●リプレイ本文
●配置
ハイウェイに2台の大型車両が停まっている。違う。KVだ。ナイトフォーゲルLM−01スカイスクレイパー。片方の機体だけ赤く塗装されている。
赤い機体は八重樫 かなめ(
ga3045)だ。ヘルメットワームに襲われた車のなかに赤いものがあったからだ。八重樫はヘルメットワームをおびき出す役を任されたので、試しに過去の事例に従ってみた。
車両型ヘルメットワームがこのハイウェイに出現、通行中の車両を襲撃している。このヘルメットワームを撃破するために能力者は派遣された。
デフォルトカラーのスカイスクレイパーのコクピットシェルが展開する。ゴージャスな美女が現れる。槇島 レイナ(
ga5162)だ。
槇島は普段、おっとりしているような、気怠いような雰囲気の人物だが、びしっと八重樫に指を向けてきた。
「運転には自信があるの。ヘルメットワームになんか負けないわ。もちろん、かなめちゃんにもね!」
「いいね。本気でやったほうがヘルメットワームの食い付きがいいかも」
車両型ヘルメットワームは神出鬼没だ。だからおびき出すことにした。交通を制限したうえで偽レースを行ってヘルメットワームの注意を惹く。作戦通りにヘルメットワームが襲ってきたらあるポイントまで誘導する。このポイントで待ち伏せ班が前方から、追い込み班が後方からヘルメットワームを攻撃、できればハイウェイの外に追い出して撃破する。
八重樫と槇島は囮班だ。偽レースを担当する。
空から金属音が降ってくる。槇島が「あら、天使が通るわ」とつぶやいた。
八重樫にはその意味がわかった。というのはパイロットは覚醒すると背中に翼のようなものが生じるからだ。
槇島は上空をみた。空中管制班が通過していく。空にいるのを利用してヘルメットワームの出現をいち早くキャッチするのが役目のチームだ。
2機のナイトフォーゲルEF−006ワイバーンがハイウェイ上空を飛ぶ。
ワイバーンのデフォルトカラーは青を基調とするが、ラピス・ヴェーラ(
ga8928)は瑠璃色というきわめて空に近い色に塗装されていたので、遠目からみると1機だけで飛んでいるかのようだった。
もう1機のワイバーンに登場するシエラ・フルフレンド(
ga5622)が行動中の仲間に報告する。
「こちらTEAM:UVAリーダー、シエラです。戦域に到達しました」
UVA(ウバ)というのはラストホープの兵舎内にあるカフェの名前だ。シエラが店主を務めている。
仲間からの応答はない。代わりにコクピットのディスプレイにマップが展開して現在位置が表示された。仲間たちは持ち場に接近している。
シエラとラピスは仲間の動向を確認すると、戦域を2つに分割して索敵する。
「ラピスお姉ちゃんっ、感度は良好ですっ?」
「こちらラピス、大丈夫ですわ。いつでも行きますわよ」
展開っというシエラの宣言。2機のワイバーンは編隊を解散した。同時にデータリンクを開始する。ワイバーン同士のリンクに加え、警察の使用する速度違反を調べるためのシステムから情報を送ってもらえるようアクセスした。ワイバーンに電子戦の装備は搭載されていないので、あくまで情報を提供してもらう一方通行だ。
廃棄されたサービスエリアで遠石 一千風(
ga3970)は報告した。
「こちら待ち伏せ班だ。ポイントに到着した。いつでも行動可能だ。‥‥もとい、少し待て。ささやかな問題が起きた」
遠石のS−01の隣には最新鋭機ナイトフォーゲルXF−08雷電が立っている。
雷電は重武装のための太い脚部と背中の巨大な4連ブースターが印象的だ。待機状態でも性能が周囲に滲み出て空気が重くなる。だが、みる者によってはその気配で心が躍らしい。
子供たちが雷電の周囲にたかっている。子供たちは雷電の威容と目新しさに感嘆の声を上げている。
戦闘を行う予定なので周囲一帯の住民には避難してもらっていた。けれども子供たちは「どうしてもKVを間近でみたい」と避難所から抜け出してきていた。
パイロットの近伊 蒔(
ga3161)が「俺の新しい相棒(KV)は強えぞぉ?」と子供たちにしゃべっている。
遠石があのボーイッシュな少女がコクピットで誇らしげに胸を反り返らせているのを想像した。それから警察に連絡を入れる。
ほどなくして警官が現れて子供たちを回収していった。去っていく子供たちに近伊は雷電の手を振ってやった。
遠石がいう。
