タイトル:料理大会マスター:お菓子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/25 05:18

●オープニング本文


「スライムって食べられるらしいね」
 同僚の言葉に、男は倒したばかりのスライムを見下ろした。
 処分しようという所にそんな事を言われるとちょっと気まずい。
 敵とは言え、食べられると聞いたら捨てるのは勿体無い気がする。
「食べてみるか!」
 仲間の内のもう一人がスプーンを片手に叫ぶ。
 いつの間に持ってきたんだろう。
 というか、さっきまで元気に(?)ぷるぷる動いていたのを食べるのは微妙に抵抗がある。
「男は度胸、何でも試してみるものさ」
 どこかで聞いたことがある台詞をかましてきたが、とりあえず流して、「地面と接してなかった所食べれば大丈夫だよね?」とりあえず皆で試してみる事にした。
 赤信号だって皆で渡ればこわくないはずだ。

 ぱくっ

「‥‥あ、ゼリーみたいじゃん。何か筋張っててこんにゃくで作ったゼリーよりもっと歯応えがあるけど、一応、食える食える」
 みたい、というか、スライムだと知らなければ普通に硬めのゼリーだと思っただろう。
「何かこっちのスライム、蜜柑みたいな味すんだけど」
「こっち桃っぽい味がする」
「マジ? 1口ちょうだい」
「大量にあるし、当分これで食い繋げるんじゃね?」笑いながらも、半ば本気で話す。
「そうだなー。節約になるかも」
 トントン拍子で話が出来上がり、その日からそのメンバーは三食スライムで行く事になった。

 一日で飽きた。

 ゼリーに似た味で普通に食べられるとは言え、流石に三食ゼリーオンリーは無理だ。
 しかし、スライムは大量に余っている。
「‥‥勿体無いなあ」
 日持ちはするかどうかも分からないので、何とか早く片付けたい。
 でもちょっとは違う味が良い。
 その旨を友達の能力者に話した所、その友達も、深刻な顔をして口を開いた。
「実は‥‥」
「‥‥まさか、お前も‥‥!?」
 先日倒した牛型キメラの肉が大量に余ってるとの事だった。

 まさか、と思い、知り合いの能力者達に当たってみると、食べれるキメラが余ってる人が意外と多く居た。
「勿体無いな‥‥」
「何かに使えないかな‥‥」
「‥‥あ、料理大会とかは?」
「え、大会?」
「うん。一番美味く作れた人が優勝」
「んー、まあそうすりゃ無駄にはならないかな」

●参加者一覧

小川 有栖(ga0512
14歳・♀・ST
フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
アヤカ(ga4624
17歳・♀・BM
戎橋 茜(ga5476
15歳・♀・BM
絢文 桜子(ga6137
18歳・♀・ST
霧雨仙人(ga8696
99歳・♂・EP
筍・佳織(ga8765
18歳・♀・EP
古郡・聡子(ga9099
11歳・♀・EL

●リプレイ本文

「楽しみだね」
 審査員の一人が隣に座ってた別の審査員に話しかける。
「そうだな。三食スライムから抜け出せるし」
「うん。生のままはちょっと辛かったしね」
「どんな料理が出てくるかなあ」
 大会と言っても内輪でセッティングした小さな会場だ。
「そろそろ来るっぽいから静かにね」
「はい」
 わくわくしながら座り直す。
 扉がノックされ、参加者が入ってくる。
「やっぱ女の子ばっかりだなー」
「んー、やっぱ「料理」だからね。そんな予感はしてたけど」
 ひそひそとそんな事を話していると霧雨仙人(ga8696)と目が合った。
「‥‥」

「それじゃあまずは自己紹介して下さい」
 司会に促され、順に自己紹介をしていく。
「小川 有栖(ga0512)です。どうぞよろしくおねがいいたします」
 ぺこりと頭を下げる有栖。
 メイド服に内心萌えながらも皆拍手する。
「フェブ・ル・アール(ga0655)にゃー。カレー大会と聞いて飛んで来ました」
「カレー大会じゃないよ? 料理大会だよ? いや別にカレー作っても良いけどさ」
「控室で聞いた所によれば、筍(ga8765)もカレーらしい。コイツは負けられないな! 何故かって? 何故だろうな」
「物凄く個人的な事ですが、そのテンションは好きです!」
 マイクを持った手とは逆の手でグッと親指を立てる司会。
「アヤカ(ga4624)にゃ〜。よろしくニャ」
 同じ場所に二人も語尾に「ニャ」が付く人が居ると思わなかったためちょっと焦ったが、何とか気を取り直す。
「戎橋茜(ga5476)や! 宜しく頼むわ。今日は正々堂々と戦うで」
 お好み焼きかたこ焼きを作りそうな感じだ。雰囲気的に。
 想像したらお腹が減ってきた。
 朝飯を抜いてきているので、早く食べたい。
「絢文 桜子(ga6137)です。宜しくお願いしますわ」
「あ、よろしくお願いします」
 審査員の一人がそれにつられる。
 家庭的な雰囲気に期待を隠せないようだ。
「霧雨じゃ。よろしく頼むぞ」
 先程の板前の様な格好をした老人だ。
「筍・佳織さんだよ! よろしくね! 控え室で聞いた所によるとフェブ姉さんもカレーらしい。カレーでは負けれないっ! 特に理由は無いけど負けれない!」
 フェブと佳織の間で火花が散る。
「古郡・聡子(ga9099)です。よろしくお願いします」
 着物を着た女性が頭を下げた。
 いかにも大和撫子、という感じがする。
「では、自己紹介も済んだ事ですし、それぞれ材料を取って調理を始めてください」

