タイトル:【AW】関東強行偵察マスター:磊王はるか

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/27 05:37

●オープニング本文


●機を得る為に
 アジア戦線にてバグアが大きな動きを見せ始めた頃に前後して、銀河重工では八王子工場の偵察が示唆された。東京に今も尚、存在するだろうと予測されているシェイド、ギガワームの存在を懸念してか、銀河重工では戦力分散を避ける事に憂慮を示していた。
 しかし、この現状のまま手を拱いている訳には行かない。MSIや奉天といった他企業の動きもあり、機を逸しては企業的運営に今後、大きな傷を穿つ事にも成りかねない。
 であるならば、先ずは東京・八王子に存在する自社工場――いや、既にバグアの制圧下であるので元、なのであるが――これらの情報を得てから動向を決するべきだと言う意見によって方針が決された。
 そうして歴戦の勇たる傭兵達に、バグア占領下にある関東――旧銀河重工・八王子工場跡地への偵察任務が伝えられたのである。


●九十九里沖
 潮の香りの強い海の上、傭兵達と彼らのKVを搭載した空母がバグアの制海権からやや離れた、太平洋上・九十九里沖にて投錨していた。既にこの空母の作戦開始時間はさし迫っており、甲板上では複数のKVが整備を終えて発進体勢を整え始めていた。
「さて、今回は銀河重工からの依頼で、貴方達には東京・八王子への偵察を行ってもらうわ」
 豊かな金髪を束ねた軍人と思しき女性が傭兵達の前に姿を見せた。左の目には眼帯を付けており、まるで美丈夫の海賊にも間違えそうな程の凛々しさを集まった能力者達に感じさせる。
「今回の強行偵察の内容は分類的には隠密偵察にカテゴライズされる物であり、銀河重工の要望に沿って得た情報を、確実に後方へと持ち帰るのが主目的となる」
 持ち帰る、の部分を少佐は強い口調で繰り返す。全滅など持っての外、何としても情報だけは持ち帰れ、と言う事だろう。
「また、今回の作戦には君らの他に偵察員として傭兵を1名、こちらからつける事となったわ。エースとまでは行かないけれど、そこそこ熟練した人員だからいきなり撃墜なんて事はない筈よ」
「はじめまして。私、ご紹介に与りましたエルフリーデと申します。皆様と同じ傭兵の身ですが、よろしくお願いいたしますね」
 説明をしていた少佐の後ろから金髪の少女が姿を見せる。海風の吹く艦船の上では、彼女が身に纏ったメイド服は、あまりに違和感があった。と言うよりも違和感そのものしかない。一方で、楚々とした印象を醸し出す彼女の相貌は、欧米人とはまた違った印象が感じられる。独逸系だろうか、などと思う者も居た。
「・・・・傭兵は随分と衣装に自由が利くのね、羨ましい話だわ。ま、それは兎も角。今回の偵察任務の結果は今後の戦況に少なからず影響を与えるわ」
 言外に、だから確実にこなして来いと少佐は伝えてくる。その中には情報を持ち帰るのが任務であるが、自分達に必ず生還しろと言う意味合いも含まれているのだろう。

 少佐からは2つのルートが提案された。九十九里から侵入し、山間を低空で抜けつつ千葉から埼玉方面へ迂回、その後北側から八王子へと南下するというルート。
 そしてもう一つは侵入後に千葉市側へと抜け、そのまま湾岸地帯へ侵入。東京湾上空を突破して行くというルートだ。
「現地のバグアがどの程度の規模の戦力を展開しているのかがいまいち不明でね。東京湾辺りは確実に防衛ラインが構築されているだろうから、私としては死地に飛び込むような真似は避けたい所だわね。一方で千葉から埼玉へと抜けるルートも東京湾へ抜けるよりは幾らかマシ程度、といった所かしら」
 もしそれ以外で可能性のあるルートがあるならば、別にそれでも構わないと少佐は言う。
「兎も角。どうにかして八王子まで行って、あのギガワームの2番艦が在るのかどうか見てきてくれると有難いわ。それが叶わぬ場合は、敵の戦力配置を極力拾い上げてくる事。ギガワームの方が重要だけれど、敵戦力の概略に繋がる情報も大事だわ。それと、その子の面倒もよろしくね」
「若輩者ではありますが、皆様よろしくお願いいたしますね」
 柔らかな笑みを浮かべる彼女を一瞥した後、隻眼の少佐は艶やかな笑みを傭兵達に向けてそう告げるのであった。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
古井安男(ga0587
15歳・♂・FT
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
アイリス(ga3942
18歳・♀・JG
アンドレアス・ラーセン(ga6523
28歳・♂・ER
榊原 紫峰(ga7665
27歳・♂・EL

