タイトル:【RE】Re−actマスター:音無奏

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 1 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/06 22:18

●オープニング本文


 2009年、夏頃。イタリア南部の競合地帯化を伴い、ラスト・ホープ本部ではでは改まった対イネース体勢が組み直されていた。
 仕切り直しを含んだ作戦には共通して【RE】の名が与えられ、情報報告書には「再演」として『Re−act』と名付けられている。
 9月――依頼形式を取り、日時を指定された事前準備は質素に『イタリア状況の説明』とだけ記されていた。

 ――依頼ではないのだと、彼女は真っ先に告げた。
 だから自分も何らかの役割を担っている訳ではないと、クラウディア中尉の話は続けられる。
 説明に来たというのが正しいのか。話が終わったらそのまま帰ってもいいのだと前置きして、彼女はイタリアの状況を述べ始める。
 イタリアの地域状況――ナポリ以南はバグアの侵攻が進んで競合地域化。ナポリは交通・ライフラインが軒並み寸断、都市自体もバグア軍に制圧されて復旧不能。またイタリア軍の一部が膠着という形で足止めを食らっている。
 イタリア長靴のかかと部分、ブリンディシがあるプッリャ州こそまだ治安が保たれているが、軍港であるブリンディシが、イネースと行動を共にするユズによって制圧されていた。
「地方守備の軍を除いて、イタリア軍は概ねプッリャ州で膠着状態だ」
 クラウディアの口調は苦い。ナポリ−ブリンディシ以南の地域はイネースの洗礼を受けて制圧、もしくは壊滅していて、なだれ込んだキメラによって治安は悪化、それぞれの拠点にワームが集いつつあると言う。
 敵はイネースとユズの賞金首二名、公式に発表されている以上の情報はなく、二人が協力関係にある事は確定情報になっているらしい。
 二人の性格故か、陣容はさして派手な訳ではないが、二人はイレギュラーな機体を所持している。
 彼女たちは『リリス』と呼んでいた、元は傭兵たちの機体であった『アンジェリカ』の鹵獲改造機体。改めて名を付けるだけあって手は込んでいるらしく、強いて公式資料と出来るような性能は判明していない。
「それで‥‥軍が、動けないんだ」

 驚愕とも言える位に、言葉を失う傭兵たちにクラウディアは説明を続ける。
 ブリンディシにおける戦闘は流石に収まっていた。それはユズが彼らを追い払う形で決着されていて、防備を固めるバグアに対し、イタリア軍が都市を囲んでいる状態だ。
 侵攻は――出来ない、都市には人質がとらわれていた。
「住民数万人‥‥元々使う予定だったんだろうな、殆ど都市の中に取り残されたままだそうだ」
 空で戦闘が行われる一方、都市内は密かにバグアによって制圧されていた。元々存在した防衛軍は、キューブの通信妨害に紛れて内部にて壊滅させられ、外部が踏み入ろうとした時は既に遅く、いくつかのポイントは完全な封鎖が済んでいた。
「‥‥大型兵器を使えばぶち抜けない事はないと思うが、正直勝算が掴めていない」
 住民を取られている以上空爆は使えない、市街戦も正直余り好ましいとは言えず、出来れば速攻で決着をつけたい所なのに向こうの防御態勢は万全だ。
「バルカン経由すれば物資はいくらでも運び込まれそうだからな」
 向こうの補給線を断っておかない事には侵攻が出来ない――それが結論。
「ナポリは‥‥」
「あっちも似たようなもんだ、事前準備を念入りに行われた分、ナポリの方が厄介ですらある」
 交通ラインの寸断は住民に逃走を許さなかった、また南部を蹂躙された分、バグアの補給ラインが強くなっている。
 他地域からの援軍はまだ差し止められていた、消耗戦は決して賢い選択ではなく、自国住民の危険には積極的に加担出来ないために。
 最悪の絵は――民間人を挟んで撃ち合う事だろう、イネースは喜ぶだろうが。

 説明を終えるが、クラウディアは退室を促さない。
 紅茶のポットを傍らに置いたまま、残り続ける面子に言葉を続ける。
「今回、私は軍事顧問として呼ばれている。進む道に言葉を与えるために、だ」
 情報を絞るために、と前置きして告げられるこれからの予定。予想される戦場は陸海空全て、戦種は偵察、強襲、乱戦、旗色が悪くなれば護衛や撤退戦などもあり得る、市街を戦場にする可能性もあるだろう。
 要するに戦闘は想定出来るあらゆる全て、という話になるのだが、途方もない範囲は想定に外れが低くなるとも解釈出来る。
 向かいに複数用意された席を指し、告げた。
「これ以上話があるなら聴いてやる、ただし道は自分で進め」

