タイトル:虫の王様マスター:お菓子

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/16 03:18

●オープニング本文


「ちょちょちょちょお前ら!! 誰か手え開いてるやつ!」
 自動ドアでなければ扉をふっ飛ばすであろう勢いで店長がスーパーに飛び込んできた。
「どうしたんすかー、店長」
 バイトの男が息切れしている店長に尋ねる。
「あああああアレが! アレが倉庫に出た!!」
 アレ、と言われてバイトの頭に浮かんだのは、あの「ゴ」から始まる黒くて速くてよく飛ぶ奴だった。
「え、マジですか」
 バイトの男が若干引きつつ尋ねる。
「いや、ちらっと見ただけだから良く分からんが‥‥多分そうだ!」
 要するにちらっと影が見えただけで逃げてきたという事だろう。
 気持ちは分からなくもないが、何だか情けない。
「お、おまえちょっと潰してこい!」
 店長がビシッとバイトの男を指差した。
「お、俺っすか?」
 思いっきり嫌な顔をしたが、店長の勢いに押し切られて男は渋々それを引き受けてしまった。

 そうして倉庫まで行った、が。
 そこにいたのはゴキブリでは無く
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
 男は、
 2メートルはあろうかと言うカブトムシと目(?)が合ったまま固まった。
 数秒後、
 ひょえー、と、何とも情けない悲鳴が空にこだました。
 だが、「アレ」じゃなかった。
 それだけで何故か男はほっとした。

●参加者一覧

セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
八田光一郎(ga0482
17歳・♂・GP
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
リリィ・S・アイリス(ga5031
14歳・♀・GP
なつき(ga5710
25歳・♀・EL
雑賀 幸輔(ga6073
27歳・♂・JG
岡村啓太(ga6215
23歳・♂・FT
ビッター・エアハルト(ga7614
29歳・♂・FT

●リプレイ本文

●まずは事情聴取
「私が扉を開けて、在庫を取り出そうと思ってたら、何だか黒い影がカサカサ動いてたからゴキブリかな、と思ってたんですが‥‥」
 青ざめた店長がしきりに額の汗をハンカチで拭いながら喋る。
「それで、どうしたんですか?」
 なつき(ga5710)が続きを促すと、言い難そうに、続きを話した。
「いや、ゴキブリ苦手なので、バイトに潰して貰おうと思って、慌てて逃げ帰ってきました」
 バイトの男の顔がサッと青ざめた。
「っつかそんなデカいんだから普通違うって分かるだろ! 危うく死ぬ所だったわ!」
「しょうがないじゃん! すごいデカいゴキブリだと思ったんだよ!」
「そんな物潰させる気だったの!?」
 能力者たちの目の前で口論を始めるバイトと店長。
「えっと‥‥あなたが入ったとき、カブトムシは?」
 リリィ・S・アイリス(ga5031)がバイトの男に尋ねると、慌てて能力者達に向き直り、話し始める。
「あー‥‥俺が入った時は、何か、商品の棚の横の所に止まってたんですけど、倉庫の扉を開けたら、ノソノソこっちに這って来たんですよね。
 ‥‥ノソノソっつっても結構早かったけど」
 思い出して身震いしている。
「俺はすぐに扉閉めちゃったんで、この位ですかね‥‥すみません」
 申し訳無さそうに頭を下げるバイト。
 それじゃあそろそろ現場へ向かおうか、という空気になってきた所で、店長が声を掛けた。
「あの‥‥」
「? 何ですか?」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)が聞き返すと、店長は心なしかドスの聞いた声で、
「商品にはなるべく傷を付けないで下さいね」
 と、言った。
 一瞬、能力者達には店長の背後になまはげが見えた。
「店長がラスボスにならないように要注意ですね」
 セシリア・ディールス(ga0475)の言葉に皆賛同した。

●倉庫の中へ
「男の子って、大きいかぶと虫とか好きそうですよね。
 大きい虫かごとか、あれば捕まえられたんでしょうけれど‥‥。
 ‥‥ちょっとだけ、残念です」
 大きい虫かごを思い描いているなつきの横で
「でかいカブト虫ね‥‥ゴキブリほどすばしっこくないのがせめてもの救いか。
 おとなしく樹の汁でも吸ってろってんだ」
 雑賀 幸輔(ga6073)がぼやく。
「ハッ! 今日は殴り甲斐のある相手じゃねーか。
 昆虫の王様だろうが何だろうがキメラならブッ潰す!」
 八田光一郎(ga0482)の赤い髪が獅子の鬣の様に浮き上がり、拳が赤い光を纏う。
「そうですね。皆でふるぼっこにすれば早く終わりますよ」
「皆でふるぼっこ、ね‥‥。間違っても店長にふるぼっこは‥‥御免被りたいわ」
 ビッター・エアハルト(ga7614)の言葉にケイが苦笑する。
「じゃ、入る前に俺が倉庫の中見てくるから、ここで待っててくれ」
 雑賀が当初の予定通り、倉庫の中を偵察に行く。

 照明を付けていない倉庫内は暗い。
 暗視スコープを装備し見取り図を持った雑賀は、隠密潜行で静かに中の様子を窺い、いきなり度肝を抜かれた。
 やたら高そうな物ばかり置いてある棚にカブトムシが張り付いている。
 カブトムシはそんな様子をバッチリ見られてる事にも気付かず、ぐっすりと眠っている。

