●リプレイ本文
●砂浜の脅威‥‥?
寒風吹き荒ぶ海岸線に、その脅威は存在していた。
ゆっくりとした挙動、周辺に気を配る事もなく、砂の中から餌をかき出し、一心不乱に食事に励む巨大な蟹達。
4匹中、1匹のみ背中に球体を幾つも背負っているという特徴はあるが、それ以外はほぼ同じように見えるキメラな蟹を前に、集まったメンバーはなんとも言えない気持ちになっていた。
「ヤナギさんはカニ好き?」
「ああ、嫌いじゃないが‥‥それにしてもグロテスクな外見だな、おい」
鈴木悠司(
gc1251)が遠目に見えるキメラを発見、タバコを吹かしつつ余裕を見せるヤナギ・エリューナク(
gb5107)がそれに答える。
「あれだな‥‥よし、周辺にはいない、いない‥‥しかし、情報通りとはいえ組み合わせがメチャクチャだな」
「ん? どうされました? 何か気になることでも?」
「いや、気にするな。なんでもない」
ゆっくりと歩を進める面々の中、双眼鏡で蟹と周辺の地形を確認していたシクル・ハーツ(
gc1986)
彼女の呟いた言葉に、何か引っかかるものを感じた滝沢タキトゥス(
gc4659) が言葉をかけたが、シルクはなんでもないと誤魔化していた。
言える訳がない。自分は、ヒトデが嫌いで、周りに居ないかなんて、しっかり確認していただなんて。
『じきに、奴等も此方に気付く。全員、準備は万端か?』
「ヘイルだ、よろしく。セレ‥‥じゃなかった、オペレーター」
「フン、オペレーターか。先の敗北の元凶が、何を偉そうに。進化の現実って奴を教えてやる」
不意に入った、オペレーターからの通信。
その言葉に丁寧に返し、なぜかとある女性の名前が思い浮かんでしまったヘイル(
gc4085) は慌てて訂正。
そんなへイルを横目に、天野 天魔(
gc4365)は強気な言葉をオペレーターへ返していた。
『ああ、敗北したのは仕方あるまい。ミーティングにはない、増援が出てこないかの警戒、戦況の把握は任せてもらおう。お前達は、目の前の蟹を倒す事だけに集中してくれ』
二人の発言に対し、つとめて冷静に返すオペレーター。
仕事はしっかりとこなす、ということか。
「さて、陸蟹‥‥いやランドクラブめ。水際の覇者気取りも今日までだな。貴様らには水底が似合いだ。いけるな? 皆?」
「はい、問題ありません」
絶対の自信を浮かべ、こちらに気付いた蟹が向き直るのを確認した天魔に対し、なぜかそう答えなければならない気がしたタキトゥスが返答を。
「フン‥‥それはよかった。じゃ、いこうか」
その天魔の言葉を合図として、8人は一斉に蟹目掛け駆け出していたのだった。
●鈍行、されど堅牢
「カニさんカニさん、遊びましょう」
ミリハナク(
gc4008) が笑みを浮かべつつ、機先を制し一直線に蟹へと肉薄。
様子見とか、相手の特徴を見抜くという空気を完全に無視してその手に携えた大斧を全力で振り下ろす。
インパクトの瞬間、強烈に輝いた刃を持って一撃のうちに倒そうと試みたミリハナクではあったが、その一撃は甲高い金属音と共に止められていた。
「わあ、あの攻撃を受けても大丈夫なんて、すごく甲羅が硬いみたいですねー」
スッと取り出した弓へ矢を番え、先の一撃を凌いだ蟹を凝視する和泉譜琶(
gc1967)
真正面から甲殻部分への攻撃は効果が薄い。
そう、先の攻撃から判断した彼女は狙いを定め、関節部分へと矢を放っていた。
「はーい、そこの蟹さん! 美味しく食べて成仏させてあげるから、大人しく倒されてね!」
後衛の射撃援護が飛ぶ中、回り込んで別の蟹へと肉薄していくのは悠司。
脚の数を確認、4対の脚部である事から彼はカニ科目と確定。
好きなタラバガニじゃないのは残念だけど、ズワイガニも好きだから!
