タイトル:スカイフォックス慰労会マスター:大林さゆる

シナリオ形態: イベント
難易度: やや易
参加人数: 2 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/11/17 19:10

●オープニング本文


 部屋の窓から夕陽が差し込む。
 ズウィーク・デラード(gz0011)は椅子に座り、両腕を組んで考え込んでいた。
 ふと壁に飾られている世界地図を眺めた。
 しばらくすると、銀縁眼鏡をかけた男性アーサーと、小柄で赤毛の青年ウィローが部屋に入ってきた。
「どうした? 決まったのか?」
 デラードが問いかけると、アーサーは一枚の用紙を手渡した。
「場所は日本の九州、熊本市にある老舗旅館だ」
 アーサーがそう言うと、デラードは渡された用紙の気になる部分を読み上げた。
「スカイフォックス慰労会【鉄の掟】
1.未成年は酒を飲んではいけません。
2.未成年に無理に酒を薦めてはいけません。
3.廊下は静かに歩きましょう。
‥‥【鉄の掟】と言う割には、ほんのりしてるな」
 デラードが楽しげに笑うと、アーサーは真剣な眼差しで言った。
「これは大事なことだ。これだけは提案させてもらう」
「ああ、これってアーサーの案か。良いけど」
「異論はないな?」
「ないない。しっかし、この時期に有休が取れるとはね。老舗旅館と言えば、酒に温泉、それに芸者ー。日本の芸者は綺麗所が多いらしいよな」
 デラードの言葉に、ウィローが突っ込む。
「彼女が聞いたら、どう思うか考えろよな」
「俺はいつでも彼女のことを想ってる。俺の心は彼女のもんだ」
 さらりと言ってのけるデラードに、ウィローはやれやれといった顔付きだった。
「よくもまあ、いけしゃあしゃあと言いやがって」
「俺の特技だから仕方ない」
 デラードはそう言いながら、ウィローの頭をクシャクシャと撫でた。
「何が特技だ。俺のこと、子供扱いすんなっ!」
「弟扱いしてんだけどね」
 デラードは満悦の笑みを浮かべた。
「弟‥扱い‥だと‥」
 ウィローは言い淀んだが、まんざらでもないようだった。
 メンバーの楽しい一時でもあった。

