タイトル:【AAid】サイライマスター:大林さゆる

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/12 14:53

●オープニング本文


 九州、福岡県。
 博多湾の中心に浮かぶ能古島も、少しずつ復興が進んでいた。
 中心部から近い島ということもあり、船で片道10分ほどで着く。
 都市からの支援もあり、能古島に住んでいた人々も、戻ってくるようになっていた。
「サイとライオンだって?」
 島に滞在していた警備員は、住民から話を聞き、驚いた。調べていくうちにキメラだと判明したのだ。
 すぐにUPC軍へと連絡が入り、スカイフォックス隊が援護に向かうことになった。
「子供が2人、取り残されたらしいな」
 ズウィーク・デラード(gz0011)が到着した頃には、ほとんどの住民は都市へと避難していたが、子供2人が海岸付近の会場に取り残されてしまった。
「どうか‥どうか、子供たちを助けて下さい!」
 母親が必死に懇願している姿を見て、警備員は宥めるように言った。
「奥さん、落ち着いて下さい。息子さん達は必ず救出します。UPC軍も援護に来てくれましたから」
 能古島を取り囲むようにスカイフォックス隊の機体が配置されていた。
 島の自然や住宅街を守ることを前提に考えると、生身で上陸するしかない。
 となれば、能力者たちの出番だ。
「能古島って言えば、コーヒーが美味い店もあったな」
 デラードは住民たちの想いに応えたいと願っていた。
「アーサー、島の状態はどうだ?」
「サイの姿をしたキメラが7匹、獅子に似たキメラが8匹いることが確認できた。だが、油断は禁物だ。子供たちは確か二階建の会場にいるとの情報だが、その場から動かないようにとの指示は出ていない。それが気がかりだ」
 アーサーの報告に、デラードが応じる。
「キメラを見たら、恐ろしくなって、会場から逃げ出している可能性もあるな。できれば、子供たちの救出を優先したいが‥‥さて、どうしたものか」
 能古島に取り残された子供たちの運命は‥?
 刻一刻と危険は迫っていた。

●参加者一覧

エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
レーゲン・シュナイダー(ga4458
25歳・♀・ST
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA

●リプレイ本文

●光の先へ
 他人とは壁を作っていた。
 そんな自分に優しい光を照らしてくれたのは、レーゲン・シュナイダー(ga4458)。
 彼女が幸せになることを、朧 幸乃(ga3078)は心から願っていた。
 今、こうして再び歩き出すのは、友のため。
 未来はどうなるのかわからないけれど、それでも刻は流れていく。
 一つ一つの思い出と共に。
 それはきっと、アーサーという男性も同じであろう。
 幸乃は任務の合間、声をかけた。
「アーサーさん」
「どうした?」
「‥アーサーさんにとってデラードさんは大切な存在‥‥私にはそう見えたのだけど」
 いつもは冷静なアーサーも、幸乃の言葉には目を見張った。
「あまり考えたことはなかったな。一緒にいるのが当たり前になっていた」
「‥‥身近過ぎる存在なんでしょう」
 幸乃にそう言われて、アーサーは少し考え込んでいた。
「そうかもしれないな」
 友という者は、どこにいても変わらないものなのだろうか。
「レグさんとデラードさんのこと、宜しくお願いします。アーサーさんは、これからも『居る』と思うから」
「‥‥?!‥」
 アーサーは何故か言葉が浮かばなかった。
 だが、この感情は何だ?
 言葉にすらならない、生まれる前の未完成な、ほのかな温かさ。
 幸乃からは、そうした形になる前の想いが、風の音色のごとく、響いてくるように感じられた。
 それはアーサーにとって、初めての感覚であった。

