●リプレイ本文
●救援
ラストホープの本部と無線で連絡したのが幸いだった。
「この場合、空ではなく陸から重傷者の輸送をするのが良いだろうな。空から移動したら、それこそバグア軍に見つかる可能性も高くなる」
九条・縁(
ga8248)は怪我人輸送用に毛布やマット、担架も借りられるか申請してみたが緊急事態ということもありOKが出た。本部に申請すればなんでも了解とはいかないが、事と場合により許可が出ることもある。
縁が近辺の医療機関まで車両で運転することになり、国見・翼と中川・陸が重傷者の先輩を担架に乗せて、座席の後ろへと乗せた。陸 和磨(
ga0510)が気遣うように怪我人の能力者…翼の先輩たちに毛布を巻いた。運転中の衝撃を軽くするため、縁がマットを置く。
「しっかし、翼の先輩らも重傷とはね」
「気を引き締めないといけないかな? キメラが戻ってくる可能性もあるしね」
和磨がそう言うと、翼と陸は緊張したのか顔が強張った。その様子に、ジロー(
ga3426)が新米能力者2人に向けて‥。
「落ち着け。直に救援を求めたのは正解だが、能力者とて万能ではない。怪我人が出てびびっているようでは、この先、生き残れんぞ。‥‥長々と喋ってしまったか‥俺らしくもない‥」
そう言い残して、ジローはフィアナ・アナスタシア(
ga0047)と共に村外れにある避難所へと向った。場の雰囲気を和ませようと美環 響(
gb2863)が趣味の奇術を披露していたが、具体的にどんな奇術なのか‥それは神のみぞ知る。数時間後、翡焔・東雲(
gb2615)が携帯していた無線機に縁から連絡が入り、避難所で待機していた者たちに告げる。
「怪我人は無事に医療機関に到着らしい。縁たちが現地に戻ってくるにも時間がかかるだろう。それまで行方不明者も探さねばな」
「重傷者さん達の保護はなんとかできたようですね。後は‥」
いつもは明るいフィアナであったが、さすがに今回は真剣な顔立ちだった。
「‥‥後は‥キメラも‥食べる‥」
九頭龍・聖華(
gb4305)が物静かに呟く。怪我人の輸送は縁たちに任せて、聖華は前もって翼から聞いていた山小屋のような避難所に居た。新人の陸と翼もこの場で待機していた。
「何か言ったか?」
東雲の問いに聖華は無表情に答えた。
「‥‥仕事を‥しないと‥」
と、聖華の表情が豹変する。
「もしかしたら行方不明になった者も怪我をしている恐れもある。血の匂いでキメラが寄ってくるやもしれんからの。妾は護衛をするつもりじゃ」
「敵戦力は不明。とは言え、能力者を重傷にさせていることから敵はかなりの能力を持っていると思うね。怪我をした者達は不意打ち喰らったとも推測できるから」
トクム・カーン(
gb4270)の言うことは尤もだ。
「翼にも聞いてみたのだが、どうも怪我をした能力者は何らかのショックで気絶していたらしいの」
聖華は敵の能力を少しでも知ろうと翼から聞き出していたらしい。
「何らかのショック? 電撃攻撃の可能性もあるね」
トクムが中性的な顔立ちで告げると、翼が答えた。
「はい。それは俺も考えてました」
「失礼かとは思いましたが、ここに到着した時に前田さんと高島さんの傷口を確認させてもらいました。噛まれて血を吸われた痕と電撃を受けて火傷を負った感じに見えました。敵は電撃攻撃する可能性が高いと思われますから、皆さん、気をつけて下さい」
響は優雅な雰囲気であったが、それは育ちのせいであろう。
「ここに残った者たちは二手に別れて探索することにするか」
東雲が避難所の戸を開け、探索が開始された。探索班Aがフィアナ、ジロー、東雲。探索班Bはトクム、美環、中川・陸となった。翼は聖華に引き止められて和磨と縁の帰りを待っていた。それもあるが、万が一のことも考えて、聖華は探索班と救護班のパイプラインになるべく、しばらく避難所にいることにした。
「良いか新人、お主の腕の中にもうひとつ命がある事を忘れずに行動しろよ? そのためにも、こういう役目も必要なのじゃ」
聖華の言葉に、翼は元気良く頷いた。
●ヤツの正体
避難所から出ると、枯れ木の森が見えた。響がキメラ奇襲に備えて「探査の眼」を使用し、森の中を歩くことになった。探索はさすがに時間がかかったが、3日目には行方不明の能力者2人が見つかった。不幸中の幸いか、2人は互いを庇うように森の奥で倒れていたが、気絶しているだけで怪我は軽かった。
「応急処置をしてから一旦避難所に戻りましょう」
