タイトル:ユマニテ〜刻の音マスター:大林さゆる

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/05 22:12

●オープニング本文


 生きては帰り、生まれては帰る。
 刻の輪は進化しているのか、退化しているのか‥。
 人生とは、刻の輪を超える旅だと言ったのは誰であっただろうか。
 知らぬ間に、刻は過ぎ、後に残るのは何なのか‥。
 それこそ星の数ほどあるのかもしれない。


 インド、クルヌール近辺にある避難民キャンプ。バグアとの戦争で家を無くし、大切な人々を亡くした者達がひっそりと暮らしていた。
「あんたのせいだ!」
「何を言うか! 貴様のせいだろう!」
 二人の男性が言い合いをしていた。それぞれバグア軍の戦争に巻き込まれ、家族を失った者達だ。バグアのせいなのか、人間のエゴなのか、人々の心は荒んでいた。
「‥‥ちょっと失礼」
 間に入ったのはティル・シュヴァルツ(gz0211)だった。一見すると一般人にしか見えないティルであったが、自分が傭兵であることは内密にしていた。
「なんだ、お前‥イギリス人か、それともアメリカ人か? こんな所に何しに来た」
 言い合いをしていた50代くらいの男性が、ティルを警戒するかのように英語で告げた。もう一人は40代の男性であったが、黙って見ているだけだった。
「話の途中、申し訳ないが、物資や食料の定期便が来たようだ。早く並んだ方が良いんじゃないのか?」
 そうティルが言うと、二人の男性は言い合いを止め、ボランティア団体が運んできた物資や食料等を手に入れるため、その場から離れた。すでに行列が出来ており、中には子供や女性の姿も見えた。
 ティルはその様子を静かに見守ると、無言で立ち去っていった。どことなく、その瞳は悲しみに満ちていた。

 難民キャンプの2キロ南には沼があった。ティルはそこへ向かい、周囲を見渡した。報告によると、この沼にクロコダイル(鰐)のキメラがいるらしい。全長は8メートル‥何匹いるのか不明だったため、ティルは偵察も兼ねてこの地にやってきたのだった。
 沼地周辺は平原で、野生動物が走り抜けたり、鳥の囀りも響いていた。木々は点々としており、見渡しは良かった。沼地は泥で覆われており、少し歩き辛かった。
(「‥‥昼間でも出てくるとは‥」)
 ティルの気配を感じたのか、沼の水面が揺れ、2匹のクロコダイル・キメラが頭を出した。現地の人々はただの鰐だと思っているようだった。今の所、被害はないようだったが、このまま放置しておけば、難民キャンプに居る人々にも危険が及ぶ可能性は大きいのは明らかだ。
 ティルは覚醒せず、しばらく沼の辺で立ち尽くしていた。2匹のクロコダイル・キメラはティルを観察でもするかのようにゆっくりと沼の中を泳ぎながら瞳をギロリと輝かせていた。まるで餌でも見るかのように‥。
 夕方、深夜、朝方とティルは沼地を巡廻していたが、クロコダイル・キメラが出現したのは、昼間と朝方だけだった。とは言え、深夜や夕方に出没しないとは言い切れない。一人で巡廻し、偵察するにも限界がある。
「‥‥報告するか」
 ティルはそう呟くと、本部に連絡し、依頼として出すことにした。

●参加者一覧

篠森 あすか(ga0126
26歳・♀・SN
シア・エルミナール(ga2453
19歳・♀・SN
愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
ミゲル・メンドゥーサ(gb2200
41歳・♂・EP
夢姫(gb5094
19歳・♀・PN
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