 果たして、今回の慰労会はどうなることやら。

●参加者一覧

/ レーゲン・シュナイダー(ga4458) / 狗谷晃一(gc8953

●リプレイ本文

●集い
 九州、熊本市。
 休暇を利用してやってきたスカイフォックス隊一同と仲間たちは駅前でバスを待っていた。
「中心地は少しずつ復興しているようだな」
 狗谷晃一(gc8953)は人通りの様子を見て、一安心した。
 バグア本星との戦いは終わったが、地上にはまだ残党やキメラが徘徊している地域もある。
 狗谷はそのことが気掛かりではあったが、せっかくの休暇で参加したからにはゆっくり羽を伸ばそうと考えていた。
「ところでアーサー、例の件だが、大丈夫だったか?」
 狗谷が眼鏡をかけた男性アーサーに小声で言った。
「ああ、なんとかギリギリ間に合った」
「そうか。手間かけてすまねぇな」
「いや、狗谷のおかげで、今回はうまくいきそうだ」
 アーサーが答えると、狗谷は頷いた。
「後は成り行きにまかせるか」
「そうだな」
 アーサーが珍しく微笑んでいた。
 それに気付いたレーゲン・シュナイダー(ga4458)は、首を傾げていた。
「あの、何かあったんですか?」
「あ、その、なんだ、まあ、気にするな」
 アーサーが少し慌てているように見えた。
「具合でも悪いんですか?」
 レーゲンが心配そうに言うと、狗谷がそっと告げた。
「そんなんじゃないから、安心しな。せっかくの休みだ。のんびりいこうぜ」
「‥そうですか。具合が悪くなったら、無理せず言って下さい」
 レーゲンの優しさがアーサーにはとてもうれしかったが、本当のことはまだ言えなかった。
「そうなったら、狗谷が手当てしてくれることになっているから安心してくれ」
 アーサーは話を逸らそうと必死だ。
「あ、だから狗谷さん、白衣を着ているんですね。何故だろうと不思議に思ってました」
 レーゲンが納得すると、ズウィーク・デラード(gz0011)が彼女の肩を抱き寄せた。
「男2人で、何を企んでいるんだ?」
 そう言いながら、デラードはアーサーと狗谷の顔を交互に見据えていた。
「噂では聞いていたが、本当にアツアツじゃねぇか」
 狗谷のその言葉に気をよくしたのか、デラードはうれしそうに笑っていた。
「そんなに噂になってたか。それで事実を見てしまったと言う訳だな」
「そんなところだ」
 狗谷は落ち着いた調子で言ったが、レーゲンは頬を赤らめていた。
「デラードさん、人前でこういうこと‥」
「まあ、久し振りだし、こういう機会は滅多にないからな」
「‥‥はぅ」
 レーゲンは人目を気にして少し躊躇ったが、内心はうれしくて仕方なかった。
 ゆるキャラのイベントがあるのか、家族連れや子供たちがたくさん集まっていた。その様子を見て、レーゲンは微笑ましくなった。自然と笑顔になる。
 デラードは随分とご機嫌だった。レーゲンは照れ笑いを浮かべた。狗谷は一同の一番後ろで、皆の様子を窺っていた。
「ご当地のゆるキャラ、可愛いですね。中に入っている人が気になります」
 サクランボウの異名を持つジンウ。ゆるキャラの着ぐるみショーを見て瞳が輝いていた。
「おいおい、ジンウの目が乙女みたいになってんぞ。マジか?!」
 ウィローは一歩引く勢い。巨漢のサジは、ジンウの背中を叩いた。
「相変わらず、青臭いこと言いやがって。これも若さ故か」
「?! ‥サジさん、びっくりするじゃないですか。貴方に本気で叩かれたら、本当にヤバイですから勘弁して下さいよ」
「ジンウは本気で言ってるから、ある意味、尊敬する」
 智久はジンウの隣にいたが、とっさにサジの手から回避していた。
「智久さん、俺はまだまだ未熟者ですよ。俺も早く一人前になりたいです」
 そんなやり取りをしていると、バスが駅前に着き、一同はバスに乗り込んだ。

●気遣い
 老舗旅館に着いたのは昼過ぎ。
 夕食まで時間があったため、男性達は温泉に入ることにした。
 アーサーはレーゲンを呼び止めると、泊まる部屋の鍵を手渡した。
「俺達は温泉に入る。部屋でゆっくり休んでくれ。夕食は18時、場所は一階の大広間だ」
「ありがとうございます」
 レーゲンは鍵を受け取ると、指定された三階の部屋に入り、荷物を置いた。
 和洋折衷の部屋で、気品のある部屋であった。
 窓から見える風景を見て、レーゲンは自然の美しさに見惚れていた。
「綺麗‥‥ズウィークさんにも見せたいです」
 彼の名が、自然と出てくる。デラードは軍人ということもあり「デラード軍曹」と呼ばれることが多いが、レーゲンは時と場合により「ズウィークさん」と呼ぶことがあった。
 部屋の窓際にある椅子に座って休んでいると、いつのまにか夕方になっていた。
 誰かが、部屋に入ってきた。
「ふぅ、久々にゆっくり温泉に入ったな」
 浴衣姿のデラードだ。
「あれ? ここ、男部屋じゃないのか? この部屋だと指定されてたんだが‥どうなってんだ?」
 部屋に入ると、レーゲンがいたせいか、デラードは部屋を間違えてしまったと思っていた。しばらく思案していたが、デラードは狗谷の配慮とアーサーの機転だと察して、ふと微笑んでいた。
「なるほど、そういうことか。サプライズという訳だな」
「サプライズ‥?」
 レーゲンはきょとんとした顔で、デラードを見つめた。
「まあ、要するに、俺達2人きりの時間を楽しんでくれってことだ」
 レーゲンはアーサーに自分の心を見抜かれていたことを知り、顔を真っ赤にした。
「もしかして、アーサーさんと狗谷さんが今朝、2人で話し合っていたことは‥このことだったんですね」
「今回はお言葉に甘えて、2人きりの時間を満喫するか。アーサーと狗谷の気遣いを無駄にしたくないしな」
 デラードがレーゲンの隣の椅子に座ると、彼女がそっと手に触れてきた。
「‥‥ズウィークさん」
 彼の温もりを感じて、レーゲンが呟いた。デラードもまた、彼女の手を握り返した。

