タイトル:【DR】Crazy in Killマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/29 00:56

●オープニング本文


 北アメリカ太平洋沿岸で空の一点が輝いた。漁船の漁師がこれに気がつき、顔を上げた瞬間、巨大な影が海上を走った。同時に衝撃波で漁船がひっくり返る。
 港湾部のUPC基地ではオペレーターがディスプレイ上で未確認の飛行物体を確認した。海上から未確認機が1機接近中と上官に報告した瞬間、奇襲に備えて自動制御になっている対空火器が発動して、司令部が騒然となる。
 基地の外ではその未確認飛行物体がフレア弾を投下して基地上空を通過した。この直後に自動制御の対空火器は反射運動じみた素早さでフレア弾を撃墜した。
 撃墜されたフレア弾は太陽のような火の玉を生じさせた。あまりに高速のため爆撃の精度が低かったらしく巨大な火の玉は基地を焼かず、郊外の森を炭化させた。
 未確認飛行物体はすでに自らの産み落とした太陽をはるか後方に置いている。未確認飛行物体は旋回する。その姿が爆発の光に照らされる。打ち上げロケットらしき推進器が複数束ねてあり、その先端に戦闘機形態のS−01らしきKVが接続されている。
 改造S−01は自らの超スピードのせいで機体を上手く制御できていないようだったが、なんとか旋回に成功する。そして次の攻撃は成功させるとでもいうかのように残りのフレア弾を投下可能状態にした。

 ULTのオペレーターだが、UPCの多忙のため出向しているハル・ソルトマイン(gz0132)は早口でいった。
「この港湾都市がフレア弾投下の危機にさらされています。敵は1機の模様ですが、超高速で迫っています。どれくらい速いかというと海上のレーダーに補足されて数秒で基地上空に到達したほどです。この敵機をいまから空へ上がって撃墜して下さい」
「前回の攻撃で敵は基地を狙ったようですが、フレア弾は大きく外れてしまいました。これは敵があまりに高速だから爆撃精度を出せないものと推測されますが、正確に狙う必要がないからともいえます」
「あのフレア弾の威力であれば、都市部に落ちても基地は被害を免れませんし、基地に落ちても都市部は被害を受けます。都市の住民、非戦闘員を考慮に入れる必要のないバグアらしい乱暴な戦法といえます」
「次の攻撃まで時間がありません。資料は機体に入力しておきましたから機上で確認して下さい」
 そこまで聞いて能力者はざっとその場を後にした。飛行場に向かう。
 どうか無辜の人々をあなたがたの力で守ってくださいというソルトマインの言葉がその場に残された。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
春風霧亥(ga3077
24歳・♂・ER
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
狭間 久志(ga9021
31歳・♂・PN
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

○01

 近隣にUPC基地を持つ港湾都市では爆撃を知らせるサイレンが鳴り響いていた。最初の爆撃は逸れたものの、着弾地点の森林は消し炭になってしまった。都市の各地ではUPCの部隊や警察、それに消防隊が市民をシェルターなどの避難施設に誘導している。オペレーターのハル・ソルトマイン(gz0132)も誘導に駆り出されていた。
 ソルトマインは親とはぐれたらしい幼稚園児を発見して警官に預けたあと、空を見上げた。
 UPC基地から8機のKVが離陸した。天に突き上げられた剣のように急角度で上昇している。
 頼みましたよとでもいうようにソルトマインはしばらくKVの離陸を目で追ったあと、誘導に戻った。

 8機のKVが散開する。8機のうち2機はUPC基地上空へ、残りの機体は港湾都市上空へ飛んだ。
「こちらアーちゃんです」港湾都市上空でシュテルンに搭乗するアーク・ウイング(gb4432)がいった。「時間がありませんが、最後の作戦確認を行いましょう」
「上空で敵機を待ち伏せ、ミサイル及びフレア弾を撃墜する。同時に敵を誘導してこちらの射線に引き込んで撃墜する」
 レーダーを見ながら雷電に搭乗するホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)はそう言った。
 ロサ機のディスプレイに表示されている情報は機体のセンサーによるものではなくUPC基地のレーダーから中継している情報だった。敵機は都市へ向けて旋回していたが、速度が速く過ぎて、かなりの遠方まで流されていた。
「自身の速度に振り回されているというのですか。いささか間が抜けていますね」とアンジェリカに搭乗する春風霧亥(ga3077)が敵機について語った。
 間抜けと称しても舐めてはいないらしく春風の眼差しは鋭い。
「来ましたよっ、敵機は基地と都市を貫く直線コースです!」
 ミカガミに搭乗する榊 刑部(ga7524)が僚機に注意を促した。
 都市上空から榊は敵機の飛来する方向を見た。けれども奪取したS−01に大型ブースターを接続したという異様な姿は見えない。
「‥‥あの速度なら視認できない距離でもあっという間だ。僕とハヤブサでどこまで追い縋れるか」
 コクピットで狭間 久志(ga9021)は不安げに言った。都市上空でハヤブサが旋回しながら敵機を待つ。
「まあ、何とかなるだろう。いや、何とかするのが能力者だね」
 ドクター・ウェスト(ga0241)がいつもの何とも言えない口調で言った。だが、声色にわずかに怒気がこもっているのは以前、愛機を奪われたからだ。
「来た! 元々許さないけど、バグアめ、許さないぞ!」
 ドクター・ウェストが言った瞬間、空の一点が輝いた。

