タイトル:熱くて冷たい一撃マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/19 05:51

●オープニング本文


 梅雨が終わって夏がやってきた。
 強烈な日差しが都市を白くする。空を見上げた人々は青空のまぶしさに目を細め、目を伏せれば、アスファルトから立ち上がってくる陽炎に戸惑った。人々は「雨でも降らないか」とおもった。
 そこに何かが飛んでくる。外にいた人々は頭上を過ぎていく飛行物体を目で追った。日差しが飛行物体に当たってきらりと輝かせた。
 ミサイルとかバグアの攻撃とか考えるまえに人々はその飛行物体を水晶のようだとおもった。暑くて頭が回っていなかった。
 飛行物体がビルに着弾する。
 路上で空を見上げていた人々は首をすくめた。我に返る。ガラス片なのかきらきらしたものが空から降ってくる。人々は反射的に頭を腕でかばった。そして人々は瞬きした。
「‥‥冷たい!?」
 降ってきた欠片はアスファルトの上で白い煙を放ち、やがて液体になり、蒸発して消えた。
 この都市から南方へ数キロいったところに寂れた港町があった。その海、防波堤の内側が白熱していた。
 港街の人々は海から放たれる白熱のせいで建物の外に出られない。カーテンの隙間から海をうかがう。強烈な日差しで白くなっていく視界にヘルメットワームらしき姿が映る。
 そのヘルメットワームは胴体の右側面に傘のようなものを、さらに胴体中央から砲身らしきものを装備している。
 砲身が動いてどこかに狙いを定めたようだった。すると傘が放熱を始めたらしく周囲から陽炎が上がった。人々がどうなるかとおもった瞬間、骨の震える大音響とともに砲身が火を吹いた。
 弾体が白い線をひきながら飛んでいく。

 ブリフィーングルームでULTのオペレーターがいった。
「UPCからの依頼です。砲戦型ヘルメットワームの撃破を支援して下さい。今回の標的は凍結させた海水を弾体として投射しています」
「セオリーならばKVで戦う場面ですが、今回のヘルメットワームは防波堤を人質にとっているので行えません。現在の海は穏やかですが、すぐに台風の季節がやってきます。防波堤を破壊されたら周辺住民の今後の生活に支障を来します」
「そこでヘルメットワームを他の戦域へ移動させて、そこで撃破することになりました。このためにUPCは兵士に攻撃させようとしましたが、ここに問題がありました」
「海水を凍結させるせいで周囲が高温になっています。近寄ったら燃え上がるような高温ではありませんが、一般人の兵士では満足な活動を行えません。だから能力者の出番です。一般人を超越した身体能力を持つ能力者にふさわしい状況といえるでしょう」
「ヘルメットワームに打撃を与えたあとはUPCの仕事です。UPCが戦闘可能な場所にヘルメットワームを誘導して撃破します」
「さて暑い盛りにもっと暑いところにいく任務ですが、能力者にしかできない任務ですので、がんばって下さい。あなた方は必要とされています」

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
並木仁菜(ga6685
19歳・♀・SN
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP

●リプレイ本文

 海に面した丘は樹木で覆い隠されていた。これらの樹木に紛れるものがあった。植物を模したカモフラージュを被せられたLM−01スカイスクレイパーだ。カモフラージュで隠された機体にはUPCのエンブレムが記されている。
 UPC所属のスカイスクレイパーの見下ろす先には漁港がある。漁港は堤防で外海と区切られているのだが、堤防の内側に1機の中型ヘルメットワームがいた。
 このヘルメットワームは都市部へ砲撃を行っている。海水を氷結して弾体を作り出し、投射していた。
 幸いにもいまのところ大きな被害は出ていないが、放置すれば重大な損害を生み出すことは明白だった。しかしUPCはこのヘルメットワームに手を出しかねていた。
 ヘルメットワームは次の弾体を作り出すために海水の冷却を始めた。機体に設置された放熱ファンから熱が放射される。海面に陽炎が立ち上がる。ヘルメットワームの後方にある堤防の姿がにじむ。
 堤防のせいでUPCはヘルメットワームに攻撃できない。相手がヘルメットワームならばKVで追い落としてしまえばいい。けれどもこの場で戦えば、ヘルメットワームの後方にある堤防が破壊されてしまう。この堤防は台風の訪れる季節に波から漁港を守るものだ。ヘルメットワームを撃破できても堤防を失ってしまったら結局は漁港の人々が傷つくことになる。本末転倒だ。
 だからUPCはヘルメットワームを漁港の外に誘い出すことにした。襲撃をかけて漁港から追い出し、戦闘を行っても被害を受ける者のいない海上で撃破することにした。
 丘に隠れているスカイスクレイパーの役割はヘルメットワームの撤退を友軍に素早く連絡するためだった。パイロットは漁港をみて緊張した。というのは2台のボートが現れたからだ。ヘルメットワームを追いやるとしてもKVが使えないので生身でやらざるえない。あのボートには生身でヘルメットワームと戦うことを買って出た勇敢な能力者が乗っているはずだった。

