タイトル:摩天楼を登るマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/26 07:12

●オープニング本文


「見上げると首が痛む」
 高層ビルの屋上でUPC士官は呟いた。UPC士官の今立っているビルも見下ろすのがいやになるほど高いが、護衛対象のビルは次元の違う高さで文字通り雲をついていた。UPC士官の目には護衛対象のビルの最長は霞のせいでおぼろげにみえた。
 この超高層ビルはバグアを名乗る者から襲撃を予告されている。狙いは設置されている証券取引場だ。取引を停止せねば施設と人員に損害を与えると予告状にある。
 なにが取引を停止せねば、だとUPC士官は予告状の内容を思い出しておもった。
(「実際に襲撃があろうがなかろうが関係ない。襲撃予告さえ公表されたら取引は滞る。経済的損害は必ず出る。もちろん公表しなければ取引が滞ることはないが、このときは実際に襲撃して無理やり経済的損害を出すつもりだ」)
「不審者を確認」と部下からUPC士官に無線が入る。襲撃に備えてビル内部や周辺地域に兵士を配置してある。襲撃の際の備えだ。

 ビルの屋上で狙撃姿勢を取っていた兵士は隣のビルの屋上に不審者を発見した。屋上の出入り口が開いて複数の人影が現れた。人型をしてスーツをまとっているが、腕が長く、手首が膝下にあった。明らかにキメラだった。即座に指揮官へ連絡を入れ、キメラの1体を照準した。
 キメラたちは隣のビルに向かって腕を降る。そして跳躍する。ビルとビルのあいだ50メートル以上の距離を跳び越えて着地する。
 兵士は瞬きした。敵の移動を報告しながら動きを追った。キメラと跳躍する先のビルのあいだに光の筋がみえた。極細のワイヤーにみえた。敵は糸状のものでビルからビルへ跳躍していると報告しつつ、銃を構えた。
 キメラの後頭部を兵士は照準した。キメラは勘づいたのか、振り返って腕を兵士に向けた。兵士は、やられる、やられる前に撃つと引き金を引いた。兵士の対物ライフルが500ミリペッドボトルのような弾丸を放った。命中、フォースフィールドの赤い瞬き、キメラが仰向けに倒れたのが兵士にみえた。
 兵士はほほに触れた。顔の肉が削れていた。振り返ると室外機の外装に穴が開いている。キメラの投射する糸の威力だ。
 兵士はとりあえず怪我を放置した。立ち上がってくるキメラをもう一度照準し直した。待機中の装甲車のセンサーと照準を同期させた。
 装甲車には有線式ミサイルが積んである。
 兵士は引き金を引いた。
 地上からミサイルが飛ぶ。
 キメラはミサイルを恐れたのか、回避行動をとる。周囲のビルに糸を渡して跳躍する。糸をビル間をジグザグに飛ぶキメラを有線式ミサイルが着実に追い詰める。
 キメラは空中で身を捻ると、ミサイルと正対、蜘蛛の巣を張る。畳大の蜘蛛の巣にミサイルは捕縛され、自爆する。キメラは腕をふるうとビルの屋上に糸を結びつけ、振り子のようにして別のビルへ移動する。
 兵士は舌打ちした。キメラたちは狙撃やミサイルを回避しながらビルを跳躍、すでに何体かは護衛対象のビルの壁面を登り始めていた。

●参加者一覧

アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
シエラ・フルフレンド(ga5622
16歳・♀・SN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
煉威(ga7589
20歳・♂・SN
シェスチ(ga7729
22歳・♂・SN
ラピス・ヴェーラ(ga8928
17歳・♀・ST
使人風棄(ga9514
20歳・♂・GP
水雲 紫(gb0709
20歳・♀・GD

●リプレイ本文

●ダイヴ

 ビル風が吹き上がる。
 証券取引場の設置されたビルの屋上から使人風棄(ga9514)が下界を見下ろした。
 ビルの壁面に黒い染みのようなものが付着している。人型蜘蛛だ。
 使人は敵を視認して覚醒開始、瞳孔が開き、口元が歪む。笑いながら跳躍、壁面を登る人型蜘蛛めがけて落下する。
「さぁ、綺麗に壊してあげますよ」
 人型蜘蛛が顔をあげる。落下中の使人を発見、右腕を向けた。腕の先から糸が射出される。
 使人は頭から地上へ落下する。人型蜘蛛が顔をあげたのをみて、腕を広げる。落下速度が遅くなる。さらに機動がわずかに変わる。チィという音と同時に使人の右頬に赤い線が現れる。人型蜘蛛の糸がかすめたせいだ。
 人型蜘蛛は左腕も向ける。糸を射出した。しかし使人は両腕の爪を壁面に突き立てて、大きく機動を変える。糸は回避された。
 使人の落下姿勢が変化する。頭からでなくて足から先になる。そのまま自分を攻撃してきた人型蜘蛛の胸へ着地した。
 人型蜘蛛は胸へ衝撃をうけた。のけぞって落下しそうになるが、両腕の糸を壁面へ射出して支えとする。なんとか耐えた。
「‥‥おやおやもう壊れましたか」
 使人の爪が人型蜘蛛の頭部をもぎとった。人型蜘蛛は壁面で膝をつきながら万歳をした姿勢で絶命する。頭部の欠損した首から体液を噴き出した。
 使人は下界にさらなる敵を発見する。笑った。仲間に連絡する。
「キメラ1匹壊しましたよ。‥‥ふふふもう一度飛んでみますかね」
 仲間の能力者が使人の危険な行動を諫める。その声を聞きながら使人はダイヴした。

