タイトル:ペンギン・スライダーマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/19 06:28

●オープニング本文


 ぎらつく太陽がアメリカ西海岸の都市を白熱させる。群立つビルは漆黒の影を作り、陽炎のなかを名物のケーブルカーがのろのろと進む。あまりに暑いので路上の車やケーブルカーが溶けてしまいそうだった。
 都市に人気はない。あまりに暑いので冷房の効いたオフィスに人々は閉じこもっていた。けれども昼時になると食事を求めて人々がぽつりぽつりと姿を現した。
 太陽を避けて影伝いに歩く人々の一部は昼食を手に入れる前に涼しげで場違いなものを発見した。
「‥‥あれはペンギンか」
「動物園から逃げてきたのか。いや蜃気楼だろう、暑いからな」
 ペンギンの一団が整然とした足並みで歩道を歩いていた。交差点を渡ろうとして赤信号で立ち止まり、青信号になったら左右を確認してぱたぱたと歩いていく。
 ペンギンの列とケーブルカーがすれ違う。乗客が携帯電話をペンギンに向けた。すると大きめのペンギンがきっとケーブルカーのほうを向いて口から何かを吐いた。
 ペンギンの吐瀉物はグレネードのように放物線を描いて飛び、ケーブルカーの乗客席に入り込んだ。悲鳴と白煙が上がった。
「蜃気楼は砂漠だろう。地中海性気候のこの街には関係がないなんていってる場合じゃないな」
 通りすがりの人物は警察に連絡するために携帯電話を取り出した。するとこの人物に向かってペンギンの一団が一斉に向き直って嘴を開けた。ペンギンから一斉に吐瀉物が投射される。通りすがりの人物は反射的にそばのお店に飛び込んだ。
 街路が薄い白煙に包まれる。
 通りすがりの人物は腕をさすった。スーツから薄い氷がばらばらと落ちる。驚きながら着弾地点をこの人物がみると、そこは氷で覆われていた。ものを凍り付かせる弾丸を放つのか、涼しそうだとおもっていると、サイレンの音が近づいてくる。
 氷の蒸発する薄い煙に覆われた街路に複数のパトカーが現れる。ペンギンはパトカーに向かって冷凍弾を投射する。
 冷凍弾はパトカーの進路上で弾けた。白煙とともに氷が路面を覆った。パトカーは氷を踏んでスピン、路肩にぶつかって停まった。
 このあいだにペンギンの一団は腹ばいになって冷凍弾を前方へ発射した。氷の道を作るとふっくらしたお腹を使って滑り始めた。スケーターのように軽やかに加速してあっという間に人々の前から姿を消した。

 ULTのオペレーターは能力者にいった。
「ペンギン型キメラを撃破して下さい。ペンギン型キメラは冷凍弾と高速移動を使って都市の各所で暴れ回っています」
「警察が追跡していますが、捕捉できていません。ペンギン型キメラは冷凍弾で路面を凍結させます。これが追跡の難易度を上げています。この都市は丘陵や窪地の上に作られたので急な坂道が多く、路面を凍結させられると車では移動が難しくなるからです」
「いまのところ大きな人的被害は出ていませんが、このままペンギン型キメラの神出鬼没な攻撃が続けば、都市機能に影響が出るのは間違いありません。早急な撃破が望まれています」

●参加者一覧

御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
比企岩十郎(ga4886
30歳・♂・BM
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
鉄 迅(ga6843
23歳・♂・EL
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
ゴリ嶺汰(gb0130
29歳・♂・EP
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN

●リプレイ本文

●凍てつく夏

 街路から白煙が立つ。アスファルトは白いもので舗装されている。氷だ。
 氷で舗装し直された道路を何者かが疾走する。
 ペンギンの群だ。ペンギンは横たわり、すべすべのお腹で路面の氷を削りながら、滑走していた。
 ペンギンの前方に氷のない道路が現れる。すると先頭のペンギンが嘴を開いた。白いものが投射される。それは地面にアスファルトにぶつかると、弾けて周囲を白く凍てつかせた。冷凍弾だ。
 ペンギンの一団は街路を自分好みに舗装し直すと、自慢げに滑走する。氷の削られる鋭い音が響く。
 ペンギンの姿をしたキメラによって夏の太陽によって灼熱していた街は冷却されてゆく。
 ペンギンによって街は氷の世界と化すかのようにみえた。

