タイトル:幽霊機が飛ぶマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/26 18:35

●オープニング本文


 青空の下に廃墟と化した空港が広がっている。バグア襲来の初期攻撃によって破壊され、それ以来人の手がついていない。しかし今日は珍しく滑走路上に人影が現れている。
 2人組の男の乗ったジープが滑走路を走っている。ジープは爆撃で穿たれた大穴を避けながら進んでいる。
 運転している男が助手席の男へいった。
「滑走路に戦闘機が埋められているって話ですけど本当なんですかね。都市伝説じゃないですかね?」
「どうだろうな。わからない」と助手席の男は手元のハードコピーを弾いた。「でも埋めたという記録は出てきた。それにまだ誰も調査していない。せっかくだから穴のあるうちに調べてみよう。まさか空港が復旧したあとに調べるわけにはいかないからな」
 助手席の男のハードコピーはバグア襲来以前、まだ人類同士で戦争していたころのものだ。機密保持のために実験機の類を処分するという内容の命令書だ。どのように実施されたか不明だが、命令書には滑走路の埋めるなどの具体的方法が記載されている。
「まあなんか地域振興の材料でも出てくるといいんだけどな」
 助手席の男はいった。男たちはこの空港のある市の職員だ。しばらく前まで競合地域で人がいたりいなかったりだったが、連続する大戦で戦況は変化、この地域に人々が戻ってこれるようになった。男たちの仕事はハード面でなくてソフト面で戻ってきた人々に活力を与えることだった。
 大穴の縁にジープが停車する。男たちはツルハシを肩にかけて降車した。
 片方の男が穴の斜面を駆け下りた。振り返って叫ぶ。
「なんかあるぞ。滑走路の構造材じゃない。機械みたいだ」
「なんと。本当に見つかるとは」
「まだだ。よく調べてみないと。ほら、早く降りてこいよ」
 穴の男はそういいながら穴の底に露出している機械にペンライトの光を当てた。すると機体表面に切れ目が生じ、中から眼が現れ、ペンライトの光を追った。
 穴の男はおもわずペンライトを取り落とす。機械の表面の眼はペンライトを追跡するかのように動き、ペンライトが穴の底に落ちた瞬間、光線を放った。ペンライトが溶けて臭気を発する。同時に穴の男は穴から跳び上がってジープに乗り込んだ。
「なんかいる! 多分キメラだ」
「キメラだろうな。‥‥せっかく見つかったとおもったらこれか。ブービートラップのつもりか」
 男たちの載るジープは穴から逃げる。途端に滑走路から土が噴き上がって柱のようになった。助手席の男が振り返る。土煙の中で赤い点が輝く。旧式の戦闘機が飛び出して来る戦闘機の機体には無数の眼が生えている。この眼と助手席の男が合う。
 助手席の男は反射的にハンドルを奪った。車が曲がる。さっきまでいた空間にビームが放たれた。
 運転している男はバックミラーで複数のキメラの出現を確認した。複数の土の柱が滑走路上に立ち上がっている。さらに何かがジープを追っている。ジープを追跡するかのように土が盛り上がっている。土が爆発して戦闘機キメラが姿が現す。
「ターミナルへ逃げろ。せめて遮蔽物がないと。鴨撃ちにされてしまうぞ」
「あいよ」
 ジープはジグザグに動いて戦闘機キメラの光線を回避する。そして人類側戦闘機の突き刺さっているターミナルへ突っ込んだ。

●参加者一覧

藤田あやこ(ga0204
21歳・♀・ST
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
雑賀 幸輔(ga6073
27歳・♂・JG
秋月 祐介(ga6378
29歳・♂・ER
並木仁菜(ga6685
19歳・♀・SN
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD

●リプレイ本文

●救出

 戦闘機型キメラはターミナル上空を旋回する。滑走路から次々と同型のキメラが出現して旋回の輪に加わった。戦闘機型キメラはターミナル内部に逃げ込んだ獲物をいぶらすためにレーザーを放つ。
 10条の光線がターミナルに降り注ぐ。ターミナルの構造体が切断されて崩壊が始まる。屋上の一部が陥没した。屋上に突き立っている人類側戦闘機が周囲を巻き込みながら沈み込んだ。
 ターミナル内部では2人の市職員が受付カウンターの下に隠れていた。レーザー攻撃とともにターミナル内部は埃で一杯になり、天井の剥落した瓦礫がカウンターのうえに積もり始めた。
 2人の市職員は脂汗をかきながら爆撃の終わりを待つ。このままでターミナルの崩壊に巻き込まれて圧死してしてまう。
 無線機を持っているほうの男がエマージェンシーを呼びかける。けれども何の応答もない。
 ターミナルが爆撃で振動する。戦闘機型キメラがレーザーを放つたびに無線機がノイズを吐き出す。
 市職員の片方の男がいった。
「このままでは埒があかない。地下へ逃げるか。カウンターじゃ瓦礫に耐えられやしない」
 もう1人の男がうなずいた。
 2人はかけ出した。同時に天井の崩落が始まった。天井を構成するパネルが降ってくる。
 無線機がノイズのせいで割鐘のような声を吐き出す。
「戦闘区域に進入した。こちらのコールサインはゲシュペンスト。好きな食べ物はカレーだ。‥‥‥‥作戦を開始する」
 市職員たちは走りながらおもった。退避が間に合わないと。市職員を絨毯爆撃するかのように瓦礫が降ってくる。
 機械で拡声された女の声が響く。
「伏せてください、発砲します」
 連続する発砲音、四散する瓦礫、そして空薬莢が床に転がった。
 2人の市職員はみた。粉塵の中から2機のワイバーンが出現する。
 2匹の機械の獣は姿勢を下げると、コクピットを展開した。補助シートが装備されている。
 クラリッサ・メディスン(ga0853)がいった。
「救出に来ました。キメラは仲間が引きつけています。さあ早く乗って下さい」
 並木仁菜(ga6685)も促す。
「ということです。さあこのポチへどうぞ。乗り心地は保証できませんけど」
 2人の市職員は顔を見合わせたあと、それぞれの機体に乗り込んだ。
 並木は補助シート越しに市職員へいった。ワイバーンが立ち上がって視界が高くなる。
「盲腸とか膵臓はまだありますか?」
「盲腸は取ったけど膵臓はまだ。なんで?」
「じっとしていて下さい。戦闘機動しないように考慮しますけど、もし急旋回したら内臓破裂しますから」
 職員は黙った。
 メディスンがフォローするようにいった。
「戦域の外にUPCの衛生部隊に来てもらいました。負傷しても即座に手当を受けられます」
 職員はなにか言いたげに黙った。首と腹を気にしているようだ。
 2機のワイバーンはターミナルから脱出する。

●電子戦

 空港上空をナイトフォーゲルH−114岩龍が飛ぶ。パイロットの秋月 祐介(ga6378)は機体をロールさせた。コクピットシェルの天井が地上を向く。逆さの状態で秋月は電子戦を用意する。
「こちら秋月機、ヴァシュカさん、いつでもデータリンク可能です」
 地表ではターミナルにKVが集結していた。飛行形態のKVが戦闘機型キメラを追いやり、歩行形態のKVが救助班のワイバーンの退路を作るために空中へ弾幕を張っていた。戦闘機型キメラは滑走路へ後退していく。戦闘機型キメラの一部が地中に潜って姿を消した。
 岩龍のディスプレイが瞬いた。ヴァシュカ機からの情報連絡データリンクシステムへのリンク申請が表示される。秋月は許可する。
「こちらGiftradio。‥‥データリンク構築完了。‥‥戦況データの配信を開始します」
 秋月は機体をロールさせる。機体を斜めに傾けながら空港上空を8の字に旋回する。この機動だと下界の様子をちゃんと視認できる。
「グラマンもどきにマスタング、それにフェアリーと零戦? 戦闘機の形を真似したキメラですか。趣味が悪い。戦闘機乗りの世界に入ってくるな」
 ターミナル付近でヴァシュカ(ga7064)のナイトフォーゲルPM−J8アンジェリカは地殻変化計測器を設置し終わった。秋月機とデータリンクする。
 ディスプレイにまず歩行形態の味方機の足跡が表示される。次に地中のキメラらしきものが表示される。ワイバーンが戦域離脱したのを確認してヴァシュカはひとまず安心した。
「‥‥さてモグラ退治といきましょう」
 ヴァシュカはアンジェリカを滑走路へ向ける。
 砕牙 九郎(ga7366)のナイトフォーゲルS−01と藤田あやこ(ga0204)のナイトフォーゲルF−104バイパーが滑走路へ弾幕を張っている。地中に隠れた戦闘機型キメラは頭を上げられない。
「データリンクを確認、敵影を確認した。藤田、連携するぞ」と砕牙。
「了解、いぶりだしてやるわ」
 藤田機に装備された巨大チェーンソウこと金曜日の悪夢が唸り始めた。 

