タイトル:巨影進撃マスター:ライドウ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/03 16:15

●オープニング本文


 夜のしじまを破り、その影はゆっくりと進軍を開始する。
 巨大な体躯は20mに近く、進路上に位置する木々は造作も無くなぎ倒される。
 その轟音に動物は驚き、逃げ惑う。
 影は眼下に広がる混乱など歯牙にもかけず、歩を進める。
 夜の闇の中、二つの眼孔が怪しく、赤く輝くのであった。

●止まらぬ進撃
 ディスプレイに映し出されていたそれは、巨大な霊長類、と言うべき存在であった。
 もっとも、霊長類に見えた、というのは元々が人型であったゴーレムベースの改造兵器であるならば当然と言えよう。
 だが、その改造は通常の改造という範疇を超え、僅かにゴーレムの特徴が残りつつ‥‥ほぼ全身に渡って体型そのものが変化するほどの魔改造。
 ごてごてとした改造の結果、身長すら実に二倍に達している。
 前肢の強化を優先、結果上半身が肥大化して体躯のバランスが崩れつつあると言う事。
 肥大化により拡張性を高めた部位に多数の重火器を搭載していると言う事。
 そして、その搭載された火器の力は圧倒的であり、通常兵器では対処が困難な領域に達していた。
「ダメです、接近困難! ナイトフォーゲル無しでの対処は被害が大きすぎます!」
「火砲、圧倒的! レーダーも強力であることが推測され、こちらの接近前に正確な対処を行っている模様!」
 飛び込んでくる通信は、このキメラと対峙し苦戦を強いられる戦車隊のもの。
 仰角を変更、鉄鋼弾に傷痍榴弾、通常榴弾と切り替え可能なキャノン砲に、爆雷投下タイプの誘導ミサイルを搭載した改造ゴーレムを相手に苦戦を強いられていたのである。
「改造ゴーレムの進軍、そして苦戦。ナイトフォーゲルの投入も、周辺地域における防備低下を考えれば困難。さて、何か妙案はあるかね?」
 初老の男性が、ため息と共に幕僚へ意見を募る。
 巨大な改造ゴーレム出現の報に対し、数機の航空機、戦車隊で迎撃を試みたが接近を許さぬ火砲にてその試みは頓挫。
 戦力の大量投入、若しくはKVを参戦させれば駆逐は可能、されど周辺の防備は大きく低下する事は予想されていた。
 男性の言葉に対し、誰もが無言。
 だが、1人の若き士官が挙手にて発言を求めていた。
「私に一つの考えがあります。これまでの情報を見るに、この対象は大型の相手に対して敏感に反応していますが、小型の対象に対してはそこまで興味を示していません。
 搭載火器も相手に接近させない事を優先しており、他の兵器と連動せず動いている点を見るに、このゴーレムは複数のKVを釣り出すための囮でしょう。
 ならば、こちらはその土俵に乗らず、少数の歩兵による挺身攻撃で足元から揺さぶってやるのです」
 対遠距離に特化した武装で固めた相手。
 それ故に、懐に入り込まれた際の対処が格闘、もしくは小口径の機関銃程度という事は既に映像で分析されている。
 KVならば接近したとしても強力な格闘や、零距離キャノンで手痛い反撃を受ける可能性もあるが生身での挺身攻撃ならば、接近さえすれば殆どの火器は無効化できる。
 相手の思惑に乗らぬため、そしてこれ以上の被害を増やさぬ為に、傭兵たちへ危険な依頼が舞い込むのであった。



「と、言うわけだ。危険が伴うが、やりごたえのある依頼だぞ?」
 集まった傭兵を前に、勝気なオペレーターが状況を説明していた。
 航空機による挑発行為を正規軍が展開、相手の注意を惹いている間に少数の傭兵が接近、そしてそのまま攻撃するというプランである。
「情報は先ほど説明したとおり、主武器になる背部兵器の威力は尋常じゃないが接近すれば仰角の関係で主砲は無効化、爆雷投下ミサイルも、お前らが足元に潜り込めば自爆するだけというやつだ。
 後は機関銃と格闘だけ警戒し、脆い部分から徹底的に攻撃し‥‥確実に始末してくれば良い、という事だ」
 ニヤリ、と笑った彼女の笑みは、力を見せ付けるにこれほど適した戦場は無い、という事を無言で物語る。
 詳細なデータ、ミッションプランが提示され、強敵との戦いへと彼女は傭兵たちを送り出すのであった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
クリスティン・ノール(gc6632
10歳・♀・DF
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD
月臣 朔羅(gc7151
17歳・♀・EP
祝部 陽依(gc7152
14歳・♀・GP

