タイトル:キメラとかくれんぼマスター:お菓子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/03 04:51

●オープニング本文


「‥‥‥」
 シャワーを出そうと、蛇口を捻った中年の男は、そのままの体勢で固まった。
 本来ならお湯が勢い良く出てくるはずの場所からは、何かぷるぷるした青いゼリー状の物が「にょるーん」と押し出されていた。
「‥‥‥え?」
 なんだろうコレは。
 ひょっとしてトコロテンだろうか。
 食べた方が良いんだろうか。
 食べるとしたら何を使えば良いんだろうか。
 醤油? ポン酢?
 いや、そもそもこんな所から出てくる物を食べても大丈夫なのだろうか。
 衛生的に。
「!」
 床に落ちたトコロテン(?)が、ぷるぷると震えながら融合していた。
「‥‥こ‥‥これは‥‥!?」
 トコロテンを出し切ったシャワーから、勢い良くお湯が出る。
 それを確認する前に、男は浴室から飛び出していた。
 マッパで。

「だ‥‥誰かああああ!!」
「やだちょっとお父さん素っ裸じゃん」
 思春期の娘の言葉にちょっと傷付きそうになるが、そんな事を言っている場合では無い。
「スライムが! スライムが風呂に出た!」
「えー。何寝ぼけてんのお父さん」
 かなり泣きたくなった。
「寝ぼけてないって! スライムが出たんだって!」
「はいはい。わかったって。見に行けば良いんでしょ」
「信じてねー!! っていうか危ないからお前は下がってなさい! 母さーん!」
「だからってお母さんに頼るのもどうなの」

「‥‥‥何だ、やっぱりいないんじゃん」
 渋々浴室をのぞいた娘がつまらなそうに呟く。
「もー、お父さん酔ってたのねー」
 面白半分で着いてきた妻も笑い、リビングへ歩いていった。
「えええ‥‥?」
 まさか、本当に夢でも見たのだろうか、と思い首を傾げる。
「‥‥あ」
 リビングに行ったはずの妻が声を上げた。
「‥‥え? どうした?」
 (マッパのまま)リビングへ移動する。
「‥‥」
 妻が震えながらテーブルを指差していた。
「え、何‥‥」
 テーブルを見ると、スライムがテーブルの上に鎮座して、スルメを溶かしてずるずると啜っていた。
「お‥‥オレのつまみが!?」
「そんな事言ってる場合!?」


 とりあえず住人もその場は逃げ出しましたが(マッパで)、スライムまだ家に隠れてるようなので探して倒してください。

●参加者一覧

玖堂 鷹秀(ga5346
27歳・♂・ER
月夜魅(ga7375
17歳・♀・FT
シェスチ(ga7729
22歳・♂・SN
椎野 のぞみ(ga8736
17歳・♀・GD
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
桜塚杜 菊花(ga8970
26歳・♀・EL
來島・榊(gb0098
22歳・♀・DF
篠ノ頭 すず(gb0337
23歳・♀・SN

●リプレイ本文

●半裸(殆ど全裸)のオヤヂ
「うーん‥‥結構大きいなぁこのお家、‥‥かくれんぼに最適だねっ」
 家を見ていた月夜魅(ga7375)が嬉しそうに他の能力者達に喋りかけた。
 瞬間、局部は隠した物の未だに半裸の親父が目に留まり、何だか微妙な気分になる。
「‥‥お父さん‥‥いい加減服着なよ」
 引いている能力者達を見た娘がこっそり注意する。
「お父さんだって着たいけど着替え全部家の中なんだよ!」
 半泣きになりながら親父が言う。
 どうやら、早く退治してあげた方が良いようだ。

●囮の食べ物
「お父さん情報に寄ると、スルメを食べていたらしいね。‥‥スルメ食べるスライム‥‥なんてアットホーム‥‥」
 シェスチ(ga7729)がスライムがスルメに噛り付く姿を想像し、苦笑する。
「あ、ぼくコレ持ってきたんですが」
 大量のスルメとなぜか鮭とばを取り出す椎野 のぞみ(ga8736)。
(※鮭とば=秋鮭を半身におろして皮付きのまま縦に細く切り、海水で洗って潮風に当てて干したもの。硬い)
「あ、私もビーフジャーキー持って来ました」
 玖堂 鷹秀(ga5346)が白衣からビーフジャーキーを取り出す。
「あたしもスルメと塩持ってきたよ」
 桜塚杜 菊花(ga8970)もスルメを取り出す。
「皆さん持ってきてるのですね」
 芹架・セロリ(ga8801)もスルメを持っている。
「私もコンビニに寄ってつまみ系を何種類か買ってきた」
 來島・榊(gb0098)がコンビニの袋を手に下げている。
「我もコンビニに行って饅頭を買ってきたぞ」
 篠ノ頭 すず(gb0337)も出来たてっぽい饅頭を持っている。
 結局殆どの人が何かしら持っていた事になる。
 これだけあれば、どれかには食いつきそうだ。
「世界の平和も大事ですが、ご家庭の平和ももちろん大切です、一家団欒の場を取り戻すべく気合を入れるとしましょう」
 鷹秀のセリフに、皆頷いた。


