タイトル:和菓子部からの頼みごとマスター:鬼村武彦

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/11 14:44

●オープニング本文


第八十八和菓子部。それは現在、部長と副部長の二名しかいない弱小部活である。
副部長、白川響はある問題に直面していた。部長が行方不明なのである。事の発端は、二日ほど前、部室である調理室にあった書置きである。それには、学園地下4階の破棄された格納庫に未使用のカカオ豆と小豆が備蓄されたまま忘れ去られているらしい。もし、うまく持ってこれたら予算を使わずに良質の餡子を大量に手に入る。これぞ一石二鳥だ。そう書置きには書かれていた。カンパネラ学園地下4階は破棄され使われなくなった区画であり、色んな意味で危険なので生徒は立ち入り禁止になっている場所である。そのためか、様々な噂話が生徒達の話題にのぼり消えて行った。故に白川副部長は最初その書置きも地下四階に纏わる取るにたりない噂話の一種なのだとそんな風に思っていた。
だが、二日たっても部長は、姿を見せなかった。それどころか、寮室や部室である調理教室にもいないのである。まだ、教師陣や部長を見知った生徒達は風邪を患ったのだろうという認識をしている。故に白川副部長は、大事になる前に捜索の依頼を出すことにしたのであった。

●参加者一覧

ディンゴ・ドラッヘン(ga8738
60歳・♂・GP
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP
火絵桃香(gb8837
16歳・♀・ST
ベラルーシ・リャホフ(gc0049
18歳・♀・EP
夕景 憧(gc0113
15歳・♂・PN
フロスヒルデ(gc0528
18歳・♀・GP
ユーリア・コースチナ(gc0640
14歳・♀・SN
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD

●リプレイ本文

01
ここは、文化部棟の複数ある家庭科室の一室。今の時間帯は文化部棟を使う授業が少ないためか静かだ。耳を澄ませば遠く幽かに笑い声やら怒鳴り声などが聞き届けられる。
「このたびは、ウチの部長のためにお集まりいただき誠にありがとうございます。」
そうお辞儀をしたのは白川響、第八十八和菓子部の副部長であり依頼主である。白川はあらためて集まった面々を見る。ここには、ユーリア・コースチナ(gc0640)、ジャック・ジェリア(gc0672)、夕景 憧(gc0113)、火絵桃香(gb8837)、ディンゴ・ドラッヘン(ga8738)、小笠原 恋(gb4844)、ベラルーシ・リャホフ(gc0049)、フロスヒルデ(gc0528)の八人である。ユーリアが微笑みを浮かべて真っ直ぐに云う。
「ご安心を、白川さん。部長さんは無事に救出して見せますわ」
「そ、そうですか」
その猫のごとく見つめられた白川は、体を気持ち固くしながら答える。体が硬くなったのはユーリアのその眼差しはまるで虎のような狩猟動物のそれに似た者を感じたからである。
「えーと、私たちはですね。救出活動に入る前に幾つかお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
小笠原はやんわりと告げる。白川その仕草さや声色に安堵すると同時に同姓として少なからず嫉妬のような物を感じつつ答えていた。
「何でしょうか?」
「部長さんの親しくしていた方々と寮室の場所を教えていただけないでしょうか?」
「えぇ、構いません。今すぐ案内します」
「小笠原殿、皆でぞろぞろと行くよりも分散して行かれる方が宜しかろう」
そうディンゴが声を掛ける。
「そうですね」

