タイトル:【PN】サラゴサ偵察マスター:音無奏

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/09 01:06

●オープニング本文


 Pearl Necklace、イタリア解放戦線。
 シカゴからまだ幾ばくも経ってないというのに、目前に迫ったその大規模作戦は、人類側に休憩の隙を与えない。
 与えたら取り返しのつかない事になる‥‥故に。

 スペイン戦線は強固だった、味方ではなく、敵の方が。
 もしもこれが陣地争いだったなら、まだどこかに隙も出よう。だが完全制圧されたスペイン主要都市から、敵がそれ以上出てくる様子はない。
 戦線は膠着する一方、偵察に出た機体は原因不明のまま姿を消失、その不気味さ、情報の欠如がUPC軍の侵攻を踏みとどまらせ、状況の悪化に拍車をかけている。
 だが、此処を放置する訳にはいかない。
 侵攻はなんとか防げたとしても、イタリア解放戦線に支障をきたす恐れがあるのは確かなのだ。‥‥情報が必要だ。


「‥‥スペイン、サラゴサの偵察だ」
 依頼を説明する女性士官の口調は重い。
 既に何度か失敗している作戦だ、それでも諦める訳にはいかない試みは、傭兵達へと回ってきた。
 口に出さなかったが、女性士官はこの作戦の基本成功率が3割切っている事を確信している。まるっきり不可能な訳ではないが‥‥どれだけ実力と策略を重ねなければいけないのか。

 サラゴサの文化背景はこの際省略するとして、サラゴサ西部にはサラゴサ空港がある。
 サラゴサ空港はスペイン空軍の基地としても使われていた場所だ、軍事拠点のひとつとなっている可能性は高い。
 情報を奪取する価値はある、但し――危険性も、相応に。

 繰り返すが、スペインバグア軍についての情報はほぼないに等しい。
 混乱の中に行われた電撃制圧だ、赴いた偵察軍は敵機発見の報すら入れる事が出来ずに消息を絶ち、撤退の中、立方体のワームらしきものだけが目撃されている。
 スペインに張り巡らされた広域のジャミング、それと新しいワームと関連があるかどうかは不明で―――いや、恐らくはあるのだろう。
 だが、それだけで偵察部隊が全滅するとは考えにくい、まだ、何かが―――ある。

「これまで、味方偵察機が消息を絶ったのはサラゴサ周辺およそ半径75km地点。ここから幾つか余裕を持った地点が危険ライン‥‥だな」

 今回の作戦は、あくまで情報の取得にある。
 最大の戦果はサラゴサ上空に辿り着き、その様相を撮影する事。
 味方機撃墜の原因を突き止め、その情報を持って無事帰還する事が、依頼成功の最低ラインだろう。

「大物が出てくる可能性も高い、だが目的を見誤るな‥‥引き際は弁えろ」

●参加者一覧

エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
ベル(ga0924
18歳・♂・JG
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
平坂 桃香(ga1831
20歳・♀・PN
セラ・インフィールド(ga1889
23歳・♂・AA
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
ソード(ga6675
20歳・♂・JG

●リプレイ本文

 【サラゴサ偵察戦】簡易報告書―――。
 結果は撃墜五名、重傷者一名、瀕死二名、軽傷三名、無傷が一名。
 都市偵察こそ叶わなかったものの、全員の帰還を確認。

 ‥‥その点だけは、評価出来るのではないだろうか。

●出撃
 漂う空気はなんとも重く、操縦桿を握る腕は重い。その反面、空は艶やかな青を湛え、視界に眩しく映っていた。
 空気を切る高音が、空に響く。十二機のKVが蒼空を横切り、次々と風景を置き去りにしていく。
 向かう先はスペイン・サラゴサ、今まで多くの偵察機が葬られ、謎に包まれた敵地へと。