●再会と合流
 避難民キャンプの入口で合流することになった。
「ティルさんも私と同じ考えで、ここに来てたんですね」
 夢姫(gb5094)は『大きな鰐を退治する人たちが来るらしい』と現地の人々に話をして、無駄な心配はかけたくないと思っていたが、実はティル・シュヴァルツ(gz0211)もそのつもりでやってきていた。愛輝(ga3159)は慎重な面持ちで告げた。
「シュヴァルツさん、ボランティア活動は2日目からやろうと考えていたのですが如何でしょうか?」
「2日目からボランティア活動するとなるとスケジュールが大変になるな」
 ティルはそう言い、しばらく思案した後、愛輝に告げた。
「いや、考えようによっては愛輝の考えも良いな。時間的には大変だろうが、俺が避難民キャンプで待機してボランティアの手伝いをする。人々の動向を注意することもできるしな」
「お手数をかけますが、よろしくお願いします」
 愛輝は慎重に行動した方が得策だと感じたのか‥村にいる間、武器などは袋に入れて隠していた。 
 夢姫は難民キャンプの代表者や先に来ていたボランティア団体に話をすることにした。英語で通訳するのはティル。夢姫は代表達と面談すると、こう説明した。
「南の沼に巨大な鰐がいるのはご存知ですよね。安全確保で退治にやってきたボランティア団体がいるそうです。銃声とか聞こえても‥それは鰐を退治しているだけですから、安全が確認できるまで沼には近づかないようにお願いします」
 現地の代表者達は互いに顔を見合わせ、英語で話し合っていたが、結論としてはOKだった。
「ありがとうございます」
 夢姫は明るい笑顔を浮かべた。数人の現地スタッフが釣られて笑っていた。笑顔は世界の共通表現なのかもしれない。
 キャンプ村から離れ、沼地に移動‥少し経つとミゲル・メンドゥーサ(gb2200)が皆に告げた。
「僕はてっきりティルはんは俳優名義で来とったのかと‥夢姫はんのおかげで沼地に近付く人は少なくなるはず‥とは言っても子供は好奇心旺盛やさかい。キャンプと沼の間の警戒はやった方がええな。仮に村人に会ってもボランティアの一環で警備してるとか言えば誤魔化せるやろ」
 シア・エルミナール(ga2453)が頷く。
「そうですね。鰐キメラだけでなく、他にも別のキメラがいるかもしれませんから、夜も沼地周辺の警戒をしておきましょう」
「僕はテント持ってきとるけど、これは鰐キメラを捕まえるのに使うつもりやで」
 ミゲルがそう言うと、夢姫が答えた。 
「私もキャンプ用テント、持ってきました。これで見張りもできると思います」
「それは助かるで。おおきに」
「夢姫はよく気がつくよな。戦闘なんてひっさびさだったが、なんかやる気が出たゼ」
 ミゲルとヤナギ・エリューナク(gb5107)の言葉に、夢姫は「当り前のことをしただけなんですが、そう言ってもらえると励みになります」と応じた。
 夢姫はヤナギとは友達であったが、他にも個性的な人達と出会えて心底喜んでいた。鳥の着ぐるみを纏った火絵 楓(gb0095)はティルと会った途端に「シュヴァちゃ〜ん! おひさ〜しブリ照り!」とハイテンションで挨拶していたし、夜十字・信人(ga8235)は多目的大型西洋棺桶を布で巻いて背負い、僧衣を着ていた。落ち着き払っていたが、信人の眼光はどことなく鋭い。
 篠森 あすか(ga0126)と愛輝は恋人同士とは言っても互いに仕事では割り切っているようだったが、二人っきりになるといつも通り仲良く‥と、具体的にどんな風に仲が良いのか気になるところである。
「念の為、もう一度確認します」
 シアが言うと、皆が集まってきた。
「鰐キメラ退治ではA班とB班に分かれ、夜の見張りでは2人ずつ交代で行います。A班はすでに4人決まっていますが、B班に立候補してくれた方は3人でした」
「どの班に入るのか、言ってなかった‥ごめんね」
 篠森が申し訳なさそうに言うが、ミゲルは「気にせんでええよ。B班に入れば4人ずつになるで」と助言してくれた。偶然なのか、篠森は愛輝と同じ班になった。
 A班は夢姫、夜十字、ミゲル、火絵。B班はヤナギ、愛輝、シア、篠森。夜間での見張りは夜十字と火絵、夢姫とミゲル、愛輝とヤナギ、篠森とシアの4グループとなった。篠森はティルが傭兵であることは隠して行動していると知り、自分達もできるだけ隠すようにすると告げた。
「万が一ということもあるから、その方が良いな」
 ティルは皆の考えに同意していた。