02
「ここが、たしか部長の部屋です。」
夕景 憧と火絵桃香は白川に部長の寮室の前まで案内してもらっていた。寮の管理人には新しい寮生の見学ということで許可をもらっている。
「うーん、まず、最初に敷布団の下とか、ラベルの張っていないビデオテープとか探せばいいだよね。」
桃香がニコニコしながら云う。
「いや、それ微妙に調べる物が違うような」苦笑する夕景。
「えぇ、桃香さんのいう通りです。それが年頃の男性の部屋にお邪魔するときのエチケットとか」と白川。
「いやいや、そんなエチケットないから」
「なんか、ドキドキしますねぇ。白川さん」
「えぇ、ドキドキです。それでは開けますね。桃香さん」
「て、スルーかよ!」
ドアを開けるとそこには本があった。たくさんの本があった。いや、本しかなかった。そして、其れらは天井までうず高く重なり合って猛然とこう主張していた。
「書庫なんですね。この図書寮の」と白川。
「そんな寮、ないでしょ」唖然とする夕景。
「じゃ、まずは、そのベッドの敷布団の下から」
そう腕まくりして桃香は入っていく。たしかに彼女の目指す先にベッドがあった。大量の本を膝の高さまで積み重ね人が横たわれるほど列なったそれをベッドと呼ぶならだが。
「桃香さん。ベッドではなくてソファじゃないでしょうか?」
「クッションとその下に畳まれたシーツがあるからベッドでしょう」
二人の会話を看過しながら、深呼吸をすると夕景は部屋の中に入る。改めて見るとその大量に在る本は乱雑に置かれている訳ではなく整然と整頓され分野ごとに積み重ねされていることがわかる。そして、夕景は自分のいる所がどうやら台所だということに気づく。大量の本に圧倒されて流しや、ガスコンロやら本の壁に組み込まれた小型冷蔵庫や電子レンジに気づかなかっただけである。台所を調べてわかったことは多少なりとも生活感があったことだろうか。そして、奥の部屋で押入れを不用意に開けたため本の津波にあって二次遭難しろしく生き埋めになった女性二人を救助している時にそれを見つけた。
日記帳である。
取りあえずベットもしくはソファのようなオブジェに腰を降ろして読み始める。

某月某日
スイーツマガジンが先月号で休刊しているのを失念していたようだ。・・・・のL・Rの連載−アンパン紀行文−が読めないのは残念だ。今日は・・・・
某月某日
定期試験の準備に入る。小論文はレーションに和菓・・・・
某月某日
ジェーン・ドウなる人物から手紙が届く。・・訃報の便箋。あぁ、赤霧の練り餡は途絶えてしまったのだなと呆然と・・。
某月某日
古い物品リストに赤霧の小豆・・再現出来るかも。急がなければ・・
それ以後空白が続く。

03
そこはこの季節でも唸るような湿気と濃密な植物の香りが充満する場所。密林が広がっていた。広大な地下温室と云うべき人口のバイオスフィアでベラルーシとジャックは部長の知人を訪ねて歩いていた。滝のせせらぎが何処からか聞こえる。落ち葉一つなく掃き清められたような小路を前より喪服のような黒いスーツを着込んだハシバミ色の瞳をした長身の女性とすれ違った。しばらく進むとひと際高い巨木ある開けた場所にでた。その幹には季節外れの花菖蒲、八重咲き、姫百合を併せた花束が一つ添えられていた。
「なぁベラルーシ、彼じゃないかぁ」
そうジャックは巨木の傍らで佇む竹箒と塵取りを持つ学生服の少年を見つけていた。さっそくベラルーシを聞いて観ることにした。
「あぁ、彼とは同じ寮で同期ですから知っていますよ。数日まえだったかな。えぇ、まぁ、図書室の蔵書整理に駆り出されていた時に、ちょうど棚の奥に落ち込んでいる古い搬入品のリスト見つけましてね。彼に届けるように頼んだんですよ。えぇ、彼も当番でしたから。そのリストを見て小躍りしていましたよ。作成途中のようなリストを見て喜ぶんだろうなと不思議に思ってたで覚えていました。えーと、確かぁ、何かこれで作れるぞうとか喜んでいましたよ。えっリストに小豆ですか?さぁ、詳しく見てなかったんでそこまでは覚えていませんよ」
とこんな話しを聞かせてくれた。あらかた聞き終わると礼を述べて二人は地下四階の入り口へとむかった。

