●リプレイ本文
奴の名は、ポリノシス・モンキー・フィーバー。耳障りな奇声を上げて草原を疾駆し、涙と苦痛をもたらす花粉を撒き散らす!
「見ざる言わざる花ざる!」
しかし、宵藍(
gb4961)すぐにナウいヤングな名前を考えた。
だが、この傭兵アイドルは、透明なビニール袋を頭から被って縛っていた。せっかくの美貌が台無しである。
「あんなもの、で十分だろう」
と醒めた口調で訂正するのは、時枝・悠(
ga8810)だ。
「に、しても‥‥ヴィジュアル的に微妙だよなあ。 特に腕の茸! まだ頭に角っぽくのほうが可愛い」
と、感想を述べる宵藍。
「侮るな、優秀なキメラと聞いている。 潰すぞ」
そう応じながらも、徐々に宵藍や、既にムズムズを通り越して、鼻水と目の痒みに悩まされている立花 零次(
gc6227)との距離をとる時枝。
これは、マスクとかしたら負けた気がすると、特に花粉対策はしていない零次に近づいて汚染‥‥というか、くしゃみ浴びたりすると嫌だなあとか思っている訳では断じてないし、まして傭兵アイドルの残念な見た目にひいているわけでは、勿論ない。
纏めて攻撃を受けないように、仲間とは適度に距離を取るという、立派な戦術的思考なのだ。
「今回の敵は‥‥花粉を使うって‥‥おいおいこりゃ何かの冗談かよ? 地球最後の希望で傭兵の俺らが花粉症になるかっつーんだよ! こりゃぁ今回も圧倒的勝利で終わるんだろうぜ」
遠巻きにキメラを眺めながら、ボコボコにしてやんよ、とばかりエリュマントスでシャドウボクシングという気合十分の春夏冬 晶(
gc3526)。
だが、彼の発言は零次を始めとする一部の、というか実はこのパーティーの半数以上をビキビキさせていた。
その筆頭格は、AUKV『ミカエル』を装備した秦本 新(
gc3832)。
「花粉を撒き散らす‥‥? 随分と厄介なキメラですね」
口では勿体ぶったようにこう言っている。
(‥‥そんな迷惑な奴、この手で消してやりますよ‥‥!)
が、実はこのように殺意全開で鳴神を構えている。しかし、AUKVを装着しているので外からは見えないが、この時点で目は真っ赤、鼻はムズムズだ。
「なる程、キメラだ。この時期が辛い人には、最悪の相手でしょうね」
装甲で全身を覆った、クラーク・エアハルト(
ga4961) は気遣いを見せ、状態の酷い人がいれば退避させようと思うのだが、新といい、零次といいこの機に日頃の恨みを晴らそうと気合十分なので、無理に退避を進めるのも気が引けるのである。
しかし、このままでは戦闘に支障が出る。そんな中、八葉 白珠(
gc0899)は少しでも花粉症持ちの症状を緩和しようと、まず天狗乃団扇で旋風を巻き起こし、花粉を吹き飛ばしつつ、自分はレジストで花粉を防ぐ。
「唄よ‥‥みんなを癒して!」
同時に、ひまわりの歌で症状の緩和も図るのだ。
AUKV『バハムート』を装備しているルナフィリア・天剣(
ga8313)も
「(花粉症に)手子摺っている様だな、手を貸そう」
と、深い意味は無いことをいいつつ、UPCから供与してもらったマスクを花粉症持ちや、念の為マスクをつけたい人に手渡している。
それが終わるとキメラを一瞥して
「そんなキメラで勝負するつもりか? 舐められた物だ」
と、相変わらず深い意味の無いことを呟く彼女。しかし友人の悠以外にもちょっとした気遣いを見せる辺り、冷静で強気を装うが、理想主義者で、本当は寂しがり屋な彼女の一面が現れているのかもしれない。
が、ここに一人、そんな二人の気遣いを無下にするナイスガイがいた。
「治療? 対策? この俺にはそんなの必要ねえ! 花粉症に苦しんでいる奴らには悪いが、見せ場なんざ無ぇ、俺一人で十分だぜ!」
晶である。彼はこう言って、マスクも断り、ひまわりの唄の効果が出るも待たず、キメラへの攻撃を開始した。
「KPだかPAだかなんだか知らねぇが、APごとこの俺のトッツキ(エリュマントス)で削ってやるぜ! 行くぜ、エェェェェリュマントスッッ!!」
大きく振りかぶり腰のバネを限界まで生かし力を溜め、一気に解放し体重を乗せた拳を叩きつける技、その名もパンチ!『スマッシュ』まで併用したこの一撃は、命中すればキメラに致命的な一撃となる筈だ。
‥‥そう、命中すれば、である。
相手は仮にも素早さには定評のある猿を模したキメラだ。素早く飛んで回避しつつ、チャージしたハンドライフルを晶に発射する。
