●リプレイ本文
●襲来
灰色の雲に覆われた空の下に茶色の原野が広がる。原野にはハイウェイが走っている。この周辺に工兵隊の重機が放置されている。
雲が裂ける。雲の切れ目から光が注ぐ。光の裾を滑り降りるようにして合体キメラが現れる。翼と長い足が目立つ。ギリシア神話の怪物ハーピィのようだ。
合体キメラは猛禽のよう旋回した。地表に新鮮な肉の臭いをかぎつけていた。
銃声が響く。
撃ったのはナナヤ・オスター(
ga8771)だ。重機の影からオスターは再度、ライフルの狙いをつけた。
「これはまた厄介かつユーモアなキメラですねえ。あちらさんもなりふり構わなくなってきたのでしょうか?」
合体キメラは再度の攻撃を回避した。重機の影にオスターを発見して急降下した。
重機の影から九条・縁(
ga8248)と木花咲耶(
ga5139)が飛び出す。
「‥‥いざ、勝負!」
「どっかのアニメみたいな能力を持ちやがって。やってやる、やってやるよ!」
2人の腕が跳ね上がる。同時に銃撃が始まる。急降下中のキメラに命中する。キメラの表面に赤い斑点が広がる。フォースフィールドだ。
合体キメラは速度を上げた。このまま能力者の懐中に飛び込み、銃器の使用を妨げようとした。
小柄な少女が身の丈ほどもある弓を構える。矢が光を帯びている。ジュリエット・リーゲン(
ga8384)だ。
「お三方の支援に感謝を。これほど引きつけてしまえば、誰でも命中させられますわ」
リーゲンの弓から流星が飛ぶ。キメラの身体に刺さる。キメラの互いの身体を結びつけるための腕の一部がもげる。
キメラはさらに速度を上げる。傷ついた補助肢はこの加速に耐えられない。合体キメラは分解する。キメラは加速したまま散開する。
尻尾型キメラが地面に飛び込んだ。ヒレが地面を切るが、すぐに消えた。
脚型キメラはスライディングする。地面を滑りながらブレイクダンスのような動きで立ち上がる。勢いを殺さず身体を前方に倒してクラウチングスタートの姿勢を取って走り始める。
翼型キメラは地面に激突する寸前、速度を高度に変換に成功する。再び空へ舞い上がる。翼キメラは木花が叫ぶ。
「あなたに空は似合いません」
木花のアラスカ454が銃弾を吐く。
●奇襲
翼キメラは銃弾を受けて墜落する。墜落ポイントにキメラが集合、合体、キメラは人魚のような姿になると地中へ潜る。藤村 瑠亥(
ga3862)が警告する。
「重機か何かの上に乗れ。敵は下から来るぞ」
能力者たちは重機の上に逃げる。
木花が背の届かなかったリーゲンの腕をとり、引っ張り上げる。
幻夜(
gb0306)が九条に退避を促す。
「九条さん、早く重機の上へ。魚だって土の中じゃ呼吸できない」
九条は片手でクロムブレイドを握り、片手で地面に触れた。
「落ち着け。五感を研ぎ澄ませろ。視認できなくても移動するならば震動するはずだから」
土中からキメラの腕が伸びる。
全身のバネを使って九条は後方へとんぼ返り打つ。
奇襲形態のキメラには腕が2本ある。九条はキメラの腕の意外な長さに驚く。
着地する九条を掴むべくキメラの腕が迫る。
が、幻夜がキメラと九条の間に割って入る。幻夜は刀を十字に組み合わせてキメラの腕を受け止めている。キメラが土中から翼を出す。キメラの翼は空打ちして全身を加速させようとする。押されて幻夜の踵が地面に後をつける。
比良坂 和泉(
ga6549)が駈け出した。
「幻夜さん、もう少しがんばって下さい」
比良坂の長髪がたてがみのように逆立った。犬歯が伸びた。斧を掴んでいる腕が太くなった。
豪力発現。埋め込まれたエミタが比良坂の全身にエネルギーを注ぎ込む。筋力が増強される。
半月型の斧が地面にめり込む。比良坂は斧でキメラごと土をえぐる。斧の突起にキメラの身体が引っかかる。比良坂は犬歯を剥き出しにする。筋肉が盛り上がる。
湖面で魚が跳ねるようにキメラは地上で跳ねる。一斉に能力者たちは動く。各自が今度こそ合体を解除すると決意する。
●合体解除
