●リプレイ本文
●配置
地下管制室は血まみれだ。マネキン型キメラとオペレーターの肉弾戦が行われたからだ。壁や床に血が飛び散っている。首をちぎられたオペレーターの死体が機密を守るかのようにコンソールに覆い被さっている。
マネキン型キメラは奪取した情報を発信しようとする。が、失敗する。電波の出力を上げて再度送信を試みる。並んでいるディスプレイにノイズが走った。けれども送信に失敗する。成功したならばバグアから受信完了の信号が送られてくるはずだった。
マネキン型キメラに植え付けられた本能が移動を喚起する。動物が水場に誘い出されるようにマネキン型キメラは管制室の外へふらふらと向かっていく。
一方そのころ上空では2機のKVが雨を切り裂くように飛翔していた。基地を中心にして旋回する。ティーダ(
ga7172)のナイトフォーゲルPM−J8アンジェリカと新条 拓那(
ga1294)のナイトフォーゲルF−108ディアブロだ。2機は強力な威力を持つ兵器フレア弾を吊っている。
ティーダ機と新条機は機体を傾ける。空も地上も暗黒だ。下方に星のようなものが忌々しく点滅している。目標の基地だ。強力なレーダー波によって無線が効かないので、攻撃タイミングが来たら照明弾が打ち上げられることになっていた。
地上では歩行形態のKVが管制塔へ接近していた。施設を遮蔽物にして雨と夜闇に紛れて配置につく。
「雨の上に夜ときちゃ、視界は最悪だな。全く上手い時間を狙ってきたじゃないか。‥‥もっとも俺たちにとっても有利だがな」
阿木・慧慈(
ga8366)がディアブロのコクピットで呟いた。管制塔とめり込んでいる空中哨戒機に視線を向けながらディアブロにスナイパーライフルを用意させる。ディアブロは5メートルもの銃身のあるライフルを装備しながら膝をついた。
榊兵衛(
ga0388)もまた狙撃準備していた。ナイトフォーゲルXF−08雷電が雨に撃たれながらスナイパーライフルを構える。火器管制装置が起動して空中管制機を照準したことを榊に伝えた。
雷電のコクピットで榊はつぶやく。
「管制官の命がけの行為を無駄にはさせない。‥‥配置完了、攻撃を開始する」
●攻撃第一波
榊機が戦闘開始の照明弾を打ち上げた。光の弾が空へ昇っていく。照らし出された雨が銀の針のように地上へ降り注ぐ。
榊と阿木が攻撃を開始する。スナイパーライフルの火線が夜の闇を引き裂いた。スナイパーライフルの砲弾は雨をぶち抜いて飛び、空中哨戒機の胴体に着弾した。
同時に近接組のKVが施設の影から跳び出した。支援攻撃と雨の降るなか4機のKVは管制塔へ駆ける。
藤田あやこ(
ga0204)のナイトフォーゲルF−104改バイパーがKV用チェーンソウを振り上げる。チェーンソウのモーターが起動すると、チェーンソウの各部の隙間に溜まっていた水が辺りに飛び散った。
「もうすぐ誕生日なのに、まさか空港施設をケーキカットとは何と言う悪夢」
「なら、このあと打ち上げですね」と飯島 修司(
ga7951)が慰めるようにいった。「ところで、空中哨戒機が変形しないかひそかに期待しているんですが」
阿木と榊が間断なく空中哨戒機に砲撃を加えている。ついに各部の崩壊が始まったらしく背負っている巨大なレドームが地上に落ちていく。レドームは砕け散るかのようにみえた。
「!」と能力者たち。
床に落ちたコインが気まぐれに回転するかのようにレドームは地上を転がり、その場で立ち上がると、くるくると回ってみせた。レドームの縁から突起が生えて挙動が変化する。照明弾の光で牙が回転ノコギリのように剣呑に光った。
「そう楽にはいかせてもらえませんよね」と飯島はハイ・ディフェンダーを抜いた。「藤田さん、奴を食い止めます。終夜さんと皇さんは管制塔へ」
