タイトル:3体合体キメラの撃破マスター:沼波 連

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/06/05 03:15

●オープニング本文


 アメリカに展開する人類勢力ことUPC北中央軍は西海岸の競合地域に工兵隊を派遣する。工兵隊の任務は臨時滑走路の建設だ。破壊されたハイウェイを修理してKVが着陸可能にする。KVはそもそも不整地での離着陸に強いが、撃墜された場合などトラブルの起きた際はその限りではない。UPC北中央軍は戦い抜くために兵士も傭兵も限らず能力者の生還を望んだ。
 ハイウェイに工兵隊がまとわりつく。ブルドーザーが瓦礫を撤去すると、爆撃でできたらしい大穴に兵士が鉄骨を入れ、さらにコンクリートを入れた。最後にアスファルトで表面を覆う。KVの自重やパワーに耐えるための処置だ。
 このあいだ護衛の兵士は空や陸を警戒する。大規模作戦のために人類の意識はヨーロッパに集中しているが、バグアにとってはそうではない。人類と比較すればまるで無限かのような戦力をバグアは世界中に広く展開している。今この瞬間に襲撃されても奇妙ではない。
 兵士の1人が指揮官に報告する。空に黒い点が現れた。
 指揮官の目は黒い点を捉える。黒い点は近づいてくる。キメラだ。
 命令が下る。工兵隊は作業を中断して遮蔽物に隠れる。護衛の兵士は物陰で銃をとりながら次の命令を待つ。
 指揮官はいった。
「敵の数は1体だ。伏兵に警戒しつつ着陸した瞬間を狙う。一斉射撃だ」
 兵士はうなずき、キメラに針のような視線を注いだ。キメラは出来たばかりの滑走路を滑空する。背中の翼を一度空打ちする。逆関節の長い足で着地する。足の爪が固まったばかりのアスファルトをひっかく。長い尻尾がアスファルトに引きずられる。ようやくキメラは停まった。同時に兵士は一斉射撃した。
 火線が走って硝煙が舞い上がった。硝煙で視界が曇る。指揮官はキメラの姿を見失った。指揮官は射撃止めと命じる。硝煙が薄らいでいく。
 アスファルトは銃弾でずたずたにされていた。けれどもキメラの寸断された身体はない。兵士はキメラの姿を探す。伏兵を警戒していた兵士が警告する。
 部隊の背後にもう一体のキメラが出現する。誰かが叫ぶ。
「こいつ、泳いでやがるのか!」
 荒野から人魚のようなものが跳ねた。人魚は着地した瞬間に土中に潜った。土から突き出されたヒレが兵士たちに向かってくる。どことなく新型キメラ、アースクエイクを連想させる動きに兵士は恐怖する。兵士の一部がヒレめがけて発砲する。銃弾が土を削り取る。ヒレが消えた。
 指揮官が叫ぶ。
「内側だ。内側に来るぞ!」
 兵士たちはとっさに移動する。ベテランの兵士や腕の良い銃手が陣形の内側へ進み、そうでない兵士が外側へ向かう。同時に陣形の真ん中から人魚は出現する。人魚は魚のように空中に跳ねた。
 この跳躍をベテランの兵士が狙撃してみせる。さらに腕の良い銃手たちが銃撃を重ねる。キメラが足止めされた。とはいえ部隊に能力者がおらず、さらに伏兵の可能性があるので、指揮官は撤退を命じる。工兵隊が護衛の兵士に付き添われて下がっていく。
 その場に残った兵士たちも撤退しようとする。そのとき指揮官はキメラの身体が3分割されるのをみた。人魚は、鳥のようなキメラ、魚のようなキメラ、ダチョウのようなキメラにわかれると、動揺した兵士のあいだをすり抜けた。指揮官は動きを追う。
 3体のキメラは下がっていく工兵隊を追いかける。指揮官は食い止めるべく攻撃を指示する。指揮官自身もまた銃をとる。3体のキメラは嘲笑するように火線を避けると合体してみせた。
 指揮官は瞬きした。3体のキメラは身体から腕を出した。腕と腕が絡み合う。すると最初のキメラ、飛来してきたキメラになった。キメラは翼を展開しながら加速する。キメラの足がふわりと浮く。指揮官は部下に命じる。
「接合部を狙え。あの小さい腕で合体してるんだ!」
 キメラに火線が浴びせられる。工作部隊を追っていたキメラは転倒する。兵士の1人が手榴弾を投げようとした。その瞬間、キメラは3体に別れて姿を消した。
 指揮官は額の汗を拭うと撤退を再度命じる。
「厄介な相手だ。今のうちに逃げるぞ」