「くっ、結構痛えな‥‥! が、残念! 俺には効かないぜ!」
かすりはしたが、花粉症持ちではない晶には、大した被害は無い‥‥はずであった。そう、この時までは‥‥
素早い相手には、弾幕による面攻撃。二番手に躍り出たエアハルトは大口径ガトリング砲を構える。
「弾幕パーティーです。 派手に行きましょう」
これは、もちろん連携をとるべく仲間への合図として言ったものだ。
機関砲の轟音が、平和な草原の空気を引き裂き、弾丸が雨あられとキメラに向かう。キメラも猿顔全開で歯を剥き出して跳ね回り、回避に専念するも、着弾は避けられない。
しかし、弾はすべてフォース・フィールドによって弾かれた。腕の茸が不気味な光を放つ。やはり、茸がFF増幅器としての機能を果たしているのは間違いなさそうだ。
「弾幕、薄かったかな?」
なんとなく、そう呟いてみるエアハルト。しかし、彼は、立派に役目を果たしていた。既に、キメラが着地した地点に零次が回り込んでいたのだ。
「存在自体が気に障りますね‥‥さっさと消えてください」
装備した『黒耀』で一気に切り掛かる零次。最初の一撃は見事、キメラに命中したものの。やはり強化されたFFに惜しい所で弾かれてしまう。
普段の零次ならここで、目標を茸に切り換えるとか、一旦距離を取って仲間の遠距離攻撃に任せる等の、冷静な判断が働いた事であろう。が、今の彼は花粉症で集中力を欠き、機嫌も悪い。
「はくしゅん! はくしゅん!」
と一刀ごとに、意外と可愛い標準的なくしゃみを繰り返しながら、普段の花粉症への恨みを込めて闇雲に刀を振り下ろすだけであった。
『ウキキッキィ‥‥w』
その時、猿顔がムカつく微笑みを浮かべた。
激しい症状のせいで零次がOTZ、と膝をついてしまったのだ。
「くっ‥‥、こんなことで‥‥」
そう言って何とか起き上がろうとする零次の頭部をキメラの手が鷲掴みにした。 そして、容赦無くチャージが完了した腕のキャノンを突き付け、粒子を接射した。
凄惨な光景に、傭兵たちが息を飲む、が次の瞬間。
「ぶはーっくしゅっっんっ!」
地面に投げ捨てられた零次が、最大級のくしゃみをかました。どうやら、このキメラ。嫌がらせとして、花粉粒子のみをゼロ距離で叩きつけたらしい。
一種の脱力感が漂う中、時枝が、『両断剣・絶』を併用したオルタナティブの射撃を、二の腕のキノコに命中させた。
茸が半分吹っ飛び、FFが軋むように揺らぐ。
「当然の結果だ。撃ち負けはせんよ、当るのであれば」
クールに呟く時枝。
「何の心算であんなマネを‥‥ああ、嫌がらせか」
そう言ってルナフィリア友人に続いてもシエルで茸を狙う。今度こそ片腕の茸が根こそぎ吹っ飛んだ。
そして、この時、地面でひたすら苦しんでいた零次が最大級の恨みを込めて、FFが弱まった右腕めがけて刀を振り上げた。体液が飛び散り、切断されたキメラの片腕が宙に舞う。
悲鳴を上げつつ、キメラは今度こそダメージを伴うハンドキャノンを零次に当てようとするが、そこに『瞬天速』でクラークが飛び込んでくる。
「マッハで蜂の巣にしてやろう‥‥その程度では‥‥この先生きのこれないぞ?」
零次を抱え上げたクラークが至近距離から弾丸を叩きこむ。キメラは咄嗟に残った方の腕の茸によって強化されたFFでこれを防ぐが、いくつかの弾丸に身体を貫かれた。
だが、まだ致命傷とはいかず、キメラは再び、跳躍すると、両肩のキャノン砲をチャージし始めた。花粉が緑色に輝き始める。
「ごの野郎っ‥‥! いい加減‥‥、花粉を撒き散らすのを‥‥止めろっ‥‥ックシ!」
新はキャノンのチャージを全力で阻止せんと、猛火の赤龍と竜の翼を発動、必死で一撃食らわせる為、キメラに向かう。
が、キメラも素早い動きでこの攻撃を回避する。
「くそっ、ちょこまかと‥‥ヘックシ!」
鼻づまりに苦しむ新一人では苦しいとみて、相変わらずビニールを被った残念な格好の宵藍も新とは別方向から包囲するように接近し、互いのタイミングを計りつつ二の腕の茸を重点的に狙う。
「やっぱり、これが強固なFFの元みたいだな。とにかくこいつをどうにかしないと、攻撃が通らない」
新も、宵藍と動きを合わせ、囲むようにキメラを追い詰める。新の槍による、突きと払いを際どい所で避けるキメラ。しかし、遂に槍の石突による足払いがキメラを転倒させた。