○02

 改造S−01がUPC基地目指して飛翔する。周囲の景色が崩れて流れていくほどの速度だった。センサーが必中を期するかのように作動してフレア弾を照準した。だが同時に空中に障害物を発見したらしくミサイルの発射準備が行われる。
 もっとも近い障害物は基地上空のKV2機だ。しかし最初に邪魔を始めたのは基地に設置された対空兵器だった。
 対空火器は改造S−01が射程外にもかかわらず発砲を始める。空中に弾をばらまき、進路を妨害、できればフォースフィールドを貫いて姿勢制御に悪影響を与えるのがUPCの狙いらしかった。
 対して改造S−01は基地上空のKV2機に放つはずだったミサイルを発射した。
 ミサイルは改造S−01のエネルギーを受け継ぎ、その上に自身の推進力を加えた。改造S−01から切り離された直後は遅れたものの、すぐに改造S−01を追い抜いていく。そして基地に到達する前に分裂した。
 ミサイルは1本に見えたが、複数のミサイルを束ねたものだった。子ミサイルの1本1本が基地の対空兵器に襲いかかる。
 進路クリア。
 対空兵器を潰してできた道を改造S−01は潜り抜けるように飛ぶ。
 この飛翔の前に立ち塞がるのは岩龍に搭乗する黒川丈一朗(ga0776)とロジーナに搭乗する藤田あやこ(ga0204)だった。

「なんてミサイル、でも狙いを間違えている。手強いのは対空兵器でなくて私たちよ」
 藤田機が基地低空から高空へ上昇する。敵機にアプローチするチャンスをうかがいながら藤田が気合いを入れる。
「戦場のウグイス嬢藤田背番号204、一発かまします。D−02でかっ飛ばしてやるわ」
「‥‥‥‥」
 フレア弾を野球ボールに、スナイパーライフルD−02をバットに見立てた軽口だったが、黒川は反応しない。
 コクピットで黒川は唇を引き結んでいる。それは故郷を思い出しているかのようにみえた。
 いま、脅威に晒され、黒川とその仲間が守ろうとしている都市は港湾都市という意味で黒川の故郷に似ていなくもない。黒川の故郷はあの東京だった。
 能力者の誰もかが改造S−01の飛来を感知したが、それを告げることはできなかった。言葉で告げるにはあまり速かった。
 煙幕銃を装備しているKVが改造S−01の進路に煙幕弾を放つとの改造S−01がフレア弾を放つのは同時だった。
 煙幕と弾幕で改造S−01にダメージを与え、機体制御力を削ぎ、墜落に追い込むのが能力者の作戦だった。が、それが仇となってフレア弾が煙幕の群雲に隠れてしまった。
 しかし雨雲から太陽が覗くようにフレア弾が炸裂、煙幕が吹き散らされた。熱波と爆風が基地を圧した。
 状況を察した黒川がボクサー特有の反射神経を活かしてフレア弾に向けて弾幕を張ったおかげだった。
 藤田機と黒川機は爆風に翻弄されて回頭すらできない。しかし改造S−01は爆風が自身を巻き込むよりも速く飛び、すでに基地所空を通過していた。

○03

 基地上空で生じたフレア弾の爆発光から改造S−01が現れるのをロサとドクター・ウェストは見ていた。敵機の速度があまりに速い上に彼我の距離が短すぎて、この時点で2人にもうやれることはほとんどなく、唯一できることといえば、ロサがレーザーライフルのトリガーを引くことだった。
 フレア弾が爆発した時点でドクター・ウェストは最初の作戦が失敗したことを察したらしく、ほぼ同時に装備していた各種ミサイルを放っていた。
 ドクター・ウェストのミサイルが改造S−01の進路を阻む。いや制限する。もとより機動力のない機体はドクター・ウェストの用意した罠から逃れられない。
 ミサイルポッドCが弾けた。内蔵されていたベアリングが空中に散らばった。
 改造S−01はベアリングの壁に突っ込んだ。
 機上でドクター・ウェストの目が細められ、見開かれる。
 改造S−01が赤く瞬いた。ベアリングがフォースフィールドを貫き、機体に食い込む。改造S−01は装甲をまき散らしながらこの空域を抜けようとする。
 だが、そんなことはロサに読まれている。ロサはレーザーライフルのトリガーを引き放しにしていた。改造S−01の鼻先にロサのレーザーが閃き、光の剣が改造S−01を両断したかのように見えた。
 だが、改造S−01の速度はレーザーライフルの照射時間に対して速すぎた。光の剣が装甲を貫き終わるよりも前に改造S−01は射線が逃れ、その機体には一直線の長い傷跡が刻み込まれた。

