タイトル:ここ掘るなワンワンマスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/17 15:42

●オープニング本文


 バグア襲来以前の出来事だ。アメリカは軍隊に湖を作らせた。窪地に超強力な爆弾を投下、もっと深い窪地に改良した。雨期が来ると窪地に水が満々と溜まった。この水が市街地や工場で使用された。そして使い回され、汚染された水は窪地へ排出された。
「この湖が人々に貢献していたのは昔のお話だよ。今では汚染物質のよどみだ」
 ガスマスクを装備した男が助手席の若者にいった。男のトラックは沼のような土地を走っている。ぬかるんだ大地にわだちができた。
 男は地元大学の教授だ。バイオマスによる土壌改良を研究している。今日は助手の学生を連れて埋設したポッドの様子を見に来ている。
「すでに資料をみせたが」と教授は学生にいった。「雨期の湖は綺麗なものだ。まったくの透明な水質だから水面は鏡のようで雲が映る。しかしそれは汚染がひどすぎて微生物が水を濁らせられないからだ」
 学生がこたえた。
「じゃあガスマスクは必須ですね。乾期の湖はなんだかよくわからない物質が舞っているし。‥‥これ、はずせませんかね」
「やめておけ。生涯アレルギーに悩むぞ」
 教授がトラックのハンドルを切った。ブレーキを踏み込む。トラックが半回転するように停められた。学生が望遠鏡で湖のある一点をみた。
 そこには犬型のキメラが複数いてなにかを掘り起こしていた。
 教授がうめいた。
「またあいつらか。犬みたいに掘り起こしやがって。おいしいものじゃないだからな」
 教授は土壌を改良するためのポッドを湖底に埋め込んでいた。ポッドの中に微生物が入っていて土壌を無害にものに改良はずだった。しかし何をおもってかキメラは埋設されたこれらを掘り起こして喰らっていた。
 学生が望遠鏡を覗きながらいった。
「‥‥ああ。喰っていますね。喰ってます。‥‥あ、なんか辛いもの食べた猫みたいに腰を抜かしている」
「腰抜かしているってのは良い気味だ。だが残念だな。弱ってるからといって逆襲できるわけでもない。‥‥仕方がない。予算が少ないけれど、ULTを呼ぶか」
 犬型キメラは毛皮を泥だらけにしながら穴を掘っていた。穴の奥に首を突っ込むと筒状のものを取り出した。筒状のものはバイオマスポッドだ。バイオマスポッドを巡ってキメラ同士が奪い合いを始めた。
 学生はこの様子をデジカメで撮影している。帰りたがっている教授がいった。
「提出用データはそれくらいでいいだろう。さっさとあの犬共を能力者に駆除してもらおう」

●参加者一覧

稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
デル・サル・ロウ(ga7097
26歳・♂・SN
エメラルド・イーグル(ga8650
22歳・♀・EP
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD

●リプレイ本文

●風上と風下で

 干上がった湖底で犬型キメラが群れている。土中に埋められた筒状のものを競い合って掘り出している。
 筒状のものはバイオマスポッドだ。湖底に蓄積した有害物質を分解するために人間が埋設した。周辺の犬型キメラはなぜかこれを好み、掘り起こしては喰らっている。
 バイオマスポッドを掘り起こされたうえに食べられてしまっては環境改善は進まない。というわけで能力者に犬型キメラ駆除の依頼が回ってきた。
 能力者は男女2班に別れて男性班は犬型キメラの風上側に回った。
 男性班のジープで黒子装束の人物アルヴァイム(ga5051)がうめいた。
「汚染物質が蓄積しているとは聞いていましたが、すごい臭いですね。ガスマスク越しでもなんだか染みてきます」
 対照的に平静なデル・サル・ロウ(ga7097)がこたえる。同じく依頼人から借りたガスマスクをつけている。
「ガスマスクがずれている。隙間から外気が入り込んでいる。内側にかさばるものをつけているのか」
「やっぱり伊達眼鏡が邪魔みたいですね」
 アルヴァイムはガスマスクの内側に手を入れて、かけていた伊達眼鏡を外した。するとガスマスクは顔に密着する。アルヴァイムの呼気が楽になった。
 ロウはおもうところあってアルヴァイムに尋ねる。
「なぜ伊達眼鏡を装備していたんだ。使いどころがわからない。予備の泥よけか?」
「目立つの苦手なので」
 この格好もそうなんですよとアルヴァイムは迷彩柄の黒装束を示した。
 ロウは目を細めた。出身の孤児院を連想する。あそこにはいろんな奴らがいた。戦場にもいろんな奴がいるものだよなとおもいながら、稲葉 徹二(ga0163)の付きだしたシートを受け取る。
 今回は車上射撃を行う。地面と比べて車上では肘などの接地面が快適ではない。安定した射撃を継続するために稲葉はシートを用意していた。
 弾幕を主に展開する稲葉とアルヴァイムはシートの具合を確かめる。堅さの具合は良さそうだ。
 この様子をみていたホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)はカウボーイハットを目深に被り直す。バイオマスポッドに夢中のキメラをちらりとみて、どうせ土を掘り返すのなら幻の財宝でも掘り当てれば良いものを、ともらしてから仲間にいう。
「準備はいいな。そろそろいくぞ。風下の彼女たちと連絡をとる」