●リプレイ本文

●夜明け前
 夜の海、甲板上の風はこの時期でも冷やかだ。闇の帳が未だ世界を覆い隠す中、空母では既に能力者達の機体が発進準備を終えていた。偵察ルートは事前のミーティングで決定され、榊原 紫峰(ga7665)から乞われて空母の協力を得るの少佐も参加していた。
 複数のルート選択の中に相模湾まで出て、偵察後の機体回収を新条 拓那(ga1294)やアイリス(ga3942)らから空母に依頼出来ないかと案があった為だ。
「相模湾付近は既に敵の勢力圏内だ。この空母のみでは無理だ。それに回収地点まで時間が足りない」
 次いで浜松基地か松本空港辺りはどうだろうかと榊原が続けると、少佐はそれならばと口を開く。
「浜松の手前、静浜基地が最も近い。訓練基地なので規模は小さいがな」
 お前達が一度逃れる地点には使える筈だと重ねて告げる。どうやらその点は折込済みらしい。手際の良さを眺めていたアンドレアス・ラーセン(ga6523)は隻眼の彼女を眺めつつ、通じ合う物があるような、無いようなと首を傾げていた。
「‥‥何か私の顔についているのか?」
「いや。同類か、敵か‥‥ってね」
 ニヤリと笑みを零すアンドレアスに少佐はおかしな奴だと一笑に付した。
「お前は私の弟に似ているな。雰囲気だけだが」
 少なくとも、人類の敵に対する戦士としては同類だろうと答えられ、アンドレアスは確かにと微笑で答えた。
「兎に角だ、色々方針で揉めた様だが。この船はお前達が離陸した後、この海域から撤退する。作戦終了以後は静浜基地へ向かえ」
 作戦後を心配する新条や終夜・無月(ga3084)らを納得させる様に言うと、少佐は作戦室を後にした。夜明け前、もうじき出撃も近い。
「エルフリーデ‥‥今回は‥‥宜しくお願いします‥‥」
 無月は今回同行するエルフリーデに挨拶と共に握手を申し出ると、彼女は一礼した後に手を握り返した。
「私は今回、撮影などの偵察任務に注力します。皆さんも任務の遂行に尽力して下さい」
「そうだ、一つ言っておく事があったんだ、未早」
「‥‥なんでしょうか?」
 作戦室から月森 花(ga0053)や古井安男(ga0587)達も去った後にリディス(ga0022)が水上・未早(ga0049)を呼び止めた。彼の声に応えたは水上は同居人であり家族と言う、親しい存在だ。水上は何を言うのだろうかと考えていると、リディスは徐に口を開く。
「あのな、折角出来た彼氏が悲しむから無茶はするなよ。隊長命令だからな」
 唐突に、しかも隊長と言う立場からそんな事を言うなんて、ずるい。それになんて恥ずかしいんだろう。脳裏には鈴の様な名前の彼が浮かび上がる。
「‥‥わ、わかった」
 ん、もう。しょうがないか、家族なんだもんね。
 そう思い直すと、愛機の元へと駆けて行くリディスの姿を水上は苦笑しながら見送るのだった。


