タイトル:【輸送】激突マスター:音無奏

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/23 22:14

●オープニング本文


【UPC欧州軍・本部】
「ええ、お願いします。得た戦果は確実に活用しなければなりません。はい、輸送には細心の注意を払います」
 電話の向こう側の相手の問いかけに何度か頷くと、受話器を置くピエトロ。

 欧州攻防戦、その戦いはイタリア半島をバグアから奪い返すという結末を持って終わり、人類は初めてバグアから失地を奪還することに成功した。
 だが、その反面スペインの大半がバグアの手に落ち、フランス南部まで彼らの手に堕ちたとなれば、少なくとも地図上においての戦果は諸手を上げて喜べるほどのものではない。

「せめて鹵獲した機体くらいこちらの好きに使わせてほしいのだがな。戦果というものは山分けしたくなるものらしい」
 UPC本部から欧州軍に告げられた命令は、鹵獲した機体のラストホープ島への輸送であった。
 研究施設が整っており、各メガコーポレーションの支社も豊富に揃っているというのが表向きな理由である。

「ここに置いておくよりは安全‥‥というのが本音であろうがな。確かに、保管している場所がばれてしまえば、光学迷彩がついた機体の襲撃など防ぎようがない」
「巨大なKV格納庫を持つラスト・ホープ島は世界一強固な要塞です。ファームライドであろうとシェイドであろうと、そう簡単に手は出せないでしょう」
 自嘲気味に笑うピエトロと、今回の作戦の意義を説明するブラッド。性格はどちらかといえば似た二人であったが、表情に差が生まれるのは立場の違いからだろうか。

「ブラッド、作戦の指揮は君に任せる。‥‥情報が漏れていないなどという過信は禁物だ。多数のダミーと共に、最大限の警戒を行なって輸送任務を遂行するのだ。‥‥命令が下された以上、いかなる犠牲を払ってでも」

***

 すぅと、深海を湛える瞳が細められる。
 白い指が挟む指令書をなぞり、記載された作戦内容を撫でた。

 ラストホープからファームライドを輸送する最重要緊急任務、それは多数のダミーに本物を紛らせる、半端博打のような形式で展開された。
 UPCが戦力を分散させる愚を犯したなんてことは、ない。
 ユニヴァースナイトにファームライドを収納し、厳重護衛の下、第四フェイズよろしくラストホープに輸送する事とて可能だろう、しかしそのような大規模な動きを敵に察知されないことは不可能だ。
 必然的に戦闘は発生する、そしてそれを100%退ける保証はない。
 ならばどうするか、目立つほうを囮に、本命をこっそり輸送する方が成功確率は高くなるだろう。
 それなら、しかし―――裏読みの無限連鎖、結果がこれだ。

 堂々と運ばれるもの、秘密裏に輸送されるもの、10を越える偽装コンテナは、任務を説明するUPC軍人―――今指令書を読む彼女も例外なく、その中身を知らされていない。
 集団が秘密を守りきるなど不可能ゆえに、たとえ本人に裏切るつもりがなくとも。

 敵が本物にヒットする確率は10%未満、相手は全てを網羅する事でその確率をあげる事が出来る。
 こちらが逃げ切る確率は‥‥極僅かな運と、それこそ傭兵達の努力次第だろう。

 指令書の一枚を引っ掛け、クラウディア少尉は本部へと赴く。
 任務内容はあくまで【コンテナの護送】、最重要任務と表記されたそれは、かなり高度な難易度と要求を持って本部に掲載された。
 要求されるのはある程度の戦歴とチューニングされた機体。
 ルートはジェノヴァから出発、欧州基地を補給と保険のために転々とし、イギリスを最後に北海から大西洋へと出る、最終目標はラストホープ。

「今回、恐らく大規模襲撃の可能性は低い」

 理由をすっ飛ばし、結果だけを口にする。こんなに派手な動きが噂にならない筈もないが、その辺に敢えて触れる人間はいなかった。

「ただ、重要物資だ。襲撃は必ず来ると思え、それも強敵が‥‥な」

 少数精鋭、ファームライドを筆頭とした高性能機に気をつけろと彼女は言う。
 出発地点の隣が『あの』スペインだけに、気を抜く事は出来ない。

***

 空を無形で駆け抜ける二つの機体、目に見えぬその二機は、レーダーによってお互いの存在を把握していた。
 ハワード・ギルマンは問う、何故貴様が隣にいると。
 それに対し、イネース・サイフェルは答えた、たまたま同じ獲物が標的になっただけだ、と。

