タイトル:雨将軍マスター:音無奏

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/02 01:46

●オープニング本文


 小さな衝撃が絶えず体を打つ。衝撃はそのまま弾け、雫として空中に散った。
 雨だ。
 極短い間隔で体を、大地を打つそれは雨というよりは滝に近い。合羽に入り込んだ水滴が頬を伝い、雨の中に立つ二人の体を濡らす。
「‥‥成る程。これは‥‥」
 その内一人が合羽のフードを下げ、視線を僅かに上げて頭上を仰いだ。漏れる声は低い女性のもの、興味深そうに細められる瞳は蒼を湛えている。
 流石にそう長く眺められるものではなく、雨が眼に入る前に視線を戻す。雨の滝――陳腐だが、名づけるならそう称すべきだろうか。
 岩場に置く足は微妙に力加減を調整されていた、苔に覆われたそれは決して頼りになる感触ではない、一歩踏み出そうとして、ぬめる感触に諦観を抱く。

 真夏の豪雨は蒸し暑さをもたらしていた。しかし現場が豪雨だろうが雪だろうが、交通機関が止まらない限りラストホープの業務は継続されている。
 そんな中、非常に運が悪く――今日処理される事になっていた依頼。
 赴くのは山の中にある渓流近くの岩場、そこに出た水妖の退治だという。
「クレハ嬢が似たような依頼を処理した事ありましたね」
「偶然だがな」
 部下――リエルの言葉にクラウディアが言葉を軽く返す。
 付け足すのなら、あくまで似てるだけ。あの時は、風情すら楽しめそうな難しくない依頼だったが、今回の環境はそう優しくない。
 雨にぬめり、現地の岩場を覆う苔はあらゆる意味で傭兵たちの行動力を奪っていた。『探し出して、討伐する』という内容がまたくせ者で、移動の必要性は有利な陣形を築く事を妨げる。
 向こうが網に引っかかるのを待つ、というのも途方のない話だし、この岩場を『攻撃を避けながら移動出来るか』と言われるなら、身のこなしの軽い中尉ですら苦い顔をするに違いない。
「天気予報は‥‥晴れる見込みなし、と」
 無情な事に、討伐の延期は聞き入れて貰えなかった。結局はやるしかない訳で、難易度の引き上げられた依頼が本部に掲示されている。
 敵が極普通な化け蜘蛛であることが幸いか。雨だけでは糸を洗えず、向こうのバランス感覚は至極良好。
 雨に風情を見いだすかどうかは人次第だが、蒸し暑い上に戦闘の邪魔となる環境には恨みを抱いてもいいだろう。
「‥‥いっそ吐かれた糸でも踏んだ方が安定するんじゃないでしょうかね」
「ひっついたまま苔に滑ったら笑えんぞ」

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
ガイスト(ga7104
47歳・♂・GP
黒桐白夜(gb1936
26歳・♂・ST
ミリー(gb4427
15歳・♀・ER
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
澄川 雫(gb7970
11歳・♀・DF

●リプレイ本文

 外に出れば、蒸し暑い湿気が傭兵たちの皮膚にまとわりついてくる。
 空気は水素すら掴み出せそうに濡れていた。風が凪げば、遠ざけられていた肌寒さがふいに思い出される。
 日差しが見えず、ぼやけた景色の現実感は薄い。

 ‥‥本当に凄い雨だと、一帯を見渡す傭兵たちにはそんな感想が満ちた。備品として合羽は貸し出して貰えたけれど、襟や袖は既に湿気を帯び、どこまで雨を避けられるかは判断がつかない。
 酷い依頼だと澄川 雫(gb7970)は考える。普通の天気だったら足場が悪いだけで済んだだろうが、この土砂降りは『悪い』条件を遙かに超えていた。キメラより天候の方が厄介だ。考えた事は、ペアの鳴神 伊織(ga0421)が奇遇にも呟いていて、顔を見合わせた二人はなんとも言えない表情を揃って浮かべる。
「仕方ありません‥‥よね」
 ぼやいても仕方が無いと、割り切れる位には伊織は冷静だった。
「私は晴れの日が好きだなぁ。雨の風情は‥‥せめて小雨だよね」
 足元に気を付けながらも、夢姫(gb5094)は雨の中でくるりと身を翻した。衣服が張り付く感触は少し気持ち悪くて、早く終わらせたいのだと切に願う。
 そう、雨が楽しめるのは、余裕があるならの話。雫は雨が嫌いじゃない、雨音だって聴けば落ち着くと思う。だが戦闘に関しては先ほどの感想を撤回する事は出来なかった。
(「‥‥いや、楽しんでるのが一人いるようだけど」)
 口にするような度胸は無く、黒桐白夜(gb1936)が目先から視線を逸らす。前向き、横文字的に言うならポジティブシンキング。もしかしてハードルが高いほど燃えるタイプなのか、白夜がそんなしょうのない事を考えているとは知るよしもなく、苛烈そのものの環境の中でガイスト(ga7104)は笑みを浮かべている。
「豪雨で足場は最悪‥‥不謹慎だが、訓練には悪くない。全力で戦うとしよう」
 いや、正直ないだろ。ガイストの言葉に対して白夜はツッコミを入れるが、やはり口には出さなかった。言ったら素で理由を問うて来られそうだし、正直に答えたら何を言われるか解ったものではない。
 ガイストが言うには、悪条件を楽しむ事も大事らしい。苦境と向き合い、決して諦めない事が道を切り開く――そうとは言われるが、気分くらいは現実逃避をしてもいいんじゃないのかなぁと白夜は思ってしまう。そこまでしなくてもなんとかなりそうではあるんだし。

