タイトル:【JTFM】蘇る翼マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/30 09:40

●オープニング本文


●南米、炎上

2009年10月

膠着した南米戦線に一つの変化が訪れた。
独立戦争時に南米で身柄を拘束したルイス・モントーヤが自白をしバグアの基地や戦力の情報が明らかになったのである。
UPC南中央軍のジャンゴ・コルテス大佐はこれを元にコロンビアへの先手を撃つことで流れを変えようと動き出した。

作戦コードは【JTFM=ジャングル・ザ・フロントミッション】。
泥臭いジャングルに傭兵達が集う‥‥。

●活躍の場
 一方そのころ、北米からのUPCの巨大輸送機ガリーニンが南米へ飛行していた。
 その積荷はいまや旧式KVとなったS−01やR−01だ。
 KVの新旧交代は極めて激しい。北米やラストホープで大量の旧型機が格納庫を圧迫していた。しかしこれら旧型機は、バグア全体の注意が中国に、また南米バグアのそれがコロンビアでの戦闘に向いている隙に、南米各地の人類側戦線に輸送されることになった。
 この動きは廃棄処分、余剰品の押し付け、ではない。
 主戦場から外れた南米では人類側バグア側双方共に大規模な補給が行われておらず、バグア側については不明だが、人類側は上半身がS−01下半身がR−01というヌエかキマイラのようなKVで戦っている有様だ。
 この状況に対して旧型機とはいえ完動する機体の補給は効果的といえる。パイロットも整備士も機体に習熟しているからだ。
 つまり機体を配備した直後に使用可能で、即座に戦線が補強でき、その上、送れば送るほど戦線は強化されることになる。
 ちなみに配備されるのは旧型機のみではなく、新型機も配備される予定だ。
 その名をGF-Vマテリアルという。

●歓迎
 南米のとある荒野ではガリーニンのために臨時滑走路が造られ、輸送部隊の兵士たちが北米の空に期待の眼差しを向けていた。
 重機代わりに駆り出されたポンコツKVすらも僚機の到着を待ち望んでいるかのように見えた。
 そのとき空の一点が輝く。
 衝撃波が周囲を揺るがす。
 兵士が身を見せるなか、白い線が空に描かれ、滑走路に突き刺さる。
 爆発。土煙が舞い上がる。
 退避する兵士、離陸を始めるKV、空からは今しがたミサイルを滑走路へ浴びせたヘルメットワームが地上に迫る。
 さらに爆発。兵士がそちらに向けると、KVがエンジンから黒煙を上げている。
 ポンコツはポンコツということ。
 パイロットが転がるように脱出すると、KVが火を噴き上げ、炎の舌が全体を舐め上げる。
 ポンコツKVは爆発。滑走路には大穴が空き、破片が周囲に飛び散る。
 誰かが叫んだ。
「やばい! これ以上やられたら、滑走路が使えなくなる!」
 この場に向かうガリーニンへ即座に連絡が飛ぶ。
 ガリーニンは補充機体を確実に送り込むため、護衛機の一部を臨時滑走路へ急行させる。
 滑走路を巡るKV対ヘルメットワームの対決が始まった。

●参加者一覧

熊谷真帆(ga3826
16歳・♀・FT
香倶夜(ga5126
18歳・♀・EL
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
ORT(gb2988
25歳・♂・DF
孫六 兼元(gb5331
38歳・♂・AA
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

●01
 滑走路襲撃の情報はすぐさまガリーニンに伝達された。現場指揮官はすぐにガリーニンを護衛するKVから6機を抽出、滑走路の防衛に派遣した。
「亡霊(ゲシュペンスト)よりガリーニンへ、掃除は引き受けた。お茶でも飲みながらゆっくり来ると良い」
 シュテルンのパイロット、夜十字・信人(ga8235)はそう言い残して滑走路へ急行する。
 6機のKVはブーストを使用、不可視の噴射炎を上げながら急加速。コクピットからの景色では、周囲の景色が流れ、形を失っていく。遠くに視線を投げれば、滑走路が急速に迫ってくる。
 滑走路の上空ではヘルメットワーム4機が舞うように飛んでいる。「カラスの群が子猫を弄んでいるみたい」と香倶夜(ga5126)が感想を口にする。「これ以上、滑走路をやらせられないよ」
「敵機補足!」という孫六 兼元(gb5331)の力強い声。
「HW1・2・3・4確認」と孫六は僚機に指示を飛ばす。同時に各機のコクピットスクリーン上で敵機にナンバリングが施され、それぞれの撃破目標が設定される。 
「各機ブレイク!!」
 孫六のその言葉は、空で遊ぶ魔性への弦打ちのようだった。
 KVは編隊を解除、それぞれの目標機に向けて飛翔する。エンジンの轟音を鳴弦のように伴い、自らは破魔矢の如く。

