVが有する攻撃力、そして能力者達各々の能力を見誤ったのが大きな原因でも、要因でもあった。
聖のディアブロによって、後方へ引いたバーミリオン隊は途中補給を受けていた。バーミリオン隊から戦場を委ねられた中、聖から戦線を突破して基地に向かうと思われるHWへの足止めと牽制を示唆されていたのだが、能力者達の鎧袖一触と言い現わしても良い程の戦果が出ている現状で能力者達が構築した戦線を突破される心配は皆無だった。
「いったらぁーーーっ!!」
聖の機体が中型HWに螺旋弾頭を放ちながら斬り込んでいく。機動力に特化された空を往く白い翼を駆る彼女や霞澄が作った隙を、レイアーティが滑り込むように機体を回せ、己の機体に装備されたソードウィングを発動させた。
「俺はあいつと共に並ぶ・・・・!」
そう、例えるなら比翼の鳥だ。彼女が北欧神話――軍勢の守り手を意する戦乙女の渾名を背負うならのならば――
――加速する。間断なく奔る衝撃をその身に受けながら、レイアーティは敵の姿を照準に捉えた。確実に命中すると確信を得たその瞬間、彼の脳裏には己の得物から放たれた光筋に因って獏産するワームの姿が見えた。
「だから、俺は彼女の剣になってみせるッ!!」
彼女の剣――それは北欧神話にて持ち手の多くを滅ぼした魔剣ティルヴィング。その魔剣が直接滅ぼす事無く済ませた数少ない者、それがヘルヴォルだ。持ち手で無く、彼女の敵を滅ぼす魔剣となろう――
決意と共に高まり、咆哮が上げられると同時に破壊の光が放たれる。軌跡は彼の中に生じたイメージをなぞる様にして、敵の防御幕を破り、装甲を、機体を貫き、破砕した。
「・・・・やった」
「向こうもやってんだ、こっちも負けられないねぇ!」
演技交じりの機動をとる事で中型ワームの気を引きながら、二条らの支援を受けつつ戦線を維持していたジュエルもまた、攻勢へと回った。
巧みな機体操作とアクチュエーターの使用で彼の雷電が敵機の死角へと滑り込むと、重ガトリングがけたたましい破壊の爆音を奏でた。
トリガーを引ききり、残弾が10%になる頃には彼が標的としていた中型ワームは腹部を大きく貫かれて赤い爆炎を上げた。赤々とした炎を青空に開かせた敵は、己の残骸で黒煙を引きながら蒼い海へと落ちていく。
「待ち焦がれすぎて焦げちまったかな、マイハニーは?」
落ち行く様を見送りながら、ジュエルは不敵な笑みをコクピットの中で浮かべたのだった。
残る最後の1機が爆散したのを確かめると、いつの間にかレイアーティの傍に御崎の機体が隣を飛翔していた。小さなキャノピーの向こうで、彼女が微笑んだように彼には見えた。
「やれたか」
何とも言い現わせない喜びを含んだ感情が、そうレイアーティに呟かせた。
最後の中型HWが黒炎を引きながら高度を落としていき、基地の傍である海岸線へと墜落し、爆発。炎上する。その最後を見届けた傭兵達の傍を、彼らが空へ上がるまでの間に必要とした時間を稼いでくれたバーミリオン小隊が飛翔していく。
「我が家を守り抜いた傭兵達に最大級の感謝を」
小隊隊長から九条院を始めとした全ての能力者らに向けられたメッセージに、彼等は言い表せぬ喜びを得た。
危機から脱した基地は結果的に多少の被害を受けたものの、滑走路や燃料庫、弾薬庫や通信施設といった基地存続に必要な施設への損害を未然に防ぐ事が出来た。戦場で無くなった空は青く、島の緑と海の蒼に彼等は作戦目標の達成に対する手応えと、眼前に広がる残った自然にただ心を和ませるのであった。