●参加者一覧

/ フォル=アヴィン(ga6258

●リプレイ本文

 戦略会議――と称すほどでもないが、言葉は地図に描いた戦略予想について交わされている。
 聞く限りでは戦略面は指揮に委ねきってもいいのだろう。ただ、考える材料は多ければ多いほど良い。

 戦略を語る前に、情報確認が一点だけ行われた。
 唯一不明な所が多い敵の機体、鹵獲アンジェリカ『リリス』が発揮した、受けた攻撃を肩代わりさせる特殊能力。
 あのリリスは中尉が担当した戦闘でも一回顔を出している。あの時の機体は単純に改造アンジェリカのように思えて――あの時の機体に、その能力は搭載されていた様子があるかどうか。
 フォル=アヴィン(ga6258)の問いに対して、中尉は少し考え込んだ後肯定の頷きを返した。
「あるだろう。ただ、向こうに使うつもりがあったかどうかと言われると微妙だな」
 問い返すフォルに中尉は言葉を続ける。
 あの戦闘において、キューブによる防衛はほぼ完璧に近かった。となればそれ以上防備を重ねる事は『実戦的』とは考えにくい。
「手の内は隠すものだ、だからあの戦闘においての役割的に。――使い魔が使われるとしたら、恐らく致命的な一撃を避ける時の逃走用だろう」
 本当に最後の最後でしか使うつもりはなかったのだろう、次の戦闘でより多くのアドバンテージを得る事を考えれば。

●戦略会議
 機体の話を切り上げ、話は戦略面へと移る。
 二人の話は競合地帯、行動可能範囲の詳しい仕様から始まった。
「ナポリか、密度の差はあるが、競合地帯のラインは丁度カンパニア州の境界線と大体同じ辺りになる。
 ローマは人類支配地域のまま、バグアの手は及んでいない。フィウミチーノ空港は利用可能だ、安全度は‥‥」
 ひとまず、向こうから積極的な攻勢を受ける事はないのではと中尉は断じた。
 補給線と戦力の問題だ、と。恐らくバグアとてこれからイタリア軍と死闘を演じる事は承知しており、これ以上戦力を分けて占領地域を増やすことは考えにくい。
 攻勢に出たらそれはそれで叩けばいい。ナポリ・ブリンディシ共に人質が侵攻の枷になっているが、だからといって必ずしも脅迫の材料になるわけではないのだ。
 人質を無闇に殺しても双方共に止まる事はない。
「それは‥‥」
「向こうが人質を殺しても、こっちは迅速な救出のため奪還が早まるだけだな。それはそれで準備不足が厄介ではあるが‥‥」
 ローマへの侵攻は返り討ちに出来る可能性が高いので、ひとまず行われないと思っていいらしい。返り討ちにした後の戦力差を考える場合、準備不足でも十分勝機はある。
「ああ、だからといって全く警戒しなくていいという訳ではないぞ、妨害くらいは飛んでくるだろう」
 念を押した後、更に注釈を付け加えた。
 これはあくまでUPCの兵力が全く消耗していない時の話なので、UPCが惨敗したらローマへの侵攻は現実的なものになる。
 地域の安全はあくまで戦力差次第、ということだ。