●遭遇
 傭兵たちは能古島に上陸すると、まずは会場の建物へ向かった。
「どうやら、ここにはいないみたいね」
 神楽 菖蒲(gb8448)は子供たちがいないことが分かると、キョーコ・クルック(ga4770)と一緒に学校へ向かうことにした。
「キョーコ、行くわよ」
 菖蒲は愛用のバイクにキョーコを同乗させ、出発した。
「ラジャー。子供を救うヒーローになりに行こうじゃないかっ」
 キョーコのヒーローマントが靡いていた。
 百地・悠季(ga8270)はレーゲンとズウィーク・デラード(gz0011)と同行し、ジーザリオを北へと走らせる。
 レーゲンが子供たちの母親から聞き出した情報を頼りに、地図を見ながら赤丸で記した場所を目指す。そこは子供たちの遊び場になっいる箇所だ。
「英一くん、翔太くん、どこにいますかー?」
 透き通る声で、レーゲンが小さな広場で何度か呼びかける。すると、笛の音が聞こえてきた。
「あの音、母親が持たせた笛かも」
 悠季は地面に手を置きバイブレーションセンサーを発動。
「ここから北西91M辺りに子供1人の反応があるわ」
 すぐさま現場へと急行すると、身体を震わせながら座り込んでいる少年がいた。母親から借りた写真を見て、兄の英一だと分かった。
「英一くん、大丈夫ですか? 怪我はしていませんか?」
 レーゲンは優しく少年を抱き締めながら、子供に怪我はないことを確認した。どうやら恐怖のあまり、動けなくなったらしい。先ほどの笛も、少年にとっては命掛けのSOSだったのだ。
 悠季もそのことを察していた。
「よくがんばったわね。偉いわ」
 悠季は微笑みながら英一の頭を撫でた。すると、少年は気が緩んだのか涙を滲ませていた。レーゲンは無線機で幸乃に子供を1人保護したことを知らせた。
 しばらくすると、四輪車に乗ったアーサーがやってきた。子供を安全な場所まで運ぶには車が適しているということもあり、幸乃は島の警備員たちと共に会場に残っていた。そこを拠点として、任務をした方が良いと判断したからだ。先見の目を使い、幸乃は会場周辺や警備員たちの動向を注意深く見守っていた。

 同じ頃、小さな広場にて。
「英一くん、お母さんが待ってますよ。アーサーさん、会場までお願いします」
 レーゲンの言葉にアーサーは頷くと、少年を後ろの席に乗せて、車で会場へと戻っていった。
「翔太くんは別の場所にいるかもしれませんね」
「そうね。他にも赤丸で印した場所はあるけど、ここから近い場所へ行ってみるわ」
 悠季が自前のジーザリオを運転。レーゲンとデラードは任務に対しては真摯であった。悠季は菖蒲に頼まれて子供たちの家にも行ってみたが、誰も発見することができなかった。

 学校を探索していた菖蒲とキョーコは、獅子キメラ3匹と遭遇した。
「バイクのクラクションに反応して、来たようね。こうなったら小手調べにやるわよ」
 グラウンドで銃を使うのは危険と悟った菖蒲はバイクから降りると刀を構え、突進してくるキメラに流し斬りを放った。さらに上段から叩き落とす。
「お座り」
 技が決まり、キメラを一匹仕留めることができた。他のキメラは本能的に危機を感じたのか、学校から逃げ出した。
「音に反応するとしたら、キメラを誘き出すのに使えるかも」
 キョーコがバイクを立て直すと、菖蒲はハンドルを握りしめた。
「悠季から情報伝達がきたわ。子供1人保護か。もう1人見つければキメラ退治に集中できるわね」
「そうだね。まずは子供たちを助けるのが先決だっ」
 拳を握りしめ、キョーコはガッツポーズ。
「グラウンドで仕留めたキメラは処理班に任せるってことで」
 菖蒲はキョーコがバイクに乗ったことを確認すると、北部へと走り出した。