●一難去って
 ミゲルに火絵、ヤナギ、愛輝たちは現地での状況を事前にティルから聞き出し、沼地に一番近い地盤の固い場所にキャンプ用テントを張ることにした。
「実際に見てみたら鰐キメラ4匹おったで」
 ミゲルは探査の眼を発動し、沼や周辺を偵察していたが、沼の中心部に2匹、叢の奥に2匹潜んでいることが分かった。それを皆に伝え、A班とB班は適度な距離を取りつつ、用意しておいた肉をばらまいたり、火絵はキャンプ村で手に入れた鶏の血(料理用に捌いた時に出た血)も囮用に使っていた。
 肉と血の匂いに釣られたのか、4匹の鰐キメラが寄ってきた。火絵は囮になるため、血の入った小瓶を手に持ち、鳥の着ぐるみ姿で地面を足で叩いてわざと音を出した。
「カラスのキメラも3匹おったで!」
 ミゲルがとっさに叫んだ。傭兵達はキメラに囲まれてしまい、しばらく緊張状態が続いた。
「上等だゼ。これくらい出てくるなら遣り甲斐があるねェ」
 ヤナギは動じることもなく、鰐キメラが沼から出てくるのを待ち構えていた。火絵は血の小瓶を持っていたせいなのか、キメラ視点で旨そうに見えたのか、カラス・キメラの標的になっていた。
「よっち〜、やっぱり楓ちゃんの可愛さでキメラもメロメロだね〜♪」
「火絵君、囮ご苦労」
 信人は不敵な笑みを浮かべ、棺桶の中から大口径ガトリング砲を素早く取り出すと、上空から飛来してきたカラス・キメラに狙いを定め、射程内に入った途端、連射‥すさまじい勢いでキメラは吹っ飛び、カラス・キメラは3匹地上に落下して息絶えた。
「次は鰐か」
 信人は苦無と予備の銃を携帯していることを確認し、沼の方へと目を向けた。泥濘で鰐キメラの動きは遅かったが、戦い易い場まで接近するまでヤナギたちはその場から動かず、待機していた。叢にいた鰐キメラが咆哮をあげ、予想以上の速さで走り出してきた。シアとヤナギが牽制で銃を放つと、弾は貫通しなかったが、十分な時間かせぎとなった。愛輝は覚醒すると瞬天速で前方へ移動し、攻撃すると見せかけ、瞬天速で後方へと移動‥鰐キメラは混乱したのか、4匹は散り散りになっていった。
「援護は任せて」
 篠森も覚醒し、貫通弾の入った銃を放った。強弾撃を使用していたせいか、鰐キメラ一匹の固い体に弾が貫通した。
「これで撃ち易くなったな」
 信人は大口径ガトリング砲を容赦なくぶっ飛ばす。大きなダメージを与えることはできなかったが、撹乱にはなっていた。沼にいたキメラは危険だと思ったのか、水面下に潜ってしまった。叢にいた2匹の鰐キメラは興奮気味に突進してきた。
「待ってた甲斐があったゼ」
 鰐キメラが噛み付こうとすると、ヤナギは接近してイアリスによる円閃を放った。鰐キメラは口から切り刻まれ、頭が吹っ飛んだ。だが、それでも胴体は本能的に突進してくる。愛輝は真紅の爪ルベウスで抉るように胴体に急所突きを放った。彼の直撃を受け、胴体は動かなくなった。
「まずは一匹目‥」
 確実に倒したことを確認すると、愛輝たちは2匹目への攻撃態勢に入る。シアは銃に貫通弾をセットすると、標準を合わせて急所突きを放つ。だが、貫通弾を無駄に使うことはできない。鰐キメラは他にもいるのだ。シアは射撃で援護に入る。先の戦闘で夢姫は敵の弱点は目ではないかと思い、銃を放つが狙い通りにダメージを与えることができた。沼に隠れてしまった鰐キメラはミゲルが引き続き探査の眼で追っていた。
「僕らの動向が気になるのか、かえって動く気配なしやな。夜間も注意せなあかんな」
 ミゲルは夜間での戦闘も想定し、昼間は偵察に専念していた。 
「夜〜?! キメラと夜を過ごすの〜?」
 火絵はそう言いつつ、アーミーナイフを鰐キメラの目に投げつけた。両目を攻撃され、身動きできなくなると、夢姫は機械剣「莫邪宝剣」で二連撃を叩き込む。2匹目も倒すことができたが、残りのキメラは未だ沼から出る気配もなかった。試しに夢姫が沼に向かって石を投げてみたが、しばらく経ってもキメラが出てくる様子はなかった。


