●リプレイ本文
●海底をいく
イタリア南部からアルジェリア北部一帯にはトンネルが広がっている。石油や天然ガスのパイプを通すためのものだ。燃料を増産する場合のために余分なスペースを取ってある。このスペースを8機のKVが走る。
コレット・アネル(
ga7797)はナイトフォーゲルPM−J8アンジェリカのコクピットでいった。鈴の転がるような声が各自のコクピットに響く。
「直上がチェニス湾です。みなさん、攻撃お願いします」
榊 刑部(
ga7524)がいった。
「友軍のための陽動任務、きちんと果たさなくてはなりません。なんとしてもやり遂げましょう。それでは先行します」
榊のナイトフォーゲルR−01が速度を上げる。隊列から外れた。これに八百 禮(
ga8188)のナイトフォーゲルF−108ディアブロ、そしてゲック・W・カーン(
ga0078)のナイトフォーゲルLM−01スカイスクレイパーが続く。加速でKVの装輪から火花が散った。闇の中に赤、白 、青灰色の3機が浮かび上がる。3機は一足先にチェニスに侵入、偵察と陽動を行う。
月神陽子(
ga5549)がいった。
「ご武運を」
残された5機はどれも、本作戦用にUPCが用意したフレア弾を装備している。デル・サル・ロウ(
ga7097)は2発も装備している。榊たちが敵を引きつけているあいだにフレア弾を設置して脱出する手はずになっている。
5機はフレア弾の重みに潰されそうになりながら闇を走る。
●彫像
カーンのスカイスクレイパーがトンネルのハッチを開けた。ハッチは大型重機の搬入を想定してあったからKVでも難なく通られた。
外に出た瞬間、カーンはうめいた。夜空一面が星の海だ。地下の闇から地上の闇に移って急浮上させられた深海魚のような気分になった。
ハッチの場所はチェニス郊外だ。3機は市街地へ回頭する。この場は高台だから市街地を見下ろせた。3機の眼下には薄い闇が広がっている。わずかな街灯がか細く瞬いている。
八百がいった。P−115mm高初速滑腔砲のセンサーで市街地を観察している。
「これは面白い。キメラの大群がみられます。‥‥‥‥だが、どの個体も微動だにしていない」
カーンもまた光学センサーで市街地を覗く。大型キメラが路上に伏せている。まるで雀が電線に連なるかのように規則正しい整列だ。カーンはキメラの口元を照準していう。
「こいつは一体なんだ。まるで冬眠しているみたいだ。微動だにしない。呼吸も少ないようだ」
「冬眠よりもむしろパソコンのスリープモードに近いかもしれません。おそらくここは物資集積所ならぬキメラ集積所です。ここで一定数のキメラを揃えてから戦場へ出荷するのでしょう。戦力の集中は基本です」
「なるほど」と榊。「海を渡ってきた甲斐があるというものです」
3機のKVは高台から市街地へ移動する。敵は静かだが、いつ動き出すかわからない。そのときのために陽動の用意をする。
市街地、ビル街のあたりで八百がいった。
「参りましたね」
榊は声を失っている。
カーンは灰色熊と鉢合わせしたような表情をしている。
3機が彫像のようなキメラの群を通過すると、目の前に立方体の群が現れた。キューブワームだ。
キューブワームは次の戦闘への待機中なのか、他の理由なのか、微動だにしない。また不愉快な音も発しない。なんら攻撃的な行動を取っていないが、その数だけで能力者たちを圧倒した。
●フレア弾、設置
「了解した。キューブワームの集積場へ向かう」
ファレル(
ga7626)は榊チームからの連絡にこたえた。ファレルのディアブロが回頭する。これに九条院つばめ(
ga6530)のナイトフォーゲルS−01がついていく。
九条院はファレルにいう。
「私もいきます。フレア弾2発で確実に破壊しましょう。万が一墜としもらしたら航空部隊に打撃が及びます」
「了解した」
2機はフレア弾設置チームから外れて榊チームに加わる。榊チームは周囲を警戒しつつ、2機に設置を促した。
九条院はコクピットの中で唾を飲み込んだ。KVをキューブワームの群の中へ向けた。
ファレル機がフレア弾を路面に設置した。そばにあるキューブワームが光った。
1体のキューブワームの光が他のキューブワームへ伝染していく。
ファレルは耳の奥でいやな音を聞いたような気がした。手が反射的に動いてKVに攻撃させている。チタンファングがキューブワームを貫いた。キューブワームの点滅が消える。
九条院が報告する。
「シシリー島方面に戦闘光を確認。キューブワームはこれに呼応して‥‥」
「‥‥作業を急いで!」