 ヴァシュカ(ga7064)はボートを操縦しながら視線を横に走らせた。石動 小夜子(ga0121)の操縦するボートが並走している。
 能力者は射撃班と近接攻撃班の2つの班に分かれた。ヴァシュカのボートは射撃班で海上から遠距離攻撃を仕掛けることになっていた。石動のボートは近接攻撃班でヘルメットワームの機上に乗り込んで攻撃することになっていた。
 そろそろ戦闘に突入だ。ヴァシュカは石動に向けて手をあげた。石動がかすかにうなずいたのがみえた。同時に近接攻撃班のボートは波を蹴立て、ヴァシュカのボートから離れていく。
 ヴァシュカのボート、射撃班はヘルメットワームの右側面に回り込む予定だ。右側面には放熱ファンがあるからだ。射撃班が攻撃してヘルメットワームの気をひいているうちに近接攻撃班がヘルメットワームの機上に上陸することになっていた。
 アルビノのヴァシュカはサングラスを指で押さえた。
「‥‥並木さん、日傘をありがとう。そろそろ戦闘突入です」
「はい。さっさとやっつけて海水浴でもしましょう」
 並木仁菜(ga6685)は用意しておいた日傘でヴァシュカのために日陰を作っていた。ヴァシュカは極端に色素が薄いので気を利かせて用意しておいた。
「‥‥海水浴ですか。ボクの場合、塩っ気でヒリヒリしそうです」
 九条・命(ga0148)もまた得物を取り上げた。九条は近接戦闘を好む種類の戦士だが、今回は小銃「M92F」を用意していた。さすがに船の上から打撃は届かない。しかし近接戦のために鍛えた九条の下半身は姿勢を安定させて的確な射撃の役に立ってくれそうだった。
 波を打つ海上で九条の姿勢は地上と大差なく安定していたが、その内面はいらだっていた。
(「‥‥くう。暑い。‥‥かき氷、冷たいものがほしい。‥‥いかん、暑くて集中し難いぞ」)
 九条は頭を振った。ボートに乗る前に氷水を被ってきたが、すっかり渇いてしまっている。水の代わりに汗が飛び散った。
 三島玲奈(ga3848)も暑くて仕方なかった。セーラー服を脱ぎ捨て水着になる。そのままアンチマテリアルライフルを構えた。裸の肩に銃ががっしりと食い込む。その感触に戦闘を感じ取って三島はびくりとした。それを吹き飛ばすようにいった。
「おとなし目のスク水が良かったか? うふっ☆がらポンのい・け・ず」
「露出願望をクジ運の悪さに責任転嫁するのはどうかとおもうが」
 九条が冷静な声で突っ込んだ。暑さにうんざりしているものの、やはり戦闘が近づくと少しずつ普段の自分が戻ってくる。
 九条はヘルメットワームへ視線を飛ばした。陽炎で視界が良くないが、いまの目測でも三島のアンチマテリアルライフルの射程まであと数十秒だろう。仲間に声をかける。
「よし。そろそろだな。‥‥‥‥並木、罠はいつ仕掛ける?」
「まだ遠いです。もう少し近づいてから流します」
 並木は用意しておいた網と縄に触れた。ヘルメットワームの吸水口に流して詰まらせてしまおうという作戦だった。効果は不明だが、上手くすればヘルメットワームの弾体を作り出す機能を封じられる。。
 近接戦闘班のボートがヘルメットワームの左側面に入ろうとしている。これをみてヴァシュカは九条を振り向いた。
 攻撃開始だ。
 九条の宣言と同時に三島のアンチマテリアルライフルが空を割るような轟音を放った。

