タイトル:【Hw奪還】赤翼の襲来マスター:磊王はるか

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/12/25 02:24

●オープニング本文


 ――カナダはオタワにあるUPC北中央軍の戦艦ドック。
 そこには完成したばかりのユニヴァースナイト弐番艦が船体を横たえ、出航の時を待っている。
 船体は壱番艦と同じ、白地に赤のラインが入ったカラーリング。しかし、壱番艦と異なるのは、特に目を引く艦首に付けられた対艦対ドリルだろう。その上に主砲の対衛星砲SoLCが燦然と輝き、艦橋の前後に三連装衝撃砲が搭載され、取り囲むように連装パルスレーザー砲が設置されている。
 また、艦底部には艦載機を発射させる遠心カタパルトが2基備えられている。
「いよいよですな」
「ああ。これで我が軍もバグアに後れを取る事はなくなる。奪われた地を取り返す事も出来る」
 弐番艦を感慨深く見つめる2つの人影。1つはUPC北中央軍を指揮するヴェレッタ・オリム(gz0162)中将。もう1つはこの弐番艦の艦長覇道平八郎中佐だ。
「欧州軍がグラナダ攻略に動いてくれたお陰で、東海岸側のバグアの主力部隊も今は迂闊に軍を動かせまい。西海岸の都市を奪還する好機だ」
 オリム中将は壁に備え付けられたモニターを操作し、北米の地図を呼び出す。西海岸の南に、作戦の目標値が赤く点滅していた。
「ハリウッドですか」
「正確にはロサンゼルスだが、ハリウッドと言っても過言ではない。ハリウッドを取り戻す事が、本作戦の最優先事項だからだ」
 ロサンゼルスはまだ完全なバグアの支配地域ではないが、市街地にバグアの侵入を許してしまっている競合地域故に、ハリウッドで映画が制作できない状況にあった。
 アメリカ人にとって映画はアイデンティティの1つであり、北アメリカの「歴史」なのだ。
 ハリウッドを取り戻す事で、北アメリカ人の士気を大いに高める事が出来る。それは消耗品でしかない一般兵の補給に直結していると言えた。
 もちろん、それだけではない。北アメリカを南北に貫くロッキー山脈の存在だ。バグアといえども一部の機体を除き、ロッキー山脈を越える軍の展開は鈍るのだ。東海岸側のバグアの目がグラナダに向けられている今なら、西海岸側のバグアとメキシコのバグア軍を相手にするだけで済む。

 斯くして、オリム中将の指揮の下、ロサンゼルスならぬハリウッド奪還作戦が開始される事となった。


●承前
「とうとう弐番艦を主軸とした、ハリウッド奪還作戦が発令された。今回の依頼ではロサンゼルス南東に存在するサンディアゴ近郊で構築される、対バグアを想定した防衛ラインを形成、維持するのが主目的だ」
 作戦指揮所において、集まった傭兵達の顔ぶれを確かめながら、マリア・ヒルデブラント(gz0149)少佐は作戦の説明を開始していた。この防衛ラインは南米――メキシコ方面から来襲するバグアの来襲を阻止すると同時に出血を強いるラインであるとも説明する。
「欧州でのグラナダ攻略の動きにより、北米のバグア達も向こうに注視している現状を上手く利用して、失地回復を狙いたいと言うのもある。何せロス、ハリウッドは北アメリカの住民にしてみれば、ある種のシンボルとも言える土地だしね」
「要するに、敵に対して火事場泥棒しろって事ですか?」
「乱暴に言うとそうかも知れないわ。けれど、元々は私達の物。別に泥棒じゃあ無いわよね」
 ふと抱いた疑問を投げかけた傭兵の一人に、あるべき所にあるべき物を取り戻すだけだから少佐は珍しく愉快げに笑みを返した。
 挙げられた要素を羅列すると無謀と言う言葉からは程遠い、現在の状況から得られた数々の情報の積み重ねによる、堅実な奪還作戦なのだと言う事が傭兵達にも理解出来た。
「防衛ラインは徐々に完成に近づきつつある。けれど、展開が遅くとも敵の戦力は馬鹿に出来る物ではないわ。弐番艦が動く以上、それなりの戦力がサンディエゴに投入されると見て間違いないでしょうね」
 ユニヴァースナイト弐番艦は竣工して間もない。故に、早々に壱番艦がかつて地に塗れさせられたような二の舞となる事は何としても避けたい。それはUPC軍内での意見のみならず、戦線を打開出来る人類側の象徴とも言える騎士の如き優美な戦艦と胸中にて思う、傭兵達にとっても同じ事である。
「失地回復のまたとない機会。奮戦して頂戴」
 そう、少佐は言葉を締めくくった。


