タイトル:【Gr】二択一の水中戦マスター:音無奏

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/20 02:40

●オープニング本文


 大西洋上方、イギリスからスペインへと抜けるルート。
 イギリスからの援軍を護衛すべく、傭兵を乗せた一機のガリーニンがドイツ基地より向かっていた。
 援軍に戦力を割くなど本末転倒だと、一度は護衛を断られたものの、ステアーの目撃、そこから推測される予想ルートが援軍の進行ルートと重なっているという情報ゆえに、護衛の派遣は強行されている。
 護衛するのは重なる可能性が最も高い一陣のみ、UPC軍は動かさず、傭兵にそれを依頼することによって。

 ガリーニンのパイロット、クラウディア・オロール(gz0037)中尉は進行に異常がないことを確認しつつ、通信に耳を傾けていた。
「まだ戦力を明かす訳には行かないというのに――」
 先ほどから繰り返されるお小言を聞き流しつつ、少なくとも連中が無事である事を確認して皮肉げな笑いを浮かべる。
 これを聞き流すだけで何事もなく終わるなら安い方だ、火薬のぶつけ合いよりは平和的で宜しすぎる。
 もう少しすれば援軍と合流できる、そうすれば―――。

 ノイズ。

「‥‥少佐。どうかしましたか」
 不審げに問いを発し、自分たちの計器類を確認する。本部との通信は正常で、少なくとも自分側に問題があるようには見えない。
「‥‥――〜〜‥‥テアーと接触、交戦‥‥―――」
「‥‥少佐?」
 ふと嫌な予感があった。それはまるで出来の悪いゲームのような、慢心とも呼ぶべきもので。
「‥‥―〜ジャッ‥‥――ス‥‥アー如き」
「‥‥‥‥! よせ、そいつは―――!!」

 大西洋海上。炎の花はつい先ほど消失し、名残である黒い煙だけを薄く残している。
 機体の残骸が海に揺らめき、残骸は海に濁りを落とし、離脱したパイロットのパラシュートが青い海に人工的な色彩を落としていた。
「‥‥経験者の忠告は聞いておくものだな」
 コックピットで転がされる軽い笑い声。射程に誰もいなくなったことをディスプレイが示し、周囲の索敵を隔てた後、臨戦状態を引っ込めて進軍データを自動的に呼び出す。
 世界地図に自らの位置が表示され、先ほど蹴散らしたイギリス軍と自らの進路が重なっていることを、傭兵の援軍が此方へと向かっていることを重ねて示す。
 数分もしない内に傭兵たちとの接触は行われるだろう、或いは数秒かもしれない。
 進軍か迎撃か、そうシステムに問われれば進軍を選択して機体を動かした。
「戦いに疼かないといったら嘘になるが」
 UPC軍の動向モニターは続行、コマンドをバグア軍基地に向かって送る。位置情報を示し、付近の海上ワームを全て呼び起こした。
 続いて『攻撃指令』、目標を海上に漂う連中に自動ロックする。
「―――偶には趣向を変えてみるものだ」

「‥‥交戦意志はなさそうだな」
 ステアーとの接触、開口一番『お前らよりあっちの方が面白そうだからどけ』とジャック・レイモンドは言い放った。
 本来ならば飲むはずのない傲慢不遜な要求、突っぱねるのが当然だが、しかし状況はそれを許さない。文句を言う暇はおろか、危険信号は秒単位で判断を迫る。
 ステアーの下方には、広域に渡って漂流する撃墜されたらしき乗員。キューブがどこかに潜んでいるのか、索敵は上手くいかず、しかしワームが乗員に向かいつつあるのは確認している。
 そして今現在もこっちへと向かいつつあるステアー。その進路は逃げ延びたイギリス軍と同一であり、その辺が懸念事項でないといえば嘘になる。
 本来ならステアーを見逃すはずはない、しかし交戦するとなると、漂流している乗員は?
 ガリーニンに空戦能力は備わっておらず、空対海の攻撃は誤爆のリスクが高すぎる。
 彼がイギリス軍を追撃するかどうかは、気まぐれによる未知数。そして海に放り出された乗員が襲われる確率は100%。
 傭兵たちは既にガリーニンから出撃を済ませている。戦うか、或いは見逃すか。
「追い返すのは諦めるとして‥‥足止めするなら最低一分、ステアーが戦域から離脱するまで30秒というところか‥‥」
 クラウディア中尉が苦渋の声を漏らす、両方を対処するには連れて来た人数は余りにも少なすぎた。
 片方を見捨てるべきか、ジャックの気まぐれに賭けるしかないか。
「‥‥いや、場合によっては出来なくもないか。1:2、或いは半々‥‥」
 紡ぐ声にひやりとしたものが混じる、それは割りと綱渡りな選択で。
「―――傭兵たち次第だな、いけるかどうかは」

