タイトル:求む、新メニュー!マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/11 08:19

●オープニング本文


 ドローム社傘下のとある食品製造会社で会議が行われていた。
 会議室の円卓にはこの会社がUPC北中央軍に納めているコンバットレーションが並べられていた。各部門の幹部たちはそれらに口をつけてみた。この会社では品質を維持するために定期的に幹部を含めた社員が試食を行っていた。
 試食のおかげか兵士からのこの会社のコンバットレーションの評判は良く、大規模作戦などでUPC北中央軍の部隊が他の地域へ派遣されると、その地域の部隊の兵士からコンバットレーションの交換を持ちかけられるほどだった
 幹部の1人がいった。
「相変わらずの味だ。品質は安定しているようだな」
 この幹部の席にはコンバットレーションが2個並べられていた。同じコンバットレーションだが、片方は暖められており湯気を発していたが、もう片方は包装をはがしたばかりで冷めたままだった。どちらにも手をつけたあとがあった。
「冷めても暖かくてもけっこう食べられますね」と幹部の1人が主食のクラッカーを副食のシチューに浸し、さらに付属のタバスコを加えながらいった。「しかしいささか飽きの来る味です」
 すでに試食は何十回と行われいてた。この会社の幹部たちは軒並み太めなのだが、それは高カロリーのコンバットレーションの試食を頻繁に行うせいだとされていた。
 コンバットレーションの味に幹部が飽きるならば、もっと頻繁に食べている兵士はすでに飽きているだろう。
 幹部たちはコンバットレーションを咀嚼しながら戦場の兵士たちのことをおもった。いまかみ砕いているコンバットレーションが最後の食事となった者も兵士のなかにはいるだろう。
 家族に軍人や傭兵のいる幹部たちは瞬きを繰り返したり、目尻にハンカチを当てた。
 社長がいった。
「メニューのバリエーションを増やす必要がある。戦士たちを食の面から支援するのが我が社の役目だ」
 製造部門の幹部が胸を張った。
「うちの技術ならばたいていのものを保存食にできます。生もの以外ならなんでもきて下さい」
 研究部門の幹部がいった。
「では意見調査ですね。どんなものが欲しいのか把握しなくては」
 営業部門の幹部がうなずいた。
「なら、まずULTを介して能力者から意見をもらいませんか。彼らは世界各地の戦線を転戦して回っていますし、彼ら自身も様々な文化圏の人間です。総合的な意見を採れるかもしれません」

 ULTのオペレーターはいった。
「食品製造会社の意見調査に協力して下さい。この会社はコンバットコンバットレーションを製造しています。コンバットレーションには当たり外れがありますが、この会社の製品はアタリといわれています。私も何度か食べましたが、悪くはありませんでした」
「意見調査の主旨ですが、依頼主はメニューを増やしたいそうです。能力者は様々な種類の人間で構成されていますから意見を採るのに適しているという判断です」
「意見調査会場はラストホープにある支社ですから特に危険などないでしょう。しかし依頼の性質上、結果は我々が受けることになります。戦場でコンバットレーションのパックを開けた瞬間に卒倒するハメに陥らないよう心して依頼をこなして下さい」

●参加者一覧

チャペル・ローズマリィ(ga0050
16歳・♀・SN
石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
戌亥 ユキ(ga3014
17歳・♀・JG
ブレイズ・S・イーグル(ga7498
27歳・♂・AA
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
神崎 聖弥(gb1851
19歳・♂・DF

●リプレイ本文

●期待

 会議室の片側は一面の窓だった。朝のさわやかな光が会議室に注ぎ込まれ、テーブルクロスのかけられた食卓や座り心地の良さそうな椅子を浮かび上がらせた。
「セッティングはこんなものか」
 レーション製造会社の幹部社員は周囲を見回してそういった。
 今日はこの会議室で調査会が行われる。能力者にきてもらってレーションの新メニューについて意見を聴くことになっている。能力者からレーションを試食したい、試作品を持ち込みたいという声があがったので、会場を食事に適した場所にセッティングし直してみた。
「さてどんな意見がでるのか楽しみだ。しかし怖くもあるな」
 幹部社員がそうい独り言をもらしたとき、内線電話が鳴って能力者の来訪を知らせた。