 疾駆する、一同の間に言葉は少なく、沈黙が満ちていた。出発前、この戦いのために重ねた話し合いで言い尽くしたかのように。
 十二機による六ペア編成、フォワードが先を駆け、バックスがその背後を守る。
 想定される困難、状況、その上でどう動くか――無論、実戦が予想通りに運ぶ保障などなく、半分は相方の思考回路を理解するための過程でもある。
 向かう先には強いジャミングが予測され、現場の通信による意思疎通は期待出来ない。
 それを補うのも、生き残るためには必要な事だと、終夜・無月(ga3084)、平坂 桃香(ga1831)の二人は思っていた。「皆にいと高き月の恩寵があらんことを‥‥」
 祈りの言葉が無月の唇から漏れる、圧し掛かる重圧を払うように。
 危険な任務なのだ、だが、これで大規模作戦に一手を投じるきっかけができれば――。
 如月・由梨(ga1805)の心にはそんな思いが浮かんでいた。
 覚醒によって気分は高揚している、だがまだ解き放たない、走り出しそうな衝動を抑え、呼吸を繰り返す、いつもより少し息苦しい。
 冷静に、冷静に。加熱するのは自身を見失わない程度でいい。今回は戦闘が目的ではないのだと、何度も自分に言い聞かせた。

 そう、今回は生き残るのが目的。最大の目的はサラゴサの偵察だが、最悪、味方偵察機の撃墜理由、その情報を持ち帰るだけでも十分だった。
 故に生き残る事に集中する、ソード(ga6675)が目指すそれは、今回の作戦で決まった全体方針でもある。
 事前の情報を反芻する、数えるほどしかないそれは、しかし活路を見出す生命線であるには違いない。
 ジャミング能力を持つキューブ・ワーム、敵機発見の報すら入れることが出来ずに葬られた偵察機の話。
 偵察機を帰さぬ何かの存在と、大物が出現すると思われるサラゴサ基地。
(「新兵器を投入したのは、俺達だけとは限らずか‥‥」)
 南雲 莞爾(ga4272)の思考は重い、顔に掛かった髪が揺れ、気がつけばため息を漏らしていた。
 未知が覆うこの戦い、危険である事は事前に承知している。
 正直、無事に遂行できるか不安だと、口にする事なく、セラ・インフィールド(ga1889)はそんな思いを抱えていた。
 だが、大規模作戦緒戦の結果は、この任務にかかっていると言ってもいい位なのだ、故に弱音は吐いていられない。なんとしてもやり遂げてみせると、その思いで不安に蓋をした。
 この先では鬼が出るか蛇が出るか判らない、だが自分の相方、南部 祐希(ga4390)は信頼できると、エミール・ゲイジ(ga0181)は思っている。
 ‥‥楽な仕事には、決してなりそうにないのだが。

●交戦?
 緊張が刻一刻と高まっていく中、危険ラインは目前に迫る。
 眼下に流れるのは地上の縮小図。ジャミングによって通信は乱れ、レーダーはその映像をちらつかせ始めている。
 こみ上げる不快感は錯覚か、緊張しすぎた神経が眩暈にも似た感触で頭を襲う。
 体調の乱れが叫ぶ圧迫感、それを押しやって奥へと進んだ。

 ―――危険ライン突入。高度を上昇させる。

 前進の速度を落とし、超低空を保っていた機体を上空へと浮き上がらせた。
 地面が遠ざかり、視界が薄青に変わり、徐々にその色を濃く鮮やかに変化させる。斑模様に流れる白雲が見え、ちらつく太陽が眩い。
 浮揚感、綱渡りに似た感触が体を包む、危機感がちりちりと首筋を焦がす。喉奥が渇いて、呼吸が苦しい。
 下がる地平線、そして―――突然、機械が異常を訴えた。
 レーダーの画面は乱れ、味方機の表示が消失。通信にはノイズが大量に走り、鼓膜を耳障りな音でかきむしる。
 どこだ、と、走る視線。視界が目まぐるしく変わり、その中、緩やかに回転しながら上がってくる、薄青気味な立方体の姿を視界に捉えた。
(「‥‥来た。‥‥キューブワーム‥‥!」)
 事前の情報と照合する。あの姿かたち、突如に発生した機械類の異常といい、『キューブワーム』に違いないだろう。ふわふわと浮揚するそれは傭兵達の周囲に散開し、電圧らしき閃光を漏らす。
 戦闘態勢へと移行する、照準を奴らに合わせようとして―――次は、ロックオンアラートが鳴り響いた。

 ――――‥‥!?