04
フロスヒルデとユーリアは資料室から地下四階の見取り図のコピーを持ち出してその入口前に来ていた。
「ねぇ、なっちゃん。この赤いのと青いのなんだと思う?」
フロスヒルデは人形に問いかける。
「うーん、等人大のお人形だね。どうしてこんなところに置いてあるんだろう?」
そう答えたのは彼女が抱えた人形だ。
「たぶん、これは門神とか云うものなんじゃんあいかな。東洋の神社仏閣の門前には阿吽とかいう名前の犬の仏像を安置するらしいから」
そう微妙な返答をしたのはユーリアだった。そんな二人の前には二体のパワードスーツ型の練習用AU‐KVが赤と青の褌を着用し仁王のような姿勢で設置されていた。ただ、このAU‐KVの頭部にはサッカーボール大のメロンパンと栗の形状と色をした置物がマジックペンで眉毛と目を描かれて乗せられていた。そのシュールな光景を眺めることしばし、他のメンバーが集まってきた。
「なんともシュールな人形ですな」
ディンゴが困惑の表情を浮かべて呟く。
桃香は堪え切れずに笑いだし夕景が苦笑する。
「あぁ、文化祭か何かの出し物でしょう」
小笠原はそう常識的に判断した。

「ちょうどよく誰もいないから素早く情報交換と行きましょう」
そう告げたのはベラルーシだった。一同は、情報交換をし終えると当初の予定通りに見張り兼誘導班であるフロスヒルデとユーリアを残して三班に分かれ部長の捜索の為、地下四階へと降りて行った。フロスヒルデはなっちゃんに語りかける。AU‐KVの着ぐるみ着られないモノかと。そんな会話を耳にしつつユーリアは辺りを警戒するのだった。
地下四階は薄暗いといっても所々非常灯が灯っておりまったく視界が効かないということはなかった。それに天井を網目のように大小様々なパイプから時折洩れる雫の音や用途が判別しにくい電動機や制御盤が低い唸りを挙げている。そして、時折小動物が蠢く微かな物音が聞こえてくる。
「…この階層も使えるようにすれば、色々と便利でしょうに。そうは思いませんか?」
ディンゴは正確に見取り図と見比べながら地図製作の作業を続けながら小笠原に問いかける。何か話していないとこの迷路のような階層に閉塞感を覚えるのでは小笠原を気遣ってそんな台詞が口にでる。小笠原は微笑を浮かべてつつまわりの警戒を怠らずに受け答える。
「えぇ、これだけの広さならもう少し使い道があるでしょう。まぁでもこの迷路のような入り組んだ通路と大小の広さが違う倉庫の配置などからたぶん、これは防衛のための階層といった目的があるんじゃないか推測します。」
「たしかに、この配置と通路の曲がり角の多さは容易く方向感覚を狂わしますね。」
ディンゴは深く息を吸い吐く。
「うむ、何か来ますね。」
二人は近くの倉庫に身を隠す。先ほどまでいた通路を丸っこい形状をした何かの自律機械が静かに滑るように通って行く。
「あのようの機械もいますしな。にしても部長殿はどこにおられるのか?」
ディンゴは倉庫の中を見渡す。奥の方に荷物が崩れたような箇所が見て取れた。
「ディンゴさん、あそこ誰か倒れていえ、半分埋もれているみたいです。」
確かに組み重ねたパレットの影でよく見えないが荷物が崩れた場所に人影の様なものが見える。二人は、慎重に歩み寄る。その人物は白川氏から持たされた部長の写真と同一の人物だった。
「しっかりしてください。部長さん」
駆け寄った小笠原とディンゴが埋もれた彼を引っ張り出す。彼は衰弱していたがまだ息がある。ディンゴは彼の介抱を小笠原に任せ自分はトランシーバーで他の班に連絡をとった。

05
ここは、文化部棟の家庭科室。八人と依頼人の白川響が顔を会わせていた。
「本当にありがとうございました。部長も順調に回復しているそうです。」
白川は肩の荷が降りた様だ。あの後、意識のない部長を連れ他の班と合流し無事に帰還を果たした。部長はそっこく発見場所を有耶無耶にして病院へ運ばれる。ついでにベラルーシとジャックの班が部長の探していた赤霧の小豆を数袋発見していた。この小豆の生産地がバグアとの戦闘で壊滅しているため現存している物がこれだけという代物ということらしい。皆でこの赤霧の小豆でつくられたぜんさいを美味しく食べたのであった。