タイトル:【RE】Re−controlマスター:音無奏

シナリオ形態: シリーズ
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/11 02:40

●オープニング本文


●イタリアの最終ページ
「‥‥そうだな、イタリアは多分これでラストだ」
 クラウディア・オロール中尉は、戦況を問いかける部下に、そんな返答をよこしていた。
 当初、イネースとユズが仕掛けたトラップはほぼ解除されている、都市は制圧済みだし、残ったシチリアに至っては元々廃墟だったから人質などいるはずもない。
 進展があったか、といわれると全くそんな事はないのだが。

 【乙女座】イネースこそ討伐したものの、相方であるユズは全ての都市戦を逃げ切っていた。
 進んできた道には解放があった、だがいずれも死と破壊に満ちており、奇跡の救出‥‥なんて英雄じみた真似は空想で終わっている。
「‥‥そんな顔をするな、制圧をもろに食らった時点で、ああなるのはほぼ確定なのだから」
 『ほぼ』について、どれくらいあったのか語らないのが中尉らしいのだと、リエル・イヴェール曹長は思った。
 だから、尤もらしい言い訳を口にして。
「少し気にかかるだけです、人手不足でもなければ、俺は本来その後方にいるべきなんですし」
「後で後ろに行く時間を作ってやるよ、まずはシチリアを安定させろ」
 言葉は途切れ、リエルは頷きだけを示す。

 戦況確認を終え、二人はこれからの進軍予定へと移った。
 現在、UPC軍の拠点はエオリア諸島にある、シチリアの軍備状況について、完全武装ということはないのでは、と中尉は語った。
 市街地を占領した所でメリットは薄い、防衛戦力は交通の要所を主に押さえていることだろう。
「とりあえず‥‥メッシーナの抵抗が凄まじいから、そこは牽制だけにとどめておく。
 まずは周囲の都市からの援軍を寸断しよう」
 兵力は空輸が主になるとは言え、陸側をおろそかにしていいという道理もない。
 手順としては、ミラッツオを押さえて拠点とし、ディヴィエトまで進軍・制圧。
 メッシーナ外周に道路の爆破も視野にいれた別働隊を派遣となる。
「上手く行くかどうか‥‥ってのは毎度ながら、やってみないとわかりませんね」
「向こうの手がわからないからな、偵察が出来ればいいんだが」
 シチリアの広大さと堅牢さは、様子を窺う事すら困難にしている。
 戦局について、向こうの意図も多少予測しておく必要はあるのだが。
「向こうが頑張る理由は‥‥一応ありますね。
 シチリアが抑えられてる限り、イタリアからチュニスに向かうルートは使いづらいという点があります。
 チュニスを安定させたらそれは向こうの失態ですし」
「逆にこっちも頑張る理由があるって事だけどな。ん‥‥」
 クラウディアが、少し考えこんだような声を上げる。リエルは怪訝な視線を向け。
「どうかしましたか?」
「いや‥‥今すぐどうこうということはないし、確信もないんだ」
「向こうの性格的に十分ありえます。備えをしておくのも、大いにありかと」
「‥‥申請するだけしてみよう。
 駄目だったら実地偵察だな、その時はリエル、お前が指揮を執れ」
 偵察は自分が行う、と中尉は告げ。
「わかりました。とりあえずミラッツオの制圧ですが‥‥」
「まずは空戦だな、傭兵たちに加勢させろ。敵数は相当多いが‥‥向こうの意図がハズレかフェイクか、悩みどころではあるな」

●もう一つのオープニング
 少女は、自らがいる艦内をせわしなく歩き回っていた。
 潜水艦の内装は灰色で、ディスプレイが放つ光が唯一の光源となっている。
 もっと可愛くすればいいのにと思うも、その提案は護衛対象であり、艦の主でもある人間に、「理解出来ません」という理由で却下された。
 ‥‥不満はある。
 でも、あの人が却下した理由を考えるなら、どうせいつか壊れるんだから綺麗にする理由なんてない、ってあたりだろうとなんとなく察しもついていた。
 こだわる事はない。どうせ自分もこの潜水艦があまりにもつまらないものだから、適当に絡んでいただけに過ぎないのだ。
 愛想も愛嬌も持ち合わせていないその人は、今、自分の前でつまらなさそうな表情を浮かべて、何かの装置を安っぽい机の引き出しに放り込んでいた。

