タイトル:【DoL】シカゴ撤退戦マスター:音無奏

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/30 22:50

●オープニング本文


 ―――ぐしゃ、と。
 冗談のような音を立て、一機のKVがゴミのように転がる。
 悲鳴と怒号が交じり合う、戦場だった。
 撃墜の轟音は耳を劈き、聞く者の頭をシェイクする。
 スクラップ、そんな言葉がこれほど似合う惨状もあるまい‥‥。めくれあがっていない装甲などないし、腕はもげ、足はひしゃげている。
 かつての塗装など見る影もなく、もはやただの鉄の塊だ。機体が爆散していないのが奇跡のようだが、それも時間の問題だろう。
「―――‥‥、―――隊‥‥う‥‥――、たい‥‥―――」
 回線は上手く通らず、コックピットにノイズを反響させる。直撃を食らったか、人影は空を見上げたまま、ぴくりとも動かない。
 隊長。そんな言葉が誰かの唇から漏れ、本人に届く事なく宙に消えた。

 シカゴ東南、かつて陸軍がバグア軍と衝突した辺り―――そこで戦いは繰り広げられていた。
 デトロイトに退却しようとするUPC軍と、それを追撃するバグア軍。
 撤退戦という形故に、満足に戦力を投下出来ないUPC軍の旗色は悪い。
 それはその最中、傭兵たちに回ってきた依頼の一つだった―――。

「追撃阻止ですか」
 ああ、と女性士官は頷いた。
「‥‥勿論、この人数で全てを阻止しろとは言わない」
 傭兵たちに依頼されたのは、崩壊寸前の撤退戦線をせき止める事だった。
 殿に当たっていたKV部隊が救援要請を送ってきたのが少し前の事、偵察もかねて、救援に向かって欲しいという。
 UPC軍のKV部隊は元よりそんなに多くない―――近くにいる他の部隊は、バグア軍をせき止めるので手一杯でこの任務を行えそうにない。
 もしも現地で敵の進撃が確認されたら、進撃の阻止も依頼内容に含まれている、そう女性士官は説明した。
「進撃阻止だけあって、基本的に敵の撃墜よりは味方の安全が優先される」
 殲滅というよりは時間稼ぎ。無論、敵がいなくなれば、それが安全に繋がるのは確かなのだが、それ以上の被害を出したら元も子もない。
 本隊は流石に戦域外であるものの、戦いによっては戦域に入られるかもしれないし、相手する敵こそ違えど、他の部隊になると普通に戦域内だ。
 本隊を守りきっても、他の部隊が壊滅したら次の襲撃対処が絶望的になる。救援にいく必要はないだろうが、最低限攻撃の標的を他に向かせる訳にはいかない。
「救援要請なんだが、非常に不吉な名前があってな―――」

 ―――その頃、シカゴ東南方面、撤退戦線。

 あざ笑うように、黒い機体が戦場を舞う。
 眼下にはたった今撃墜したKVの残骸が転がり、眼前には他のKV達が立ち往生していた。
 ちゃんと避けなきゃ駄目じゃないか‥‥そんな風に黒き機体、ステアーを駆る青年は唇を歪める。
 再整備を隔ててきたのか、その武装は五大湖解放戦の時と微妙に異なっている。
 両脇には盾のような黒い装甲が追加され、それが受ける攻撃を悉くはじき返していた。
 救援要請に叩き込まれた名前は一つ。
「ジャック・レイモンド‥‥」

●参加者一覧

エミール・ゲイジ(ga0181
20歳・♂・SN
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
南部 祐希(ga4390
28歳・♀・SF
大上誠次(ga5181
24歳・♂・BM
雪村・さつき(ga5400
16歳・♀・GP
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD

●リプレイ本文

 この光景を見るのは何度目か。一度、二度、それとももっと?
 幾度目にしようとも、この地で見る光景は、一貫して同じ様相を呈している。
 空気は焦げ付き、大地は腐臭を放つ。それは――すなわち戦場。