●強行偵察
「偵察任務もこれで一体何度目だ‥‥全く、貧乏暇なしとはよく言ったものだ」
 覚醒したリディスは機上から辺りの警戒を行いながら、彼女は呟きを洩らした。
 少佐は隠密にカテゴライズされるとは言ったが、実際の所は強行偵察と同義だった。高々度まで各機は上昇し、そのまま九十九里から侵入する。山間部では低空に切り替え、都市部に近づくとまた高度を取った。
 一行が予定の千葉、埼玉経由のルートへと差し掛かった頃に、彼らは初めて敵と遭遇した。
「無月、水上‥‥如何やら敵のお出ましだ」
 前衛についた御影・朔夜(ga0240)や終夜、水上機が敵の接近を察知すると共に、編隊は散開。偵察と対地班は回避に徹し、後衛を護衛とする事で水上達は牙を向いた。乱戦の中、バルカンを牽制にしつつ、翼刃で御影が斬り込んでいく。
「3機‥‥哨戒に出てきたところね」
「空に帰るがいい‥‥」
 御影が敵の赤光をバレルロールで躱しつつ、返礼とばかりに水上機から速射されたレーザーがHWを貫き、朝焼けの空に爆炎を生じさせた。残る2機を終夜のKA−01から放たれたレーザーが襲い、締め括る様にターンした御影がバルカンで牽制して、生じさせた隙を逃さずに翼刃で斬り裂く。
「まだまだオードブルだね‥‥」
 東京にはもう1機のシェイドが居る。月森は警戒の糸を弛める事無く、周囲へのジャミング中和を展開し、編隊は山間部を抜け、埼玉へと突入した。