●スナイプ

「風棄、翼ねえんだから下手すると死ぬぞ。‥‥ってああ」
 煉威(ga7589)は恋人のシエラ・フルフレンド(ga5622)から借りた無線に怒鳴った。けれども使人には聞こえていなかったらしく、人型蜘蛛の迎撃を受けて、壁面と激突、爪を壁面に突き立てて勢いを殺しながら、墜落していく。
 シェスチ(ga7729)が壁面の敵に銃を向けながらいった。
「‥‥見かけないとおもったら、単独行動してたのか。‥‥シエラ、僕は壁面の敵を墜とす。きみはこれ以上敵を近づけないように」
 墜落した使人にあわあわしていたシエラが気を取り直した。
「了解です。‥‥レンイさん、近づいてきた蜘蛛はお任せします」
「あいよ」と煉威。「護衛とオペレーティングはお任せあれ」
 結構張りついてしまった、とシェスチは照準しながらおもった。人型蜘蛛が証券取引場のある階層の窓を殴っている。シェスチはまずこの人型蜘蛛を狙う。引き金を引くと同時に銃身が跳ね上がり、人型蜘蛛の背中に穴があいた。
 穴を穿たれた人型蜘蛛が落下する。煉威が屋内を守っている能力者たちに連絡する。この声を聞きながらシェスチは他の人型蜘蛛を照準する。
 壁面を登っている人型蜘蛛の動きは遅い。糸を使ってビルとビルの間を飛び交うのと段違いだ。シェスチの一撃が1匹の人型蜘蛛を撃ち抜く。
「翅すら持たないのに飛ぼうとした代償‥‥どこまでも‥‥堕ちると良いよ‥」
 ささやいてシェスチは気にかかる。敵の動きがしっくりこない。自分ならあんないかにも撃たれやすい状況は作らない。気づいて照準装置から顔をあげた。
「煉威、敵の数を確かめてくれ」
 わかったと煉威はこたえながらシエラを狙っていた人型蜘蛛を撃ち抜いた。数を確認して眉をよせる。これはともらす。
 人型蜘蛛を撃ち抜きながらシエラがいった。
「敵の総数が合いませんっ。ひょっとして外にいるのは陽動かもっ」
 だな、と煉威がうなずく。
「1体でも侵入できれば十分ってことか」
 キメラと一般人の能力差は圧倒的だ。一般人ではキメラに歯が立たない。証券取引場に潜入されたら虐殺は必至だ。
 煉威は屋内班に連絡をとる。

●インターセプト

 高層ビル内部、株式取引場のある階層で。
「みなさん、絶対に退室しないように。命の保証はありませんよ。それと階段やエレベーターは使用しないで下さい」
 敵侵入の連絡を受けてアルヴァイム(ga5051)が警備室に連絡した。民間人を巻き添えにしないためにあえて強い口調で指示した。警備室経由でビル全体に伝わるはずだ。
 ラピス・ヴェーラ(ga8928)が天井をみた。
「エアダクトが停止しましたね。これで敵侵入経路を制限できました」
 エアダクトが閉鎖された。敵がエアダクトを通って各階層に出現することなくなった。
 狐面の女性水雲 紫(gb0709)が盾扇で口元を隠した。
「残った経路は南北の階段とエレベーターです。こちらに有利な状況です。迎撃しましょう。‥‥念のためにですが、アルヴァイムさんはここを守って下さい」
 了解しましたとアルヴァイムは小銃「シエルクライン」の銃身をなでた。この銃は総弾数160発のうえに一度の射撃で20発もの弾丸をばらまく。閉鎖空間でこの弾幕を突破するの難しい。最終防衛ラインはアルヴァイムが適任だった。
 アルヴァイムは、ラピス、水雲、 旭(ga6764)を見送った。3人の背中に言葉をかける、幸運を、と。