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
篠原 悠(ga1826
20歳・♀・EP
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
エルガ・グラハム(ga4953
21歳・♀・BM
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD

●リプレイ本文

「任せときな、中尉。ウチらは会戦以来、ずっと有視界でやってきたんだ。機械に頼りっきりのバグアとは鍛え方が違うんだよ」
「‥‥ああ、頼んだ」

 ガリーニンから総計12機のKVが出撃する。空中に向かうのが7機、水上が5機。蒼に挟まれる視界がぐるりと旋回し、宙に飛ぶ機体の飛行を安定させた。
 クラウディアに声をかけ、ビーストソウルで降りていった伊佐美 希明(ga0214)が周囲を見渡し、状況を確認する。
 空に対するのはステアー、海は乗員たちを取り囲むようにワームの群れ。
 通常海戦の頻度はそう高くはなく、だが念のため、ビーストソウルで来ていてよかったと如月・由梨(ga1805)は思う。
 ――海に投げ出された、兵士たちを助けないと。
 ジャック・レイモンドのことも気になるが、それより兵士たちを目の前でむざむざ死なせる訳にはいかない。彼女の戦いにおいての優先順序。
 ――個人的な感情は抜きにしても、なんとか援護してやりたい。
 ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)の、
 ――必ず助けてみせる。目の前で命を奪わせるつもりはない。
 そして遠石 一千風(ga3970)がそれそれ抱える思いだった。

 ――空中、数刻前。

 ガリーニンにて距離を詰める最中。月神陽子(ga5549)の表情は張り詰めたものだった。
「感じます‥‥あの人が、この空の先に居るのを」
 息づかいすら音となるのは、胸が詰まっているから。細く息が押し出され、昂ぶりを多少なりとも落ち着かせる。
 緊張、或いは期望。戦いの本能に駆られるのはまだ先で、今は思いで神経が収縮する。
 少しでも見逃さないように、あの姿を真っ先にとらえられるように。
「用意しろ」
 中尉の言葉を受け、機体へと向かう。
「陽子さん!」
「?? シロウさん、どうかしましたの?」
 ふいと、聞き慣れた声が自分を呼ぶ。振り返った先で白熊さんから陽子にパスされる何か、受けとめた手中で小さな金属音が響く。
 手にしたのは、彼が携行していた懐中時計。
「安物ですけど、爺さんから親父から私へと伝わってるブツでしてね。いいですか? ちょっとお貸しするだけですから、後でちゃんと返してくださいね」
 未だ状況が飲み込めず、陽子から気の抜けた返事が返される。
 ――思い人と立つ戦場で、勢い余ってしまわないかの心配。
 逆死亡フラグとか‥‥引き留めるモノがあれば、少しは落ち着けますように。
「陽子殿、あまり気張りすぎるでないぞ‥‥抑えれば勝ちじゃ‥‥ふふっ、わざわざ言葉にせずともよかったか‥‥人の世話を焼きたがるとは我も歳かのぅ」
 藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)がすれ違いざま、陽子に向かって苦笑気味に言う。