「どうする?」
 皆が待機していた所に戻り、倉庫内の様子や敵の状態を説明した雑賀が尋ねる。
「どうするったって‥‥」
 このまま攻撃したら、カブトムシのくっ付いている棚にまで被害が及ぶかもしれない。
「でも、隙だらけだし、丁度良いんじゃない?このままなら棚だけで済みそうだし」
 ケイが呟く。
 確かに、それはそうだ。
「棚一つだけなら、店長もラスボスまで行かず、中ボス位で踏みとどまってくれるかもしれない!」
 岡村啓太(ga6215)が意気込んで喋る。
「どっちにしてもボスなんですね!」
 すかさずビッターが突っ込む。

 倉庫の中に入った一行は、速やかに配置に付いた。
「目標を確認。活動は鈍い模様‥‥これっていわゆる、夜這いだよな?」
 相手が女の子だったら言うことはなかったのに、と思い、雑賀は苦笑する。
「うおっ!! でかいとは聞いてたが、こりゃマジにでけぇ‥‥
 こいつ捕まえて売ったら幾らになるかな‥‥? いや、冗談だって。ちゃんと退治するって」
 冷めた視線を感じた岡村が慌てて言い繕う。
「‥‥早く退治しましょう」
 カブトムシも起きる気配が全く無いので、セシリアが練成弱体をかけたその時。
 カブトムシがぴくっと動き、床に降り立った。
 そして、そのまま一目散に手の甲に赤い光を纏った八田に向かってカサカサと動き出した。
「なっ!? マジかよ、習性とは言えこれに反応するのかよ‥‥
 あーっ、オラオラこっちだっ」
 まだ冬眠状態から抜け切っていないせいか、飛んで来たりはしない。
 が、流石はキメラ。
 それでも速かった。
「逃がさない」
 凄い勢いで八田に迫るカブトムシを、いつの間に近づいたのか、リリィが氷雨で足の関節を狙って斬り付ける。
「そのウザい巨体、鬱陶しいのよ‥‥」
 加虐的な笑みを浮かべて、カブトムシに照準を合わせるケイの左肩口には、蝶の模様が現れていた。
 間髪入れずに銃弾がカブトムシの足に命中する。
「ギィイイイイイ!!」
 練成弱体を掛けられた上にこの攻撃では流石に耐え切れなかったのか、攻撃を食らった足が千切れ飛ぶ。
「近接戦は苦手なんですけれ、どっ」
 なつきのバスターソードが残ったカブトムシの足を2〜3本切り飛ばす。
 流石にしっかり覚醒してしまったのか、カブトムシがなつきを角で突き飛ばし、慌てて飛び立とうとする。
「雑賀さん、しっかり狙って下さいねっ」
 体勢を立て直したなつきが雑賀に声をかける。
「OK、なつき。女の子のハート以外なら、的をはずしたことはない!」
 自分で言ってて凹みそうになるが、そこはプロの技と言うべきか、しっかりカブトムシの胸と頭の境目を狙い、貫通弾を撃つ。
「そろそろおネンネの時間よ?」
 ほとんど間を空けず、ケイの銃弾が的確にカブトムシの羽を打ち抜く。
 耐え切れず地面に落ちたカブトムシに、八田の拳が迫る。
「MAX決めるぜ!」
 体勢を低くし、頭部にアッパーを打ち込む。
「次、ぶちかませッ」
「応ッ!」
 岡村の口内からあらゆる味覚が消失し、ケイブルクに赤色の輝きが灯る。
 姿勢を低く腰溜めに構え、力を足、腰、背中、腕の順番に伝えて増幅させ、
 一気にケイブルクを横薙ぎに振り払った。
「斬り飛ばせ!! ケイブルクッ!!」
 カブトムシの頭が切り飛ばされる。
「あ」
 その場にいた全員が息を呑んだ。
 切り飛ばされたカブトムシの頭部が商品棚に向かって飛んでいく。
 脳裏になまはげと化した店長の姿がよぎる。
 もう駄目だ――!と思った。その時。
 ビッターが受け止めた。
「‥‥ま、間に合った‥」


●依頼達成
「いやー、本当にありがとうございました」
 にこにこしながらお礼を言う店長には、なまはげの面影は欠片も見えない。

「それにしても、このかぶと虫。
 一体どこから入り込んだんでしょうね?」
 首を傾げるなつきに、リリィが話しかける。
「あの、傷の手当てを‥」
 言われてみれば、確かに肘を擦りむいている。
 先ほどカブトムシに突き飛ばされた時だろうか。
「‥‥この位なら、自分で回復できるのですが‥‥。
 でも、せっかくだからご厚意に甘えさせていただきましょうか。
 お願いします」
 微笑んでお礼を言うなつき。
 リリィも心なしか嬉しそうに頷いた。

「‥‥雑賀さん、何してるんですか?」
 カブトムシの死骸に何かをしている雑賀に、セシリアが話しかける。
「怪盗ペイント団参上‥‥なんつってな。足でももいで帰るか?」
 食えなくもなさそうだし、と笑いながら言う雑賀。
 カブトムシの背には、しっかりとペイント弾で撃墜マークが描かれていた。