「‥‥ハ、ご苦労様だな、偽物の可能性もあるというのに」
「私的には、どちらでも構いませんから」

 本物だろうが偽物だろうが、困るのは自分ではないとイネースは言う。それは機体を取られたあの隊長の自己責任であるべきだと。
 自分は自分のために輸送隊を襲い、自分の美学を満足させるに過ぎない。精々、見かけたらついでに拾っておく程度だろうか。
 中身がハズレであっても構わない、魚座だけに釣ってみるのも一興だと言わんばかりに。
 コンテナを目の前に放り出し、他人のお陰で取り返せる屈辱で詰りながら、自らの手で開けさせる滑稽さを想像して笑いを漏らす。それで中身に「ハズレ」と書いてあったら最高なのだが。

 そんなイネースをギルマンは咎めない、自分とてあの坊やのために出向く訳ではないのだから。
 出向くのは至極単純な理由――あの能力者達に、ファームライドを所持させるのは危険がすぎるという、その忌避感ゆえに。
 目標が被ったからといって、今更戻る訳にはいかない。不確定要素ではあるが、戦場を共にするほかないだろう。

 ‥‥最悪コンテナごと始末するべきだな。
 簡単な事だ、とはいえない。前へと向ける意識は収束し、肺から息を吐き出す。被る鉄仮面が、鈍く光を反射した。

●参加者一覧

ロッテ・ヴァステル(ga0066
22歳・♀・PN
エスター(ga0149
25歳・♀・JG
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ラシード・アル・ラハル(ga6190
19歳・♂・JG
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD

●リプレイ本文

 眼下には緑を基調とした大地、前には弓形に映る青い空がある。
 高速で移動するはずの視界は、その高度によって緩やかな変化を保っていた。
 ユーラシア大陸、西欧上空を十三の機影が飛ぶ。
 その内一機はUPCの紋章を掲げた非武装輸送機で、空戦形態に移行したナイトフォーゲルが輸送機の周囲に四機、その1km前方に四機編隊が二組陣取っていた。
 前方、右側に位置するA班は輸送機から見てやや下方に、左側に位置するB班はやや上方に、陣形はいずれも菱形を敷き、後方、輸送機を囲むC班はその中心に輸送機を置いている。
 ジェノヴァを発ってどれ位経ったのかは判らない、正直時間を見る気にもなれず――目的地、ラストホープはまだかという思いが一行の思考を占めていた。

 すんなりラストホープまで辿り着ければ良いのだが、多分そうはいかないのだろう。運んでいる物が物だけに、襲撃は必定と予想されている。
 どんな奴が来ても、守り通してみせないとな、ブレイズ・カーディナル(ga1851)は内心でそう思い、視線を外の大地へと向けた。
 今回の積荷がファームライドである事、同じ様な輸送隊が数多く存在し、その殆どがダミーである事はほぼ公然の秘密と化している。
 勿論、それはバグア軍にも知れ渡っている事だろう。士官さえその実体を知らないと言う情報管理の厳重さ故に、彼らはきっとその全てを狙いに来る。かつて妹を狙った仇敵が頭にちらつき、聖・真琴(ga1622)は強く操縦桿を握り締めた。
 自分達を襲撃に来るとしたら誰だろうか、ラシード・アル・ラハル(ga6190)が最初に思うのは双子座の二人だが、それ以外のメンバーにも少しばかりの興味を感じている。
 手首のリボンにそっと口付けを落とし、思考の隅で大切な女の子の事を思う。
「僕は、大丈夫‥‥必ず、戻る」
 インシャラー‥‥ただ神の御心のままに。


