●リプレイ本文
●終夜のレーション作り
「戦場や傭兵の馴染みの食品、と言えばジャーキー‥‥干し肉です‥‥」
怪我を気力でカバーして調理を開始した終夜・無月(
ga3084)が選んだのは『プチリザード』だ。
「レーション、とは少し違うかもしれませんけど‥‥是も立派な戦場の食糧ですよ‥‥」
まずは調味料の準備だ。
醤油と塩を適量混ぜ合わせて香辛料ペーストを作る。
ちょっと濃く感じるくらいがジャーキー向きだ。
「簡易な方法になりますが‥‥戦場で敵を倒して其の場で作る事も出来る‥‥という点では優れているのではないでしょうか‥‥」
香辛料ペーストに黒胡椒とブランデーを入れ、更に混ぜる。
そして現れるのが今回のメイン食材であるプチリザード。
脂身部分をこそぎ落とし、作った香辛料ペーストをまずは全体に揉み込んでから、繊維に沿って薄くスライスして、更に香辛料ペーストを揉み込んだ。
そしてここから冷蔵庫で1〜2時間、寝かせてやる。
「‥‥今回は、整った環境で調理出来ますから‥‥この手間が、取れますね‥‥」
実際に戦場で即席ジャーキーを作ろうとしても、冷蔵庫は流石にないだろう。
とはいえ今回は調理室で、とにかくキメラを美味しく携帯食にする事が目的だ。
肉を寝かせるその間に、終夜は調理室に備え付けられていた椅子へと腰掛ける。
何と言っても、終夜は重症患者なのだ。無理は禁物である。
そして時間が経過して、冷蔵庫から寝かせていた肉を取り出した終夜はクリップを使って肉がS字になるように引き伸ばしながら風通しのいい窓際へと向かう。
窓際とはいえ日陰はある。そこに肉を吊るして干すのだ。
また所要時間は1〜2時間。
その間、もう一度椅子で休憩だ。
更に時間が経過して。
今度はアルミホイルを取り出した。
それを器のような形へと変えて、桜の燻製チップを入れ、そしてそこに砂糖も投入した。
チップから煙が出るように一通りの準備を手際よく済ませた終夜は、その上に肉を吊るす。
「後は程よく時間をかけて‥‥風干ししたら、とりあえず完成です‥‥」
どうやら完成が見えてきた様だ。
●ウルリケのレーション作り
くるくるパタパタと忙しそうに調理室を行き来するウルリケ・鹿内(
gc0174)は、目的の食材を集め終わって一息ついていた。
「私は、主食としてのクラッカー、それに付けるジャムを作りましょう」
クラッカーの原材料は『ハニワ』と『ドグウ』、そして『キメラアント』だ。
先ずはハニワとドグウの処理から始めよう、とウルリケが取り出したのは調理室に置かれていた木槌。
「よっと」
掛け声と共に、木槌を思い切りハニワへと叩きつける。
ミルで粉末にしようにも、今の大きさではミルに入らないので、叩き割らなければならなかったのだ。
パカン。と乾いた音と共に叩き割られたハニワを眺めて、彼女はもう一度木槌を振り上げた。
「余り大きいと細かくし辛いので‥‥さらに、っと」
ドカン。
同じくドグウも木槌で小さな欠片にしてしまってから、ウルリケはミルへとそれらを投入した。
ギュインギュインと音を立てて粉末状になっていく元・ハニワとドグウ達。
その間にと次に選び出したのは『フルーツキメラ』だ。
「見た目はアレですけど‥‥。あ、これは香りがリンゴ、これはグレープフルーツに似ていますねー」
選び抜いたそれらを乾燥させるべくオーブンに入れる。
時間が経てば、香ばしい香りが調理室へと漂う。
まぁ、実際は1度焦がしてしまい、2度目で成功したのだが。そこはご愛嬌だ。
乾燥したフルーツキメラを細かく砕いて、一口味見。
「あ、味もリンゴ、グレープフルーツみたいですねー」
どうやら原材料さえ言わなければ、味自体はフルーツそのものの様だった。
別に用意していた生のキメラアントとフルーツキメラをミキサーにかけ、液状にする。
ジャムにする為、液状のそれを鍋へと移し、砂糖とこれまた他に用意していた『プチスライム』を千切って鍋へ投入。
そのままコトコトと煮詰めていけば、ジャムへと変身完了だ。
粉末状にしたハニワとドグウ、そして乾燥させて同じく粉末にしていたキメラアントと乾燥フルーツキメラをボウルへと投入したその時に、ハプニングは起きた。
「わわっ! 粉が舞って。‥‥クチュン!」
可愛らしいくしゃみがひとつ、調理室に響いたのだった。
何とかハプニングを乗り越え、粉末を水と一緒に練り合わせ生地にする。
薄く延ばした生地を型抜きして硬めにオーブンで焼き上げれば、ウルリケの調理は完成である。
●湊のレーション作り
淡々と。ほぼ無言で作業に勤しむ湊 影明(
gb9566)が選んだ食材は『ハネネコ』『プチスライム』『キメラアント』だった。