ファレルが九条院に鋭い声を発した。八百の声がさらに被さる。
「その通りですね。急いだ方がよろしい」
八百機はチェニスへ向かってくるヘルメットワームを捉えていた。照準する。
「ここのキューブワームを連れてブーメラン航空隊をやるつもりですか。させませんよ」
光が瞬く。同時にヘルメットワームが墜落した。しかしヘルメットワームがさらに湧いてくる。
「ヘルメットワームは虫に似ているとおもっていたが‥‥」
カーンは飛来するヘルメットワームへの感想を言い終わる前にKVを操作した。冬眠から醒め、動き始めたキメラの1体をレーザーで撃ち抜いた。
月神が全員へ報告する。
「こちらはフレア弾を設置し終わりました。もう退避しましょう。生き残ることに貪欲になるべきです」
ファレルが返す。
「1分でこちらの2発を設置します。味方航空隊のまえにキューブワームを上げるわけにはいきません」
『了解』と全員が意志を示す。
コクピットの中で月神が歯を剥き出しにする。
「誰も彼も命を始末にしますね。コレットさん、ロウさん、援護お願いします」
月村の赤いバイパーが戦闘機形態に変形する。飛び立とうとするところをヘルメットワームに襲われるが、コレットが撃墜した。援護中のコレットをキメラが襲ったが、ロウは音もなく近づいて撃ち殺した。
月村、コレット、ロウの3機は互いを守りながら戦う。竜巻が進行上のすべてをなぎ払うように敵を倒す。
竜巻のような3機にヘルメットワームや飛行可能なキメラが集中する。これに対して八百機はビルの屋上で仁王立ちになって対空砲火を浴びせた。
八百機を撃墜すべくキメラがビルに殺到する。ビルの壁面を小型キメラが登り始める。八百は眉間にしわを寄せた。対空砲火を放ちながら屋上に到達したキメラをKVの脚で踏んづける。
(「榊さんとカーンさんがいないのは厳しいですね。まったく長い1分ですよ!」)
榊とカーンは脱出経路を確保すべく地上のキメラを掃討していた。
一方そのころ、九条院は悲鳴を上げた。コクピットの脇をヘルメットワームのビームがかすめた。計器の表示が一瞬だけぶれた。気のせいか内部の温度が上がった気がした。九条院の手の平は冷汗でぬれた。
「もう少しです」
九条院は作業を再開する。上空には多数のヘルメットワームがいる。ヘルメットワームはキューブワームへ被害が及ぶのを恐れているのか、積極的に爆撃してこない。が、コクピット目がけて精密射撃を始めている。
「終わりました!」
「58秒02です。予定より早い。よくやりましたね」
九条院にファレルは返す。2機は同時に全火力を前方に向ける。キューブワームもキメラも粉みじんにして道を作る。これを通って仲間のもとへ合流した。
●暗闇でチェイスはさせない
「退路は確保してあります」
「こっちだ。さっさと返ろうぜ」
しかし榊機とカーン機のいる場所にはなにもない。2機は足踏みした。すると路面が崩落、巨大な穴が生じる。トンネルのハッチは遠かったので脱出する前に各個撃破される危険があった。これを回避するためにトンネルの上かつ構造の弱くなっている路面を見つけ出しておいた。
KVは地上の闇から地下の闇へ脱出する。小型のヘルメットワームが追いすがる。
ヘルメットワームがビームを一斉射撃する。トンネルが照らし出される。ビームは遙か彼方の壁に穴を空ける。ヘルメットワームは不審そうにホバリングする。
「分岐があるんですよ!」
コレットがアンジェリカのアームレーザを連射した。ヘルメットワームは横面をレーザで焼かれて撃破される。ヘルメットワームが通路を塞ぐのをみるとコレットはイタリア目指して進む。
能力者たちは闇の中を進む。一瞬昼になったかとおもうと、後方からレーザーやビームが飛んできた。
ロウ機が被弾する。右腕が千切れて飛んだ。けれどもロウは構わずにディスプレイ上の地図をみている。そして全員へ報告した。
「市街地から出た。フレア弾を起爆させる。全員ショックに備えろ」
コレットがカウントダウンをする。0になった瞬間、フレア弾の爆風がトンネル内を駆け巡った。ピンボールの玉のようにKVが前方に吹っ飛ばされた。KVは絡み合いながら床に倒れた。
「誰かが作戦はどうなったか」といった。
一方そのころチェニス上空ではKV編隊が到達していた。何人かのパイロットがキューブワームの群を発見して対地攻撃を始めようとする。そこに火の玉が現れた。KV編隊は反射的に上空へ逃げる。
火の玉は空一杯に膨れあがると市街地を押し潰した。
敵壊滅とKV編隊は判断、人工的な朝焼けを背負ってアルジェ目がけて飛んだ。