●02
「戦場の風紀委員真帆ちゃん参上! 滑走路の器物損壊罪でHWをお仕置きするです!
 熊谷真帆(ga3826)の雷電は抜群の突進力を発揮してヘルメットワームに挑む。
 狙われたヘルメットワームは自らに迫る巨体の迫力に動揺したのか、滑走路への攻撃を中止して雷電から距離を取る。
「そうはいきませんよ」と真帆の雷電は高出力のあまり不可視となった噴射炎を上げながらヘルメットワームに追いすがる。そしてキスするような距離で「「真帆ちゃん砲食らえです!」
 雷電の84mm8連装ロケット弾ランチャーが吠える。
 直撃を受けたヘルメットワームは錐もみ運動で墜落したかのように見せかけて超低空飛行をしながら雷電に対空射撃を浴びせる。
「往生際が悪いですよ!」と真帆は機体を降下させる。機体OSがライト・ディフェンダーを準備する。
 一方そのころ、香倶夜のシュテルンは上空からヘルメットワームに攻撃を仕掛ける。急降下する直前にミサイルを放っている。
 ミサイルとシュテルンには速度差があり、ミサイルはシュテルンに追いつこうとするかのように飛翔する。
「しばらくあたしと『セレーネ』のダンスに付き合って貰うからね」という台詞とともに香倶夜は割り当てのヘルメットワームに近接した。
 ヘルメットワームはまるで香倶夜のダンスの誘いを気に入ったかのような様子を見せる。
 プロトン砲の閃光がミサイルを一薙ぎする。ヘルメットワームは清潔になった空のステージへ駆け昇り、香倶夜機の懐に飛び込んだ。
「なにこれ!? こいつ、思い切りがいいよ!」
 香倶夜が距離を離せば、ヘルメットワームは距離を詰める。香倶夜が高空に昇れ、さらに上をヘルメットワームはとり、逆に急降下をすれば、倍する速度で急降下を仕掛けてくる。
 ヘルメットワームはつかず離れずの距離で香倶夜に攻撃を仕掛ける。
「‥‥やりにくい敵」と香倶夜は呻いた。

●03
 ORT=ヴェアデュリス(gb2988)ことターミーは夜十字と共同して1機のヘルメットワームに戦いを挑む。
「ターミー、15秒以内に仕留めるぞ」と夜十字。
「了解。夜十字、宜しくたのむ」
 接敵、交戦開始というターミーの囁きはミサイルの発射音にかき消された。
 ターミー機バイパーから短距離高速型AAM、UK−10AAMが連続発射される。
 同時に夜十字機もまたUK−10AAMを放った。
 ヘルメットワームは回避運動を行う。
 この動きに合わせてミサイルの噴射煙が空に描かれる。噴射煙はやがてヘルメットワームを死に至らしめる網を描く。
 夜十字機は試作型クロムライフルを作動、同時にPRMシステムを作動して機体の形状を射撃にもっとも適した状態に変更する。
 ミサイルの包囲網に捕らわれたヘルメットワームを夜十字機の火線が射抜いた。火線が命中すると同時にミサイルが連続命中、爆発が生じる。
 そして爆発の煙が流れたあとには何もない。
「撃破。援護へ向かう」とターミー。
「了解。俺は熊谷機を援護する。君は香倶夜機を。グッドラック!」
 2人の黒騎士は弾かれたようにそれぞれの敵へ飛ぶ。

●04
「‥‥輸送機を狙わずに滑走路とは‥‥厄介です」
 奏歌 アルブレヒト(gb9003)は搭乗機のナイチンゲールを低空飛行させる。アルブレヒトは上方のヘルメットワームを見遣る。太陽を背にして飛ぶ敵機。視界にフィルターが入る。
「‥‥師匠、よろしくお願いします」
 アルブレヒトは言葉を発すと同時に84mm8連装ロケット弾ランチャーを発射する。 ナイチンゲールから打ち上げられたロケット弾。
 さらにアルブレヒトは武器を切り替えてトリガーを絞った。
 ロケット弾の速度は遅く、ヘルメットワームは余裕のある回避運動を見せたが、そこにナイチンゲールからのレーザーを撃ち込まれる。ロケット弾の速度に合わせていたせいでヘルメットワームは被弾、フォースフィールドを点滅させながら、ナイチンゲールの射程から逃れるように上昇する。
「‥‥いまです!」
「KV兵法・隼鷹!!」
 太陽から孫六のミカガミが急降下。その軌道には刃の剣呑さが秘められている。ヘルメットワームと擦れ違った瞬間、ヘルメットワームは真っ二つになる。
「‥‥お見事です‥‥師匠」
「キミもな。良い援護だった! さ、次の目標に向かうぞ!」 