●バリケード

「風が冷たい。ペンギン型キメラのせいか」
 市街の一角で御山・アキラ(ga0532)は土嚢を積み上げながらいった。土嚢はバリケードを作るためのものだ。
「涼しいですね。でもここまで冷えた空気が流れてくるとは。悠長なことはいってられませんね」
 鉄 迅(ga6843)はそうこたえた。
 ペンギン型キメラの移動方法は凍らせた道路を滑走することだ。ワイバーンのように翼があるわけでもなければ、ヘルメットワームのように慣性制御ができるわけでもない。坂から滑り降りるだけだ。
 いくら坂道の多い市街とはいえ、その移動方法では進行ルートは限られてしまうはずだ。この推論は御山と嵐 一人(gb1968)が裏付けた。2人が警察と接触したとき被害状況を入手した。被害状況を地図にポイントしていくと、ボブスレーかスキーのようなコースが形作られた。
 このコースから導かれた移動先が能力者たちのいるこの一角だ。ここでペンギンの移動を阻止して一網打尽にするつもりだ。
 ゴリ嶺汰(gb0130)が地図を広げていった。
 地図には2本の線がひかれている。1本はペンギン型キメラの進行予測ルートのものだ。もう1本は能力者のものだ。
「もう一本が先回り班のルートだ。この道のりがもっとも速くここまで到達できる」
 ペンギン型キメラの進路は予測できる。けれどもそれは予測に過ぎないから能力者は万全を期すためにペンギン型キメラを襲撃して確実にこのルートを進ませるつもりだった。もちろんペンギン型キメラはフォースフィールドを持っているのでバリケードは突破される可能性がある(速度を乗せた体当たりで吹き飛ばす!)。だから能力者全員でペンギン型キメラに襲撃をかけたあと、半分をバリケードを設置した地点に先回りさせることにした。
 先回り班の赤崎羽矢子(gb2140)が同じく先回り班の嵐をみた。嵐は大型バイク形態をとらせたリンドヴルムにもたれている。
「そのルートで嵐くんは通れるか。少しばかり道が狭そうだが」
 地図に示されたルートは最短距離だった。けれども途中で人間しか通れないような細い道を通過していた。
 嵐のクラスはドラグーンだ。ドラグーンはリンドヴルムのようなAU−KVの支援がないと真価を発揮できないから常にAU−KVを伴っている。
「いける」と嵐。「アーマー形態なら問題ない」
 大型バイクのフォルムならつっかえそうだが、アーマー形態に変形させて人型のフォルムになってしまえば、通れそうだった。
 ヒューイ・焔(ga8434)が警察からの無線を受けた。
「こちらにキメラが接近している。そろそろペンギン狩りといこうぜ」
「貴重な機会だな。面白いといえば、面白いか。‥‥そんなこともないか」と御山。
「ペンギンって和むし可愛いから、好きなんですが、今回のは、キメラですし、キッチリ退治しないといけませんね」というリゼット・ランドルフ(ga5171)に比企岩十郎(ga4886)がこたえた。
「あの姿は確かに愛らしいがな、残念ながらキメラだ。こっそり1匹持って帰るわけにもいかん」