 コックピットの中、音が響いた。レーダーから発される、自分達以外の存在を確認した甲高い音だ。
「‥‥IRSTに、不明機反応‥‥警戒強化、を」
「熱源反応、直ぐに来るわよ‥‥!」
 来た。ラシード、ロッテ・ヴァステル(ga0066)の二人が声を上げる、赤村 咲(ga1042)も加えた三人が計器にその存在を確認し、その報告に一行の空気が緊迫の度を増した。
 前方に一体、距離・機種は不明。方向を目視で確認する、見えた。銀色の円盤姿、姿ははっきりと見えるのに、縮まる距離が遅い。いや、違う、距離は元から遠い、ただ相手の巨大さゆえにその姿だけははっきりと見えるだけ。
 大型ヘルメットワーム。
 乱暴に推測してその大きさは80メートルを超えるのではないか、普段見慣れているヘルメットワームを更に無骨にした外見は、その巨大さもあいまって非常に不吉に映る。
 ファームライドは見えない。当然か、連中がいたとしても、最初から姿を晒すメリットはないのだから。
 大型ヘルメットワームから、極小さな何かが飛び出してくるのが見える、一つ、二つ‥‥レーダーに表示された個体は合計十二。
 キューブワーム。
「来たか‥‥っ!」
 敵のお出ましにレティ・クリムゾン(ga8679)が声を上げる。機首を敵陣へと向け、隊列を崩さぬまま目標へと向かった。
 向かうのはA班とB班のみ、C班は戦闘に参加しない。1km離れたそこまではキューブのジャミングが届かず、輸送機についたまま、離れた場所で周辺の警戒を行う。
 そして、事態が更に動いた。ロッテのレーダーと、C班のバックミラーが同時に変化を生じる。
 一つは確実な捕捉で、もう一つは空気の動き、勘とでも言うべきものだろうか。
「前方―――!」
 不明機出現。ロッテが警告を言い終わらないうちに、攻撃が飛んだ。
 砲撃の光が日差しに紛れて煌き、一直線に向かう。狙いはB班、鯨井昼寝(ga0488)とC班、真琴の二機、ロックオンアラートが鳴り響いた。
 上がった声に反応し、異変に気付いた面子が慌てて機体を逸らす。
 着弾、衝撃がコックピットを揺らし、ダメージを示す数値が一気にディスプレイを駆け巡った。
 ダメージ状況確認、大丈夫だ、相変わらずの火力に装甲の一部が吹き飛ばされたが、自分達の機体はまだまだ戦える。
 次弾が来る、エスター(ga0149)、ラシード、ロッテが自陣の周囲で立て続けに煙幕を張り、周囲を白い煙で覆った。
 被弾する、平坂 桃香(ga1831)の機体が巻き込まれた。揺れる機体を根性で建て直し、飛んできた方向、煙幕の動きに意識を集中させる。
 続けて咲とロッテの手によって照明弾が打ち出され―――空間が、揺らいだ。
「目標確認‥‥!」
 B班の戦域に一体、C班の戦域に一体。急激な光の変化に対応出来ない光学迷彩がぶれる。
「来たか、ファームライド‥‥っ! あの星座のマーキングは‥‥な、何座だ?」
 ブレイズが叫ぶ、ぼんやりと輪郭だけを浮き上がらせるエンブレムはB班側がおとめ座、C班側が蟹座。
 三回目の弾幕が昼寝とロッテを狙い撃った。コックピットごしに強い爆風を感じながらも、A班は進行方向を変え、C班の元へと向かう。C班とA班がすれ違い、A班はC班がいた場所に、C班はファームライドから離れてA班の後ろへと向かう。追いすがるファームライドを阻止するように、ペイント弾を混じらせたガトリング弾が咲によって放たれた。
『‥‥勘のいい方達です、運もいい』
『実力だと評価してやれ、そう甘く見ていい相手ではないと前から言っている』
 光の影がずれ、ガドリングの牽制は回避される。その一瞬でC班は戦域から離脱、代わりにA班がファームライドと対峙した。
 B班と、B班を襲撃したファームライドとの戦闘は続く、四機と一機が後方を取り合おうと円陣を描く。後方では埒が開かないと、側面を一瞬でも取った隙に機銃がレティへと放たれ、ファームライドが射撃に減速した一瞬を狙ってラシードがライフルを叩き込む。
 刹那の攻防。射撃に反応し、レティの被弾を確認しながら、ファームライドは機体を一瞬だけ下げて弾を回避。突撃してくるB班隊長、白鐘剣一郎(ga0184)のソードウィングを更に横へと避け、再び放たれた昼寝のガトリングをかいくぐり、飛行体勢を持ち直した。
 早い。