●ロサンゼルス市街
「どうやらUPCは物資や戦力の動きからして、サンディエゴに防衛ラインを構築する積もりのようね」
 女の声が人気の無い街の一角、瀟洒とも言える落ち着きのある建築物の中で響いた。その外では血の様に赤い夕日が空を、大地を、人々が営む街の全てを紅に染める。女は窓辺へと近づき、カーテンを開いた。すると彼女の居る室内もまた、紅へと変わる。
 無論、彼女の傍らにあった白と黒で構成された市松模様のボードとそれが置かれた落ち着いた調度の卓、同じく白と黒で彩られたチェスの駒もだ。
「相手の陣は恐らくこう来るでしょうね、となると‥‥私はこちらに振って、そうね‥‥ワームを使った搦め手が良いかしら。それとも正攻法が良いかしら? 傭兵さん達はどう動くのかしらね。楽しみだわ」
 女は夕焼けの中でゆっくりとチェス盤の置かれたテーブルから離れた。己に今回、貸し与えられたモノを受け取る為に。

 空に闇の帳が引かれ、夜が訪れた頃。自らが指揮する軍が駐留する基地へと戻った女は己に貸し与えられた機体へと近づき、そのコクピットへと身を滑り込ませた。途端、コンソールに光が点り、現在の機体情報を表示させる。
「司令官から今回の為に貸してくれたこの子はあの戦場で何になるのかしら? クィーン? それともビショップ、ナイト? ああ、どんな戦局を生み出してくれるのか楽しみだわ!」
 この子とは今回だけの逢瀬だから、楽しまないとね。彼女はそう呟きを漏らすと指を躍らせ、キャノピーを閉じる。途端、周囲の照明が光を生じさせ、彼女の乗り込んだ機体とその周囲を照らし出した。
 闇の帳を払われた場所は巨大な格納庫。そうして姿を見せたのは、傭兵達にとって強敵と目された二色の赤を機体の色にしたステアーと、中隊規模のヘルメットワームとキューブワームの混成部隊。ステアーの側面には六枚羽の天使をモチーフにしたエンブレムが与えられており、隊の指揮を執るだろう搭乗者『セラフィム』を表していた――

●参加者一覧

ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
サルファ(ga9419
22歳・♂・DF
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF
月影・白夜(gb1971
13歳・♂・HD
グリム・グラム(gb3503
24歳・♂・GP
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG

●リプレイ本文

●サンディエゴ近郊
 対バグアを想定して構築されたUPC北中央軍による防衛ラインがサンディエゴ周辺で構築されつつあった。その中にはキョーコ・クルック(ga4770)や井出 一真(ga6977)を始めとした能力者達も布陣されており、磐石の体勢を整えつつあった。
 けれども、それをただ拱いて待つ程、敵は甘くは無い。待機していたラウラ・ブレイク(gb1395)達の下へ敵集団接近の報が届く。周辺警戒を務めていた部隊からの報告ではやや大型のHWと通常のHWが合わせて7機。そしてそれとは別に超高速で迫る飛行体の存在が知らされようとした時、通信機からノイズが発せられ、部隊が接近する敵の攻撃を受けた事を知る。
 敵の接近を知った傭兵達は各々が駆る機体へと搭乗し、即座にじき戦場となる大空へと舞い上がった。彼らがサンディエゴ近辺に展開し終えた前後から、通信に障害が発生する様になり、月影・白夜(gb1971)やグリム・グラム(gb3503)達が対応するべき敵――CWの存在があるのを確かめるや否や、キョーコやサルファ(ga9419)は肉眼による探索を開始する。既に彼等の存在する空域はCWの放つ不協和音に満ち始めており、機体を操る彼らに頭痛を強いてくる。
「あいつら、早く見つけて叩かないと!」
 前回に痛い目にあったキョーコが接近しつつある敵影の中からCWを確認すると、主にCWを担当する事となったC班に属する機体が倒すべき獲物へと接近するべく機首を向ける。
「周りの敵は私達が引き受ける。その間にCWを」
 一方で最も数の多いHWを割り振られたB班に属するラウラやアンジェリナ(ga6940)らは敵の放つプロトン砲を回避しつつ、砕牙 九郎(ga7366)や井出らと共にHWとの戦闘を開始した。
 敵の砲撃を躱し、時には被弾しつつもグリムや月影の放ったロケット弾やライフル弾がCWに着弾し、敵は姿勢を崩す。
「あったま痛ェ‥‥ホントに効いてんのかコレ」
 走る頭痛にグリムがぼやく。実の所、岩龍に搭載された特殊電子波長装置はバグアのジャミングを中和するだけで頭痛を緩和させる訳ではない。初の戦闘という事もあってか、まだ経験不足な彼は自分の迂闊さを少しばかり悔いた。けれど、他の仲間はそれなりに戦歴を積んできている。場違いな物を感じながらも、彼は電子戦機に搭乗している以上は戦域に長く存在するべきだと考えていた。
「あんなに綺麗だった街も荒れ果てたわね‥‥」
 戦いの中、下方に見える町々の様子にラウラが呟く。徐々に頭痛が減退していく最中、仲間と連携して1機のCWを撃墜する。途端、急接近してきた機体が彼女らの前に姿を見せた。血塗られた色の翼持つ、敵屈指の戦力――
「ステアー!? あの紋章は‥‥星座ではないようだけど」
「‥‥織天使、だと?」
 擦れ違い様に機体の紋章を確認したラウラとサルファが呟く。ゾディアックが現れて以降、彼らの乗る機体には対応した星座の印が与えられていた。FRしかり、ステアーしかり。しかし――
「搭乗者はいったい‥‥?」
 如月がステアーが放つ紅光を躱しつつ疑問を口にする。しかし、それに対する答えなど無く。彼女達が展開する戦域に怪音波が満ち始め、機体制御に障害が起き始める。
「早く音の元を潰さなきゃ‥‥!」
「学生だからと‥‥甘く見ないで下さい‥‥!」
 空に浮かぶ立方体目掛け、月影の翔幻がライフル弾を放つ。頭痛に耐えながら撃つも、破壊には至らず、サルファのガトリングが火を噴く事で止めを刺す。
「アレの撃墜を最優先だ!」
 アンジェリナのミカガミが火線を作り、残るCWにダメージを与え、撃墜していく。そうして戦場のCWを駆逐した事により、彼女達が受ける頭痛は確実に軽減されていた。