●深夜
 結局、キメラ退治は夜間までやることになってしまった。念の為、夜の行動も考慮していたのが幸いだった。傭兵達は手順通り、2人ずつ交代で沼地周辺の警戒をしていた。
 3日目の夜、沼にいた鰐キメラに動きがあった。その時、見張りをしていたのは篠森とシアだった。二人はテントにいた傭兵達に声をかけ、直ぐに戦闘準備となった。夜での戦闘班分けは特になかったため、臨機応変で対処することになった。まずは敵の位置を確認するためミゲルが探査の眼を使用する。
「今回は探査の眼、使いまくりや。こっちに向かってるみたいやで」
「なら、好都合だね〜。さっさと片づけて、キャンプ村へゴーだよ♪」
 火絵は武器を手に取り、夢姫とミゲルが各自ランタンで周囲を照らした。遠くから‥ズル‥ズル‥と微かな音が聞こえてきた。シアがその方向へと照明銃を撃つと、8メートル前後の鰐キメラが現れた。照明銃の閃光で敵の動きが一瞬、止まった。その隙にミゲルがキャンプ用テントで鰐キメラの頭部を覆う。
「気をつけろ。もう一匹いたはずだ」
 信人が注意を引きつけると、愛輝は懐中電灯を使い周囲を見渡した。すると別の方角から鰐キメラが出現‥傭兵達は2匹に挟まれてしまったが、誰一人として慌てる者はいなかった。1匹はミゲルがテントで捕まえたこともあり、冷静に対処すれば勝てる‥かえって慌てると勝てるものも勝てなくなるものだ。テントに覆われた鰐キメラはシアが残りの貫通弾を銃で撃ち、愛輝は疾風脚を発動させ、さらに急所突きで攻撃。その衝撃で鰐キメラが横転するが、ヤナギはとっさに腹目がけて二連撃を叩き込む。止めはミゲルがM‐121ガトリング砲から貫通弾を発射‥強弾撃も発動されていたこともあり、かなりのダメージを与えることに成功し、一匹目は悲鳴をあげる暇もなく倒れた。
「テントも使い様やな。意外と役に立ったで」
 一方、残りの鰐キメラは夢姫が拳銃「黒猫」で足を狙い、信人が大口径ガトリング砲で援護射撃、篠森のエナジーガンでの強弾撃に加え、火絵の試作型超機械Red・Of・Papillonによる放電で焼き尽くされていた。
 一見するとあっという間の出来事ではあったが、夜間での戦闘はそう簡単なものではない。シアの照明銃、夢姫とミゲルが持っていたランタン、愛輝が携帯していた懐中電灯、そしてミゲルのテント作戦がなければ勝つことはできなかったであろう。誰一人欠けても、行動一つ欠けても誰かが重傷を負っていただろう。軽い怪我ですんだのは皆の協力があったからこそである。
 前衛で戦っていた愛輝は軽い怪我をしていたが、キャンプ用テントに戻ると篠森に応急セットで手当てしてもらっていた。
「こういうのも、たまには良いですね」
 滅多に笑顔を見せない愛輝が微笑していたが、篠森は彼の腕に包帯を巻きながら呟くように言った。
「無事だったから良かったけど‥」
 篠森は人前では普通にすると決めていたのだが、さすがに恋人が怪我したこともあり、一瞬だけ心配そうな表情を見せた。それに気付き、愛輝は小声で言った。
「貴女が無事で良かった‥‥貴女が居なくなったら、俺がこの世に居る理由が無くなってしまう」
「‥‥愛輝君」
「‥‥」
 愛輝は黙り込んでしまった。胸の内には熱いものがこみ上げていたが‥。
 少し経つと、他の傭兵たちも戻ってきた。仮眠をとった後、一同はキャンプ村へ戻ることにした。