「了解」と皇 千糸(
ga0843)のナイトフォーゲルS−01改と終夜・無月(
ga3084)のディアブロが管制塔へ向かう。
キメラ・レドームが地面に跡をつけながら皇機と終夜機に突進する。そこに藤田機と飯島が割って入った。
飯島機はハイ・ディフェンダーを地面に突き立ててキメラ・レドームの突撃を受け止める。キメラ・レドームの側面に藤田機が回り込んでKV用チェーンソウをキメラの身体に叩きつけた。
ハイ・ディフェンダーにキメラの牙がぶつかり、キメラの身体にKV用チェーンソウが歯を立てる。フォースフィールドの赤い瞬きに周囲が照らし出される。
藤田機が藤田の声を外へ出力する。
「飯島さん、なんで私をバディに選んだんですか?」
無線が使えないので飯島も声を出力する。
「好相性だとおもいませんか。チェーンソウと回転ノコギリは」
なんて誕生日だとコクピットで藤田がうめいた。マイクがうめき声をきっちり拾って外へ出力する。
終夜機と皇機は地上を覆う雨水を跳ね散らしながら管制塔へ接近する。
終夜機は走行しながらスナイパーライフルに換装する。
フォースフィールドの瞬きに照らし出される管制塔をみて、返り血を浴びたみたいと皇はおもった。皇はS−01改に機槍「グングニル」を構えさせる。機槍「グングニル」の柄後部に設置されたブースターが稼働する。矛先が管制塔へ向く。機槍は捉えられた蛇のように皇機の腕部で暴れた。
「突き崩す。先にいくわ」と皇は終夜にいった。同時に皇機は跳躍、一本の槍と化す。管制塔の付け根にめり込んだ。
終夜がスナイパーライフルを照準しながら声を出力する。
「‥‥これより管制塔基部を攻撃する。皇機、‥‥崩壊に巻き込まれないように注意しろ」
皇機の刺突が管制塔基部を穴だらけにしていく。
終夜は皇機の穿った穴を照準する。皇機の刺突のおかげで負荷のかかっている区域へ射線が通った。
「‥‥管制塔を崩壊させる。退避しろ」
終夜機が砲撃した。砲弾が管制塔基部に穿たれた穴に吸い込まれていく。皇機が後方へ跳躍して崩壊から逃れるが、管制塔自体は崩壊しない。
「‥‥うん。弾道がずれたか。ならばもう一発撃ち込む」
その瞬間、管制塔周辺が陥没した。同時に管制塔が倒壊し始める。KVの攻撃で全体にひびが入っていたせいで、もろくなっていた壁面が周囲にばらばらと落下する。
藤田機のマイクがコクピットの声を拾い上げる。パイロットの「あれはお誕生日の蝋燭?」という声が外へもれている。違いますからと飯島が合いの手を入れる。2機の足下にはキメラ・レドームが中身を刳り抜かれた甲殻生物のように転がっている。
4機のKVはその場から一旦撤退する。管制塔からKVが退避すると榊機が照明弾を撃ち上げた。
●爆撃
「‥‥照明弾を確認。‥‥キメラを微塵になるまで破壊し尽くします」
基地周辺を飛行していたティーダ機と新条機は榊の照明弾を発見する。暗闇の中に浮かぶ星から小さな星が分裂して赤、緑、白の光で瞬いた。
ティーダ機がまず先に降下、新条機が続く。
新条は基地を、管制塔を捉えた。機体を爆撃するためのコースへ乗せる。もうすぐフレア弾の投下シークエンスに入る。その前にちらりとみた。コクピットの隅に必勝祈願と記されたお守りが黒いゴムテープで括りつけられている。大切な人からもらったものだ。コクピットに吊しておいたら整備員が勝手に「KVは超高機動ですから」と頑丈に固定してしまった。
お守りの人物を思い出して新条は一瞬だけ和んだ気分になる。が、KVの発する警報が意識を戦場に戻す。新条は鋭い表情になって闇の奥にある投下地点を睨んだ。