●誘導

 ペンギン型キメラは凍てつかせた坂道を滑っていく。その行く先に1人の女性が現れた。
 赤い髪のこの女性は顔を伏せたままペンギンの行く手を阻むかのように立っている。
 ペンギン型キメラのなかで一回り大きいものが「キュウ」と鳴いた。するとそれまで一列縦隊を作っていたペンギン型キメラは一列横隊に並び直した。同時にすべてのペンギン型キメラの嘴が開く。冷凍弾発射の構えだ。
 ペンギン型キメラから冷凍弾が一斉発射された。白い弾体が弧を描いて飛ぶ。その瞬間、赤い髪の女性は顔をあげた。同時に背中から鷹のような翼が展開する。
「残念。ここはあんた達の居場所じゃないのよ。それを教えてあげる」
 赤い髪の女性。赤崎はそういってから瞬速縮地を使用、姿を消した。この直後、寸前まで赤崎のいた位置が氷漬けになった。
 赤崎の出現と消失にペンギン型キメラは戸惑っている暇はない。赤崎めがけて冷凍弾を撃ち込んでしまったから前方の道路をきちんと舗装できていない。ペンギン型キメラは再び冷凍弾を投射してアイスバーンを作った。
 ペンギン型キメラが再び移動しようとしたとき、ビルの影から比企が姿を現した。
「ペンギンだから鳥頭なのか。不注意だ、ペンギン型キメラよ」
 比企はバスタードソードを構えた。刀身にエミタからエネルギーが供給されているらしく余剰エネルギーの炎がまとわりついている。
(「よく使っている大口径ガトリング砲では町に穴を開けすぎる。だったら試してみるか、あの技を」)
「いくぞ、獅子咆哮!」
 比企のエミタのAIがスキル『真音獣斬』のモーションを発動する。同時に比企はバスタードソードを冷気を切り裂くように鋭く振った。刀身から衝撃波が放たれ、氷に地割れを作りながらペンギン型キメラに向かって飛んでいく。
 群の真ん中に衝撃波を叩き込まれてペンギン型キメラは混乱した。しかし身体は速度が乗っているので氷の上を滑っていく。
 ペンギン型キメラはコマのように回ったり、ボールのように転がったりしながら滑っていく。能力者に無様な姿をさらしたのだが、この姿にランドルフはきゅんとなった。
「ドジなペンギンさんですね。ますますかわいいですよ。でも!」
 金髪碧眼のお人形さんのようなランドルフは覚醒する。髪が黒く変色し、左手に蝶の形をした紋様があでやかに浮かび上がった。同時に右手がペンギン型キメラに向かって跳ね上がる。その手に握られた拳銃カプロイアM2007が熱い銃弾を吐きだした。
 建物の影から次々と能力者が現れ、ペンギン型キメラに攻撃を加える。ペンギン型キメラは奇襲を受けて混乱しているせいか能力者からの一方的な攻撃を受けている。しかし足場の悪さと滑るという高速移動のために能力者は確実な一撃をペンギン型キメラに与えられない。
 ペンギン型キメラのうち一回り大きな個体が「きゅうきゅうきゅう」と鳴いた。鳴くに従ってペンギンたちは統率を取り戻す。何匹か傷を負い、倒されたものの、ペンギン型キメラは能力者から逃れていく。逃走を取り戻して冷凍弾で舗装できるようになれば、ペンギン型キメラの移動能力は能力者をしのいでいた。なおも追いかけてくる能力者に対してペンギン型キメラは嘲笑するように一鳴した。
 ヒューイはペンギン型キメラを見送りながら無線機を手に取った。
「こちら追い込み班だ。待ち伏せ班、仕事だ。そちらにペンギン型キメラがいくぞ」

●再戦

「やあ。ペンギン型キメラ、また会ったわね」
 赤い線をひいて坂を下り続けるペンギン型キメラの群の前に再び、赤崎が立ち塞がった。赤崎だけではない。他にも能力者がいる。さらに能力者の背後には土嚢で作られたバリケードがあり、ペンギン型キメラの進路を妨害していた。
 リーダーとおもうわれる一回り大きいペンギン型キメラを嶺汰は見据えた。
「足は速いが、進行ルートは限定されている。飛んで火に入る夏のペンギンってか? ‥‥すまん。無駄口だった」
 その言葉が終わったとたん、嶺汰の腕にロングボウが現れる。
「いけぇっ!」
 鋭い気合いとともに嶺汰は弾頭矢を放った。
 白い爆発が起こる。周囲に砕かれた氷が飛び散る。そんな中で嵐がアサルトライフルを構える。
「‥‥さっさと南極へでもお帰り願うとするか!」
 嵐のアサルトライフルが銃弾を連射する。ペンギンにでなく路面にだ。弾丸は道を跳ねて飛び、道を覆っている氷に無数の亀裂が走った。
 銃弾によって地面が露出する。アスファルトの上ではペンギン型キメラは滑走することができない。ペンギン型キメラは見るからに焦った様子であわあわと歩き始めた。ペンギン型キメラはよちよち歩きで、周囲に逃げ込める路地がないか探す。
 そこに赤崎の声が響く。
「言ったでしょう。『ここはあんた達の居場所じゃないのよ』って」
 ペンギン型キメラが哀れを乞うかのように「きゅうきゅう」と鳴いた。けれどもそのとき路地の角から追い詰め班の能力者が姿を現した。

 ペンギン型キメラとの戦いが終わったあと、赤崎は首を傾げた。
「ペンギン型。。‥‥バグアは何の意図でそんなキメラ造ったんだか」
 この独白を聞いていたのは御山だった。御山は仲間を示した。
「なんだかちょっとだけ可哀想かも」とランドルフ。
「本当にペンギンの姿形をしていからな。哀れを誘う」と嶺汰。
 仲間の講評をきいて赤崎は、バグアは心理的効果を狙ったのかもしれないとおもった。
 御山は小さく肩を竦めた。
「今日みたいな敵の効果が認められたら、シェイドやステアーもかわいらしい姿にデザインし直されるかもな」