●織天使
「こちらコールサイン『Dame Angel』行くわよ!」
 CWの干渉を根絶させると、アンジェラ・ディック(gb3967)のS−01改が乱戦となりつつある中、敵機を盾にする様な挙動をとりながら、ステアーの動きを認識する。他機と連携しつつ、敵火砲の射線や直接接近を避ける事を前提にしながら狙撃を試みる。
「射線に挟み込む‥‥そんなの織り込み済みよ」
 同じく金城 エンタ(ga4154)の機体がステアーから敵機を盾にする様に機動するも、紅色の光は間にいたHWを貫いてディアブロへと牙を剥く。左翼部に着弾し、金城機が黒煙を上げる。
「盾にすれば自由に振るえないと思っていたのに‥‥」
「時には捨て駒も必要。貴女はそろそろチェックかしら?」
 敵機からオープンチャンネルで機械加工された女性の声が響く。次いで無数のミサイルが蜘蛛の子を散らすかの如く放たれた。それに反応したアンジェラがラージフレアを放つ事で回避を試みる。
 無数に放たれた小型ミサイルの群が、執拗に金城のディアブロやアンジェラ達に向かって襲い掛かった。
「ホント、冗談キツイわよ!」
 反応してラウラがスタビライザーを起動、放電装置を一斉発射で迎撃を試みる。アンジェリナやグリム機を庇う事を含めての行動は数にして半分にさせるも、残る半分はその火線を抜けて牙を剥く。
「不味いッ」
「ほらほら、躱してごらんなさい!」
 左翼を損傷したが故に機体制動に難のある金城機は次々とミサイルの洗礼を受け、各部から小さな炎を上げ、速度が落ちる。
「私の名前はセラフィム! 狼が羊を食い千切る様に貴方達の防衛線をズタズタにしてあげるわ!」
 止めとばかりに最後の一撃を与えようとしたその時、
「それ以上やらせませんわ!」
「それ以上させるかよぉ!」
 ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)が駆る雷電が敵の行動を阻害するべく、再接近する。アンジェリナや砕牙達が中型のHWを叩く最中、それは勇猛というよりも無謀と称すべき行動だった。
「由梨ちゃん!」
「ええ!」
 ジュエルの声に答えて如月・由梨(ga1805)が乗機であるディアブロから先程の返礼とばかりに無数の小型ミサイルが放たれる。それに追従する形でジュエルは機体をブースト。アクチュエータを起動しつつAAMを放ち、ステアーへと取り付くと翼刃を発動。
 畳み掛ける様にして放たれた斬撃は敵機の翼の一部を切り裂いた。
「これは‥‥厳しい状況ですね。けれど‥‥」
 阿修羅を駆る井出が機体を傾け、姿勢を整えると次の目標を照準に捉えた。
「ソードウィング、アクティブ! 往けぇ!!」
 彼は砕牙の雷電等と連携しつつ、さらに2機のHWを撃墜する。翼刃に刻まれた機体は黒炎を生じさせながらサンディエゴ市内へと墜落、爆発する。
 あの赤い機体――ステアーに乗るシモンに拘りを持つ井出は気合を新たに篭め直して、次の標的へと意識を向けた。
「編隊を組んで当たりなさい、弱い機体から各個撃破してやるのよ!」
 援護とばかりに赤い光が放たれる中、セラフィムの声に従い、残ったHWがシェブロンを組み始める。そうして標的にしたのは月影の機体――翔幻だ。
「鐘を守護する白狼‥‥そう簡単に堕とせるとは御考えになりませぬように‥‥」
「そうかしら? 身の丈に合わない言葉は自らを貶めるだけよ」
 彼女の言葉が終わるや否や、束ねられた赤光が月影機を貫いた。右翼部を根元からもがれた形となった機体は錐揉みしながら落下していく。
「‥‥ッ!」
 推力を挙げて無理矢理機体を立て直し、街並みを破壊しながら人型へと可変させて不時着する。しかし、敵はそれだけでは済ませなかった。後を追う様に高度を下げたステアーが大推力を生かしたまま地表付近で可変し、アスファルトを撒き散らしながら着地。そのまま紫の光線を放つ。
「しまっ‥‥」
 咄嗟に瓦礫に身を潜ませ、両腕でコクピットを庇った。だが直撃を受けた彼の機体はそのまま沈黙してしまう。
「まず1機、ね」
「ちっきしょう、やってくれんじゃねぇか!」
 ジュエルの雷電が変形し、着陸ざまに翼刃を発動。巨体が加速し、接近するも敵は彼の頭上を軽く飛び越えて躱してしまう。
「クィーンは縦横無尽に動くわよ?」
 返礼とばかりに放たれたプロトン砲が雷電の右腕を狙う。装甲が厚いお陰でもぎ取られるに至らずも、電装系が焼き切れたのか、肘から下が死んでしまう。
「流石にきっついな、こいつ!」
「さっきはよくもやってくれたね!」
 サルファの煙幕に紛れながら着地、変形した金城のディアブロがステアーの背後から襲い掛かる。そのままチタンファングで殴りつけると瞬時に向きを変え、体勢を立て直した所をまた襲う事で相手の姿勢を崩させる。
「‥‥ッ、さっきの仕留めそこなった奴!」
「これが韋駄天の得意の戦い方です‥‥思うように動けない気分、いかがですか‥‥?」
 このまま翻弄してやる。そう思った次の瞬間、金城は殴りつけていた筈の敵を見失っていた。己の機体の行動限界よりも敵はそれを上回っている。その点を失念したが故の出来事であったが、それに気付いた時には既に遅し。
「貴方はルークね。その機動力は驚嘆すべきものだわ‥‥この機体程じゃないけどね」
 言葉が終わると同時に赤光が右後方から襲い掛かる。気付いた金城は機体を左へ滑らせるも翼と右腕に損害を受けてしまい、正面のパネルに警告が表示されると共にアラートが甲高く鳴り響く。
「傷をつけたお返しよ、これじゃあの方に怒られちゃうじゃない」
 少女が拗ねた様な様子で声が届く。金城は舌打ちしつつ、滑らせた機体を敵へと向きを変えながら防御体勢を整える。
 ――劣勢。
 赤い翼を持つバグア製の機体は己に与えられた能力をフルに注ぎ込んで、金城機を圧倒する。そんな中、サルファの雷電が煙幕弾を撒き散らしながら空中で変形し、発生した煙幕の中に着地する。
「ったく、なんて機動だよ‥‥」
 呟きつつ、煙幕の中から金城機を襲うステアーに砲撃を行う。無数の弾丸が織り成す線に追われながら、ステアーは追撃を諦めて距離を離すと次は貴様だとばかりにサルファへと接近する。一方でサルファの雷電もまた、ロンゴミニアトを構えて接近戦へと縺れ込んだ。
「へっ、撃墜できるとは思っちゃいねえよ」
 隙さえ誘発させられれば俺の勝ちだと心中で思いつつ、放たれた赤光を回避する。次いで着陸した砕牙機もまた遮蔽物を利用しつつ、スタスターライフルを構え、銃弾の雨を繰り出した。
「連携して弾幕を形成出来れば‥‥」
 勝機はある。機会を掴み、何としてもこの防衛線を確実に護らなければ。そんな思いを抱く砕牙の攻撃はステアーを捉え、着実に先程までの劣勢を覆すべく歩みを進めさせていく。
「はぁぁぁっ!!」
「血染めの機体に天使は似合わないよ!」
 アンジェリナのミカガミもまた、敵の隙を突いて雪村による攻撃を試みるも、乱戦の状況ではその刃も自由に振るう事は難しかった。同じく雪村を振るうキョーコのアンジェリカとも即席の連携を試みたが、敵は刃の届く位置へと接近する前に火線を形成し、防護陣として振舞うのだ。
 相打ち覚悟であれば刃を届かせる事も可能だが、それで相手を殺れなくては只の犬死だ。多少の無茶もキョーコは覚悟していたが、単機でありながらこれだけの数のKVを相手に出来る機体が隙を見せずにいるのでは、その無茶も難しい。けれども――