(「ぶっ壊してまで守らなくちゃならない情報か。どんなものなのか興味はあるが、任務が優先だ。跡形もなく消滅させてやる)」
フレア弾を搭載した2機のKVはコクピットディスプレイに赤外線を反映させる。ティーダと新条の暗い視界に管制塔周辺が浮き上がる。管制塔周辺の戦闘熱だ。しかし降雨で熱が拡散してぼやけていく。
ティーダと新条は焦らずに基地に近づく。慎重に接近して確実な着弾を狙う。下界は照明弾で照らされてほの明るくなっている。基地施設が浮かび上がる。地上のKVがフレア弾の爆風と熱から逃れるために基地施設を遮蔽物としているのがみえる。横倒しになった管制塔はすぐそこだ。
ティーダ機と新条機は一旦、管制塔を通り過ぎると、急旋回する。そして降下。KVはSESを搭載しているために高推力だ。これを利用して2機は細かい微調整をする。そのあいだにぐんぐん地上が迫ってくる。
2機はフレア弾を投下する。急上昇する。爆発に巻き込まれないために。ティーダと新条の視界からディスプレイがかすんでいく。高Gによるブラックアウト。2人のかんすんでいく視界の中でディスプレイが「爆発警報」を発する。
巨大な火の玉が管制塔とその周辺を押し潰す。ティーダ機と新条機は破壊の渦から逃れるように空へ舞い戻った。
●爆発直下
時間は数秒だけさかのぼり、場所は管制塔地下へ移る。
マネキン型キメラは管制塔の地下を右往左往していた。植え付けられた本能に従って地上を目指したが、来た道は瓦礫に埋まっていて、外へ脱出できない。散開してどれか1体だけでも脱出しようと試みるが、施設が大揺れするたびに天井が崩壊して通路という通路が無理やり閉鎖されていく。
KVの一撃はフォースフィールドを貫いてヘルメットワームを撃墜する。管制塔は軍事施設だけあって強固だが、KVの連続攻撃に耐えられるほど頑丈ではない。
マネキン型キメラたちはついに瓦礫に埋もれてしまう。それでも植え付けられた本能に従って最後まで目的を果たそうとする。奪取した情報を電波に変換して送信する。けれども、マネキン型キメラには知るよしもなかったが、レーダー波に阻まれてそれはかき消されていた。
マネキン型キメラはパブロフの犬のように送信を繰り返す。けれどもフレア弾の生み出した圧力波に押し潰された。
●攻撃第二波 無用
「‥‥‥‥!」
地上の能力者たちはコクピットで息を呑んだ。
KVは基地施設を盾にしていたが、フレア弾の爆発は凄まじく、その機体は恐れたかのように震えた。しかし能力者たちは衝撃波が収まると、施設の影から即座に跳び出した。
フレア弾投下したティーダ機と新条機も地上へ急降下してくる。空中で変形、歩行形態のまま翼を上手く使って滑空、地面を削りながら着地する。
歩行形態のKVが爆心地に立つ。榊機が新たなに照明弾を打ち上げた。
照明弾の灯りが闇からクレーターを浮かび上がらせる。能力者たちはクレーターの北と東にKVを配置すると、火器管制装置越しにクレーターを覗き込んだ。
クレーターのふちから雨水が穴の奥へ流れていく。雨水は爆発の余熱で沸騰する。穴の奥から湯気がわいてくる。
皇がいった。
「周辺被害への配慮は無用と聞いているが、これはありなのだろうか」
ティーダがこたえる。どことなく声が苦い。
「‥‥一匹たりとも逃がしませんでした」
新条がコクピットの隅をみた。薄暗いコクピットで「必勝祈願」のお守りがなぜか輝いてみえる。マイクを握って通話機能を殺しながら「御利益が有り過ぎたかも、な」とおもわず呟いた。
フレア弾ですりつぶされちゃったのね、キメラが、と藤田が呆れたようにいった。
「念のため」といって阿木がKVをクレーターに入る。阿木機は湯気の中をさ迷った末に地上へ「お手上げ」のポーズを取った。
終夜が宣言する。戦闘終了、と。