●試食

 食堂のようにセッティングされた会場に能力者たちは招かれた。
 歓迎の言葉を述べる幹部社員をみて黒川丈一朗(ga0776)はおもった。
(「レーションばかり食べてるとこういう体型になるのか。今度からレーション食べるときは半分ぐらい残そう」)
 幹部社員は黒川の視線に気づいたらしくいった。
「弊社では商品の品質を保つために定期的に社員が試食を行っています。いかせんコンバットレーションですからカロリーが高く、うっかりするとこのざまです」
 幹部社員は太鼓腹を叩いた。
「ダイエットや美容に関しては保証できかねますが、カロリーの量については安心して下さい。しっかり戦えるだけのカロリーが入ってます。私の腹の肉が証明です」
 そういって幹部社員は胸を張ったが、黒川には腹を突き出したようにしかみえない。元プロボクサーでいまでも心の芯がボクサーの黒川にとって腹の肉で品質を証明されても困惑するばかりだ。
 風代 律子(ga7966)がいった。
「カロリーは了解したわ。それははいいとして試食をさせてもらえないかしら。実物を口にすればより的確な意見をいえるでしょうし、私見だけど場合によっては食感が重要になるわ」
 石動 小夜子(ga0121)が相づちをうった。
「そうですね。味付けの基準や傾向等も判るでしょうから」
 幹部社員はうなずいた。おいしいものを食べられそうだと期待している戌亥 ユキ(ga3014)が小さな歓声を上げた。
 食卓についた能力者のまえにこの会社の製造しているレーションが並べられた。この会社のレーションは共通品と付属品を組み合わせるようになっていて、付属品は全10種類あった。その全てが8人分揃えられていたので食卓は小山のようだった。
 能力者はそれぞれの好みのものをとった。
 風代は共通品からチョコレートバーを取り出した。風代はかつて特殊工作部隊に所属していた。そのときこのようなバー状の携行食を使用したものだ。チョコレートバーの保存期間を確認しながらいった。
「このレーションは潜入作戦よりも基地の備蓄や安全な陣地での使用に適しているようね。それはそうとこのバーは‥‥」
 チョコレートバーを噛んで風代は眉をよせた。味は特にいうべきことはない。しかし異様にバーが粘着している。風代は前歯の裏側についたチョコレートを舌先で攻撃した。やっつけてから幹部社員にいった。
「食べると口の中がモソモソするものや、中途半端にドロドロしていて飲み込みにくいものは改良して欲しいわね。もちろんこのチョコバーみたいに粘性が高すぎるものもね。さすがに食べやすさについては緊張状態にあるからこそ考慮して欲しいわ」
 すみやかな栄養補給が必要ですしねと幹部社員がこたえるのを風代は奥歯に付着したチョコレートをはがしながら聞いた。
「ご飯って大事だよね。武士は食わねど高楊枝っていうくらいだしね」
 チャペル・ローズマリィ(ga0050)はいいながらレーションの山から好みのものを探した。ブレイズ・S・イーグル(ga7498)が相づちをうつ。
「‥‥腹が減っては戦はできぬ、だ」
「あははは。そうだったね」とローズマリィはほほをかいた。「あれ、ロールキャベツはあるんだ。豆腐ハンバーグもあるかな」
 ローズマリィは新メニューとしてローストビーフ、ロールキャベツ、豆腐ハンバーグの提案を考えていた。実物まで用意している。
 米軍にいたころを思い出しながらイーグルはいった。
「豆腐ハンバーグか。いかにもありそうだな。軍にはいろいろな主義や思想、宗教の持ち主がいる」
 幹部社員はうなずき、菜食主義者向けに少数だが生産しているといった。味はいかがですか、とイーグルに首を傾げた。
 イーグルは自作のレーションを思い返していった。イーグルは今日のために自分流のレーションを作成していた。
「悪くない。だが、クラッカーでは腹持ちが悪い。やはり米飯を導入すべきだ」
「私もクラッカーはいやかな」と戌亥がいった。「もさもさするし、口の中の水分全部とられちゃう感じですきじゃないなぁ。代わりにホットケーキとかどう?」
 なるほどと幹部社員はうなずき、食感の件もありますからホットケーキに近いパンなどは良いかもしれませんとこたえた。
 すると戌亥は目をキラキラさせた。ホットケーキが大好きだからだ。勢いに乗ってさらに提案してみる。
「なら、次はラスクはどうかな。ガーリックラスクとかサクサクでいい感じだとおもうの」
 黒川があごをなぜた。
「ガーリックラスクとホットケーキの二択ならホットケーキがいい。‥‥あっさりしたものがいいということだ」
 味見したレーションを黒川は一瞥した。
「やっぱり俺にはちょっと味付けがしつこいようだな。それに少し脂っこい気がする」
 新条 拓那(ga1294)は黒川に同調してみた。
「身体を動かす時に食べるものだからいま食べると味が濃いのだろう。といいたいけれど、これは微調整が必要かもね。‥‥あとでサンプルを作ってみるから参考にしてほしいな」
 能力者たちの幾人かは実物を意見として提出しようとしていた。新条のその1人だ。
「あら」と石動がいった。「ぜひお手伝いさせて下さい。一緒のお台所に立てる機会なんてそう無いので」
 新条と石動がごく親しいもの同士のやりとりをしている横で神崎 聖弥(gb1851)はいった。
「こうなんというかゼリー状のものはありませんか。例えば、チューブに入っていて吸い出すようなものがあれば、都合良いとおもうんです」
「それはいい。いかにも食べやすそうだし、消化も良さそうだ」と風代。
 意見が一通りでたところで石動がいった。
「ではそろそろ私たちからの提案といきましょう」
 サンプルを用意していた能力者が立ち上がった。