その隙を逃さず宵藍が、『豪破斬撃』と『急所突き』を乗せた月読を茸に突き刺した。
遂にFF強化の茸を失ったキメラ。
「実弾以外も食らわせてやるよ」
そこにルナフィリアのシャドウオーブが黒いエネルギー弾を発射。直撃を受けたキメラのチャージが解除された。
重傷を負い、よろめくキメラ。それでも、いささかもその凶暴性を減ずることなく、傭兵たちのほうへ突撃する。
「風よ‥‥お願い!」
これを見た白珠は、素早く風を起こし、キメラを吹き飛ばす。
「えっと。 その‥‥よろしくお願いします!」
白珠が言う。
今度こそ、決めてやるとばかり晶が転倒したキメラに飛び掛かった。
「ボコボコにしてやんよ!」
スマッシュ併用の大きく振りかぶり(中略)パンチが、起き上がったキメラの腹部に深くめり込んだ。
『ウキアッガッ‥‥』
口から体液を吐き散らすキメラ。
フィニッシュを飾ったのは時枝だった。仲間が稼いだ時間で、武器を雷剣『エクレール』に持ち替えた時枝は、『ソニックブーム』でキメラの首を一息に切断した。エースアサルトと知覚武器の相性を、あえて無視した一撃。そんな貴女は美しい。
頭 部を失ったキメラは大きく吹き飛ばされ、平原の彼方に転がった。
しかし、戦いはまだ終わっていない。激しく動いたせいでビニール袋の中の空気が足りなくなった宵藍が袋をむしりとった時である。
平原の彼方に、緑色の光が輝いたのだ。
「‥‥ふ、死ぬかと思った‥‥て、え?」
恐るべきことに、首を失ったキメラの胴体は、なおもショルダーキャノンのチャージを継続していたのだ!
慌てて駆け寄ろうとする傭兵たち。だが、時すでに遅く、チャージは完了していた。
両膝と片腕で、かろうじて身を起こしたキメラの両肩から、盛大に大出力の花粉キャノンが発射され、集まって来た傭兵たちの、ど真ん中で炸裂する。
宵藍は、運悪く顔面に直撃を受け、盛大に発症する。
「アイドルが鼻水垂らす訳にはいか‥‥っくしゅん!」
だが、この攻撃で最も大きな被害を受けたのはこの男であった。
「あん? なんだか目が痒ぇ、それに鼻もなんだか‥‥いや、ちげーし、花粉症じゃねーだろ。 冬の乾燥した空気が俺の体の水分を奪っ‥‥クショイ!」
屁理屈をこねて否定しても、もう遅い。大量の花粉を一気に浴びたのと、対策を断ったことが災いして、彼もめでたく花粉症と相成ったのである。
「いやいやいやいや、これ花粉症じゃねーし、ただ単に鼻水と目の痒みとクシャミが止まらないだけの病気だし!」
それにしてもこの男‥‥必死である。
「へくちっ‥‥てやんでぇべらぼーめ」
漂う花粉を風で吹き散らす白珠も、どこで覚えたか知らないが、お約束ごとを言いながら、くしゃみをする。
一方、修次は無言でライターのガソリンを死体にぶっかけ、ライターで着火する。
炎の照り返しを受け、コワイ顔になった修次の様子を眺める宵藍は、鼻をずるーとすすり、呟いた。
「‥‥しまらん最後だ‥‥くしゅん!」
一方、涙と鼻水に苦しむ晶に、時枝が声をかけている。
「遅かったじゃないか?(花粉対策が)」
時枝自身はゴーグル等の対策が功を奏したのか、フルチャージキャノンの直撃でさすがにむせつつも、特に発症した様子は無い。
「えっと、晶さん、大丈夫ですか?」
白珠も心配そうに晶を『ひまわりの唄』で治療する。
「あーそうかい、仲間をそんな目で見るんだな! じゃーいいよ、花粉症になったって事にしておいてやるよ。花粉症じゃないけどな!」
そう言いつつ、どうにも辛そうな晶に時枝は『キュア』を使ってやる。
が、多少の改善は見られるものの、晶のかなり症状はかなりひどくくしゃみが止まらない。
「騙して悪いが 花 粉 症 は、治せないようでな。我慢して貰おう」
「‥‥だから花粉症じゃ無ぇって言ってんだろぉぉぉぉ! 良いんだよ、花粉症になった本人がなってないって言ってんだから!」
絶叫する晶。時枝さんが微妙に笑っている気がするのは多分気のせいであろう。
ともあれ、依頼は無事終了した。花粉さえなければ、春の草原を心地よい風が吹いていく。
「コーヒーでもどうですか? 味は保証しますよ?」
とりあえず無事なメンバーにクラークがコーヒーを振る舞っている。
「ありがとうございました! 上手くいきましたね!!」
早速コーヒーを受け取った白珠はにっこりと微笑むと、頭を深く下げてクラークや、他の同行者たちにお礼を言った。
(代筆 : 稲田和夫)