○04

 諦めも苦悶も口にする時間がなかったし、それらを口にするような者も空にはいなかった。
 アークがシュテルンに積んだありったけの武装を発射する。改造S−01の速度は変わらない。だが、能力者の罠の中にいることも変わらない。
 改造S−01にアーク機と榊機の火線が集中する。改造S−01は比較的弾幕の薄い方向へ機動を微調整して突破を図る。だが、被弾が重なり、改造S−01は空飛ぶ火だるまのようになってしまう。
(「‥‥まずい!」)
 アークと榊が同時にそんな表情になった。
 改造S−01は2人の懸念に答えるかのように大型ブースターの一部を排除した。
 莫大な運動エネルギーと質量を持った大型ブースターが都市へ隕石のように落下する。
 アーク機と榊機は即座に機体を反転、落下する大型ブースターに取り付くために降下を始める。
 ほんの刹那の昔、改造S−01に向けられていた火線が残骸、捨てられた大型ブースターに向けられる。
 非道を責める心の持ち主はいても、それを口にする余裕がこの空にはなかった。

○05

 改造S−01は大型ブースターの一部を排除して都市へめがけて落下させると、余っているミサイルを放った。改造S−01の行く手を阻むKVはもはやわずか2機だ。この2機をすり抜けたら拠点に戻るなり、再アプローチするなりすればいい。
 ここまで弾幕の壁を張られたようにミサイルが分裂する。今度は能力者が弾幕を張られて行動を阻害される役回りだった。
 ミサイルが弾けて子ミサイルが空を覆うはずだったが、往生際が悪いとでもいうように分裂ミサイルは弾ける前に撃破された。
 撃破されたミサイルの生んだ煙を突っ切るように春風のアンジェリカが飛翔する。レーザー砲のセンサーが改造S−01を睨み付けた。
 恐慌に陥ったかのように改造S−01は残っている大型ブースターを排除した。そしてブースター炎を吐きながら海に向かって飛ぶ。
 それは「まるで人間は人間を見捨てられないだろう」と嘲笑するかのようだった。
「――先は読めてますよ。きみは手数が少なすぎる」
 春風が敵機を叱責した。春風機が大落下する大型ブースターに火力を集中する。大型ブースターはレーザーでずたずたに引き裂かれ、細かな破片となって散っていく。春風は呼びかける。
「飛べ、ハヤブサ! 狭間くん、これで終わりにするんです!」
「はい!!」
 海へ逃げる改造S−01に上空から狭間のハヤブサが襲いかかった。
「逃がさない、追いつける。追いつくぞ」
 狭間はブースターを使用する。ドンッという衝撃と同時に身体がシートにめり込んだ。
「確実に倒す。僕のハヤブサならまだいける」
 ハヤブサの主翼や機体表面が光に覆われる。ハヤブサの機体依存特殊能力、翼面超伝導流体摩擦装置がさらなる速度を与える。
 狭間機が改造S−01を追い抜いた。
 改造S−01は両断される。二分割された機体が海に飛び込み、水柱を盛大に上げた。

○06

 戦いは終わった。空に平和が戻る。そこに榊からの無線が入る。切迫した声音だった。
「救助部隊をお願いします! アークさんが危ない。墜落しました――」
 しかし、
「アーちゃんですよっ? そう呼んでってお願いしたはずですよっ」
 アーちゃんことアークの安穏な無線が入った。榊が困惑した様子で、同時に安堵した声で返す。
「ぶ、ぶ、無事だったんですか。よかった、本当によかった」
 上空の能力者は気になってアーク機の墜落したポイントへ向かった。
 なるほどアーク機はビル街の中にある公園で横倒しになっていた。どうやら落下の被害を減らすために大型ブースターを破壊したところ、大きな破片がビルに突っ込みにそうになり、アークがシュテルンの垂直離着陸能力を駆使して超低空飛行をして機体を盾に受け止めたようだ。
「ふふふ。アーちゃんをほめて下さいね、落ちてきたブースターの破片を受け止めたんですから。ほーら頭なでなでして」
 けひゃひゃひゃひゃとドクター・ウェストが笑う。
「よくやった。我が輩がご褒美に明日はいらぬと思うほどなでなでしてやろう」
「うん。なでる価値あるね。みんななでよう」と藤田が同意した。
 するとロサが指を折って首を傾げた。
「‥‥7回攻撃か。頭を撫でられるのも厳しいものがあるな」
「‥‥禿げてしまいそうだな」と黒川が相づちをうった。
 そのあいづちにアークが「ひゃあ」と声を出した。
 上空の能力者はアークの頭を守る仕草を想像したらしく一斉に吹き出した。