タイトル:【輸送】囚われのその身マスター:音無奏

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/28 02:36

●オープニング本文


【UPC欧州軍・本部】
「ええ、お願いします。得た戦果は確実に活用しなければなりません。はい、輸送には細心の注意を払います」
 電話の向こう側の相手の問いかけに何度か頷くと、受話器を置くピエトロ。

 欧州攻防戦、その戦いはイタリア半島をバグアから奪い返すという結末を持って終わり、人類は初めてバグアから失地を奪還することに成功した。
 だが、その反面スペインの大半がバグアの手に落ち、フランス南部まで彼らの手に堕ちたとなれば、少なくとも地図上においての戦果は諸手を上げて喜べるほどのものではない。

「せめて鹵獲した機体くらいこちらの好きに使わせてほしいのだがな。戦果というものは山分けしたくなるものらしい」
 UPC本部から欧州軍に告げられた命令は、鹵獲した機体のラストホープ島への輸送であった。
 研究施設が整っており、各メガコーポレーションの支社も豊富に揃っているというのが表向きな理由である。

「ここに置いておくよりは安全‥‥というのが本音であろうがな。確かに、保管している場所がばれてしまえば、光学迷彩がついた機体の襲撃など防ぎようがない」
「巨大なKV格納庫を持つラスト・ホープ島は世界一強固な要塞です。ファームライドであろうとシェイドであろうと、そう簡単に手は出せないでしょう」
 自嘲気味に笑うピエトロと、今回の作戦の意義を説明するブラッド。性格はどちらかといえば似た二人であったが、表情に差が生まれるのは立場の違いからだろうか。

「ブラッド、作戦の指揮は君に任せる。‥‥情報が漏れていないなどという過信は禁物だ。多数のダミーと共に、最大限の警戒を行なって輸送任務を遂行するのだ。‥‥命令が下された以上、いかなる犠牲を払ってでも」

***

 すぅと、深海を湛える瞳が細められる。
 白い指が挟む指令書をなぞり、記載された作戦内容を撫でた。

 ラストホープからファームライドを輸送する最重要緊急任務、それは多数のダミーに本物を紛らせる、半端博打のような形式で展開された。
 UPCが戦力を分散させる愚を犯したなんてことは、ない。
 ユニヴァースナイトにファームライドを収納し、厳重護衛の下、第四フェイズよろしくラストホープに輸送する事とて可能だろう、しかしそのような大規模な動きを敵に察知されないことは不可能だ。
 必然的に戦闘は発生する、そしてそれを100%退ける保証はない。
 ならばどうするか、目立つほうを囮に、本命をこっそり輸送する方が成功確率は高くなるだろう。
 それなら、しかし―――裏読みの無限連鎖、結果がこれだ。

 堂々と運ばれるもの、秘密裏に輸送されるもの、10を越える偽装コンテナは、任務を説明するUPC軍人―――今指令書を読む彼女も例外なく、その中身を知らされていない。
 集団が秘密を守りきるなど不可能ゆえに、たとえ本人に裏切るつもりがなくとも。

 敵が本物にヒットする確率は10%未満、相手は全てを網羅する事でその確率をあげる事が出来る。
 こちらが逃げ切る確率は‥‥極僅かな運と、それこそ傭兵達の努力次第だろう。

 ラスト・ホープ本部。一般依頼に大規模の事後処理と、数多くの依頼で雑多とするモニターに一件の緊急依頼が入った。
 説明には例の【重要物資の輸送】、それを請け負う輸送隊の一つがファームライドの襲撃に遭い、救援を求めている事が記載されている。

 場所はロシア上空。元の護衛たちは戦闘続行が絶望的なため、救援及び撃退が成功した場合、その後の護衛引継ぎも仕事の内に入る、ルートなどは管制に従ってくれとの事。
 救援については、高速移動艇で最寄の基地まで移動し、そのまま間をおかずに出撃という段取りが予定されている。
 最優先で人員などを回してくれるそうだが、タイムラグは恐らくぎりぎりになるだろう。どう対処すべきか‥‥状況と対応は事前に考えておく必要があるだろう。