●試食2

「なにやら賑々しくなってきましたね」
 食卓に料理が並んで幹部社員はいった。
 幹部社員と仲間からの注目を受けて石動が顔を赤らめた。
「不束ながら力を奮わせていただきました」
「謙遜することはないよ」と新条がいうと、石動はさらに赤くなった。
 神崎がこほんと咳をしてみた。イーグルがうなずいて重々しくいった。
「では、それぞれの力をみせてもらおうか」
 なんとなく言い方が物々しい。今回の依頼は勝ち負けを競うものではないが、料理自慢のイーグルとしてはおもわず熱くなってしまう。料理もサンプルとはいえ腕をふるってしまった。
 幹部社員はいった。
「まずはこちらの丼物からいただきましょう」
 石動の作った牛丼と親子丼に幹部社員は口をつけた。
「味の加減はいかがですか?」
 石動はおそるおそる尋ねた。
「結構なお味です。日本風であっさりした味付けですが、具材のおかげでがっちりにお腹にたまります。‥‥‥‥日本で展開しているUPCに喜ばれそうですね」
 石動はほめられてほほを染めた。照れ臭くてもじもじしながら「そのときは漬け物などを加えるともっと喜んでもらえるとおもいます」と言い添えた。
「さて次は俺だ」と新条はいった。
 食卓にドライカレー、蒸し鶏の包み、チョコバー、粉茶が並んだ。
「ま、男の料理なんてのは大雑把って相場が決まってるけどね。これで結構味はいいんだよ? 食べてくれる人がいるなら尚更」
 彩りも鮮やか、盛り付けも丁寧な料理に戌亥が歓声をあげた。
「食事は目でも舌でも楽しめなくちゃ。華があるね。さすが2人の愛の結晶」
 お茶をついでいた石動が急須を落としそうになり、新条が「ははは。照れるね」と笑った。
 能力者はこの建物の厨房を借りたのだが、腕をふるう新条をかいがいしく助ける石動を戌亥は目撃していた。
 さてと新条はまじめな顔になって幹部社員に感想を尋ねた。
「見事なお手並みです。保存方法にレトルトパックをすすめておられましたが、缶詰にして加熱器をつけるといいかもしれません。これは家庭をおもわせる良い料理です。火でちゃんと暖めれば、心理的な疲れもとれるかもしれません。‥‥ところで黒川さん、この味はいかがでしょう。濃すぎませんか」
「大丈夫だ。戦闘食だからこの程度ならむしろちょうど良いくらいではないか。結構なものを食べられた」
 黒川がそのようにこたえると、ローズマリィが料理をすすめ、注目を促した。
「私の料理はローストビーフ、ロールキャベツ、それに豆腐ハンバーグよ。でも注目してほしいのはどれもソースをかける料理ということよ。こういうソースをかける料理ならソースをペースト状にしたものを加えることで味の調整がきくわ」
「なるほど」と風代がいった。「戦場では胃がものを受け付けないほど緊張することもあるわ。そんなときに無理矢理食べるためにもいいわね。これはいささかネガティブな使い方だけど」
 黒川も意見を口にする。
「無理矢理といえばサバイバルに備えてカレー粉を添付するのはどうだろう。野生動物の肉はすさまじい臭いだが、カレー粉があれば臭いを消せてなんとか食べられるだろう。普段の味の調整もできるから使いどころがおおい」
 幹部社員は深くうなずいた。