●調理開始
「小川さんは何を作っているんですか?」
 司会が有栖に尋ねる。
「三大肉を使った三つのどんぶりを作くろうと思います」
 酒、味醂、醤油、出し汁、砂糖を煮立てた鍋に生姜の千切りを少しと、牛キメラの薄切り肉を入れる。
 肉の色が変わったら、茸キメラの薄切りを入れて汁気がなくなるまで煮て、千切りの生姜を香り付けに入れて、一煮立ち。
 器にご飯を入れて、キャベツの千切りを敷き、具と紅生姜をのせ、粉山椒を振る。
「なんだか、どのどんぶりも生姜が必ず入っていますね〜。しょうがない‥‥」
 駄洒落を良いながら調理する有栖。
 普段なら反応に困る所だが、可愛いメイドさんが言っていると何だか微笑ましい。

「フェブさんはカレーを作るんでしたよね。どんなのを作るんですか?」
「どうやら向こうは食材の豊富さとテンションの高さで勝負するらしいが、笑止!」
「テンションならフェブさんも負けてませんもんね」
 司会の言う事が聞こえているのか聞こえていないのか、材料をバッと取り出す。多分聞こえてない。
「こちらは負けないテンションの高さと、カラさで勝負にゃー! ガラムでマサラな激辛キメラカレー‥名付けて! 「インドラの雷(いかずち)」!」
「無駄に格好良い!」
「辛さのヒケツは、第一にスパイスの量。戦いは数にゃぜー」
 どばどばとスパイスを入れるフェブ。
「第二に、どんぶりに山盛りの愛!! 最後の決め手がスライムキメラの化学反応だー!!」
 スライムを大量に入れた。
「‥‥」
 思わず硬直する司会。
「ただのスライム汁じゃない。もちろん全種類を煮込むのは当然として‥‥。牛・鶏・豚・蟹・フカヒレ・茸・海老・魚‥‥全てブチ込むのだ!」
 次々と材料をブチ込んでいくフェブに、司会が一言尋ねた。
「料理の経験はどれほど?」
「え? 料理? 普段はそんなのやらないよー」
 ポカンとしてる司会を他所に、フェブのカレー「インドラの雷」は完成に近づいていった。

「アヤカさんは何を作るんですか?」
「ニャ〜‥キメラ料理ニャか〜。そもそも‥‥これって食べられるのニャか??」
 持ってきたキメラ肉をつんつんとつつくアヤカ。
 牛キメラのすじ肉を軽く茹で、臭みを抜いた後、アヤカが自分で用意したコンニャクとゴボウと一緒に赤味噌でぐつぐつと煮る。
 それが一段楽した後、鶏キメラに香草、香辛料で味付けし、卵白と塩を混ぜた物を上に乗せ、オーブンで焼く。
 多分塩竃焼きという奴だろう。
 これは期待出来そうだ。

「戎橋さんはお好み焼きですか?」
 熱そうな鉄板の上で豚と海老を焼いている茜に司会者が尋ねる。
「そうやで! 天下無敵の純情美少女、そろそろ全開やぁ!」
 キムチを加え、水溶きした小麦粉に玉子とキャベツと紅生姜、摩り下ろした山芋を入れ、よくかき混ぜる。
 具材に火が通ったのを確認し、生地をかけ、コテで押さえつけず高温でふんわりと焼いた所にソース、マヨネーズ、鰹節、青海苔をかける。
「茜流スパイシーお好み焼完成! これでどうやぁ!!」
 出来上がりと同時にコテを構えたまま決めポーズを付ける。
「美味しそうです!」
「ふふん、そうやろ?」
 審査員は物欲しそうな目で見つめている。