 コンマ数秒の動転。
 ―――警戒はしていたし、覚悟もしていた、でも。

「ぐ‥‥っ!?」
 衝撃と轟音がエミール機を貫き、機翼が煙を上げた。ぐらり、と傾く機体。二度、三度と、衝撃が叩き込まれる。
 振動に揺さぶられる中、視界を上空へと向けた。遠目には高度を固定したキューブワーム。違う、あれが原因じゃない、あれには攻撃に見られるべき動作が見当たらない。
 ―――何故、攻撃が。思考する暇も確認する暇もなく、弾幕はエミール機を滅多打ちにしていく、そして墜落。
 出所不明、瞬きすら許さぬ速度でエミール機を撃墜した弾幕は、そのまま他の機体へと襲い掛かる。
「‥‥く‥‥っ‥‥」
 セラ機、被弾。打ち所が悪かったのか、衝撃がでかい。ディスタンの防御力をものともせず、弾幕は装甲ごと機体を吹き飛ばす。
 交戦? 違う、これは一方的な殲滅戦。正体不明の襲撃者はおろか、キューブワームにすら手出し出来ていないのだから。
 どこだ―――どこにいる。
 そう考え、焦り、視界を走らせる内にも弾幕は止まず、次は緋沼 京夜(ga6138)機へと襲い掛かった。
「やられて‥‥たまるか‥‥っ!」
 反射的に叫び、エンジンの出力を最大にした。京夜の機体はスラスターとブースターを限界まで積み上げた回避仕様、それに今は莞爾の岩竜による援護もある。
 目に砲撃の光を捉え、直感の示すままその方向から全力で離脱。速度が体を圧迫し、呼吸が止まる。体にかかる圧力はそのまま機体の疾速を示し、流石に振り切ったかと――目にしたバックミラーには、寸分離れず、高速で追従してきた弾幕が映っていた。
「‥‥何‥‥っ!?」
 京夜機、被弾。損傷を表すデータがヘッドアップディスプレイを駆け巡り、フィードバックされた痛みが体を貫く。出力低下、武装破損――悪い知らせが次々と機体から確認される。
 敵の攻勢はまだ終わらない。別の弾幕が無月と月神陽子(ga5549)にも降り注ぎ、その機体を射止めた。方向の見えない攻撃は大きく離脱して回避する他なく、しかし、傭兵達が回避する速度以上に敵の弾幕は的確で早い。
 無月の機体が捕らえられ、被弾が重なる。‥‥かは‥‥、と、苦痛に喘ぐ声が漏れた気がした。
「‥‥無月さんっ!!」
 由梨から悲鳴が漏れる、桃香が前に出る隙もない、無月の機体が煙の中、ぐらりと揺れた。
 横殴りに走る衝撃、如月の機体を未だ止まない弾幕が捕らえ、機体の一部が破損する。幸い、浅い。体の痛みに歯を食いしばり、慌てて体勢を立て直す。
 ―――瞬間、黒い影が、由梨の頭上をちらついた。