オスター、木花、九条の腕が跳ね上がる。リーゲンが矢を放つ。キメラは銃火と矢を浴びせられる。人魚型キメラは空中で魚のように身をくねらせると、居心地の良い地中に飛び込もうとする。
「あら。そんなに上手くいくとおもって」
ゴールドラッシュ(
ga3170)が金髪をなびかせながらキメラへ迫る。ゴールドラッシュは剣を抜く。同時に轟風がキメラを打つ。ソニックブームだ。キメラの身体が吹っ飛ぶ。
ゴールドラッシュは落下中のキメラを見据えた。
「さてと、どの辺りに墜とせばバッチリ稼げるかしらね。‥‥あの辺りなんてどうかしら」
ゴールドラッシュの腕が閃く。衝撃派がキメラを打つ。
キメラは地面に叩きつけられる。地中に逃れようとしてキメラはできない。身体の下にあるのは重機だ。
剣を片手で回しながらゴールドラッシュは促した。
「曲射が便利な状況よ。ジュリエット君の出番ね」
「いわれなくても。わたくしにお任せなさい」
リーゲンは仁王立ちになると射る。矢が弧を描いて飛び、キメラの接合部に命中する。矢がフォースフィールドを突破してキメラの身体に刺さる。
藤村が重機から降りる。仲間へ促す。
「キメラに散開の気配だ。各個撃破の用意を」
キメラは血を噴きながら散開するが、このときには能力者たちすでにキメラを囲んでいる。
●各個撃破
3匹のキメラは再び合体すべく集結する。ふらついている。移動すると崩れた補助肢がひらひらと動く。地面に血の痕が残る。
ゴールドラッシュが剣を回転させながら比良坂へ指示を飛ばした。
「比良坂くん、敵を分断するよ」
「ええ、は、はい」
比良坂はびくりとする。女性が苦手だからだ。そのくせゴールドラッシュと完璧に動きを同期させながらソニックブームを放つ。
2条の衝撃波がキメラの間を走った。キメラは吹き飛ばされる。
「おっと、隙有りですよっ!」
オスターが翼キメラを狙撃した。
嵐に巻き込まれた蝶のように翼キメラはふらふらと飛ぶ。オスターの銃撃によって翼に穴が穿たれる。翼キメラはきりもみ回転しながら地面に落下する。落下寸前にオスターの狙撃が決まる。頭部が吹き飛ぶ。
ゴールドラッシュのソニックブームを追うかのように藤村は脚キメラに迫った。両腕を重ねるようにして斬撃を放った。まず右腕の一撃がフォースフィールドにめり込み、左腕の一撃がこれに重なり、フォースフィールドを突破、脚キメラを一本脚キメラにした。
「分断すればさほどの相手でもない。久しぶりの依頼、リハビリには最適だった」
藤村は振り返りざま、一本脚になったキメラに止めを刺した。
ちゅんという音が立てて尻尾キメラは地中に飛び込む。地中から突き出たヒレに穴が開く。木花の銃撃だ。
木花とリーガンは正面から、九条と幻夜は側面から尻尾キメラへ迫る。
リーガンが複数の矢を地面に突き立て、ロビンフッドのような速射を始めた。射ってはつがえ、射ってはつがえた。
「ちょこまかと動き回って。少しは大人しくなさりなさい」
「それは無理ってもんじゃねえの」と九条がぼやく。横に並ぶ幻夜と同時に武器を構える。2人の正面目がけて尻尾キメラが突進してくる。
二刀を組み合わせながら幻夜は九条にいった。
「二択です。俺か九条さんのどちらを一撃で殺して逃亡するつもりです」
「応。尻尾野郎がどちらに賭けるか見物だ」
地面が弾ける。尻尾キメラが跳躍する。幻夜がキメラの影に覆われる。
赤い火花が散る。
幻夜の左手の刀でキメラをとめると、右手の刀を差し込む。キメラの傷口からぶくぶくと白い液体がこぼれる。幻夜は右手をひねった。蛇口をひねったかのように液体が激しく噴出する。そしてキメラは動きをとめた。
幻夜はキメラの体液を刀から拭いながらいった。
「賭けにでた時点で貴様の敗北は決まっていたのです」
比良坂が周囲を見回していう。3体のキメラの死骸が映る。
「敵の撃破を確認。UPCへ連絡します」
ああ、お願いねとゴールドラッシュが相づちをうつ。キメラの身体を剣で突いて死を確認しながら。