「さて。本業に戻りましょうか。それがあの子たちのためです」
囮班がこの辺りまでヘルメットワームを誘導する。遠石機と近伊はこれを阻み、追い込み班と協力してハイウェイの外へ誘導することになっていた。
「よっしゃー。やってやるぜ」
同じころ、一般道路からハイウェイに入る箇所に2機のKVが到着した。蒼い獣と灰色の騎士だ。新鋭機のワイバーンには周防 誠(
ga7131)が、古武士のようなS−01には砕牙 九郎(
ga7366)が搭乗している。
砕牙のS−01が膝をついて姿勢を低くする。クラウチングスタートのような姿勢になる。
周防のワイバーンもまた姿勢を下げる。獲物を狙う虎のようだ。
2機の脚部から装輪が展開し力強く接地した。2機のKVは、ヘルメットワームが出現したら、いつでも跳び出せる体勢になる。
この2機は追い込み班だ。遠石たち待ち伏せ班がヘルメットワームの進行を食い止めたら、後方から迫ってハイウェイの外へ追い出す。
KVのセンサーが上空を飛ぶワイバーンの飛行音を拾ってコクピットへ出力した。
「さて」と周防。「スケールのでっかい鬼ごっこの始まりですね」
砕牙がうなずく。
「ワームの癖にスーパーカー気取りとはしゃらくせぇ。‥‥こちら待ち伏せ班、持ち場についた。いつでもいける」
●チェイス
「配置完了。いつでもいける」とそれぞれの班から囮班に連絡が入る。同時に八重樫はスカイスクレイパーのコクピットからコインを投げた。同時にコクピットシェルが閉鎖される。
コインが回転しながら空へ上っていく。アスファルトに落ちたらレース開始だ。
「LM−01スカイスクレイパー、操縦者八重樫 かなめ。起動承認っと。‥‥それじゃいこっか」
八重樫機と槇島機のエアインテークが展開、つんざくような吸入音が周囲に響く。これにエンジンの爆音が重なる。コインのアスファルトに落ちた音がかき消される。2機はほぼ同時にスタートした。
槇島機が先行する。カートとはいえレース経験があるのでスタートダッシュは速い。
スカイスクレイパーは巡航速度に到達する。F1以上の速度でハイウェイを進む。設置された看板とスカイスクレイパーがすれ違った瞬間、看板が吹き飛んだ。
ディスプレイがカーブの存在を槇島に教える。
「ドリフトの練習をさせてもらうわよ。‥‥この子でいけるかしら」
八重樫がうなった。
「うわあ。すごいな。どんどん差がついていくよ!」
槇島機は見事なドリフト走行とコーナリングを披露する。カーブに最短コースで侵入して、最低限のドリフトでKVの方向を調整、出力を落とさずにカーブを突破すると即座に加速した。
「やれやれ。これじゃあ、レースにならないね」
槇島の見事な走行に八重樫は少しだけ熱くなる。戦闘を控えているので燃料や練力を押さえている。けれども追いつきたい気持ちがじりじりと高まってくる。八重樫の気分を察したかのようにAIが走り方を変える。
八重樫機はカーブに突入する直前に変形機動を使用する。変形のための可動部位が立ち上がってエアロパーツの代わりとなる。機体の方向が強引に変更され、八重樫機は速度を殺さずにカーブを突破した。
これを機に八重樫機は少しずつ槇島機に追いついていく。そこにシエラから連絡が入る。
「発見ですっデータリンク開始しますっ」
「八重樫さん。敵は後方から接近していますわ。最初に接触するので注意して下さい」
「了解ってこのヘルメットワーム速い!」と八重樫は送信された情報を確認してうめいた。
ディスプレイにハイウェイが表示されている。車両型ヘルメットワームを示す点がスカイスクレイパーを倍する速度で移動している。
槇島がコクピットで唇をなめた。
「お遊びはここまでね。敵を追い込むわ」
次の瞬間、八重樫機の後方に車両型ヘルメットワームが現れる。スポーツカーに近い外見だが、大きさはスカイスクレイパーより一回り大きい。
八重樫は獲物に追われた動物の気分を味わいながらカーブに突入する。
ヘルメットワームが八重樫機の後方に食らいついてくる。報告書にあった戦闘機的な機動を行う。ヘルメットワームは速度を保ったまま横滑りして八重樫機を追い抜いていく。
八重樫は三度うめいた。少しばかり悔しいが、背後から攻撃を加えられると思い直した。
「槇島さん、抜かれました。敵がそちらにいきます」
「了解。待ち伏せ班、追い込み班、スタンバイして。敵の速度が予想以上よ」
