タイトル:レスキューレスキューマスター:大林さゆる

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/02 01:45

●オープニング本文


『日本‥九州、宮崎県。烈風が発生した模様。どうやらキメラが出現したようです。敵は疾風で人々や建物を攻撃しています。至急、現場に急行して下さい』
 兵舎にて国見・翼(くにみ・つばさ)は友人の中川・陸(なかがわ・りく)と息抜きに流行りのゲームを楽しんでいたが、本部からの連絡が入り、顔色が変わった。大規模作戦の疲れを癒そうと話し合っていたが、そういう気持ちとは関係なく、キメラは所々で現れているという現実に‥2人は我に返った。
「俺たちは今まで先輩達からいろいろとアドバイスを貰って戦闘依頼にも参加してきた。新米だからっていつまでも甘えてばかりじゃ、いつまで経っても成長できねぇ」
 翼の言葉に、陸が頷く。
「そうだな。今回の依頼に参加して経験をさらにつんで、先輩達に恩返ししたいよな」
「それもあるが、何よりも人々が犠牲になってるってーのが俺的に我慢ならん」
 翼は少しばかり怒りを顕にしていた。
「かと言って、僕らの実力ではキメラを全て退治するのは無理だよな‥やっぱり他にも依頼に参加してくれる傭兵を募集した方が良い」
 陸は落ち着いた表情であったが、内心‥少し怖かった。先輩でも重傷になってしまう依頼もある。今回も一歩間違えれば‥‥。
「よっしゃ、さっそく行くか!」
 翼は陸の想いには気付かず、気合を入れるため自分で頬を叩いた。
「場所は宮崎県の国見山付近? 俺、あそこは行ったことねぇんだよね」
 そう言う翼‥ふと陸の様子が気になり、顔を近づけた。
「どした? なんかあったんか?」
「いや、別に‥国見山付近の南西部にキメラが出たらしいのは分かったんだが、どういう姿をしてるのかって考えてただけ」
「あっそ。なんか見た目は2メートルくらいの熊だってよ。数は8匹‥今のところはな。そう連絡がきた」
 翼がそう告げると、二人は直に現場へと向かった。

●参加者一覧

御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
佐竹 優理(ga4607
31歳・♂・GD
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
佐竹 つばき(ga7830
20歳・♀・ER
火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
シフォン・ノワール(gb1531
16歳・♀・JG
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER

●リプレイ本文

●優先すべきこと
 宮崎県、国見山の南西部に2メートル程度の熊キメラが出現し、付近の建物や人々が疾風に巻き込まれていた。建造物は吹き飛ばされ、崩壊した家や店もあり、逃げ遅れた人々は瓦礫の下敷きになっていた。だが、すでにキメラが暴れている状況では一人で救助するのは難しい。
 御山・アキラ(ga0532)は付近を徘徊しているキメラを倒すことにした。まずは被害の源であるキメラを倒さねば、さらに犠牲が拡大していく‥アキラはそう思ったのだろう。
「‥‥必ず助け出す。私達にしかできないこともあるからな」
 人々の救助は他の者に任せるのも臨機応変とも言える。なんでも一人で出来るというものではないことはアキラにも身に沁みていた。
 国見・翼(くにみ・つばさ)は友人の中川・陸(なかがわ・りく)と共に皆の指示で前衛で戦うことになった。
「国見、中川は私と一緒についてこい。遅れるな」
 アキラが二人にそう告げると、三島玲奈(ga3848)が翼に接近してきた。
「翼君、がんばって。私も前衛に参加するから、何かあったらフォローするし、私に何かあったら助けてくれるとうれしいな」
 玲奈は翼と初めて会った時から、何やら積極的だった。最初は礼儀正しかった玲奈であったが、少しずつ対等の口調になってきた。思わず翼も途惑う。
「え? そりゃ、もちろん。頼りにしてます。まずはアキラ先輩の言うようにキメラを退治しないと」
「先輩と呼ぶ必要はない。今はそれより大事なことがあるだろう?」
 アキラが言うと、佐竹 優理(ga4607)が同意するように告げた。
「この間、会った時、言ったよね。覚えてる?」
「‥‥えーっと、なんでしたっけ?」
 翼は冗談ではなく本当に忘れていた。優理の眼差しが鋭くなり、刀を構える仕草をした。思わず一歩下がる翼。優理は陸の方を見ると、こう告げた。
「陸‥‥平常心‥良いね?」
 優理に念を押され、陸は無言で頷く。それを聞いて、翼はやっと思い出した。
「あー、そうだった。平常心‥平常心と」
 少し離れた場所から様子を見ていたのは鳳 つばき(ga7830)。優理が翼と陸とは以前からの知り合いとは聞いていたが、やはり仲良く(?)話している姿を見ると、どうにもヤキモチな感情が湧いてしまう。今の状況からしてそんな気持ちを出すのも‥そう思い、鳳は黙って見ているだけだった。
 そんな沈黙を破るように、やたらと陽気な男性がいた。桂木穣治(gb5595)だ。
「熊を制する者は九州を制す! まずはキメラを退治しようぜ! 前衛のモンには練成強化をする。俺は俺のできることをする。それだけよ!」
 心中ではドキドキしていた桂木であったが、そうとは見えない口振りだった。次々と練成強化を施し、翼たちの武器が淡く光り輝いた。
「武器が強化されたとは言え、油断は禁物だ」
 アキラのその言葉が合図となり、前方で暴れまわっている熊キメラへの攻撃が開始された。翼と陸も負けまいと後を追う。そんな中、カウボーイハットを被ったザン・エフティング(ga5141)は息も絶え絶えの人々を見つけ、すぐさま駆け寄り、救急セットで手当てをしていた。攻撃は他の者たちに任せ、ザンが優先したのは人々の救護と避難指示だった。
「ここにいると危険だ。動ける者は避難してくれ。怪我人もいるから、隣町の公民館にでも行ってくれ」
 ザンの指示で、それほど怪我をしていない者は怪我人を抱え、その場から避難することにした。ザンの的確な行動で、助かった人々も多かった。
「よし‥これで俺も遠慮なく戦えるな」
 人々を見送ると、直に走り出した。ザンが現場へと戻った時にはすでに戦闘の真っ最中だった。熊キメラは口から疾風を吐いていた。後方から援護するのはシフォン・ノワール(gb1531)‥長弓「フレイヤ」を構え、後ろ向きの熊キメラに狙いを定め、攻撃する。強風によりシフォンのワンピースが靡く‥彼女の援護により、玲奈も小銃「シエルクライン」が撃ち易くなり、隠密潜行を発動させながら翼の背中を守るように常につかず離れずの距離を守っていた。
「ここまで破壊されたら、後は勘でやるしかないかな」
 玲奈は前もって本部に現場地図の申請をしており、地図は持っていたが、町のほとんどが崩壊しており、地図はあまり役に立たなかった。敵の疾風攻撃でセーラー服のスカートが激しく揺れるが、玲奈はそれを逆手にとって熊キメラの居場所を確認していた。
「チャンス! 地鶏はなんとしてでも死守!」
 玲奈はアンチマテリアルライフルを地面に設置し、影撃ちで援護攻撃。そのおかげで前衛にいた者たちも戦い易くなり、アキラや翼、陸が接近戦で対峙することができた。
「貫通弾を使うまでもないな」
 アキラはドローム製SMGを連射し、火絵 楓(gb0095)は試作型超機械Red・Of・Papillonを装着して「燃え上がるんだ、あたしの心!!」と叫ぶ。鳥の着ぐるみ、鬼のお面の装備は何かを彷彿とさせる。楓の声に反応するかのごとく、両手の武器が放電する。熊キメラは衝撃のあまり、倒れこんだ。と思いきや、熊キメラは咆哮し立ち上がった。
「まだまだか」
 ザンが拳銃「アイリーン」で影撃ちを放つと、優理が月詠の刀で流し斬りを打ち込む。シフォンがさらに長弓で援護射撃。翼と陸は自分の武器を手に接近戦で攻撃に専念していた。翼は意外にも動きが早かったが、今日の陸は調子が悪いのか、敵の攻撃をまともに食らい、その反動で吹き飛ばされた。とっさに陸に駆け寄るのは鳳‥髪が金髪になり、彼女は練成治療を使った。
「えーい、マジカルヒーリングー♪」
 一秒でも遅れていたら、陸の命は危なかっただろう。間一髪だった。
「中川さん、しっかりしてね。今、あたしが治癒したから大丈夫だよ」
「‥‥ありがとう‥ございます」
 懸命に立ち上がろうとする陸。それを見て、翼が叫んだ。
「陸、そこで大人しくしてろ! 油断は禁物だって言われただろうがっ!!」
 友人にそう言われ、陸は後方で待機することにした。心配そうに陸の顔を覗き込む鳳‥念の為、練成治療をもう一度使い、陸に話しかけた。
「気にしないで。国見さんは心配で言っただけなんだからね」
「‥‥はい。それは分かってます」
 そんな様子も知らず、懸命に前衛で戦う翼。その時、陸は初めて翼が羨ましいと感じた。熊キメラと言えば、皆の連携攻撃で7匹が止めをさされ、最後の1匹に止めを刺したのはザンの天照による布斬逆刃の攻撃だった。
「他にもキメラがいないか探してみるか」
 アキラがそう言うと、皆は夕方まで周辺を見回ることにした。時折、建物が崩れ、その度に翼は驚いていたが、玲奈が宥めるように翼の腕に手を回した。
「単なる瓦礫が崩れた音だよ」
 桂木と玲奈は双眼鏡を使い周囲を警戒しつつ、瓦礫の下を見たり、逃げ遅れた人がいないか確認していた。桂木と言えば内心は『熊キメラ‥料理したらどんな味が‥?』などと考えていたが、彼の心中を知る者は今は誰もいなかった。シフォンは食べ物の匂いで熊キメラが寄ってこないかと考えていたが、残念ながら今回は食材を持ってきていなかったため、試すことができなかった。
 探索した結果、逃げ遅れた家族と老人を見つけることができた。アキラが救急セットで応急手当をし、ザンが隣町の公民館が避難所になっており、そこに行けば安全だと告げた。
「やっぱり心配だから避難所まで送っていく」
 ザンたちは救助した人々が無事に公民館まで辿り着くまで護衛をすることにした。避難した人々が隣町の公民館に集まっていた。人々に礼を言われ、その場から去った。翌日も夕方まで現場全てを隅々まで探索してみたが、他のキメラは見つからなかった。


