タイトル:もすきーとマスター:お菓子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/15 20:06

●オープニング本文


「最近なんか虫が増えたよねー」
 腕に止まった小さな虫を潰しながら、女子高生がぼやいた。
「まあもうすぐ夏だしねえ。虫だって出てくるでしょうよ」
 一緒に歩いていたもう一人の女子高生が苦笑しながら言う。
「川辺はマジヤバイねコレ。多すぎる」
「だよね、さっきからそこら中ブンブン言ってるし‥‥」
 迂闊に大口開けよう物なら、口の中に飛び込みそうで怖い。
「能力者が退治してくれないかなー」
「いや、幾らなんでもコレはちょっと無理でしょ」
「だよねえ」
 そう言ってる間にも、虫はブンブンと音を立て二人の周りを飛び回る。
「殺虫スプレー持ってきた方が良いかなー‥‥」
 そう言った刹那、少女の腕に激痛が走った。
「痛ッ!?」
 慌てて振り返る。
 30cm程ありそうな巨大な蚊が空中で静止し、少女達を睨みつけていた。
「‥‥さっちゃん。アレ、ガガンボじゃないよね?」
「違うと思う」
「じゃあ何だい?」
「蚊じゃね?」
「え? でかくね?」
 まだ痛む腕には、しっかり穴が開いて血が溢れ出ている。
 しかも若干痒い。
「‥‥‥ぎゃぁあああああ!?」
「何じゃこりゃぁあああああ!!?」
 全く女子高生らしくない叫び声を上げ逃げていく少女達。
 その後を追う蚊。
 心なしか数が増えている。

 数分後、あちこちに傷を負った少女達が警察に飛び込んできた。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
古河 甚五郎(ga6412
27歳・♂・BM
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

「巨大な蚊だなんて、色んな意味で嫌なキメラね」
「一般的な常識のサイズを超えるとどれも生理的嫌悪が凄いわ‥‥」
 被害者の話を聞いたアズメリア・カンス(ga8233)と緋室 神音(ga3576)が愚痴を零す。
 やはり女性だけあって、虫は苦手なのだろうか。
「SES搭載の蚊取り線香でも有れば楽な話なんだが、無い物は仕方ない。巨大な豚の置物がキメラを倒すというのも洒落が効いていて良いと思うのだが‥‥」
 九条 命(ga0148)がそう呟くと、それを聞いていた古河 甚五郎(ga6412)が
「羽虫退治は電撃ラケット最強ですよ! ‥‥対キメラ用出ないかしら?」
 と言った。
 ‥‥思考回路が似てるのかもしれない。
「あの羽音には日ごろからイライラさせられっぱなしなんだ。今日はその鬱憤を晴らさせてもらうつもりでいくよ」
 木場・純平(ga3277)がそう言う。
 仕方が無い事だが、とことん不人気な蚊。
 何か可哀想。
「病原体を媒介しないのが、唯一の救いか」
 南雲 莞爾(ga4272)がそう呟く。
「‥‥病気を媒介するように改造されでもしたら厄介だな」
 御山・アキラ(ga0532)が顔をしかめた。
 確かに、マラリアとか媒介されたら大分怖いことになりそうだ。
 っていうか大惨事だ。
「これ以上増えない内に始末を着けよう」
 白鐘剣一郎(ga0184)の言葉に皆頷いた。