●リプレイ本文

 疎らに木々が乱立する森林地帯、木々をなぎ倒し大地を揺らしながら巨大な鋼の大猿が進撃してゆく。バグア軍の誰かが言った、奴は改造ゴーレムの最高傑作だ、と。
「また厄介なモノが敵ですね」
 それに対し呆れたように肩を竦めてソウマ(gc0505)が言った。
「ですが、僕の前に立ちはだかるというなら関係ありません。全てこの刀で塵芥と化して見せますよ‥‥!」
 刀を手に眼光鋭く、少年は不敵に微笑する。
「ごてごてにすれば勝てる、というものではないわ」
 声が上より降って来た。銀髪の少女、月臣 朔羅(gc7151)だ。
「欲張りさんは自滅するって事、教えてあげましょう」
 月臣はゴーレムに対してそう評した。女は樹木の枝に登って身を潜め、ゴーグル片手に様子を伺いつつ刻を図っている。
 もうじき囮の空軍が空から仕掛ける筈だ。
「御姉様、まだですかー‥‥?」
 木の下についてるブロンドの少女が月臣を見上げて言った。月臣は振り返ると少女――祝部 陽依(gc7152)に言う。
「いい子にしてなさい。そしたら、後で御褒美をあげるわよ」
「‥‥ほ、本当ですかっ!?」
 ご褒美という言葉に反応して少女は目を輝かせた。
「ええ。だから今は待ちなさい」
「はぃっ、御姉様っ!」
 祝部は元気に手をあげて了解した。そんな様子を見てから月臣は再び双眼鏡でゴーレムを見やる。
「そにしても‥‥慣性制御があるからって、無茶な形にするものね。まるでゴリラだわ」
 ゴーレムをあのような形にしたら不備や無理が生じているはず、と思う。
「何か歩き方が変なような、気も‥‥?」
 祝部はそう言った。
「マモル君、上半身のコノ辺り、装甲が薄そうだね〜」
 同様にゴーレムの観察をしていたドクター・ウェスト(ga0241)が言った。自らの脇下の辺りを抑えて言う。
「脇、ですか」
 沖田 護(gc0208)はそれへと視線をやって呟いた。
「うむー。あとはあの構造上、膝裏かねー、ソコを叩けば、『ヒザカックン』になるね〜。また特に装甲が薄いようには見えないがー現代科学ではロボットも人間と同じく、上半身を支える腰が重要なはずだね〜」
「なるほど。ではその辺りから?」
「うん、狙える位置は敵味方の機動に拠るから、決め打ちし過ぎるのも危険だけどねー、ただ狙える状態ならその辺りから行くのも悪くないのではないかなー」
「了解です」
 傭兵達は軍からの情報と観察情報を元に無線で作戦を打ち合わせる。
「おっきな敵ですけれど、みんなで頑張って倒しますですの!」
 クリスティン・ノール(gc6632)はそう言った。敵はとても巨大だが、みんなで力を合わせればきっと倒せると、そう信じた。
「ジャイアントキリングは、ちょっと憧れでした。自分の力で出来ることをがんばります」
 打ち合わせ時、ミルヒ(gc7084)はそう語った。今よりも少しだけ強くなりたいという思いが彼女にはあった。大物を打ち倒す事が出来れば、何かが得られる筈だと。
 巨大大猿型ゴーレムが木々をなぎ倒しながら進んでゆく。
(ほへー、おっきい‥‥)
 距離が詰まるにつれ、その巨体を実感出来るようになり祝部は胸中で呟いた。
(でもなんか、動き辛そう?)
 そんな事を思う。
 彼我の距離が詰まってゆき――鉄の大猿の動作は一見緩慢に見えたが、巨大でコンパスが大きい為、実際はかなりの時速で進んでいる――やがて空から無線への合図と共に軍の航空機が仕掛けた。
 巨大ゴーレムがそらに向かって迎撃の砲弾を猛射し、航空機の数機が即座に機首を翻し、数機が誘導弾を地上へと撃ち放って同様に機首を翻している。
「作戦開始、皆さん、駆けますよ」