 ――話を戻せば、とにかくついていない。何がかって、色々と。
 ぼーっとしていても仕方が無いのか、傭兵たちは出発地点からの移動を開始していた。探索はほぼ全員で固まる形になっている。八人を二チームに分け、二人一ペア、距離はそれぞれお互いの班を確認出来る程度に。
 二チームの内訳は、男性陣と女性陣。
「この仕事が終わったら、私。あっちのチームに混ぜてもらうんだ‥‥」
 鈴葉・シロウ(ga4772)がゴーグル越しに遠い目をする。今回の班分けを考えたのは、何を隠そう黄昏れているシロウ本人である。合羽を用意されているとはいえ、不謹慎に考えれば水も滴る‥‥なんというか、色っぽい筈の場面なのだが、シロウの班はどこを向いてもむさ苦しい同性しかいない。
 普通にバランスを考えたらこうなったんだ。私何か悪いコトをしましたかしらと天に問うが、空からは水しか降ってこなかった。深く考えなかったのが負けではないのだろうか、もしくは修行不足ですby神。
 夏場の剣道部男子更衣室並の香ばしさ、そう考えると切ない気持ちが一層増しただけのような気がした。
「ご迷惑をおかけするかもしれませんけど、よろしくお願いします」
 経験が浅く、かしこまる雫に対して伊織は「此方こそ宜しくお願いします」と礼を返す。夢姫はミリー(gb4427)と共に、白夜は天原大地(gb5927)と一緒で、シロウはガイストと組んでいた。
 熊の切ない感情を人間に気づいて貰える筈もなく、周囲は無情に現場へと向かい始めている。
 泣いていない、泣いていないんですってば。眩しい片班から目をそらし、シロウはキットから抜き出して来た懐中電灯で周囲を照らし出した。5m先も見えないような雨は霧の間違いではないのか、懐中電灯を翳されれば、雨がスクリーンのように色を帯びる。
 足を踏み出せば、酷く不安定なぬめる感触。
「おっとっ、とと‥‥ふふ、これは尻を打ちそうだ。白夜、尾骨骨折には気をつけろ。笑いものだぞ」
 やっぱり楽しそうだなぁと思いつつ、白夜はガイストの言葉に頷く。自分とて戦闘以外でリタイアするのは嫌なので、話は素直に聞いておくべきだろう。
 一言で纏めるなら、足にしっかり荷重をかけて安定させること。安定する前に重心を投げだせば、確実に足下を取られる事になる。
 歩幅は焦らず、小さめにゆっくりと。いざとなればシロウは女性陣をレスキューしてくれるつもりのようだったが、防具があるから問題ないぜ! と開き直っているのはシロウのみだった。熊も靴に滑り止めはついているけど。
 自分たちを目立たせる事、はぐれないための目印を囮と兼ねて、面々は周囲に懐中電灯やランタンをちらつかせる。
 或いは糸があるのなら、水に濡れて見えるかもしれないと夢姫は空中にも意識を向けた。
 車を出る前、伊織は敵の詳しい情報を尋ねていた。伝え聞く話は胴体の高さが成人男性の首か頭辺り、数に関しては不明で、依頼完了のためには全域を一通り回る必要があるのだという。
 それも依頼の厄介な所に含まれているのだろう。時間が経てば状況は幾らでも不利になるので、短期決着を踏まえたおびき寄せスタイルは恐らく間違っていない。
 伊織を始め、幾人かが自前で用意した軍用レインコートは高級品だけあって行動を全く阻害しない。だがそれも確実に持つのが三時間。
 せめて戦闘だけでも早めに片付けておくに限った。白夜が空に超機械を作動させるが、すぐに結果が出る訳でもないため効果があるのかどうかはいまいち解りづらい。それでも物は試しだ。
 大地の覚醒スタイルは光を放つもの、光源代わりになるなら或いは‥‥と思ったが、ランタンとどっちが効果的かはなんとも言い切れない。
(「‥‥常時ハイテンションを維持するのもきついしなぁ‥‥」)
 それに限ってはランタンより強い輝きを放てる自信はあった。
 一行に薄く張り付く緊張は不意打ちを警戒してのもの、気負ってない方である夢姫ですら首筋にむずがゆさを感じている。そして全員が適度に散開し、監視を広げる態勢が傭兵たちにとって有利に働いた。