「‥‥なぁに、それ?」
「爆弾‥‥の、操作装置です。イネースさんの、ね」
 特に面白くもなさそうに、彼/彼女は首を竦めて、
「『裏切り者を始末する』って名目で手に入れました、今じゃただのガラクタですけど」
 最早触れる事もないだろうと、背を向けた。
「ただのコピーですしね、オリジナルはイネースさんに取られちゃいました」
 持ち込んだ理由を、彼/彼女は語る。
 殺すつもりはあったし、必要になる予感もあった。手にしていて損をする訳でもない。
「‥‥ねぇ、試しに聴いていい?」
「なんですか」
「あの人が――生きたいって言ったら、どうしてたの?」
 わずか首を傾け、彼/彼女は試算するように沈黙して。
「多分、殺してたんじゃないでしょうか」
「そうなの?」
「逆です」
 彼/彼女は、この時だけふんわりと笑みを浮かべて。
「僕、あの人を生かそうだなんて、一度も思ったことありませんよ?」

 悪意に満ちた笑みを、少女は素敵だなと思う。
 どうして? って言われると答えられないけど、とにかく自分は狂った精神でそう思っていた。
 少女の思考について、ユズは気づいていないし、気づくつもりもなかった。
 いずれ尽きる命、どうせならこの人《ユズ》に楽しく使いきって欲しいと、この時少女が思っていた事に。

 いずれたどり着くだろう光景、灰色の髪に灰色の瞳、くすんだような少女の笑み。
「――そんなに死にたいですか」
「違うわ、私は楽しく死にたいの」

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
瑞浪 時雨(ga5130
21歳・♀・HD
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD

●リプレイ本文

 Did you know?
 ――いいえ、と性別の境界が曖昧な子どもが笑う。

「実態なんてどうでもいい。
 名目さえ成立すれば、僕は最も望んだであろう形で殺します」

 思うなら――自分の身辺はどいつもこいつも、鮮烈なまでに死を渇望していた。

 : ‥‥Standby

 空気が震え、受ける風圧に機体が振動する。
 空を切る音が重なって、一人で駆ける時とは違う感触を伝える。
 視界には、遠くに到るまで認識出来る敵味方の機影。ミラッツオにおける制空権争いは、お互いの会敵を持って開始を告げていた。

『敵機、20』
 固く抑えた声を持って、情報が伝えられる。
 対するべき敵がマーキングされ、他との区別を明確にする。
 最も必要とされる殲滅範囲にいた――その程度の必然性を持って選ばれ、対した敵。
 何もかも埋もれさせようとするかのように、乱戦は広がっていた。

「‥‥‥‥」
 息苦しいほど密度の高い、戦場の圧力。
 恐らく人において最も苛烈だろう、意志が縦横に交差する場所。
 戦う意志が帯びる、それぞれの色は分からない。だが押し負けたら死ぬと感じ取って、如月・由梨(ga1805)は瞳を細めた。
 思考は集中による空白と、緊張による高揚の前兆。
 機械兵に対する不気味さも多少混ぜつつ、呼吸を吐き出した。

 ユズの周囲を光のパネルが舞う。
 自らが手を入れ調整した、ユズ専用とでも言うべき電子のコックピット。
 実体のない海に意志を浮かばせ、いつも通り完璧だと笑みを浮かべ。精密であろう計算の元に、指令を走らせる。

 敵勢が、傭兵たちを認識して動き出していた。
 先鋒であろう、敵味方が互いに向けて加速し始める。回りこむ動きは軌道に弧を作り、遠回りに動くのは後発、援護を担う遠距離の面々だ。
 傭兵側には四人、
『敵分隊――』
 敵先鋒が二組十二機、更に四機ずつが両方向へと散った。

「‥‥難しいですね」
 位置取りに動きながら、フォル=アヴィン(ga6258)は選別された情報に目を通す。
 敵は十二機が正面、更に二部隊が援護として外側に回っている。
 部隊はお互い四つ、数は倍近くで負けていて、抑えきれるかどうかは完全にこちらの動きにかかっていた。
 軽装備の敵は、いる。真正面から切り結ぶと厄介そうな敵も、当然のように存在した。
 狙うなら前者だと、御崎 緋音(ga8646)は思う。しかし装備相応に動きも速そうで、追いきれるかどうかは余り自信がなかった。
 ‥‥ううん。
「追うぞ」
 緋音が言葉にするより早く、御影・朔夜(ga0240)が意志を発した。
 相変わらず言葉に色がないから、何を考えているかはよく分からない。
 大丈夫かと問おうにも、本人がその意思を見せないのだから取り付く島もなかった。
 個人の感情はその枠を超える事はない。
 故に、朔夜がこの戦場においてそれを表現することはないし、するべきとも感じていないのだろう。
 抱いてないかはまったく別の話。事実、朔夜にはあの整備士に問いたい事があったし、返すべき借りも一応は抱えていた。