●空中戦

 戦闘機型キメラに赤と白が交錯する。
 赤い機体は夜十字・信人(ga8235)のディアブロで、白い機体は雑賀 幸輔(ga6073)のディスタンだ。 
 雑賀は滑走路上での戦いを目視した。藤田機と砕牙機が連携しながら地中の敵を追っている。地中に隠れた戦闘機型キメラが上空にあがってくる気配はない。
「救助目標の離脱および敵勢力の分断を確認。夜十字機、空中の敵勢力を撃破する。幽霊機なんてきりきり舞いだ」
「了解した。攻撃のタイミングはそちらに合わせる。ところできりきり舞いとはどんな踊りなのか」
「いまやってみせる!」
 雑賀機が戦闘機型キメラを追跡する。
 戦闘機型キメラは雑賀機を振り切るために加速する。
 雑賀機はブーストを使って加速する。雑賀機をフォローするために夜十字機が追従する。夜十字機は雑賀機の後方やや上空に位置取りした。
 速度で振り切れなかったので戦闘機型キメラは旋回してみせる。もし人間が乗っていたら内蔵破裂は必至の旋回だ。
 雑賀機は対抗してさらに強烈な旋回を行う。内蔵が腹の中で移動する。血流に偏りが生じて視界が暗くなり始める。だがどうしても戦闘機型キメラをロックオンしたい。
 戦闘機型キメラは自機側面の目を展開した。旋回についてくる雑賀機にレーザーを放った。
 雑賀機はアクセル・コーティングを発動、同時に自機をロールさせる。機体をレーザーがかすめる。そのままミサイルを発射する。
 ミサイルは白い跡を残しながら戦闘機型キメラへ到達、爆発した。戦闘機型キメラの1体が炎上しながら墜落、滑走路で四散した。
「道化とのダンスは楽しんでいただけたかな」
 雑賀はにやりとした。
「それがきりきり舞いというものなのか‥‥?」  
 夜十字機がアグレッシブ・フォースを使用する。過剰出力でリニア砲が放たれた。
 ミサイルから逃れた戦闘機型キメラをリニア砲の赤い射線が撃ち抜いた。
 夜十字機は敵機に追従するための急旋回をやめる。Gから解放されながら呟いた。
「あれもきりきり舞いなのだろうか?」
 戦闘機型キメラがきりもみ状態で滑走路に墜落した。
 夜十字機と雑賀機は次の敵を探す。

●地上戦

 夜十字機と雑賀機の活躍で戦闘機型キメラが次々と墜落する。
 砕牙のS−01がライト・ディフェンダーを取り上げた。
「地中に隠れている奴を掘り出す。藤田機、ヴァシュカ機、援護を!」
 砕牙はデータリンクシステムの情報を頼りに地中の戦闘機型キメラを追跡する。
 砕牙機の脚部から装輪が展開する。砕牙機は火花を散らしながら走行、敵の存在する箇所へライト・ディフェンダーを突き立てた。杭撃ち機のように地下を何度も刺突する。
 滑走路に亀裂が生じた。亀裂からキメラの体液が噴出した。同時に陥没した。陥没に砕牙機が巻き込まれた。砕牙機の下半身が埋まった。
 砕牙機の周囲から多数の土柱が噴き上がった。戦闘機型キメラが地上に姿を現す。
 砕牙が叫ぶ。
「俺を人質に取ったつもりか。それとも、そのまま離陸するつもりか」
 砕牙機はライト・ディフェンダーを一閃した。土柱が横一文字に断ち切られる。
「どっちにしろ逃亡は許さねえよ!」
「‥‥潜られても困りますが、飛ばれても困るんですよね。きみたちはここでお終いです」
 ヴァシュカ機が疾走しながらスパークワイヤーを土柱へ投射した。
 離陸しようした戦闘機型キメラがスパークワイヤーに絡みとられる。戦闘機型キメラは離陸に失敗して滑走路でもがく。もがくたびにワイヤーが食い込んで体液が周囲へ散った。それでもスパークワイヤーを切断すべくレーザーを四方へ放った。
「‥‥おおっと。窮鼠猫を噛むって奴ですね」
 乱射されるレーザーを警戒してヴァシュカ機が後方へ退いた。
 砕牙機はライト・ディフェンダーでコクピットを守っている。
「やれやれ。往生際が悪いですね。これで本当にお終いです。‥‥成仏なさい!」
 藤田機がレーザーを放った。レーザーの瞬きが戦闘機型キメラを蜂の巣にした。戦闘機型キメラは体液を噴き出し、やがて機首のプロペラの回転が止まった。

●事後

 戦闘は終了した。空港に轟音が降ってくる。並木が慣らしと称してワイバーンに高負荷をかけている。
 ヴァシュカ機のコクピットが展開する。ヴァシュカは周囲を見回した。ディスプレイが点滅、秋月機からの通信を報告する。通信機から秋月の声が流れ出す。
「こちら秋月機だ。UPCが来る。あとは彼らに任せて我々は帰還しよう。どうした、機外に出ているようにみえるが?」
 ヴァシュカはこたえる。サングラスを押さえた。
「‥‥いえ。職員さんたちは町興しの材料などはないかなと探してみました」
 通信機から秋月の声。ノイズが混じっている。ヴァシュカはかすかな笑い声を感じた。
「あなたは面倒なことを考えるな。大丈夫だ。人が住みつけば、なんでも自然にできる。大丈夫だ。心配はいらない。人は人がおもうよりも強いよ」
 ワイバーンが大気を切り裂いた。衝撃波が空港全域に降ってくる。