 ゆらりと動く巨大な気配に全員が反応する。誰かが発した鋭い警告と同時に覚醒のスイッチが叩き込まれ、武器を抜いて構えを取る。
 思ったよりは遙かに早い遭遇、前に出た伊織が相手の姿を認め、「敵です」と改めて呟いた。巨大な昆虫のフォルムは不気味であり、音を立てて動く様子は鬱陶しさすら抱かせる。
 構えた刀の切っ先が挑発するかのように揺らされた。伊織が振るう一閃の中、得物を打つ硬質な音が響き、衝撃が敵の攻撃とぶつかり合ってお互いを突き飛ばす。
 浅い。攻撃は届いたが、お互いに無傷。仕損ねた事に軽く口惜しさを抱きながら、伊織は改めて腰を低く落とし刀を構え直した。決して攻め手に寄らず、重い足運びは体勢を安定させる。射線のため、散開した仲間達の武器に白夜が錬成強化の力を付ける。敵との距離は超機械の攻撃が余裕で届き、その気になれば自分も戦闘に加わる事は出来るだろう。
(「‥‥つーか、10m以上離れたらぼやけるしなぁ」)
 距離によるやり辛さは普段の三倍くらいか、シロウやガイスト、夢姫も気にしているが、誤爆はよくない。
 そんな中、ガイストが最初に放った蛍光塗料は敵に色を付け、雨の中で敵位置の特定に役立っている。各人が携えたゴーグルも、水を遮って視界を安定させてくれるだろう。
 敵の攻撃は再び伊織に弾かれる。返す刃で連突が繰り返され、同時に雫も迎撃から攻撃へと回った。八本の足はいくら弾いても油断は出来ない、それにのみ集中して刃を合わせれば、柄を握る手に痺れが走る。
 硬い。攻撃器官だけあって硬質化しているのか、ちょっとやそっとじゃ叩き折れそうにはなかった。こんなもので殴られたら痛いだろうと嫌な予想が同時に浮かび、正面から吐かれた糸を雫はイアリスを使って絡め取る。
(「大丈夫、受け止められてる‥‥!」)
 両剣の片方くらいは使えなくなってもいい。誤解されがちだが、スキルを使わない限り得物の数は攻撃速度に影響しないのだから。
 拳銃での射撃を止め、弾倉を取り替える夢姫。一瞬、背筋が視界外に反応を起こし、片手に掴んでいたベルセルクを反応した方向に向ける。
 糸が刀ごと手首に巻き付いてきた。ひやっとした感覚が背筋に走るのも束の間、糸を通じて引っ張られる上半身。転んでこそないが、苔がコンベアのように踏みとどまる事を許さず。夢姫を徐々に糸の大本へと引き寄せていく。
「蜘蛛がもう一匹っ‥‥きゃー滑るぅv」
 なんとも気の抜ける声だが、距離は詰まりつつあった。ベルセルクの剣先が夢姫の提げていたビニール袋を切り飛ばし、詰まっていた土を足下にぶちまける。
 片足ずつ足場を踏み直おせば、苔を埋めた土はしっかりと夢姫の体を安定させた。夢姫を支える人間は必要なくなった。一方戦闘に自分の支援が暫く必要ないことを判断して、ナイフを抜いた白夜が夢姫を戒める糸に刃を突き立てる。
 硬く、そして粘っこい。ジッポライターを追加で当てれば案外安易に切れ目が出来、力を入れて切断が達せられた。
 ペアを支援するためミリーが夢姫の方に加勢し、同様に大地も参戦する。
 誤爆の危険が減って楽になったのか、ガイストとシロウの二人は近接武装を手にする事もなく、射撃にて伊織たちの支援に徹していた。
 シロウが見る限り、旗色が悪くなることは恐らくないだろう、前衛に立った時の九連撃は二連撃をセットしてから試すべきかもしれない、出来れば大物で。
 白夜の錬成による敵の弱体・味方の強化を改めて受けながら、大地たちも迎撃スタイルにて改めて蜘蛛の相手を行う。
 が、いまいち順調とは言い難かった。足場に気を付ける・踏ん張る・攻撃を行う‥‥全て行おうとすれば足場か攻撃かのどちらかが鈍るのは避けがたく、ミリーは攻撃しようとする度に機を失って空振りが続いている。
 大地は比較的安定している方だが、攻撃の手応えが薄いことに心が焦りを生んでいた。まるで以前の二の舞だと、自分に冷静さを言い聞かせながら迎撃の刃を安定させる。
 有効打を与えられていない訳ではない、ただ大地が狙う一刀必殺のチャンスはどうしても巡ってこなかった。
 攻撃を行い、その後は――?
 狙う一撃は直後の隙も余りに大きすぎた。身を引き替えにすれば行えるのだろう、ただそこまでしたいかはまた別の話。
(「こっちは割と攻防ぎりぎりだし‥‥!」)
 前衛が一人減れば後方に危害が及ぶかもしれない、その事が大地の足を踏みとどまらせていた。
 以前のような事は繰り返したくない、その思いは固く、因縁を一度に清算することこそ叶いそうにないが、攻防の度に蜘蛛の体に刻み付ける形で少しずつ成されていた。
 戦況を測りながら、ミリーと大地を支援し続ける白夜。超機械は簡易雨よけとしてビニールをかぶせているが、今の所まだ不具合を起こす様子はない。機械である以上水には弱いだろうが、物凄く繊細って事もないのか。
(「ガイストさん達の方は、と‥‥」)
 ガイスト達が相手にしている敵の末路は近い、刀が届く限り、伊織と雫が攻め手に出ても全く問題のない様子であるし、ガイストに至っては白夜同様周囲を把握する余裕すらある。
 ただ、ガイストの表情は少し苦渋が滲んでいた。それは視界の悪さに起因するもので、照明弾も考慮したのだが、正直ULTで配布されているそれは今回に限って役立ちそうにない。
「持続時間が三秒とはな‥‥」
 信号弾としてなら成立するだろうが、視界を長期間照らし出すには全くと言っていいほど使えないだろう。軍用の照明弾は30分位持つ筈なのだが、そこは量産との問題か。
 これも試練だと割り切り、ガイストは思考を戦闘に戻す。ガイストが放った一撃が蜘蛛の脇腹に入り、それを起点として懐に飛び込んだ雫が蜘蛛の足、根本に刀を叩き付ける。間髪入れず、伊織も跳躍。放ったソニックブームで滞空中の隙を消し、跳躍の勢いを借りてスマッシュを叩き付けた。
「雨が流石に煩わしいですからね‥‥手早く済まさせて頂きますよ」
 敵が怯んでいる隙に再び足場を安定させ、伊織達は詰めた間合いから容赦なく攻撃を加えていく。敵が硬かろうが折れるまで攻撃を加えればいい。ここまで近づけば攻撃を外す筈もなく、両断剣を発動させた雫は敵の足を叩き折った手応えを得る。
 敵が力を失い、軽く吹き飛ばされる感触を得た。念のためシロウが何発か銃弾を追加で撃ち込み、蜘蛛が完全に動かなくなったのを確認してようやく息をつく。
 だが緊張は緩まない、もう片班が戦闘を続けているためだけではなく。
「まだいるぞ。三匹目‥‥だけかどうかはわからんな」
 手にまとわりついた水を振り払い、ガイストが息を吐いた。