「どんな動物でも内臓は傷ついていないものを選ばなければ。感染症を引き起こすことがあります」
どうやらお目当ての食材が見つかったのだろう、彼は次いで料理酒とカレー粉、数種類の野菜を取り出した。
ハネネコの血抜きを確実に行い、内臓を取って料理酒に漬け込み臭みを取る。
その間に数種類の野菜を炒め、下ごしらえの済んだ肉を同じ様に炒めた。
水を適量入れ、コトコトとひたすら煮込む。
時間は無駄にしない。
こんどはその間にプチスライムとキメラアントをすり潰す作業を行った。
時間をかけて煮込み続け、一度火を止めてカレー粉を投入する。
コトコト煮込んでいる間に、すり潰したプチスライムとキメラアントで煮凝りを作り上げた。
終始無言のまま作業を行う湊だが、腕は確かである。
●辰宮のレーション作り
辰宮 レイ(
gc1094)が目指すは『プチスライム』と『フルーツキメラ』の飲めるデザートゼリー。
フルーツキメラから果汁を絞り、そこでこてりと首を傾げた。
「果物の味、するやろうか?」
確認の為にと少し掬って飲んで見れば、確かに味は果物のそれと同じでほっと一息。
絞った果汁と水、プチスライムを混ぜ合わせて、プチスライムが溶けきるまでレンジで加熱する。
「焦げませんように‥‥」
辰宮の切実な願いが叶ったのだろう、プチスライムは無事、焦げずに溶けきってくれた。
そこに砂糖を加えて味を調えて、コップ数個に移し変える。
本当ならパックに詰めるのが携帯食なのだろうが、今回はとにかく試食用だ。コップでも構わない。
慎重に冷蔵庫へと1個だけ残した残りのコップを入れて、時間を置く。
時々様子を見なければ、初めての試みだらけで失敗があってはいけない。
「でっきるかな♪ でっきるかな♪」
1個だけ常温で様子を見ているのは、それでも大丈夫なら戦場でも出来ると証明出来るからだ。
「もしスライムで駄目だったら、ゼラチンとか代用すればいいよね」
きちんとなかったときの事も考える。
辰宮の飲めるゼリーも、完成が見えてきた。
●布野のレーション作り
布野 あすみ(
gc0588)は少し変わった事をしていた。
調理に使うのだろう『プチリザード』の肉を、焼いたり煮たり蒸したり茹でたり。
とにかく思いつく限りの加熱方法を試したのだ。
「肉質の変化とか、チェックしておかないと後で困るからね」
一通り確認を終え、満足のいく調理方法を思いついたのだろう、次に用意したのは『プチスライム』と『ハニワ』だ。
まず、プチリザードの肉を小さく千切ろうと、肉を手にしたのだが。
「‥‥肉って、やっぱり素手で触るとベトベトするね‥‥うぇ、気持ち悪い。包丁使おう」
料理する肉を手で千切る、というのは、まぁ、当然無理な話だ。
包丁で細かく肉を切り、油を敷いた鍋で臭みを抜く為の料理酒を少しずつ加えながら炒める。
程よい焼き色がついたところで水を加え、コトコトと煮込み始めた。
その間に別の工程、ハニワをさらさらの粉にする作業を開始する。
「煮込んでる間に、っと。ハニワは土っぽいから、上手く使えばきっとミネラルになるよね!」
まぁ、ハニワといっても、完全に土くれのそれではなく、キメラだ。大丈夫だろう。
「‥‥よし。ここまで砕けば、すり鉢でいけるかな?」
砕いたハニワをすり鉢に移し変え、擂り粉木で細かな粉末状へと仕上げる。
十分に煮込み終わった肉を確認して、皿へと肉と少しのスープと一緒に移し変えると、そこに醤油と塩コショウ。
そして粉末ハニワを適量加えて、最後にオリーブオイルに浸して冷ます。
「うん。これで完成。後は十分に冷まして、缶に閉じれば持ち運びにも良さそうだよね」
今回は缶にまでは入れないが、ちゃんと携帯食になったら、まで想定する。
布野の料理も、完成だ。
●諌山のレーション作り
「レーションとはいえ、やはり日本人としては米は外せないですよね」
諌山詠(
gb7651)の拘りは日本食に近いレーション作りだ。
使用する食材は『プチリザード』と米、油揚げに、キノコと野菜が数種類。
手際よくプチリザードの肉を小さめにカットして、料理酒と醤油に漬け込んで下味をつける。
油揚げは油抜きをしてから同じくカットし、シメジを小房に分けたら、ささがき牛蒡と短冊切りの人参も準備する。
「目指すは鶏五目、ならぬリザ五目、ですね」
全てを料理酒と醤油、そして出汁を混ぜたものに浸けてからご飯の上に乗せて。
あとはほっこり炊き上げるだけだ。
「もし肉の臭みが強いものしかなければ、ドライカレーとかに応用も利くでしょう」
今回使用したプチリザードはどうやら下準備さえしっかりすれば、淡白で鶏肉に似た感じに整うようだ。
もしも今度、別の肉を使用する事があったなら、そんな調理法もあるなと考えながら炊き上がりを待つ。