「重要な指摘です。我が社は美味しさを追求しているせいで生きるために無理矢理でも食べることが疎かになっていたかもしれません。‥‥‥‥カレー粉に関してはエマージェンシーキットを製造する会社にも提案してみましょう」
「次は俺だな」とイーグルはいうと、食卓にどさりと箱を置いた。
「フッ‥‥このSurviver(仮)さえあれば例え鉄の雨やプロトン砲が降ろうと生き残れる! ‥‥‥‥筈」
 これを全部作ったんですかと神崎が段ボールをのぞき込んでいった。中にはイーグル手製のレーションがあった。主食のリゾット、パエリア、中華丼などの缶詰と、副食のチキンのクリーム煮、麻婆茄子、がめ煮などの缶詰がみなに配られた。
 イーグル以外の全員が種類の豊富さにうめいた。それぞれが味わいを楽しむなか、幹部社員がいった。
「東西の料理が揃っています。この種類の豊富さは反映させるべきでしょう。なにしろUPCには様々な人間がいますから」
 持ち寄られた料理を楽しむなか、室内にチーズの匂いが漂い始めた。食卓にはいつのまにかチーズフォンデュの鍋が設置されていた。
 戌亥がみなに串を配っていった。
「最後はこれ! じゃかじゃんッ! チーズぅ! そのままでも食べられるけど、みんなの分を集めて鍋に入れて‥‥チーズフォンデュ! あ、ワインは抜き。牛乳でね。みんなで囲んで食べれば連帯感もアップだよ」
 レーションに入っていたソーセージに串を刺しながら神崎がいった。
「なるほど。レーションとは違いますが、これはみんなで鍋を囲むみたいで良いレクリエーションになります」
「もっともです」と幹部社員。「ですが、今までとは大幅に方向性の異なる新機軸となります」
「新しいついでに」と神崎は微笑み、幹部社員にいった。
「生ものを取り入れるのはいかがでしょう。新鮮な食物は健康に不可欠です」
「それは難しい。戦場に届くまえに腐ってしまいます」
「新鮮な肉なら戦場にいますよ。しかし料理の不得手な者もいますから調理キットと調味料は必要でしょう。キメラを調理してこのように車座になって食べるには」

●終わって

「神崎君はもう悪食な人にしかみえないよ」
「ひどいですね。一応、ちゃんとした提案なんですよ」
 帰り道。ローズマリィは神崎に舌を出すと、神崎は口をとがらせた。
 キメラを食べる発言のせいでからかわれているのだ。
「こんどジャンク料理のお店紹介してね」
「そんなものを知りませんって。あ、でもキメラを食べたことのある人というのは、結構いるらしいですよ。元になってる動物が食べられるならキメラも食べられるとか。なら、牛や豚だとおいしいんですかね」
「ほら、やっぱり」
「なにがやっぱりですか。でも、キメラが本当に食べられるなら、生き物が存在しない戦場でも非常食として役立ちますし、処理もできて一石二鳥じゃないですか。では今度、食べられそうなキメラの討伐依頼を受けたら、本当に食べられるかどうか試してみましょう」
 神崎の抗議の声をきいて黒川は口元をゆるめた。賑々しく会話しながら能力者は依頼達成の報告のためにULTへ向かうなか、黒川は依頼人のビルを振り返った。
 あそこにも戦っている人がいるとおもった瞬間、幹部社員のたっぷんとしたお腹と食欲を思い出して黒川は苦笑をもらした。