●宴
 夕食になり、サジが乾杯の音頭を取ると、賑やかになった。大きな卓の上には、山の幸、海の幸の料理がずらりと並んでいた。どれも職人の技が光る手料理ばかりだった。
 レーゲンはメンバーの一人一人に酒を振舞っていた。
 久し振りのメンバーも多かったが、ジンウと直接会うのは今回が初めてであった。
「レーゲンさん、出発前にも、丁寧なご挨拶ありがとうございます」
 ジンウがお辞儀をすると、レーゲンは酌をした後、ペコリと頭を下げた。
「こちらこそ。どうぞお気軽にレグとお呼びくださいです☆」
「えっと‥‥レグ‥さん‥」
 ジンウがそう言った瞬間、鋭い視線を感じた。デラードだ。
「その‥デラード隊長は、ああ見えても‥」
「ジンウ、余計なことは言うな」
「す、す、すみません」
 デラードの冷たい視線に恐怖を感じて、ジンウは少し震えていた。
「どうかしましたか?」
 レーゲンに言われて、ジンウはなんとか話そうとは思うが、デラードの視線が気になり、しどろもどろだった。
「だ、だ、大丈夫です。ひ、久し振りの休暇なんで、うれしくて‥」
「そうですか。激戦が続いていましたからね。お酒でも飲んでリラックスして下さい」
 そんな中、ジュースを飲んでいたのは狗谷だった。万が一、急患が出た時、直に対応できるようにとの考えからである。救急セットも常に持ち歩いていた。
 温泉に入っていた時、ウィローが石鹸で滑って転んだのだが、狗谷が迅速に手当てしたおかげで、ウィローも宴会に参加することができた。
「狗谷、さっきは手当て、サンキューな」
 ウィローが礼を述べると、狗谷が応えた。
「久し振りの休暇ではしゃぎたい気持ちは分かるが、気をつけろよ」
「狗谷の言う通りだ」
 デラードがビールを飲みながら言った。
「うっせー。まあ、だけど、肝に銘じておく」
 ウィローが自分の立場を弁えていることは、デラードにも理解できた。
「良いお返事で」
 デラードがおどけてみせる。ふとウィローはレーゲンがぼんやりしていることに気付き、声をかけた。
「‥‥もしかして、酔ってんのか?」
「酔ってないですよー」
 レーゲンはご当地の酒をゆっくり飲んでいたが、あまりにも美味しくて「ちょっとだけ」を何度も繰り返しているうち、酔い始めていた。目を細めながら、レーゲンはウィローに抱きつこうとした。
「ま、待てっ! 一歩間違えば、誰かさんに何されるか分かったもんじゃねぇ!!」
 ウィローはとっさにジンウと入れ替わった。
「は、初めてなんで、優しくして下さい?!」
 ジンウは自分でも意味不明なことを叫びつつ、アーサーの後ろに隠れた。
「ほらほら、こっちだ」
 アーサーは動じることもなく、レーゲンをデラードに差し出した。すると、レーゲンは酔った勢いなのか、デラードに抱きついた。
「おいおい、みんなが見てるぞ。良いのか?」
「良いも何もないですよー」
 レーゲンは酔うと抱きつく癖があるらしい。さらに酔いが回ると、キスの嵐が炸裂するのだが、その状態になる前に、レーゲンは気持ちよさそうに眠ってしまった。
「レグに酒を飲ませる時は、2人きりの方が良いようだな」
 デラードはレーゲンの寝顔を見て、また彼女の新たな一面を垣間見た気がしたのだった。
「あらら、寝ちまったか。ところでよ、チョコレート・パフェを注文したのは誰だ? さっき仲居さんが持ってきたんだけど」
 ウィローの言葉に反応したのは、狗谷だった。
「俺だ」
「甘いのがお好きなんですか?」
 ジンウの問いに、狗谷が頷くと、デラードが興味深そうに近寄ってきた。
「そいつは奇遇だな」
 デラードはご当地で有名な甘いプリンを食べていた。
「ところで、レーゲンの姿が見当たらないが、どうかしたのか?」
 狗谷はチョコレート・パフェを一口食べた後、そう言った。
「ああ、酔って寝たからな。部屋まで運んできた。ここの旅館には女性限定のサービスがあるらしいんだが、明日にしようと思ってな」
「サービス?」
「まあ、見てからのお楽しみだ」
 デラードはビール片手に笑っていた。

