タイトル:鼻が詰まる季節マスター:お菓子

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/09 18:11

●オープニング本文


「ぶぁっくしょん!!」
「ふぇっくしっ!!」
「ふぇぶしっ!」
「あべしっ!」
「ひでぶっ!」
 そこら中でくしゃみの音がする。
「今年の花粉はすごいね‥‥」
 女子高生が隣を歩いていた友達に話しかける。
「バグアの仕業だったりしてね」
 もう一人の女子高生が鼻をかみながら答える。
「あっはっは。まっさか〜」
 軽く笑い飛ばす。
 しかし、その直後、それが冗談では済まされなくなった。

「な、なんだアレは!!」
 人々が指差す方向で、杉がのしのしと歩いていた。
 杉はビルに向かって頭を揺すり、花粉をブチ撒けた。
 ぼふっぼふっ。
「うわっちょっ‥‥やめろーーー!!」
 その場にいた全員が悲鳴を上げても、全く止まる様子がなく、凄い勢いで花粉をばら撒いていく。
「ふぇっぶしっ!!」
「へくしっ!」
 次々とくしゃみの音が上がる。
「ふぇっ‥‥あー、駄目だ、出なかったっふぇぶしっ!! あ、出た!」
「ちょ、呑気にそんな事言ってる場合じゃ無いって‥‥はっくし!! あ、もしもし!?」
 携帯電話でULTへ連絡する女子高生。

 数時間後。
 本部のモニターに、新たな依頼が舞い込む。
 だが、
「集団花粉症だって」
「へー、すごいんだね、今年の花粉」
 いまいち上手く伝わってなかった。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
緋室 神音(ga3576
18歳・♀・FT
穂波 遥(ga8161
17歳・♀・ST

●リプレイ本文

●某環境省測定局

「キメラ杉退治の為に派遣されました穂波遥(ga8161)です。皆さんはじめまして。よろしくお願いします。」
 被害にあっている所から最寄の、杉花粉の観測をしている環境省の施設へ、遥が足を運んだ。
 ここで風向きや花粉の飛散量の情報収集をして、杉キメラの位置を把握するためだったが、
「ようこ‥‥ふぇぶしっ!! ‥‥ようごぞ‥‥ぐずっ」
 しっかりマスクを装備した所長が出迎えてくれた。
 ここも大分花粉が飛んでるようだ。
「‥‥杉キメラ、近くに居るんですか?」
「いや、僕は例年こうですから‥‥ふぁっくし!!」 
 呼吸が難しいせいか大分目が死んでる。
「私達も手伝うんで、気軽に声を掛けてくださいね」
 花粉症じゃなさそうな職員の一人が、声を掛ける。
「ありがとうございます。あの‥‥よろしければこれ皆さんで召し上がって下さい」
 あらかじめ作ってきていた大量の手作りのクッキーを、所長に渡す。
「あ、ありがとう。嬉しいなー。クッキーか‥‥はっくしょん!! ‥‥ぐずっ‥‥仕事が終わったら皆で食べようか」
 目は死んでるが、一応嬉しそうに受け取る所長。
「っつか所長食べられるんですか?」
「正直鼻が詰まってるせいであんまり食欲無いです」
「ですよね」

 数時間後、大体の位置は把握できたので仲間と連絡を取り、地図を広げる。
 林野庁から取り寄せた人工林部分のデータを、定規と鉛筆とで元の地図の上に書き込みながら話す。
「‥‥花粉を浴びせるなら、風上に回り込むはずです。気をつけて下さい」
「ああ、分かった。後は任せろ」
 ファルロス(ga3559)が、遥が見ている物と同じ地図を見ながら答える。
 電話を切ったファルロスは、傍観していた仲間達に向き直ると、作戦の説明を始めた。
 データによるサポートを遥に、除草剤散布班にグラップラー三名、待ち伏せ&殲滅にファイター三名とスナイパー(ファルロスのみ)を当てる事。
 敵の移動先を予測し除草剤を敵の移動先に散布し敵の向かおうとしている場所から遠ざけつつ待ち伏せ班がいる拓けた場所へ誘導した後、
 待ち伏せ班と現地で合流し敵の殲滅にかかる事。
 それと、とファルロスは説明の後に付け足した。
「今花粉症じゃない奴も気をつけておいた方がいい。花粉を大量に吸い込む事で正常な人でも花粉症になる可能性があるからな」
 しっかり釘を刺すファルロスに、その場にいた全員、黙って頷いた。
 花粉症ではないはずの愛輝(ga3159)も、出発前に花粉症の薬を飲んだ。