 南階段で旭がハンチングを目深に被り直した。
「‥‥こういうのは嫌いなんですよ。フェアにみせかけたアンフェアなやり方なんて」
 旭は1階下の踊り場に人型蜘蛛を発見した。抜刀して跳びかかる。
 人型蜘蛛は両腕を旭に突き出した。糸が射出される。
 旭は壁を蹴って糸を回避する。踊り場に着地した。そのうえを人型蜘蛛が糸を伝って跳び越えていく。
(「‥‥後の先は読んでいますよ!」)
 旭は蛍火からS−01に持ち替えながら振り返った。
 S−01の火線が人型蜘蛛の背中に命中する。大穴が空いた。人型蜘蛛は身体をよじって旭に正対すると、震える腕から糸を射出する。
 旭は蛍火で糸を受け止め、からめとった。人型蜘蛛を自分のそばへ引き寄せると、予備の刀で止めを刺した。

 水雲は暗闇を降下する。エレベーターシャフトだ。ワイヤーを伝ってするすると降りていく。闇の底に気配を感じた。水雲は首を傾けた。
「まだ視認できませんね。‥‥それにしても蜘蛛に縁でもあるのでしょうか。縁起が余り宜しくないといいますのに」
 ひゅんと糸が飛んでくる。水雲の狐面が割れて落下する。落下の勢いで水雲の前髪が持ち上がった。その右顔が露わになる。そこには古傷があった。
「みているのか。みたんだな、この目を。‥‥‥‥その目すべて潰す。醜く惨めにこの世から往ね!」
 水雲はワイヤーから手を放す。壁を蹴って一気に降下する。シャフト壁面にへばりついている人型蜘蛛とすれ違った瞬間、抜き打った。
(「くう。手応えがない。だが、斬り伏せる」)
 人型蜘蛛が降下してくる。人型蜘蛛は隠していた腕を展開する。腕の数が6本に増える。
 闇の中で銀光が閃いた。6条の蜘蛛の糸が水雲を貫こうとする。水雲は壁面に月詠を突き立てて接地すると、ことごくとを盾扇で払いのけた。
 水雲の手から盾扇が消える。瞬間、人型蜘蛛の頭部に盾扇がめり込んだ。
(「次こそは倒す」)
 水雲がシャフト内を三角蹴りする。人型蜘蛛の位置まで上昇する。そのまま勢いを殺さずに突撃、刺し貫いた。水雲は落下しながらワイヤーを掴むと、月詠から人型蜘蛛の死骸がするりと抜け、闇の底へ落下した。

 廊下でラピスは小太刀型の超機械を構えた。
 廊下の奥から人型蜘蛛が姿を現す。人型蜘蛛のスーツが破けて腕が増える。人型蜘蛛の腕は6本になった。
 6条の糸が射出される。
「そんなもの、怖くありません!」
 ラピスは超機械を突き出した。超機械から虚実空間が展開、糸はラピスに到達するまえに力を失って落下した。
 特殊能力を封じられた人型蜘蛛はラピスに突撃する。まるで腕が多いから近接戦闘には自信があるとでもいうように。
「近づかないでくださいませっ」
 ラピスの声にエミタが反応する。超機械にエネルギーが回り、ラピスの翼が廊下一杯に広がった。
 超機械が電撃を放つ。壁の塗装が熱波で溶ける。
 蜘蛛は左半身を焼かれながら突進、健在の右腕でラピスの首を締め上げた。
 ラピスはうめく。視界がかすむ。力が抜けていく。超機械が床に落ちた。
「‥‥ふふふ‥‥美しく壊してあげますよ」
 数条の閃光は走った。廊下の奥にある窓をぶち抜いて使人が出現、人型蜘蛛の腕の一本斬り落とした。
 ラピスは咳き込む。が、使人の有様をみてうめいた。
「‥‥フーキちゃん、その身体は」
「ちょっとビルから墜落しまして」
 使人は左腕で左足だけで人型蜘蛛と渡り合う。左足で跳躍して左腕で斬りつけるたびに千切れかかっている右腕右足がぶらぶら揺れた。
「フーキちゃん、無茶はダメ。退いて下さい」
「はっははは。すっごく楽しいっ」
 人型蜘蛛の蹴りが一閃。使人は床に打ち倒される。そこをラピスが超機械で人型蜘蛛を撃ち倒した。
 ラピスは人型蜘蛛の撃破を確認すると、使人のもとへ駆け寄った。さっそく治療を始める。
「‥‥すごい傷ね。フーキちゃん、無理しちゃだめよ。いくら能力者でもこんな傷はすぐには治らないわ」
 アルヴァイムからの無線を聞きながらラピスは使人を諭した。
 敵掃討完了を無線機が報告する。

●事後

「フーキちゃんはどこっ!?」
 普段はおっとりしているラピスが取り乱した。
 先に帰ったんじゃないかなと煉威がいうとシェスチが苦笑した。
 私も早く帰還したいですねと水雲が低くいった。顔の右側を盾扇で隠した。
 アルヴァイムはうなずくとシエラを探した。
「もう大丈夫です。いけますよ」
 シエラは蜘蛛の糸の回収を頼まれていた。用意しておいたビニール袋の中で蜘蛛の糸が銀色に輝いた。
 旭がいった。
「さてそろそろいきましょうか」
 能力者たちは次の戦場に向かうために高層ビルを後にした。