●かくれんぼ

 家の中は、然程荒らされた形跡も無いが、スルメが乗っていたと思われる皿には若干スライムの粘液が残っていた。
「むぅ、スライムですか。スライムは美味しそうですが、食べられないので駄目です。‥‥とにかくスライムは駄目なのです」
 セロリがそう言い、幼い顔をしかめる。
 一応食べられるスライムも居るらしいが、今回出たのは食べられないらしい。
「スライムという存在、正しくはその原型が世に登場したのはある小説が最初で、この時は地下鉄の車両程の大きさでタールでできたアメーバと形容された生物でしたが、その後は皆さんご存知の某ゲームの雑魚として登場していますね」
 鷹秀がスライムについて説明していく。
「良く知っているな」
 すずが感心して呟く。
「しばらく機会が無かったので、久々に語りますよ」
 メガネを怪しく光らせた鷹秀がニヤリと笑う。

「さて、それじゃあ手分けして探そうかね」
 菊花がそう言い、二人一組に分かれ、一階と二階をそれぞれ捜索する。

 二階捜索 榊・シェスチ
        菊花・すず

 一階捜索 月夜魅・セロリ・のぞみ
        鷹秀

 鷹秀だけ単身だが、一階には他に三人いるし、呼笛を吹けば直ぐに皆駆けつけられる広さなので、そこまで心配する事は無いだろう。
「私は現場百遍の言葉通り、最初に現れた場所から見ていましょうかね」
 そう言い、風呂場へ行く鷹秀。
「じゃあボク達は他の所を捜索するのです」
 セロリがそう言いトイレへ向う。
「ぷにぷにすらいむでておいで〜でないと溶かして食べちゃうぞ〜‥‥嘘ですよ?」
 月夜魅がのぞみと一緒にセロリの後を追いながら言う。

 二階班は二階へ移動し、榊とシェスチはトイレと寝室、菊花とすずは物置と子供部屋を重点的に探す。
 榊はトイレを捜索する前に寝室を開け、買って来たつまみを設置しておく。
「トイレを探している内に釣れんとも限らんしな」
 隣の部屋でも、菊花とすずがスルメを設置していた。
「スルメに釣られてくれるとイイんだけどねぇ」
 スルメを子供部屋に設置した菊花が呟く。
 その傍にすずも買って来た饅頭を置く。

(「居ませんね‥‥水属性でしょうから水場に居る可能性は高いと思ったのですが」)
 鷹秀が風呂場と洗面所を隅々まで捜索したが、スライムの姿は確認できなかった。
 仕方が無い、とキッチンに移動し、持参したビーフジャーキーをコンロで焼く。
 じゅう、と音がして香ばしい匂いが家の中へ広がる。
「こっちは捜索終わりました〜」
 月夜魅がキッチンに入ってくる。
「さっきリビングに置いた餌がそのままだったから、ひょっとしたら一階には居ないのかもしれませんね」
 のぞみが残念そうに言う。
 セロリは鷹秀が焼いているビーフジャーキーから目を離さない。
「‥‥食べたいんですか?」
 鷹秀がそう訊くが、首を横に振る。
「‥‥大丈夫です。ボクは菜食主義者なのでつまみ食いはしませんので‥‥」
 そう言いながらも涎が出ている。
「‥‥」
「‥‥」
 あまりにも欲しそうに見ているので少し分けてあげた。