 メンバーは蚊キメラを引き付ける囮と警戒役の見張りの二手に別れた。
 囮班は命・純平・剣一郎
 見張りはアキラ・神音・莞爾・甚五郎・アズメリア
 囮班は蚊の習性上、二酸化炭素の排出量が多いと寄って来るようなので、それぞれ軽く運動をしていた。
 上半身裸のまま、ジョグやダッシュやシャドーをして汗をかこうとする命。
 確かに虫は寄って来てるけど、今の所普通の虫ばっかりだ。
 ‥‥気持ち悪くないんだろうか。
 気になった純平が尋ねると、
「実は日課なんだ、川辺でのトレーニングは」
 と答えた。
 なるほど、それなら馴れてるんだろう。
 だが、純平はやっぱり気持ち悪いと思ってるのか、わらわらと集まってくる普通の蚊や羽虫を追い払い続けている。
 ちなみに、見張り班は最低限の虫対策をしているらしく、神音は熱を吸収し難い白色系の服を着ているし、甚五郎に至っては長袖作業服にマスクを装着し、ミントとユーカリ系石鹸を使用して入浴してくるという手の込みようだ。
 ここまでしているだけあって、甚五郎の周りには虫はほとんど寄り付かない。
「30cmにもなる蚊だと、注意していればすぐ見つかりそうだな」
 剣一郎がそう言って辺りを見回すが、まだそれらしき姿は見えない。
 今のところ、普通の虫ばかり寄ってきてる。
 これはこれで怖い。
 うっかりすると目に入りそうだ。
 ちょっとイライラし始めた頃、やっと一匹の蚊キメラが近づいてきた。
 最初に見たとき、命はちょっと成長しすぎたガガンボかと思った。
 続いて、二匹、三匹と、どこからか姿を現し始める。
 当然全員気付いていたが、囮である以上、ぎりぎりまで知らないふりを決める。
「‥‥」
 五匹全部が至近距離まで近付き、その内の一匹が口を剣一郎に伸ばしたのを見計らって、剣一郎がアーミーナイフで薙ぎ払った。
 危険を察知した蚊が慌てて後ずさろうとするが、それよりも速く、見通しの良い場所で見張っていたアキラと莞爾が射程範囲内まで近づき、超機械を使って攻撃する。
「五月蝿いものはさっさと駆除するとしよう」
 アキラの言葉と共に超機械が唸りを上げ、飛んでいた蚊がバランスを崩した。
 殲滅までには至らなかったが、ある程度のダメージは与えたらしい。
 動きの鈍った蚊に、命のソバットめいた蹴りがブチ当たる。
「付き合ってもらうぞ、修行に」
 本来ならば飛んでる相手に蹴りは愚作だが、練習を兼ねているらしい。
 靴に付けられた砂錐の爪が蚊の腹を切り裂く。
 ダメージは与えたようだが、却って怒りを買ったのか、命めがけ突っ込んできた。
 体をひねり、回避しようとするが、腕を掠めたらしい、少量の血が飛ぶ。
 だが、それに構う暇も無くもう一匹の蚊も突っ込んでくる。
 それをハイキックで撃退し、先程の蚊の姿を確認しようとするが、丁度アキラのイアリスで切り伏せられたところだった。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥」
 神音の瞳が金色に輝き、虹色の燐光が発生し一対の翼が背中に生まれる。
「抜く前に斬ると知れ――剣技・桜花幻影【ミラージュブレイド】」
 避ける間も無く、月詠の軌跡が二匹の蚊を両断した。
「天剱―――絶刀」
 神音に続き、莞爾も瞬天速と瞬即撃を使い、蚊を切り落とす。
 流石に分が悪いと踏んだのか、残りの蚊が逃げ出そうとする。
 が、そう簡単に逃げられるはずが無い。
「正直、あんまり長い間戦いたくはない相手だしね、一匹たりとも逃がさないわよ」
 いつの間にか待ち構えていたアズメリアがデヴァステイターで撃ち抜き、とどめを刺した。
 上空に逃げた蚊は甚五郎がスパークマシンで撃ち落とし、落ちて来た所を純平のゼロが切り裂く。
 
「これで終わりか? 新たに羽化した個体がいる可能性もありそうだが」
 剣一郎が蚊の残骸を見ながら訊く。
「ざっと見た感じでは居なかったが‥‥」
 純平がそう答える。
 先程の蚊が最初は上手く隠れていたため、断言は出来ないが、巨大蚊は居ないようだ。
 普通のサイズの蚊ならこうして話している今もちらほら出てきているのだが。
「とりあえずはボウフラ退治ですね」
 甚五郎がそう言って、用意していたカラス避けネット(改造済み)を取り出す。
 繋げて重ねて、オイルフェンス風に空ペットの浮きや石の錘で加工したりしたので、大分大きい。
 さすがワルノリ職人。
「そうだな」
 2〜30本はあるであろう捕獲網を取り出しながら剣一郎が頷いた。
 幾らなんでも持って来すぎな気もするが、他にも持ってきた人は沢山居た。

「あ、居た。‥‥‥」
 ボウフラは川の澱みの所に群生していた。
 案外簡単に見つかった、と安心したが、ボウフラを見た瞬間、全員固まった。
 30cmの蚊になるようなボウフラだし、構大きいんじゃないか、と予想はしていた剣一郎が引く位大きかった。
 しかも大量だった。
 パっと見た感じ川の底の方まで埋まっているようだ。
「‥‥‥」
 嫌な沈黙が落ちるが、しょうがない。
「この後始末も仕事の内だ」
 純平が苦々しい表情を浮かべながらもしっかりボウフラを掬う。
 あらかじめ用意してあった網で十分掬えた。
 最初は網の数が多すぎる気もしたが、ボウフラの数も多いのでむしろ丁度よかったかもしれない。
「‥‥ボランティア活動に近い様相を呈してきたな」
 網でボウフラを掬っていた剣一郎が微かに苦笑を浮かべる。
「予防の為に散れ」
 網の中の巨大ボウフラを蹴り殺しながら九条が言う。
「‥‥やれやれ、やはりキメラになった所でボウフラはボウフラか」
 救い上げられたボウフラを見て莞爾がそう呟いた。
 びちびちと跳ねて抵抗(?)するボウフラに攻撃力はないようだ。
 網から逃げる事すらままならないでいる。
 羽化しない限り脅威にはなりそうにない。
 ボウフラを網ですくい上げ、超機械で殲滅させているアズメリア達に、剣一郎が声を掛けた。
「しっかり焼いておいてくれ」
 正直、もう一生分のボウフラを見た気がした。

 ―数十分後―
 大量のボウフラの残骸を延焼防止した穴で焼却処分をやり終えた頃には、すっかり日が傾いていた。
「やっと終わりましたね‥‥」
 甚五郎がそう言って、その場に座り込む。
 それ程強い敵と戦った訳でもないのに、皆妙に疲れていた。
 最後のほうが完璧に単調作業だったせいだろうか。
 黙って頷き、皆それに続き、座り込む。
「もう夏も間近か‥‥」
 そう呟いた剣一郎の目の前を、蝶がひらひらと飛んで行った。