 速度はステアーやシェイドほどでこそないものの、その操縦と判断力、もたらされる機動性は目を見張るものがある。
 光に浮き上がるのはおとめ座のエンブレム、技量の高い相手だとは推測されていたが、確かにそのようだ。
 キューブワームの妨害もあり、傭兵たちの分は悪い。
 ワームの掃討に向かったC班を見れば、やはり彼らもキューブと大型ヘルメットワーム相手に苦戦を呈している。
 桃香の岩竜によって幾分か中和されるものの、C班を取り囲むジャミングは濃く、機体性能の低下はキューブワームの撃墜すらままならない。それに大型ヘルメットワームが放つ散発的な攻撃も加わり、迎撃にあたったUNKNOWN(ga4276)と真琴は徐々に余裕をなくしつつある。
 UNKNOWNがK−01ミサイルを五体のキューブに照準し、叩き込むまではよかったが、それからが悪かった。キューブをホーミングミサイルの攻撃レンジに入れた途端、最大射程にも関わらずジャミングの嵐に見舞われ、そして現状だ。
 悪い事は重なるもので、幾らキューブワームの戦闘力が低く、更に機関部を狙い撃ったとしても、一撃で彼らは壊れるに至らない。損耗こそしてるものの、まだ一機も落とせてはいないのだ。
 ‥‥参戦するべきでしょうか。
 輸送機と共に上空を旋回しながら、桃香が思う。
 ‥‥でも。
 あのジャミングの中に、輸送機を伴って突っ込むのが賢いとは到底思えない。機械類が失調し、輸送機が墜落しては事だ。かといって輸送機をほったらかしにするのも論外で――。
 どうすれば。キューブワームの攻撃能力はそう高くない、ファームライドに比べればC班はもう少しは持つだろう。長期戦に持ち込んで有利なのは此方だが、しかしその前にA班B班が持つかどうか。
 そもそも、A班が迎え撃つもう一機、蟹座のエンブレムを持つギルマンがそんな逃げ切りを許してくれるかどうか。
 ギルマンのファームライドがその速度を増す。
 畳み掛けにきた、切れた照明銃を緋室 神音(ga3576)が付け直し、それを迎撃する。
 技量でどちらが上かは判断がつかないが、性格的に危険なのは恐らくギルマンの方だと神音は思う。昼寝の言うとおり、今回は輸送機のゴールさえ割らせなければいい話。イネースを勝負を楽しむタイプだというのなら、ギルマンは勝ちに行くタイプだろう。今回は一回勝負、油断したら一瞬でゲームセットだ。
「――――アイテール【アグレッシブ・フォース】起動‥‥目標を殲滅するわよ」
 未だペイント弾は受け取って貰えないが、そんな事を構っていられる状況ではない。精度は多少苦しいものの、戦闘配置はベストポジション、照明銃のストックは先ほどで使いきり、なら此処で決めるべきだと、神音のディアブロが輝きを持つ。
 接敵したエスターが3.2cm高分子レーザー砲を放ち、直後の隙を縫ってブレイズが20mm高性能バルカンの弾幕を撒く。攻撃自体はあっけなく回避されたものの、避けた先にマイクロブーストを加えた咲のUK−10AAMが食いついた。速度を上げたファームライドを捕らえる事こそ出来ないが、限定された回避軌道にG放電装置が散る。
『ちっ‥‥!』
 ヒットした、手ごたえのあった場所から、布をめくるように光学迷彩が剥がれる。ペイントに染まった訳ではないのだが、輪郭だけ浮き上がっていた影が赤い実体を持つ。
 姿を曝け出しながらも、ファームライドの疾駆は止まらない。焦げ一つない装甲は、ダメージが弾かれていた証だろうか。
「チャンス‥‥!」
 いきなり剥がれた光学迷彩への驚愕は後回しに、素早くブーストを起動し、神音とブレイズが突撃をかけた。
「好きにはさせない! お前はここで、止める!」
 放たれる弾幕は神音が放つホーミングミサイル、それはギルマン機へと一直線に飛び、加速したブレイズの機体がそれに続く。ソードウィングが日差しを反射し、眩く光った。
 轟音が響き、着弾の煙幕が上がる。
 ‥‥やったか?
 爆煙を油断なくレンジの中に捕らえながら、煙幕を見つめるA班の面々に共通の思いが浮かぶ。
 煙幕が薄れ始める。しかしそれより早く、煙を突き抜けて赤い機影が姿を現し―――。
『く‥‥はははは! さすがだ、傭兵達にしては上出来だよ。この俺を一瞬でもひやっとさせるとはな!』
 ファームライドは健在だった。その機体に赤い光を纏い、飛行姿勢は既に立て直され、輸送機へと一直線に向かう。