「‥‥如月、逃げろ!!」
 届かない声が、御影・朔夜(ga0240)から飛んだ、そして声の代わりに放たれる撤退合図の照明弾。
「‥‥‥‥‥‥!!」
 一瞬だけの迷い、バックミラーが映し出すステアーの機影、黒い弾幕が由梨に向かって放たれた。
 ぁ、と、急速に渇く喉。躊躇う由梨を弾幕が容赦なく捉え、装甲を抉る。二度目の衝撃。
 ぐらりと、由梨の機体がバランスを崩す、墜落しそうになるその姿に、意識の朦朧を振り払い、無月が目を見開いた。「由梨‥逃げて‥!」
 届かないのを承知で、しかし無線へと叫ぶ。絶えずノイズを吐き出す通信はその返事を返さない。
 コックピットごしに、目が合った気がした。戸惑う、由梨の顔。判っている、無月の機体は既に飛行能力を喪失していて、最早離脱すら不可能だと。
 思考は冷酷に結果を弾き出し、そこから先に進めない。見捨てる―――‥‥? 出来るのか、自分に。
「‥‥早く‥‥!」
 思いを喉につっかえさせたまま、由梨が機首を持ち上げた。瞬間、吹き上がる煙幕が周囲一帯を覆う。
 煙幕は由梨を隠し、無月を隠し、周辺の仲間達を覆い隠す。煙の援護の中、フォワードとバックスが入れ替わり、そのままUターン。バックスを殿に、離脱行動に入った。
 弾幕は止まない、南部機が捉えられる。轟音。装甲が吹き飛ばされ、中身の機械が見た目も無残に露出する。
 ソードが機体を滑り込ませ、祐希の援護に入った。しかし拙い。被弾箇所は選んでいるが、それ以上に被弾回数が多すぎる。純粋に耐久性が限界を迎え、機体が砕け始めた。
 煙を上げ、機体高度が下がる。被弾こそなくなったものの、制御困難に陥った機体は失速を免れない。
 墜落、祐希からは歯噛みが漏れ、ソードからは制止と驚愕の混ざった声が上がった。

 今回の作戦、含まれる危険性はなんだったのか。それを防ぐには何をするべきだったか。
 祐希を撃墜した弾幕は、次に桃香へと向かう。牽制攻撃は放てない、そもそも敵機影が見えないのだから。
 全力で離脱行動を行い、煙幕の先へと飛び出す、煙幕を突き抜け、重なる弾幕。
「平坂さん‥‥!」
 ベル(ga0924)がその先に向かって煙幕銃を更に放つ、幸い、相方の朔夜も今すぐ逃げるつもりはないようで、撤退の援護を行う事に問題はなかった。
 目には見えず、体で被弾した事を感じながらも、桃香は飛行速度を緩ませない。
「緋沼‥‥いけるか」
 辛うじて飛行を保っている京夜の後ろにつき、莞爾が問いかけた。
「ああ‥‥なんとか、な」
 あちこちいかれてはいるが、戦闘行動にさえ拘らなければ、なんとか飛行は続けられるだろう。後一撃食らえば崩壊するような様相だが、やれる所までやるしかない。
 計器類を見る、岩竜の支援の下、ジャミングの緩和は行えている。しかし、あくまで焼け石に水と言った程度、幾重にも重なるジャミングはささやかな抵抗をたやすく塗り潰し、機械を狂わせる。
 ―――‥‥やはり、キューブワームを撃墜するしかないか。
 今回の戦い、覚悟は出来ていたのだ、警戒も。しかしそれだけでは、この戦線を突破するのには到底足りない。
「く――‥‥!」
 朔夜に迫る弾幕、マイクロブーストを起動して高速機動を行う朔夜。しかし弾幕はそれ以上の速度をもって朔夜に追いついてくる、着弾。
 機体の酷使、体に掛かる負担に息が切れる。体が寸断されるような激痛、揺れ動く視界の中、ステアーの機影を捉えた。

 ステアーの存在、イコール味方機撃墜の原因。本当にそうなのか?
 ‥‥違う、そうじゃない。本当の原因は事前に予測された“隠された何か”。通称レッドデビル、姿の見えない襲撃者。
 杞憂ではなかった、事前に感じていたのは見落としによる危機感。背筋がざわつく、あの感触――。