 新条 拓那(ga1294)は潮風に戦闘の気配が混ざったのに気づいた。ボートを操縦している恋人の石動にいう。
「小夜子、伏せて。目を焼かれてしまう」
 言い終わった瞬間、ヘルメットワームの放熱ファンが爆発した。かのように近接攻撃班にみえた。
 射撃班が放熱ファンに向けて次々と弾丸を浴びせている。射撃班の攻撃が着弾するたびに放熱ファンの表面で火球が弾けた。SES搭載武器の余剰エネルギーが飛び散って海上に湯気が立った。
 近接攻撃班のみる前でヘルメットワームは回頭し始めた。ヘルメットワームは砲口を射撃班に向けようとするが、射撃班は波を蹴立てて砲口から逃れてしまう。
 リュドレイク(ga8720)が鬼蛍を抜刀した。
「側面が空きました。これはチャンスでしょうか」
 ヘルメットワームはどうしても射撃班を捉えたいらしく回頭を続けていた。このせいでヘルメットワームの左側面が近接攻撃班に露出している。無防備の左側面は控えめにいっても「旨そうに」みえた。
「胡散臭い」と南雲 莞爾(ga4272)が眼前の光景を斬って捨てた。でその口で「だが突っ込むのも面白いだろう」
 南雲は武器を取り上げながら海面に視線を飛ばした。海面下に潜む伏兵を探すが、いまのところは影も形もない。
 スキル『探査の眼』を持つリュドレイクはいった。
「おれの目にも伏兵は映っていません。ボートは俺が守りますから一気に攻勢をかけるのも手かもしれません」
 海面から離れたリュドレイクの目は射撃班を追っていた。射撃班はヘルメットワームの射線から上手く逃げているが、砲口に晒されているのはひどい気分だろうと想像できた。
 新条がうなずいた。
「こんな炎熱地獄からはさっさと抜け出さないとね。この調子じゃ干物になってしまうよ。やってしまおう」
 瞬天速を持つ新条と南雲は近接攻撃班の中で際だった移動力を持っている。2人はリュドレイクと石動にボートを任せてヘルメットワームにとりつこうとした。
 その前に石動が新条にささやいた。
「あまり無茶をなさらないように。最近怪我をすることが多いので心配です」
「大丈夫。特に今日は大丈夫だ。きみがサポートしてくるから」
 新条はそういってヘルメットワームと自分の距離を目測した。ツーハンドソードを肩にかけて跳躍する体勢をとる。

「ヴァシュカ、ターンだ。堤防が射線に入ってしまう!」
 九条が注意を呼びかけた。
 射撃班はヘルメットワームに捕捉されている。ヘルメットワームの砲口に追いかけられている。これを近接攻撃班の付け入る隙とみて引きつけていたが、これ以上ヘルメットワームに回頭を許すと砲撃された際に弾体が堤防に突き抜けていく可能性がある。
 ヴァシュカは焦った。
(「堤防は大事だけど、ターンしたら格好の的ですよ」)
 ヴァシュカがヘルメットワームならばボートのターンした瞬間を狙う。ターンした瞬間は速度が極度に下がり、動かない的同然になるからだ。
 九条も同じ焦りを感じていた。砲身を狙ってみるが、着弾するも相変わらずヘルメットワームは捕捉してきて、どうやら効果がなかったとわかった。
 そのとき、ヘルメットワームの機上に影が現れる。射撃班は伏兵のキメラかと焦った。
「氷の弾丸なんざ俺達がカキ氷にしてやるよ。さっさと飛んでけ、灼熱製氷機!」
「‥‥‥‥辟易する暑さだ。短期決戦、いくぞ!」
 新条と南雲だ。射撃班のみえない側に近接攻撃班のボートが接近したらしく、一足遅れてリュドレイクもヘルメットワームに飛び移った。
 砲身の延長線上に射撃班と堤防があるのにリュドレイクは気づいた。リュドレイクは得物の鬼蛍に力を注ぎ込みながら砲身へ飛びついた。
 鬼蛍が余剰エネルギーの炎をあげ、断末魔のような悲鳴を放った。リュドレイクは砲身に紅蓮衝撃を叩きつけた。
「またつまらぬものを斬ってしまった。‥‥おっと斬れていませんね。ならもう一度だ!」
 リュドレイクは再び鬼蛍を構えた。