 風下でケイ・リヒャルト(ga0598)がいった。
「少し窮屈だけど仕方ないわね」
 リヒャルトは顔面を覆っているガスマスクを小突いた。レティ・クリムゾン(ga8679)が慰めるようにいった。
「だが、ジープがオープンタイプなのはありがたい。クローズタイプでギャング映画みたいに窓から銃を突き出すのは窮屈だ」
 運転担当のクリムゾンはどことなくうっとりした様子でハンドルをなぜた。早くエンジンを始動させたくてたまらないかのようにセシリア・ディールス(ga0475)の目に映った。
 ディールスはガスマスクの内側で眉を少しだけ寄せた。
「‥‥臭いですね。フィルター越しでも感知できます。標的はこの環境で嗅覚が機能するんでしょうか」
「どうでしょう」とエメラルド・イーグル(ga8650)がこたえる。「‥‥少なくとも私のGooDLuckは臭いを防いではくれません」
「でも」とディールスは自分の長靴をみて「‥‥転倒はし難いかもしれません」
「それも含めて祈りました」
 ここで男性班から無線が入った。クリムゾンがエンジンを始動させる。ジープが解放された獣のように吠えた。
 クリムゾンの口角がわずかに上がる。良い子ねとささやく。
 リヒャルトがスコーピオンの安全装置を解除しながらいった。
「転倒はしないでね。一応長靴を持ってきているけど、うれしくないわ」
「大丈夫。この子は良い子だからそんなへましないわ」
 能力者を乗せたジープが発進、バイオマスポッドを貪っているキメラへ向かう。

●挟撃 男性班

 犬型キメラは窪地で泥まみれになっている。前足で土をかきだしてバイオマスポッドを掘り出し、横合いから仲間にさらわれている。
 泥まみれになったり、バイオマスポッドをかじったせいで腰を抜かしたりしている犬型キメラの耳が一斉に動く。
 ホアキンの運転するジープが窪地へ突っ込んでくる。ホアキンはハンドルを切る。ジープの側面が犬型キメラの群に向く。同時に火を噴いた。稲葉とアルヴァイムが車上射撃行う。
「いやあ。シートが在って正解ですね」とアルヴァイム。「肘が痛くない。撃ちやすい」
「親父と祖父さんの直伝です」と稲葉。「自分は3代目なんですよ、戦士の家系の」
 アルヴァイムの得物はドローム社製SMGだ。一度引き金を引くだけで15発もの弾丸が発射される。とはいえ射撃に間隔がないわけではない。しかしこの一瞬を稲葉のスコーピオンが埋める。
 稲葉とアルヴァイムによる間断ない射撃によって犬型キメラが動きを阻害される。しかし大柄の犬型キメラが後ろに小柄な味方を従えて突撃する。
 ホアキンが距離を取ろうとするが、ロウが制止する。
 ロウは銃を構える。スコープを覗きながらささやく。
「1体の犠牲とする代わりに戦果を得るというのか。それは分の悪いバクチだ」
 弾幕を縫うようにしてロウの弾丸が飛ぶ。大柄な犬型キメラの前足の右膝がへし折れた。大柄な犬型キメラは後続のキメラを巻き込んで転倒した。
 ロウのライフルの装弾は5発だ。弾倉にはまだ弾があったけれどもロウは念のために入れ替えてフル装弾にする。この様子をみながらホアキンは女性班に無線を入れる。
「目標の動きを阻害した。そっちのチームの出番だ。敵戦力を削り取ってくれ」