●希望の光
 避難民キャンプ、午前。
 村の路地裏からベースの音が聞こえてきた。ヤナギが愛用のベースを弾いていると、子供たちが自然と集まり、数人の大人達も足を止めて聴いていた。一曲弾き終わると子供達が英語が話しかけてきたが、ヤナギも英語で答え、すぐに子供達と打ち解けることができた。
 火絵は村の広場で手品を披露していた。ダンボールで作った丸い筒に顔が出る部分に穴を開け、それを被るとクルクルと回り始めた。さらにシルクハットから鳩を飛ばしたり、皆を楽しませようとしていたが、火絵自身も楽しんでいた。子供達が楽しそうに笑っていた。その様子に夢姫は楓は面白いだけでなく優しい人だと感心していた。
 篠森は折り紙で子供達と遊ぶつもりでいたが、夢姫が事前に色紙を本部から取り寄せてこともあり、二人は一緒に子供達に折り紙を見せていた。すると数人の子供が作りたいと言い出し、篠森と夢姫は簡単に作れる折り紙を教えていた。
 食料・物資の配給時間になると、トラックから荷物を降ろす男性が集まってきた。愛輝とヤナギも荷物運びを手伝い、ミゲルが人々に配給していると、行列の中に楓が混ざっていることに気がついた。
「何しとるんや、火絵はん?」
「ここで並べばご飯がもらえるって皆に教えようって思ったんだよ〜♪」
 確かに楓は子供達に懐かれて一緒に並んでいたが、子供達にしてみれば楓と一緒にいるが面白かったらしい。愛輝は子供達に菓子を配る係をしていた。持参していた菓子類も渡すことにしたようだった。それが彼にとっての優しさだと逸早く気がついたのは篠森だった。シアはボランティア団体の料理チームに参加し、食事を作り、出来上がると外出できない老人達の家々を回り、配っていた。目の前の現実に、シアは複雑な気持ちになった。材料は大したものではない。だが、現地の人々にとっては命綱なのだ。どれだけ自分が裕福な生活をしているのか、シアは逆に考えさせられてしまった。
(「分かっているつもりではありましたが‥終わった後の事を考えても先は険しいでしょうね」)
 愛輝たちを快く迎えてくれた人は多かったが、やはり信人が危惧していた通り、突然の来訪者達をあまり良く思っていない者もいた。道端で数人が英語で何やら言っていたが、信人は彼らも悪意があって言っている訳ではないことは理解できたため、何も言わなかった。信人は神父の仕事もしていたが、こっそりと心の中で祈っていた。
(「死者や隣人へ祈りを捧げる心は、何処の国でも変わらない」)
 信人は行き交う人々とは逆の方向へと歩き、墓地があることに気がついた。見ると自然の岩や木の枝を墓に見立てて作っているようだった。
 人はいつしか大地へと帰る。様々な想いと共に‥。魂は天へと昇るとも言われているが、人は天と地の狭間で生と死を繰り返していくのだろう。