●安息の日
 最終日、皆は戦いの疲れを癒すため避難した人から聞いた国見山付近の温泉旅館に泊まることにした。
「きゃっほーい、今回はコレが目的だったんだよね〜♪」
 楓は開放感に満ち溢れたのか、やたらとはしゃいでいた。だが、ここの旅館が混浴だと分かると、楓は少し複雑な気分になっていた。
「混浴か‥優理さん、一緒に入りません? 最近ご無沙汰だったし、あたし‥」
「良いよ、つばきの好きにしな。私は構わないよ」
 優理はそう告げると、翼の方へと振り返った。
「そうだ。ご褒美にラムネあげる。そっちもがんばりなよ」
「? なんのことっスか?」
 翼の隣には玲奈がいた。
「あのさ、翼君、私たちも混浴の温泉に入ろうよ」
「えぇぇぇぇーっ?! マジっスか。他の男性もいるんすよ!」
「それなら大丈夫。女性は水着を着て入ることになってんの」
 玲奈が笑顔で接近‥翼はもはや断わる理由もなかった。
「あぁ、それなら‥俺でよければ」
「良いに決まってるじゃない。行こう」
 先に温泉に入る者もいたが、別の方面で燃えている男がいた。旅館の庭で包丁捌きを披露していたのは桂木である。手伝いをしていたのはアキラだ。
「それにしても、よくこんな肉を見つけたものだな」
 アキラが落ち着き払っていたせいか、桂木の明るい調子がやけに映えていた。アルティメット包丁で肉を切り、沸騰した鍋に勢いよく入れていく。
「この肉‥どんな味がするのか楽しみだぜ。味噌で味付けするか。出来上がったら皆にご馳走するぜ!」
 まさか、この肉は‥?!