 先手は由梨と終夜・無月(ga3084)が取得する、長射程と高機動力のアドバンテージから真っ先に攻撃ポジションへと着く。
 光の軌道が貫くと同時、最も外側に位置していた敵機体から、牽制射撃が立て続けに放たれた。
 動きが幾つも連続する、敵の軽装型が回避行動から射程内の離脱へと移行し、代わりに重装型が前に出る。軽装型を追おうとすれば狙撃型から妨害が入り、追いついた朔夜たちが逃げた軽装型を迎え撃つ。
「早いな‥‥だが」
 ブーストを起動し、更なる加速をかける。場合によっては、ずっと起動しっぱなしになる必要性も僅かに見えていた。
 だが、元より機体能力を使うつもりはなく、錬力の心配はしていない。
 五分持たせるくらいの余裕はあるのだ。

 多弾頭ミサイルが追尾を失い、誘導弾に引かれるまま爆発を引き起こす。発生した大規模な煙を突き抜け、彼我が再びお互いを照準しようと天空を駆け始める。
 高速の戦闘を前に、後衛、管制の護衛を担う二人は戦場の分析を始めていた。
「重装型、狙撃型‥‥ちょっとズレはあるが、大体予測していた通りだな」
 緋沼 京夜(ga6138)の呟きにリエルが頷く。言葉は微妙に堅いが、淀みはなく。
『逃げている高速型をあわせて、全機攻防共に高い超脳筋仕様でしょうね』
 敵の動向を注目したまま語るのは、性能が意味する――いつでも回りこまれる危険性を理解しているためだ。
 長射程の狙撃と高機動の回り込みが重なり、スペックの差を数によって補われて、前衛たちは回避と疾駆を強いられ続けている。
『数は向こうが上。回り込まれる事を嫌ってたら碌な攻撃は出来ません、なので‥‥』
 言いよどむリエルの代わりに、フォルが言葉を継いだ。
「誰か抑えに回る必要がある、ということですよね」

「着いてきて、愁矢」
 管制組のやりとりを聞きながら、瑞浪 時雨(ga5130)は短く言葉を告げた。
 もしも牽制が必要とするなら、乱戦で無理が出来ない自分たちが適任だろう。
 敵を抑えたければ、上手く立ちまわるしかない。それはブリンディシで嫌というほど思い知らされた。
「これは、私の戦い方」
 邪魔などさせない、その意志が確かにあった。
「もう二度と、プリンディシの惨劇は繰り返さない‥‥!」
 加速が機体を押し出す、風に乗り、浮遊のような錯覚が身を軽く感じさせてくれる。
 戦域の外周を回り、攻撃ポジションへ、両端に散った敵部隊がこっちに向かってくるが、その進路は秋月 愁矢(gc1971)によって塞がれた。
 敵の行動に迂回が生じ、射撃を行うだけの猶予が出来る。だから時雨はそうした。
 G放電装置を起動させ、電流のネットで敵を絡めとる。攻撃を警戒した敵が注意をこちらに向け、前衛への攻撃が鈍った。

 突進した剣翼が手応えを得る、障害を押しのけ、前に進めそうな感触がある。
 力同士の拮抗は圧倒的にUNKNOWN(ga4276)が有利で、しかし砕くに至らず、ぶつかり合った機体は逸れて離れてしまう。
 勢いづいて、僅か下向く視界には装甲の欠片が舞っていた。自分のものではありえない、先程の攻防によって自機が砕いた敵の機体だ。
 視界の隅に消え去るそれを見送り、呟く。
「受け専門の機体、か」
 逸らされた、というのも含めて。自分にとっては児戯に等しいが、敵は役割を果たせるくらいの近接能力を有していた。
 僚機である、藤田あやこ(ga0204)の攻撃も一応は通る。ただ、多方面からの攻撃の対処に慣れていなくて、そのへんをフォローしてやる必要性があるかもしれないとUNKNOWNは考えていた。
 空戦の基本は迂回と疾走、陸戦と違って方向の転換には多少の難がある。
 敵機体のコンセプトは明確だ。決して無視出来ないレベルの火力と、正面からぶつかり合える程度の装甲、傭兵たちがたどり着く型の一つを、形にしたような機体だった。
 その意味が持つところをUNKNOWNは暫し思索して、
「‥‥ああ。この相手は、私がするべきだろうね」
 追いかけっこに加わる必要性は感じない、ならばこれを放置していいのかと考えると、否と出ていた。