きっと、コイツも同じ味がする。っていうか、これはズワイガニのキメラだと判断した彼は瞬間的に距離を詰め、脚部関節へ剣を突き立てていた。
数名が水際への離脱を抑え、そして残る面々が1匹ずつ集中攻撃。
ダメージそのものは通っているのだろうが、そのあまりに堅牢な甲殻と。
そして、鈍い攻撃は能力者に当たる事はなく、時間だけが過ぎていく。
「おいおいおいおいおい、何だ、この外見とふざけた攻撃は‥‥」
長期戦。
そんな単語が皆の脳裏に浮かんだ瞬間、吐き出された水鉄砲を回避したヤナギが呟く。
だが、これまでの攻撃で損害が蓄積していたのだろう、1匹の蟹がおもむろに甲殻をパージ!
全てを脱ぎ捨て、ひょろひょろの脚部をさらした時から戦況は大きく動き出すのであった。
●戦闘加速、文章もちょっとだけ加速します
「トカゲか、こいつは! ‥‥いや、蟹だったな」
ツッコミどころ満載、生物としての分類すら間違ってるよ、へイルさん!
甲殻を捨て、超加速してカサコソと走り回る蟹だからって、生物としてのカテゴリーを間違えてあげないで!
「キャスト‥‥フでクロッ‥‥ップ!? 私も脱げば速くなるかしら?」
装甲を捨てた蟹へ対抗心満載の人、それはミリハナク。
音で一部が聞こえなかったのはタブン仕方が無い。
確かに、脱げば早くなるでしょう。主に、装備重量の関係とかで。
あっ、そんな加速とか考えてるから、水鉄砲が飛んできたよ。
「!? ‥‥‥‥ふ、譜琶、気をつけ‥‥‥‥お前‥‥‥‥も‥‥」
顔面にクリーンヒット。
見事に崩れ落ちる彼女が伝えた、警戒を促すその言葉。
でも、おかしくないかな! 攻撃喰らっただけなのに、色々と頭をナニカサレタ人みたいな印象がするよ。
「え? どうして私が気を付け‥‥って、イヤー! 飛沫が、冷たい!」
飛んできた水鉄砲、その飛沫が巻き散らされ、譜琶が思わず悲鳴を上げる。
いや、別にダメージは無いんですけどね。流石に冬に水まみれになるのは寒いという事です。
そんな彼女は反撃とばかりに、チョコマカと走り回る蟹へ矢をこれでもか、というぐらいにお返ししていた。
「譜琶殿、どうか冷静に‥‥しかし、装甲を捨ててからの動きは‥‥って、これは!?」
激昂して攻撃を繰り返す譜琶へ言葉をかけるシルク。
冷静さを失わず、蟹の関節へ攻撃を繰り返す彼女ではあったが、攻撃の合間、蟹の口から見えたある物体を前にして絶句する。
そう、それはヒトデの脚部。
先ほど、この蟹は何かをモグモグしていた。
口から見えたのはヒトデの脚。
ならば、この周辺には大量のヒトデが埋まっている‥‥
「‥‥‥‥見ない‥‥下は絶対に!!」
クワッと目を見開いて、声高らかに宣言。
いや、まあ、足元不安な戦場でもないし、普通の人が聞いたら至極当然な宣言ですけどね!