 ULTのオペレーターは能力者にいった。
「UPCからの依頼です。臨時滑走路の建設がキメラによって妨害されています。このキメラを撃破して下さい」
「出現するキメラの3体ですが、1体で種類はふたつです。一体どういうことかというと、3体のキメラが組体操のように合体して1体のキメラになります。このとき組み合わせによって種類が変わります。種類のひとつは空戦形態、もうひとつは奇襲形態です」
「組体操という表現は遭遇した指揮官のレポートにありました。このレポートによばれば今回の標的の弱点は接合部だとあります。キメラはあくまで腕のようなものでお互いの身体を結びつけてるとおもわれます。ゆえに接合部こと腕が機能しなくなれば、合体時の性能発揮は防げるでしょう」
「‥‥とはいえ弱点があるからといって油断はしないで下さい。一筋縄でいく問題ならば、我々のところまで回ってくることはありません。十分に気をつけて下さい」

●参加者一覧

ゴールドラッシュ(ga3170
27歳・♀・AA
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
木花咲耶(ga5139
24歳・♀・FT
比良坂 和泉(ga6549
20歳・♂・GD
九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
ジュリエット・リーゲン(ga8384
16歳・♀・EL
ナナヤ・オスター(ga8771
20歳・♂・JG
幻夜(gb0306
24歳・♂・FT

●リプレイ本文

●襲来

 灰色の雲に覆われた空の下に茶色の原野が広がる。原野にはハイウェイが走っている。この周辺に工兵隊の重機が放置されている。
 雲が裂ける。雲の切れ目から光が注ぐ。光の裾を滑り降りるようにして合体キメラが現れる。翼と長い足が目立つ。ギリシア神話の怪物ハーピィのようだ。
 合体キメラは猛禽のよう旋回した。地表に新鮮な肉の臭いをかぎつけていた。
 銃声が響く。
 撃ったのはナナヤ・オスター(ga8771)だ。重機の影からオスターは再度、ライフルの狙いをつけた。
「これはまた厄介かつユーモアなキメラですねえ。あちらさんもなりふり構わなくなってきたのでしょうか?」
 合体キメラは再度の攻撃を回避した。重機の影にオスターを発見して急降下した。
 重機の影から九条・縁(ga8248)と木花咲耶(ga5139)が飛び出す。
「‥‥いざ、勝負!」
「どっかのアニメみたいな能力を持ちやがって。やってやる、やってやるよ!」
 2人の腕が跳ね上がる。同時に銃撃が始まる。急降下中のキメラに命中する。キメラの表面に赤い斑点が広がる。フォースフィールドだ。
 合体キメラは速度を上げた。このまま能力者の懐中に飛び込み、銃器の使用を妨げようとした。
 小柄な少女が身の丈ほどもある弓を構える。矢が光を帯びている。ジュリエット・リーゲン(ga8384)だ。
「お三方の支援に感謝を。これほど引きつけてしまえば、誰でも命中させられますわ」
 リーゲンの弓から流星が飛ぶ。キメラの身体に刺さる。キメラの互いの身体を結びつけるための腕の一部がもげる。
 キメラはさらに速度を上げる。傷ついた補助肢はこの加速に耐えられない。合体キメラは分解する。キメラは加速したまま散開する。
 尻尾型キメラが地面に飛び込んだ。ヒレが地面を切るが、すぐに消えた。
 脚型キメラはスライディングする。地面を滑りながらブレイクダンスのような動きで立ち上がる。勢いを殺さず身体を前方に倒してクラウチングスタートの姿勢を取って走り始める。
 翼型キメラは地面に激突する寸前、速度を高度に変換に成功する。再び空へ舞い上がる。翼キメラは木花が叫ぶ。
「あなたに空は似合いません」
 木花のアラスカ454が銃弾を吐く。

●奇襲
 
 翼キメラは銃弾を受けて墜落する。墜落ポイントにキメラが集合、合体、キメラは人魚のような姿になると地中へ潜る。藤村 瑠亥(ga3862)が警告する。
「重機か何かの上に乗れ。敵は下から来るぞ」
 能力者たちは重機の上に逃げる。
 木花が背の届かなかったリーゲンの腕をとり、引っ張り上げる。
 幻夜(gb0306)が九条に退避を促す。
「九条さん、早く重機の上へ。魚だって土の中じゃ呼吸できない」
 九条は片手でクロムブレイドを握り、片手で地面に触れた。
「落ち着け。五感を研ぎ澄ませろ。視認できなくても移動するならば震動するはずだから」
 土中からキメラの腕が伸びる。
 全身のバネを使って九条は後方へとんぼ返り打つ。
 奇襲形態のキメラには腕が2本ある。九条はキメラの腕の意外な長さに驚く。
 着地する九条を掴むべくキメラの腕が迫る。
 が、幻夜がキメラと九条の間に割って入る。幻夜は刀を十字に組み合わせてキメラの腕を受け止めている。キメラが土中から翼を出す。キメラの翼は空打ちして全身を加速させようとする。押されて幻夜の踵が地面に後をつける。
 比良坂 和泉(ga6549)が駈け出した。
「幻夜さん、もう少しがんばって下さい」
 比良坂の長髪がたてがみのように逆立った。犬歯が伸びた。斧を掴んでいる腕が太くなった。
 豪力発現。埋め込まれたエミタが比良坂の全身にエネルギーを注ぎ込む。筋力が増強される。
 半月型の斧が地面にめり込む。比良坂は斧でキメラごと土をえぐる。斧の突起にキメラの身体が引っかかる。比良坂は犬歯を剥き出しにする。筋肉が盛り上がる。
 湖面で魚が跳ねるようにキメラは地上で跳ねる。一斉に能力者たちは動く。各自が今度こそ合体を解除すると決意する。