●想い
 ふとレーゲンが目覚めと、静かだった。ゆっくりと起き出し、眼鏡をかけて時計を見ると、朝の4時だった。
「‥‥昨日は‥」
 レーゲンは酔った時のことをぼんやりと覚えていたのか、思わず赤面してしまった。
 周囲を見渡すと、デラードたちの姿はなく、指定の部屋で寝ていたことに気付いた。皆の様子が気になり、一階の大広間に行くと、酔い潰れて寝ているメンバーたちと酔い覚ましに水を飲んでいるデラードがいた。
「よぅ、おはよう。気分はどうだ?」
「‥おはようございます。昨夜は私、途中で寝てしまったみたいで、すみませんでした」
「謝ることはないぜ。眠気覚ましに温泉にでも入ってきたらどうだ。ここの旅館は24時間、入れるようだからな」
 デラードの薦めで、レーゲンは朝風呂に入ることにした。
 温泉につかり、ふと想いを馳せた。
 デラードと2人きりになりたいと願っていたが、それを気遣ってくれたのは狗谷とアーサーだった。
 まるで自分のことのように心配してくれる人達だ。
 2人の優しさと気遣いに、レーゲンは感謝せずにはいられなかった。

 一方、狗谷は旅館に泊まっていた客の一人(一般人)が具合が悪くなったと聞き、すぐさま病院へ連れて行くように迅速に対処していた。帰ってきたのは、朝食の時間が過ぎてからだった。
「狗谷、お疲れ」
 デラードが玄関で出迎えると、狗谷は安堵のため息をついた。
「患者は無事だった。とは言え、後5分遅れていたらどうなっていたことか」
「仕事熱心だな」
「俺の性分だ」
「なるほど、良い性分だ。気にいったぜ」
 デラードは軽く狗谷の肩を叩いた。
 また新たな絆が生まれようとしていた。

●和気
 さて、女性限定サービスであるが、芸者の格好ができるというものだった。
 翌日の夕食後、芸者達が集まり、日本舞踊を披露してくれた。メンバーたちが合いの手を取りながら舞う芸者たちの姿はとても美しかった。
 レーゲンは恥ずかしそうに、芸者の格好をして、隅っこに立っていた。それに気付いて、デラードが手招きする。
「一緒に踊ったらどうだ」
「え、でも、私‥踊りは‥」
 レーゲンが躊躇っていると、芸者たちが手を差し伸べて、「真似して踊ってみて下さい」とニッコリほほ笑んだ。
「‥‥こうでしょうか?」
 真似しながら、懸命に踊るレーゲンの姿もまた、魅力的だった。
「‥‥今夜のビールは格別だ」
 デラードはジョッキを片手に、満足そうだった。メンバーたちも楽しそうに酒を飲み、狗谷はウーロン茶を注文して、ゆったりと寛いでいた。
「今日はゆっくりできそうだな。明日は分からんがな」
「狗谷は休暇の時でも、皆の健康のことまで考えてるんだな。感心するぜ」
 デラードはレーゲンに向って手をひらひらさせながら、呟くように言った。それが聞こえたのか、狗谷が返答する。
「デラード軍曹にそう言われるとはな。たいしたことはしていない」
「謙遜するな。人にはできることと、できないことがある。狗谷には、そうした分別があるように思えるんだ。これでも俺は人を見る目はあるぜ」
 デラードが男性に対して、こうまで言うのは珍しいことであった。

 そして、残りの休暇は観光地巡りをしたり、遊園地のアトラクションに乗ったり、楽しい日々が続いた。しばらくの間、『ジェットコースターで、一番大声で叫んでいたのは、大男のサジ』という噂が広まっていた。その件に触れると、サジは「自分ではない。智久だ」と断固として譲らなかった。
 実際、智久はサジの隣に座っていたが、特に叫んではいなかったのだ。そのことを知っていて、デラードは何かある度に、ネタにして楽しんでいた。

 こうして、スカイフォックス慰安会は無事に終了した。