 川口付近で彼らは再度敵と接触した。次は30数機の小型CWで、半数の機体が形状の変化からカスタム化されている事が知れる。まともに相手は仕切れぬと各機は榊原の煙幕銃を利用して、敵の挙動を鈍らせた刹那にブースト加速を用いる事で、一気に空戦地域から離脱する。其処までの移動の最中でも、彼らは可能な状況での撮影や地上戦力の配置などの戦略情報を蓄積していく。少なくとも、遭遇した敵の数と分布地域は着実と言って良かった。
 そうして、多数の送り狼を連れながらも目的地と命じられた八王子の北側へと取りついた彼らを待ち受けていたのは、灯の消えた街並みが陽光に照らされ行く中から共に現れた、無数のタートルワームであった。
 防衛線を構築された地上からの砲火は脅威に値するも、高速飛行する古井達の機体を捉えられたのは極僅かであり、その損傷も軽微だ。被弾による警告音が各機体のコクピットから発せられるが、月森達は迷わず、編隊を崩す事無く、まるで研ぎ澄まされた刃の如く斬り込んでいく。
「音速のパパラッチーズ、再び〜! ‥‥って、相変わらず熱烈すぎる歓迎で涙が出てくるよ、ホントにもうっ!」
 通常の戦闘機とは異なる軌道を持つHWが新条のディアブロに迫る。砲塔が光を生じさせた刹那、アンドレアスのディアブロが付与力を高めたライフルから放たれた一撃に貫かれて爆散する。
「これ以上寄ってくる前にちょっくら片付けて来るわ!」
 御影機や終夜機もまた、それに続く。かつて新条が実現不可能と思われた作戦の時に訪れた戦地に不思議な親近感を覚えながらも次々と姿を見せる小型、中型HWに向けて機首を向ける。
「これおでもちったぁ強くなったんだ。前みたいな無様な姿は晒せないっしょ!」
 擦れ違い際に中型HWにG放電装置をブチ咬ます。一時強化されたと思しき中型HWは体勢を崩し巨大鎌の動きを鈍らせる。
「仕事は完遂、皆生還で完璧に成功させるよ!」
 現地に赴いた経験のある新条の経験をシェアした傭兵達は、それを参考にしつつ敵との空戦を繰り広げていた。しかし、数の差は無常であり、彼らの網を突破した敵数機が重要任務を得た機体と判断したのか、エルフリーデや月森のウーフーへとプロトン砲を放つ。
「ウーフーを守れ!」
「分かってるっての、この野郎ッ!!」
 リディスの声に呼応して古井が危機迫った表情でR−01の操縦桿を握り、一気に急降下を図った。垂直に近い降下をかけ、引上げの効くぎりぎりの高度を把握しながら対空砲火を機首を振る事で躱す。
 そうして機体の特殊能力で強化したロケットランチャーを手近な砲台へと叩き込み、何とか1機を破壊する。そのまま予定した高度で機体を急激に引き起こす。しかし、敵はその瞬間を逃さずに砲火を向けた。
「‥‥しまった!」
 地対空の攻撃は難しい物だが、敵はそれを数によって崩した。地上から10機強から形成された弾幕は古井の機体を捉え、特殊合金に大小の穴を穿っていく。特に、翼端をもがれた左翼の被害は飛行に支障が及び始めていた。
「何でだよ、畜生ッ!!」
 上がれと強い意志で捻じ伏せる様にして、計器があちこちで警告音を鳴らす中、古井は体勢を立て直すのに集中する。
 気力を篭めた願いが叶ったのか、消失した左翼によるバランスの失墜を出力で補う事で何とか体勢を整える。今のR−01の状況は、撃墜には至らぬ奇跡的な状況と言って良い。
「‥‥もうすぐ工場跡です。私達は撮影に集中しますので、回避に専念して下さい」
 エルフリーデが損傷を受けた古井に告げた。――気に食わない。けれども、自分が部隊の足を引っ張る訳にもいかない。
 そう思い、古井が戦隊の内側へと収まる頃には地上と空中、双方の砲撃は更に苛烈な物へと変化した。一発一発が破壊の権化であるソレを、月森や新条らの機体が巧みに躱していく。
「そう簡単にはいかないと言う事ね‥‥」
 エルフリーデを援護しつつ、月森が着実な照準をもってロケット弾で応戦する。
「さて、見えるのはHimmel og Helvede‥‥天国か地獄か、ね」
 そのまま機体を反転させ、加速を行う事で敵HWの後方を得ると、アンドレアスは引鉄を引いた。速射された光の束がFFを貫通し、敵機が黒煙を引いて落ちる。
「明けない夜は無いんですよ‥‥」
 更に終夜のミカガミが集積砲を放つ事で着実な戦火を上げていく。かつてとは自分達は成長している。しかし、敵もまた精鋭であった事から終夜のミカガミもまた大小の被弾を強いられていた。
「次だ! リディス、アイリスッ!」
「了解だ! 埒を開けてやる!」
「集まってくる前にここは一気に突破するです!」
 次いで対地班のリディスとアイリス、2機の雷電が有効射程ぎりぎりの所で積載していた2連、8連のランチャーからロケット弾を吐き出した。防衛の任についていたと思しきタートルワームの幾体かに幸運にも命中し、更に周辺の外壁や瓦礫を掘り返す。
 彼女達の一手は、このあとに続く月森や榊原達、偵察隊への道を切り開く為の物だ。2機のウーフーとS−1、損傷したR−1の4機が其々担当した方角から撮影を含めた情報収集を行う。その間の彼らへの攻撃は、リディスやアイリスが食い止める。
「今の、当たったかと思ったですよ〜」
 涙目になりながらも、アイリスはマニューバを巧みに用いる事で寸での所でバグアの攻撃を躱す。リディスもまた、接近する敵機にこちらから近づく事で注意を逸らしていた。
「増援、更に接近しています! 終了次第合図を!」
 焦りの色を含んだ声が通信機から漏れる。それは水上や御影達も一緒であった。躱し、時には御影のワイバーンが刃の翼で敵を切り裂き、撃ち漏らしたワームを水上の高分子レーザー砲がFFを貫いて爆砕させる。
「敵が多すぎます‥‥!」
「‥‥またこの展開か」
 以前の名古屋戦などと比べ、期待の整備も含めて明らかに自分達は成長している。けれども、水上は焦燥感をかき消す事は出来なかった。一方、御影は達観とも諦観とも取れる表情を潜ませながら、スロットルを開けて出力を上げると新たな獲物へと襲い掛かった。
 出撃してから空は白み、青の色が増してきていた。
「――終わりました! 全機体、離脱フェーズへ!」
 徐々に青い空を多くの黒点が飛来してきた頃、月森の声が各機の通信機に届いた。遂に旧八王子工場の撮影がなされたのだ。となれば、後はこの情報を確実に本部へと伝える為に基地まで一目散に撤退するだけだ。
「撤収準備、行くよ!」
「了解!」
 編隊を組みなおし、榊原が撤退用に残していたラージフレアと煙幕弾が可能な限り撒かれたと同時に、偵察部隊は残存連力でブーストをかけた。急激に襲い掛かるGに歯を喰いしばりつつ、最も敵の脆い箇所へとシェブロンの如き編隊で砲火を束ねて突き進む。
「全機離脱‥‥今のうちに、急いで‥‥」
「八王子‥‥あの撤退戦‥‥必ず‥‥いつか奪還する‥‥」
 高加速で瞬く間にかの地から離れる最中、終夜は過去を想い、新たなる決意を心に秘めた。あの土地を、妹を失った土地を必ず取り戻すのだと。
 咄嗟の撹乱により、傭兵達の機体を一時的に見失ったHW達は次々と隊列を組み、追撃へと移行した。しかし、一気に距離を取った傭兵らの機体に追い縋るのは難しいのか、それとも空に上がった数自体が少ないのか、嘗ての戦い程の数が上がってきている訳では無いようだった。


