タイトル:【Woi】スナイパーマスター:音無奏

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/27 01:31

●オープニング本文


 依頼放棄は認めない、恐らくはそんな感じのアナウンスが流れているのだろう、ブリーフィングルームで待ち受けるクラウディア中尉は表情こそ変わらぬものの、感情に少し不機嫌の色をにじませていた。
 アメリカは当然ながら欧州所属である彼女の管轄ではない、中尉がわざわざ飛ばされたのは言うなら、
「赤紙‥‥と言ったか、日本では」
 他の予定を延期してまで行う今回の強行依頼、軍に対する不信感、住民に対する責任云々などと言われたが、それに対する今回のこれなら、諸手を挙げて賛成する気は間違っても起こらないだろう。
 住民の安全は今更言われるまでもなく、当然のように守るべき事だ。
 そもそも、成功した所で傭兵たちの手柄であるのだが、そこまで突っ込む気力は最早残っていなかった。
 詮無き思考が一秒ほどで打ち切られ、時間を過ごしてる間に傭兵たちが集って来てくれている。
「――来たか」
 傭兵たちに向き合うと、頷き一つを挟んでクラウディアは今回の担当概要を話し始める。
 全体の作戦は、言うならば「ステアーのパーツ争奪戦」。軍の体面がかかっているため、UPC側は住民に気づかれるような大規模の市街戦を禁止しており、足枷の重い状態だ。
 今回、彼女の担当分は別段市街に潜むバグアの暗殺ではなく、言うならば要所の警備に近かった。
 担当・待機する地域は「ロサンゼルス国際空港」、空港とは住宅区と離れた場所に作るものであり、実際に郊外とは言えるかもしれないが。
「それでも市街区に結構近くないですか」
「近いな」
 狙われる可能性の予測はそこに基づいていた。
 「ステアーのパーツを確保し・護送する」という任務だけではない、「来襲・潜伏すると思われるバグアを、住民に気づかれる事無く抹殺する」のも込みだ、むしろUPCにとってはそれがメインである節すら見える。
「ロサンゼルス国際空港は流石に本命すぎるから、確保した所で輸送に使う確率は低いと思うが‥‥」
 使われない空港に上空から来襲、そして爆破。市街区からも見えるような盛大な花火を上げ、住民に紛れ込んでUPCに不利な噂を流す‥‥。
 嫌な話だと、どこからか感想が漏れた。
「やりそうな奴が向こうには何人かいるからな」

●幕間、バグア側
 物々しいUPC軍とは打って変わって、バグア軍の各基地はいつも通り、何も変わる様子はなかった。
 特別な理由など何もない、そうさせる理由・命令いずれもなかったのだ。
「UPC軍がなめられてるのか、『その程度』なのか‥‥ま、関知しなくていいというなら興味は示さないが」
 ジャック・レイモンドの手元にはロサンゼルスとは別の予定書がある。彼自身は進めている予定的にも世界の表舞台に出てくる必要はまだなく、そのために挟まれた本軍とも言うべき大規模作戦の都合。
 参加するかどうかはともかく、予定は開けておくのだと返事だけ記入し、無造作に傍らに置いた。
 全体の状況を見る限り、今回ロサンゼルスの方に賞金首たちが直接出張る事は恐らくないだろう。好奇心旺盛な人物がバグア側にいたのなら、理由なども探られようが、残念ながらそんな環境には恵まれていない。
 整備士の子供が自律型ワーム一部隊を送り込んだ、話ではその程度らしい。確か部隊一つで『スナイパー』と呼んでいたか。
『遠くから放たれた一撃は岩をも砕く‥‥そうなったら楽しいですよね』
 軽い口調だったが、あれでも一応市街区を制圧する程度の力は持たせているらしい。狙いはロサンゼルス国際空港、ステアーのパーツ奪取を考えるなら間違っても標的にはならない場所だが、
「戦略を楽しむなら真面目にやるだろうけど、今回はそうじゃない。そこまでの時間もなかったしね」
 戦果を優先するなら人選を緻密に選んで――そう、早い話が自分が潜入して取ってくればいいのだ。
「だから、さ。そうなれば俺たちにとって有効かどうかじゃない、『俺たちにとって楽しいかどうか』なんだ」
 『頭の血管ぶっちぎって憤死すればいいんです』――あのひねくれた根性を読むなら、真意はこの辺りにあるのだろう。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
なつき(ga5710
25歳・♀・EL
音影 一葉(ga9077
18歳・♀・ER
イスル・イェーガー(gb0925
21歳・♂・JG
クリス・フレイシア(gb2547
22歳・♀・JG