 地中海側の海路・制海権についての確認。
「海路は使う。‥‥いや、制圧する必要がある、と言った方がいいな」
 フォルの言う通り、海路はイタリアの周辺三島がバグア勢力下にあるため厳しい状態にあった。
 が、ナポリ駐在の敵戦力だけ見れば、バグアと対決して制海権を一時的にでももぎ取ることは決して不可能ではないらしい。
 無論、援軍との戦闘で随時変化する戦況だが――今回の戦闘においてもっとも忌むべきは戦線の泥沼化。そこから海路からの援軍を鑑みた上で、海上での戦闘は避けられる事はないと言われていた。
「補給経路は掴んでいるんですか?」
「ナポリは間違いなくシチリア経由のアフリカからだろうな、ブリンディシはバルカン半島だ」
 拠点を一気につくカードはどうか、と問うフォルに中尉は思考を挟んでから言葉を続ける。
「考慮はしたが」
 仮に行う場合、シチリアを制圧してイタリアへの援軍を断ち切る方向になる。
 決して悪くない考えだったと付け加えた上で、彼女は比較的有利な別選択肢を提示した。
「――私達の場合、補給は弾薬が必須として、食品や薬品も欠かせる事は出来ない」
 それに比べると実にシンプルに、バグアは弾薬や整備品一式さえあればなんとかなるらしい。一部輸送用ワームこそ必要になるが、援軍は補充ワーム――すなわち追加兵力の割合が強い。
 早い話がシチリアを占領するとしたら援軍を押しとどめるための兵力が不可欠で、更に人類側の補給ラインの問題もあり、占領後は思うほど楽には行きそうにない。
 正直な所、シチリア−ナポリで戦うも、アフリカ−シチリアで戦うも大して変わらないというのが見解だ。
 それならナポリ近海で戦線を維持し続ける方がまだ勝算はあった。何より負傷者を下げやすく、補給線も短く済む。
 どっちにしろ突破された時点で後はないのだし、それなら死守方面でラインを短くする方がいいのではないか――と、軍議はその方向に向かっていた。
 いずれシチリアを制圧する必要はあるが、現在の最優先は人質の救出故に、現時点では一旦外される事になる。
 ブリンディシに関してはそもそもバルカンの守備が硬く、途中経路もないことから『攻め込む』選択は最初から外されていた。
 補給ラインの確立などを含んだ運用などはまた細かく詰める必要はあるが、地中海の概要は以上らしい。

 アドリア海へと話が移ったが、此方の状況も似たようなものだった。
 まず、ブリンディシ以北は競合地帯化を免れている程度には安定している。ただ、立てこもりにも似た状況で優勢はバグア側にあり、アドリア海は制海権・制空権共にバグア側にあった。
「ここの戦い方も同じだ。制海権を取り、バルカンからの援軍を押しとどめてる間にブリンディシ内部を制圧する」
 バルカン側については、兵力を送ってくるなどでブリンディシの防衛を強化・支援するする動きこそあれど、他に目立つような行動は見られていない。
 それでは、とフォルが言葉を置く。
 敵の次の狙いはどこか――いや、UPC軍として、今一番失いたくない場所はどこかと彼は問うた。
 中尉の考えでも構わない、そう続ける彼に中尉は暫し口を噤む。間違っていない自信はある、そう静かに告げた後。
「普通に考えれば北へ‥‥ってとこだが。‥‥此処だろうな」
 赤いペンで囲われたのはナポリとブリンディシ二カ所。人質本体を言っている訳ではない、と中尉は付け加え。
「狙われるとしたら、戦場にいる全員が対象だ」
 可能性ではなく、最も可能性の高い次の犠牲者が戦場にいる全員。
 そもそもイネースもユズも『バグアの勢力を広げる』ために喧嘩をふっかけてきている訳ではない。
 彼らの目的は至極単純で――芸術、美学、欲望のためだ。
 それを達成するためなら踏まえるべきは侵攻ではなく被害の方にある、故に――。

‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥
‥‥

 話を終えた後、中尉は書類の最後に簡単なまとめを付け加えてくれていた。
 考え方のために述べた理由は必要だが、結論だけ欲しいならこの報告書よりはもっと簡潔に纏める事が出来るらしい。
 情報には冒頭での説明も軽く含まれていた。

 イタリアはイネースとユズの両名から襲撃を受け、カンパニア州、バジリカータ州、カラブリア州が競合地域化した。
 現在ブリンディシ及びナポリに人質を取られ占領を受けており、敵戦力には『リリス』たる改造アンジェリカが存在、元の能力に加え『使い魔』なる謎の防御性能が搭載されている。
 ナポリ方面。競合地域化しているのは具体的にカンパニア州までで、ローマ一帯は無事、空港も利用可能。
 ナポリ・ブリンディシ共に戦闘方針は『援軍を押しとどめる内に都市を制圧』する事。より正しく言うなら人質さえ救出すれば都市は最悪放棄しても構わない。
 補給ラインの問題からナポリの防衛線はシチリアではなくナポリ沿海に敷かれる事になる。
 そして次の犠牲者候補は『戦場に居る全員』。