 慌てて書きなぐったせいか、情報は割と断片的だ、
 そして、その説明には気になる所、懸念とでもいうべきか、そんな情報が記載されていて―――。

***

 爆発が上がる。赤い花は黒い煙を纏いながら、程なくしてその花弁を散らせた。

 赤い機体が機体を翻す、機影はそのまま次の目標へと肉薄し、また一輪と炎の花を咲かせる。
「素敵‥‥」
 恍惚に染まった声が、そう呟いた。

 輸送隊を襲った襲撃者はファームライドではない、修羅の如く機体を葬っていくのは赤く塗装されたドローム社の「F-104」。
 生々しい戦闘の傷跡が焼きつくその機体は、さながら猟犬のように目標を食い殺していく。
 コックピットは無人。まるで幽霊船のような、その無人ナイトフォーゲルの襲撃に輸送隊は戸惑いを隠せずにいた。

「何故、ナイトフォーゲルが‥‥!」
「素敵な殿方から頂きましてよ」
 細長い指を両頬に当て、傍観していたハンノックユンファランが、ぽ、と頬を染めて見せる。
 素敵でしょう? 向けられた意地悪な瞳がそんな事を告げ、同士討ちとも言うべきその戦いを前に、残虐に微笑んだ。

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
近伊 蒔(ga3161
18歳・♀・FT
九条・運(ga4694
18歳・♂・BM
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
リャーン・アンドレセン(ga5248
22歳・♀・ST
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
雑賀 幸輔(ga6073
27歳・♂・JG
ゼシュト・ユラファス(ga8555
30歳・♂・DF

●リプレイ本文

 広い空を、急行する十機のナイトフォーゲルがいた。高速は空に轟音を残し、しかしそれを顧みる事無く一行は駆ける。
 高速の理由は彼らの目的にあった、緊急任務なのだ、一刻たりとて猶予はない―――それだけの。
 空気はぎこちなく張り詰め、躊躇のような、或いは困惑とでも言うべき要素を混ざらせている。出撃前はそれほどでもなかったのだが。

 今回の戦闘対象、報告された赤い鹵獲バイパーに月神陽子(ga5549)は心当たりがあった。
 ‥‥偵察でサラゴサに赴いた時、撃墜され、鹵獲された自分の愛機。
 ハンノックユンファランが語ったその経緯―――恐らく、間違いない。
 自分の機体が、思い焦がれる男から別の女の手に渡り、友軍を襲撃している。
 困惑か悲しみか―――怒りがあるのは違いなく、それは自分自身に向きかけてるようにも見える。
 圧し掛かるやるせなさ、無力感。鈴葉・シロウ(ga4772)は心中複雑な陽子に「いぢいぢと悩み続けているとキスしちゃいますよ?」「取られたなら取り返しましょう」そういつもと同じに見える調子で声をかけ、大丈夫ですと返す彼女に「帰ったら大人のキスを教えてあげますよ」と言えば、陽子は笑みを返し、
「‥‥わたくし、なんか空耳が聞こえたのですが」
 手がかかった日本刀、峰は陽子の方を向いていた。

 思いに囚われた機体、か。自分はただ雇われた一兵卒、要求された通りに作戦を遂行するのみだと雑賀 幸輔(ga6073)は心に思う。
 しかし、こうも思うのだ。偉そうな事を言うつもりなどない、でも、自分に出来るなら舞台は整えてやりたいと。
 思いを貫く事、それが雇われた身に許されたプライドなのだと信じて。