●05
「観念しなさい!」と真帆は雷電にライト・ディフェンダーの一撃を繰り出させる。
 ヘルメットワームはわずかな動きで雷電の突撃を避けると、面倒を厭うかのように、急上昇した。
「ああ! また上昇して! もう面倒臭い!」
 コクピットの中で熊谷がほほを膨らませる。
 雷電がスラスターを瞬かせて跳躍する。空中でヘルメットワームと剣戟を演じるが、陸戦形態では分が悪いのか、雷電の一撃はヘルメットワームの作業用アームによっていなされてしまった。
 着地する雷電、これに合わせてヘルメットワームは下降してプロトン砲を放ってくる。
 雷電の超伝導アクチュエータがタイミング良く発動、プロトン砲の火線を狙った紙一重で回避する。
 実はこの動きをさっきから真帆は繰り返している。ヘルメットワームは雷電に恐れをなしたのか、積極的行動に出ず、上下運動を繰り返しながら、滑走路破壊のチャンスをうかがっているようだった。KVの多くは離着陸に手間がかかるので、なかなか面倒なことになっている。
「なんだ、あの動きは」と夜十字は試作型グラムライフルの照準を定めながらいった。「あれでは上下へちょこまかとあれではバッタではないか。マンタ、タートルと来たから次はグラスホッパーワームということか。どうやらバグアは地球産生き物が好きらしいな」
 そんな観察をしながらも夜十字はトリガーを引いた。
 打ち下ろすかのような火線がヘルメットワームを地上へ叩きつけた。
「もらいました!」
 真帆は雷電を突進させる。雷電はヘルメットワームとすれ違いながら、横薙ぎに一閃した。
 爆発するヘルメットワーム。

●06
 ターミーが駆けつけた時、いまだ香倶夜はヘルメットワームと踊るような戦いを続けていた。この2機は互いに牽制し合った末、まったくの膠着状態に陥っていた。
「援護する。距離を取れ」とターミーは香倶夜に呼びかけた。
 わずかな言葉だったが、香倶夜はその意図を正しく読み取ったらしい。
 香倶夜機がブーストを使用、骨の痺れるような衝撃波をばらまきながら加速する。
 これに対してヘルメットワームもまた加速して追跡するが、その前方の空間で炎の花が咲いた。ターミーによる支援射撃だ。
「ダンスもこれで幕引きよ!」
 加速する香倶夜機はインメルマンターンを実行、炎の花をぶち抜いて接近してくるヘルメットワームと正面から向き合う。
 香倶夜がトリガーを引くと、ヘビーガトリング砲が弾丸をばらまいた。
 ヘルメットワームは銃弾にフォースフィールドを、そして装甲を撃ち抜かれる。一発一発に自重を削り取られながら飛翔、香倶夜機と擦れ違った時には、もう重量の6割が失っており、爆発四散した。
「見事だ」とターミーの賞賛の言葉が響く。

●07
 滑走路は損傷を受けたが、能力者が素早くヘルメットワームを撃破したので、復旧可能な状態だった。
 すみやかに現地の兵士が滑走路をガリーニンの着陸可能な状態に戻す。
 空の彼方では黒い塊が群がり、滑走路に近付いてくる。ガリーニンとその護衛機の機影だった。
「‥‥なんとか滑走路は無事ですね。良かった」とアルブレヒトが安堵した様子でいった。
「うん。良かった良かった」と香倶夜が相づちを打つ。「マテリアルも来るそうだけど、見たいな、新型機。この戦力アップで南米は変わるかな」
「‥‥今回はマテリアルは積んでないみたいですよ」とアルブレヒトのつっこみ。それで香倶夜がしょげたのでアルブレヒトは言葉を続ける。
「‥‥南米は変わりますよ。‥‥新しい機体も補給されますし‥‥バグア基地を落とすために大兵力が動いているようですしね」
 ターミーは紫煙を燻らせながら空を見守っている。
「なんだ、その煙草、苦いのか」と夜十字はターミーにいった。彼を気にかけたらしい。
「‥‥苦いさ。30秒かかった。技量が足りん、な」
 さきの戦いのことだ。15秒と夜十字がいったところを30秒かけて倒した。それでターミーは己に技量向上の余地を感じているようだ。
 そうか、と夜十字は静かにうなずいた。
  ヘルメットワームが一掃された空の下、ガリーニンが降下してくる。