「あぁ。保存方法はどうしましょうか。パックでもいいですけど、缶なら頑丈ですし、直に温められますよね」
その場に道具がなかったときの事も考えながら。
いい香りの漂い始めた諌山の料理も、完成間近。
●カルミアのレーション作り
「直視出来ないような状況ですぎゃ〜」
と言いながらも楽しそうなカルミア(
gc0278)の眼前にはミキサー。
その中には彼女がチョイスした『キメラアント』『ビートル』『ハネネコ』『プチスライム』『フルーツキメラ』
そして、香辛料と保存料が大量投入された不思議な液体状のものが、入っていた。
ドロドロ、と音の立ちそうなそれを、ひたすらミキサーにかけて混ぜ合わせる。
もうこれ以上は混ぜ合わせられません! というミキサーの悲鳴を聞いて、ミキサーから簡易パックへとそのドロドロの液体を移し変えた。
本人も、何を作ったのか分からない一品の完成に、あはは、と笑うしかない。
「食べる時には、しっかり加熱してね‥‥」
加熱してどうにかなれば、幸いである。
気を取り直して今度こそ、と取り出したのは『ハニワ』『ドグウ』だ。
細かく細かく砕いて、粉に近い状態にしてから。
次は『プチスライム』『ハネネコ』『フルーツキメラ』と、小麦粉を用意する。
スライムとハネネコ、フルーツキメラを細かく切って、粉上のハニワ、ドグウ、そして小麦粉としっかり捏ねる。
捏ねたそれをスティック状に形を整えてから、オーブンでしっかりと焼いた。
「お次はキメラメイトの出来上がり〜」
キャッチコピーは『十秒であの世が見えるバランス栄養食』かな、なんて笑っているが。
本当に大丈夫なのかは、食べてみなければ分からない。
最後は『プチスライム』と『フルーツキメラ』をミキサーで混ぜ合わせたデザート代わりの栄養ドリンクを作り上げた。
「栄養不足・脱水症状に良さそうです」
と、キャッチコピーをこちらにもつけたが。
本当に大丈夫なのだろうか、というカルミアの3品が出来上がった。
●ホアキンのレーション作り
目指すは、美味しいと思えるレーションの開発だ。
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)は、眼前の食材を見ながら苦笑する。
「戦闘糧食にキメラを使うとは‥‥また、随分と斬新な発想だが。さて、どんな風味に仕上がるだろうか」
まず選んだ食材は『プチスライム』と『フルーツキメラ』に、レモンと粉ゼラチンに蜂蜜、水飴、グラニュー糖だ。
手際よくプチスライムを小さく千切り、フルーツキメラも細かく切ってからミキサーへ。
果汁を取り出せたら、ボウルにスライムと果汁、レモン汁を入れてから、粉ゼラチンを振り入れる。
別のボウルに蜂蜜、水飴、グラニュー糖を入れて、湯煎にかけてゆっくりと溶かした。
2つのボウルの中身をひとつに纏めて、バットに流し込んで冷蔵庫へ。
時折鼻歌を歌っているところをみると、ホアキンはどうやら楽しんでいる様子。
そんな彼の1品目はグミキャンディーの様だ。
固まるまでの時間に、2品目に取り掛かる。
材料は『キメラアント』にシナモン、砂糖。
キメラアントをナイフで分解し、必要な箇所を選ぶ。
それにシナモンを振って、オーブンを使い乾燥させてからミルで細かく挽いた。
粉末のキメラアントをフライパンでじっくりと乾煎りしながら、もう片方の手で別の鍋へと砂糖を投入する。
火にかけてゆっくりと焦がし、カラメルを作り、その鍋の上に裏漉しを乗せてカラメルを引き延ばし。
出来上がったカラメルに乾煎りした粉末キメラアントを加えて煮出した。
後は、漉すだけだ。
「題して、アントのコーヒーエッセンス。というところかな」
何処からどう見ても材料がキメラだとは思えない2品は、ホアキンの食材の元を気にせずに食べてもらいたい、という心遣いの表れだろう。
ホアキンの料理も、完成だ。
●おまけの試食会と、結果
好評だった料理も多かった。
「お口の中、とろけてまいそうや〜」
にっこり笑顔の辰宮が、別の料理を口にした途端に。
「ふみゅぅ〜」
と目を回してしまったり。
想像外の調理方法を施されたキメラを試食したホアキンが。
「‥‥面白いな」
と他の食材ではどうなるだろうと興味を示したり。
とにかく、調理自体はほぼ成功したのだ。実際、美味しいものも多かったのだから。
ただ、やはりネックになってしまったのは食材がキメラだった事。
食す人口が少数の為、やはり広く流通する事は難しいかもしれない。
とりあえず今回の依頼は、美味しい料理方法もある、という結論で終了となったのだった。
皆様、使う食材にはくれぐれもご注意を。
(代筆:風亜智疾)