 陽子もまたステアーを視界に捉えていた。長く感じる僅か一瞬、葛藤に唇を噛み、顔を背けるように視線を逸らした。「手は‥‥出しません。もちろん、不本意です。
 不本意です、不本意ですとも!!
 ‥‥けれども、無理に戦いを挑んでも、彼は答えてもくれないでしょう。
 今、わたくしができる彼に対する最善手は、彼を出し抜いて情報を持ち帰ることです」
 体は破損で痛む、ステアーに背を向け、煙幕の奥深くへと飛び込んだ。被弾が重なる中、必死で飛行を保つ。
 ベルと朔夜を追い抜き、その直後に二人も追いついてくる。損傷の激しい朔夜機をベルがガードし、ブースト点火。
「また‥‥お会いしましょうジャック。次は殺しあえる場所で」
 離脱、出来るかのように見えた。

「そうだな‥‥」
 ある筈のない返答が聞こえる、それは、恐らく嫌な予感と呼ばれるもの。
「―――生きて帰ってこれるならな」
 疾駆する中、バックミラーが不吉に光を反射する、まさか、関係ない、でも。
 一瞬がスローモーションで見えた。煙幕を切り裂き、空間を切り裂き、迫り来る光の奔流。
 先端から砕かれる夜叉姫の機体、ベル機が払われ、掠った朔夜機が吹き飛ばされる、
「ぁ‥‥」
 一瞬だけ飛んだ意識に機体がぐらつき、夜叉姫が堕ちた。


●生還
「は――‥‥、‥‥――‥‥、けほっ‥‥」
 肉体の損傷が意識を刺す、呼吸すら止まりそうな激痛の中、苦痛に喘いだ。
 いっそこのまま気を失ってしまえば楽なのだが、そうはいかない。力を振り絞り、手を伸ばした、まだ動く。上体を起こす、肩がずきんと痛んだ。

 その後、ラスト・ホープ。
 戦いで重傷を負った朔夜、京夜、桃香は医務室へと送られ、現在進行形で絶対安静を命じられていた。
 撃墜された五人は、救助隊が捜索にいったらしいが、どうなったのか。そんな事を思う一行の前で、扉がノックされたのち、ゆっくりと開く。
 依頼説明の担当者、そして事後処理を手配したクラウディア少尉が入ってきた。

「クラウディア‥‥!」
 捜索はどうなったのか、そう訴える一同の視線が集う。呼び出しをかけていたのか、軽傷だった他の四人も集まっていた。
「大丈夫だ、五人とも回収した、今は別室で治療を受けている。流石傭兵というか‥‥」
 そう答える少尉は視線を手元の袋に注ぐ、治療のため外され、袋ごとに纏められた五人の装備へと。
 照明銃、暗視スコープ、双眼鏡、エマージェンジーキット、呼笛、トランシーバー、方位磁石、救急セット‥‥。
 その袋を部屋の隅に置き、能力者達が寝ているベッドの方へと歩んでくる。
「‥‥ま、割と準備してたみたいだな、生き残る訳だ。その点だけは評価しているよ」
 後心意気もな、そういって困ったように笑みを零した。
「戦闘は兎も角として、分析面は半分だけ及第点だ―――ほら」

 戦闘報告書。
 一行を襲撃したのはレッドデビルで間違いないだろう。光学迷彩に加え、桁外れの火力、異様なまでの命中精度。
 一対一で勝利するのはまず不可能だと記された上に、傍の注解には『攻撃回避、恐らく不可能』と書かれている。
 瞬殺を仕掛けられ、そう余裕がなかったせいか――他の項目は推測や不明の点が多かった。ひとまず確からしいのは『敵が攻撃に移っても、光学迷彩は解除されない』と言った所か。
 だから半分だけ及第点、なのか。残り半分の不合格は、見届ける事が出来なかった分だろう。

 そして密かにもう一枚、下に重ねられた損害報告書。
 撃墜された五名の機体は回収不可能、それについては同じ仕様の新機体をあてがうものとする。
 また、放棄した機体は鹵獲された可能性高につき、要注意―――。