●脱兎の如く
 編隊の中でも比較的損傷率の低い御影機が敵の群で最も手薄な部分へと錐を突き立てるが如く加速する。敵からの圧力を正面から受け、アイリス達は出血を強いられた。しかし、敵の地上支援からは既に届かぬ位置にまで上昇しており、生還出来る可能性はまた残されていた。月森達に離れる事無く着いてきたエルフリーデのウーフーも被弾は激しく、所々から黒炎が漏れていた。
 空の囲いを抜けた頃には各機酷い有様ではあったが、工場に辿り着きさえすれば人の良いメカニック達が寝食を忘れて修繕に取り組んでくれる程度には無事であった。
「敵の囲いは突破したが、基地の位置は分かるか」
「大丈夫です。方角は確認出来ています、その証拠に右手を」
 榊原はエルフリーデに言われ、コクピットの中で視線を右に向ければ富士山が見えた。このまま高度を取り、静岡を抜け、焼津辺りまで辿り着けば基地は目の前だ。
「昔のルートを戻ってるみたいだなあ」
 戦線から離れたが故の安心感からか、新条が姿をそのままにした富士山を眺め、微かに安堵する。
「しかし‥‥思っていたよりも敵の圧力が弱かった気がします」
「そうだな。どちらかと言えば、空戦は精鋭による迎撃に偏っていた為に、タートルワームの数も少なかった」
 敵の懐に突入したのだ。苛烈な反撃があって然るべきなのはアンドレアスも熟知していた。無論、今回の敵の挙動もその言葉が適当と思える程だとも。だが一方でエルフリーデの指摘にも頷ける点がある。
「敵に位置を気取られれば脅威だけど、その敵の数が少なかった‥‥ボクが思うに恐らくは少数精鋭で肥大化した軍勢をシェイプしたんじゃないかな?」
「そのシェイドも出てこなかったしね。きっと別の、必要とされる戦場に向かったのかも知れないわ」
 関東の部隊は量よりも質を求めた結果なのだろう。終夜の言葉に月森も頷く。後方には御影が殿としてついていたが、無事に飛行を続けている。
「八王子付近は雲霞の如くといった感じでしたけど、この辺りは手薄ですのね」
「絞り込んだ結果として予備戦力が減ってるのかも知れない。前よりも明らかに少ないし」
 アイリスの言葉に新条が同意を示した。若しかしたらアジアへ多くの戦力を配し、関東へは精鋭部隊を中心に駐屯させた可能性がある。その事実に彼らが気づいた頃にはその視界に帰投地点とした静浜基地の姿が見えてきた。損傷の酷い古井や月森から次々と着陸し、余裕のあったリディスとアイリスの機体が最後に残り、二機によるアプローチを見事に決める。
 愛機から降りた能力者達の鼻腔には土と潮の混じった匂いと、足には踏み締める事の出来る大地が。その匂いは彼らに生を強く実感させた。確かに自分達は帰ってきたのだ、と言う事実とそして、大きな戦端がまた開かれる事も――

 そうして無事帰投した彼らの情報は上層部へと上げられ、その結果としてギガワームが存在しなかった事実と関東一部の戦力情報が齎されたのであった。