 近接攻撃班の活躍をみてヴァシュカはボートをターンさせた。砲口と目が合った気がして一瞬ひやりとしたが、氷の塊を撃ち込まれて心身ともにひんやりするようなことはなかった。
 ヘルメットワームは機上の能力者がうっとうしいのか機体を傾けて振り落とそうとしている。
「あなたの敵はこっちにいますよ」
 並木はヘルメットワームに矢を撃ち込んだ。狙った場所は放熱ファンだ。放熱ファンは機体から大きく出っ張っているので外れる心配はないし、味方に誤射する心配はない。
「あれ? なんだか網も綱も使う間がないかも」
「そういうこともあるって。それよりも撃て! 万国の能力者! 一丸となれ!」と三島。
「それにしても命中率がいい。あれだけデカイ的だと外れない」と九条。
 ヘルメットワームは機体を傾けてまとわりついている能力者を海へ落とそうとする。けれども能力者たちは得物を機体に差し込んで杭代わりにして落下を免れていた。
 ヘルメットワームが傾くと放熱ファンの付け根が射撃班に露わになった。付け根はすでに近接攻撃班によって損傷を受けている。
「わてに急所をみせたらいかんわ。そんなおいしいところ突かないわけにはいかんやろ?」
 三島が放熱ファンの損傷箇所をアンチマテリアルライフルで照準した。三島の戦意に反応してエミタがアンチマテリアルライフルにエネルギーを注ぎ込み始めた。そして引き金が引かれた瞬間、弾丸は光の剣のような余剰エネルギーの筋を作りながら放熱ファンの付け根に命中した。

「そろそろだな。みんな退避するぞ」
 南雲は機上の仲間に呼びかけた。なんだか浮遊感を感じるとおもえば、ヘルメットワームは浮上を始めていた。どうやら逃げるのだとおもわれた。
 ヘルメットワームにまとわりついていた能力者はとりあえず海に飛び込む。
 海水は熱くなっていたのでリュドレイクが悲鳴をあげた。
 石動はボートを能力者にまわす。立ち泳ぎしていた新条を回収する。すると新条は石動ににやりと笑ってみせた。
「ご覧のとおり、きみのおかげで無事さ」
 その上空ではヘルメットワームが逃げようとしていた。その機体から放熱ファンが剥落し、海面に激突するまえに自爆機構を発動させて四散した。
 海を潰すかのような大音響が空から降ってきた。同時に能力者にとって見覚えのあるものが姿を現した。それはKVの編隊だった。UPCのものだ。
 UPCのKV編隊は傷ついたヘルメットワームは海上へ追いやり始めた。
 九条は消えていくKV編隊を見送ったあと、堤防をみた。堤防には損傷らしきものは見当たらない。九条は息を吐いた。
「ようやく終わりましたね。短い戦闘でしたが、長く感じられました。暑かったせいでしょうか」ヴァシュカはいいながら並木の用意してくれた日傘を差した。「それにしてもヘルメットワームを倒したというのにまだ暑いです」
 戦闘の緊張から解放された並木が背を伸ばした。
「せっかく海ですから泳いじゃってもいいですか」
「わても泳ぎたい。暑くてかなわんしね」
 いいながら三島と並木は立ち上がった。九条の「やめておけ」という制止が届く前に2人は海に飛び込み、声をあげて船上に戻ってきた。
 海水はいまだに熱湯のようだった。2人は「ひりひりする!」と涙目になった。
 九条とヴァシュカは肩を竦めた。
「ふふふふ。かき氷でも食べたいですね」というヴァシュカに九条はこたえた。
「漁港についたら冷水を一杯いただき、それからカキ氷でもパフェでも何でも良い、冷たい物を食べに行こう」
 九条の言葉は射撃班も近接攻撃班の気持ちも代弁していた。