●リプレイ本文

 眼下、滑走路やセンターの建物が視界を一瞬で滑り、陸地が瞬く間に遠ざかっていく。
 計器類と共に見つめる先には青が広がっている。視界には速度を感じさせる変化を持って、傭兵とバグアは交戦距離へと突入した。

 彼我の距離はレーダーが示すに約2km。
 敵の編成は小型ヘルメットワームが8機、中型HWが4機。バグア側に伏兵がいるのなら、アクションを起こすべきタイミングだが未だその様子は見えない。
 計器類に異常はなく、拍子抜けと言ってもいいくらいの素朴な編成のまま、距離は詰められていく。
 不気味さこそ感じれど、認めるしかない、恐らく今回は本当に見えるだけの戦力しかいないのだろう。
 頭の中で予測を組み立てても、情報が足りずに中断される。クリス・フレイシア(gb2547)はいらだち紛れに思考を吐き捨てた。
 ‥‥何の事はない、何を仕掛けてくるかはそのうち判るだろうし、傭兵は依頼をこなすだけだ。
 停止する思考は相手への拒絶に近い。遠く、なつき(ga5710)は敵という膜を通してロサンゼルスに意識を向ける。
 この都市を失う訳にはいかない。ただ、遠回しな思考のせいか実感がいまいち薄い。
 ステアーのパーツ、バグア‥‥それらが意識上に認識されていないのは無論、今回の防衛ですら最終的にはしょうがないという、諦めらしき感情が奥底に滲んでいた。
 それは、ただ、自分の無力への。