 目的空域に突入する、一行は計器の示すままに現場へと急行し、見えたのは、赤いバイパーが最後の護衛機を食い尽くす所だった。


 輸送機を追い越して、敵勢へと接敵する。
 煉条トヲイ(ga0236)と如月・由梨(ga1805)、御影・朔夜(ga0240)とゼシュト・ユラファス(ga8555)はキューブワームへと向かう。
 近伊 蒔(ga3161)、九条・運(ga4694)、リャーン・アンドレセン(ga5248)、幸輔は突入せず輸送機を囲み、取り巻きのポジションを取る。
「FRは当初は高みの見物、タイミングを見計らってコンテナを強襲して来そうだな」
 リャーンが呟く。ファームライドは短期決戦型だ、ハンノックユンファランの性格上、長く戦場に留まることはないだろうし、僚機の損傷が高くなれば撤退する可能性は高いだろう。
 となると、いかに敵にダメージを与えながらコンテナを守りきるかが肝心になる。
「重要物資の輸送‥‥ファームライドの襲撃‥‥。余程の物が積んであるらしいな」
 トヲイが言葉を漏らす、なんとなく積荷の想像はついてしまうのだが‥‥邪推はよそう、中身に関係なく守り抜く迄だ。
 進路上のキューブに狙いを定め、UK−10AAMを打ち込んでいく。ジャミングがきついせいか、誘導は上手くいかない。
 攻撃に反応し、キューブが電光を散らす。
 僅かな苦渋を感じながら、距離をぎりぎりまで離して再試行。距離が離れるとやはり命中精度が下がるのだが、ジャミングをまともに喰らうよりはましだ。
 照準を合わせ、攻撃を加える。精度はとても褒められたものではないが、地道にダメージを重ねる事は出来ていた。
 ゼシュトがキューブたちを射程内に捕らえ、K−01ミサイルを放つ。一機につき50発、五機を纏めて攻撃する250発を二回。
「忌々しい奴等だ‥‥墜ちろ!」
 重なる着弾音。事前に攻撃を加えられたキューブが破片と化して墜落し、無傷だったキューブも半壊へと追い込まれる。
 朔夜が追い討ちをかける、連射する。僅かに弾頭がぶれながらも着弾、キューブの装甲が大きく抉られ、ぱちぱちと別種の電光を散らす。
 爆発。
 ある程度キューブが落ちたのを確認し、進路上の残敵をシロウが蹴散らしながら、陽子と共に鹵獲機へと突っ込んだ。
「彼女が泣いているのが聞こえます‥‥。
 どんなに傷ついていたとしても見間違うものですか、アレはわたくしの夜叉姫です!!」
 間違いない、赤いバイパーはサラゴサで落とされた、陽子の夜叉姫だ。かつて受けた傷もそのままに、戦場へと狩り出されている。かつて置いてきた、そのままに。
 復帰したセンサーが悠然と空を行くファームライドを捉える、その位置は運の手によって、即座に全機へと伝わった。
 リャーンが照明銃を打ち出す、ぶれた光学迷彩によって目視が可能になる。
 仕掛けた。
 ガドリングを放つ、ファームライドはリャーンと運が放って見せた二つをいずれも軽々と避けてみせる。
 反撃がきた、砲火が煌き、二人へと殺到する。
 見えた、でも避けられない。着弾、爆音が響く。
 離れた場所から機首を返し、キューブ達を完全に駆逐した朔夜とゼシュトが参戦する、朔夜を前衛に、ファームライドへと迫る。ついて行く訳ではない、ただ後方につく。
「‥‥行くぞ」
 朔夜が呟く合図はそれだけ、でもそれで十分だった。
 ブーストとマイクロブーストを起動する、速度を上げ、朔夜機から射出されるUK−10AAM。回避軌道には面を凪ぐようにガドリングが散り、それを更に追い討つように朔夜がG放電装置を散らした。
 息もつかせぬ連続攻撃、着弾。
 ペイント弾こそ辛くもかわしたものの、G放電装置に捕らえられたファームライドの光学迷彩が剥がれる。
 まだ終わっていないと、更に突っ込んできた朔夜がリニア砲を向けていた。
 少しは危機感を覚えたのか、ファームライドの速度が上がる。零距離間近で撃たれたそれをでたらめな速度で回避、ファームライドと朔夜の機体が交差した。
「ルウェリンほどの技量ではないとは言え、機体性能は流石か――だが‥‥!」


 陽子の夜叉姫と、囚われた夜叉姫が交差する。
 赤と赤が、空中でぶつかり合っていた。

「ジャックもジャックです!! わたくしの夜叉姫を、あんな女に贈るなんて‥‥。
 呪いで人が殺せるのなら、今、丑の刻参りでも何でもやりますわ」
『貴女よりはあの方を楽しませて差し上げれてよ。ジャックったら、戦いに張り合いがないと零すんですもの』
 クスクスと、ハンノックユンファランの声が回線から響く。
 黙れ、陽子はそう心の中で思い、
「かつて‥‥これほどの怒りを覚えた事はありません。
 二重の意味で許せません。必ず殺ると誓ったのは、貴方で二人目です」
『まあ怖い。それともジャックと一緒で光栄だと言うべきなのかしら?』
 鈴のように響く声は、あくまでも涼やかだった。
「黙りなさいユンファ!! 貴方の名前は長すぎるのです!! 
 ハンノックユンファランなどといちいち呼んでられません。貴方などユンファで十分です!!」
『そう、お好きになさったら?』
 どうでも良い事ですもの、そう彼女は言う。