 これで能力者達が持ってきた餌はあらかた設置した事になる。

 更に捜索を続ける事十数分。
「しかし‥‥ドコに隠れてるのかなぁ」
 机の裏を探る菊花達の後ろでぼとり、と音がした。
 見てみると、ぷるぷるとしたスライムが、すずの買ってきた饅頭には目もくれず、スルメにかぶり付いていた。
 どうやらタンスの裏の微妙な隙間に隠れていたらしい。
「!」
 すずと菊花が身構えるが、スライムは二人の事は警戒しつつも、呑気にスルメを溶かして啜っている。
「‥‥これで効けば儲けモノなんだけどなぁ」
 菊花がそんな事を言いながら塩をスライムに振りかける。
 が、ナメクジじゃないので聞く訳が無い。
 むしろちょっと喜んでる様に体をぷるぷる震わせている。
「駄目だったか‥‥」
 少し残念そうにしながら、あらかじめ用意してあった呼笛を鳴らす。
 元々そこまでは広くない家なので、直ぐに他のメンバーの元にも音が届く。
 恐らく直ぐに皆駆けつけるだろう。
「すず、サポートよろしく。皆が来るまであたしが前で頑張るから」
 音に反応し、逃げようとするスライムの前に菊花が立ちはだかる。
 しかしこのスライム、逃げようとしているにも関わらずスルメを手放そうとしない。
 次の瞬間、ぐっと身を縮めたスライムが菊花の方へ飛び掛ってきた。
 しかし菊花は深く身をかがめてそれをかわし、すれ違いざまに菖蒲で斬り付けた。
 流石に痛いのか、慌てて後ずさるスライム。
 ダメージは与えたが、浅かったようだ。
「逃げようなんて往生際悪いわね」
 更に攻撃を加えようと距離を詰めた所に、扉が開いた。
「見つけた‥‥鬼の交代は無しだよ」
 シェスチが子供部屋へ入ってきて、その直後に一階を捜索していたメンバーも入ってくる。
「菊姐!」
 鷹秀が部屋へ入ってくる。
 菊花と高校時代の級友だった鷹秀は、菊花のことを菊姐と呼ぶ癖が抜けなかった。
 流石にこの広さでそこまで時間がかかる訳が無く、発見から一分弱で八人全て揃った。
「見た目が可愛いからって手加減は‥しな‥‥い‥‥! ご、ごめんね! 痛いかも!」
 想像したら痛くなったのか、スライム相手に謝る月夜魅。
 しかし、人語を理解できないスライムは相変わらずぷるぷるしている。
「凍らせられれば楽そうだけど‥‥」
 そう呟くのぞみ。
 次の瞬間。
「どかんがどっか〜ん♪」
 月夜魅の言葉に張り詰めていた場の空気が凍りついた。
「‥‥ダジャレで凍らないかと思って‥‥」
 ちょっと照れた様に頭を掻く。
 視線が月夜魅に集中した瞬間、スライムがその場から逃げ出した。
「!」
 それを視界の端で確認したすずが咄嗟にファングでスライムを切り裂く。
「ちょいさー」
 セロリもそれに続き、急所突きで攻撃する。
「消えちゃおう‥‥?」
 覚醒した月夜魅が豪破斬撃でスライムを切り裂く。
 流石に勝ち目が無いと思ったのか、ボロボロになったスライムが逃げようとする。
「逃がすと思うか!? ダァホがぁ!!」
 鷹秀が逃げようとするスライムに向かいエネルギーガンを放つ。
 ドッ!
「‥‥あ」
 スライムに焼け焦げた穴が開いたと同時に床にも穴が開いた。
「‥‥‥」
 沈黙が落ちる。
 スライムはピクリとも動かない。
「あ、私、家庭用工具セット持って来ましたよー」
 月夜魅のその一言が天の声に聞こえた。

●退治&修理終了
「やっぱり綺麗なお家は良いですよね〜」
 月夜魅が嬉しそうに塞がった穴を見る。
 余程目を凝らさない限りバレない。‥‥はずだ。
 能力者達はその場を離れ、罠を回収し、家中を元通りに片付けた。
 立つ鳥跡を濁さず。
 と言うよりは、ちょっと罪滅ぼしの様な意識もあったかもしれない。 

「あ、皆さんお疲れ様です」
 相変わらず半裸(ほぼ全裸)の親父にスライムの掃討が終わった事を報告すると、嬉しそうにお礼を言ってきた。
 若干後ろめたい気がしたが、結果的に壊れた物は何も無いので良しとする。
 能力者達は減らされなかった報酬にほっとしつつ、その場を後にした。

 数日後、娘が部屋の床に僅かに残った修理の跡を見つけるが、同時に努力の跡も見つけたので、何も言わなかった。
 というか、能力者って大変なんだなあ、と思って何だかほろっと来た。