「ううん、キメラを使ったお料理は初めてですわ。でも、折角の食材を無駄にするのは勿体ないですし、ここは頑張りませんとね」
 にこにこしながら次々とキメラを用意する桜子。
 コーヒー味のスライムを用意し、冷やしたカフェオレにクラッシュして浮かべる。
 牛キメラのステーキ、茸キメラのソテー添えを作り、葡萄味のスライムをクラッシュしてお酢、醤油を加えてソースにしてかける。
 桃味、蜜柑味のスライムは、ゼリーをスライスしてフルーツ缶詰を使ったヨーグルトムースを間に挟んで三層の冷たいデザートにする。
「す‥‥凄いですね」
「どれも愛情は込めておきましたわ」

「えーっと、霧雨仙人さんは‥‥!?」
 いつの間に作ったのだろう、霧雨仙人の机の上には鶏キメラの酒蒸しが既に出来ていた。
「早いですね!」
「過程は企業秘密じゃよ」
 何だかすごく良い匂いがした。

「佳織さんもカレーなんですよね?」
 佳織の所へ行った司会者が
「そうだよー。野菜を入れて、えーと」
 多々ある食材を眺める佳織。
「牛キメラの肉を入れる! 持参のスパイスを入れて、焦げない様に混ぜつつグツグツ煮ればー‥‥」
 黙り込む佳織。
 その様子に司会者が首を傾げる。
「‥折角だし、鶏キメラも入れよっか。チキンカレー風で‥豚キメラも入れよう。‥シーフードカレーってあるよね?魚型と海老を‥‥こ、こうなったら仲間外れは可愛そうってものだよ! 蟹もサメも茸もどーんとこーい! 隠し味にスライムもっ!」
「!?」
 あっと言う間にほとんどの食材がカレーの中へ入っていった。
「‥‥」
 唖然としている司会者。

「古郡さんは肉じゃがですか」
 じゃがいも、たまねぎ等を大きめに切り分けている聡子に司会者が尋ねる。
「はい」
 茸キメラのあくをとるために煮て、その間に油の上でたまねぎを炒め、炒めたら、そこに牛キメラの肉を放り込む。
 牛キメラの肉を扱うのは初めてのことなので、肉をやわらかくするためにパイナップルやワイン等を多めに入れる。
「パイナップルを入れたことで酸味が強くなると思うので甘めのあんかけ風にします。あんかけにするなら、どうせだから。とサメキメラのヒレも入れて、フカヒレスープのような風味に‥‥できたらいいな?」
「美味しそうですね。‥これで全員出来ましたね。審査へ移りたいと思います」

●審査
「どうぞ、召し上がれ」
 有栖が3種類のどんぶりを審査員達へ出す。
「いただきます」
 審査員がそれぞれ一口ずつ食べる。
「うまいぞー!!」
 審査員から龍っぽいオーラがゴゴゴゴと音を立てて上空へ上っていく。
「何してんの!?」
 審査員の一人が突っ込む。
「いや‥‥凄いリアクションした方が良いのかと思って。」
「良いんだよ普通にすれば!」
「はい。冗談抜きでおいしかったです。ご馳走様でした」

「‥‥」
 次に出された物を見て、審査員達がゴクリと喉を鳴らした。
 先程の製作過程を見ている時から不安ではあったが、どんな物が来ても食べてやろう、と覚悟を決めたつもりで居た。
 だが、いざ目の前にしてみると、何故か覚悟が揺らぐ。
 「インドラの雷」と名付けられたそれは、見た目はちょっと変わったカレー、位の印象しか無いが、何故か異常にプレッシャーを放っていた。
「‥ッい‥‥いただきます!」
 覚悟を決めた審査員の一人が勢い良くカレーを口の中へかっ込む。
「‥‥?」
 口の中へ入った物に、何か違和感を感じた。
 甘い。
 ん?甘い?いや、しょっぱい?
 っていうか辛い?
 むしろ痛い!
「――‥!? ゴファッ!?」
 噴き出しそうになるが、何とか堪えて残りもかっ込む。
「おっ‥お前‥」
「ご、ご馳走‥様‥」
 カラン、と音を立ててスプーンを皿に落とし、それと同時に審査員も椅子ごと倒れた。

「何か大惨事が起きた気がしましたが気にしないで下さい。次に行きましょう」
 司会者が若干青い顔で言う。
「次はアヤカさんの料理です」
「召し上がれニャ〜」
 でん、と塩竃焼きと味噌汁が置かれる。
 塩竃焼きを見た事が無い司会者が首を傾げる。
「あー、何か結婚式とかで見た事ある。ハンマーで表面割るんだっけ」
 審査員の一人が声を上げる。
「ハンマーある?」
「ううん」
 結局素手で割った。
「おいしー」
「初めて食べたー」
 塩竃焼きは審査員達の口にも合ったらしい。
 かなり好評だった。