 戦いは続く、鹵獲機の進路を、シロウの放ったUK−10AAMが阻む。
 ―――鹵獲機は避けない、避けもせず、そのまま頭から突っ込んでいく。
 爆音。
「‥‥‥‥!?」
 やってしまったかと、思う。だがそれはなかった、直後、煙を突き抜けてくる機影に新たな傷は刻まれていない。
 なるほど、と彼は思う。あらゆる意味で、この機体は確かに夜叉姫なのだと。
 ―――その動きはかつて陽子と共に駆けた時とまったく同じ姿で。
 相手が挑むのは真っ向勝負、となれば、陽子の本懐が遂げられるようにするためには、体を張るしかなさそうだ。
 ―――戦い方も、性能も。込められた思い、コンセプトもまったく同じ。
 構わない。
「今日の私は全力全開で――英雄の介添人ですから!」
 速度を上げ、鹵獲機に挑む。放つ弾幕は鹵獲機が苦手な3.2cm高分子レーザー砲、鹵獲機は戦闘本能に従い、こっちを向かざるを得なくなる。
 猛攻がシロウへと向く、それを彼は集中力をフル酷使して避け、
 敵攻撃のタイミングを見計らい、エアブレーキをかけ、一気に機体の速度を落とした。
 シロウの機体が失速し、鹵獲機の速度についていけなくなる。目標が消え、攻撃を空振りした鹵獲機が空に取り残される、それを見計らい。
 いつの間にか上空に回っていた陽子が、ブースト空戦スタビライザーを起動し、
「‥‥今、解放します‥‥」
 突撃をかけた。
 操縦桿に、思いをかける。
 全ての思い、全ての力をかけた陽子の六連続攻撃が鹵獲機を粉砕し、空中にて自爆した。


