タイトル:物資は自ら確保せよ!マスター:磊王はるか

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/09 20:05

●オープニング本文


●ある美少女の憂鬱
「はぁ・・・・やっぱり足りないわ」
「また何か足りなくなってきましたか、るーこせんぱい」
 ほんのりと、鼻腔を刺すような匂いが漂うある仄暗い部屋の一角で、同室する女生徒にるーこと呼ばれた金髪の少女が深い溜息を吐いた。彼女の名は綾小路・流子(あやのこうじ・るこ)であり、このカンパネラ学園に存在する第一写真部の中心に立つ人物である。
 第一写真部、と言うのは他にも第二、第三と学園内に存在するからである。他の部活動でも第一、第二と他の部活でも同種の部活が複数そんざいする所もあるのだが、どちらかと言えば方向性の違いによる共存の結果であり、上下関係が存在する訳ではないらしい。

 白衣を学生服の上に身に纏うも、一般的な女性像と比較して恵まれた豊かな双丘はその上から強調するようにふくらみを見せる。
「部員も足りないけど、それよりも先に部室の設備がピンチなのよね。んもう、本当にどうしようかしら」
 文化部と言うのはほぼ全般的に部費を大量消費する所が多い。彼女の所属する写真部もその類に漏れず、印画紙やら何やらといった消耗品に部費の多くは消えていく。
「2台あった内の引延し機も、1つは絶不調ですもんねぇ・・・・」
 彼女と共に部活動に勤しむ部員も憂鬱な様子で同意する。こないだはついうっかりバットを落して粉砕してしまい、いくらか散財したばかりである。勿論粉砕したのは粉砕バットではなく現像バットの方だ。何やら詳しくは知らないが、そうやって言い分けるのは写真部の伝統であるらしい。
「よし、こうなったら悩んでいるより行動を起こすべきだわ!」
「またバイトにでも行きますか? でも私達ですと断られちゃう事多いんですよねぇ」
 勢いよく立ち上がったるーこに部員がローテンションで出鼻を挫く。実の所、足りない部費をどうにかする為に、たまにバイトに励むのであるが写真部所属の人間が微かに醸し出す独特の酸の匂いが敬遠させてしまうのである。――主にファーストフードなどの飲食店関係であるが。
「違うわ、もっと確実な手よ。地下4階の実験施設や資材倉庫・・・・あそこなら流用出来る品も多いに違いないわ」
 どう? と不適な笑みを零して言うるーこ。どうやら彼女の意思は既に決まっているらしく、流石にこの貧窮差し迫った危機的状況では反対しても、後を考えれば反対するのも厳しい。
「そうと決まったら善は急げ! 地下4階からお宝を探し出してくる勇者達を募集するの、学生の方が土地勘はあるけど、あそこは何が起きるか分からないから、現役の傭兵さんにも声をかけておいて!」
 びっと音を立てて人差し指を向けられた部員は、わかりましたと諦観の表情で頷いて部室を後にしたのであった。

●参加者一覧

奉丈・遮那(ga0352
29歳・♂・SN
神無月 るな(ga9580
16歳・♀・SN
チェスター・ハインツ(gb1950
17歳・♂・HD
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST

●リプレイ本文

●行け行けぼくらの探索行
 学園内のある所に存在する第一写真部、部室。そこに依頼を引き受けた奉丈・遮那(ga0352)達が訪れていた。頭数は4人。微妙に足りなくも無いが、機材をゲットしてくる分にはとりあえず申し分の無い数だ。中でも美環 響(gb2863)なんかは期待に満ちた輝きを黒い瞳に宿して、妙に乗り気であった。
「今日の僕は傭兵の美環 響ではありませんっ! トレジャーハンター美環 響ですっ!!」
 と、中性的な印象を残す面差しには少年らしさを垣間見せながら意気込んでいる。そんな美環の傍らではチェスター・ハインツ(gb1950)が第一写真部の部長である綾小路・流子(あやのこうじ・るこ)に探して欲しい機材は何かを尋ね、手持ちのメモに控えていた。
「ふむ、ではピンセットにセーフランプ、後は撹拌棒にメスカップ‥‥メスカップってなんです?」
「えっとね、メスカップは取っ手つきの軽量カップかな。一応、今ある奴は使えるんだけどね、人が増えた時の為に予備が大きいのと小さいの欲しいかなって」
 分からない道具を尋ねたりしつつ、チェスターは地下で手に入る必要な物を次々と書き付けた。どうやら普段現像に使っている道具の多くが寿命を迎えつつあるらしい事が分かる。
「ふむふむ、なるほど‥‥これだけの資材や道具を持って来ればよろしいのですね?」
 メモを取るチェスターの傍からひょこっと神無月 るな(ga9580)が覗き込む。そこにはるーこが必要だと言っていた物とは別に、カメラそのものやら高く売って金に出来そうな物まで津々浦々と言った感じでメモられていた。
「‥‥先々を考えると必要だと思ったんですよ」
「うーん、それもそうねぇ。チェスターさんにるーこさんが必要な物を伝え終わったら、早速資材倉庫とかに向かおうかしら?」
 弁解するチェスターにおっとりとした様子で納得した神無月は、いそいそと支度をし始める。
「ところで、学園の地下って危ない所があるって聞いてるんですが」
 神無月が倉庫と言う言葉を口にして、ふと奉丈が気になって、「ちゃんと許可を取っておいてもらえると助かりますが‥‥」と切り出す彼であったのだが。るーこは天使の様な笑みを浮かべ。
「文化部って、結構戦争なんですよ? 部費の取り合いとか〜」
 と思いっきり流されてしまった。その反応から、ああ、取ってないんだなーと悟り、合法的な手段ではない事を知ってしまった奉丈であった。
「先生や講師からの依頼じゃないからね。正規の手段で道具が揃うなら、とっくに揃えてるわよぅーっ!」
「わ、わかりました。わかりましたからっ」
「るーこ部長、その程度にしておいてください。後でまた顧問の所に行かないといけないんですから」
 半泣きになりかけるるーこに弱りかけた奉丈へごく僅かしかいない部員が助け舟を出す。何とか無事に部室を離れた奉丈は、チェスターや神無月らと共に地下4階を目指すのであった。


●カンパネラB4 〜資材倉庫
 地下4階まで辿りついたチェスター達は、るーこから貰った不足している機材や資材を控えたメモを参考に、実験施設と資材倉庫の二手に分かれた。神無月と美環は実験施設へ、チェスターと奉丈は資材倉庫へと話し合った通りに向かう事になった。
「資材倉庫は確か向こうだったかな‥‥」
 メモとは別に概略図を貰っており、るーこの少し丸っこい文字で書かれた指示に従って、2人は倉庫へと足を進める。向かう最中、人や実験動物と擦れ違うかと思って警戒をしていたが、特に障害もなく、倉庫の入り口まで彼等は辿りついた。
「倉庫ですから、限られたスペースを効率良く詰めている筈ですよね」
「うーん‥‥それはどうかな」
 どういう経路で手に入れたのかは定かではない、倉庫の合鍵で扉の鍵を開くと、もわりともの凄い量の埃が外気が入った事で舞い上がった。
「‥‥こりゃあ、相当難儀だぞ? きっと」
「そう、ですね‥‥適当に当たりをつけて、整理しながら漁りましょうか。これは」
 傍の壁にあるスイッチを入れ、倉庫の中の照明が暗闇を退ける。すると、スチール製の棚が数多く並び、その棚の悉くにでかい段ボール箱が収められていた。他にも壁際には大きなロッカーや金属棚、金庫の様なケースなどが置かれていて、彼方此方に荷物が犇めき合っていた。
「段ボール箱に中に何か書いてあると楽なんですけどね」
「まあ、そういうなよ」
 思ったよりも当たりがあるかも知れんぞ。と、年相応の経験から呟く奉丈が幾つかのダンボール箱の埃を手で払ってニヤリと笑みを零す。
「‥‥これは少し頑張ってみる価値がありそうですね」
 埃が払われた箱の横にはマジックで、『三脚』と殴り書きがされていた。