「くっそー! この蟹さん! 甲羅の中に身が入ってないよ! 食べれる部分がとっても少ない!」
「まて、悠司。お前‥‥本気で食うのか?」
「もちろん! そのためにドリンクとか鍋の準備してきたんだから!」
色々と惨状が広がる中、言葉を交わすは悠司とヤナギ。
身がない、つまりは食べごたえがないという哀しい結論を前にしつつも、諦めない悠司の攻撃にあわせ、ヤナギの放った銃弾がカサコソと走り回る蟹へ命中。
ぶちゃっ、と嫌な音を立て、背部から蟹ミソをぶちまけ一匹目の蟹は動きを止めるのであった。
『撃破を確認。通常種は全てパージ済み、球体もちは変化なし。気を抜くなよ』
生命反応が無くなったのを確認、オペレーターからの通信が一同に伝えられる。
「了解。しかし、外装に特化した蟹の重戦車。中身は柔らかかったな」
通信に律儀に反応、タキトゥスが走り回る蟹へと銃弾を撃ち出せば、軽くかすった程度で肉体破損、走行不能に陥る蟹。
いくら装甲をパージ可能な甲殻に頼り、内部は機動力以外切り捨てたとは言えこれは酷い。
次の瞬間、その蟹は飛来した矢やら銃弾の洗礼の中、瞬間的に生命活動を停止していたのだ。
「エキスパート、天魔だ。正面からいかせてもらおう。それしか能がない。全てを斬り殺すだけだ」
前衛担当の蟹が沈黙。それを見て突撃するのは天魔。
球体を背負った蟹へと肉薄し、斬撃を叩き込もうとするも、蟹のカウンターはそれより早い。
『気をつけろ。分離飛行を始めたぞ』
「なんだと? 面妖な‥‥!」
オペレーターの通信を受け、へイルが言葉を発する。
そんな彼の目の前で、そして先に突撃した天魔を前に、四つの球体が空中へ。
なぜか生えてる、雀の翼を全力でばたつかせ、バサバサと不快な音と共に大量の死骸(スズメバチ)が放出されていた。
「面妖な、変態技術者どもめ」
苦々しげに言葉を吐いた天魔。
絶対の自信を持つ、カリスマ社長みたいな雰囲気で盾を翳し、その攻撃をガードするも完全防御まではならず。
だが、放出してしまえば次の攻撃まで時間があるという情報は既に能力者達は持ちえてる。
それ故に、放出した球体にヘイズが肉薄していた。
「バグアの変態技術者共め‥‥よくこんなものを」
槍を持つ、右手をぐっと引き、力を込める。
そして、絶対のタイミング。どう足掻いても回避できない距離にて一気に突き出す、その突きは多段ヒットした気がする急所突き。
完全にとらえた攻撃により、耐え切れなかった球体は崩壊。
多量のスズメバチの死骸を撒き散らし、バラバラに砕け散っていたのである。
「ハッ!? 気付いたらあんなものが。あんなの食らったら血の雨が降りますわ」
いつの間にか意識を失い、そしていつの間にか意識を取り戻していたのはミリハナク。
危険極まりない球体の相手なんてゴメンだと、さっさと狙いを変更。
既に集団に攻撃され、瀕死の状態であった装甲パージを行った蟹へ斧をたたきつけ、アッサリと撃破していた。
「おーおー、良い感じだな。でもさ‥‥あの丸いの‥‥何?」
前線を支える蟹が全滅、それを確認したヤナギ。
バタバタと羽ばたいて飛び回る、スズメバチの巣。
そして、それを浮遊させる雀の翼。
誰もが抱く、面妖な兵器を前にして、一般的な人が抱く感想をありがとうございます。
半分以上の人が、ヘンタイ的な要素を感じ取って異常な感想を言う中、正常な感想は異常に見えますが。
異常じゃありません、自身を持って、その感想を貫いてください。
「‥‥厄介な弾幕だな‥‥しかも、虫の死体ときた」
「ああ、死骸を飛ばすとは‥‥男だったら女には嫌われるタイプだな」
あっ、こっちも正常な感想だ!
へイルとタキトゥス。戦術的な意見と擬人化したら、の意見である。
「‥‥だが、何時までも好きにはさせん。今だ!」
叫びを上げるへイル。
その彼女が構えた弓には、爆薬を仕込んだ矢が番えられていた。
次の瞬間、放たれた矢は蟹の足元で爆ぜ、一瞬の隙を作り出す。
「虫嫌い、虫キライ‥‥! しかも死骸だなんて‥‥!」
物凄い嫌悪感、それが篭って、何かどす黒いオーラを纏ってるような気がした譜琶の矢が蟹へと命中。
その攻撃を皮切りに、残る面々の集中攻撃が。
もうやめて! 動きの鈍い蟹なんだから、遠距離攻撃は幾らでも当たっちゃう!