 間合いが1.5kmを切った所。傭兵たちを前にして中型が左右に散開、小型は更に大きい弧を描いて上下左右に散り、横から挟み撃ちする形で此方に機首を向けてくる。
 不気味さが続く中、冗談じみたエンブレムのシュールさへと思考をひきつらせながら、榊兵衛(ga0388)は自分の機体を自陣最前に出した。
「‥‥何をしでかしてくるか判らんからな、あの娘は」
 相方としてロジー・ビィ(ga1031)が口元を引き結び、後ろからついてきている。自分は斬り込み役だが、向こうの動きが判らぬ間はまだ飛び込まない。
 尚賞金首のユズは公式には性別不詳なのだが、抗議するべき本人は不在で――。
 ただ、物言わぬHW達が機械的に作戦を実行した。
 遙か遠い間合い、1km先から攻撃が放たれる。
 焦りはさほどない。自分達の二倍を超える超射程は驚嘆に値するが、その分反応する時間が僅かに延びている。操縦をミスらないように緊張感だけを保ち、操縦桿を倒す。榊に集中した攻撃を彼は完璧にくぐりきった。ただ、一部の弾に対して自ら当たりに行く。
 ‥‥潰さないと、ロジーが被弾しそうな攻撃が幾つかあったのだ。
 衝撃が機体を揺らす。はね飛ばされないように操縦を立て直しながら、被弾による黒い煙を振り払う。
 攻撃を見るに敵はまず近接仕様型ではないだろう。射撃型、元凶であるユズ的に普通のワームではあり得ないのだから改造されていると考えるべきだ。
 射程強化、或いは出力強化型。
「――双方か‥‥!」
 把握した情報をイスル・イェーガー(gb0925)の電子機へと回し、全機に通達して貰う。
 バグアの機体中、頂点の攻撃力を誇るファームライドの攻撃ですらある程度耐える自負のある榊の機体は、しかし装甲を幾分か砕かれている。
 無論、かすり傷だ。敵の火力はFRに遠く及んでいない、ただそれでも『砕く事は出来ていた』。
 距離を詰める傭兵たちに対して、HW達は相変わらず外周を回りながら距離を保って攻撃を放ってくる。
 攻撃は当然のように他の仲間にも及んだ。
 三島玲奈(ga3848)が作戦に対していくつかの予測を立てていたが、どれも当たってはいないし本質を捕らえていない。
 陣形を崩そうともくろむ彼女だが、傭兵たちの機体が削がれていく中、敵はまだ一発も攻撃を受けていなかった。
 傭兵たちが追いかければ、そのワームは逃げる。追いかける傭兵たちを他のワームが離れた距離から狙い撃ち、目標を変えれば役割も一緒に変えられるだけ。
 ――追いつかない。
 敵を間合いに入れる事が出来ていない。当然だが、敵を落とせない事には自分達が削り切られるのみだ。攻撃を受け、まだ誰も脱落してはいないが、うっすらとした不安が傭兵たちに広がり始めている。
「っ‥‥」
 月森 花(ga0053)も機体に一撃貰った。ファランクス・テーバイを発動してなんとかやり過ごしたが、長く耐えられるものでもない。
 焦れるタイミングではないが、迅速に片をつけるべきだと判断して、意識の切り替えは早く、記録から敵の動きを再確認する。
 敵の陣形中核を見つけ出し、K−02ホーミングミサイルの攻撃で陣形の綻びを誘う――。決して悪くない考えだったが、
「‥‥ない!?」
 敵の動きには中心となるべき機体が見あたらない。
 言うならば全てのワームが等価な『同期型』。同じプログラムと情報を共有し、自動的に効率的な答えを導き出す。
 この陣形は物理的に破壊するしかない。全滅させるまでこいつらは止まらないだろう。
(「‥‥そうか」)
 クリスが唇を噛む。彼女も被弾はしていたが、同じくテーバイでダメージを殺している。ようやくこの編成の意味が理解出来ていた。キューブがいないのは、この戦術において足手まといになるからだ。
 キューブをばらまけば安全地帯を構築することは出来るが、行動にパターンが出来てしまう。仕組んだ相手は恐らくそれを嫌っていた。より大きな行動範囲、機動性、そして身軽さが望ましい。
 心もとない編成だが、潔癖なまでに目的へと特化している。
 恐らく戦闘は後20秒も持たない、その中、音影 一葉(ga9077)は勝負に出た。
「突っ込みます‥‥援護を!」
 斬り込み、攻撃を引き受けるのは榊とロジーの役目だ。ロジーがブーストを点火したのを合図に、榊と音影、ついていくためになつきもそれに倣う。
 逃げられるなら力業で追いかければいい、飛び道具相手にかける時間は少ない方が望ましいのだ。
 向かってくる攻撃を相変わらずくぐり抜け、榊はロジーへ向かった攻撃だけを受ける。機体は半壊していた、ただまだ動く。
 四機が狙うのは中型、射程に収まったと確信した時点で一葉はアクセルコーディングを始動、ドゥオーモの引き金を引いた。
「ドゥオーモを発射致します。避けても、受けても後の行動は変わらず‥‥一気に仕留めますよ‥‥」
 膨大な放電が視界を灼く、合図通りにすぐさまなつきがライフルで追撃を仕掛け、焦げ痕の上から傷を作る。
 次の行動のため音影が操縦桿を引いた、が――。
「駄目だ音影! 機動を使っては――!」
「‥‥え?」
 士官が警告を叫ぶ中、ワームとの距離が離れていく、バレルロールアタックは自速の方が早くないと意味をなさず、単体の質で勝るバグアのワームにたやすく置いて行かれる。
 そして、バレルロールは飛行速度を大きく減衰させる機動だ。疾駆の出来ない一葉の機体に、周囲のワームから攻撃が殺到した。
 機体がたやすく叩き落とされる。一発は運良く逃れ、アクセルコーディングが続いていたため直撃とまではいかないが、ダメージは重い。胸には鈍い痛みが残って、意識をそぎ落とす。
「‥‥バグア相手に無闇な戦闘機動は使ってはならない。向こうは慣性制御が出来るんだ」
 焦りを押し殺した士官の解説。早い話がバグアの機体は物理法則を無視したでたらめな動きが可能で、死角に潜り込むような戦法は通用しない。
「‥‥! なつきさん!」
 機体を立て直した一葉が慌てて僚機の位置を確認する。自分がはね飛ばされるのはつまりガード役がいなくなると言う事。
 その予測を裏付けるように、イスルの焦ったような、なつきの被弾報告が飛び込んできていた。
 ロジーと榊に迷いが走る、陣形が崩れたためガードは届かない。更に悪い事に、攻撃に関してもワームが大きく散開しているせいで、K−02の照準が五機も捕らえる事が出来ていない。
 二機一組で動いてるから、狙うのならそれが限界。散開する前なら或いは――だが、時間が経過しすぎていた。
 それは小型対応の花とて同じ。敵の数が多く動きが大きい分、此方は一層翻弄されている。
 包囲してくるワームを威嚇しようと、三島が旋回して機首を向けようとするが、それが詰め。
 旋回によって速度の落ちた機体はワームの攻撃を受け、叩き落とされた。
 今度は立て直しの効かない、機体が破砕した完全な撃墜。
 後方の敵にちょくちょく攻撃するような器用な芸当はKVには出来ない。無理な動きは綻びを生む――それを三島本人が実践してしまった。策士策に溺れるとも。
「‥‥っ‥‥耐えないと‥‥」
 イスルのウーフーは電子支援を続けている。被弾の際にぶっ壊れなかったのが幸いか。
 要するに、追いついて攻撃を叩き込めばそれで勝てるのだ、ただ――。
「くっ‥‥!」
 多勢に無勢か、僚機を失ったことが痛手となり、花の機体が猛攻に耐えきれず墜ちた。
 K−02による攻撃『ゴーストインフェルノ』は五機巻き込む事はかなわなかったが、多少の傷を負わせている。仲間の助けになれば或いは――。
「‥‥一旦離脱するぞ、合流だ」
 クリスの叫びにイスルは従う、バックミラーに映る追いかけてくる敵勢が内心に焦りをもたらした。
 弾幕が舞い、機体を追いかけてくる。
 クリスがいくつかを引き受けてくれるが、それも完全ではない。被弾が重なり、
「‥‥!」
 イスルが攻撃を振り切れず、疾駆途中で失速した。
 クリスの機体は意志に関わらず離脱へと飛び続けている、一瞬だけ目を見開き、失態だとクリスが唇を噛む。
 護衛機でありながら、彼女を守りきれなかった。
「くっ‥‥!」
 小型ワームの対応班はクリスを除いて全滅した。失点は初動を間違えた事か、或いは敵の追い詰め方をもう少し効率的に行えていたらまた違った気もする。飛び道具への対処を検討すれば至れたのだろうか。
 損傷さえなければ今この瞬間に攻撃をたたき込めた事だろう、計器は戦闘が30秒目を目前とする事を示していた。