「‥‥‥‥」

 空気は灰色に煙り、大地はくすんだ茶と緑。
 シカゴ東南、幾度にも渡って戦火に見舞われた場所。最初はUPC中央陸軍と、バグア軍の衝突だったか。
 いや、この作戦に限らなければ、もっともっと前かもしれない―――。
 戦場を駆ける能力者たちに言葉はなかった。零れ出そうにたまった思いを抱え、戦場へと赴くだけ。
 胸に沈殿する感情は決意とでも呼ぶべきか、ぐるぐると渦巻くそれは、余り気持ちのいいものではない。尤も、その気分の悪さは、これから行う撤退戦ゆえかもしれないが。
(「‥‥‥‥撤退戦、か‥‥」)
 こんな戦いをしないといけないなんて、そうブレイズ・カーディナル(ga1851)が歯噛みする、一度進軍した道をまた引き返すのは何の皮肉だろうか、これ以上被害を出させる訳にはと思う心が締め付けられて、苦しい。
 撤退する方々に微力ながら手を貸せれば、決意を固める如月・由梨(ga1805)の表情は決して明るいものではない。
 ‥‥負け戦、後退戦闘は慣れた物です。そう心中で思い、南部 祐希(ga4390)が吐息を零した。
 役割を果たそう、今更折られる心など持ち合わせては居ないと。これから向かい合う脅威にも表情一つ変えず、黙々と前に視線を向ける。
 遠い先で、戦いの音が響く。じりじりと下がっているせいか、進軍状況は思わしくない。いや、主な理由はバグア軍相手に苦戦してるせいか、そもそもそのために能力者達は呼ばれたのだ。
(「何処もかしこも戦線はガタガタか」)
 撤退戦を行ってるのは本隊に限らない、シカゴ確保が失敗した今、ミルウォーキーやインディアナポリスに向かった部隊も撤退に入っている事だろう。現状を見過ごすわけにはいかないと、瞳を閉ざし、大上誠次(ga5181)が小さく呟く。
 黒い機体を目先に幻視する、今から向かうのは、恐らく前線で尤も激戦地となる場所。
 危険を感じないと言えば、きっと嘘になるだろう。だが仲間を助けるのに迷う理由なんてない‥‥今無茶しないで何時無茶すると言うのか、その思いを表すように、雪村・さつき(ga5400)が力強く口元を引き結んだ。
「見えました、前方‥‥! 戦闘態勢に入ります!」
 祐希が叫ぶ、戦いの土煙が遠い視界の先で舞う。
(「R−01、雪村さつき。GET READY‥‥GO!!」)
 いこう、そんな意志とともに、さつきが自らに声なく合図を送った。
 今、淡く響く戦いの爆音は臨戦状態による幻聴。だが幾ばくもせずに、それは現実となる。