『だが、積荷はここで潰す!』
 直撃こそしなかったものの、掠りはしたのだろう。見ればファームライドの片翼にはミサイルの焦げ痕がつき、醜く爛れている。
 A班は追いつけない、B班はイネースによって足止めを喰らっている。道を阻む必死さが面白いのか、嘲笑交じりに、時折フェイントを交えながらイネースは輸送機への突破を試みて来る。どこまで本気なのかは判らないが、通しても碌なことがないのは確かだった。
「今度は‥‥今度こそ、やらせる、ものか‥‥ッ」
『必死で良い事です――機体が上げる炎の美しさには敵いませんが』
 言葉どおり、ラシードの機体が被弾によって炎を吹いた。機体がバランスを崩し、ぐらりと揺れた。落ちる。
「‥‥‥‥‥‥!」
 駄目だ、まだ落ちる訳にはいかない。戦闘はまだ終わっていない、もう少し、もう暫く落ちないで欲しい。相手の錬力切れまで粘りきれば此方の勝利なのだ。
「‥‥お願いだよ、僕のジブリール‥‥!」
 奇跡的に炎が吹き消え、引き寄せる操縦桿にワイバーンが飛行姿勢を取り戻した。不安が一気に抜け、代わりに安堵が心を満たす。
 しかしまだ油断は出来ない、ギルマンが輸送機に迫る。
 止むを得ないと、UNKNOWNと真琴が大型ワームの相手を放棄し、ブーストをかけて輸送機とファームライドの間に滑り込んだ。
「ギルマン! アンタとは縁がありそぉだな。嬉しくない縁だけどサ!」
『同感だ、その面もそろそろ見納めにしたいものだな』
「じゃあアンタが消えな!」
 叫ぶ真琴がブレス・ノウを起動し、3.2cm高分子レーザー砲を連続して撃った、ここだけは通さないと、苛烈な攻撃ががむしゃらに加えられる。
「今のアタシじゃ、まだアンタにゃ適わない。でも、コレだけは墜とさせやしねぇ!」
『では、もう一度盾になるか?』
 回避のために機体を一旦引き、ギルマンが嗤う。言葉どおり、輸送機に向けて機銃が向けられ、
「‥‥ッ!」
 射撃が連続した。反射的に射線へと飛び込んだ真琴の機体が打ちのめされる。体を痛みが貫き、意識がぐらりと落ちかける。
「真琴、下がって‥‥!」
 見かねたロッテが、真琴を庇って前へと出た。これ以上後方に居続けることは出来ない。大丈夫だ、A班が追いついてくるまでの数秒位、稼いで見せるし。
 ―――いい加減、そろそろ殴りたくなってるのよね‥‥!。
「私達は、私達の役割を果たす‥‥!!」
 対峙する。バルカンの弾幕を照準し、放つ。
 咄嗟に前に出てしまったが、真琴は無事だろうか。後方を見る余裕はないが、レーダーを見る限り、撃墜された事もなさそうだ。
 UNKNOWNが傍へとついた、何かやりたさげな、やや後方に位置する彼の意図を感じる。無言の合意を交わし、UNKNOWNは前に、ロッテは上へと。
「らいおんさんはりけーんっ」
 やたら低いUNKNOWNの声で、気の抜けそうな台詞が放たれた。ロックするのはギルマンのファームライドとキューブワーム四体。250発、一体につき50発のK−01ホーミングミサイルが声に応じて宙を舞う。
 放たれる大量の弾幕、軌道を埋め尽くす大量の煙。それに紛れて試作型G放電装置が更に放たれ、その全ては赤光によって弾かれるものの、ファームライドは極一瞬の足止めを喰らい、
「覚悟しなさい、私達は‥‥この空に散った同朋の想いも背負っているのよ!」
 ブースト点火、マイクロブーストを起動。
 構えられたM−12強化型帯電粒子加速砲は既に力の収束を完了している。
「中れぇっ! Feu(発射)!」
 光の束が、直下へと貫いた。

 ―――ファームライドは落ちる事なく、まだ空にいた。
 しかし、燃料メーターは既に半分を割り込んでいる。後を考えないデスマッチなら、現状でも傭兵達を壊滅まで追い込むことは出来るだろう。でも、それは。
 ‥‥余りにも割に合わないな。
 リスクが高すぎる。三機とも鹵獲される危険性を顧みるなら、たとえ一機の鹵獲率が数%上がろうとも、余力を残して撤退するべきだ。

『‥‥引くぞ』
『そうですね、私もそろそろ飽きました』
 今回は顔を見繕うだけにしましょう、そう言ってイネースはあっさりと撤退に頷く。

「‥‥我々の勝利だな」
 沈黙を挟み、ぽつりとレティの声が漏れた。

 コンテナ結果―――『ハズレ』。