 戦場は加速を迎えていた。
 妨害と援護が奏功し、お互いに打撃が入り始めている。
 飛翔能力の喪失が可能性の一つとして浮上し始め、焦りが戦いを更に激しいものと化していた。
「――――」
 息を押し出せば、沈む感触と共に視界が安定する。
 敵味方の距離が空き、目標が旋回する瞬間を狙って、京夜は射撃を行った。
 敵の破砕が手応えとして返る、距離があいてしまうが、『いいから追え』とばかりに管制機が敵の進路予想を突きつけてくる。
 指示のまま加速を試みれば、ブーストした管制機が後ろからちゃんと着いてきていた。
 空の進路は二つに分かれる。京夜率いるディアブロと、フォルの雷電。軌道は包囲を避けるように別れ、敵を包囲する位置で合流していた。
 上下からの挟撃、逃げられる筈がないという予測は、そのとおりになった。
「あと、二回くらいは攻撃できそうですね」
「ああ、‥‥それまでに仕留める」
 錬力と手数を考え、それが可能であると京夜は結論を出していた。
 追いすがる手応えはある、全体を見ると追いつく事が出来ていないのは、まだ詰めの甘い部分があるのだろう。
 それぞれの戦法だけでは連携にならない。
 有り体に言えば噛み合いの悪さそのもので。時雨と愁矢の牽制はそれを補うのに大きく働いているが、数で圧倒的に負けているのが痛かった。

 逃げる獲物を追えば、管制機から横撃の警告が飛ぶ。
 軌道はこちらの進路を塞ぐ位置、速度を落とし、方向転換を強いる類の攻撃だ。
 逃げられてしまう、そう判断した瞬間、緋音は自らの機体を持って攻撃を遮断していた。
「‥‥!」
 衝撃が機体を揺らす、肺を殴られたかのように、呼吸が一瞬止まる。
 が、その代わりに攻撃は届いた。塞がれる筈だった軌道を朔夜がすり抜け、一撃を加える。
 なんとか敵を振り切った由梨が合流し、余剰した僅かな行動力で攻撃を叩き込んだ。
「‥‥っ!」
 なんとか出来たのだと、安堵がある。
 その代償は痛みと不調の形で自身に返り、気を抜いていい状況にはまだ持ち込めていない、そんな事実が体を重くする。
 レーダーを確認すれば、複数、多いと言っていい敵機がこちらを囲む位置に回っていた。
 逃げなきゃ、という思考が浮かび、応じるように。
 ――またなのか。
 そんな自覚が緋音に生まれていた。

 数的優位に立つ、その思考は間違っていない。
 実際、一連の攻防は敵の妨害さえなければもっと上手く行っていただろう自信もある。
 ただ、敵はこちらが嫌だといっても妨害をしてくること、それを失念していた。
 余計な小細工ですらない、ただの立ち回り。有利な状況を望むなら、有利な状況に持ち込む方法を考える必要があったのだと今になって思う。
 四機による連続攻撃、自分たちにとって強力な戦い方を、敵は数と連携によって寸断してくる。
 牽制は間隔を産み、敵の立て直しに続く。
 状況は、間違いなく自分たちの不利に傾いていた。

 回避とかそういうのを、由梨は半分諦めつつあった。
 無論、危険な攻撃は避ける必要がある。でもあくまで撃破を優先に置くなら、自機の損傷位は覚悟するべきかもしれないと思い始めていた。
 だから、そのようにする。
 無論、囲む敵からは多数の攻撃が殺到してしまい、自分の機体は装甲から砕かれつつあった。
 多くの攻撃も敵攻撃によって差し止められる、だが行く。
「‥‥。仕方ありませんね‥‥」
 無月も同様無傷では済んでいない。一撃離脱を行うには、囲む敵の数が多すぎた。
 逃げては攻撃できない、だから逃げない。
 由梨の援護を受け、無月は敵に照準をつける。