●辛勝
「旦那の子供産むまでは死んでも死にきれないんでね! 無茶させてもらうよ」
 砕牙の砲撃が幸運にもステアーの足を止めさせた、刹那の隙。それを逃さぬとばかりにキョーコ機がブーストを用い、更にスタビライザーにエンハンサーを併用して雪村を携えて突撃した。
「‥‥特攻ッ!?」
 咄嗟にステアーが腕部をそちらに向け、紫光を放つ。四門の砲火が機体を傷つけるも、雪村の刃はステアーの機体胴部を袈裟に切り裂いた。
「こいつなら確実に効くはずだ!」
 更にバルカンを囮にして接近した井出機は着地際のステアーにブースト加速し、尾であるサンダーホーンを突き立てた。更に電磁パルスを放つ事で追撃を加えていく。
「こ、こいつ‥‥!」
 パルスを受けながらもステアーは突き立てられた尾を力任せに引き抜くと、後方へと跳躍する事で距離をとる。
「‥‥ふぅん、なかなかやるじゃない。貴方達」
 月影の残した煙幕の中、またも小型ミサイルの雨が各機に向けて放たれる。煙幕を頼りにして月影やグリム達が回避を行う中、真紅の機体は異形から飛行形態へと姿を変え、勢い良く上昇。空へと舞った。
「もう少し遊んであげても良かったけど、機体を壊してまで勝負に拘るのはプレイヤーとしては失格だから」
 そう、織天使の紋章をつけたステアーの搭乗者は言い残すと瞬く間に雲の中へと姿を消した。去り行く光景を傭兵達はただ見送る事しか出来なかった。既にHWを始めとした敵との交戦もあった為に、追撃をかける余裕など微塵も無かったからだ。
「あの搭乗者‥‥女性のようでしたけど」
「織天使の紋章‥‥また新しい部隊なのかしら?」
 如月の言葉にラウラが続く。これまでに幾度かステアーは姿を見せてきたが、その殆どは星座の刻印が与えられた状態であった。けれど、今回は星座とは違う。天使の刻印――
「その血染めの機体‥‥いつか必ず!」
 アンジェリナは機外に出て去り往く敵の姿を目で追いながら、雪辱に満ちた声を上げた。
「へぇ‥‥なかなか面白いじゃねえの」
 鎧袖一触とばかりに撃墜されたグリムがキャノピーを開き、胴体着陸した岩龍から姿を見せる。見上げればステアーが姿を消した雲の更に向こう――南米の方角に一筋の白い線が引かれて行く。月影もまた、撃墜された翔幻から這い出でると同じく空を仰ぐ。
 ともあれ、損害は多かった物の敵を退ける防衛線としての役割を傭兵達は充分果たした。勝利と言うには苦い結果が伴ったが、今回のハリウッド奪回が成功するであろう事を彼らは朧げながら感じ取っていた。何せ、あの赤翼の機体を退けたのだから――