「‥‥なつき!?」
 痛みの意識の中、自分に向けられたロジーの焦った声が聞こえる。
 機体はまだ落ちていない、視界では赤色がぼやけて点滅を繰り返し、恐らくは飛び続けている事が奇跡であろうことを示している。
 戦闘開始前、ロジーはなつきを捕まえて告げた。
「逢えて良かったですわ‥‥心配しましたのよ?」
 ――と。
 自分があの時どう反応したかは覚えていない、多分無表情のまま曖昧に返したのだと思う。
 拒絶が記憶を封じ込めていた、世界から目を背ける。
 ロジーがそんな事を言ってくれるのは、自分に好意を向けてくれている訳ではないのだろう。咎めるのは、自分の行動や思考がロジーの大切な人を傷つけるからだ。
「‥‥すみませんでした、と。今まで有難う、と。彼には伝えて下さい」
 ‥‥ああ、そんな事を言ったっけ。
 自我がきしむ、痛みで思考が朦朧とする。下手に私の意志などを求めないでくれれば。ただ、「従え」と。言ってくれていたら良かったのに。
「っ‥‥」
 理想との乖離に意識が涙する。変わり始めているなど錯覚でしかない。一緒にいるのを許されたから、錯覚しただけなのだ。
 ‥‥出会った事のない人達は、あんなにも眩しかったから。