●開戦
 爆風が戦場をなぎ払い、また一機のKVが地に落ちた。
 砲弾が立てる爆音、武装同士がぶつかり合い、奏でる金属質な音に爆発の轟音が加わる。
 ‥‥ここが、最前線。
 ぽとんと心に落ちた言葉は由梨のものだった、彼女にとっては幾度か経験している筈の風景だ、戦況の違いさえ除けば、の話ではあるが。
 その様相は半壊レベルと称していいかどうか、実に判断し難い。全壊では勿論ないだろう、少なくとも部隊のほぼ全てが大破している訳ではなく、動ける事は動ける機体も少なからずある。
 所詮それだけ、といってしまえばそれまでだが。戦闘続行などどう見ても不可能、戦線に入ったら即座にジャンク決定なのだから。
 ‥‥ジャック、貴様。
 その様相に、緋沼 京夜(ga6138)が声を荒げた。
「これまで何度もやり合ってきた、その度に仲間を墜としやがって‥‥まだ足りねえのか、ジャック!」
 射撃した。
 怒号と共にKVから砲弾が放たれ、煙の尾を四つ引いてヘルメットワーム全機を狙う。それを合図に、他の面子からも一斉に弾幕が放たれ、同じ相手へと迫った。
 白い光と、爆発が生まれる。目を焼き、地面に激突する爆音は間違いなく撃墜の証、問題は何機撃墜したか、だ。
 京夜はまだ全ての弾薬を撃ちつくしてはいない、武装が重く、操縦に動きが追いつかないのだ。K−01小型ホーミングミサイル‥‥多数狙うには適しているが、機体への負担は高すぎた。
(「‥‥対多数相手には決して悪くはないんだが‥‥」)
 光が収まり、煙が薄れる。総勢七人の集中攻撃を受けたのだ、全弾命中するとは思わないが、無事である筈もない。レーダーに映る敵影はステアーを含めて‥‥四機、目視する他のワームは決して無傷でないものの、小破未満で未だ健在、墜ちたのは一機のみ。それに気を引き締め、後続を叩き込もうとする能力者達より早く、敵側が動いた。
 射撃に参加していなかった漸 王零(ga2930)も動く、別にサボっていた訳じゃない、参加してない面々は単に射程距離が足りないだけだ。思えば、ワームの損害がそんなに高くないのも、距離に左右されていたためかもしれない。しかし‥‥。
 再び光が視界を塗り、敵側の返礼が爆ぜた。
 回避不能、弾速が早すぎて、回避方向より先にその結論が頭をよぎった。轟音が響き、着弾の炎が上がる。王零、ブレイズが被弾し、月神陽子(ga5549)が爆風の巻き添えを食らった。
 濃灰の煙が広がる、だが両軍共にとまらない。手持ち無沙汰と言わんばかりに進軍するゴーレムを止めに三機が離脱し、ヘルメットワームの相手にまた三機が離脱した。
 ヘルメットワームのフェザー砲が空に紫の線を描く、射線にいたさつきはそれを機体を逸らして回避。落ちるように行われた回避運動から機体を持ち上げ、ステアーの側面へと回り込む。
 視界の隅、一瞬だけ覗いた空には、藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)が短距離高速型AAMの残弾を全てヘルメットワームへと叩き付ける瞬間が映る。
「動けるものは負傷者を連れて早く離脱するのじゃ! ここは我が抑える!」
 回線に響く声、ワームが藍紗に照準を合わせる。一秒にも満たない瞬間で判断が交差し、射撃が連続した。
 轟音。フェザー砲は藍紗の機体を僅かに掠り、ヘルメットワームには二回目の小型ミサイルが着弾している。
「これ以上はやらせねえぞ‥‥っ!!」
 低く響く怒号は京夜から発された、その言葉は今回の救助対象に限らないのだと、怒る目が強く告げる。
 ステアーの方を一瞬見やり、エミール・ゲイジ(ga0181)は操縦桿を倒す。目の前には回避行動を取るヘルメット・ワームの尻尾、自分からはよく見えないが、恐らく向こうも自分の機体後方を捉えようとしている事だろう。
「てめぇら相手にてこずってる暇は無いんでね。悪いけど、すぐにカタを付けさせてもらうぞ!」
 射出されたレーザーがワームを淡く焼く、上手く当たらないのが歯がゆい。一刻も早くステアーの方に向かいたい心が、少し浮ついた。
 ‥‥オヘア空港で落とされた借りは返さねぇと‥‥。
 焦ってどうにかなるものでもないが、レーダーを確認する間隔は短く、回数は多い。ゴーグルごしに映る太陽が目に痛い、敵射線の間を縫うように機体を滑らせ、一先ずは回避に専念する。
 地上に小さく映る機体はゴーレムか、吹き上がる煙幕が地上を覆い、対ゴーレム班の面々の姿は見えない。
 降下と同時に変形を行い、そのまま着陸した須佐 武流(ga1461)がガトリング砲を構え、夕凪 春花(ga3152)が回線に向けて「離脱してください」と叫ぶ。
 危険かどうか以前に、友軍は続戦出来る状態にいない。移動手段を主に砕かれている彼らは、本当は離脱すら一苦労であろう。だがその辺は頑張って貰う他ない、敵は自分達が食い止める、だから。
「ゴーレムさんよ、お前らの相手は‥‥この俺だ!」
 須佐が叫んだ。煙幕が晴れる、視認した一瞬で照準をより正確に修正し、ゴーレムに向けてガトリング砲が弾幕を撒き散らす。
 大上が回避オプションを起動し、弾幕が鎮まった後に前衛へとたった。友軍からの支援は期待出来ない、足止めはおろか、射撃を行うのも不可能だろう。
 危険性は普通に倍以上、だが退く訳にはいかない。