 かくして、戦いは出撃から続けられる。
 ステアーに対する六機が、三機を一編成として両側にそれぞれ散った。
 榊兵衛(ga0388)、緋沼 京夜(ga6138)、藍紗で一編成。
 陽子、篠原 悠(ga1826)、レティ・クリムゾン(ga8679)で一編成だ。
「ちょっとまちーな、色男! デートの相手はここにおるで?」
 機首をステアーに向け、陽子を指さしながら悠が回線越しに声を張り上げる。
 これまでの戦いで学習したのだろう、範囲攻撃の的にならないように散った六機を見て。
 ジャックは口元をつり上げ、言葉に嗤いを返した。
 最早おなじみとなった光の帯が天を突き抜ける、その攻撃は六機の間を突き抜け、僅かな風を煽っただけ。
 目標は彼らではなく――今、海へ降りようとした数機へと。
「――――!!」
 ブーストをかけ、海担当の五機が強引に空中での位置をずらす。
 気流が乱され、バランスを失った機体は半端突っ込むようにして海の中に落ちていった。
「あの‥‥馬鹿野郎!!」
 何とか機体を立て直し、浮かび上がった伊佐美が空に向かって毒づく。幸い下の人に衝突することはなく、損傷は装甲が少し貫通されただけ。
 ジャックから漏らされる笑み、降下中はほぼ無防備になることを見越しての目標選定。
 陸への着地でないのが幸いした、あの高度から落下したら目も当てられない。
 内心昏い感情をもたげさせ、由梨はレーダーを起動しようとして――
「‥‥ッ!」
 意識に走る灼熱のノイズ。計器類はでたらめに数値を変化させ、用をなさない。
「‥‥キューブ‥‥」
 脳髄を焼く痛みに耐え、回線を開き、仲間との通信を確認する。空中とは最早繋がらないが、海上は近距離なら辛うじて届く。
 やることは変わらない、由梨はこの事態を想定していた。
 操作をほぼ手動に移し、視界内から周囲の状況を確認する。
 ‥‥いますね。
 距離をとり、射線を確保してキューブにバルカンを突き立てた。まだ足りず、もう一発。三回ほど射撃したところでようやく沈黙させ、その場から移動する。

 ――かつて、一度失ったもの。
 ここに至るまで、守りたいものがまた出来た。
 再び失うことは出来ない。戦争を終わらせる、そのために戦い続ける。
 京夜のディアブロがアグレッシブ・フォースを宿す。つい、と三機がそれぞれの方向から前に出た。

 エルガ・グラハム(ga4953)のロックオンキャンセラーが起動されるが‥‥ジャックはイビルアイズがもたらすそれを認識し、その存在を気に留める風もない。
 元傭兵であるが故の純粋な空戦技術、ジャックは撃墜をステアーの能力頼りにしてはいない。
 ロックオンキャンセラーが効かない。
 そもそも、彼の周囲にはキューブさえ存在しなかった。
『一騎打ち‥‥だよ、お前ら好きだろう? こういうの』
 ジャックが三機を迎え撃つ。正しくはジャック一人対多数なのだが、その辺は気にとめる事項でもないらしい。
 受けて立つとばかりに、傭兵たちの表情が引き締まる。

 ――自分と【忠勝】でどこまでやれるかは未知数、でも思いは変わらない。
 相手がステアーであるとは言え、時間を稼ぐ位の甲斐性は見せないと恥ずかしい。
 自分と相手の戦力差を計りながら、榊は機体能力【超伝導アクチュエータ】を起動した。以降、それを維持することに設定し、慎重ながら急速に距離を詰めていく。
 胸には息が止まるような緊張の固まり、目撃から覚悟してはいたが、実際相手するとなると骨が折れる‥‥藍紗は飛行中の隙間でそう思う。
 無理に落とす必要はない、護り切れればいい。詰まった息を吐き出した。
 空気が引き締まる、距離が縮まり、京夜からG放電装置、榊からロケット弾ランチャーがそれぞれ迸る。
 ステアーは放電を優先して回避し、勢いのままロケット弾ランチャーは難なく振り切られ、二機が離脱したその先に、構えられていた藍紗の砲首が現れる。
 指が立て続けにコックピット内を走る。能力起動、完了のメッセージがディスプレイを駆け抜け、藍紗のアンジェリカが一瞬で最凶の戦闘態勢へとシフトされる。
 ――小手先はなし、思い切りよく!!
 左右に逃げた二機の間を縫うように、光撃がステアーに向かって飛来する。
 アンジェリカが出し得る最高性能を使った、初手から最大の一撃。ジャックはそれを冷静に見据え、射線から機体を移動させた。
 追い打つようにまた一撃、でも届かない。