「‥‥まずいな」
 攻撃の手応えはある。ただ相次ぐ仲間の撃墜が榊に焦りをもたらしている。
 小型の殲滅は絶望的、程なくしてそれらの攻撃は此方に向くだろう。機体の損傷は80%をとっくに上回っていた、次を耐えられる自信は正直ない。
 榊が仲間の攻撃を肩代わりしようと思うのは当然だった。自分の機体の方がより耐える事が出来、仲間が撃墜されない内は攻撃の手数が増える。
 後一回、今回だけなら。
 次の攻撃が飛ぶ瞬間、緊迫した意識に従いロジーを庇おうとして――。
「――庇わないで!」
 ロジーが自らワームの攻撃を受けた。
 着弾の衝撃にアンジェリカが揺れる、フィードバックされた痛みが思考を貫き、圧倒的な奔流に思わず涙が滲む。
 ‥‥痛い。
 当然ですわ、と思った。避けなかったのではない、最初から避けられなかった。そして榊はそんな自分を庇い、ずっとこの痛みを受け続けてくれていたのだ。
 確かに榊の機体は頑丈だ、攻撃を受けたところで装甲が少し欠けた程度でしかない、だが間違っても続けられる事では無かった。
 このままではいけないと思ったのだ。自分を庇う事で榊を潰してはいけない、今榊の撃墜を許したら。
 ‥‥この戦闘に負ける‥‥!
 ならば最早自分の身くらいは自分で守るべきだろう。榊の隣から離脱、斬り込み役を完遂出来無かったことには申し訳なさも感じるが、恐らくはこの方がいい。
 そしてほんの少しの欺瞞に、ごめんなさいと内心で告げる。
「‥‥大丈夫、ちゃんと援護しますわ」
 恐らく持つのは次の10秒だけ、それでもいい。
 ブーストは点火したまま榊が攻撃する先に回り込み、ブースト空戦スタビライザー、SESエンハンサーを起動。
 機体性能を全開にして高分子レーザー砲を放つ。榊と協力して追い込んでいたワームが致命傷を受け、海面へと墜落する。
 残りは11機。
 一葉が復帰したらもう少しは倒せるだろう、その事に願いを託しながら敵陣と向かい合う。
 次に食われるのは間違いなく自分となつき。彼女には告げるべき事があって、なつき、と名前を呼ぶ。
「あの言葉は‥‥あたしからでなく、貴女自身から伝えるべきですわ」
 LHに来てなつきは変わった、それがロジーにとっての紛れもない真実。だから。
「いつでも良い、きっと還って来て下さる事を信じてますわ」
 二人分の攻撃を自分が引き受けられたら。
 恐怖心は当然のようにある、――でも、感情に身体が竦む前に前方へと飛び込んだ。


 中型の三機撃墜、それが残った二人が行える限界だった。
「‥‥爆弾、持ってたね」
 海面に揺らめく自分の機体に立ちながら、花が落ち込みを孕んだ声で呟く。
 それは障害排除に用意されたものではない、空港の破壊として――撤退したバグア軍は最後にフレア弾を空港に投下していった。
 フレア弾だけ投げていった、と言ってもいい。本来ならそれで済む筈もなかったのだろうから。

 ――イタリア、ブリンディシ。
 ユズは調整用の仮想視界の中で、ロサンゼルスから部隊が帰還した報を受け取っている。戦闘記録を改めると同時に浮かぶ楽しそうな表情。
「‥‥以前ジャックさんと戦った人ですか。精進したみたいですね、主に男らしさと機体性能が。ええと、忠勝さんでしたか?」
 戦闘の最後を再生しながら、仲間を見捨てればもう少し機会はあっただろうに、と。それを選ばなかった榊が心底愉快だとばかりにユズは笑う。
 ワームが去る間際、撮影した彼の申し訳なさそうな表情が笑みを深くさせる。
 仲間を見捨てて勝利を得ても褒められる事などない。だが、それでもその人柄を好ましく思っていた。
 あれだけの弾に耐えて、一矢報いたのも上出来だ。惜しむらくは、彼が稼いだ時間を余り有効に利用できなかった事か。