槇島はヘルメットワームと競り合う。
(「卑劣ね。タイヤがあるくせに車の機動じゃない。慣性制御を利用してるのね。でもそんな卑劣な奴に負けてたまるもんですか。ジャンクにしてやるわ!」)
ヘルメットワームの機動に槇島機は食らいついていく。ヘルメットワームはいらだったように挙動を変える。槇島機に体当たりを仕掛けた。その瞬間、槇島機は歩行形態に変形、わずかな速度差を利用して回避、ヘルメットワームの後方へ回り込んだ。
槇島機のKVスピアが剣呑に光る。
ヘルメットワームは加速、さらに機体を横に流して槍を回避、そしてさらに加速する。戦域から逃れようとする。
だが、その前にKVが立ち塞がった。雷電とS−01だ。2機が車線をふさいでいる。
「やっと来たか。ここがゴール。止まってもらうわよ」
遠石がコクピットで宣言した。レーザー砲を照準する。レーザーの射線に味方機はいない。レーザーなら跳弾でハイウェイを傷つけないので攻撃を始める。
ヘルメットワームは加速する。機体にレーザーの瞬きが突き刺さるが、フォースフィールドが瞬いて食い止める。ヘルメットワームは遠石機をひき殺すかのように突進する。
「この‥‥こっちは通行止めだっつーのっ!!」
近伊は雷電を遠石機の前に入れた。ディフェンダーを盾として使用、ヘルメットワームの体当たりを食い止めようとする。近伊の視界一杯にヘルメットワームが広がる。ぶつかるとおもった瞬間、ヘルメットワームはその場でターン、今までとは逆方向に逃げ始めた。
「‥‥まいったね。慣性制御ですか。それは車としては少しばかり卑怯ではありませんか」
「どっちにしろ人に迷惑をかける奴はぶっ飛ばす」
「ええ。それがいいですね」
ヘルメットワームの進行方向に周防機と砕牙機が現れる。ヘルメットワームはその場でコマのようにスピンした。スピンしながら浮遊し始める。
「UFOかよ」近伊があきれる。「UFOのようなものだ」と遠石が返す。
空から天使の声が降ってくる。大出力されたシエラとラピスの声。
「空は私たちの領域ですっ」「空のほうが楽ですわ」
2機のワイバーンが上空を旋回していた。シエラとラピスは戦闘可能なサービスエリアに着陸しようとしていたが、ハイウェイ上でヘルメットワームが離陸しそうだったので、急いで戻ってきた。
上空をふさがれてヘルメットワームは着地、KVの包囲網の隙間を抜けてハイウェイの外へ出た。
だが、その隙間はヘルメットワームをハイウェイに外へ誘導するためにあえて作ったものだった。
「これでハイウェイは無事だぜ。存分に暴れてやる」
砕牙が叫んだ。
KVはヘルメットワームに追いかける。ヘルメットワームはサービスエリアに隣接する自然公園に入り込んだ。
木々や施設を吹き飛ばしながら走るヘルメットワームに周防のワイバーンが追いつく。
「まいったね。‥‥いや自分でなくてそちらがさ」
ワイバーンの翼の先端が剣呑に輝いた。ソードウイングだ。周防はワイバーンを加速させる。ワイバーンに追い抜かれた瞬間、ヘルメットワームの外装が大きく裂けた。割れ目から大きな炎が吹き出る。次の瞬間、爆散した。
●ハイウェイスター
ヘルメットワームの撃破に能力者は安堵した。そこにアラートが忌々しくなった。警察からの連絡だ。警官の声は慌てている。能力者は新たな敵の出現かと総毛立った。
「能力者、聞こえているか。すまない。走り屋どもがハイウェイに侵攻した。連中の無線を傍受した。連中、ヘルメットワームを抜いてやると息を巻いている。走り屋を通したのは我々の不手際だ。申し訳ないが対処を頼む」
ここまで聞いて近伊がため息を吐いた。遠石が警察の状況説明を遮ってヘルメットワームの撃破を伝えた。
「おっと」と周防。「槇島さん、どちらにいかれますか?」
槇島のスカイスクレイパーが車両形態に変形している。
ふふふふと槇島が色っぽく笑った。
「久しぶりだから興奮しちゃったの。そしてまだ遊び足りないの」
遠くから車の走行音が近づいてくる。走り屋のものだ。
八重樫機が器用にもKVで肩を竦めてみせた。
周防機もお手上げのポーズをKVにとらせてみる。
「まいったね。手加減してあげて下さいよ。でないと走り屋のみなさん、自信喪失で、二度と車に乗らなくなっちゃいますから」
「うん。大丈夫。かわいがってあげるだけだから。‥‥きっと病みつきになっちゃうわ」
槇島はそう言い残してスカイスクレイパーを発進させた。