●救出
 公民館に到着したレーゲンたちは、放送室に入ると、マイクを使い、呼びかけた。
「翔太くん、聞こえますか? 助けに来ました。公民館に向って下さい」
 昼から夕方まで、レーゲンと悠季が交代で放送していた。
「あ、翔太くん?!」
 窓から公民館へと歩く子供の姿があった。すぐさま駆けつけ、デラードが子供を抱きかかえた。
「よしよし、良い子だ」
 まだ幼さが残る顔立ちの少年に、デラードは優しく微笑んだ。公民館に戻ると、レーゲンと悠季が待っていた。
「夜になる前に見つかって良かったわ」
 悠季は母のような眼差しで、少年に声をかけた。
「‥‥おなか‥いたい」
 少年がお腹を抱えて、痛がっていた。デラードが医務室に運ぶと、レーゲンが診察。
「怪我はしていないみたいで良かったですよ。ちょっとお腹の調子が良くないだけですから、大丈夫‥痛いの痛いの飛んでけー、です☆」
 レーゲンは救急セットに入っていた胃腸薬を飲ませることにした。しばらくすると、外から獣の咆哮が聞こえてきた。子供が驚き、レーゲンにしがみついた。
「安心して下さい。必ずお母さんの所まで連れていきますからね」
「アーサーがここに来るまで時間がかかると思うから、一旦、会場に戻った方が良いかも」
 悠季がそう言うと、デラードはそっと少年を抱え、レーゲンも車に乗り込んだ。ジーザリオを走らせ、一行は海岸付近の会場へと辿り着いた。
 日が沈む頃、子供2人を救出することができた。
 輸送機が来るまで、会場にある建物の台所で、悠季は飲み物と食べ物を温めていた。出来上がると、控室にいる子供2人に言った。
「あたたかいものでも食べて、待っててね」
 固形食ばかりだったせいか、少年たちは悠季の気遣いがうれしく、ゆっくりと食べ始めた。だが、弟の方はあまり食が進まない様にも見えた。胃腸の調子は戻ったが、やはり完全に緊張がなくなった訳ではないのだろう。
 それに気が付いた幸乃はパーカーのフードを被り、子供たちの前でしゃがんだ。
「いたいのいたいの、とんでけ‥‥ほら、ね」
 フードに付いている兎の耳が、ふわふわと揺れる。それに気を取られた子供たちの手に、そっとキャンディーを渡した。
「甘い、甘いお菓子は、いかが?」
「‥‥ありがとう」
 翔太は恥ずかしそうに、英一は礼儀正しくお辞儀をした。
 怪我はなくとも、心の傷は簡単には消えない。幸乃は子供たちの心が自分のことのように感じられた。
「そうだ‥レーゲンお姉ちゃんも、似たようなこと言ってた」
 翔太の呟きに、レーゲンは幸乃から貰った飴で喉を潤し近寄ってきた。
「はう。呼びましたか?」
「レグさん」
 幸乃の隣に、レーゲンもしゃがみ込んだ。
「もう少しでお迎えが来ますからね」
 笑顔で告げるレーゲンに、幸乃は出会った頃を思い出していた。

 空に光。
 菖蒲が放った照明銃だ。
 どうやらキョーコと一緒に会場付近の海岸沿いにいるらしい。
 照明の合図で、輸送機が到着した。
「日が完全に沈む前に、子供たちを」
 ウィローが子供たちを出迎え、輸送機に乗せた。
「母親が心配してるからな。すぐに出発するぜ」
 そう言い残して、輸送機は去っていった。
「これで母親も安心だ」
 キョーコは新婚ということあって子供のことは心配していたが、無事に保護できて安堵した。
「さて、本格的にキメラ退治するのは明日からね」
 菖蒲は拠点となっている会場へとバイクを走らせた。休憩は会場ですることになり、菖蒲とキョーコは皆に昼間のことを話した。
「音に反応して、向こうから近寄ってきたのよね」
「あたしとレーゲンが公民館の放送室で呼びかけていたら、動物の鳴き声が聞こえてきたのよ。その時は保護した子供もいたし、キメラかと思って、すぐに引き返したわ」
 悠季は気になっていたことを報告した。
「その可能性は高いよ。やってみる価値はあるかな」
 キョーコも、昼間の様子からそう感じていた。

●出現
 翌日。朝食を済ませ、準備をしていると島の警備員が待機室に駆け込んできた。
「外にサイとライオンらしきものが!」
 傭兵たちは直に外へと飛び出すと、拠点の会場に近寄ってくるキメラが数匹いることが分かった。
「警備員さんは建物の中で待機して下さい」
 幸乃の指示で、島に残っていた警備員たちが会場の中にある建物へと入っていった。
「キメラは人の気配で近寄ってきたのかな?」
 キョーコはそう言いつつ技の態勢に入り、菖蒲は拳銃「ラグエル」で牽制射撃。
「そっちから来るなんて上等じゃない。手加減しないわよ」
 サイ・キメラが突進してくると、菖蒲は走り出し、天地撃を放った。
「はいキョーコ、あげる」
 空中へと舞ったキメラが落下してくると、キョーコは反射的に機械脚甲「スコル」でハイ・キック。
「ふうっ、攻撃苦手なんだからいきなりふらないでよ」
 攻撃の前に豪力発現をしていたこともあり、キョーコの蹴りは見事に命中。
 レーゲンは覚醒すると、激越した。
「デラード、油断するンじゃないよ!」
「はいはい、了解」
 デラードは普段と変わらずの調子だ。レーゲンが盾でキメラの体当たりを受け流すと、悠季が接近戦に持ち込み、装備している武器で確実に斬りつけていく。
 キメラは約30分で殲滅することができた。この戦力ならば、キメラが群れで攻めてきても、かえって返り討ちに合う始末であった。
「まだ島にキメラが残っているかもね」
 菖蒲はそう言いつつ、刀を収めた。