●作戦開始

 幸い、安い物だが除草剤が支給されていたため、「除草剤作戦」が決行できそうだった。
 待ち伏せ班の下へ誘導させる様に、散布する場所としない場所を分け、散布する。
「次はどこだ?」
 九条・命(ga0148)が除草剤の散布状況を待ち伏せ班に通信機で報告し、地図を確認する。

「いや、それでいいはずだ。しかし‥‥面倒な‥‥敵‥‥だな‥‥」
 しっかりマスクとゴーグルを装備して、西島 百白(ga2123)がぼやく。
「バクアもなんて物作ってくれたのかしら‥‥ここまで殺意を覚えたキメラは初めてよ‥‥出来ることならフレア弾で焼きつきしたいほどね‥‥」
 同じ様に、ゴーグルとマスクを装着した緋室 神音(ga3576)が、黒い笑みを浮かべる。
 殺意を隠そうともしない台詞に、ああ、花粉症なのか、と西島は緋室を見ながらボンヤリと思った。
 自分も花粉症だからか、妙な仲間意識が芽生えそうだ。
「〜へっくちっ!」
 可愛らしいくしゃみに、鳴神 伊織(ga0421)が苦笑する。
「迷惑している方も多いと思いますので、早々に解決したいものですね」 
 しかし、会話だけ聞いていると和やかに感じるが、全員マスクとゴーグル装備なので、一見怪しい集団だ。
「〜っへっくち!」
 再びくしゃみをする神音。
「‥‥」
 くしゃみが出そうで出ない西島。
 伊織は自分がポケットティッシュを持っていた事を思い出し、声を掛けようとした、が、その時。
「うわっ‥‥!?」
 通信機から悲鳴が聞こえた。
「どうした?」
 ファルロスが通信機に出る。
「杉キメラを発見しました。今からそちらへ誘導します!」
 リディス(ga0022)の声が通信機から聞こえる。

 いざ杉キメラを目の前にした能力者達は、呆然とした。
 ひたすら町の方向にばっさばっさと頭(?)を振って花粉を飛ばしている。
 なかなかシュールな光景だった。
 この場にいる三人が花粉症じゃなかっただけ、まだマシかもしれない。
「ただ木が歩くだけなら、御伽の国の話で済むんだが‥‥」
 愛輝が、呆れ気味に呟く。
 マスクをしてるせいか、声が少し聞き取りづらい。
「春だからな‥‥樹木が花粉を撒き散らすのは仕方が無い。
 しかしコレは何か違うだろ」
「‥‥なんともまぁギャグのような相手で。真実は小説よりも奇とはいっても、これは幾らなんでも‥‥ですよねぇ」
 九条もリディスも、思い思いの事を口にする。
「俺は花粉症ではない、どちらかと言えば黄砂に悩まされていたクチだから然程辛くは無いが迷惑な事に変わりは無い、早々に潰す」
 言うや否や、九条が杉キメラの胴体にペイント弾を打ち込んだ。
 ちょっとカラフルになった杉が、花粉をばら撒くのをやめた。
 次の瞬間、蔓の様に変化した枝が、能力者達に襲い掛かってきた。