●挟撃 女性班

 クリムゾンが無線を受ける。
「了解、こちらも攻撃を開始する。セシリア君、ケイ君、エメラルド君!」
「任せなさい」とリヒャルト。双眸の色が血のように赤く染まる。「眩暈がするほど遊んであげるわ」
 犬型キメラの群が窪地で身体を伏せている。男性班の展開する弾幕に怯えているのか、前足を頭部を押さえている。尻尾がくるりと身体の下に入り、下半身をふるふると揺らしている。
「ふふふ。可愛いお尻ね。さあ素敵な声で鳴いて頂戴」
 リヒャルトがスコーピオンを発射、高速弾が犬型キメラの下半身に命中した。
 きゃんと犬型キメラは悲鳴をあげて跳び上がった。
 リヒャルトは含み笑いをもらす。
「お遊びの本番はこれからよ」
 リヒャルトの強烈な銃撃をさらに強化すべくイーグルとディールスが支援を開始する。
「撃破はリヒャルトさんにお任せします。ディールスさん、私たちは男性班と同じく移動妨害で支援しましょう」
「‥‥‥‥了解しました」
 イーグルは窓からギュンターを突き出す。ギュンターの全長は1メートル以上ある。イーグルが引き金を引くと、ギュンターは弾丸と空薬莢をばらまき始めた。
 犬型キメラの群は2方向から加えられる銃撃にもはやバイオマスポッドを奪い合うどころではなかった。犬型キメラの群は窪地の中心で密集する。互いの身体を肉の盾として能力者の攻撃の隙を待つ。
 女性班からの弾幕が薄くなる。犬型キメラの1匹が頭を上げた。その頭がリヒャルトの狙撃で割れた。
 ジープの床にはまだ熱い空薬莢が転がっている。イーグルのギュンターが空薬莢を排出しながら白い煙を昇らせている。連続発射のせいで銃身が加熱している。
 覚醒状態のイーグルは口数が減る。弾幕要員をディールスをちらりとみる。2人の視線が一瞬だけ交わる。
 ディールスは超機械ζを犬型キメラに照準する。弾幕の薄くなった隙に複数の犬型キメラが女性班のジープに突進してくる。これらの犬型キメラを超機械ζの白い光が迎え撃つ。超機械の電撃は暴れる蛇のように波打って犬型キメラをなぎ払った。
 このときリヒャルトはスブロフを犬型キメラに投げようとしていた。酒の臭いで酔っぱらうかもしれないとおもったからだ。
 しかしリヒャルトのスブロフはイーグルにひったくられてしまった。ディールスが電撃で周囲を蹂躙する間にイーグルはスブロフに口をつけてギュンターの銃身が冷えるのを待った。
 イーグルは片手でスブロフのふたを閉めるとリヒャルトへ投げ返した。口元を拭いながら、アルコール純度が高すぎて冷却液代わりにならない、とおもった。銃身を冷やすための液体が欲しかった。
「まずいな、これは。彼我の距離を開けるぞ」
 クリムゾンはアクセルを踏み込んだ。
 犬型キメラの群は女性班の弾幕が薄くなったのをみるや男性班から逃れるように突撃してきた。
 迫ってくる犬型キメラの群にリヒャルトは不敵に笑う。両手の銃が火を噴いて同時に犬型キメラを2匹倒す。
「まいったわね。銃は3丁、腕は2本。腕が足りないわ」
 1匹の犬型キメラが大きく跳躍する。犬型キメラの影がジープを覆う。
 銃声が響く。
 犬型キメラが落下、ぬかるみにめり込んだ。男性班の攻撃だ。
 男性班のジープが犬型キメラの群の側面へ回り込んでいる。ジープの荷台で稲葉が笑った。
「おいしいところ頂戴したであります!」
 アルヴァイムが突っ込む。
「おおっと。横取りはいきませんね。さっきのは私の一撃ですよ」
「どちらでも構わない」とロウが狙撃開始、犬型キメラの眼を撃ち抜いていく。
「まったくだ」とホアキン。「キメラの弾痕は2つだ」
 ディールスは問題の犬型キメラをちらりとみた。
(「‥‥‥なるほど。弾痕は確かに2つ。‥‥2人とも命中したのですね」)
 イーグルはギュンターで弾幕を張る。銃身が冷え切っていないので、ところどころで引き金を切る。弾幕の隙間を犬型キメラが狙ってくるが、アルヴァイムがドローム社製SMGで犬型キメラを側面から攻撃する。イーグルとアルヴァイムの手で十字砲火が形成される。
 銃撃の中でうろたえる犬型キメラを能力者は各個撃破する。一匹すらも逃さない。

●駆逐後

 バイオマスポッドを掘り返す犬型キメラは駆除された。
 ディールスが首を傾げた。
「‥‥‥‥あまりおいしそうにみえないですが、お気に入り?」
 イーグルはディールスの独白を聞きつけた。
「あんな風に貪っているのをみると、ちょっとだけおいしそうにみえますね。バイオマスポッドが」
「争って食い合うほどおいしんでしょうか」とアルヴァイムが乗ってくる。ホアキンも加わる。
「試食してみるか。意外と旨いかもしれない。俺は遠慮するが」
 稲葉とロウが首を横にふる。稲葉はレンジャー部隊の訓練中の特殊な食料事情を、ロウはレーションの節約の仕方を思い出した。
 緊張の解けた能力者たちのお喋りを聞きながら、キメラは謎なのですとディールスは再び首を傾げた。