 茜の作ったお好み焼きを見ると、日系が多い審査員達はかなり喜んだ。
「お好み焼きだー」
「食べるの久しぶりー」
 嬉しそうに食べていく審査員達。
「良かったですね。好評みたいですよ」
 司会者がこっそり耳打ちすると、
「順位はどうでもええねん。アタシは皆の笑顔が見たいだけや」
 満足そうな審査員の顔を見て、笑顔で答える。
 その様子を見て司会者は、良い子だなあ、と思った。

「多いなー!」
 桜子の作った料理の数々を見て、審査員達が声を上げる。
「うわ、しかも美味しいし!」
「元がキメラとは思えないね!」
 ワイワイ話しながらどんどん食べていく審査員達。
「よくこんなに思いついたねー」
 美味しそうに食べていく審査員達を見ている内に、段々参加者達もお腹が減ってきた。

「さ、召し上がれ。梅干の酸味もありながら、酒の濃厚な味わいが鶏肉から染み出て旨いぞ。茸キメラからも良い出汁が出とる」
 霧雨が言う通り、鶏キメラの酒蒸しからはとても良い匂いがしている。
「いただきまーす」
 勧められるままに、酒蒸しを口へ運ぶ。
「おお!? 超美味しい!」
 芳醇な味わいに審査員達の表情が輝く。
「フォフォフォ、どうじゃお味は。切った鶏キメラの肉を茸キメラ、葱、梅干、調味料と一緒に秘蔵酒で蒸した料理じゃ」
 過程は企業秘密じゃよ、と先程言っていたのであまり突っ込まないでおく。
「大変美味しかったです。ごちそうさまでした」
 満足気な表情の審査員がぺこりと頭を下げた。

 ああ、またカレーか。
 ハイテンションに佳織が出してきたカレーを見て、審査員一同、先程の悪夢を思い出し絶望しながらも、スプーンを手に取り、食べ始める。
 ぱくっ
「!」
「こっこれは‥‥!?」
 ガタン、と音を立てて審査員が立ち上がる。
「奇跡だ!」
「さっきとほとんど作り方変わらないのに何でこの味になるんだ!」
「スパイスあんまり入れてないからじゃね!?」
 思わず首を傾げるくらい、佳織のカレーは美味しかった。

「肉じゃがです」
「頂きます」
 最後に、聡子の作った肉じゃがを口に運ぶ審査員。
「‥‥」
「‥‥ど、どうしたの? 黙り込んじゃって」
 隣に座って様子を見ていた別の審査員が話しかける。
「‥‥お母ちゃーん!」
 試食した審査員はそれだけ言うとおいおい泣き始めた。
「泣くなよオッサン!」
 若干引きつつ、隣に座っていた審査員も肉じゃがを口に運んだ。
「‥‥お母さんに‥‥電話しようかな」
「ブルータスお前もか!」
「誰がブルータスだ!」
 家事が得意なだけあり、やはり美味しかった。
「いや、ウチの母さんのとは味違うけどさ、でもこれはこれで凄い美味しく出来てるよ」

●結果発表
「正直、皆美味しかったから、あんまし順位は付けたくないんだけどな」
 審査員の一人が、集計した紙を眺めながら言う。

「優勝は佳織さんです! おめでとうございます!」

「え!? 本当!? やったー!」
 飛び跳ねて喜ぶ佳織。
「おめでとうございます」
 他の参加者達もにこにこしながら拍手をする。
「でもと皆さん本当に僅差なんですよ‥‥審査員特別賞はダントツでしたが」
「あ、そうニャ、審査員特別賞って誰が貰うのかニャ?」
 アヤカが審査員に尋ねる。
「審査員特別賞はフェブさんです。おめでとうございます」
 先程フェブのカレーを完食した審査員が、商品クマのぬいぐるみをフェブに渡す。
「やったにゃー!」
 クマのぬいぐるみを抱きしめるフェブ。
「そんなに凄かったんですか?」
 聡子が審査員に訊く。
「凄かったです」
 青ざめながら答える審査員。
 そこに、桜子が話しかけてきた。
「あの‥‥折角ですから、皆様のお料理も頂けたらいいのですけれど」
 その言葉に、別の審査員の一人が笑顔で答えた。
「私達だけだと食べきれなかったので、皆さん一緒に食べていただけると助かります。元々余ってる食材ですので、持ち帰りたい分があればご自由にどうぞ」

 その言葉のせいか、会場はちょっとしたパーティ状態になった。
 そのお陰で、集まった食材は殆ど片付いた。
 が、フェブの料理を食べた者がほとんど倒れたのは、言うまでもないだろう。