「オーケィこの時期に水泳する気合の入ってるツワモノドモよ。手早く見つけて欲しかったら激しく自己主張をお願いします!」
 白熊さん‥‥鈴葉・シロウ(ga4772)が外部スピーカー越しに声を張り上げる。
 応えるように、いくつかの手らしきものがもがくようにちゃぷちゃぷと浮き沈み、シロウとジュエルは水上での移動を開始した。
 どこか一旦避難する場所があれば‥‥とは思うが、そんな都合のいい物は流石にありそうにない。
 比較的形の大きくて安定した残骸を引っかけ、それを浮かせるとジュエルはボート代わりに代用する。
「援護する。直ぐに片付けるから、もう少しの間待っていて」
 それをフォローしながら、一千風。ワームの掃討を行いながら救助者の位置を報告し、思考で行動の優先順序を練り上げる。
 ジュエルが確保した拠点より遠い場所からシロウが乗員を拾い集め、その間ジグザグと移動して他の面々も拾い集める。
 漂流範囲を縮めておかないと、その内フォローが間に合わない恐れがある。その判断は正しかった。
「遠石、フォローに入ってくれないか、こっちは距離が近すぎる!」
「判った」
 伊佐美が飛び退いたところを、一千風が遠くから狙撃する。もう一匹が追いすがるように食いつけば、突きつけたガトリングを目の前で乱射した。
 伊佐美の水中戦は二回目、あの時も救出依頼だった気がする。
 あの時は水中用キットで固定砲だったが、今回は――。
 防衛を抜けようとしたワームに対し、氷雨で一閃した。怯む隙を逃さず、返す刃で攻め込み、追い込んでいく。
 ミラーで周囲の確認も忘れずに。
 ‥‥今回、やることは救助班のフォローだから。
 由梨はレーザークローに持ち替え、立ちはだかるワームを力一杯切り裂いた。
「私の力は人を救う力、それが私なりの答え―――だから、目の前の人くらい!」
 抜けがないように、周囲に気を払いながら立ち位置を調整する。シロウからの報告を耳にし、遠く見える救助された人々を目に少しずつ安堵を重ねながら。
 攻撃を避け、動くための力を可能な限り温存する。意志は一つ、戦い抜く。