 沖田が言った。
 鉄大猿の注意が空へと向いたのを確認すると、AU‐KVのパワーを全開に音を立てて走り始める。
 ソウマ、クリスティン、ミルヒが沖田に続いて駆けてゆき、それを受けて月臣と祝部も待ち伏せから切り替えて接近を開始する。
「見るからに上半身が重そうだが、重力制御でもしているのだろうかね〜」
 ウェストもまたそんな事を呟きながら一同に続いた。
 戦闘機から放たれた誘導弾が地上へゴーレムに激突して爆炎を吹き上げ、ゴーレムから放たれた砲が虚空を一瞬で制圧し圧倒的な破壊力を解き放ってゆく。より注意を惹こうとした一機が片翼を光波に呑み込まれ、一瞬でその翼を消し飛ばされて、錐揉みながら落下し地上に激突して大爆発を巻き起こした。無線に声が交錯する。パイロットの声が聞こえた。負傷しているようだが脱出はしたようだ。
 ゴーレムは一機でKV数機を釣り出す事を狙われただけあって壮絶な破壊力を保有している様子だった。爆音と共に大気を揺るがし次々に猛烈な砲撃を繰り出してゆく。直撃を受ければ生身の人間などひとたまりもない。恐るべき脅威だった。
 しかし、
「‥‥僕達は一人で戦っているんじゃないんですよ」
 皮肉気な笑みを浮かべソウマが言った。鈍い光が奔る。長さ一メートル六十センチを誇る大業物の魔刀「鵺」を左を逆手に右を順手に抜き放つ。
 どんな大砲も撃てなければただの鉄屑だ。
「射程に入ります! ドクター! まずは膝ですか?」
 駆けながら沖田が言った。
「いけるね。GOだ〜」
 ウェスト、電波増強を発動している。沖田と同様に駆けながら巨体を観察しつつ答えた。傭兵達は木々の間を縫って、鉄の大猿の横手へと急接近してゆく。そのまま接近しながら背後に回り込む。
 沖田は練成弱体を敵機の膝のあたりに勘で狙いを定めて解き放つと、銃で狙いをつけて発砲した。弾丸が次々に飛んで命中し蛍光塗料を撒き散らしてゆく。
「ソウマ君、そこ狙って!」
「了解!」
 少年が二刀を携えて超巨大ゴーレムの足元目がけて突っ込んでゆく。同様に突撃しているメンバーは他にもいた。
「行きますですの!」
 クリスティーナが声をあげた。まだ剣の間合いの外だが駆けながら銀の聖剣を振りかぶり、エネルギーを極限まで刃に収束し裂帛の気合いと共に振り抜く。空間が断裂し、逆巻く音速の衝撃波が唸りをあげて飛び出してゆく。ソニックブームだ。
 衝撃波が弱体された鉄猿の膝裏に炸裂し、轟音と共に装甲を窪ませた。黒衣をまとい二振りの大太刀を構えた少年が音速波を追いかけるように宙へと舞うように跳び上がる。練力を全開に二段撃、両断剣、豪破斬撃を一気に同時に発動。
「我が魂と我が刃を受けろ! 秘剣桜花瞬獄殺!!」
 次の瞬間、X字の剣閃が奔り抜けた。斬り飛ばされたゴーレムの装甲が宙へと舞ってゆく。ゴーレムの膝裏の装甲が深々と切り裂かれ、次の瞬間、漏電と共に爆裂を巻き起こした。ゴーレムのバランスが崩れ、その巨体が地響きと共に膝をつく。
「強い敵も、味方との連携や弱点を突けばきっと倒せるはずです」
 ミルヒは残った側の足へと盾を構えて接近すると、金属の筒から十字の光線刃を発生させ一閃させた。光の刃がゴーレムの装甲を灼き、削ってゆく。クリスティンが走り込んで「てやーっ! ですの!!」の声と共に流し斬って抜け、再度切り替えして両断剣を発動、
「脚が無くなれば、動けませんですの!」
 ワルキューレをゴーレムの脚部へと叩き込んだ。
 ウェストはエネルギーガンを上へと向けると鉄の大猿の機関砲へとエネルギーガンを向けた。十連、猛射。圧倒的な光の嵐が宙を一瞬で制圧し機関砲を吹っ飛ばして抜けてゆく。凶悪な破壊力。