 ――もしフィルムカメラならば、倉庫に置くとしたとして、デジカメ全盛の今の時代に置いては普通の人にとっては手間のかかる代物だ。好んで使う人ならば、手間隙をかけて、保存環境などをカメラに合わせて整えるだろう。ふと、そんな事を思い出したチェスターは壁沿いのケースや棚に意識を向けた。
「確か‥‥」
 長期保存するカメラは箱詰めになどせず、普通は定期的に保管の手入れがしやすい場所に、防湿保管庫を置くはずだと奉丈は考えた。
 ならば、案外入口で出し入れのしやすい場所に保管庫があるのではないだろうか。そう考えた彼の推理は見事的中した。
「温度計に湿度計‥‥中の空調は動いているみたいだ」
 不用心なのか、それとも滅多に人が来ないからなのか。鍵の外れていた保管箱の扉を開くと、中からは年代物のポラロイドや一眼レフのカメラ、それと交換レンズが並んでいる。扉の握りから手を離し、チェスターが手を開くと随分と手は煤けていた。少なくとも、結構な月日の間、この扉が開かれた気配はないらしかった。
「何かいいのはみつかりました? 僕も見つけたんですよ、ほら」
 いつの間にか、段ボール箱を抱えた奉丈が彼の傍に立っていた。見せる様に持ち上げた段ボール箱の中には、ポリタンクに金属のピンセット。他にも現像に使うバットと呼ばれる平たい容器が幾つも収められていた。当然、粉砕する為の粉砕バットはなかったりする。
 ふと気になって奉丈はピンセットを一本取り出して、状態を確認してみた。現像用のピンセットの先には印画紙を傷めない様にゴムがつけてあるのだが、そのゴムも経変は見られない。これなら大丈夫だろう。
「他にもちょっと見てみたんだが、ここは運動部のとか、社会科で使う地図とか科学部の物とかがごちゃくちゃみたいだからなぁ」
 適当に科学部の所から使えるものを奉丈は手早く確かめてきたらしい。そんな時間が経過したのだろうかとチェスターが時計を確かめると、すでに20分は経過していた。どうやら見つけたカメラの確認に思ったより時間を取られてしまったようだった。
「とりあえず、一定の戦果は得ましたね」
「後は無事に届けられるか、だな。行きは良い良い、帰りは怖いになってはかなわないからね」
 笑みをこぼすチェスターに肩の力を奉丈が抜きながら答える。怖いお化けや物騒な物に出くわさない内にと、2人は倉庫を出ると、部室へ向かうのであった。


●カンパネラB4 〜実験施設
 一方、神無月と共に同行する美環はと言うと――
「たっからもの〜♪ たっからもの〜♪」
 と、既に宝探しに赴くノリで神無月と一緒に廊下を歩いていた。照明はあるのだが、どことなく薄暗い印象を与えてくるのに、何処となく緊張感を2人に与えてくる。
「そう言えば、以前『オバケ退治』の依頼で4階に来た事があるのですが‥‥」
 前に参加した依頼の話を神無月が切り出した。その時は、オバケ退治と思いきや、実は地下にいた実験動物が襲ってきていたのだと言う。実体を有しているものならば、対応のしようもあるので、その時は何とかなったのであるが。
「注意しないといけないね」
「ええ、あの時はなんとかなりましたけど〜」
 そんな会話を交わしながら、2人は漸く目的地である実験施設と書かれたプレートの掲げられた部屋へと辿りついた。
 扉を開くと、中からはほんのりと薬品の臭いが漂い、あちこちに纏められたダンボールの山が出来ていた。使用しなくなってから暫くの時間が経過したのだろう。傍の机には良く見れば何とか分かる程度の埃が溜まっていた。
「じゃあ、早速調べましょう」
 美環は直ぐに能力を使い、探査力を引き上げて身に迫る注意に気を払いながら、己の運への増強を図る事で、探索の効率化を図ろうと試みる。
「私は御方付け、得意なんですよ♪」
「じゃあ、一度片付けてからにしましょう」
 神無月が袖を捲って、ダンボールの中や、周辺の机に置かれていた機材を其々確認しながら仕分けていく。使われなくなったビーカーやフラスコ、アルコールランプなどの実験器具から、何を培養していたのか分からない、黒っぽいものの収まったシャーレなどをはじめとして、写真に必要ありそうなものとそうでないものをより分けていく。
 そんな作業の中で、美環が「これはどうかなあ」と黒っぽいケースを幾つか見つけ出して机の上に並べてみた。
「確かこれはフィルムの現像に使う道具じゃないでしょうかぁ?」
 黒く円形をした入れ物は、確かるーこが出発前に教えてくれた機材の中でも結構重要なものだと教えてくれた記憶がある。
 貰ったリストを確かめると、確かにこれだと神無月には分かった。これが無いとフィルムの現像を外部に出さなければならず、白黒でも今の時代は結構出費がかかるのだとも、彼女は説明を受けていた。
「じゃあこれは持って行こうね。あとなんだっけ、引き伸ばし機が調子悪いとか言ってたよね」
「ええ、確かそんな話もありましたわね〜」
 2台あるうちの1台が絶不調であると、一緒にいた部員も口にしていた。もし引き伸ばし機がこの実験室にあるようなら、そのまま拝借してしまおうかと神無月は考える。
「ところでさ、あそこにある機械。なんか調子悪いよって言ってたのに似てないかな?」
「どれですか?」
「あのね、右手の机に置いてある映写機の傍にある奴」
 美環の指差す方角を見やると、明らかに似たようなシルエットの機材が確認出来た。恐らく、この実験室でも引き伸ばし機を使うような事があったのだろう。もしかしたら、近くの別室に実験の為に撮影した写真をその場で現像する場所があったのかも知れない。
「ではあれもお持ち帰り決定ですね♪」
 近寄ってみると、引き伸ばし機は結構な大きさで、二人がかりでないと厳しいサイズであった。重さは兎も角としても、大きさが嵩張るのだ。
 2人は手提げ袋に見つかった現像機を粗方しまいこむと、力をあわせて引き伸ばし機を実験施設の外へと運び出すのだった。