●VSジャック・レイモンド
(「ジャック・レイモンド‥‥」)
 大規模作戦で散々ステアーに苦しめられた事を回想し、由梨の顔が曇る。
 気の重い理由はそれだけではない、相手のパイロットが何故人類の敵に回ったのかと‥‥戦闘とは別に、思考がくるくると回る。
 ‥‥考えても、彼が敵である事実が変化する訳ではありませんね。
 吐息を零した、今日はため息が多い。
(「あれは‥‥敵。そう、今は私たちの敵であるだけです」)
 奥底の思考をカットし、意識を戦闘に戻した。体を巡る血液が熱く、高揚する精神に瞳の紅が深みを増す。
 高速で回転する戦場には少し熱い程度で丁度いい、目視では到底捉えきれない機動に感覚と経験でついていく。
 対ステアーの面々が描くのは六人による三角陣形。前方に王零が立ち、右翼にブレイズと祐希、左翼に陽子と由梨、両翼が挟む中央にさつきを配置。
 自機の損傷状態を確認しながら、ブレイズが黒い的を追う。弾幕は全てすり抜けられ、追撃までが圧倒的な速度で回避される。
 だが、相手がこっちに気を向けてくれてる間はそれで構わない。相手が興味を持ってくれてる間は、他の部隊も逃げやすくなる筈。今回の目的はステアーの撃墜ではないのだから。
「そう易々と‥‥ここは抜かせない。俺たちにも意地ってものはある。例え敵わなくても、限界まで抗い続ける!」
 張り上げた声は鼓舞となって回線に強く響く、それは向こうにも聞こえているのか、ジャックが口元を吊り上げ、僅かに笑った気がした。
「‥‥随分と探しましたわ‥‥」
 陽子が声を上げる。目が捉えるのはレーダーではなく、ステアーのコックピット。流星群のように、ステアーへと描かれる弾幕は一つも掠っていない。早く美しく駆けるその黒い機体を、恍惚にも似た、熱の篭った視線で見つめていた。
「覚えていますか? 名古屋での事を。わたくしは陽子。月神陽子。あの時の鬼の娘です」
 ちらりと、コックピットとゴーグルごしに、視線が向いた気がした。すれ違ったのは一瞬、だがその一瞬だけで、彼女にとっては十分だった。
「地上へ降りて下さいますか? 遊ぶにはその方が都合が良いですから」
 ジャックの返答は無言、僅かに漂う怪訝そうな雰囲気は、何の都合がいいのかと問うているのか。
 陽子が更なる誘いをかけるより早く、王零が挑発をかける。
「ジャック・レイモンド!! 弱者ばかりいたぶっていてもつまらんだろう。楽しみたいなら地上で遊んでやるからついてこい!!」
 怪訝が増す、応じる素振りを見せないステアーに、祐希が冷ややかに告げた
「勝ち馬に乗ってばかりで満足ですか? ‥‥偶には必死に遊んでみたらどうです」
 僅かな沈黙。なるほど、とジャックが笑った。それは決して好戦的な笑みではない、解せない事を理解し、合点がいった事によって零す笑み。
「危機的状況は嫌いじゃないんだがな」
 そうジャックが嗤う、向ける視線は下へと、いっそ哀れみさえこめて。
「―――工夫もなく、ハンデをつけろと、言われるようじゃあな」
 つまり、自分達は地上なら有利に戦える、だから来いと。身も蓋もない弱さの暴露に、ジャックから失笑が漏れた。
「傲慢を振りかざすのは、分を弁えない愚か者のみだ。俺が楽しみたいのは己の愚かさではない」
 知略も力の一つだと語る言葉は、失望の色に染まっている、目の前の恋人が望んだ相手ではなかったのを惜しむように、もう少し気の利いた誘い文句が欲しかったと、吐息が漏らされた。
 一転、向けられる視線は、既に能力者達を『楽しめる対象』と認識していない。
 帰れ、そんな言葉が告げられる。再開される弾幕に熱はない、これはただの後始末である事を、ジャックは冷めた思考で断定した。
「ああ‥‥間違えた。死ね」
 弱さを克服せずに曝け出した愚かさを抱えて死ねと、ゴーグルに映る狂気は闘争の色ではなく、破壊の色に染まっている。
 能力者達が言葉に詰まる一瞬、その間に淡紅色の光がステアーの砲台へと収束された。
 ――――――ッ!!
 面々に寒気が走る、短い瞬間で何が出来るか。回避行動、それとも防御体勢?
「藍紗さん‥‥ッ!」
 由梨と祐希が同時に叫んだ。確か彼女はまだヘルメットワームの相手をしていた筈、だが。
「プロトン砲!? ‥‥撃たせるものかっ!」
 藍紗の迎撃は行われた。二人の報告とヘルメットワームを撃墜したのが、丁度同時だったのだが、ステアー班の面々はそこまで把握する余裕がない。
 無論、それは藍紗も同様だ。
 視認、観察、理解、そんな手順を全てすっ飛ばし、集う光に向けて照準、発射。
 光と光がぶつかり合い―――淡紅がもう片方の光を飲み込み、やがてそれは視界すらも飲み込んだ。

