タイトル:新たなる来訪者マスター:大林さゆる

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 9 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/25 19:48

●オープニング本文


 九州、宮崎県。
 先日、国見山付近の南西部にあった町はキメラによって壊滅されたが、傭兵達の活躍により、住民達を隣町まで避難させることができた。多数の負傷者は出たのはもちろんだが、避難した人々は近辺の町へと散り散りとなり、避難生活を余儀なくされていた。
 壊滅された町の復興作業もままならぬ状況で、事件は起こった。またもやキメラが出現したのだ。
「いいか、今回のキメラは2メートル程度のカエルだ。見た目はアマガエルだが、侮るんじゃねぇぞ? 報告によると10匹‥」
 スナイパーの磯貝・洋次郎(いそがい・ようじろう)は、国見・翼(くにみ・つばさ)と中川・陸(なかがわ・りく)を兵舎の自室に呼びつけ、今回の依頼へ出るようにと告げた。
「偵察の話によると、キメラは口から長い舌を素早く出して瓦礫を破壊したり、丸呑みしていたそうだ。ただし、他の能力については不明‥まあ、カエルなだけに飛び跳ねていたらしいがな」
「おっちゃんは行かねぇの?」
 翼が言うと、洋次郎はきっぱりと「オレは行かねぇ」と即答した。陸と言えば、顔が青ざめていた。陸はカエルが苦手だったのだ。いくらキメラとは言え、見た目がカエルと聞き、どうにも気持ちがザワザワする。誰にでも苦手なものはあるだろうが、翼は陸のカエル嫌いを知っていたため、洋次郎に再度お願いしてみた。
「おっちゃんも来てくれるとありがたいんだけどよ〜。頼むよ」
「オレは行かねぇって言ってんだろう。代わりに依頼として出した」
「えー? おっちゃんは強いだろう? 俺達が行くより、おっちゃんが行った方が‥」
 翼の言葉を遮るように洋次郎は睨みつけた。
「前回の依頼に行ったのはてめぇらだろう? 住民たちは避難生活をしてるって話は聞いたが、悠長なこと言ってんじゃねぇ」
 突き刺すような眼差しで洋次郎が言う。これでは翼も後には引けない。
「分かったよ。他の人に頼まれてたら速攻で行く気はあるって。人々のことも気になるし‥‥とは言うものの、陸‥大丈夫か?」
 翼は隣にいる陸に声をかけた。
「‥だ‥大丈夫だ。敵はキメラ‥キメラなんだ。カエルじゃない‥キメラ、キメラ‥」
 念仏でも唱えるように陸は何度も「キメラ、キメラ」と言い続けていた。脳裏にあるカエルのヴィジョンを消そうと必死なようだ。
「そうそう、相手はキメラ。陸なら大丈夫だ」
 翼が励ますように言うが、陸は少し上の空だった。
「そんじゃ、俺たちは先に行くな。おっちゃん、依頼の段取りは任せるな」
 翼はそう言いながら、陸を連れて現場へと急行した。

●参加者一覧

三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
皓祇(gb4143
24歳・♂・DG
リア・フローレンス(gb4312
16歳・♂・PN
シルヴァ・E・ルイス(gb4503
22歳・♀・PN
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
長谷川京一(gb5804
25歳・♂・JG
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
ヨーク(gb6300
30歳・♂・ST

●リプレイ本文

●初日
 依頼人の兵舎。
「町は壊滅したって言っても、地図はないよりあった方がマシだろう?」
 鹿島 綾(gb4549)は良い点に気がついた。
「建物が破壊されて目印になるモンはないだろうが、元々あった川やパイプラインの場所まで変わるはずはないだろう?」
 綾が依頼人の磯貝・洋次郎にそう告げると、三島玲奈(ga3848)も似たようなことを考えていたのか、地図の申請をしていた。
「町の輪郭だけを書いて、後はマッピングして調査するってこともできるし、どうかな?」
「ふむ、二人の言い分も尤もだ。壊滅前の地図で良ければ貸し出しするぜ」
 洋次郎は綾と玲奈に町の地図を手渡した。リア・フローレンス(gb4312)は蛙の生態が書かれた資料がないか聞いてみると、参考になればと洋次郎はリアに資料を提供した。長谷川京一(gb5804)は蛙キメラを食べる気なのか、調理道具一式に味噌と醤油タレ、野外用コンロ、金網を用意していた。それに気付き、洋次郎はこう告げた。
「先に現場に行った中川・陸はカエル嫌いなんだが、どうなってもしらねぇぞ」
「逆効果になるってか? 蛙は美味いんだがね」
 京一は溜息混じりだ。リアがそれとなく答えた。
「確かに食用蛙もいるけど、今回のキメラは『見た目が蛙』ってだけだから、味は全く違うかもしれないよ」
「それならそれで、尚更食べてみたいね」
 京一はどことなく楽しそうだった。綾はもう一つ気になったことがあり、依頼人に言った。
「翼と陸は無線機とか持ってるのか?」
 シルヴァ・E・ルイス(gb4503)を始め、アズメリア・カンス(ga8233)や皇 流叶(gb6275)、皓祇(gb4143)、ヨーク(gb6300)など依頼に慣れている者たちは無線機を携帯していることが多い。
「あいつらにも無線機を持たせたが、合流するには何か手を考えねぇとな」
 洋次郎が言うと、京一は禁煙パイプを口に挟んで告げた。
「俺が合図で照明銃を撃つつもりでいたんだが、何か問題あるかい?」
「抜かりはねぇようだな。予備の照明銃を2つおまえさんに渡しておく。これは使いきっても良い」
 洋次郎は照明銃を京一に渡した。
「俺も携帯してたんだが、万が一ってこともあるからな」
 傭兵達は準備を終えると、直ちに現場へと向かった。