●ゆうしゃのがいせん
「おお勇者よ、良くぞ戻ってまいられた。して、肝心の品々は?」
 煤や埃塗れになって部室の外まで戻ってきた美環達の前に姿をみせたるーこは、期待に満ちた眼差しで4人を見やる。彼等の傍には、るーこが求めていた――いや、物によってはそれ以上の品が並んでおり、彼女は偉く上機嫌であった。
「やっぱり奉丈さんや美環さん達みたいな傭兵さんはいい仕事してくれるのね! 私、嬉しくなっちゃった!」
「うーん、宝探しだったのに、門番とか遭遇しなくて残念でした」
 にこにことするるーこを尻目に美環がぽつりと呟く。確かに探索に危険はつきものとは言うが、何事もなく無事に済むのも運の内とも言える。
 それは彼が自らの運を強化した結果であるのが起因しているかも知れないが、実際の所は人ならざる身の上のモノでなければ知りえないであろう。顔も汚れた彼等の為に部員が4人に冷やした濡れタオルを手渡すと。チェスター達は徐に顔を拭き始めた。ひんやりとしたさわり心地が心地良く感じられる。
「やっぱり地上がいいですね♪ 太陽の光が心地良いですから」
 るーこから渡されたタオルで、顔に付いた煤を神無月が拭いながら言う。目元をしっかりと拭って顔を上げれば、青々とした空に燦々と輝く太陽が見える。
「ちょっと物足りないところはあったけど、結構楽しかったです。また、皆さんと宝探しに行きたいです」
「そうかい? まぁ、確かにこっそり出かけるって言うのもスリルがあるけれどね」
 中性的な表情を持つ美環が微笑みながらそう口にすると、チェスターもまた遠まわしな同意の言葉で頷いた。
「ちょっとぉ、労いのお茶とお菓子はまだなのー?」
「はぁい、ただいまもってきますー」
 結局はただの探し物と荷物運びとなってしまったが、何事もなく、無事に見つけるべきものを見つけられ、依頼を達成した事は歴然とした事実だった。そんな彼らを労うべく、るーこは部室の備品である冷蔵庫からきんきんに冷えた麦茶と、カンカンに入った煎餅を取り出して、奉丈達一人ずつに手渡した。
「大したものじゃないけど、頑張ってくれた皆への感謝の気持ちって言うことで。どうもありがとう!」
 なみなみと麦茶の注がれたコップを渡され、神無月はゆっくりと啜って乾いた喉を潤した。美環やチェスターもまた麦茶に口をつけ、煎餅の入った袋をぴりりと開いてかじりつく。
 ともあれ、無事に第一写真部からの依頼を達成した奉丈達はのんびりとした、ささやかな寛ぎのひと時を得られたのであった。