「ほっ‥‥やっと終わったぁ。泥だらけ‥‥v」
「おかえり、‥‥何匹仕留めてきた?」
「全部で十五匹です〜‥‥」
 少しふらついた足取りで夢姫が後部ボックスに転がり込み、続いて他の女性陣も乗り込みながらレインコートを外す。
 蜘蛛の数は強さにも関わらず予想より遙かに多かった、相手しているのを仕留める前・仕留めた直後から次の敵がわき出て、結局は三十分を超えた長期戦になったのだという。
 一ペアにつき一匹相手する必要も出た事から、班分けも有利に働いたと言えるのではないか。
 安定した迎撃態勢を構え、次々と迫る敵全てを雫と協力して切り捨てた伊織は比較的疲労も軽い方のようだった。一部負傷者も出たが、白夜が一つ残らず治癒したので見た目的に大事ではない。後先考えずに突っ込み、数と環境に翻弄された日にはこうもいかなかっただろう。実力もあるが、概ねは全体作戦の勝利と言えた。
 傭兵達の手によって、他のキメラが辺り一帯に残っていないことはきちんと確認されている。
 士官たちの間で報告と確認が終えられたのか、車は緩やかに方向転換し、現場を後にしようとしていた。雫は着替えを手早く終え、探索には持って行かなかった水筒を取り出すと、ココアはどうかと皆に勧めてくる。男性陣の車にも同じものをもう一本用意して預かって貰っているらしい。
 派手な戦闘と長時間の闊歩に起因して、少なからず体を濡らした傭兵たちの表情には疲労が窺えた。
 お礼を言いながら笑顔でココアを受け取り、この近くに温泉はないかと問うてくる夢姫に、中尉は暫く考え込む素振りを見せた後、頷きを一つ返す。
「風邪を引かれても困る、‥‥行ってみよう」