●合流
 現場に到着した傭兵たちは壊滅した町を巡廻していた。今のところ、キメラの気配はなかった。
「依頼人の話によると、国見殿と中川殿は町の北東部で待機しているらしいが‥」
 ルイスはそう言った後、無線機を使ってみたが、距離が遠いのか、聞き取れなかった。それならばと京一が空に向かって照明銃を撃つ。その光に気がつき、1時間程度で国見・翼と中川・陸が京一達の元へと走り寄ってきた。翼の姿を見ると、玲奈がすかさず歩み寄る。
「翼君、今回の依頼でもよろしくね。また会えてうれしいな〜。陸君がピンチだって聞いて私も心配してたんだ」
 意味ありげな熱い眼差しを向ける玲奈に、翼は思わず照れ笑いを浮かべた。
「玲奈さん、ありがとう。陸のヤツ、キメラ見たら硬直しちまって‥あ、今回は協力に来て下さった方、ありがとうございます。これだけいれば助かります」
 翼は皆にお辞儀するが、陸は具合悪そうに無言で礼をするのが精一杯だった。
「おい、大丈夫か? 胃薬飲むか?」
 綾がそう言うと、皓祇が救急セットから胃腸薬を取り出し、陸に飲ませた。初日の午後は陸の看病をすることになってしまい、まずは陸のカエル嫌いの原因を聞くことから始めることにした。
「いきなりで申し訳ないんだけど、陸君はなんでカエルが嫌いなのかな?」
 リアはそう言いながら蛙の資料を見せると、その途端、陸は震え出した。
「‥‥生理的にダメなんです‥‥見ただけでもダメでした‥蛙キメラを見ただけで吐き気が‥‥」
「思っていたより相当嫌いみたいだな。私は平気だが」
 ルイスが言うと、京一は蛙キメラを倒した後、それを食べると言い出した。すると、陸は拒絶反応を起こし、恐怖で青ざめていた。
「‥‥すみません。本当に嫌いなんで‥‥皆さんの足手纏いにはなりたくないんで、今回の戦闘では後方支援に徹します」
 どうやら陸のカエル嫌いに拍車をかけてしまったようだ。
「うーん、やっぱり逆効果だったかな」
 玲奈の言葉に、翼が残念そうに頷いた。
「そこまで嫌いなら無理に食べるのは進めないぜ。依頼に差し支えるようじゃな」
 京一は陸の気持ちを考え、強制はしなかった。