●待ち伏せ班
 数分後、やっと待ち伏せ班の所に杉キメラが到着した。
 除草剤が上手く効いたらしい。
 割りと簡単に誘導できたようだ。
 根っこを足のように使い迫ってくる杉キメラ。
 何故かムカデを連想させて気持ちが悪い。
 パン、と銃声が轟き、杉キメラの幹に銃創が刻まれる。
 ファルロスがショットガン20を使い撃ったらしい。
 だが、痛覚が無いためか、臆した様子もなく、枝を使い、攻撃してきながら突っ込んでくる。
 包囲できた事を確認した愛輝は、距離を保ちつつ、パイルスピアで木の根や枝を攻撃する。
 何本か枝や根が吹き飛び、流石に杉キメラの行動が遅くなる。
 その隙に、ファルロスが強弾撃を見舞う。
 先ほどの銃創とは比べ物にならないほど、枝の付け根が抉れた。
 続け様に二連射、影撃ちを使い、枝を落とす。
 ほぼ同時に、リディスが自分に向かって来た枝をクローで切り落とした。
「アイテール‥‥限定解除、戦闘モードに移行‥‥抜く前に斬ると知れ――剣技・桜花幻影【ミラージュブレイド】」
 神音が覚醒状態に入り、不規則に動いてキメラに接近していく。
 愛輝が注意を引いている間に、ソニックブームを使い攻撃する。
 枝が吹き飛び、幹に傷を付ける。
 だが、浅い。
 衝撃を与えた事で、杉キメラから更に花粉が舞った。
「〜へっくちっ!」
 神音自身こんな時に、と思うが、仕方ない。
「凄い花粉ですね、まさかここまで凄いとは‥‥」
 伊織が唖然としながらも、 月詠で斬りかかる。
 それに反応し、キメラが根を伊織に向けるが、
 西島が黙ってそれを切り落とす。
「‥‥」
 間髪入れず、伊織の月詠が幹を切りつけ、
 いつの間に距離を詰めたのか、九条が貫通弾を至近距離で撃ちつけ、残りの銃弾も一気に見舞った。
 幹に大きな穴が開き、そのままバランスを崩し、倒れた。
「‥‥あまり時間はかけられません、これで断たせて頂きます」
 ずっとマスクをして、杉キメラの攻撃を避けていたので、ちょっと息苦しくなってきている。
 月詠が、根と幹を完全に切り離した。

●花粉
「あの‥‥」
 ぐったりしている神音に声を掛ける伊織。
「‥‥ん?」
 ポケットティッシュを差し出す。
「ありがとう。この時期は必需品ね‥‥」
 神音がお礼を言い、受け取った。

「任務‥‥かんりょ‥‥へっくし!」
 やっとくしゃみが出た西島に、愛輝がそっとティッシュを差し出した。
「‥‥すまない」
「いや。‥‥しかし、この杉、どうしようか?」
 燃やすか。
 それとも、伐って木材にでもするべきか‥‥。
 と、悩む愛輝。
 花粉がまだ残ってるから燃やしたほうが良いのかも知れない。

「それじゃあ、ありがとうございました」
 手伝ってくれた所長と、職員の人にお礼を言う遥。
「いや、能力者って何か大変そうだけど、頑張ってね」
 にこにこしながら所長が言う。
「‥‥ふぇっぶし!」
 お礼を言った直後にくしゃみが出る。
「だ、大丈夫ですか?」
「いや、ぐずっ、うん、杉は他にもあるからね。しょうがないよ。あのキメラはちょっと許し難かったけどね!」
 人為的なものだと気分的に大分違うらしい。
「それじゃあ、お大事に」
「君もねー」
 わざわざ玄関まで来て見送ってくれた。

 その後、町の学校の校庭で杉キメラの残骸を使ってキャンプファイアーをやったらしい。
 職員たちと所長(鼻の調子がちょっとマシになった)も、クッキーを美味しく頂いた。
 とりあえず、町のくしゃみの数は、ちょっとだけ減った。