そんな、悲痛な叫びが聞こえたかはさておき多量の銃弾を前にして、蟹は沈黙していた。
『球体蟹の撃破を確認。残りは自律兵器だが‥‥気を抜くなよ』
オペレーターから聞こえた、蟹撃破の通信。
残るのは、空中でバタバタと飛び回る球体っていうか、スズメバチの巣のみである。
「よし、蟹鍋準備しないといけないから、さっさと潰しちゃおう!」
気楽に構える悠司が飛び上がり、死骸の放出を気にせず翼を切断。
ボトリ、と地上に落下した巣は良い的でしかなく、別の場所ではシルクが得物を振りぬき衝撃波で撃墜を。
そして、別の場所では真正面から天魔が突撃、それに続いた他のメンバーの攻勢を前にして、巣はバラバラに崩壊していた。
『全目標の排除を確認。ミッション完了だ』
周辺に増援なし。
その報告で、戦闘は終結していた。
●だから、キメラ鍋はやめろとあれほど‥‥
「ミッション完了か。まあ、ありじゃないか、貴様」
「ああ。しかし、このクラスのキメラが動くとは‥‥バグアめ、何を考えている?」
周辺に散らばる残骸を前に、天魔とへイルが言葉を交わす。
だが、何故だろう。
この2人からも、ミリハナクと同じくナニカサレタり汚染された空気が感じられるのは。
「そ、そんなことより! 2人とも、歩くと踏む、だから踏まないでください! 音、音がっ!?」
余裕を持って引き上げてきた天魔とへイルを前に、キャーキャー悲鳴を上げる譜琶。
まあ、虫嫌いで更にパキパキと踏み潰す音がすれば、悲鳴も上げたくなる。
そんな彼女は、肩に死骸を乗せたままの面々を見た瞬間、全力で距離を取るのであった。
「あ‥‥や、やっぱり料理するのか‥‥蟹‥‥キメラ‥‥カニタマ‥‥」
砂浜に響く悲鳴をバックに、ポツリともらすシルク。
彼女の前には、既にノリノリで蟹の残骸から少ない身を採取、用意した鍋に食材を入れつつ準備をする悠司が存在していたのだ。
「さーって、準備も出来たし、周りも片付けたし。勝利を祝って乾杯だね」
ひとしきり、準備を終えた悠司が言葉を発し、鍋が出来たあたりで乾杯の音頭をとる。
用意したアルコール、ソフトドリンクをそれぞれが受け取り、食欲旺盛っていうか、試食を試みる面々が少ないキメラの蟹肉を凝視。
「南瓜キメラの時はひどい目にあいましたが、蟹キメラならきっと大丈夫に違いない」
そう、言葉を発したタキトゥスの言葉を最初に、悠司もキメラ肉へ箸をのばし、食事を開始。
「悠司‥‥良くそんなモノ‥‥食えるな‥‥」
そんな2人の光景をヤナギが汗を流し眺め、キメラ料理を遠慮した他の面々も生暖かく見守るが‥‥
あっ、やっぱり、アレな味だったんだろう。
身が少ない、キメラでしかも、変なもの背負ってたりする蟹の身は、大変微妙な味、つまり微味だったようである。
『やれやれ、無茶をするなとは言わんが‥‥それが祝っての料理ではあんまりだろう?』
ずーん、と重い空気を背負った悠司やタキトゥス。
そんな2人を、っていうか、こんなヤバイ気配がする鍋はあんまりだろう、とオペレーターが途中で気付き、密かに用意していた蟹鍋を差し入れる。
「あ、ありがとうございます。冬は鍋ですよねー」
「おう、悪いな。んじゃ、こっちはこっちで旨い蟹鍋でも堪能すっかな」
優しさ感じる、オペレーターの差し入れに譜琶とヤナギが礼を述べ、キメラ鍋と普通の蟹鍋を囲んでの、ささやかな食事会。
微味鍋だけでなく、通常の美味鍋を囲んでの食事会は慎ましやかに進行。
バグアのヘンタイ技術者が生み出したと思われる、キメラ退治はこうしてその幕を閉じるのであった。
追伸
『ああ、私だ。オペレーターだ。
あの事件について、もう一つ言っておく事があってな。
キメラを食った二人だが、予想通り腹を下したらしい。
まったく、得体の知れないモノを食うからそうなるんだと、また会った時に言っておいてやってくれ。
では、な‥‥』