●合体解除

 オスター、木花、九条の腕が跳ね上がる。リーゲンが矢を放つ。キメラは銃火と矢を浴びせられる。人魚型キメラは空中で魚のように身をくねらせると、居心地の良い地中に飛び込もうとする。
「あら。そんなに上手くいくとおもって」
 ゴールドラッシュ(ga3170)が金髪をなびかせながらキメラへ迫る。ゴールドラッシュは剣を抜く。同時に轟風がキメラを打つ。ソニックブームだ。キメラの身体が吹っ飛ぶ。
 ゴールドラッシュは落下中のキメラを見据えた。
「さてと、どの辺りに墜とせばバッチリ稼げるかしらね。‥‥あの辺りなんてどうかしら」
 ゴールドラッシュの腕が閃く。衝撃派がキメラを打つ。
 キメラは地面に叩きつけられる。地中に逃れようとしてキメラはできない。身体の下にあるのは重機だ。
 剣を片手で回しながらゴールドラッシュは促した。
「曲射が便利な状況よ。ジュリエット君の出番ね」
「いわれなくても。わたくしにお任せなさい」
 リーゲンは仁王立ちになると射る。矢が弧を描いて飛び、キメラの接合部に命中する。矢がフォースフィールドを突破してキメラの身体に刺さる。
 藤村が重機から降りる。仲間へ促す。
「キメラに散開の気配だ。各個撃破の用意を」
 キメラは血を噴きながら散開するが、このときには能力者たちすでにキメラを囲んでいる。

●各個撃破

 3匹のキメラは再び合体すべく集結する。ふらついている。移動すると崩れた補助肢がひらひらと動く。地面に血の痕が残る。
 ゴールドラッシュが剣を回転させながら比良坂へ指示を飛ばした。
「比良坂くん、敵を分断するよ」
「ええ、は、はい」
 比良坂はびくりとする。女性が苦手だからだ。そのくせゴールドラッシュと完璧に動きを同期させながらソニックブームを放つ。
 2条の衝撃波がキメラの間を走った。キメラは吹き飛ばされる。
「おっと、隙有りですよっ!」
 オスターが翼キメラを狙撃した。
 嵐に巻き込まれた蝶のように翼キメラはふらふらと飛ぶ。オスターの銃撃によって翼に穴が穿たれる。翼キメラはきりもみ回転しながら地面に落下する。落下寸前にオスターの狙撃が決まる。頭部が吹き飛ぶ。
 ゴールドラッシュのソニックブームを追うかのように藤村は脚キメラに迫った。両腕を重ねるようにして斬撃を放った。まず右腕の一撃がフォースフィールドにめり込み、左腕の一撃がこれに重なり、フォースフィールドを突破、脚キメラを一本脚キメラにした。
「分断すればさほどの相手でもない。久しぶりの依頼、リハビリには最適だった」
 藤村は振り返りざま、一本脚になったキメラに止めを刺した。
 ちゅんという音が立てて尻尾キメラは地中に飛び込む。地中から突き出たヒレに穴が開く。木花の銃撃だ。
 木花とリーガンは正面から、九条と幻夜は側面から尻尾キメラへ迫る。
 リーガンが複数の矢を地面に突き立て、ロビンフッドのような速射を始めた。射ってはつがえ、射ってはつがえた。
「ちょこまかと動き回って。少しは大人しくなさりなさい」
「それは無理ってもんじゃねえの」と九条がぼやく。横に並ぶ幻夜と同時に武器を構える。2人の正面目がけて尻尾キメラが突進してくる。
 二刀を組み合わせながら幻夜は九条にいった。
「二択です。俺か九条さんのどちらを一撃で殺して逃亡するつもりです」
「応。尻尾野郎がどちらに賭けるか見物だ」
 地面が弾ける。尻尾キメラが跳躍する。幻夜がキメラの影に覆われる。
 赤い火花が散る。
 幻夜の左手の刀でキメラをとめると、右手の刀を差し込む。キメラの傷口からぶくぶくと白い液体がこぼれる。幻夜は右手をひねった。蛇口をひねったかのように液体が激しく噴出する。そしてキメラは動きをとめた。
 幻夜はキメラの体液を刀から拭いながらいった。
「賭けにでた時点で貴様の敗北は決まっていたのです」
 比良坂が周囲を見回していう。3体のキメラの死骸が映る。
「敵の撃破を確認。UPCへ連絡します」
 ああ、お願いねとゴールドラッシュが相づちをうつ。キメラの身体を剣で突いて死を確認しながら。