 60秒のランデブー‥‥まだ始まって数秒も経っていない。
 ステアーを目標とし、僚機とともに空を馳せながら。ジャックはどんな奴なのだろうと悠は思った。
 距離を詰める間、レティもステアーを窺っている。
 なるたけ多くの人を助けたい、そしてジャックという人物を見極めたい。先攻をかけた三機と入れ替わるように、陽子を含んだ三機がステアーへと接敵した。
「レディの誘いを無視して行こうとするなんて酷いですわ!! インドでもすれ違うばかりで‥‥」
 悠のG放電装置がステアーへと迸る、それと同時に悠の機体がステアーめがけて突っ込み、軽くかわしたステアーに向け、レティから放電が走る。
 選べる回避ルートは多くない。
 その中、悠の突進に敢えて機体を向け、激突すれすれを通過し、強引に機体を引き上げると陽子に向き直る。
 悠がばらまいたミサイルポッドはかわされた。
 鍔迫り合いを迫るように陽子が接近すれば、鞭にも似たレーザーが光条を描き、重ねられる弾幕に突進の勢いが殺される。
 攻撃の手は、煙を突き抜けてレティにも及んだ。
 目視では間に合わないほどの高速弾頭、ディアブロがとっさに警告を鳴り響かせ、それに反応した経験が自然に回避行動を行う。
 一瞬だけ見た方位から着弾を予測し、本体から更にずれるように機体を滑らせる。
 激突、着弾三回。
 感覚を痛みが貫き、ダメージ数値が目の前を駆け巡る。戦闘続行が可能なことを辛うじて確認し、血を吐くかに似た感触で無理矢理意識を引き戻した。
 離脱、再び攻撃手が交代する。
 接近し、光学攻撃を放ってくる彼らに対し、ステアーは持ち前の速度で間合いを引き離す。
 ブーストをもってしても追いつけず、離脱したばかりの陽子達も遠すぎる。
 攻撃を回避すると同時にステアーはとった距離から旋回、ミサイルが三機に向けられれば、レティを襲ったのと同じ弾頭が立て続けに放たれた。
「‥‥!」
 京夜は神経を目前へと集中する、攻撃を完全に回避することなど狙っていない、それが困難であることは以前の戦いで学習した。
 その全てを受けるに対し、直撃を避け、被害を最小限にするにはどうすればいいか。
 精神に応じて体が動き、肌に焼けるような痛みと、どこか遠く聞こえる間近での爆音。
 こっちを狙ってきたのか被弾が多い。狙い通り、撃墜は免れたがこれ以上留まると逃げ遅れる心配がある、追撃を諦める事に僅かな口惜しさを感じながら、レティたちへと交代した。
「タイミングを合わせる。いくぞ!」
 レティと悠が、上下双方から弧を描いてステアーへと迫る。
 放電で上から敵の動きを抑制するレティ。下方ぎりぎりで悠は距離と位置を取り、機首を上げたワイバーンが、加速とマイクロブーストを点火した急激な速度で上昇を開始した。
 ワイバーンでこそなし得る高速突撃、接近と共にライフルを撃ち、アグレッシブ・フォースをかけたレティの攻撃がその回避を妨害する。
 そして、陽子が二度目の接敵を仕掛けて来た。
 今度こそ決まる、そう思った悠が距離を詰め切れない僅かな隙で。前方へと急加速したジャックは陽子の剣翼をくぐり抜け、全ての間合いから逃れると、旋回するまま三機にミサイルを向けていた。
『僚機の武装くらいは確認しろ』
 すれ違いざま、陽子に低い声。意識した瞬間、戦場は既に動いていて。
『――お前は』
 攻撃目標を失った二機は飛行軌道を反らし合い、それぞれ旋回行動をとる。
 でも、そこまで。
『地球を叩き壊せても、俺と殺しあうことだけは出来ない』
 レーザーが再び陽子の機体を捕らえ、まっすぐ放たれた弾頭が、悠の機体で爆発を起こしていた。
「っ‥‥!」
 二人の機体が揺れる、比較的頑丈な夜叉姫は持ち直したが、悠の機体は安定しない。
(「致命傷は避けた、けど‥‥っ!」)
 飛行を維持出来ず、ふらふらと着水する。幸い爆発するなんて事はなく、悠の機体は海上で動作を停止した。
 榊たちに攻防は移り。シンプルな動きは三人の対応を容易くしたが、ステアーを捕らえきる事はやはり出来ていない。
 京夜の機体性能が被弾して下がっている事が響いている‥‥いや、それを見越して彼を真っ先に狙ったのだろう。
 攻守のうち、一際大きい爆発がそう遠くないすぐ後方で起こった。
「ッ‥‥――」
 被弾の痛みの中、聞こえた気がする通信のノイズらしきモノ。
 黒い煙を引きながら落ちていく機体の残骸。振り返れば黒い煙がまだ名残として残っていた、撃墜を通り越して爆散した過剰殺傷。
 鴇の紋章が墜落して落ち、海に白く波紋を立てた。
 海は空を反射して蒼い。
 呼吸が一瞬詰まった、背筋に寒いモノが走り抜けた、誓った思いはまだつい先ほどの事で。
『オーライ京夜さん! 藍紗さんは無事回収しましたのでご心配なく!』
 どっと、嫌な汗が背筋から解放された。
 シロウ達には後で礼を言っておこうと思いつつ、思い出した体の痛みを振り切って、目の前に集中する。


「‥‥50秒、だ」
 空に居た六機が戦闘不能になり、ステアーが飛び去った後。医務室で中尉はそう言葉を告げた。
 傭兵たちが空で戦い抜いたタイム。
 60秒あれば確実の話だが、50秒では行方は知れない。
 手当を受けた京夜が、クラウディアの元へと向かってくる。
「クラウ‥‥」
「先に行ってやれ、‥‥大丈夫、言葉は届いてる」
 髪を指先ですくい、中尉は涼やかに微笑する。
 その後、帰還した傭兵達にイギリス軍壊滅の連絡は届いていない。逃げ延びた彼らは、無事スペインへと到着していたとのことだ。
「‥‥嫌味だろう?」
 中尉から、事態を推測した仕方なさそうな苦笑が零れる。