●戦果‥‥
 能力者達がプロトン砲のダメージから回復した頃、ステアーは既にその姿を消していた。
 プロトン砲と加速粒子砲のぶつかり合い、結果はプロトン砲の圧勝。威力に差がありすぎたのか、藍紗の粒子砲は、プロトン砲の威力を幾分か削いだだけに終わった。
 幾分か相殺したとはいえ、プロトン砲の直撃を受けた藍紗機は中破で撃墜。回避が間に合わなかった数人もプロトン砲のダメージを受け、無傷で済んでいる人間はいない。
 咄嗟に被弾場所を選んだ祐希が、辛うじて武装の故障で済んだ程度か。
 ダメージを受けながらも、何とか不時着したのか。機体は空戦形態のまま地上に着陸している。遠く聞こえる戦いの轟音は未だ止まない、確認した経過時間は、戦闘開始から10分足らず。
 流石にこの程度では終わらないか、そう京夜が呟いた。
 よく耳を傾ければ、回線からは春花の声がノイズ混じりに聞こえる。撃墜された時に回線に異常をきたしたのか‥‥そう呟く王零の思考は緊張の後に来る放心か、未だ現実を掴みきれていない。
「大丈夫ですか、現在地は‥‥!?」
 短く現在地を報告し、そっちはどうなった、と尋ね返す。
「少してこずったが、ゴーレム二機共に撃破した」
 武流の代返は短い。
 燃料を見れば、一部の機体はメーターがゼロに傾く寸前。思い出したように周囲を確認し、敵影が全ていなくなったのを確認する。救援対象である友軍が追撃を受けた様子はない、一応成功したのだと、安堵に吐息が漏れた。
(「ふぅ‥‥できればもうこんな戦い、勘弁したいぜ」)
 言葉はブレイズから漏れる、起こした体は痛い、機体はこれ以上動きそうにないが‥‥帰還だけならまだなんとかなる、か?
 何はともあれ、一先ずは任務成功を喜ぼうと、表情がやや苦笑交じりの笑みを浮かべた。
 合流したらラストホープへ帰ろう、そして、改めて成功の報告を受け取ろう。ああ、あと機体の整備もやる必要がある。
 思いはそれぞれに、歩みは緩めず、怪我を抱えながらも‥‥傭兵達は帰還し、改めて救助成功の報が各人へと届けられた。