 敵の機体には死の色があった。
 殺すための兵器であることを隠そうともしない、むき出しで無骨な機体。
 ナイフのような、簡潔な鋭さではなく。悪意を象徴するかのように、歪められた曲刀《死》を敵の機体は持っていた。
 『どちらが』あの装置を決めたのか、それは本人を問い詰めないと分からないだろう。
 だが、或いは――朔夜にそれを感じさせる要素を、八つ当たりさせる理由を整備士は十分に持っていた。

「愁矢」
 愁矢に対する、僚機からの呼びかけは突然だった。
 戦線が押されるに連れ、自分も焦りを得ている。追随する疾走は一層激しいものとなり、攻防はだんだんと前線に近づいていく。
「私は――攻撃に出ようと思う」
 時雨が告げた理由は、僚機に対するけじめに近かった。
 自分に意志はあるけど、他人が自分と同じだとは限らない。逃げ道を提示されながら、しかし、彼はそれを選択することなく。
「分かった」
 それだけを告げた。

「乱戦で一番辛いのは瑞浪さん達でしょうね‥‥、
 一番相性が悪い重装型はUNKNOWNさんが相手してくれてますけど」
「じゃあ、俺たちは軽装‥‥いや、狙撃型の相手か」

 管制機組は、時雨たちのフォローに目標を定めた。
 牽制に臆する事はなく、フォルは避けきれないものに定めて、攻撃を慎重に受け止める。
 正面から敵に迫る一方、京夜が突撃のための加速を溜め始めた。
 状況と指示は、時雨たちの所にも届く。
 全て終わるまで気を抜く事はないけれど、目標に近づきやすくなった、と時雨は僅か安堵を得ていた。
「狙撃の心配はしなくても良さそう‥‥近いのから行く」
 一撃離脱はもう選択しない、全ての行動を攻撃と追撃に回す。
「エレクトラ‥‥頑張って」
 自らの機体は間違ってもこういった強襲には向いてない、でも、意志を果たすために踏み込むべき領域があった。
 愁矢が敵進路を阻み、時雨が迂回で速度の落ちた敵を穿つ。
 特殊能力を惜しむ事なく使い、敵が殲滅される速度は、時雨の決意前と比べて格段に上がっていた。
 足止めを果たし、敵の破壊も成し遂げる。
 敵残骸が地上に落下するのをバックミラーで確認しながら、視線を戦場に走らせ、手の回りきっていないところを発見すると、叫びを愁矢に向かって放った。
「愁矢、上!」
 視線の向かう先で、するべき事はすぐに理解出来た。
 位置情報は僚機の健在を示している。そこに安堵を得て、愁矢は指示された方向へと注意を向け直す。
 攻撃軌道に乗っている敵へと、G放電装置を向けた。
 行動を阻む電撃。
 敵機の破壊には程遠いが、牽制の一点のみに絞れば愁矢の武装チョイスは最適と言えた。安全を保つ射程があり、性能を補うに足りる命中精度を有している。
 攻撃を受ければ動きは揺らぐ、強引に突破する事は可能でも、被弾による照準のブレは避けられないものだった。

「動きが良くなってきたわね」
「追い詰めると気合が入るんでしょうねぇ‥‥」
 ユズは僅か苦笑し。
「目標の半分は達したんで、いいんですけど」

 傭兵たちがそれに気づくのに、かなりの時間を要した。
 攻撃の前兆はなく、それらしき設備も見当たらない。傭兵たちに『今すぐ』脅威を加えるシロモノは、地上に存在しなかった。
 敵数が多く、ある程度経ってようやく余裕が出てきたのもある。
 だから、愁矢はそれに気づいた瞬間、背筋が凍る思いを得た。
『愁矢?』
 時雨の問いかけに、愁矢は明確な返答を作る事が出来ない。
 まさか、という否定したい思いがあり、危機感を喉に突っ込まれたかのように動けずにいる。
『あれは――』
 気にかけていた、だからフォルも気づく事が出来た。
 慌ててミラッツオの方を窺えば、地上に軍勢と呼べるような物々しさはない。此処になく、別の場所にあるもの。
『――ミラッツオは空です! 敵軍勢・シチリア東方面にて発見!』

 状況は錯綜していて、混乱の中、シチリア島は不穏な色を帯びつつあった。
 それは違う風味を持ちながら、ブリンディシの時ととても良く似ていて、進行は既に半分を終えている。
「――あは」
 敵の指揮官が笑みを浮かべ、歓喜の声を漏らした。