 その隙に鉄猿の足元まで来た月臣は後方を振り返った。
「力一杯投げてあげる。いきなさい、陽依!」
「わっかりましたっ‥‥行ってきます!」
 月臣が手を組み、走り込んで来た祝部がその手に足をかけ、月臣が上へと向かって組んだ手を跳ねあげ、祝部はその手の勢いを借りて蹴り宙へと跳び上がった。大猿は片膝をついて態勢を崩している。月臣はゴーレムの脚部の間へと向かって駆け、祝部は僅かの滞空の後、ゴーレムの腰の上へと着地した。瞬天速を発動、一気に加速して大猿の頭部目がけて駆け抜ける。
「こーんにーちはっ!」
 祝部は声をあげつつ急所突きを発動、腕部を覆う白銀の手甲を振り上げ、瞬天速の加速を乗せてゴーレムの後頭部を殴りつけた。鈍く重い轟音と共にゴーレムの後頭部が陥没する。
「内股になって踏んでみる? 無理でしょうけどっ」
 ゴーレムの足の間に潜り込んだ月臣は銃を頭上へと向けるとその足の付け根を狙って猛射を開始した。弾丸が次々に炸裂し火花を巻き起こして。
「いくら堅牢といえど‥‥稼動部の隙間を狙えば!」
 弾丸の一発が股関節の隙間に入り、中の駆動組織に風穴をあける。
 流石にゴーレムも小さな襲撃者達に気づいたか身をよじらせて群がる蟲を払い、潰すかのように腕を振い始めた。通常のゴーレムなら慣性制御で文字通り飛んで上から砲撃で一帯をまとめて爆砕しそうだが、こちらのゴーレムは無理な改造の為にそういう機能はオミットされたのか、今の所そういう気配はない。で、あるなら脚をやられると動きが取れない。
「やはりこの距離だと砲は撃てないようだねー、腕に気をつけたまへー。攻撃箇所はそのままでOKだー」
 ウェストはそんな事を言いながら光線を猛射しゴーレムの装甲を削り飛ばしてゆく。
「あまり暴れるなよ!」
 沖田は制圧射撃を発動、暴れるゴーレムへと拳銃で連射を加えてその動きを妨害せんとする。
「‥‥攻撃はもう見切った」
 ソウマは振り下ろされる腕を潜り抜けながら二刀を振って強烈な斬撃を浴びせ、ミルヒはサザンクロスで、クリスティンもゴーレムの背後を取り続けながら両断剣発動のワルキューレで脚部へと剣撃を叩き込んでゆく。
「でっかい敵の弱点は足だと思います。勉強しました」
 ミルヒは光線剣で剣閃を巻き起こしながらそんな事を言った。モンスターをハント的な物で学んだらしい。
「御褒美が待ってるんだからっ、早く倒れてよっ!」
 祝部は暴れるゴーレムから振り落とされまいとその首にしがみつきつつ限界突破を発動、ゴーレムの後頭部へと流星の如く星拳「タウロス」で連打を繰り出した。
 ゴーレムは破壊力には優れていたが、耐久力の方はさほどではなかったらしい。それでもしばらくもがくように暴れていたが、傭兵達の包囲攻撃の前にやがて頭部の一部が粉砕され、漏電と共に爆裂を巻き起こして四散した。
 ミルヒは爆裂より竜の翼を使用して離脱して回避したが、他の接近戦を行っていたメンバーはかわしきれずに巻き込まれて吹き飛んだ。
「自爆する前に奪えるものは奪ってしまえ〜と思ってたのだがねー」
 部品の回収を狙っていたドクター・ウェストは潔過ぎる、と一同の治療を行いながら文句を言っていた。怪我を負った者は多かったが、皆大事はないようだ。
 沖田は治療を受けつつ無線機を取り言った。
「傭兵部隊沖田より、本部へ。目標は完全に沈黙。任務完了」
 少しの間の後、了解、の声と御苦労、の声が本部よりもたらされたのだった。


 かくて、傭兵達の活躍により襲撃してきた巨大猿型の改造ゴーレムは撃退され隊は一つの危機を乗り切った。
 傭兵達の勇気ある突撃を讃えよう。



 了

(代筆 : 望月誠司)