 翌日の昼過ぎ。
 二手に分かれて、残りのキメラを退治することになった。
 キョーコと菖蒲は西側から北へ。
 悠季、幸乃、レーゲン、デラードの4人は東側から北へと向かう。
 アーサーは警備員たちと共に会場に残り、万が一に備えて警護していた。

 菖蒲は道順を把握しながらバイクを走らせ、時折、クラクションを鳴らしていた。
「なかなか現れないわね」
「神楽の強さに驚いてるのかな」
 後ろに座っているキョーコがそう言うと、菖蒲は海が見える場所にバイクを停めた。
「あのね、キョーコもなんだかんだ言ってやるときゃやるじゃないの」
「そんなことないよっ」
 2人でそんな会話をしていると、獅子キメラが3匹、牙を剥き出しにして警戒するように近づいてきた。
「神楽、来たよ」
 キョーコは仁王咆哮でキメラは引き寄せる。3匹が突進してくると、菖蒲は「ラグエル」で射撃。その隙にキョーコは豪力発現を使い、ツインブレイドでキメラの足を切り刻む。
 そして、菖蒲が流し斬りを放つ。獅子キメラ3匹はあっというまに倒されてしまった。
 この2人、やはり強いのかもしれない。いろんな意味で。

 一方。
 悠季たちは公民館へと向かい、幸乃が放送室からサイレン音を鳴らした。
 それからレーゲン、悠季、デラードは道路沿いを目指し、音が聞こえる範囲内で迎え撃つことにした。
 72分後、定期的に流れるサイレン音に導かれて獅子キメラが2匹、姿を現した。
 その途端、レーゲンは覚醒し、悠季は疾風で回避しつつ「ラサータ」で斬りこんだ。レーゲンは悠季に練成強化を施し、アルメリアの盾を持ち、身構えた。デラードは悠季とレーゲンの援護で敵を攪乱していた。
 2匹のキメラが倒れ、しばらく捜査した後、レーゲンたちは公民館へと戻った。状況を聞き、幸乃は情報伝達でキョーコに知らせた。
「キョーコさんに連絡しました。これで全て‥退治できたかな」
「幸乃さん、ご協力ありがとうございます」
 レーゲンがいつも通りの穏やかさを取り戻し、ほほ笑む。

●後日
 キメラの回収作業や事後処理が終わり、島の住民たちは一週間後には戻ってこれるようになった。
 滞在期間中はほとんどの店が閉店していたが、警備員がお礼も兼ねて、傭兵たちにコーヒーをご馳走してくれることになった。
「臨時開店ですから、本日は貸切です」
 コーヒー店のオーナーが、丁寧に招き入れてくれた。
「コーヒーが飲みたかったから、うれしいな〜」
 キョーコは窓際にある席に座り、菖蒲、悠季、幸乃と集まりガールズ・トークをしていた。
 幸乃は聞き役で、キョーコと菖蒲が話を盛り上げていた。
「一仕事終えた後のコーヒーは美味しいわね」
 菖蒲がそう言うと、悠季、幸乃が頷いていた。キョーコは味わい深いコーヒーを飲んで、満足そうだった。
 レーゲンはデラードとカウンター付近の席で、向かい合って座っていた。
「ルナちゃん、元気そうで良かったです」
「春頃にはご両親も退院できるから、それまで俺が保護することになってな」
 こうした何気ない会話が、安らぎの時でもあった。
 コーヒーの香りが漂う中、ふとデラードが言った。
「レグ、伝えたいことがあるんだが、良いか?」
「‥‥なんでしょう?」
 レーゲンはデラードが真顔で自分のことを呼ぶため、気が付けば鼓動が早くなっていた。
「‥‥‥レグ。‥‥俺と‥‥結婚してくれ」
 デラードはそう言いながら、指輪の入った小箱をレーゲンに手渡した。
「‥‥ズウィークさん‥‥私‥‥」
 夢にまで見た現実。
 デラードはようやく愛する女性にプロポーズすることができた。