フィアナは発見したらすぐに保護するつもりでいた。他の者達も異存はなかったため、避難所に戻ることにした。
「2人は見つかりましたが、残りはキメラですね。この3日間、気配が無いのがかえって不気味です」
響は避難所に到着すると、そう告げた。
「確かに‥俺も気配を感じなかったけど、探査の眼を使える美環さんでもキメラの居場所が掴めないのは変だよね」
和磨の疑問は誰もが思っていた。
「俺たちが来たから、かえって警戒しているのかもな」
縁がそう言うと、響が異変に気付いた。
「?! キメラが避難所の近くに接近中です」
避難所の中にはまだ生存確認ができたばかりで軽傷の能力者2人がいた。行方不明者を発見できたのは良かったが、2人は怪我よりも空腹で動けなかった。これでは闘えない。ならばと翼と陸が戦闘に参加することになった。
「ココは、妾が受け持つ!」
聖華は動けない能力者たちの護衛をするため蛍火を片手に持ち、避難所に残ることにした。
「聖華さん、助かります」
フィアナはそう言いながら外へと駆け出した。ジロー達も後へと続く。
「フィアナ、援護を頼む!」
ジローはとっさに番天印を構えた。眼前には2メートル程度の巨大な蛇‥キメラが見えた。
「数は‥6匹か?!」
銃を撃ち、ジローは間合いを取った。
「早いっ?!」
響は自身障壁でキメラの攻撃を受け止めた。和磨が氷雨とナイフでの接近戦に持ち込み、急所突きで敵の目を狙うが、跳ね返された。
「しまった?!」
和磨は吹き飛ばされた刹那、死角にいた別のキメラに肩を噛まれ、血が飛び散る。
「和磨先輩?!」
翼と陸が駆け寄り、他の者達は戦闘に専念していた。
「中川さんは私の援護を。まずは見てなさい、戦いがどういうものかを‥そしてここだというときに渾身の一撃を加えるんです」
フィアナは武器を手に中川を後方へと行かせ、ジローの援護に入った。
「我はトクム・カーン! 弱き者の楯とならんとするものなり!」
堂々と宣言すると、トクムはイアリスとクロックギアソードによるスマッシュを叩き込む。だが、キメラは感情もなく、蛇の身体でトクムを締め付け、電撃を放つ。
「くっ! グラップラーようなスキルがあれば‥」
トクムは自分の弱点を嘆きながらショック攻撃で気絶してしまった。縁はキメラの攻撃で怪我する度に活性化していたおかげか、なんとか持ちこたえていた。
「‥‥これじゃ、重傷者が出るのも無理ないか」
フィアナはジローと連携を組み、キメラと対峙していたが、ジローはフィアナを庇って負傷してしまった。フィアナは無口になり、スナイパーライフルで影撃ちを放った。ジローがある程度のダメージをキメラに与えていたこともあり、フィアナの攻撃は命中し、キメラは息絶えた。一方、他のキメラとの対戦‥東雲は二刀小太刀で流し斬りを駆使し、攻撃に集中していた。
「弱点は‥どこだ?」
ギリギリで敵の攻撃を回避し、さらに流し斬りを放った。縁は最後の力を振り絞り、両断剣でキメラを真っ二つにした。
「‥‥こうした方が効率が良かったか?」
そう言いつつ、息を荒げる縁。
「なるほどな」
体勢を取り直したジローは敵の懐に入り、刀で斬りつけた。電流の衝撃が走ったが、そんなこともお構い無しにジローは攻撃を続ける。翼と陸に助け起こされた和磨も無理に接近はせず、敵の攻撃を受け流し、その隙に東雲と縁がキメラに攻撃をしかけた。
「止めです!」
響はさらに自身障壁で防御し、至近距離から攻撃。バックラーがなければどうなっていたことか‥敵はやっと5匹目を倒すことができた。
「残りは?!」
皆は周囲を見渡すが、残り一匹だけ見つからない。最終日にも他にキメラがいないか探してみたが、森の中にも村近辺にも姿は見当たらなかった。
「‥‥逃げてしまったのでしょうか?」
響は憂いに満ちた表情だった。フィアナはジローに応急処置を施していたが、直に治癒できるものではなかった。
「逆に助けられてしまったね」
翼と陸がトクムを避難所まで連れていったらしい。
「時間切れだとよ。本部から帰還命令がきた」
縁は沈まりかえった森を見つめながら、そう告げた。
「怪我人と‥行方不明の人‥‥見つかったから‥命は大事‥だから」
普段の聖華に戻り、助かった者たちへメッセージを送った。
「その通りだね。俺でも誰かを助けることができた。見ているだけの自分ほど歯痒くて辛いものはないからね。それに‥俺には待ってくれている人もいるから」
和磨は空を見上げて呟くように言った。その表情は、まるで過去に想いを寄せるようにも見えた。