●何匹いるのか?
「さてと‥どこにいるんでしょうね」
 皇は軍用双眼鏡で周囲を見渡した。翼の報告によると、町の北東部にいたらしいのだが、どうも移動したのか見当たらない。
「川に沿って南下してみようか」
 玲奈はそう言いながら双眼鏡で景色を覘き、円を描くようにターンした。傭兵達は二手に分かれて調査することにしたようだ。
 A班は三島、皓祇、ヨーク、皇、ルイス。B班はカンス、フローレンス、鹿島、長谷川、翼と陸。アズメリアが瓦礫の散乱状態を確認し、綾が地図に書きとめていく。
 先にキメラを発見したのはA班だった。アズメリアの無線機に玲奈からの連絡が入った。皇はキメラの出現場所が分かり易いようシグナルミラーでB班に合図を送る。
「あの光は‥どうやらA班が先に遭遇したようだね。急ぎましょう」
 アズメリアが促し、B班のメンバーはすぐに出現ポイントへと走り出した。陸も懸命に走るが、どうも皆の最後になってしまうようだった。だが、いくら嫌いとは言え、仕事は仕事なのだ。そう割り切ってシルヴァは落ち着いた物腰であった。
 B班が辿り着いた時にはすでに戦闘が始まっていた。玲奈の放つ「シエルクライン」の銃声が響き渡る。皇は呼笛を鳴らし、蛙キメラを誘導した後、敵が懐に飛び込んできた刹那、蛍火の刀で躊躇いもせず円閃を叩き込んだ。
「ピョンピョン飛び回って、しつこいですね」
 止めとばかりに京一は後方から和弓「夜雀」で弾頭矢を放つ。強弾撃を発動していたこともあり、一匹目は悲鳴をあげながら倒れた。陸は震えていたが、その様子に気がつき、ヨークは陸の武器に練成強化を施した。
「‥‥そんなことでは、今後の依頼でも先が思いやられるな。せめて一匹くらいは攻撃したらどうだい?」
 ヨークは陸の背中を押し、そう告げた。陸の心から恐怖が消えることはなかったが、ヨークのおかげで震えながらも戦闘に参加できる姿勢を見せ‥陸にしては珍しく大声で叫びながらキメラに突進していった。
「窮鼠、猫を噛む‥か」
 シルヴァは陸の様子にそう呟き、月詠で円閃を用いて敵を斬り付けた。京一は慎重に狙いを定め、矢を放つ。
「さてと‥お味が楽しみだね」
「確かに見た目はアマガエルだな」
 シルヴァは距離を取ると小銃「S−01」で牽制。さらに玲奈が小銃「シエルクライン」で強弾撃を放つ。リアはクルシフィクスの大剣で円閃を放ち、舌を斬り、腹部や顔面と立て続けに攻撃していく。キメラは次々と倒れ、アズメリアは月詠で流し斬りを放ち、蛙キメラの舌を叩き切る。
「これで攻撃もできないはず?」
 綾も真デヴァステイターでキメラの口を狙い、舌を使い物にならないようにしていた。レイシールドで敵の攻撃を受け流し、綾はさらに攻撃を続けた。
「粘液を飛ばすかもしれません!」
 皓祇はAU−KVを装着し、竜の翼で駆け抜ける。とっさにアズメリアを抱え、敵の粘液攻撃を回避することができた。
「油断は禁物だったね。ありがとう」
「いえ、どういたしまして。お役に立てて良かったです」
 皓祇の予想通り、蛙キメラは舌攻撃だけではなく、粘液を吐くことも分かった。
「皆さん、気をつけて下さい」
「ほいな、んじゃま、口に攻撃しちゃうかな」
 玲奈はシエルクラインをキメラの口に標準を合せて銃弾を放った。綾も遠慮せずに銃を撃ち続ける。
「おっと、逃げようったってそうはいかないぜ」
「そうゆうこと」
 京一は弓で狙い撃ち、アズメリアはアラスカ454で援護射撃‥その反動でアズメリアの身体が倒れそうになるが、彼女は両足で地面に力を入れ持ちこたえた。アラスカ454の拳銃は体格の良い男性でも扱いが難しい。アズメリアは念の為、アラスカ454を装備していたのだ。
「これを使うことになるとはね」
 反動のせいか、アズメリアの片手は少し痺れていた。接近戦で怪我をした者も数人いたが、ヨークが練成治療で治していた。報告にあった10匹の蛙キメラは倒すことができたが、玲奈たちは蛙キメラの卵があるのではないかと考えていた。


●事後処理
 案の定、川の中に1メートル程度の巨大な蛙の卵が5つ見つかった。
「なんか今回、勘が良かったかな」
 玲奈がパチリと指を鳴らすと、皓祇が頷いた。
「この街に住んでいた皆さんが安心して戻ってこられるように全て処理してしまいましょう」
「僕も手伝います」
 リアはそう言うと、玲奈やシルヴァ、アズメリア、皓祇と協力して卵の処理をすることになった。ヨークは町のライフラインの復旧作業が今後できるかどうか、本部に問い合わせることにした。
 その後、玲奈は綾と一緒に町を回り、壊滅で切れて使用できなくなった電線を発見しながら地図に記入し、本部へ提出することにした。
 京一と言えば、瓦礫を風除けにして携帯コンロを置くと、蛙キメラの肉を焼き始めた。
「‥うーん‥匂いは‥」
 あまり美味そうに感じなかったが、適度に焼けると京一は一口試食してみた。
「それ、うまいのか?」
 皇が聞くと、京一はこう告げた。
「なんて言うか、今までにない味というか‥‥うまいというより『不思議な食感』だな」
 皇も試しに食べてみたが、お世辞にも美味いものではなかった。
「‥‥まあまあか?」
「そうだな。味はそこそこだが、食べられる範囲?」
 それはどうなのかと少し疑問を感じたヨーク。リアとアズメリア、綾は瓦礫の撤去作業をしていた。少し経つと玲奈やシルヴァ達が戻ってきた。
「本部に問い合わせてみたけどさ、念の為、キメラは食べない方が無難だって。お腹壊すかもしれないから」
 玲奈がそう告げると、すでに京一と皇は腹痛を感じていた。
「どしたの?」
 不思議そうに玲奈が言うと、京一は「蛙キメラ、食べちまったよ」と苦笑していた。蛙キメラを倒し卵も処理できたが、京一と皇は、皓祇が携帯していた救急セットの胃腸薬を飲む羽目になってしまった。