「カニ‥カニはないの〜? 昨日から何も食べてないのに〜」
 楓は鳥の着ぐるみから浴衣に着替えると、卓の上で突っ伏していた。
「‥‥ここの名物、地鶏とか牛肉‥うまー」
 シフォンは卓に並べられた郷土料理を食べていた。これも目的の一つだったが、楓のように明確には言わなかった。シフォンが料理を食べている姿が可愛かったのか、楓はジーっと観察していた。
「‥‥ムフフフ」
「‥ん? 何?」
「ここの郷土料理って美味しいの?」
「‥べ、別にこれが目的で来たわけじゃないんだからね‥」
 シフォンはそう言いながらも料理を食べていた。
「あたしも食べようっと。お腹すき過ぎだしね〜」
 楓はシフォンの隣に座って食べ始めた。少し経つと、鍋を持った桂木がやってきた。
「俺特製、鍋料理の完成。熱々の内に食べてくれな」
「お、ここで桂木の手料理が食べられるとは思わなかったな。せっかくだから頂くな」
 ザンはそう言うと食べ始める。そして感想を告げた。
「へぇ、うまいな。たいしたもんだ。食べ終わったら温泉にでも入るか」
「ああ、俺もそのつもりだ」
 桂木はそう返事すると、特製鍋の肉を食べた。
「うむ、新鮮な食感」
 だから、何の肉‥?!
「御山さんも遠慮しないで食べてくれな。手伝ってくれたお礼も兼ねてだ」
 桂木に誘われ、アキラも静かに肉の食感を味わっていた。
「あたしも食べるー!」
 出された料理は全て食う勢いで楓が言った。


●温泉と、そして‥
「んー、良い湯加減だ。もう一杯どうだい?」
 桂木は頭にタオルを乗せて、ザンと日本酒を飲みながら温泉に入っていた。
「サンキュー。これぞ日本の風流だな」
 ザンは桂木から酌を受け取り、酒を飲んだ。今回‥恋人を連れてこなくて正解だったかもしれないと考えていた。案の定、楓は女性を見るとオヤジ・スイッチが入っていた。シフォンの黒ワンピース水着スタイルを見て楓は興奮していたが、当の本人であるシフォンは気にせず湯に入った。
「‥人々を守れて良かった‥‥ここの湯は美肌効果もある?」
 湯口の立て札を見て、シフォンは呟いた。
「‥‥他にもお客さん、いるみたいですね」
 鳳はピンクのミニスカート付きワンピース水着姿だったがバスタオルで覆っていたため、楓には見えなかった。優理の背中を流しつつ、鳳は周囲の視線が気になっていた。とは言え、好きな人と一緒にいられるのは素直にうれしかった。
「つばきとこうして温泉に入る機会ができて良かった」
 優理がそう言うと、鳳の頬が赤くなった。
「翼君、こっち!」
 玲奈は翼のどこが気に入ったのか‥翼の取柄は元気で明るい性格だが、どうやら玲奈は彼氏作りも目的だったようだ。そうとは気付かずも、翼は玲奈のことが少し気になっていた。湯の上には「あひるのおもちゃ」がユラユラと揺れていた。楓が持ってきたものだ。翼は玲奈に腕を引かれ、温泉に入る羽目になった。
「悪い気はしないけど‥」
「けど?」
 翼の呟きが気になったのか、玲奈が声をかけた。
「どうしたの?」
「‥うまく言えないけど、最近、陸の様子が変なんスよ。聞いても『別に』しか言わないし」
「ふーん、翼君って友達思いなんだね。ちょっと焼けちゃうな」
「えっ?! なんで玲奈さんが?」
 玲奈は微笑むだけで、今は翼の話をじっくりと聞くことにした。
「ま、心配するのも無理ないよね。私が見ても陸君の様子が変だなって分かるしさ」
「なんか俺、避けられてるような気もするし‥‥あ、この間、きつく言ったの気にしてるんかな。だとしたら謝らないとな」
「そうかもしれないね。陸君、温泉に入らないで部屋にいるみたいだったよ」
「どうりで姿が見えないと思ったら‥じゃ、上がったら陸に謝ってみます」
 温泉を堪能した後、翼は部屋に戻り、陸に話しかけた。
「‥えーっと、あのよ、この間、お前にきついこと言っただろ? ごめんな」
「? ‥謝るのは僕の方だ。ちゃんと翼に言えば良いだけだったんだから」
 二人の会話が聞こえたのか、ザンが気になって入ってきた。
「国見も中川も、この間は立派に戦ってたと俺は思うぜ? キメラを前にしても怯んでなかったしな」
 すると、いつのまにか優理が居た。否、計ったように居たと言うべきか。
「私も同感だ。二人とも責任は果たせたし、今後の成長が楽しみだよ」
 優理とザンの言葉に、翼と陸は互いに顔を見合わせた後、うれしそうに笑っていた。