 由梨とトヲイ、大型ヘルメットワームとの戦いは十秒僅かで決着がついた。
 ブーストを点火し、SESエンハンサーとアグレッシブ・フォースを併せたいきなりの全力攻撃。
「大型HWを如何に迅速に墜とすかが勝負の鍵――上等だ、速攻で墜としてみせる‥‥!」
 由梨が足止めを狙うどころではなく、放った初撃でトヲイのその言葉通りになった。
 KA−01試作型エネルギー集積砲、量産型M−12帯電粒子加速砲。ちょっとやりすぎたでしょうか、そう由梨は思うが、オーバーキルという様子も見受けられず、むしろ丁度良かったのかもしれない。
 勝てたのは、全力を出したから。これでも最悪な敵勢なのだと、そう由梨は思考の隅で思い、息を吐いた。
 機首を返し、護衛班の援護へと向かう。鹵獲機の方はもうすぐ終わりそうだ、支援は必要ないだろう。
 ‥‥また、レッドデビル。
 依頼での交戦、由梨はこれで三回目だ、今回はサラゴサの時にいたゾディアックだろうか。
 あの時の敵かどうか確かめたい、正しくは、あの人を落とした敵なのかどうか―――
 ―――もしそうだったら。ふと昏い思考が頭をもたげる。
 いえ、と、理性がそれを否定した。
 冷静に、熱くなりすぎてはいけない。まずは目の前の敵に集中しなければ、そうでないと、勝てる相手だとしても勝てなくなる。
 お互いの距離が縮まる、無意識に移した視線がコックピットの人影と合い、
 ―――くすりと、そのパイロットは笑って見せた。
『‥‥奇遇ですし、少しお喋りをしてあげますわ。サラゴサで鹵獲した機体、出撃しているのはこの子だけではなくってよ』
 思考が一瞬止まる、‥‥彼女が何を言っているのか判らない。
『貴女と同じ、F−108‥‥そう、ディアブロって名前だったかしら‥‥?』
 ―――女の声が耳で無機質に響く、理解したくない、だって、その言葉が意味する事は。
 ―――サラゴサで落とされたディアブロは一機だけ、そう、それはあの人の―――。
 大西洋あたりにいる筈だけど、そう彼女は前置きし、
『今頃、お仲間の手によって袋叩きの真っ最中じゃないかしら? ‥‥それとも逆リンチかしらね』
 ぐらりと、視界が揺れた気がした。
 瞳が険しく真紅を増す、乾いた唇が僅かに開き、声が漏れる。
「貴女、は―――」
 漏れる言葉は掠れていて、はっきりしない。喉が痛い、あの時の痛みを思い出す。
 ―――そう、彼女は陽子の機体だけでは飽き足らず―――。
「あの人の機体を‥‥っ!」
 怒りが声ではない絶叫として爆発した。告げられた言葉に、朔夜までが瞳を細める。無感動に静まった思考で、何かが揺れた気がした。
 冷静に、そんな言葉は吹っ飛んでいた。
 ブースト点火、アグレッシブ・フォース――ON。
 こいつを討つ前にと―――朔夜が口を開く。
「一つ聞きたい――Mと言う男を知っているか?」
『答える必要があるのかしら?』
「そうか」
 ゼシュトが苛立ちに止めるまでもなく、会話は終わった。
 由梨とトヲイが乱戦に加わる、戦場が一層めまぐるしく動き始めた。
 輸送機を囲む護衛たちをファームライドが襲い、そのファームライドを他の四機が更に襲う。
「‥‥ハンノックユンファラン。一曲、お相手願おうか――それとも、俺では役不足かな? 行くぞ‥‥!」
 ―――人の心を踏み躙る彼女のやり口‥‥気に食わん。
 一瞬で終わる死よりも、永遠に引きずる苦しみを‥‥これが彼女の人類に対する復讐なのか。
 考えに答えは出ず、心に陰鬱とした影を落とすのみだった。
 ファームライドに挑む、SESエンハンサー、ブースト空戦スタビライザーを乗せた連続射撃、3.2cm高分子レーザー砲がファームライドに襲い掛かる。
 それを由梨が更に追い討ち、G放電装置が迸った。
 激しい閃光が空を走る、ファームライドは距離をとってトヲイのレーザーをかわし、由梨の攻撃を赤光によって弾く。速度が落ちた一瞬にリャーンからG放電装置が放たれ、しかしそれは届く事無く空中に散った。
 めまぐるしいダンスだ。
 攻撃の嵐を走り抜けたファームライドから、大量に弾幕が放たれる、各個別の目標に飛ぶそれは、
「K−01ミサイルか‥‥!」
『あんな不良品と一緒にしないで欲しいですわね、あの出来で金を取ろうなんて、詐欺で訴えますわよ?』
 爆音が連続した、由梨とトヲイ、朔夜とゼシュトがそれぞれ弾幕を浴び、機体にダメージを受ける。
 残り一対象は幸輔に向かい、反射的にそれを避けようとした彼はしかし、
 ―――駄目だ、避けられない。
 避けなかった。
 爆煙が上がる、後ろに輸送機がいる状態で、避ける訳にはいかなかった。
 弾幕が幸輔の機体を打ちのめす、彼が避ける事が出来ない事を承知で、次々と、わざとらしく。
 当たり場所を調整する余裕などない、アクセルコーディングを起動し、必死に耐える。
「が‥‥っ!!」
 主翼、エンジン部損傷。機体が限界に達し、飛行を支えきれなくなり。
 落ちた。
「‥‥っ!」
 疾走はまだ止まらない。再び飛んできた朔夜の突撃を今度はかわし、横合いを取って挟み撃ちを回避、機銃を向ける。
 銃声と、空を切り裂く乾いた音。
 着弾を確認せず、自分の傍から飛んできたレーザーをファームライドは機体を落として回避、すぐさま浮き上がって朔夜に追い討ちを放ち、妨害しようと接敵する他の機体に向けてK−01ミサイルを放つ。
 着弾の爆音が空域を覆う。
 ―――そして、空域をつきぬけ、ファームライドは機体を引いた。

 ―――逃げるのか。
 思わず手を止めた一同に同じ思いが浮かぶ、反対側から陽子とシロウが向かってくるのが見えたが、逃げるなら追わないと。しかしハンノックユンファランは首を振り。
『いいえ、後ろをご覧なさいな』
 何事だと、思わず後ろを振り向いた、同時に、回線から陽子たちの切羽詰った声が響く。
「皆様‥‥後ろ!」
 そこには黒い煙があった、何度か戦場で見慣れている黒い煙が。
 その根元には炎があった、そこには、機体から火を上げ、バランスを崩し、輸送機の墜落する瞬間が―――
 ―――しまった。
『輸送機を伴ったまま戦闘するから、こういう事になるんですわね』
 ハンノックユンファランが笑う、最早手の施しようのない事態を憐れむように、チェックメイトだと、嫣然と微笑んだ。
『あなた方が帰りなさいな。わたくしは寛容ですから、今回位は許してあげてよ?』
 それを言うのは本来自分達であったはずなのに―――しくじった。

 コンテナ結果―――『ハズレ』。